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Saturday, 02 December 2006

酒見賢一『語り手の事情』The circumstance of a reciter by Kenichi Sakemi

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   単行本         文庫 
 
 
■日本語原文 The original text in Japanese
 
「(……)とにかく僕は父に言われてここに来たんだ。童貞を失わずにおめおめと帰るわけにはいかないんだよ。ここはそういう場所なんだろう。だから君に頼んでいるんじゃないか」
 と人なつっこく言います。
 私はしばらく考えて、言いました。
「事情によっては、私が相手をしないこともありませんが、何分にもまずは屋敷の主人に聞いてみませんと」
「なんで? 知らせちゃだめだよ。メイドは主人の目を盗んで若い男を誘惑するんだから」
 アーサーは無邪気ともいえる、好奇心丸出しの表情をいたしております。
「私はメイドではありません。語り手です。事情があってメイドの姿をしているだけです」
「なんだい、それ。語り手とか、事情とかってのは」
「いまのあなたに申し上げてもお分かりにならないでしょう」
「語り手でもなんでもいいよ。君でいいんだ。可愛いメイドさん」
 アーサーは外套を脱ぎ、他のメイドに預けます。そして、またも錯乱の言を耳に囁きました。
「あのね、ついでに鞭打ちと乱交とソドミーとかも一緒に教えてもらえると、僕の興味はいっぺんに満足するんだけどな。ねぇ、サド侯爵とかバイロン卿とか、あるじゃないか」
「語り手としては、困りますね。そういうのは」
 というのも語り手はサド侯爵の遺した著作をまだきちんと読んでいなかったからでございます。バイロン卿もしかり。何しろ今はヴィクトリア朝ですから、そんな悪書以前の異常な記述をどこの書肆(しょし)も刊行するはずがありません。好事家が裏本として流通させているという噂は耳にしてはおりますが、そういう輩(やから)は何時の世にもいるものです。アーサー坊やの青っちい好奇心を満足させてやる程度ならともかく、好んで痛くて不潔な目に遭いたいとは思いません。そもそもわが口からは語りたくないのです。

   酒見賢一(さけみ・けんいち)=著『語り手の事情』
   文藝春秋(単行本 1998/03|文庫 2001/07)
   初出誌は「文學界」1997年12月号
 
 
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