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Friday, 02 March 2007

La Main / The Hand by Guy de Maupassant モーパッサン 「切りとられた手」「夜歩く手」「手」

La_main
Guy de Maupassant 《Contes du jour et de la nuit》
Illustration de Paul Cousturier.  Image source: Project Gutenberg

■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 千葉 1996
「これはなんですか?」
 わたしがたずねますと、ローウェルは、かわらない口ぶりで答えました。
「ああ、それはわたしの最大の敵です。アメリカからもってきたものです。軍刀ですっぱりとたち切られ、よく切れる石で皮をむかれました。それから一週間、太陽の下で日干しにされたものです。これこそ、わたしのいちばんたいせつなものですよ。」
 わたしはその手にさわってみました。おそらく大きな男だったのでしょう。とびきり長い指が、太い腱でつながっていました。その腱はところどころ皮ひもでとめられています。見るだけで、ぞっとしました。皮がはがされているのは、なにかの復讐のためだと想像できます。

  • モーパッサン=作 千葉幹夫(ちば・みきお)=訳 「切りとられた手」 クリスティーほか=作 白木茂ほか=訳 『ふしぎな足音』 青い鳥文庫Kシリーズ 講談社 1996/12/05 所収
  • 完訳ではなく児童向けの再話です。原文は総ルビですが、ここでは省略しました。

(J2) 奥田 1989
「いったいなんですか?」
と、わたしがたずねると、イギリス人は物静かに、こう答えました。
「ワタシニトッテ、イチバンノテキダッタ、オトコノテデス。アメリカジンデシタ。サーベルデ、キリオトシ、サキノトガッタイシデ、カワヲハギトッテ、イッシュウカン、ヒボシニシマシタ。コレ、ワタシニハ、トッテモ、タイセツデス」
 わたしは、手にさわってみました。きっと、大男の手だったのでしょう。とても長い指が、むきだしのふとい腱(けん)につながっていて、そのところどころには、ちぎれた皮膚(ひふ)が残っていました。こんなふうに皮をはがれているので、見た目にはおぞましいしろものです。そこで、わたしは、なにか残虐(ざんぎゃく)な復讐(ふくしゅう)がひそんでいるのではないかと、考えずにはいられませんでした。

  • モーパッサン=著 奥田恭士(おくだ・やすし)=訳 「手」 江河徹=編 おぼまこと=画 『悪夢のような異常な話』 幻想文学館 4 くもん出版 1989/08 所収
  • 文中の傍点を下線で置き換えました。

(J3) 川口 1988
「あれはなんです?」とわたしがきくと、イギリス人は、落ち着きはらってこたえました。
「ワタシノイチバンノテキダッタオトコデスヨ。アメリカノヒトデシタ。サーベルデキラレテ、トガッタイシデカワヲハガレ、イッシュウカン、ヒボシニサレタノデス。マッタクイイキミデシタ」
 わたしはその人間の残骸(ざんがい)にさわってみました。その手の持ち主は雲つくような大男だったにちがいありません。指はとほうもなく長く、巨大な腱(けん)でつながれ、ところどころよれよれの皮膚ものこっていました。それは、見るもおぞましい手で、そのように皮をはがれたところは、なにか野蛮人の復讐を思わせました。

  • ギイ・ド・モーパッサン=作 川口美樹子=訳 「手」 長島良三(ながしま・りょうぞう)=編 『フランス怪奇小説集』 偕成社文庫 1988/08 所収
  • ルビの一部を省略しました。

(J4) 榊原 1984
 わたしは、たずねました。
『これはなんですか?』
 かれは、落ち着きはらって答えました。
『これ、わたしのいちばんの敵ですね。アメリカから持ってきました。軍刀でたち切られ、よく切れる石で皮をむかれて、それから一週間、天日でかわかされました。おお、これ、わたしのとても大切なものです』
 たぶん大男のものだったにちがいない、この人体の切れはしに、わたしはさわってみました。
 とびきり長い指が、皮ひもでところどころとめられている、ふとい腱でつながれていました。まったく、この手は見るだけでもぞっとするもので、このように皮をはがされているのは、きっと、なにか、ものすごい復しゅうのせいにちがいありません。


(J5) 宮原 1983
 「これは何ですか?」私は尋ねました。
 イギリス人は平然と、
 「僕の一番の仇(かたき)。アメリカから来たね。サーベルで切って、皮、鋭い石で剥いだね。それから一週間、日に干したよ。いい、これ、僕にやさしい。yes(イエス)」
 私はこの人間の残骸に触れてみました。持ち主は山のような大男だったに違いありません。途方もなく長い指が、太い腱に結びつき、後者は、革ひもと化した皮膚で所々支えられています。こんな風に皮を剥いだぞっとするような手を見ていると、自然に連想されるのは野蛮人同士の復讐でした。


(J6) 榊原 1979
 わたしはたずねました。
『これはなんですか?』
 イギリス人は平然と答えました。
『これ、わたしのいちばんの敵ですね。アメリカから持ってきました。軍刀でたち切られ、よく切れる石で皮をむかれて、それから一週間、天日でかわかされました。おお、これ、わたしのとても大切なものです』
 おそらく大男のものだったにちがいないこの人体の断片に、わたしはさわってみました。とびきり長い指が、皮ひもでところどころとめられている太い腱(けん)でつながれていました。この手は見るだけでぞっとするもので、このように皮をはがされているのは、当然、なにか残忍な復讐を考えさせました。


(J7) 青柳 1971, 2006
『これはなんですか?』わたしはたずねてみました。
 英国人は平然として答えたのです。
『これ、わたくしのいちばんの敵です。アメリカから持ってきました。軍刀で断ち切られ、とがった石で皮を剥(は)ぎ取られ、一週間、天日にさらされました。おお、このもの、わたくしにとって、なかなか大事です』
 おそらく、大男についていたろうと思われるこの人体の細片に、わたしは、さわってみました。紐(ひも)のようになった皮で、ところどころ止められている太い腱(けん)によって、ばか長い指がつながれています。見ただけで、ぞっとするような代物(しろもの)です。こんなに皮を剥ぎ取られるとは、当然、なにか猛悪な復讐(ふくしゅう)を考えさせます。

  • モーパッサン=作 青柳瑞穂=訳 「手」
    • 怪奇小説傑作集4 フランス』 G・アポリネール〔ほか〕=著 青柳瑞穂+澁澤龍彦=訳 創元推理文庫(新版)2006/07
    • モーパッサン短編集3』 G・アポリネール〔ほか〕=著 青柳瑞穂+澁澤龍彦=訳 新潮文庫(初版 1971/02|改版 2006/12)所収
  • 引用は b. 新潮文庫版に拠りました。

(J8) 龍口 1961
「あれはなんですか?」とわたしはききました。
「あいつはわしの不倶戴天(ふぐたいてん)の敵だったんですよ」と、そのイギリス人は静かに答えました。「アメリカから持ってきたんです。刀で切断し、皮は火打ち石で引きはがし、それから天日で一週間かわかしました。わしにはちょっとひと仕事でしたね」
 わたしはその人間の断片にさわってみました。大男の手だったにちがいありません。不自然なくらい長い指が大きな腱(けん)についており、その腱にはあちこちに皮の切れはしが残っていました。そんなふうに皮を引き裂かれたその手は、見ていてもゾッとするほどでしたよ。思わずなにか野蛮でむごい復讐(ふくしゅう)のことを考えさせられましたね。

  • ギュイ・ド・モーパッサン=作 龍口直太郎=訳 「手」 エラリー・クイーン=編 『文芸推理小説26人集2』 東京創元社 1961/03/15 所収

(J9) 青柳 1946
 ——これはなんです」と私は訊ねて見ました。
 英國人は平然として答へるのです。
 ——これは私の仇敵です。アメリカから持つて來たんです。軍刀で斷ち切つて、尖つた小石で皮を剝ぎ取つて、一週間、天日に乾したものです。此奴、私にとつては仲々大事なんです。」
 恐らく大男のものであつたらうと思はれるこの人體の細片に私は觸つて見ました。非常に長い指が、ところどころ、紐のやうになつた皮で止められてゐる太い筋で繋がれてゐるのです。見ただけでぞつとする程の代物でした。こんなに皮を剝がれるとは、何か猛惡な復讐があつたに違ひありません。

  • モオパッサン=著 靑柳瑞穂=譯 「手」 『二人の友 その他』 白桃書房 1946/06/08 所収
  • 平の旧字は新字で置き換えました。

■フィンランド語訳 Translation into Finnish

Kysäsin:

– Mikäs tuo on? Englantilainen vastasi tyyneesti:

– Se on parhaan ystäväni käsi. Hän tuli Ameriikasta. Siellä oli häneltä miekalla isketty käsi poikki, nahka oli repeytynyt kivikossa ja oli kuivettunut auringon helteessä kokonaisen viikon – oah, tämä oli jotakin mulle, tämä.

Katsellessani tuota jäsenrajoa huomasin että se on mahtanut kuulua jättiläis-soturin ruumiisen, niin suuret olivat sormet. Se oli kamala katsella.

  • Käsi by Guy de Maupassant
  • E-text at Wikiaineisto (Wikisource)

■英訳 Translation into English

"I asked:

"'What is that?'

"The Englishman answered quietly:

"'That is my best enemy. It comes from America, too. The bones were severed by a sword and the skin cut off with a sharp stone and dried in the sun for a week.'

"I touched these human remains, which must have belonged to a giant. The uncommonly long fingers were attached by enormous tendons which still had pieces of skin hanging to them in places. This hand was terrible to see; it made one think of some savage vengeance.


■スペイン語訳 Translation into Spanish

Pregunté:

«-¿Qué es esto?

«El inglés contestó tranquilamente:

«-Era mejor enemigo de mí. Era de América. Ello había sido cortado con el sable y arrancado la piel con un piedra cortante, y secado al sol durante ocho días. ¡Aoh, muy buena para mí, ésta.

«Toqué aquel despojo humano que debía de haber pertenecido a un coloso. Los dedos, desmesuradamente largos, estaban atados por enormes tendones que sujetaban tiras de piel a trozos. Era horroroso ver esa mano, despellejada de esa manera; recordaba inevitablemente alguna venganza de salvaje.


■フランス語原文 The original text in French

Je demandai :

— Qu’est-ce que cela ?

L’Anglais répondit tranquillement :

— C’été ma meilleur ennemi. Il vené d’Amérique. Il avé été fendu avec le sabre et [ 207 ] arraché la peau avec une caillou coupante, et séché dans le soleil pendant huit jours. Aoh, très bonne pour moi, cette.

Je touchai ce débris humain qui avait dû appartenir à un colosse. Les doigts, démesurément longs, étaient attachés par des tendons énormes que retenaient des lanières de peau par places. Cette main était affreuse à voir, écorchée ainsi, elle faisait penser naturellement à quelque vengeance de sauvage.


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■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2014/06/21 龍口直太郎=訳 1961/03/15の訳文を挿入しました。
  • 2014/06/19 千葉幹夫=訳 1996/12/05 を追加しました。
  • 2012/02/04 フィンランド語訳と外部リンクを追加しました。
  • 2012/02/01 靑柳瑞穂=譯 1946-06-08 を追加しました。
  • 2009/01/11 「外部リンク」の項を追加しました。また、龍口直太郎=訳 1961 の書誌情報を挿入しました。訳文は追って挿入するつもりです。
  • 2007/04/14 川口美樹子=訳 1988/08 を追加しました。
  • 2007/03/18 奥田恭士=訳 1989/08 を追加しました。
  • 2007/03/05 榊原晃三=訳・文 1984/01 を追加しました。予想されたとおり、この児童書の訳は完訳ではなく再話でした。榊原晃三=訳(集英社文庫 コバルトシリーズ版) 1979/08 とは、共通部分が多いとはいえ、細部が異なりました。

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(1) the + hand + maupassant

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