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Tuesday, 29 March 2005

二等兵と青年とことばとせんべい

A-bombHiroshima

    二等兵と青年とことばとせんべい:現代詩(1)

 「上官、そうであります!」
と坂本二等兵は直立不動で答えた。よし子はおせんべいをかじりながら、テレビで戦争映画を観ている。
 「そうです」と言わないで、なぜ「そうであります」というのか? よし子は日本の昔の軍隊言葉が変だと思う。
 そうです。そうだ。そうじゃ。そうや。そうだべ。そうじゃろ。そうじゃん。……。
 日本語の文末は方言によってバラバラだから、地方出身者の寄り合い所帯である軍隊では、意思疎通をはかる必要に迫られて、共通語をつくる試みとして「であります」で統一したのだそうだ(2)。
 ——とは、私がどこかで聞いた話である。よし子はこれを知らない。
 ついでながら、祇園の舞子さんが「そうどすえ」というのも、上の軍隊言葉と同じく田舎出の娘に教え込んだ、一種の人工的業界内共通語らしい。これも、どこぞの京都人からの受け売りである。
 よし子は島根県に住んでいる。京都には修学旅行で一度行ったきりで祇園の舞子さんの言葉のことなんか、もちろん何も知らない。
 よし子のかじっているせんべいは、埼玉県にホームステイしている23歳のスウェーデン人の青年クリスが、出雲大社と原爆ドームを見学するため中国地方へやってきたとき、ガイドと通訳をしてあげたよし子に、手土産としてもってきてくれた草加せんべいである。
 出雲大社でクリスはよし子に尋ねた。
 「この shrine(神社)の minister(司祭? 牧師? 神主?)のイエは、どこにありますか?」
 よし子は答えた。「さあ、知りませんねえ」
 広島でクリスはよし子に尋ねた。
 「Atomic bomb(原子爆弾)の ground zero(爆心地)は、どこにありますか?」
 よし子は戸惑った。「ええっと、原爆ドームのそばのはずだけど、どこだったっけ…(3)」
 よし子の観ている戦争映画は、まだ終らない。坂本二等兵は直立不動で「そうであります!」を繰り返している。上官は「馬鹿野郎!」を繰り返している。この映画、つまらないなあ。
 クリスはよし子には、大した印象を残さなかったけど、この草加せんべいはおいしいなあ、とよし子は思う。
 映画はあと残り30分ぐらい。草加せんべいは7枚残っている。

おわり


(1) 詩のワークショップ「詩の放課後」(講師:上田假奈代さん、於:京都芸術センター)で2002年9月19日に作り、朗読した即興詩に加筆修正したもの。与えられた詩のお題は「あります」。
This piece originally appeared in a slightly different form at "Shi no Hookago," a poetry workshop by Ms Kanayo Ueda, on 19 September 2002, Kyoto Art Center.

(2) 司馬遼太郎によると、軍隊言葉の「であります」は、維新期の長州方言に由来するらしい。出典は未確認。

(3) 各種サイトによると、原子爆弾は原爆ドームの東南約160m、東経132度27分27秒、北緯34度23分29秒、広島市細工町29-2、島外科病院の玄関から東南約25メ−トル(中庭ともされる)の地点の上空、高度580メートル・プラスマイナス20メ−トル、ないし高度570メートル・プラスマイナス10メートルで爆発したとされているらしい。
 
 
 

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