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Monday, 24 April 2006

A Farewell to Arms by Ernest Hemingway ヘミングウェイ / ヘミングウエイ 『武器よさらば』『武器よ・さらば』

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        目次 Table of Contents

■はじめに Introduction
■中国語訳(簡体字) Translation into simplified Chinese
■日本語訳 Translations into Japanese
  (J1) 金原 2007
  (J2) 高見 2006
  (J3) 刈田 1978
  (J4) 山本 1975
  (J5) 高村 1974
  (J6) 石 1971
  (J7) 田中 1966
  (J8) 竹内 1965
  (J9) 大橋 1964
  (J10) 瀬沼 1960
  (J11) 谷口 1957
  (J12) 大久保 1955
  (J13) 大久保 1954
  (J14) 小田 1930
■ベトナム語訳 Translation into Vietnamese
■ロシア語訳 Translation into Russian
■ウクライナ語訳 Translation into Ukrainian
■ブルガリア語訳 Translation into Bulgarian
■ドイツ語訳(部分) Translation into German (fragment)
■イタリア語訳 Translation into Italian
■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese
■カタルーニャ語訳(カタロニア語訳) Translation into Catalan
■スペイン語訳 Translations into Spanish
  (Es1)
  (Es2)
■フランス語訳 Translation into French
 Audio  英語原文のオーディオブック(朗読) Audiobook in English
■英語原文 The original text in English
■tomoki y. の疑問  tomoki y. has a question.
  A. いいえ/いえ/いや
  B. ええ/そう/そうです/そうですとも
■訳語の異同 A variety of Japanese equivalents
  A. Japanese equivalents of "Outside the room, in the hall"
  B. Japanese equivalents of "I spoke to the doctor"
  C. Japanese equivalents of "anything I can do to-night"
  D. Japanese equivalents of "Is there (....)?"
■外部リンク External links
 Video  A Farewell to Arms burial for Ernest Hemingway - Michael Palin
■更新履歴 Change log


■はじめに Introduction

     ヘミングウェイは『武器よさらば』の結末部分を39回書き直した。
     完全に納得のいくものにするために。

これは、世界文学史上の伝説のひとつでしょう。伝説ですから——それに、この作家の在世中の言動の傾向からみても——どこまで真にうけるべきかは分かりません。とはいえ、この伝説には、ちゃんと典拠があります。George Plimpton による Ernest Hemingway のインタビュー記事。The Paris Review 誌の1958年春号に掲載されました。

     Interview: Ernest Hemingway, The Art of Fiction No. 21,
     The Paris Review No. 18, Spring 1958
     Online version is here.

その、39回書き直されたとされる結末部分が日本語や世界のさまざまな言語に翻訳された例と英語の原文とを、以下に引用します。日本語訳は、たくさんある中から、容易に入手/閲覧することのできた10数点を挙げ、刊行年の新→旧の順に並べました。


■中国語訳(簡体字) Translation into simplified Chinese

  在房外走廊上,我对医生说,“今天夜里,有什么事要我做吗?”“没 什么。没什么可做的。我能送你回旅馆吧?”
   “没什么。没什么可做的。我能送你回旅馆吧?”
   “不,谢谢你。我想在这里再呆一会儿。”
   “我知道没有什么话可以说。我没办法对你说——”
   “不必说了,”我说。“没有什么可说的。”
   “晚安,”他说。“我不能送你回旅馆吗?”
   “不,谢谢你。”
   “手术是唯一的办法,”他说。“手术证明——”
   “我不想谈这件事,”我说。
   “我很想送你回旅馆去。”
  他顺着走廊走去。我走到房门口。
   “你现在不可以进来,”护士中的一个说。
   “不,我可以的,”我说。
   “目前你还不可以进来。”
   “你出去,”我说。“那位也出去。”
  但是我赶了她们出去,关了门,灭了灯,也没有什么好处。那简直像是在跟石像告别。过了一会儿,我走出去,离开医院,在雨中走回旅馆。

   《永别了,武器》 [美] 海明威 著 林疑今 译
   E-text at 永别了,武器.(美)海明威 [PDF]


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 金原 2007
 おれは部屋から出て、廊下で、医師に話しかけた。「今晩、何か自分にできることはありませんか?」
「いえ。ありません。ホテルまで送りましょうか?」
「いいえ、ありがとうございます。しばらくここにいます」
「言葉もありません。なんというか——」
「いえ、何もいわないでください」
「失礼します」医師がいった。「ホテルへは送らなくていいんですか?」
「ええ、ありがとうございます」
「ほかに方法がなくて。手術してみて——」
「やめましょう」
「ホテルまで送ります」
「いえ、ありがとうございます」
 医師は廊下を歩いていった。おれは部屋のドアに向かった。
「いまは、だめです」看護婦のひとりがいった。
「いや、入らせてくれ」
「まだ、だめです」
「そっちが出ていってくれ」おれはいった。「もうひとりも」
 しかし、ふたりを追いだしてドアを閉めて電気を消したものの、何が変わるわけでもなかった。銅像にさようならをいうようなものだ。しばらくして、部屋を出た。病院を後にすると、ホテルまで歩いてもどった。雨が降っていた。

   金原瑞人=訳 『武器よさらば(下)』 光文社古典新訳文庫 2007/08


(J2) 高見 2006
 外の廊下で、ぼくは医師に話しかけた。「今夜、何かできることがあるでしょうか?」
「いいえ。何もありません。ホテルまでお送りしましょうか?」
「いや、けっこうです。もうすこしここにいますから」
「申しあげる言葉もありません。なんとも、その——」
「ええ」ぼくは言った。「何も言うことはありません」
「おやすみなさい」医師は言った。「ホテルまで、お送りさせていただけませんか?」
「いえ、けっこうです」
「ああするしかなかったのです」と、彼は言った。「手術の結果わかったのですが——」
「もうおっしゃらないでください」
「ホテルまで、お送りしたいのだが」
「いえ、けっこうですから」
 彼は廊下を遠ざかっていった。ぼくは病室の戸口にいった。
「いまはお入りにならないで」看護師の一人が言う。
「いや、入らせてもらうよ」
「まだ、いけません」
「あんたのほうこそ出ていってくれ」ぼくは言った。「もう一人も」
 しかし、彼女たちを追いだし、ドアを閉めて、ライトを消しても、何の役にも立たなかった。彫像に向かって別れを告げるようなものだった。しばらくして廊下に出ると、ぼくは病院を後にし、雨の中を歩いてホテルにもどった。

   高見浩=訳 『武器よさらば』 新潮文庫 2006/05


(J3) 刈田 1978
 部屋の外の廊下で、ぼくは医者に声をかけた。「今夜、何かぼくにできることがありますか?」
「いいえ。何もありません。ホテルまでお送りしましょうか?」
「いや、結構です。しばらくここにいます」
「何とも申しあげる言葉のないことはわかっているんですが。全く申しあげようが——」
「そうです」とぼくは言った。「何にも言うことはありません」
「お休みなさい」と彼が言った。「ホテルまで送らせていただけませんか?」
「いや、結構です」
「あれしか取る方法がなかったのです」と彼が言った。「手術をしてわかったことは——」
「その話はもうしたくないんです」とぼくは言った。
「ホテルまでお送りしたいのですが」
「いや、結構です」
 彼は廊下を歩いて行った。ぼくは部屋のドアへ行った。
「今お入りになってはいけません」看護婦の一人が言った。
「いや、入る」とぼくは言った。
「まだお入りになってはいけません」
「君は出なさい」とぼくは言った。「君もだ」
 しかし、みんなを出して、部屋をしめ、明かりを消しても、何の役にも立たなかった。まるで彫像にさよならを言っているようなものだった。しばらくして、ぼくは部屋を出て、病院をあとにし、雨の中を歩いてホテルへ帰った。

   刈田元司(かりた・もとし)=訳 『武器よさらば』 旺文社文庫 1978/03


(J4) 山本 1975
 病室の外の廊下で、ぼくは医師に話しかけた。「こん夜、なにかぼくにできることはありませんか?」
「いえ、なにもありません。ホテルまでお送りしましょうか?」
「いや、けっこうです。もうしばらく、ここにいます」
「なんとも申しあげることばがありません。わたしとしては、なんとも——」
「いや」と、ぼくはいった。「なにもいうことはないです」
「おやすみなさい」と、かれはいった。かれは廊下を去って行った。ぼくは病室のドアのところへ行った。
「いまは、おはいりになれません」と、看護婦の一人がいった。
「いや、はいります」と、ぼくはいった。
「まだおはいりになってはいけません」
「きみが出て行ってくれたまえ。もうひとりの人も」と、ぼくはいった。
 しかし、かの女たちを追い出したあと、ドアをしめて電灯を消してみたが、なんの役にも立たなかった。彫像(ちょうぞう)にさよならをいうようなものだった。しばらくして、ぼくは外に出て、病院をあとに、雨の中を歩いてホテルへもどった。

   山本和夫=訳 『武器よさらば』 世界の名作文学 27
   岩崎書店 1975(児童向け抄訳)


(J5) 高村 1974
 部屋の外の廊下でぼくは医者に話しかけた。「何か、今晩、ぼくのすることありますか?」
「いや、なにもありません。ホテルまでお送りしましょうか?」
「いや、けっこうです。しばらくここにいますから」
「なんとも申しようもありませんが。なんとも申しようも——」
「いや」とぼくが言った。「なにも言うことはありません」
「おやすみなさい」と彼は言った。「ホテルまで送らせていただけませんか?」
「いや、けっこうです」
「ああするよりほか、手のつくしようがなかったもので」と彼は言った。「手術をしてわかったのですが——」
「そのことは話したくないんです」とぼくは言った。
「ホテルへお送りしたいのですが」
「いや、けっこうです」
 彼は廊下を歩いて行った。ぼくは部屋のドアのところまで行った。
「まだおはいりになってはいけません」と看護婦の一人が言った。
「いや、はいる」とぼくが言った。
「でも、まだだめです」
「きみ、出てくれ」とぼくが言った。「それから、きみも」
 だが、彼女たちを出して、ドアをしめ、電燈を消したが、なんの役にもたたなかった。まるで彫像に別れを告げるようなものだった。しばらくして、ぼくは病室を出、病院をあとに、雨のなかをホテルへ歩いて帰った。

   高村勝治=訳 「武器よさらば」 『世界文学全集90 ヘミングウェイ
   講談社 1974 所収


(J6) 石 1971
 部屋の外の廊下で、私は医者に話しかけた。「今晩、何か私のすることでもありましょうか」
「いや、何もすることはありません。ホテルまでお送りしましょうか」
「いえ、ありがとう。しばらくここにいることにします」
「何とも申し上げようがありません。ありませんが——」
「いや」と、私はいった。「何もおっしゃることはありませんよ」
「おやすみなさい」と、彼はいった。「ホテルまでお送りできませんかね」
「いや、ありがとう」
「ああするよりしかたありませんでした」と、彼はいった、「手術をしてわかったんですが——」
「そのことお話するのはやめましょう」と、私はいった。
「ホテルまでお送り申し上げたいですが」
「いや、ありがとう」
 彼は廊下を歩いていった。私は部屋の入口へいった。
「いま、おはいりになってはいけません」と、看護婦の一人がいった。
「いや、はいるよ」と、私はいった。
「まだおはいりになれません」
「君は出たまえ」と、私はいった。「もう一人のほうも」
 が、看護婦たちを外へ出して、戸をしめ、明りを消しても、なんの役にも立たなかった。彫像にさよならをいっているようなものだった。しばらくして、私は外へ出、病院をあとにし、雨の中をホテルへ歩いて戻った。

   石一郎=訳 「武器よさらば」 『筑摩世界文學大系74 ヘミングウェイ
   筑摩書房 1971/05 所収


(J7) 田中 1966
 部屋の外へ出て、廊下で、ぼくは医師に話しかけた、「今夜、何かぼくにできることはありますか?」
「ありません。何もすることはありません。ホテルまでお送りさせていただきましょうか?」
「いえ結構です。ありがとう。ぼくはしばらく、ここにいたいと思います」
「なんとも申しあげる言葉がありません。わたしとしてまことに——」
「そうです」ぼくはいった。「何もいうことはありません」
「さようなら」彼はいった。「あなたをホテルまでお送りするわけにはゆかんのでしょうかな?」
「結構です、ありがとう」
「ああするほかにしかたがありませんでした」彼はいった。「手術してみてわかったことは——」
「その話はしたくありません」ぼくはいった。
「あなたをホテルまでお送りしたいのですが」
「いいえ、ありがとう」
 彼は廊下を去っていった。ぼくは病室のドアのところへ行った。
「いまはお入りになれません」看護婦の一人がいった。
「いや、入れる」ぼくはいった。
「まだお入りになってはいけません」
「きみが出てゆけ」ぼくはいった。「もう一人の人も」
 しかし看護婦たちを追いだしてドアを閉め、電灯をつけても、なんの役にも立たなかった。彫像に別れを告げるようなものだった。しばらくして、ぼくは病室を出て、病院をあとに、雨のなかを歩いてホテルへ帰った。

   田中西二郎=訳 「武器よさらば」 『世界文学全集5 ヘミングウェイ
   集英社 1966 所収


(J8) 竹内 1965
 病室の外の廊下で、ぼくは醫師に話しかけた。「今夜、何かぼくのすることがありますか?」
 「いえ。何にもありません。ホテルまでお送りしましようか?」
 「いや、結構です。もうしばらく、ここにいます」
 「なんとも申上げようがありません。あなたには、なんとも——」
 「いや」ぼくはいつた。「何もいうことはないです」
 「おやすみなさい」彼はいつた。「ホテルまでお送りさせていただけませんか?」
 「いや、ありがとう」
 「ああよりほかに方法がなかつたのです」彼はいつた。「手術をしてみて、わかつたのですが——」
 「お話したくないんです、そのことは」ぼくはいつた。
 「ホテルまでお送りしたいんですが」
 「いや、ありがとう」
 彼は廊下を去つて行つた。ぼくは病室のドアのところへ行つた。
 「いまは、おはいりになれません」と、看護婦の一人がいつた。
 「いや、入ります」ぼくはいつた。
 「まだおはいりになつてはいけません」
 「君は出てつてくれたまえ」ぼくはいつた。「もう一人の人も」
 しかし、彼女たちを追出したあと、ドアをしめて電燈を消してはみたが、何の役にも立たなかつた。まるで彫像にさよならをいうようなものだつた。しばらくして、ぼくは外に出て、病院をあとに雨の中を歩いてホテルへ引返した。

   竹内道之助=譯 「武器よさらば」
   『ヘミングウェイ全集3 武器よさらば 春の奔流 第五列
   三笠書房 1965 所収


(J9) 大橋 1964
 病室の外の廊下で、ぼくは医者に話しかけた。「なにか今夜ぼくのすることはありますか?」
「いいえ。なさることはなにもありません。ホテルまでお送りしましょうか?」
「いや、けっこうです。しばらくここにいるつもりですから」
「いまさらあなたになにを申しあげてもいたしかたのないことです。あなたにいくら申しあげても——」
「そうですとも」ぼくはいった。「なにもいうことはありません」
「おやすみなさい」彼はいった。「ホテルまでお送りするわけにはいきませんか?」
「いいえ、けっこうです」
「ああするほかに方法がなかったんです」彼はいう。「手術の結果わかったことは——」
「その話はしたくありません」ぼくはいった。
「あなたをホテルまでお送りしたいんだが」
「いいえ、けっこうです」
 彼は廊下を歩みさっていった。ぼくは病室のドアのそばによった。
「いまはいってらしてはいけません」看護婦の一人がいった。
「いや、はいるんだ」ぼくはいった。
「まだはいってらしてはいけません」
「きみは出ていってくれ」ぼくはいった。「そっちのほうの人もだ」
 だが、二人を追い出して、ドアをしめ、灯りを消してみても、なんの役にもたちはしなかった。まるで彫像に別れを告げているようなものだった。しばらくすると、ぼくは病室を出て病院をあとにし、雨のなかを歩いてホテルへ帰っていった。

   大橋健三郎=訳 「武器よさらば」 『世界の文学44 ヘミングウェイ
   中央公論社 1964 所収


(J10) 瀬沼 1960
 部屋の外の廊下で、ぼくは医者に話しかけた。「今晩なにかぼくのすることがありましょうか」
「いや、なにもなさることはありません。ホテルまでお送りしましょうか」
「いいえ、ありがとうございます。しばらくここにいたいのです」
「なんとも申しあげようもありません。ですが——」
「いいえ」と、ぼくはいった。「なにもいうことはありません」
「おやすみ」と、彼はいった。「ホテルまでお送りできませんかね」
「いいえ、ありがとう」
「ただ一つの方法でした」と、彼はいった。「手術でわかったのですが、——」
「その話はしたくありません」と、ぼくはいった。
「ホテルにお送りしたいのですが」
「いいえ、ありがとう」
 彼は廊下を歩いていった。ぼくは部屋のドアまでいった。
「今お入りになってはいけません」と、看護婦の一人がいった。
「いや、入るよ」と、ぼくはいった。
「まだ、入ってはいけないのです」
「君は出ていたまえ」と、ぼくはいった。「もう一人の方も」
 しかし、看護婦を追い出し、ドアをしめ、灯を消してみても、なんのたしにもならなかった。彫像にさよならをいっているのとかわらなかった。しばらくして、部屋を出て、病院を後に、雨の中を歩いて、ホテルにむかった。

   瀬沼茂樹=訳 「武器よさらば」
   『世界文学全集29 武器よさらば/荒野の呼び声
   平凡社 1960/06 所収


(J11) 谷口 1957
 部屋を出たところの廊下で、ぼくは医者に言葉をかけた、「なにか、今夜ぼくのすること、ありますか?」
 「いえ。なにもありません。ホテルへお送りいたしましょうか?」
 「いや、結構です。しばらくここにいるつもりですから」
 「なんとも申しあげようがありませんです。まったくあなたにはなんとも——」
 「そう」ぼくは言った。「何も申すことはありません」
 「おやすみなさいまし」彼が言う。「ホテルまで送らせていただけませんか」
 「いえ、結構です」
 「ああするほかに方法がなかったのです」医者が言う。「手術してわかったことは——」
 「そのことはお話したくありません」ぼくは言った。
 「ホテルまでお送り申しあげたいのですが」
 「いえ、結構です」
 彼は廊下を遠ざかって行った。ぼくは部屋の入口へ近づいた。
 「いま、おはいりになってはいけません」看護婦の一人が言う。
 「いや、はいるんだ」ぼくは言った。
 「まだ、いらっしてはいけません」
 「君は出てってくれ」ぼくは言った。「そっちにいるのもだ」
 しかし、二人を追い出して、ドアをとざし、あかりを消してみたところで、なんの役にもたちはしない。まるで彫像に、お別れを言っているようなものだった。やがて、ぼくは部屋を出て、病院をあとに残し、雨の中を歩いてホテルへ帰って行った。

   谷口陸男=訳 『武器よさらば(下)』 岩波文庫 1957


(J12) 大久保 1955
 病室の外の廊下で、ぼくは医者に話しかけた。「今夜、何かぼくにできることがありますか?」
「いえ、何もありません。ホテルまでお送りしましょうか?」
「いや、結構です。ありがとう。しばらくここにいます」
「なんとも申しあげる言葉がありません。何も申しあげられませんが——」
「いや」ぼくは言った。「何もおっしゃらないでください」
「おやすみなさい」と彼は言った。「ホテルまで送らせていただけませんか?」
「いや、結構です」
「あれ以外に取る手だてはなかったのです」と彼は言った。「手術をしてわかったのですが——」
「そのお話はもうやめてください」ぼくは言った。
「ホテルまでお送りしたいのですが」
「いや、結構です」
 彼は廊下を歩いていった。ぼくは病室のドアのところへ行った。
「いまおはいりになってはいけません」と一人の看護婦が言った。
「いや、はいる」ぼくは言った。
「でも、まだはいってはいけません」
「きみが出ろ」ぼくは言った。「それから、きみもだ」
 看護婦たちを追い出して、ドアをしめ、電燈を消したが、何の役にも立たなかった。塑像(そぞう)に別れを告げるようなものだった。しばらくして、ぼくは病室を出て、病院をあとに雨のなかを歩いてホテルへ戻った。

   大久保康雄=訳 『武器よさらば』 新潮文庫 1955


(J13) 大久保 1954
 病室の外の廊下で、私は醫師に話しかけた。「今夜、何か私のすることはありませんか?」
「いえ、何もすることはありません。ホテルまでお送りしましようか?」
「いえ、結構です。私は、しばらくここにいるつもりです」
「何とも申しあげようがありません。私は、あなたに、何も——」
「いや」私は言つた。「何にも申すことはありません」
「おやすみなさい」と彼は言つた。「ホテルまでお送りすることはできませんかな?」
「いや、結構です」
「あれ以外に手だてはなかつたのです」と彼は言つた。「手術でわかつたのですが——」
「そのことはお話したくありません」と私は言つた。
「ホテルまでお送りしたいのですが」
「いや、結構です」
 彼は廊下を去つて行つた。私は部屋の扉(ドア)のところへ行つた。
「いまお入りになつてはいけません」と看護婦の一人が言つた。
「いや、かまわない」と私は言つた。
「まだお入りになつてはいけません」
「君は出てくれ」私は言つた。「それから、もうひとりの看護婦さんも」
 しかし、彼らを追い出したあと、扉(ドア)をしめて、電燈を消したが、なんの役にも立たなかつた。それは塑像にさよならを言うようなものだつた。しばらくして私は外へ出て、病院をあとに、雨の中をまたホテルへと戻つて行つた。

   大久保康雄=譯 「武器よさらば」
   『現代世界文學全集18 武器よさらば・サンクチュアリ
   新潮社 1954 所収


(J14) 小田 1930
 病室の外(そと)の廊下で、私は醫師に言葉をかけた。『今晩、何か、私のすることはありませんか?』
『いや。何もなさることはありません。ホテルまで送つてつて差上げませうか?』
『いや、ありがたう。僕は少時(しばらく)、此處にをるつもりです』
『何もお話することはないと存じます。私は、あなたに——』
『いや、何も言ふことはありません』と、私が言つた。
『お休みなさい』彼が言つた。『ホテルまで、お送りすることは、できませんかな?』
『いや、ありがたう』
『あれが唯一の手段でありました』彼が言つた。『手術の結果——』
『僕は、そのことを話したくありません』と、私が言つた。
『ホテルまで、お送りしたいですが』
『いゝえ。ありがたう』
 彼は廊下を步いて行つた。私は病室の扉(ドア)へ行つた。
『今お入(はい)りになつては可けません』と、看護婦の一人が言つた。
『いや、僕は入(はい)るんだ』と、私が言つた。
『まだ、お入(はい)りになつては可けません』
『君は出てくれ』私が言つた。『もう一人の女(ひと)も』
 しかし、彼等を追ひ出して、扉(ドア)を閉め切つて、そして電燈を消してしまつた後(あと)で、それは何にもならなかつた。それは塑像(そぞう)にさよならを言ふやうなものだつた。少時(しばらく)してから、私は出て、そして病院を辭して、雨の中を歩いてホテルへ歸つた。

  • ヘミングウエイ=著 小田律(おだ・りつ)=譯 『武器よ・さらば
    天人社(てんじんしゃ) 定價一圓八十錢 1930/09/12(昭和5)
  • 傍点を下線で置き換えました。また、送・扉・婦・追・消の旧字はそれぞれ新字で置き換えました。
  • 上掲 (J10) 瀬沼茂樹訳 1960 の瀬沼氏自身による解説にしたがえば、この小田氏訳 1930 が、A Farewell to Arms の本邦初訳だそうです。邦題について、巻頭の「譯者から」と題された文章の最終行に次のような記述があります。「序でながら、「武器よ・さらば」といふ譯名は、畏友野尻抱影氏が撰んでくれたものです。」
  • まえから現物を見たいと思っていましたが、ようやくY県立Y図書館の蔵書を、京都府立図書館を通じて、お借りすることができました。傷んでいる状態であるにもかかわらず貸し出してくださったY図書館のご厚意に感謝します。また、府立図書館には毎度ながらお世話になりました。

■ベトナム語訳 Translation into Vietnamese

Trong hành lang, tôi hỏi bác sĩ:
- Tôi phải làm gì trong đêm nay?
- Không, không có gì cả. Để tôi đưa ông về khách sạn nhé?
- Thôi cám ơn bác sĩ. Tôi muốn nán lại đây giây lát.
- Tôi không biết nói gì hơn. Tôi không thể nói với ông rằng…
- Không – tôi nói – Không có gì để nói cả…
- Tạm biệt – ông ta nói – ông thật không muốn tôi đưa ông về khách sạn à?
- Thôi, cám ơn bác sĩ.
- Chỉ có cách đó thôi. Cuộc giải phẫu chứng minh rằng…
- Tôi không còn muốn nhắc tới chuyện ấy nữa.
- Tôi muốn được đưa ông về khách sạn.
- Thôi, cám ơn bác sĩ.
Ông khuất dần trong hành lang. Tôi đến gần cửa phòng. Một cô y tá nói:
- Ông không vào được bây giờ.
- Xin lỗi cô – tôi nói.
- Ông chưa vào được bây giờ.
- Cô đi ra đi, cả cô kia nữa – tôi nói.
Nhưng sau khi bảo họ đi ra và đóng cửa, tắt đèn, tôi hiểu rằng tất cả đều vô ích. Cũng không khác nào lời nói từ biệt trước một pho tượng. Một lát sau tôi bước ra khỏi phòng, rời bệnh viện, và tôi trở về khách sạn dưới trời mưa.

   Ernest Hemingway - Giã từ vũ khí
   E-text at 4phuong.net


■ロシア語訳 Translation into Russian

  В коридоре я обратился к доктору:
  - Что-нибудь нужно еще сегодня сделать?
  - Нет. Ничего делать не надо. Может быть, проводить вас в отель?
  - Нет, благодарю вас. Я еще побуду здесь.
  - Я знаю, что тут ничего не скажешь. Не могу выразить...
  - Да, - сказал я, - тут ничего не скажешь.
  - Спокойной ночи, - сказал он. - Может быть, мне вас все-таки проводить?
  - Нет, спасибо.
  - Больше ничего нельзя было сделать, - сказал он. - Операция показала...
  - Я не хочу говорить об этом, - сказал я.
  - Мне бы хотелось проводить вас в отель.
  - Нет, благодарю вас.
  Он пошел по коридору. Я вернулся к двери палаты.
  - Сейчас нельзя, - сказала одна из сестер.
  - Можно, - сказал я.
  - Нет, еще нельзя.
  - Уходите отсюда, - сказал я. - И та тоже.
  Но когда я заставил их уйти и закрыл дверь и выключил свет, я понял, что это ни к чему. Это было словно прощание со статуей. Немного погодя я вышел и спустился по лестнице и пошел к себе в отель под дождем.

   Эрнест Хемингуэй. Прощай, оружие!
   E-text at www.kvg.ru


■ウクライナ語訳 Translation into Ukrainian

За дверима в коридорі я заговорив до лікаря:
- Чи я можу сьогодні ще щось зробити?
- Ні. Нічого не треба. Ви дозволите мені провести вас до готелю?
- Ні, дякую. Я ще трохи побуду тут.
- Я знаю, нічого не скажеш. Не можу навіть добрати слів...
- Так,- мовив я. - Нічого не скажеш.
- На добраніч, - мовив він. - Може б, я все-таки провів вас до готелю?
- Ні, дякую.
- То було єдине, що ми могли зробити,- мовив він.- Операція показала...
- Я не хочу про це розмовляти,- сказав я.
- Усе-таки я хотів би провести вас до готелю.
- Ні, дякую.
Він пішов коридором. Я підійшов до дверей палати.
- Зараз сюди не можна,- сказала одна з сестер.
- Можна,- сказав я.
- Ще не можна.
- Ви йдіть собі,- сказав я.- I друга нехай іде.
Та коли я вирядив їх, і зачинив за собою двері, і погасив світло, виявилося, що все воно ні до чого. То було однаково, що прощатись із статуєю. Трохи згодом я вийшов з палати, а тоді й з лікарні і рушив під дощем о готелю.

   Прощавай, зброє - Ернест Хемінгуей
   E-text at Бібліотека української літератури (ukrlib.com.ua)


■ブルガリア語訳 Translation into Bulgarian

В коридора аз се обърнах към доктора:
— Нужно ли е да се направи нещо тази вечер?
— Не, няма какво да се прави. Искате ли да ви закарам във вашия хотел?
— Не, благодаря. Ще остана тук още малко.
— Знам, че няма какво да се каже… Не мога да ви изразя…
— Не — казах аз, — няма какво да се каже.
— Довиждане — каза той. — Наистина ли не искате да ви заведа в хотела ви?
— Не, благодаря.
— Нищо повече не можеше да се направи — каза той. — Операцията доказа, че…
— Не искам да говоря повече за това — казах аз.
— Бих желал да ви заведа до хотела ви.
— Не, благодаря.
Той се отдалечи по коридора. Приближих се до вратата на стаята.
— Сега не можете да влезете — каза едната от сестрите.
— Ще вляза — казах аз.
— Не можете още да влезете.
— Излезте навън — казах аз, — и другата също.
Но след като ги изкарах от стаята, след като затворих вратата и угасих светлината, разбрах, че всичко е безполезно. Все едно, че се сбогувах с някаква статуя. След малко излязох и напуснах болницата. Прибрах се в хотела под дъжда.

   Ърнест Хемингуей. Сбогом на оръжията
   Translated by Живка Драгнева, 1947
   E-text at Моята библиотека (chitanka.info)


■ドイツ語訳(部分) Translation into German (fragment)

Es war, als würde man sich von einer Statue verabschieden. Nach einer Weile ging ich raus und verließ das Krankenhaus und ging im Regen zurück zum Hotel.

   In einem andern Land by Ernest Hemingway
   Excerpt at Literarische Welt


■イタリア語訳 Translation into Italian

In anticamera, incontrai il dottore.
- Devo fare qualche cosa stanotte? - gli domandai.
- No - rispose. - Posso accompagnarla all'albergo? -
- No, grazie. Resterò un poco qui. -
- So che non si può dire niente. Io non riesco a dirle... -
- No, lasci - risposi. - Non c'è niente da dire -
- Cerchi di riposare. Proprio non posso accompagnarla all'albergo? -
- No, grazie. -
- Era la sola cosa da tentare - disse. - Ed è stato provato dall'operazione...
- Non posso parlare di questo. Mi scusi. -
- Mi farebbe bene d'accompagnarla all'albergo. -
- No, grazie. -
Si allontanò. Mi affacciai alla stanza.
- Adesso non si può entrare - disse una delle infermiere.
- Sì, io posso entrare, - risposi.
- Per il momento non può. -
- Esca lei, per piacere. Ed anche la sua compagna. -
Ma dopo che le ebbi accompagnate fuori, ed ebbi chiusa la porta e spenta la luce, non provai sollievo, era vano di salutare una statua; uscii e lasciai l'ospedale tornando all'albergo sotto la pioggia.

   Ernest Hemingway - Addio alle armi
   Translated by Giansiro Ferrata, Dante Isella, Puccio Russo
   E-text at Altrestorie.net [PDF]


■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese

Cá fora, no corredor, falei com o médico:
-Posso ser útil nalguma coisa?
-Não, não há nada que possa fazer. Não quer que o acompanhe ao hotel?
-Não, muito obrigado. Fico aqui ainda um bocado.
-Bem sei que não há palavras... Mas posso garantir-lhe...
-Não-disse eu-, não há palavras.
-Boas noites-disse ele.-Não quer que o leve ao hotel?
-Não,obrigado.
-Não havia outra coisa a fazer -provou que...
-Não quero falar nisso-disse eu.
-Gostava de o acompanhar ao hotel.
-Não, obrigado.
Ele seguiu pelo corredor fora. Dirigi-me à porta do quarto.
-Agora não pode entrar-disse uma das enfermeiras.
-Posso sim-disse eu.
-Ainda não pode entrar.
-Saiam daí!-disse eu.-A outra também!
Mas depois de as ter posto fora do quarto, de ter fechado a porta e apagado a luz, vi que era inútil. Era como dizer adeus a uma estátua. Passado um momento saí, deixei o hospital e voltei ao hotel debaixo de chuva.

   O Adeus às armas by Ernest Hemingway
   E-text at Scribd


■カタルーニャ語訳(カタロニア語訳) Translation into Catalan

Fora de la cambra, en el vestíbul, vaig dir al doctor:
-Puc fer alguna cosa, aquesta nit?
-No. No hi ha res a fer. Em permeteu que us acompanyi a l’hotel?
-No, gràcies. Em quedaré aquí una estona.
-Ja sé que serà inútil tot el que us digui. No sé com dir-vos...
-No -vaig dir-. No hi ha res a dir.
-Bona nit -va dir-. No voleu que us porti a l’hotel?
-No, gràcies.
-Era lúnic que podíem fer -digué-. L’operació resultà...
-No vull parlar-ne -vaig dir.
-M’agradaria acompanyar-vos a l’hotel.
-No, gràcies.
S’allunyà pel vestíbul. Jo vaig atansar-me a la porta de la cambra.
-No podeu entrar, ara -digué una de les infermeres.
-Sí que puc entrar -vaig dir.
-No podeu entrar, encara.
-Sortiu vós -vaig dir-. I l’altra també.
Però quan les vaig haver fetes fora i, després de tancar la porta, vaig apagar el llum, vaig comprendre que era inútil. Era com dir adéu a una estàtua. Al cap d’un moment vaig sortir, i me’n vaig anar de l’hospital, i vaig tornar a peu cap a l’hotel, sota la pluja.

   Ernest Hemingway. Un adéu a les armes.
   Enciclopèdia Catalana, SA. Col·lecció
   Clàssics de la Literatura Universal, 21-22
   Barcelona, 1992. Traducció de Ramon Folch i Camarasa.
   Excerpt at Fragments i propostes de treball - Xtec [PDF]


■スペイン語訳 Translations into Spanish

(Es1)
Fuera de la habitación, en el pasillo me dirigí al médico.
– ¿Puedo hacer algo esta noche?
— No. No hay nada que hacer. ¿Quiere que le lleve a su hotel?
— No, gracias. Me quedaré un rato aquí.
— Ya sé que no hay nada que decir. No puedo decirle...
— No — dije — . No hay nada que decir.
— Buenas noches — dijo — . ¿De veras no quiere que le lleve a su hotel?
— No, gracias.
— Era lo único que se podía hacer — dijo — . La operación ha demostrado... — Ahora no quiero hablar de eso — dije.
— Me gustaría acompañarle a su hotel.
— No, gracias.
Se alejó por el pasillo. Fui hacia la puerta de la habitación.
— Ahora no puede entrar — dijo una de las enfermeras.
— Sí que puedo — dije.
— Todavía no puede entrar.
— Váyase — dije — . La otra también.
Pero después de haberlas echado, después de cerrar la puerta y apagar la luz, comprendí que todo era inútil. Era como decir adiós a una estatua. Al cabo de un rato me fui, salí del hospital y volví al hotel bajo la lluvia.

   Adiós a las armas by Ernest Hemingway
   Quoted in:
   Hemingway contra Fitzgerald: Auge y decadencia de una amistad literaria
   by Scott Donaldson
   Siglo XXI de España Editores, 2002
   Preview at Google Books


(Es2)
En el corredor hablé con el doctor.
– ¿Puedo hacer algo esta noche?
– No, no hay nada que a hacer. ¿Quiere que le acompañe al hotel?
– No, gracias, quiero quedarme aquí un rato.
– Ya sé que no puedo decirle nada… No puedo decirle…
– No -dije-, no hay nada que decir.
– Adiós -dijo-. ¿De verdad no quiere que le lleve al hotel?
– No, gracias.
– Era lo único que podía hacerse. La operación ha comprobado que…
– No quiero que me hablen más -dije.
– Quisiera llevarle al hotel.
– No, gracias.
Se alejó por el corredor. Me acerqué a la puerta de la habitación.
– No puede entrar ahora dijo una de las enfermeras.
– Permítame… -dije.
– Aún no puede entrar.
– Salga -dije-, usted y la otra también.
Pero después que las hice salir, después de cerrar la puerta y apagar la luz, comprendí que todo era inútil. Era como si me despidiera de una estatua. Transcurrió un momento, salí y abandoné el hospital. Y volví al hotel bajo la lluvia.

   Adiós a las armas by Ernest Hemingway
   E-text at Lector Online


■フランス語訳 Translation into French

 Dans le couloir, je parlai au docteur :
 — Puis-je faire quelque chose ce soir ?
 — Non, il n’y a rien à faire. Voulez-vous que je vous ramène à votre hôtel ?
 — Non, merci. Je veux rester ici un moment.
 — Je sais qu’il n’y a rien à dire... Je ne puis vous dire...
 — Non, dis-je, il n’y a rien à dire.
 — Au revoir, dit-il. Vraiment vous ne voulez pas que je vous ramène à votre hôtel ?
 — Non, merci.
 — C’était la seule chose à faire, dit-il. L’opération a prouvé que...
 — Je ne veux plus qu’on m’en parle, dis-je.
 — J’aimerais vous ramener à votre hôtel.
 — Non, merci.
Il s’éloigna dans le corridor. Je m’approchai de la porte de la chambre.
 — Vous ne pouvez pas entrer maintenant, dit une des infirmières.
 — Je vous demande bien pardon, dis-je.
 — Vous ne pouvez pas encore entrer.
 — Sortez, dis-je, vous et l’autre aussi.
Mais, après les avoir fait sortir, après avoir refermé la porte et avoir éteint la lumière, je compris que tout était inutile. C’était comme si je disais adieu à une statue. Au bout d’un instant, je sortis et je quittai l’hôpital. Et je rentrai à l’hôtel, sous la pluie.

   L'Adieu aux armes by Ernest Hemingway
   Translated by Maurice-E. Coindreau
   E-text at Fichier PDF [PDF]


 Audio 
英語原文のオーディオブック(全文) 朗読: アレグザンダー・アダムズ
Unabridged audiobook in English read by Alexander Adams

下の引用箇所の朗読は 8:31:42 から始まります。 Uploaded to YouTube by Free audiobooks Am on 21 Aug 2014. Audio CD available from Amazon.com. Reading of the excerpt below starts at 8:31:42.


■英語原文 The original text in English

Outside the room, in the hall, I spoke to the doctor, "Is there anything I can do to-night?"
    "No. There is nothing to do. Can I take you to your hotel?"
    "No, thank you. I am going to stay here a while."
    "I know there is nothing to say. I cannot tell you--"
    "No," I said. "There's nothing to say."
    "Good-night," he said. "I cannot take you to your hotel?"
    "No, thank you."
    "It was the only thing to do," he said. "The operation proved--"
    "I do not want to talk about it," I said.
    "I would like to take you to your hotel."
    "No, thank you."
    He went down the hall. I went to the door of the room.
    "You can't come in now," one of the nurses said.
    "Yes I can," I said.
    "You can't come in yet."
    "You get out," I said. "The other one too."
    But after I had got them out and shut the door and turned off the light it wasn't any good. It was like saying good-by to a statue. After a while I went out and left the hospital and walked back to the hotel in the rain.

   Ernest Hemingway "A Farewell to Arms" 1929
   E-text at Angelfire


■tomoki y. の疑問  tomoki y. has a question.

   "I know there is nothing to say. I cannot tell you--"
   "No," I said. "There's nothing to say."

Is the above "No" supposed to be translated into Japanese as "Hai," "Ee," etc." instead of "Iie," "Iya," etc.?

A. いいえ/いえ/いや
 「いいえ」と、ぼくはいった。「なにもいうことはありません」…瀬沼 1960
 「いえ、何もいわないでください」……………………………………金原 2007
 「いや」と、ぼくはいった。「なにもいうことはないです」………山本 1975
 「いや」と、私はいった。「何もおっしゃることはありませんよ」…石 1971
 「いや」とぼくが言った。「なにも言うことはありません」………高村 1974
 「いや」ぼくはいつた。「何もいうことはないです」………………竹内 1965
 「いや」ぼくは言った。「何もおっしゃらないでください」……大久保 1955
 「いや」私は言つた。「何にも申すことはありません」…………大久保 1954
 『いや、何も言ふことはありません』と、私が言つた。……………小田 1930

B. ええ/そう/そうです/そうですとも
 「ええ」ぼくは言った。「何も言うことはありません」……………高見 2006
 「そう」ぼくは言った。「何も申すことはありません」……………谷口 1957
 「そうです」とぼくは言った。「何にも言うことはありません」…刈田 1978
 「そうです」ぼくはいった。「何もいうことはありません」………田中 1966
 「そうですとも」ぼくはいった。「なにもいうことはありません」大橋 1964

否定文に応じて発せられた "No" ですから、日本の中学・高校英語の「公式」によれば、いわゆる「否定の否定」に該当する。だから「いや/いいえ」ではなく、「はい/ええ」などと訳すのが正しい。つまり上の B. の訳し方のほうが適切である——はずでは、ないでしょうか?

でも、A. の訳し方をしたのも、もちろん一流の翻訳家の皆さんです。なにか学校で習わなかった理解の仕方があるのでしょうか?


■訳語の異同 A variety of Japanese equivalents

A. Japanese equivalents of "Outside the room, in the hall"

          外の廊下で  高見 2006
       病室の外の廊下で  山本 1975  竹内 1965
       病室の外の廊下で  大橋 1964  瀬沼 1960
       病室の外の廊下で  大久保 1955 大久保 1954
       病室の外の廊下で  小田 1930
     部屋から出て、廊下で  金原 2007
       部屋の外の廊下で  刈田 1978  高村 1974
       部屋の外の廊下で  石  1971
    部屋の外へ出て、廊下で  田中 1966
   部屋を出たところの廊下で  谷口 1957


B. Japanese equivalents of "I spoke to the doctor"

 * I (the first person): おれ/ぼく/私
 * the doctor:      医師/医者/醫師
 * spoke to:       話しかけた/言葉をかけた/声をかけた
 
   おれ  おれは(……)医師に話しかけた  金原  2007
   ぼく      ぼくは医師に話しかけた  高見  2006
   ぼく      ぼくは医師に話しかけた  山本  1975
   ぼく      ぼくは医師に話しかけた  田中  1966
   ぼく     ぼくは医者に言葉をかけた  谷口  1957
   ぼく      ぼくは医者に声をかけた  刈田  1978
   ぼく      ぼくは医者に話しかけた  高村  1974
   ぼく      ぼくは医者に話しかけた  大橋  1964
   ぼく      ぼくは医者に話しかけた  大橋  1960
   ぼく      ぼくは医者に話しかけた  大久保 1955
   ぼく      ぼくは醫師に話しかけた  竹内  1965
   私        私は医者に話しかけた  石   1971
   私        私は醫師に話しかけた  大久保 1954
   私       私は醫師に言葉をかけた  小田  1930


C. Japanese equivalents of "anything I can do to-night"

 * anything: なにか/何か
 * I: ぼくに/ぼくの/私の/自分に/(訳出なし)
 * can do: できること/すること
 * to-night: こん夜/今夜/今晩

   こん夜、なにかぼくにできること 山本  1975
     なにか、今夜ぼくのすること 谷口  1957
      なにか今夜ぼくのすること 大橋  1964
     何か、今晩、ぼくのすること 高村  1974
       今晩、何か私のすること 石   1971
      今晩、何か、私のすること 小田  1930
     今晩、何か自分にできること 金原  2007
        今夜、何かできること 高見  2006
     今夜、何かぼくにできること 刈田  1978
     今夜、何かぼくにできること 田中  1966
     今夜、何かぼくにできること 大久保 1955
      今夜、何かぼくのすること 竹内  1965
       今夜、何か私のすること 大久保 1954


D. Japanese equivalents of "Is there (....)?"

   ありましょうか  石   1971
     ありますか? 刈田  1978
     ありますか? 高村  1974
     ありますか? 大久保 1955
     ありますか? 大橋  1964
     ありますか? 谷口  1957
     ありますか? 竹内  1965
     ありますか? 田中  1966
    ありませんか? 金原  2007
    ありませんか? 山本  1975
    ありませんか? 大久保 1954
    ありませんか? 小田  1930
   あるでしょうか? 高見  2006


■外部リンク External links


 Video 
A Farewell to Arms burial for Ernest Hemingway
BBC Programme - Michael Palin's Hemingway Adventure

Uploaded to YouTube by BBCWorldwide on 19 Sep 2007. More details on the episode are here.


■更新履歴 Change log

  • 2014/10/01 英語原文のオーディオブックの YouTube 画面を追加しました。
  • 2013/11/18 ベトナム語訳を追加しました。
  • 2013/10/09 小田律=譯 1930/09/12 の訳文をようやく挿入しました。また、この訳の書誌情報を補足・修正しました。また、外部リンクを補足しました。
  • 2013/09/10 簡体字中国語訳とマイケル・ペイリンによるBBCのテレビ番組の YouTube 動画を追加しました。
  • 2013/02/10 ウクライナ語訳、ブルガリア語訳、カタルーニャ語訳、およびイタリア語訳を追加しました。
  • 2012/12/21 外部リンクの項を追加しました。
  • 2012/10/17 ドイツ語訳(部分)を追加しました。
  • 2012/08/11 ポルトガル語訳と2種類のスペイン語訳を追加しました。
  • 2012/07/16 ロシア語訳とフランス語訳を追加しました。
  • 2007/11/29 瀬沼茂樹=訳 1960/06 を追加しました。また、「訳語の異同」の項を、訳者別&年代順の配列から、訳語に着目した配列に改めました。さらに、本邦初訳とされる小田律=訳 1930/09 に関する書誌情報を挿入しました。
  • 2007/08/25 (1) 金原瑞人=訳 2007/08 を追加しました。(2) 「はじめに Introduction」の項を大幅に書きあらためました。(3) これまで「tomoki y. によるコメント A comment by tomoki y.」と題していた項のタイトルを「tomoki y. の疑問 tomoki y. has a question.」に変更し、内容を大幅に補足・修正しました。(4)「訳語の異同」の項を新設しました。(5) Amazon.co.jp へのリンクを追加しました。
  • 2007/04/30 小見出しを追加しました。また、訳例の通し番号を振りなおしました。さらに、上記 (2) の番号振りなおしにともない、2006/04/24 の文中に現われた番号を、さかのぼって修正しました。
  • 2006/06/15 高見浩=訳 2006 を追加しました。
  • 2006/05/24 大久保康雄=訳 1954 を追加しました。
  • 2006/05/09 竹内道之助=訳 1965 を追加しました。
  • 2006/05/07 山本和夫=訳 1975 を追加しました。

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