雲は天才である
[前略]『學校を罷めてからといふもの、天野君は始終考へ込んで許り居たんですがネ。「少し散歩でもせんと健康が衰へるんでせう。」といふと、「馬鹿ツ。」と云ふし、「何を考へて居るのです。」ツて云へば、「君達に解る樣な事は考へぬ。」と來るし、「解脱(げだつ)の路に近づくのでせう。」なんて云ふと、「人生は隧道(トンネル)だ。行くところまで行かずに解脱の光が射してくるものか。」と例の口調なんですネ。行つた時は、平生(いつも)のやうに入口の戸が閉(しま)つて居ました。初めての人などは不在かと思ふんですが。戸を閉めて置かないと自分の家に居る氣がしないとアノ人が云つてました。[後略]
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作品名: 雲は天才である
作品名読み: くもはてんさいである
著者名: 石川 啄木 1886-1912
底本データ
底本: 石川啄木作品集 第二巻
出版社: 昭和出版社
初版発行日: 1970(昭和45)年11月20日
入力に使用: 1970(昭和45)年11月20日発行
校正に使用: 1972(昭和47)年6月20日発行
工作員データ
入力: Nana ohbe
校正: 松永正敏
情報源: http://www.aozora.gr.jp/cards/000153/card4097.html
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