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Friday, 04 March 2005

超短篇:長靴をはいた山猫

wonderful.jpn

この記事の英語版は A Puss in Boots: A Very Short Story, March 3, 2005 です。
 
 
            長靴をはいた山猫

 吾輩はやけたトタン屋根の上の長靴をはいた山猫である。
 麗しのサブリナとティファニーで朝食をとったあと野生の呼び声を聞き、失われた時を求めて欲望という名の電車に乗り北北西に進路を取ってインドへの道を雨に唄えば、車中に同乗するのは、裸者と死者と仮面ライダーとイージー・ライダーと星の王子さまと不思議の国のアリスとチャタレー夫人の恋人とブッデンブローク家の人々である。仮面ライダーとはおととしカッコーの巣の上で会って以来、チャタレー夫人の恋人とは、去年マリエンバートで会って以来の再会である。
 星の王子さまは展覧会の絵を吾輩に見せ、不思議の国のアリスは、水上の音楽を吾輩に聞かせた。チャタレー夫人の恋人はアパートの鍵貸しますと申し出たが、吾輩は丁重に断った。男はつらいよ。ブッデンブローク家の人々は、カラシニコフ銃を吾輩に売り付けようとした。
「ピアニストを撃て。鉄は熱いうちに打て。さもなくば明日に向って撃て!」
「俺たちに明日はない。暗くなるまで待って」
 何とか断ろうとしたが勧誘はしつこかった。隣の車両には、ダーティーハリーとマッチ売りの少女とアラビアのロレンスとリチャード三世と十二人の怒れる男が乗っていた。オペラは踊る。会議は踊る。
「ボギー! 俺も男だ。三つ数えろ。バージニア・ウルフなんかこわくない」
 吾輩の脅しがきいて、やっとのことで、そのロシア製ライフル銃兼軽機関銃購入の勧誘を断った。武器よさらば。悲しみよこんにちは(あなただけ今晩は)。吾輩は、存在の耐えられない軽さのためベニスに死す。誰がために鐘は鳴る。真夏の夜の夢かまぼろしか。嗚呼、素晴らしき哉、人生!

2002 (C) Tomoki Yamabayashi

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