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Thursday, 30 November 2006

Faust: Der Tragödie Erster Teil / Faust: A Tragedy, Part 1, by Johann Wolfgang von Goethe ゲーテ 『ファウスト 第1部』

Faust_und_margarete_1
Image source: Online-Didaktik Deutsch (www.fachdidaktik-einecke.de)


        目次 Table of Contents

■中国語訳(簡体字)Translation into simplified Chinese
■日本語訳 Translations into Japanese
  (J1) 和田 2012
  (J2) 荒俣 2011
  (J3) 池内 1999, 2004
  (J4) 柴田 1999, 2003
  (J5) 小西 1998
  (J6) 山下 1992, 2003
  (J7) 井上 1976, 1991
  (J8) 手塚 1964, 1971, etc.
  (J9) 高橋(義)1962, 1967, etc.
  (J10) 久保 1962
  (J11) 大山 1960, 1964, etc.
  (J12) 相良 1958, 1960, etc.
  (J13) 高橋(健)1951, 1989
  (J14) 阿部 1937, 1947
  (J15) 文藝社編輯部 1929
  (J16) 森 1913, 1928, etc.
  (J17) 高橋(五)1904
  (J18) その他
■ゲーテ作品の北東アジアにおける受容
■ロシア語訳 Translation into Russian
■イタリア語訳 Translation into Italian
■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese
■スペイン語訳 Translation into Spanish
■フランス語訳 Translation into French
 Audio 1  英語版朗読 Audiobook of the English translation by Bayard Taylor
■英訳 Translations into English
  (E1) Taylor, 1935, 2012
  (E2) Swanwick, 1913
  (E3) Brooks, 1868
 Audio 2  ドイツ語原文朗読 Audiobook of the original German text
■ドイツ語原文 The original text in German
■更新履歴 Change log


■中国語訳(簡体字)Translation into simplified Chinese

浮士德:
  唉,真是难熬,
  难道一小时也不能安逸地偎在你的怀抱,
  使咱们的胸口相连,心灵相照?

玛嘉丽特:
  哦,但愿我是一个人独寝!
  今夜我定为你打开房门;
  可是我妈妈睡眠不稳,
  要是我们被她碰见,
  我立即没有性命!

浮士德:
  我的天使,这没啥要紧。
  我这儿有个小瓶!
  你只消拌和三滴让她倾饮,
  她便一觉睡到天明。

玛嘉丽特:
  我为你还有什么不依?
  但愿这药水不致于伤她的身体!

浮士德:
  我的爱人,难道有害的东西我敢奉进?

  • 歌德 《浮士德》 悲剧 第一部 玛尔特的花园
  • E-text at 歌德作品集

■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 和田 2012
ファウスト:
  ああ僕には、ほんの1時間でもいいから時間を気にせずに、君をこの胸に
  抱きしめて、胸と胸、心と心をぶつけあうことが許されないのか?
     ☆要するにセックスしたいと言っているのである。

マルガレーテ:
  私が一人で寝るのならいいのだけど! 出来れば今夜にでも、寝室を
  閉めないでおきたいのだけど、私の母の眠りは深くないのよ。若し私達が
  二人でいるところを母に見つかってしまったら、私はその場で死んで
  しまいたいわ。
     ☆マルガレーテも母さえいなければファウストを受け入れると言う。

ファウスト:
  ねえ、君、そんなことは難しくないよ。ここに小壜がある*。お母さんの
  飲み物にほんの3滴**もたらせば、彼女はぐっすりと眠ってしまうよ。
     * 小壜がある  ファウストは母親を眠らせて、マルガレーテと密会すべく、予め用意して
         いたことを示す。
     ** ほんの3滴  母親を眠らせるには3滴で十分であるという意味であるが、3滴以上は
         いけないという警告の意味もある。このことは後で母親を死なせてしまうことに
         繋がる。

マルガレーテ:
  あなたの為ならなんでもするわ。でも毒になるようなことはないのでしょうね?

ファウスト:
  そうでなければ、これを使えなどと言わないよ。

  • J.W.v.ゲーテ=作 和田孝三(わだ・こうぞう)=訳 『ファウスト』 創英社/三省堂書店 2012/10/29
  • ☆は訳者による解説。*は訳者による注。

(J2) 荒俣 2011
ファウスト:
  せめてあと小一時間でも——そのくらいの時間すらないのかい——いま
  いちど、きみの乳房を喜びとともに愛撫し、ぼくの心と気味の心とを
  繋ぎたいよ。

マーガレット:
  ああ、わたしに自分の寝室があったなら! ひとりでベッドに寝る
  ことができるなら、今夜も、喜んでドアを開けたままにしておくわ。
  でも今はダメね。母はすぐに起きてしまうのよ。あなたを見つけたら、
  その場でわたし、殺されちゃうかも。

ファウスト:
  親愛なる天使よ、おびえることはないさ。このガラスの小ビンをもって
  おいき。三滴だけ、おかあさんの飲み物にたらしてみるんだ——たちまち
  深い眠りの世界におちてしまうよ。

マーガレット:
  わたしに、あなたを拒むことなんてできないわ。何でもおっしゃる
  とおりにします。でも、まさか、身体に毒になるようなことは?

ファウスト:
  まさか。もしそんな恐れが少しでもあれば、ぼくがすすめるはずがないだろう?

  • ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ=作 ハリー・クラーク=挿画 荒俣宏(あらまた・ひろし)=訳 『ファウスト』 新書館 2011/10/01
  • この本は次の英訳版からの重訳: Faust. From the German of John Anster. Illustrated by Harry Clarke. George G. Harrap, London. 1925. Quoto.

(J3) 池内 1999, 2004
ファウスト:
  もうちょっと、この乳房(おちち)を抱いていたいよ。胸と胸と、心と心を
  ぶつけていたいじゃないか。

マルガレーテ:
  自分の部屋があったらいいのに! ひとりで寝ているんだったら今夜だって
  戸口の鍵をあけておくわ。でも、母さんがわきで寝ている。母さんはすぐに
  目をさますの。見つかったら、その場でわたし殺されるわ!

ファウスト:
  簡単だ。いいね、この小瓶から三滴ばかり、飲物に垂らしておく。すると
  ぐっすりおやすみだ。

マルガレーテ:
  あなたのためなら何だってするわ。でも、からだに悪いことはないんで
  しょうね。

ファウスト:
  それなら、すすめるものか。

  • ヨハーン・ヴォルフガング・ゲーテ=作 池内紀=訳 『ファウスト 第1部』 集英社(単行本 1999/10|文庫 2004/05)

(J4) 柴田 1999, 2003
ファウスト:
  ああ いったい いつになったら
  ただの一時間でいい 時間を気にせずお前と寄り添い
  胸と胸 心と心とで求め合えるのだろう?

マルガレーテ:
  ああ 私がひとりで寝るのだったらねえ!
  本当はあなたのために 今晩にだって閂(かんぬき)を開けて置きたい
  けれど母さんは眠りが浅いたちなの
  もし あなたと一緒のところを見つかりでもしたら
  私その場で死んでしまうわ!

ファウスト:
  ねえお前 そんなこと何でもありはしない。
  ほら、この小さな瓶から たった三滴
  母さんのお飲物にたらして置きさえすれば
  気持よくぐっすり眠って 決してお眼を覚ましたりなど されはしない。

マルガレーテ:
  私 あなたのためになら何だってすることよ。
  これ 母さんに毒にならないといいのだけれど。

ファウスト:
  毒をお前に使わせると思うのかい?

  • J・W・ゲーテ=作 柴田翔(しばた・しょう)=訳 『ファウスト』 講談社(単行本1999/09|文庫(上) 2003/01)

(J5) 小西 1998
ファウスト:
  ああ、せめて
  ひと時、ゆっくりきみを抱きしめて
  胸と胸、心と心を思いっきりぶっつけ合えないかね?

マルガレーテ:
  ああ 寝るときだけでも、あたし一人でいられたら!
  今夜にでも掛け金をはずしておけますのに。
  母は、とても目ざといほうですの、
  もし、見つかったりしたら
  あたし、その場で死んでしまうわ、きっと!

ファウスト:
  かわいい人、そんなことなら心配はいらない。
  この小瓶をあげる! ほんの少滴ほど
  飲み物に混ぜてさしあげれば
  お母さんは、気持ちよくぐっすりお眠りになれるんだ。

マルガレーテ:
  あなたのために、何かいやだと言ったことありまして?
  もしかして、からだに障るようなことっは、まさか!

ファウスト:
  そんなものをぼくが奨(すす)めると思うかい?

  • ゲーテ=作  小西悟(こにし・さとる)=訳 『ファウスト』 大月書店 1998/08

(J6) 山下 1992, 2003
ファウスト:
  ああ、ぼくはほんの小一時間でも
  君のやさしい胸ふところに身も心も休めて、
  胸と胸、心と心を触れあわすことができないのか?

マルガレーテ:
  ああ あたしがいつも一人きりで寝(やす)むのでしたらね!
  でしたら、今夜にも錠をあけっぱなしにしておくんですけど。
  でも、うちの母は眠りが浅くて、目ざといんですの。
  万一母に見つかりでもしたら、
  あたし、その場ですぐ死んでしまいます!

ファウスト:
  ねえ君、そんなことなら別に苦労はないさ。
  ここに小壜があるんだ! これをほんの三滴でも
  母さんの飲みつけのものにたらしておけば、
  いい気持でぐっすり眠って、何も気がつきはしないよ。

マルガレーテ:
  あたし、あなたのためなら、何だって。
  でも、まさか毒にはならないんでしょうね!

ファウスト:
  そんな、ぼくがそんなもの君に勧めるものか。


(J7) 井上 1976, 1991
ファウスト:
  ああ、せめてほんのちょっとの時間でも、
  ゆっくり、きみのふところに寄り添って、
  胸と胸、心と心をぴったり合わせることができないものだろうか?

マルガレーテ:
  ああ あたくしがひとりだけで寝(やす)むんでしたら!
  今夜、掛金をはずしておきたいんですけれど。
  でも、母がすぐ目をさますんですの。
  もし、見つかりでもしたら
  あたくし、もう生きていられません!

ファウスト:
  ねえ、そんなことなら心配はないよ。
  ここに瓶がある! ほんの三滴ばかり
  お母さんの飲物のなかに垂らせば、
  気持よく、ぐっすり眠り込んでしまうよ。

マルガレーテ:
  あなたのためですもの、あたくし、なんでもしますわ!
  でも、まさか毒にはならないでしょうね?

ファウスト:
  毒になるものを、ぼくがすすめたりするだろうか?


(J8) 手塚 1964, 1971, etc.
ファウスト:
  ああ、ただの一時間も、
  やさしいおまえのふところにやすらって、
  胸と胸、心と心を触れあわすことはできないのか。

マルガレーテ:
  ああ、わたし、いつもひとりで寝(やす)むのだったら!
  それなら、わたし今夜錠をかけないでおくのだけれど。
  でも、お母さんは眼ざといんですの。
  もし見つかりでもしようものなら、
  わたし、その場で死んでしまうわ。

ファウスト:
  おまえ、そのことならわけはないよ。
  さあ、この小壜(こびん)だ。ほんの三滴、
  お母さんが飲みつけているものの中へたらしておけば、
  いい気持にぐっすり寝こんで、なにもかもわからなくなるんだ。

マルガレーテ:
  あなたのためなら、わたしどんなことでもします。
  けれど、毒にはならないでしょうね。

ファウスト:
  毒になるようなものを、ぼくがおまえにすすめると思うの。


(J9) 高橋(義)1962, 1967, etc.
ファウスト:
  なんだ、ただの一時間でも、
  ゆっくりと君の胸に縋って、
  胸と胸、心と心を触れ合せていられないのか。

マルガレーテ:
  ほんとにねえ、あたし、ひとりで寝るのならいいんだけれど。
  そうしたら今夜だって錠を下ろさずにおくんだけれど。
  でも、お母さんはすぐ目を覚ますんですもの。
  もしあたしたちが一緒にいるところを見つかったら、
  あたし、その場で死んでしまうわ。

ファウスト:
  そのことなら大丈夫だ。
  この瓶(びん)の中の薬、たった三滴、
  お母さんの飲み物の中へたらしておけば、
  いい気持でぐっすり眠ってしまうのだ。

マルガレーテ:
  やれとおっしゃれば、あたし、なんでもします。
  だけれど、もしものことでもあったら。

ファウスト:
  障(さわ)りになるようなものを誰がすすめるものか。


(J10) 久保 1962
ファウスト:
  ああ、せめて
  一時間でもおまえのそばを離れずに、
  胸と胸を、心と心を通わせてはいられないのか?

マルガレーテ:
  ああ、あたしが、独りで寝るんだったら!
  今夜、鍵をかけずに置くんだけれど、
  でもお母さんが眼ざといんですもの、
  お母さんにみつかりでもしたら、
  あたし、その場で死んでしまうわ!

ファウスト:
  ねえ、おまえ、そんなことなら訳はないよ。
  ここに小さな壜がある! これを三滴(みた)らし
  飲みもののなかに垂らしておけば
  正体もなく深い眠(ねむ)りに落ちてしまうさ。

マルガレーテ:
  あなたのためなら、あたし何んでもしますわ。
  このお薬、まさか毒ではないでしょうね?

ファウスト:
  毒なら、おまえに勧めるものか。


(J11) 大山 1960, 1964, etc.
ファウスト:
  ああ、ただの一時間も
  ゆっくりとおまえのふところに寄りすがって、
  胸と胸、心と心をふれあわすことができないのか。

マルガレーテ:
  ええ、わたしがひとりで休むのでしたら、
  今夜にもそっと掛け金をはずしておくわ。
  でも、母はすぐと目をさますんですもの。
  ひょっとして母にでも見つかったら、
  わたし、とても生きていられないわ。

ファウスト:
  それは、おまえ、べつに造作はないよ。
  この薬びんを持ってゆきたまえ。お母さんの飲むものに
  そっと三滴だけ落しておけば、
  おかあさんの飲み物の中にたらすと、
  いい気持でぐっすり寝てしまうのだ。

マルガレーテ:
  あんたのためですもの、どんなことでもしてよ。
  でも、毒にはならないわね。

ファウスト:
  毒になるなら、どうしてぼくがすすめるものか。


(J12) 相良 1958, 1960, etc.
ファウスト:
  ああ、ただの小(こ)一時間でもいい、
  ゆっくりとお前のふところに寄り縋(すが)って、
  胸と胸、心と心を触(ふ)れ合わせることはできないのかな。

マルガレーテ:
  わたし、たったひとりでやすむんだといいんだけれど。
  そうすれば今夜掛金(かけがね)をはずしておいてあげるのに。
  お母さんは眠りが浅いでしょう、
  見つけられでもしたら、
  わたしその場で死んでしまうわ。

ファウスト:
  それはお前、別にむずかしいことはないよ。
  ここに小さな瓶(びん)がある。ただ三滴(さんてき)だけ、
  お母さんの飲物の中へたらすと、
  いい気持でぐっすりと眠ってしまうんだがね。

マルガレーテ:
  あなたのためなら、わたし何だってしてよ。
  まさかお母さんの毒にはならないでしょう。

ファウスト:
  そりゃ、毒になるようなことを勧(すす)めるものか。


(J13) 高橋(健)1951, 1989
ファウスト:
  ああ、ほんの小一時間でも
  落ち着いておまえの胸にすがり、
  胸と胸、心と心をかよわせることはできないかなあ?

マルガレーテ:
  ああ、わたしひとりだけで寝るのですと!
  今晩かけがねをはずしておくんですけど。
  うちのおかあさんはぐっすりは眠りませんの。
  おかあさんに、見つけられでもしたら、
  わたしその場で死んでしまいますわ!

ファウスト:
  ねえ、おまえ、それはなんでもないよ。
  ここに小さいビンがあるがね、これを三滴だけ、
  おかあさんの飲み物の中にたらすと、
  いい気もちでぐっすり眠りこんでしまうんだよ。

マルガレーテ:
  あんたのためなら、わたしなんでもしますわ。
  毒にはならないでしょうね!

ファウスト:
  毒になるようなら、おまえにすすめなんかしないよ。


(J14) 阿部 1937, 1947
フアウスト:
  あゝ。ほんの一時間でも
  落着いてお前の胸に縋って、
  胸と胸、魂と魂とを寄せ合ふ出來ないのかなあ?

マルガレーテ:
  あゝ、私が一人で寢むのでさへあったら!
  私は貴君のために、今夜、喜んで掛金を外して置くのだけれど。
  かあさんはすぐ眼を醒ますせう——
  私達がかあさんに見附かりでもしようもんなら、
  私、すぐその場で死んでしまふわ!

フアウスト:
  天使さん。それはなんでももないことだ。
  此處に小さい瓶がある! たった三滴だけ
  飲みなさる物の中に入れゝば、
  いゝ心持に、正體なく、熟睡なさるのだ。

マルガレーテ:
  貴君のためなら、何だっていやといふものですか?
  どうぞかあさんの毒になりませんやうに!

フアウスト:
  可哀い子よ、毒になるやうなことを僕がお前にさせるものか。

  • 阿部次郎=訳 「ファウスト(第1部)」
  • 引用は b. 改造社版 1937 に拠りました。a. 國立書院版も仮名遣いの細部などを除けば b. とほぼ同文。

(J15) 文藝社編輯部 1929
フアウスト:
  あゝ暫らくの間でいゝから、心置きなくお前の側へ寢かしてくれないか。
  心と心、胸と胸とを着けたいものだ。

マルガレエテ
  まあ、妾(わたし)獨(ひと)りですと、今夜戸締(とじま)りをしないでおく
  ことは御安いことですが。女は夜中うと/\してゐますから、目付かつたら
  大變(たいへん)ですわ。

フアウスト
  それなら心配(しんぱい)はいらないよ。此の瓶(びん)を御覧(ごらん)。
  二三滴(てき)お母さんの御飯に落しておけば、うまくぐつすり寢(ね)て
  起きつこなしだよ。

[以下の数行は訳出されていません]

  • ゲーテ=著 文藝社編輯部=編著 『フアウスト』 世界文藝叢書 3 文藝社 定價參拾錢 1929/10/05(昭和4) 国立国会図書館デジタル化資料 
  • 原文にはない「フアウスト」「マルガレエテ」などの話者の表示を追加しました。また、起の旧字を新字で置き換えました。

(J16) 森 1913, 1928, etc.
フアウスト:
  あゝ。只の一時間も
  落ち著いてお前と一しよになつてゐて、
  胸と胸、心と心の通ふやうには出来ないのかなあ。

マルガレエテ:
  えゝ。それはわたくし一人で休むのですと、
  今晩錠を掛けないで置くのですが、
  母(か)あ様がすぐ目を醒ますんですもの。
  ひよつとに、母(か)あ様に見附からうもんなら、
  わたくしその場で死んでしまつてよ。

フアウスト:
  それか。それは造做もない事だ。
  こゝに瓶(びん)があるがな、此藥を三滴
  不斷飲みなさる物の中へ入れゝば、
  好い心持に寐て、何も分からなくなるのだ。

マルガレエテ:
  それはあなたの爲(ため)ですもの、なんでもしてよ。
  毒になりやしませんでせうね。

フアウスト:
  毒になるやうなものなら、己がしろと云うものか。

  • 森林太郎 / 森鴎外=訳 「ファウスト」 「フアウスト」
  • 引用は b. 岩波書店版全集 1972 に拠りました。

(J17) 高橋(五)1904
(ファウ、)
  嗚呼我は一小時間だも、
  卿(きみ)が懐(ふところ)に安んじ温まる能はざる乎、
  胸と胸、心と心、暫く相接するを得ざる乎!

(マーガ、)
  嗚呼わらは唯獨り寐(いね)たらば〔嬉しからんに〕!
  今夜わらは君が爲に肯て鎖(じよう)を開(あけ)れかん、
  然(しか)し妾(わらは)が母は甚だ目ざとし、
  若し我々母に看つけられたらんには、
  妾は即座に忽ち死せん而已!

(ファウ、)
  〓は毫も困難事にあらず、天女よ!
  茲に小藥瓶あり—僅かに之が三滴は、
  彼女の飲物(のみもの)の中にありてや、
  熟睡を以って快よく彼女の身體(からだ)を包まん。

(マーガ、)
  君の爲とし云えば妾何事をか爲(なさ)ざらんや、
  是(こ)れ望むらくは母に害を及ぼさゞるべき乎。

(ファウ、)
  最愛者よ! 然らずば卿に开を我勸むべけんや。

  • ゲーテ=著 高橋五郎=訳
  • b. はファウスト第1部の訳としては本邦初訳。a. は b. の全ページのスキャン画像を掲載したもの。上の引用は a. を私 tomoki y. が見ながら打ち出したしたものです。誤読など、お気づきの点がありましたらご指摘ください。

(J18) その他
以上のほかにも、おびただしい数の「ファウスト」邦訳版が出ています。上に引用した箇所を収載する「第1部」に限って挙げると、たとえばつぎのようなものがあります。


■日本語による注釈書

「ファウスト」については、訳書のほかに注釈書も多数出ています。うち、とくに1冊だけを挙げておきます。青木昌吉氏による下の本は「ファウスト」1作品だけを取りあげて、日本語で書かれた注釈書のうち、今日まで伝わるものの中では、最も古い部類に属するようです。

   青木昌吉=編『ファウスト註解』郁文堂書店 1946(初版は1928年か?)
   京都府立図書館蔵書 三康図書館蔵書


■ゲーテ作品の北東アジアにおける受容

日本語・韓国語・中国語におけるゲーテの翻訳・紹介・研究の文献に関する詳細な
リストが、上智大学文学部ドイツ文学科 名誉教授・上智大学ドイツ語圏文化研究所
名誉所員・木村直司氏による、つぎのサイトに掲載されています。

   I.ゲーテの日本語訳作品
   (Goethes Werke in japanischer Uebersetzung)
   木村直司+今村武=編
   Zusammengestellt von Prof. Naoji Kimura und Dr. Takeshi Imamura
   アジアにおけるゲーテ受容
   Goethe-Rezeption in Asien
   --日本語・韓国語・中国語のゲーテ文献--
   - Goethe-Literatur in japanischer, koreanischer und chinesicher
   Sprache -
   (Stand: Oktober 1999)


■ロシア語訳 Translation into Russian

Фауст
  Хоть раз нельзя ли без боязни
  Побыть часочек мне с тобой
  Грудь с грудью и душа с душой?

Маргарита
  Ax, если б я спала одна,
  Сегодня ночью, веришь слову,
  Я б не задвинула засова.
  Но рядом дремлет мать вполсна.
  Когда бы нас она застала,
  Я б тут же замертво упала!

Фауст
  О, вздор! Вот с каплями флакон.
  Немного их накапай в воду,
  Дай выпить ей, и до восхода
  Ее охватит крепкий сон.

Маргарита
  Ты у меня не знал отказа.
  А эти капли без вреда?

Фауст
  Я б не дал их тебе тогда.

   Иоганн Гете. Фауст
   Translated by Борис Пастернак (Boris Pasternak)
   М.: Государственное издательство художественной литературы, 1960.
   E-text at Lib.Ru


■イタリア語訳 Translation into Italian

FAUST.
  Deh, non potrò io mai riposarmi una breve ora con te; stringere
  il mio cuore al tuo cuore; mescere anima con anima?

MARGHERITA.
  Ah, s'io dormissi pur sola, io ti vorrei lasciar aperto l'uscio stanotte.
  Ma mia madre ha il sonno sì sottile; e s'ella ci avesse a cogliere,
  io cascherei morta sul fatto.

FAUST.
  Non vi è pericolo, mio bell'angelo! Togli quest'ampolletta;
  e sol tre gocciole che gliene mesci nella sua bevanda,
  la sommergeranno in un placido e profondo sonno.

MARGHERITA.
  Che non farei per l'amor tuo! Non le può far danno, non è vero?

FAUST.
  Cuor mio, vorrei io proportelo se potesse?

   Faust by Johann Wolfgang von Goethe
   Translated by Scalvini, Giovita e Gazzino, Giuseppe
   E-text at www.liberliber.it [pdf]


■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese

FAUSTO
  O que eu dera, Margarida,
  por poder, uma hora, uma só hora,
  passar contigo descansado! unidos
  peito a peito! alma a alma!

MARGARIDA
  Tu bem sabes
  que não durmo sozinha. Eu, por meu gosto,
  deixava-te ficar já hoje a porta
  fechada em falso, e então... Mas a mãezinha
  tem o sono tão leve! E se ela fosse
  dar connosco, eu morria de repente.

FAUSTO
  Para isso, meu anjo, há bom remédio.
  Toma este vidro! basta que lhe lances
  três gotas na bebida, e adormeceu-ta
  a bom levar: nenhum rumor ta esperta.

MARGARIDA
  Desejas, cumpro. Esta água, já se sabe,
  não pode fazer mal...

FAUSTO
  Pois, se o pudesse,
  eu dava-ta, querida?

   Fausto by Johann Wolfgang von Goethe
   Translated by António Feliciano de Castilho
   E-text at eBookLibris


■スペイン語訳 Translation into Spanish

FAUSTO
  ¡Ah! ¿No podré yo jamás, durante una horita, reposar, tranquilo
  en tu seno, oprimir pecho contra pecho y penetrar el alma en el alma?

MARGARITA
  ¡Ah! ¡si tan siquiera durmiese sola! De buen grado te dejaría
  descorrido el cerrojo esta noche, pero mi madre tiene el sueño ligero,
  y si nos sorprendiese, yo moriría al punto allí mismo.

FAUSTO
  No hay cuidado, ángel mío. Toma este pomito. Tres gotas tan sólo
  en su bebida sumen plácidamente la naturaleza en profundo sueño.

MARGARITA
  ¿Qué no haría yo por ti? Espero que eso no la dañará.

FAUSTO
  De no ser así, ¿te lo aconsejara yo, amor mío?

   Fausto, El Jardin de Marta
   by Johann Wolfgang von Goethe
   E-text at Scribd


■フランス語訳 Translation into French

FAUST:
  Ah! ne pourrai-je jamais reposer une seule heure contre ton sein...
  presser mon cœur contre ton cœur, et mêler mon âme à ton âme ? '

MARGUERITE:
  Si seulement je couchais seule, je laisserais volontiers ce soir les
  verrous ouverts ; mais ma mère ne dort point profondément ; et si
  elle nous surprenait, je tomberais morte à l'instant.

FAUST:
  Mon ange, cela n'arrivera point. Voici Un petit flacon; deux gouttes
  seulement versées dans sa boisson l'endormiront aisément d'un
  profond sommeil.

MARGUERITE:
  Que ne fais-je pas pour toi! Il n'y a rien là qui puisse lui faire mal ?

FAUST:
  Sans cela, te le conseillerais-je, ma bien-aimée ?

   Faust, Première partie, by Johann Wolfgang von Goethe
   Translation by Gérard de Nerval
   Édition de 1877 (Garnier)
   E-text at Wikisource

疑問:「三滴」のはずが、「二滴」deux gouttes に減っている。のこりの一滴は、どこへいってしまったのだろう。マルガレーテが自分で飲む? まさか。このフランス語版だけ薬の分量が変えて訳してある、なにか特別の理由があるのかしら。ご存じの方、お教えください。- tomoki y.


 Audio 1 
英語版オーディオブック(ベイヤード・テイラー訳)
Audiobook of the English translation by Bayard Taylor

下に引用する箇所の朗読は 3:14:01 から始まります。 Uploaded to YouTube by GreatestAudioBooks on 20 Aug 2013. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 3:14:01.


■英訳 Translations into English

(E1) Taylor, 1935, 2012
FAUST
  Ah, shall there never be
  A quiet hour, to see us fondly plighted,
  With breast to breast, and soul to soul united?

MARGARET
  Ah, if I only slept alone!
  I'd draw the bolts to-night, for thy desire;
  But mother's sleep so light has grown,
  And if we were discovered by her,
  'Twould be my death upon the spot!

FAUST
  Thou angel, fear it not!
  Here is a phial: in her drink
  But three drops of it measure,
  And deepest sleep will on her senses sink.

MARGARET
  What would I not, to give thee pleasure?
  It will not harm her, when one tries it?

FAUST
  If 'twould, my love, would I advise it?

   Faust by Johann Wolfgang Von Goethe
   Illustrated by Harry Clarke. Translated by Bayard Taylor
   Three Sirens Press, 1935. Free Kindle edition, 2012
   E-text at Project Gutenberg


(E2) Swanwick, 1913
FAUST:
  For one brief hour then may I never rest,
  And heart to heart, and soul to soul be pressed?

MARGARET:
  Ah, if I slept alone! Tonight
  The bolt I fain would leave undrawn for thee;
  But then my mother's sleep is light,
  Were we surprised by her, ah me!
  Upon the spot I should be dead.

FAUST:
  Dear angel! there's no cause for dread.
  Here is a little phial--if she take
  Mixed in her drink three drops, 'twill steep
  Her nature in a deep and soothing sleep.

MARGARET:
  What do I not for thy dear sake!
  To her it will not harmful prove?

FAUST:
  Should I advise it else, sweet love?


(E3) Brooks, 1868
Faust.
  Ah, can I ne'er recline One little hour upon thy bosom,
  pressing My heart to thine and all my soul confessing?

Margaret.
  Ah, if my chamber were alone,
  This night the bolt should give thee free admission;
  But mother wakes at every tone,
  And if she had the least suspicion,
  Heavens! I should die upon the spot!

Faust.
  Thou angel, need of that there's not.
  Here is a flask! Three drops alone
  Mix with her drink, and nature
  Into a deep and pleasant sleep is thrown.

Margaret.
  Refuse thee, what can I, poor creature? I hope, of course, it will not harm her!

Faust.
  Would I advise it then, my charmer?

  • Martha's Garden. Faust, A Tragedy, by Johann Wolfgang von Goethe. Translated by Charles T. Brooks. Seventh Edition. Boston Ticknor and Fields, 1868.
  • E-text at:

 Audio 2 
ドイツ語原文朗読 Audiobook of the original German text

下に引用する箇所の朗読は 1:24:58 から始まります。 Uploaded to YouTube by AnchisHSP on 4 May 2012. Reading of the excerpt below starts at 1:24:58.


■ドイツ語原文 The original text in German

Faust:
  Ach kann ich nie Ein Stündchen ruhig dir am Busen hängen
  Und Brust an Brust und Seel in Seele drängen?

Margarete:
  Ach wenn ich nur alleine schlief!
  Ich ließ dir gern heut nacht den Riegel offen;
  Doch meine Mutter schläft nicht tief,
  Und würden wir von ihr betroffen,
  Ich wär gleich auf der Stelle tot!

Faust:
  Du Engel, das hat keine Not.
  Hier ist ein Fläschchen!
  Drei Tropfen nur In ihren Trank umhüllen
  Mit tiefem Schlaf gefällig die Natur.

Margarete:
  Was tu ich nicht um deinetwillen?
  Es wird ihr hoffentlich nicht schaden!

Faust:
  Würd ich sonst, Liebchen, dir es raten?


■更新履歴 Change log

  • 2015/02/23 和田孝三=訳 2012/10/29 を追加しました。
  • 2013/08/25 目次を新設し、文藝社編輯部=訳 1929 と Bayard Taylor による英訳を追加しました。また、Taylor 訳に基づく英語版オーディオブックとドイツ語原文オーディオブックの2つの YouTube 画面を追加しました。
  • 2012/06/09 ロシア語訳、ポルトガル語訳、イタリア語訳、およびスペイン語訳を追加しました。
  • 2011/11/05 荒俣宏=訳 2011/10/01 を追加しました。また、高橋五郎=訳 1904/08 の文中の、これまで入力方法がわからなかった漢字「开」を入力しました。
  • 2011/06/22 Charles T. Brooks による英訳を追加しました。また、ブログ記事のタイトルにドイツ語表記を挿入するなどして、つぎのとおり変更しました。
    • 旧題: Faust, Part 1, by Johann Wolfgang von Goethe ゲーテ『ファウスト 第1部』
    • 新題: Faust: Der Tragödie Erster Teil / Faust: A Tragedy, Part 1, by Johann Wolfgang von Goethe ゲーテ 『ファウスト 第1部』
  • 2008/06/27 小西悟=訳 1998/08 を追加しました。
  • 2007/03/02 阿部次郎=訳 1937/11 を追加しました。また、 これまで日本語訳の項に含めていた「日本語による注釈書」を、別立ての項として新設しました。
  • 2006/12/13 邦訳版の一つとして、これまで挙げておりました次の本ををリストから削除しました。
    • 越塚信行(こしづか・のぶゆき)=訳 『ゲーテ・ファウスト第1部—解説と注釈』 郁文堂(初版 1974/09|再版(?) 1981)
    • この本が邦訳だと思っていたのは私の勘違いでした。実物にあたるまで、副題を知らなかったのですが、上の副題から察せられるように、この本は訳書ではなく、解説書/注釈書です。
  • 2006/12/08 久保栄=訳 1962/04/25 を追加しました。また、日本語訳の配列を修正しました。おおむね出版年月の新しい→古いの順に並べたつもりです。けれども、初訳の版を確認できていないものも、いくつか含まれているので、完全に新→旧の順には、なっていないかもしれません。
  • 2006/12/05 手塚富雄=訳 1960/07 を追加し、書誌情報を修正・補足しました。
  • 2006/12/03 フランス語訳についての「疑問」を追記しました。
  • 2006/12/02 山下肇=訳 1992/06、森林太郎=訳 1972/10、大山定一=訳 1972/01、高橋義孝=訳 1971/03、および相良守峯=訳 1958/01 を追加しました。また、書誌情報を修正・補足しました。

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Comments

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