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Saturday, 06 January 2007

The Riddle by Walter de la Mare (1) ウォルター・デ・ラ・メア 「不思議な話」「謎」「なぞ」「なぞなぞ」(1)

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           目次 Table of Contents

    Image  肖像写真 Portrait
   ■日本語訳 Translations into Japanese
     (J1) 金原 2012
     (J2) 柴田 2009
     (J3) 柿崎 2008
     (J4) マクワガ 1997
     (J5) 紀田 1979, 2002, etc.
     (J6) 井村 1977
     (J7) 河野 1977
     (J8) 脇 1976
     (J9) 鈴木 1975, 1980
     (J10) 野上 1956
     (J11) 柳田 1925
   ■英語原文 The original text in English
   ■更新履歴 Change log


 Image  肖像写真 Portrait
Walter_de_la__mare
Walter de la Mare (1873-1956). Image source: Middlebrow (Scriptorium Daily)


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 金原 2012
ある日の夕方、ヘンリーはこっそりと子ども部屋から抜(ぬ)けだして階段(かいだん)を上がり、オークのチェストをみにいった。表に彫(ほ)られた果物や花にさわったり、すみに彫(ほ)られている陰気(いんき)な笑顔(えがお)に話しかけたりした。そして肩(かた)ごしに後ろをみてから、チェストのふたを開けてのぞいてみた。しかし中には宝(たから)も、黄金も、おもちゃも、目を引く物は何もなかった。
[中略]
ヘンリーは不思議なことに母親のことを思い出した。まぶしい白いドレスを着て、夕明かりの中で本を読んでくれている。ヘンリーは大きなチェストの中に入った。ふたがそっと閉(し)まった。

   ウォルター・デ・ラ・メア=作 金原瑞人(かねはら・みずひと)=訳
   「不思議な話」 金原瑞人=編訳 『南から来た男 ホラー短編集 2
   岩波少年文庫 2012/07/18 所収


(J2) 柴田 2009
ある日の黄昏どき、ヘンリーは一人で子供部屋を出て、階段をのぼり、古いナラの木の収納箱を見に行った。果物や花々の彫刻にヘンリーは指を押し当て、四隅で暗い笑みを浮かべている顔たちに呼びかけた。それから、ちらっとうしろをちらっと見てから、蓋を開けて、中を見てみた。だが箱には何の宝物も隠されていなかった。黄金も、おもちゃもなければ、見た目にぞっとするようなものもない。
[中略]
そんなこんなで、なぜかヘンリーの胸に、母親の記憶がよみがえった。ほのかに光る白いドレスを着た母は、夕暮れどき、ヘンリーに本を読んでくれたものだった。そしてヘンリーは箱のなかによじのぼって入った。蓋がそっと上から閉じた。

   ウォルター・デ・ラ・メア=作 柴田元幸(しばた・もとゆき)=訳 「謎」
   『昨日のように遠い日―少女少年小説選』 文藝春秋 2009/03/25 所収


(J3) 柿崎 2008
ヘンリーが樫の長持を見ようと一人で子供部屋から二階に上っていったのは、ある日のたそがれ時のことでした。箱に彫られている果実や花の模様を指先でなぞったり、箱のかどの暗い笑い顔の飾り物に話しかけたりしていましたが、そのうち肩越しにうしろをちらっと見返してから箱の蓋を開けて、なかを覗き込みました。けれども箱のなかには宝物もなければ、黄金も安ぴかのおもちゃもないし、見て驚くようなものは何ひとつありませんでした。
[中略]
これらのことは不思議にも、かすかに光る白い服を着た母が、たそがれ時に本を読んでくれたことを思い起こさせました。ヘンリーは箱のなかへよじのぼるようにして入り、その上から蓋はやさしくとじました。

   ウォルター・デ・ラ・メア=作 柿崎亮(かきさき・りょう)=訳 「謎」
   『デ・ラ・メア幻想短篇集』 国書刊行会 2008/05 所収


(J4) マクワガ 1997
ヘンリーが、カシの木のひつを見るために、子ども部屋からひとりで上の部屋にあがっていったのは、夕暮(ゆうぐ)れ時でした。果物や花の彫刻(ちょうこく)を指でなぞりながら、ヘンリーはひつの四すみにある黒っぽい、わらいをうかべる顔にはなしかけていました。それから、肩(かた)ごしにうしろをちらっと見てから、ふたをあけ、中をのぞきこみました。でもひつの中には、なんの宝物(たからもの)も入っていませんでした。黄金があるでもなし、ニセモノの宝石(ほうせき)があるでもなく、びっくりするような物が入っているわけでもありません。
[中略]
これらすべてがまざりあって、ヘンリーがふしぎと思い出したのは、かがやくような白いドレスを着て、たそがれの光の中で本を読んでくれたお母さまの姿(すがた)でした。そしてヘンリーはひつの中に、よじのぼって入りました。するとその上に、ふたが静かにしまっていきました。

   ウォルター・デ・ラ・メア=作 マクワガ葉子 (Yoko Macuga) =訳
   津田真帆(つだ・まほ)=絵 「なぞなぞ」
   『デ・ラ・メア物語集2』 大日本図書 1997/04 所収


(J5) 紀田 1979, 2002, etc.
ある日の夕方、ヘンリイは、一人で子ども部屋から抜け出すと、二階へのぼっていき、あの樫の長持を見にまいりました。そして、長持の表面に彫ってある果物や花の飾りをなでたり、その片隅に刻んである陰気な笑いのお面にむかって話しかけたりしていましたが、やがてそっとうしろをふりかえってようすをうかがうと、やおら蓋(ふた)をあけて中をのぞきこんだのです。でも、長持のなかには宝物などかくされているわけもなく、金だとか飾りもののような目ぼしいものは、なにひとつなかったのです。
[中略]
夕暮れ、ふんわりした白いドレスを着て、いつも彼に本を読んでくれたお母さん……。
——で、彼は長持の中に入りこんでしまったのです。そのうえを、蓋がそうっと閉じていました。

   W・デ・ラ・メア=作 紀田順一郎(きだ・じゅんいちろう)=訳 「なぞ」
   4a. 宮部みゆき=編 『贈る物語 Terror みんな怖い話が大好き
      光文社文庫 2006/12 所収
   4b. 宮部みゆき=編 『贈る物語 Terror』 光文社 2002/11 所収
   4c. 紀田順一郎+荒俣宏=編 『怪奇幻想の文学4 恐怖の探究
      新人物往来社 1979/07 所収
   引用は 4b. に拠りました。


(J6) 井村 1977
ある黄昏どき、ヘンリイはたった一人で、子供部屋から樫の木の衣裳箱を見に、二階へあがっていった。箱に彫ってある果物や花々を指先で触ってから、箱の四隅に付いている奇妙な笑いを浮べた顔の彫像に話しかけ、それから肩越しにちらりとふり返ると、箱の蓋を開けて中を覗き込んだ。だが、箱には何も宝物は入っていなかった。黄金も、人の目を驚かすような、すばらしいものも何も入っていなかった。
[中略]
こうしたものが不思議に、ヘンリイに母のことを思い出させた。ちょうどこうした薄暗がりの部屋の中で、ぼんやりひかる真白なドレスを着て、母はヘンリイによく本を読んでくれたものだった。ふと、ヘンリイは箱によじ登ると、その中に入った……すると、箱の蓋は、ヘンリイの上から、しずかに閉じてしまった……

   ウォルター・デ・ラ・メア=作 井村君江(いむら・きみえ)=訳 「謎」
   『幽霊奇譚』 牧神社 1977/12 所収
   この本は、主要オンライン書店の目録や国立国会図書館 NDL-OPAC には
   掲載されていないようです。書誌情報の詳細を知るには、つぎの各サイトが
   たいへん参考になります:


(J7) 河野 1977
ある夕ぐれのことでした。ヘンリーは子ども部屋からひとりで出て、樫(かし)の大箱を見に上へあがってゆきました。箱に彫(ほ)ってあるくだものや花の模様を指先でさわったり、箱の四隅(よすみ)についている黒ずんだ笑い顔の飾(かざ)りに話しかけたりしていましたが、そのうち、ちらと肩ごしにうしろを見てから、蓋(ふた)をあけ、大箱のなかをのぞいてみました。ところが大箱のなかには、金貨もなければガラクタもなく、宝ものはおろか、見てびっくりするようなものはなにもはいっていません。
[中略]
ヘンリーはふしぎに、キラキラする白い服を着たお母さんが、夕方になると本を読んでくれたことを思いだしました。ヘンリーはよじのぼるようにして箱の中へはいりました。はいると、その上から蓋(ふた)がしずかにしまりました。

   デ・ラ・メア=作 河野一郎(こうの・いちろう)=訳 「なぞ」
   『魔法のジャケット』 旺文社ジュニア図書館 1977/07 所収


(J8) 脇 1976
あるたそがれどき、ヘンリーは子供部屋をでて、樫の木の箱をみようとひとりで二階へあがってゆきました。ヘンリーは箱に彫ってある果物や花に指を押しあて、角のところの陰気な笑いをうかべた顔に話しかけ、やがて肩ごしにちょっとふりかえってから蓋(ふた)をあけてなかをのぞきこみました。ところが箱のなかには金(きん)にせよ、子供だましの安ぴかものにせよ、宝物などなにもはいっておらず、眼をおどろかすようなものもなにひとつみあたりませんでした。
[中略]
ふしぎなことに、こうしたいろいろなことは、ヘンリーに、いつも白くかすかに光る服を着て夕闇のなかで本を読んでくれていたお母さんのことを思いださせました。ヘンリーは箱によじのぼり、そのあとから蓋(ふた)が静かに閉じました。

   ウォルター・デ・ラ・メア=著 脇明子(わき・あきこ)=訳 橋本治=絵 「謎」
   『アリスの教母さま』 ウォルター・デ・ラ・メア作品集1
   牧神社 1976/08/25 所収


(J9) 鈴木 1975, 1980
ヘンリーがひとりだけ、こども部屋をぬけだして、あの樫の櫃をのぞきに階段をのぼっていったのは、ある日の夕方のことだった。ヘンリーはしばらく櫃に彫られた果物や花々を指でなぞったり、すみのほうに刻まれた陰気に笑いかける顔に話しかけたりしていた。それから、ふっと肩ごしにうしろをふりかえり、あたりをみまわすと、櫃のふたをあけ、なかをのぞきこんだ。しかし、どうしたことか、櫃のなかには、宝ものはおろか金貨や首飾りも、人の目をおどろかすようなものはなにひとつはいっていなかった。
[中略]
ふしぎにもこうした情景は、たそがれどきあえかな白いドレスをまとってよく本を読んでくれたおかあさんの姿を思いださせたのだった。かれは櫃によじのぼると、なかにはいりこんだ。そのうえから、櫃のふたがしずかにしまっていった。

   ウォルター・デ・ラ・メア=作 鈴木説子=訳 「謎」
   8a. 中田耕治=編 『恐怖の1ダース』 講談社文庫 1980/08 所収
   8b. レイモンド・チャンドラー[ほか]=著 中田耕治=編
      『恐怖の1ダース』 発行:出帆社 発売:路書房 1975/09 所収
   引用は 8b. に拠りました。


(J10) 野上 1956
ある日の夕がた、ヘンリーは、あのかしの木づくりの箱を見に、たったひとり子ども部屋(べや)から二階(かい)へ出かけて行った。箱に彫刻(ちょうこく)されたくだものと花を指(ゆび)でさわってみた。すみのほうに彫(ほ)ってある不気味(ぶきみ)な笑(わら)いをたたえた顔に話しかけた。それから、頭(あたま)をねじって、ちらっとうしろをふり向いて、箱のふたをあけ、中をのぞきこんだ。だが、宝(たから)ものなんかなんにもはいっていなかった。黄金(おうごん)があるわけでもないし、そうかといって子どもだましのぴかぴか光るものもはいっていなかった。人目をひくようなものはなにひとつはいってはいなかったのだ。
[中略]
このようないろいろなものを見たり聞いたりしていると、妙(みょう)なことに、なくなったおかあさんの思い出が浮(う)かんできた。たそがれの部屋の中で、ほの白いきものを着(き)たおかあさんは、本を読んでくれたものだ。ヘンリーは箱(はこ)によじのぼり、その中へはいった。するとふたが静(しず)かにとじてしまった。

   デ・ラ・メア=作 野上彰(のがみ・あきら)=訳 「なぞ」
   『世界少年少女文学全集34 イギリス編6』 創元社 1956/08 所収


(J11) 柳田 1925
ある夕方の黄昏時に、ヘンリは子供部屋から一人でこつそり二階に上つて、あの樫の長持を見た。彼は、彫り刻んである果實と花を指で押してみた、そして四隅についてゐる薄黑く笑つてゐる首に物をいひかけてみた、それから肩越しにうしろを瞥然(ちら)と見て、蓋をあけて中を覗いてみた。だが長持の中には何の寶物も入つてゐなかつた、黄金も飾物も入つてゐなかつた、いや全く目を驚かすやうなものは何一つなかつた。
[中略]
いつも夕暮に、白いぴかぴかした衣物を着て彼に何か讀んで聞かせるのがつねだつた母親を不思議にも彼の記憶によび起させた或るものを、太陽がだんだん暗くしてゆくのが見えた、彼は長持の中に攀ぢ入つた、蓋はしづかに彼の上に閉(しま)つた。

   ウオールタア・デ・ラ・メエア=作 柳田泉(やなぎだ・いずみ)=譯 「謎」
   『英吉利近代傑作集 世界短篇小説大系 英吉利篇(下)
   近代社 1925/07(大正14)所収
   この本の内容詳細は ここ
   「飾」は原文では旧字、つまり左側の偏が「飮」の偏とおなじ。


■英語原文 The original text in English

It was evening twilight when Henry went upstairs from the nursery by himself to look at the oak chest. He pressed his fingers into the carved fruit and flowers and spoke to the dark-smiling heads at the corners; and then, with a glance over his shoulder, he opened the lid and looked in. But the chest concealed no treasure, neither gold nor baubles, nor was there anything to alarm the eye.
[Omission]
These things brought strangely to his memory his mother who in her glimmering white dress used to read to him in the dusk; and he climbed into the chest; and the lid closed gently down over him.

   The Riddle by Walter de la Mare
   E-text at:


■更新履歴 Change log

  • 2013/06/08 金原瑞人=訳 2012/07/18 を追加しました。
  • 2009/08/16 脇明子=訳 1976/08 の訳文を追加しました。
  • 2009/08/07 柴田元幸=訳 2009/03 を追加しました。
  • 2009/03/22 柳田泉=訳 1925/07 を追加しました。
  • 2009/01/30 脇明子=訳 1976/08 の書誌情報を追加しました。訳文は追って挿入するつもりです。
  • 2009/01/11 井村君江=訳 1977/12 を追加しました。
  • 2008/12/13 書誌情報を加筆修正しました。
  • 2008/12/11 柿崎亮=訳 2008/05 を追加しました。また、英語原文に "neither gold" の2語が脱落しておりましたので、補充しました。
  • 2007/01/12 紀田順一郎=訳 1979/07 を追加しました。

 

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Posted by: アグ サイズ | Sunday, 24 November 2013 11:55 am

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