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April 2007

Friday, 27 April 2007

La Disparition d'Honore Subrac by Guillaume Apollinaire アポリネール「オノレ・シュブラックの失踪」

This article has been divided into 2 parts and moved to 5 June 2007.
この記事は、修正をかさねるうちに長くなり、1つの記事におさまりきらなくなったので、(1) と (2) に分けて、2007年6月5日の記事に移動させました。


>>> Go to La Disparition d'Honore Subrac by Guillaume Apollinaire (1) アポリネール「オノレ・シュブラックの失踪」(1)

>>> Go to La Disparition d'Honore Subrac by Guillaume Apollinaire (2) アポリネール「オノレ・シュブラックの失踪」(2)
 
 
■アポリネールの動画(フィルム映像) Apollinaire in film

Apollinaire_en_film
Apollinaire filmed in 1914 with his friend Andre Rouveyre.
Image source:
* Guillaume Apollinaire site officiel
* linkillo.blogspot.com
 
 
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Thursday, 19 April 2007

The Ghost of a Hand by J. Sheridan Le Fanu レ・ファニュ 「手の幽霊」「手の幽霊の話」「白い手の怪」「白い手の幽霊」

 Image gallery 
表紙画像と肖像写真 Book covers and a portrait

↓ クリックして拡大 Click to enlarge ↓

a. Ja_bochi_ni_tatsu_yakata_430920340x b. Ja_kyuuketsuki_01980620 c. En_the_house_by_the_churchyard_1598

d. En_classic_victorian_edwardian_7268 e. En_fantastic_worlds f. Portrait_200pxlefanu


■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 榊 2000
(……)しかし九月十三日の夜、ジェーン・イースターブルックというイギリス人のメイドが、ミセス・プロッサー愛飲のミルク酒を入れる小さな銀の器を取りに食器室に入ったときのこと、ガラスが四枚だけ嵌(はま)った小さな窓をふと見上げた。すると鎧戸(よろいど)の閂(かんぬき)を掛けるためにドリルで窓枠にあけられている穴を通して、ぽっちゃりとした白い手が目に映った。最初見えたのは一本の指の先端だけで、やがて二本の指の第一関節が現れたかと思うと、指先を内側に曲げてあちこち撫で回した。片側に押して窓を開ける仕組みの留め金を探しているかのような気配だった。台所に戻って来たメイドはそのまま気を失って、翌日も一日じゅう何も手につかずに、ぼんやりしていたという。

   シェリダン・レ・ファニュ=著 榊優子(さかき・ゆうこ)=訳
   「12 瓦屋根の館にまつわる奇怪な事実——片手となって現れる幽霊
   についての信憑性のある話」
   『墓地に建つ館』 河出書房新社 2000/08 所収

   「訳者あとがき」によると、訳出にあたっては、Alan Sutton Publishing
   Ltd. の版をベースに、Appletree Press Ltd. の版を参考になさった由。


(2) 吉川 1989
 ところが九月十三日の夜、またまた事件がおこった。
 小間使いのジェーン・イースターブルックが、夫人にさしあげるミルク酒用の小さな銀のコップをとりに、食器部屋にはいっていったときのこと。食器部屋には四枚ガラスの小さな窓がある。窓わくにはシャッターをとりつける小さな穴がついていたが、なにげなくそこに目をやると、その穴からぷっくりとした白い指が一本さしいれられているではないか!
 さいしょは指先だけ、それから第二関節まではいってきた。その指は、先をまげて穴のまわりをさぐりはじめた。窓のとめ金をさがしあて、どうにかはずそうとしているらしい。びっくりぎょうてんしたジェーンは、台所にかけこむなり気絶してしまったそうだ。そして、翌日になってもまだふらふらしていたという。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.

   ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ=著
   吉川正子(よしかわ・まさこ)=訳 「白い手の幽霊」
   江河徹(えがわ・とおる)=編 『恐ろしい幽霊の話』 幻想文学館1
   くもん出版 1989/08 所収
   「白い手の幽霊」は、長編小説『墓畔の家』の第十二章を独立させたもの。


(3) 乾 1988, 2006
 だが九月十三日の夜、イギリス人メイドのジェーン・エスタブルックというのが、奥さんのミルク酒(しゅ)用の小さい銀製ボールを取りに食器室へはいって行って、ふと四枚ガラスだけの小窓を見上げたのだが、その窓枠にあけられた、閉め金具シャッターのボルト穴から白い肥えた指が見えた……初めは指先だけ、それから二本の指の第一関節が現れ、内側に曲げられたその指が、手の持主が留め金をはずそうと企(たくら)んでいるようなふうに、あちらこちらへと動きまわっているのだ。台所へ戻ったメイドは〝気を失って倒れ〟次の一日中もひどく気がぬけたようになっていたという。
[原文にあるルビを一部省略しました - tomoki y.

   J・シェリダン・レ・ファニュ=著 乾信一郎=訳 「手の幽霊」
   a. 赤木かん子=編 岡本綺堂, 半藤一利〔ほか〕=著
     『語られると怖い話』 ホラーセレクション2 ポプラ社 2006/03 所収
   b. ロアルド・ダール=編 『ロアルド・ダールの幽霊物語
     ハヤカワ・ミステリ文庫 1988/12
   a. の底本は b.b. の原書はつぎのタイトル:
   * Roald Dahl's Book of Ghost Stories
    Paperback: Farrar Straus & Giroux (1985/01)


(4) 小菅 1971
(……)が、九月十三日の夜、女主人のミルク酒を入れるための小さな銀の鉢をとりに食器室に入っていった英国生まれの女中のジェーン・イースターブルックは、偶然四枚ガラスの小窓を見あげ、その窓枠の鎧戸(よろいど)をとめるための穴から、白いぷくぷくした指先がのぞいているのを発見した。初めは指先が、つづいて第一関接と第二関接が見え、幸いにして反対側に倒すように設計された掛金を捜すかのように、前後左右にうごめいた。女中は台所へもどると同時に失神し、あくる日一日「朦朧」としていた。

   J・シェリダン・レ・ファニュ=作
   小菅正夫(こすげ・まさお)=訳 「手の幽霊の話」
   矢野浩三郎(やの・こうざぶろう)=監修 日本ユニエージェンシー=編
   『アンソロジー・恐怖と幻想2』 月刊ペン社 1971/03 所収


(5) 平井 1970
(……)越えて九月の十三日の晩、イギリス人の奥女中で、ジェイン・イースタブルックという召使が、奥様にさしあげるミルク酒を入れる小さな銀の器をとりに、食器部屋へはいっていった時、なんの気なしに窓ののぞき穴——食器部屋には、四枚ガラスの小さな窓があって、そこの窓枠(わく)に、窓に閂(かんぬき)が下りているかどうかを見る、のぞき穴があいています。そののぞき穴から、ジェインがなんの気なしにのぞいてみたら、白いブヨブヨした指が見えたのです。——まず一本の指の先が、それから二本の指が第一関節のところまで見えました。白い指の先は、二本とも先を内側に曲げて、しきりとそこらをなでまわしています。押すとカタリとはずれるサル(#「サル」に傍点)がそこについている、そのサル(#「サル」に傍点)を捜しているようなけはいでした。ジェインはキャッといって、台所へ駆けこむなり気絶をして、翌日もいちにちフラフラしていたということです。

   ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ=著
   平井呈一(ひらい・ていいち)=訳 「白い手の怪」
   『吸血鬼カーミラ』 創元推理文庫 1970/04 所収


 Audio 
「手の幽霊」 オーディオブック The Ghost of a Hand - Audiobook

下に引用する箇所の朗読は 5:24 あたりから始まります。 Uploaded to YouTube by David Longhorn on 15 Nov 2012. Reading of the excerpt below starts around 5:24.


■英語原文 The original text in English

But on the night of the 13th September, Jane Easterbrook, an English maid,
having gone into the pantry for the small silver bowl in which her
mistress's posset was served, happening to look up at the little window of only four panes, observed through an auger-hole which was drilled through the window frame, for the admission of a bolt to secure the shutter, a white pudgy finger--first the tip, and then the two first joints introduced, and turned about this way and that, crooked against the inside, as if in search of a fastening which its owner designed to push aside. When the maid got back into the kitchen we are told 'she fell into "a swounde," and was all the next day very weak.

   The Ghost of a Hand
   from The House by the Church-Yard (1904)
   by Joseph Sheridan Le Fanu

   E-text at:


■邦題の異同 Variations of the title translated into Japanese

  「手の幽霊」………………………………………………………乾 1988, 2006
  「手の幽霊の話」…………………………………………………小菅 1971
  「白い手の怪」……………………………………………………平井 1970
  「白い手の幽霊」…………………………………………………吉川 1989
  「片手となって現れる幽霊についての信憑性のある話」……榊 2000


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2013/06/10 英語原文オーディオブックの YouTube 画面を追加しました。
  • 2009/07/25 「邦題の異同」の項を新設しました。また、ブログ記事のタイトルをつぎのとおり変更しました。
    • 旧題: The Ghost of a Hand by J. Sheridan Le Fanu レ・ファニュ「白い手の幽霊」
    • 新題: The Ghost of a Hand by J. Sheridan Le Fanu レ・ファニュ「手の幽霊」「手の幽霊の話」「白い手の怪」「白い手の幽霊」
  • 2007/04/20 榊優子=訳 2000/08 の原典に関する書誌情報を加えました。

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Sunday, 15 April 2007

Der Sandmann / The Sandman by E. T. A. Hoffmann ホフマン 「ザントマン」「砂男」「砂鬼」

        目次 Table of Contents

  Video   砂男 (1991) The Sandman (1991)
 Images  表紙画像と肖像画 Book covers and a portrait
■日本語訳 Translations into Japanese
  (J1) 大島 2014
  (J2) 畦上 1989
  (J3) 福井+斎藤 1985
  (J4) 池内 1984
  (J5) 谷村 1980, 1981
  (J6) 中野 1979
  (J7) 種村 1979, 1988, etc.
  (J8) 大島 1976
  (J9) 深田 1971
  (J10) 吉田 1961
  (J11) 石丸 1952
  (J12) 吉田 1948
  (J13) 木暮 1947
  (J14) 江戸川 1929
  (J15) 向原 1927, 1975, etc.
■ポルトガル語訳 Translation into Portuguesex
 Audio 1  英語版オーディオブック(朗読) Audiobook in English
■英訳 Translations into English
  (E1) Bealby, 1885
  (E2) Oxenford,  1844
 Audio 2  ドイツ語原文のオーディオブック(朗読) Audiobook in German
■ドイツ語原文 The original text in German
■タイトル Der Sandmann / The Sandman について
■Mr. Sandman という曲について
■更新履歴 Change log


 Video 
砂男 (1991) The Sandman (1991)

監督: ポール・ベリー Uploaded to YouTube by synestri on 28 Nov 2008. Directed by Paul Berry


 Images 
表紙画像と肖像画 Book covers and a portrait

a. 0192837230 b. 326374n_1 c. Portraet_hoffmann_g

↑ クリックして拡大 Click to enlarge ↑

■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 大島 2014
「ほう、晴雨計はいらん、晴雨計はいらんとね! だがきれいな眼ん玉もあるぞ——きれいな眼ん玉もな!」
 ナターナエルはぎょっとして叫んだ。
「なんてばかな、どうして眼玉を? 眼玉——眼玉だと?」
 しかしもうそのときには、コッポラは晴雨計をわきにのけ、大きな上着のポケットから柄付眼鏡だの、ふつうの眼鏡だのをつかみだして、テーブルに並べはじめていた。
「さあ——さあ——眼鏡だ——眼鏡を鼻にのせてみるがいい、これがわしの眼ん玉じゃ——きれいな眼ん玉だぞ!」
 こう言いながら次から次へと眼鏡を取り出すので、テーブルの上は一面、異様にきらきらしはじめた。無数の目がナターナエルをにらんでぎろぎろと光り、痙攣するようにまばたく。

  • エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマン=作 大島かおり(おおしま・かおり)=訳 「砂男」 『砂男/クレスペル顧問官』 光文社古典新訳文庫 2014/01/20

(J2) 畦上 1989
「ふん、気圧計はいらんとな! 気圧計はいらんとな!——では、きれいな目玉はいかがかな——きれいな目玉だぞ!」
 ナターナエルはさけんだ。
「そんなばかな、目玉なんて売れるものか——目玉なんて——目玉なんて」
 だがその瞬間コッポラは、気圧計をいくつかわきにおき、上着の大きな胸ポケットに手をつっこんで、いろいろな眼鏡をとりだし、机においた。
「ほらほら、眼鏡を鼻にかけなさいな、眼鏡を鼻にかけなさいな、目玉じゃ。——きれいな目玉じゃ!」
 イタリア語をまじえてそう言いながら、なおも眼鏡をだしつづけるので、机の上が一面、みょうにぴかぴかしはじめた。たくさんの目玉がにナターナエルのほうをじっと見つめて、きらめいていた。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

  • エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマン=作 畦上司(あぜがみ・つかさ)=訳 「砂男」 江河徹=編 『ファンタスティックな恋の話』 幻想文学館5 くもん出版 1989/08

(J3) 福井+斎藤 1985
「晴雨計にはご用がないと。それじゃ、きれいな目玉はいかがかね。きれいな目玉は。」
 しゃがれ声でこういった。ナタナエルはとびあがった。
「ばかな! 目玉なんかもち歩けるわけがないじゃないか。」
 コッポラはそそくさと晴雨計をわきにおき、上着のポケットからなん種類ものめがねをとりだした。
「さあ、さあ、あっとおどろく鼻めがね。すてきな目玉、きれいな目玉。」
 そんなことをいいながら、どんどんめがねをならべたものだから、ナタナエルのつくえの上はめがねでいっぱいになり、それらがいっせいにキラキラ光りはじめた。なん千という目玉が、ナタナエルをじっと見つめる。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

  • ホフマン=作 福井信子+斎藤夏野(さいとう・なつの)=文 「砂男」 ハウフ〔ほか〕=作 『ゆうれい船』 怪奇シリーズ ポプラ社文庫 1985/08

(J4) 池内 1984
 「晴雨計はいらんとな! ——ならば目玉はどうかな——きれいな目玉だがな!」
 ナタナエルは仰天(ぎょうてん)した。
 「ばかなことを——どうして目玉が売れるんだね?」
 コッポラはいそいで晴雨計をわきに置くと、だぶだぶの上衣のポケットに手を入れ、柄(え)つき眼鏡(めがね)やら普通の眼鏡やらを取り出してナタナエルの机の上に並べはじめた。
 「ほうら、ほら、鼻にかけるとよく見える——とてもすてきな目玉だよ!」
 そんなことを言いながら次々と取り出しては並べていく。みるまに机の上が異様にピカピカ光りはじめた。数知れない目がギラリと輝き、おりおり烈しく目ばたきしながらナタナエルを凝視している。

  • ホフマン=著 池内紀=訳 「砂男」 池内紀=編訳 『ホフマン短篇集』 岩波文庫 1984/09

(J5) 谷村 1980, 1981
 「いや、晴雨計じゃナイです、晴雨計じゃナイです!——シュばらしいおめめでございます——シュばらしいおめめ!」
 ぎょっとしてナターナエルは叫んだ。
 「気でも狂ったのか、どうしてきみが眼を持ってるんだ?——眼——眼を持ってるだって?——」
 するとコッポラはあっという間に晴雨計類をわきへよけて、大きな上着のポケットに手をつっこみ、柄つき眼鏡や耳掛け眼鏡を取り出して、これらをテーブルに並べた。
 「シャあ——シャあ——眼鏡——眼鏡を鼻に載シェてくだシャい、これわたしのおめめでシュ——シュばらしいおめめ!」
 そう言いながら彼はどんどん眼鏡を取り出した。そのためテーブル全体が奇妙にキラキラ閃きはじめた。無数の眼が輝き、ピクッピクッとけいれんし、じっとナターナエルを見上げていた。[以下略]


(J6) 中野 1979
「あい、晴雨計じゃねえ、晴雨計じゃねえ!——目玉もあるだよ——きれいな目玉だでよ!」——
 驚愕してナターナエルは叫んだ。
「ばか者め、目玉なぞあるわけがあるか——目玉——目玉だと?」
 しかしすでにそのときコッポラは晴雨計をわきに置いて、大きな上着のポケットに手をつっこみ、柄付きめがね(ロルニエット)だのその他のめがね類をとりだし、机の上に並べだしていた。
「ほれ——ほれ——めがねだ——鼻にのせるめがねだがね、これがわしの目玉だ——きれいな目玉ださ!」——
 そう言って次から次からいくらでもめがねをとり出すので、机の上全部があやしくキラキラピカピカ光り始めた。無数の目がぎらぎら光りふるえてナターナエルを見つめていたが[以下略]

  • ホフマン=著 中野孝次(なかの・こうじ)=訳 「砂男」 『世界中短編名作集』 世界文学全集46(全50巻) 学習研究社(学研) 1979/08/01

(J7) 種村 1979, 1988, etc.
「おや、晴雨計買わない。買わないあるネ!——きれいなおめめもあるよ——きれいなおめめネ!」——
 ナタナエルは胆を潰して叫んだ。「気違いめ、どうやって目玉なんか手に入れたんだ?——目——目玉だって?」
 するとコッポラは咄嗟(とっさ)に晴雨計を片づけて、大きな上着のポケットに手を突っ込み、柄付き眼鏡(ロルニエット)だの、掛け眼鏡だのをどっさり取り出して、テーブルの上に並べてみせた。——
「さあて——ほら——眼鏡あるよ——眼鏡鼻上のせるね、これ私のおめめあるネ——きれいなおめめネ!」——
 そう言ってコッポラはこれでもかこれでもかとばかり眼鏡を取り出してくるので、しまいにテーブルの上はすっかり、キラキラピカピカと妖しい光をはなちはじめた何十何百という眼がひきつるようにぎらぎらと輝き、それがナタナエルの方をいっせいに見詰めているのだ。


(J8) 大島 1976
「ほう、晴雨計はいらん、晴雨計はいらんとね!——だが、きれいな眼ん玉も持ってるぞ——きれいな眼ん玉もな!」
 ナタニエルはぎょっとして叫んだ。
「なにを馬鹿な、どうして眼玉なんぞを?——眼玉——眼玉を?」
 しかしそのときにはもうコッポラは晴雨計をわきにのけて、大きな上衣のポケットに手を入れて柄つき眼鏡だのふつうの眼鏡だのをとりだし、テーブルに並べはじめた。
「さあ——さあ——眼鏡だ——眼鏡を鼻にのせてみるがいい、これがわしの眼ん玉じゃ——きれいな眼ん玉!」
 こう言いながらも次から次へと眼鏡をとりだすので、テーブルの上は一面にきらきらと異様に光りはじめた。無数の目がナターナエルをにらんでぎろぎろと輝き、痙攣するようにまばたく。


(J9) 深田 1971
「ほう、晴雨計は要らんのかね、晴雨計は要らんというのかね!——きれいな眼ん玉もありますがね——きれいな眼ん玉もね!」——ナターナエルはびっくりして叫んだ、「気ちがいじみたひとだね、あんたって、眼だまなんかどうして手に入れられるものか——眼だま——眼だまなんかが——」。ところがこのとき、コッポラはもう晴雨計をかたわらに置いて、上衣のおおきなポケットに手をつっこみ、柄つきの眼鏡だの、ふつうの眼鏡だのをとりだし、テーブルのうえに並べた。——「さあ——さあ——眼鏡——眼鏡を鼻にかけてみんさい、こいつがわしの眼ん玉ですがね——きれいな眼ん玉ですがね!」——こんなことを言いながら、つぎからつぎにいくつも眼鏡をとりだすので、テーブルのうえ一面が異様にきらきら、ぴかぴか閃きはじめた。幾千もの眼だまがナターナエルを視つめ、痙攣するようにひくひくうごき、じっと凝視していた。


(J10) 吉田 1961
「晴雨計じゃありません。きれいな目玉もありますぞ」
 ナターナエルは仰天して、「ばかなことを! 目玉なんかどうして売ろうというんだ?」
 ところが、そう言われてコポラは晴雨計をそばへ置き、上衣の大きなポケットをさぐって、柄付(えつき)めがねや普通のめがねをとり出し、テーブルに並べた。「さあ、めがねです。鼻の上におかけなされ、それが私(わし)の目玉じゃ、きれいな目玉じゃ」
 と言いながら、きりもなく眼鏡をとり出した。そのため、机の上は異様にちらちら、きらきらと光りはじめ、無数の目玉はびくびくとうごいて、ナターナエルをにらんだ。


(J11) 石丸 1952
「ほう、晴雨計はいらん、晴雨計はいらんとね! ——上等の眼玉もありますぜ、上等の眼玉も!」
 ナターナエルは驚いて叫んだ。
「ばかな男だ、眼玉がどうして賣られるんだ? ——眼玉が——眼玉が——」
 しかしこのとき、コッポラは、もう晴雨計を傍へ置いて、だぶだぶの上衣のポケットの中へ手を突つこんで、柄附眼鏡やいろんな眼鏡を取りだして、机のうへにおいた。
「さあ——さあ——この眼鏡——この眼鏡を鼻にかけてみなさい。これがわしの眼玉ぢや——上等の眼玉ぢやよ!」
 かういひながら幾らでも次々に眼鏡を取りだすので、机のうへぜんたいが異様にきらめき輝きはじめた。無數の眼がぎらぎらと光つてナターナエルのはうを睨んでいる。

  • E・T・A・ホフマン=作 石丸静雄(いしまる・しずお)=訳 「砂鬼」 『ホフマン物語』 新潮文庫 1952/02/28

(J12) 吉田 1948
「いえ、晴雨計ぢやごわせん。きれいな眼玉の持合せもごわす。」
 驚いたナターナエルは叫んだ。
「馬鹿なことを。眼玉なぞどうして賣らうと云ふんだ? 眼玉だと、眼玉だと——」
 その時、コポラは晴雨計を傍(かたはら)へ置き、廣い上衣のポケットを探つて柄付双眼鏡や眼鏡を取り出して、机の上に置いた。
「さ、さ、眼鏡、鼻の上に眼鏡をかける、それが私の眼玉、きれいな眼玉で……」
 と云ひ乍ら彼はひつきりなしに眼鏡をとり出したから、机の上は奇妙にキラ/\チラ/\し始めた。無數の眼玉は光つてビク/\と痙攣し、ナターナエルを睨んだ。


(J13) 木暮 1947
 「まあまあ、晴雨計ぢやありまちえん。晴雨計ぢやありまちえんよ!——うつくちえ眼ももつてゐます。——うつくちえ眼も!」
 ナタニエルは驚いて、叫んだ。
 「あんたは氣狂だ。どうして眼を持つてゐるんです?——眼——眼ですつて?」
 しかし、この瞬間に、コツポーラは晴雨計をわきにおしやつて、廣い上衣のポケットに手をつつこんで、柄つきの片眼鏡や眼鏡をとりだして、テーブルの上においた。
 「さあ——さあ——眼鏡——眼鏡を鼻の上にかけて。これがわたしの眼鏡——うつくちえ眼鏡!」
 かういつて、彼は眼鏡をつぎからつぎと取りだして、テーブルの上は奇妙にきらきらしはじめた。數知れぬ眼鏡がナタニエルのはうをみやり、痙攣的にふるへながらぢつて見つめたのだ。

  • ホフマン=作 木暮亮(こぐれ・りょう)=譯 『砂男』 青磁選書 青磁社 1947/08

(J14) 江戸川 1929
■ルビを省いたテキスト
「晴雨計では御座いません。旦那。眼球です。立派な眼球です。」
 ナタニエルは愕いた。
「何だ。氣狂め! どうして貴様は眼球を賣りあるけるのだ。眼球を、どうして——」
 が、併しその瞬間に、コッポラは晴雨計を傍の方へ片付け、大きな上衣のポケットに手を突込んで、片眼鏡や隻眼鏡を掴み出し、それを卓子の上に竝べた。
「さあ、さあ、眼球だ——眼球は鼻の上だ。——手前の眼球は飛切り上等だ。」
 かう口上を述べながら、彼は後から/\と眼鏡を掴み出した。卓子の上は一面に奇妙な光りを放ち、數千の眼が痙攣的に慄へてナタニエルを凝然と見詰め始めた。

■原文: 以下のとおり総ルビ
「晴雨計(せいうけい)では御座(ござ)いません。旦那(だんな)。眼球(めだま)です。立派(りつぱ)な眼球(めだま)です。」
 ナタニエルは愕(おどろ)いた。
「何(なん)だ。氣狂(きちがひ)め! どうして貴様(きさま)は眼球(めだま)を賣(う)りあるけるのだ。眼球(めだま)を、どうして——」
 が、併(しか)しその瞬間(しゆんかん)に、コッポラは晴雨計(せいうけい)を傍(わき)の方(はう)へ片付(かたづ)け、大(おほ)きな上衣(うはぎ)のポケットに手(て)を突込(つきこ)んで、片眼鏡(かためがね)や隻眼鏡(さうがんきやう)を掴(つか)み出(だ)し、それを卓子(テーブル)の上(うへ)に竝(なら)べた。
「さあ、さあ、眼球(めだま)だ——眼球(めだま)は鼻(はな)の上(うへ)だ。——手前(てまへ)の眼球(めだま)は飛切(とびき)り上等(じやうとう)だ。」
 かう口上(こうじやう)を述(の)べながら、彼(かれ)は後(あと)から/\と眼鏡(めがね)を掴(つか)み出(だ)した。卓子(テーブル)の上(うへ)は一面(めん)に奇妙(きめう)な光(ひか)りを放(はな)ち、數千(すうせん)の眼(め)が痙攣的(けいれんてき)に慄(ふる)へてナタニエルを凝然(じつ)と見詰(みつ)め始(はじ)めた。


(J15) 向原 1927, 1975, etc.
——「晴雨計ではございません。旦那。眼球(めだま)です。立派な眼球です。」
 ナタナエルは愕(おどろ)いた。
——「何だ。気狂(きちがい)め! どうして貴様は眼球を売りあるけるのだ。眼球を、どうして——」
 が、しかしその瞬間に、コッポラは晴雨計を傍(わき)の方へ片づけ、大きな上衣のポケットに手を突込んで、片眼鏡や双眼鏡を掴み出し、それを卓子(テーブル)の上に並べた。
——「さあ、さあ、眼球だ——眼球は鼻の上だ。——手前の眼球は飛切り上等だ。」
 こう口上を述べながら、彼は後から後からと眼鏡を掴み出した。卓子の上は一面に奇妙な光を放ち、数千の眼が痙攣(けいれん)的に慄えてナタナエルを凝然(じっ)と見詰め始めた。

  • E・T・A・ホフマン=作 向原明=訳 「砂男」
  • 初出は c. 1927/08。引用は a. 新装版 1991/09 に拠りました。この訳は、一見したところ、用字・仮名遣いなどの細部を除いて、上の江戸川亂歩=譯と同文です。向原訳と乱歩訳の関係は? ご存じの方はご教示ください。

■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese

"Ah, não, barômetro, não, barômetro, não! Mas tenho olhos, belli occhi!"

Chocado. Natanael gritou: "Homem louco, como pode vender olhos? Olhos, olhos?"

Mas nesse instante Coppola havia posto de lado os seus barômetros. Botou a mão no bolso do sobretudo e tirou de lá lornhões e óculos, levando-os à mesa.

"Aqui, aqui — óculos, óculos para o nariz, meus olhos, belli occhi!" E sacava cada vez mais óculos e lunetas que, entrecruzando-se, provocavam um brilho ofuscante e estranho. Milhares de olhos olhavam e piscavam convulsivamente, dardejando Natanael; ( . . . )


 Audio 1 
英語版オーディオブック(朗読) Audiobook in English

下の引用箇所の朗読は 57:37 から始まります。 Uploaded to YouTube by Free Audio Books for Intellectual Exercise on 19 Dec 2014. Reading of the excerpt below starts at 57:37.


■英訳 Translations into English

(E1) Bealby, 1885
"What! Nee weather-gless? Nee weather-gless? 've got foine oyes as well — foine oyes!"

Affrighted, Nathanael cried, "You stupid man, how can you have eyes? — eyes — eyes?"

But Coppola, laying aside his weather-glasses, thrust his hands into his big coat-pockets and brought out several spy-glasses and spectacles, and put them on the table.

"Theer! Theer! Spect'cles! Spect'cles to put 'n nose! Them's my oyes — foine oyes." And he continued to produce more and more spectacles from his pockets until the table began to gleam and flash all over. Thousands of eyes were looking and blinking convulsively, ( . . . ) 

  • The Sand-Man (1817) by Ernst T.W. Hoffmann. From Weird Tales, Volume One of Two. Translated by J.T. Bealby, B.A. Charles Scribner's Sons, New York (1885)
  • "The Sand-Man" forms the first of a series of tales called "The Night-Pieces," which were published in 1817.
  • E-text at Gaslight

(E2) Oxenford,  1844
'Eh, eh - no barometer - no barometer?' he said in a hoarse voice, 'I have pretty eyes too - pretty eyes!'

'Madman!' cried Nathaniel in horror. 'How can you have eyes? Eyes?'

But Coppola had already put his barometer aside and plunged his hand into his wide coat-pocket, whence he drew lorgnettes and spectacles, which he placed upon the table.

'There - there - spectacles on the nose, those are my eyes - pretty eyes!' he gabbled, drawing out more and more spectacles, until the whole table began to glisten and sparkle in the most extraordinary manner. A thousand eyes stared and quivered, their gaze fixed upon Nathaniel (....)


 Audio 2 
ドイツ語原文のオーディオブック(朗読) Audiobook in German

下の引用箇所の朗読は 1:00:27 から始まります。 Uploaded to YouTube by SoundtalesProduction on 14 Feb 2012. Reading of the excerpt below starts at 1:00:27.


■ドイツ語原文 The original text in German

»Ei, nix Wetterglas, nix Wetterglas! – hab auch sköne Oke – sköne Oke!«

– Entsetzt rief Nathanael: »Toller Mensch, wie kannst du Augen haben? – Augen – Augen? –«

Aber in dem Augenblick hatte Coppola seine Wettergläser beiseite gesetzt, griff in die weiten Rocktaschen und holte Lorgnetten und Brillen heraus, die er auf den Tisch legte. –

»Nu – Nu – Brill – Brill auf der Nas su setze, das sein meine Oke – sköne Oke!« – Und damit holte er immer mehr und mehr Brillen heraus, so, daß es auf dem ganzen Tisch seltsam zu flimmern und zu funkeln begann. Tausend Augen blickten und zuckten krampfhaft und starrten auf zum Nathanael; [Omission]


■タイトル Der Sandmann / The Sandman について

この作品の邦題は「砂男」とするのが定訳のようです。けれども、英単語 "sandman" はふつう「眠りの精」とか「睡魔」と訳されます。ドイツ語はよく存じませんが、"Sandmann" もおそらく同様ではないでしょうか。

「眠りの精」にせよ「睡魔」にせよ、その意味するところは「目の中に砂を入れて子供たちを眠くするという民話・おとぎ話中の人物」のことです。イギリス英語では "dustman" とも言うようです。英和辞典には、つぎのような例文が出ています。

   The sandman has come. 眠くなってきた。
   The sandman is coming. そろそろおねむだ。
   The dustman's coming. ああ眠い。

上に引用したホフマンの作品でも、小説の初めのほうで「眠りの精」のことが語られています。いまさら「砂男」という邦題が、誤訳であるとか不適切であるとか言うつもりはありません。けれども、Sandmann/Sandman という言葉の背景には、ゆたかな民間伝承があることを知っておくのは、無駄ではないと思います。

   参考:


■Mr. Sandman という曲について

Pat Ballard の作詞・作曲による、"Mr. Sandman" という曲があります。1950年代にヒットし、以来、数多くのアーティストが録音している、ポップスのスタンダード・ナンバーです。その歌詞は、深読みするといろいろな解釈ができるらしいです。しかし、"sandman" という単語にかぎっていえば、歌の内容から、とりあえずやはり「眠りの妖精」を指すことがわかります。

この曲を録音した、合計50ちかいアーティスト名の一覧は、Mr. Sandman - Wikipedia のページの下のほうで見ることできます。その一部を挙げると、つぎの通り。

  • The Andrews Sisters
  • Chordettes
  • Chet Atkins
  • Blind Guardian
  • Max Bygraves
  • The Crusaders
  • Diana Ross & The Supremes
  • The Four Aces
  • Marvin Gaye
  • Les Paul and Mary Ford
  • Linda Ronstadt

■更新履歴 Change log

  • 2016/03/09 英語版オーディオブックを追加しました
  • 2014/04/16 谷村義一=訳 1981/06/01  を追加しました。
  • 2014/03/29 石丸静雄=訳 1952/02/28 を追加しました。
  • 2014/03/17 目次を新設し、大島かおり=訳 2014/01/20 を追加しました。
  • 2013/04/14 ポール・ベリー監督の短編アニメ映画と、ドイツ語原文オーディオブックの計2本の YouTube 画面を追加しました。
  • 2012/08/27 ポルトガル語訳を追加しました。
  • 2012/04/22 中野孝次=訳 1979/08/01 を追加しました。
  • 2008/02/15 「Mr. Sandman という曲について」の項を別立てにしました。
  • 2008/02/09 「タイトル Der Sandmann / The Sandman について」の項を新設しました。
  • 2007/04/21 深田甫=訳 1971/11 を追加しました。

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Saturday, 14 April 2007

Le Monstre Verte / The Green Monster by Gérard de Nerval ネルヴァル「緑の怪物」「緑色の怪物」

■表紙画像と肖像写真 Cover photos and a portrait

187398287901 Le20monstre20vert_2 443pxgc3a9rard_de_nerval_1
↑ Click to enlarge ↑

Left The Dedalus Book of French Horror: The 19th Century (1998).  The table of contents is here.
Centre La Dimension Fantastique (1997).  The table of contents is here.
Right Gerard de Nerval (1808-1855), portrait by Nadar (1820-1910), around 1854.  Image source: Wikipedia


■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 中村 1999
 それから、隊長は、その場の光景の陽気さと面白さに、段々と図々しくなり、見たところ、薄色ボルドー葡萄酒らしく、首が長い、赤い封印が入念にしてある可愛い罎を一本拾いあげ、その罎を胸に恋人のように抱きしめました。
 四方八方から、狂ったような笑い声が起りました。隊長は、とまどって、思わずその罎を落してしまい、それは粉々に割れてしまいました。
 舞踏は中止され、恐怖の叫び声が、酒倉の四方八方で聞えました。隊長は、流れ出た葡萄酒が血潮の沼になってゆくのを見て、頭の髪が逆立つのを感じました。
 裸の女の体が、彼の足もとに横たわっており、その金髪の髪は地面に拡がり、酒にひたされていたのです。

   ネルヴァル=著 中村真一郎=訳 「緑の怪物」
   『ネルヴァル全集4 幻視と綺想
   筑摩書房 1999/04 所収


(2) 内田 1990
 その場の陽気さと雰囲気にだんだん溶け込み、恐怖心も消えて、首がほっそりとしてあでやかな、そして、見た目に肌白の、丁寧に赤い封蝋がされているボルドー葡萄酒(ぶどうしゅ)の瓶を取り上げ、それを優しく胸に抱きました。
 爆笑がどっとおこり、伍長はびっくりして瓶を落としてしまいました。瓶は粉々に砕けました。
 踊りは中断し、地下室の隅々から恐怖の声が上がりました。床に広がった葡萄酒(ぶどうしゅ)が血の海のようになっていくのを見て、伍長は髪が逆立(さかだ)つのを感じました。
 女の裸体が彼の足元に横たわり、彼女のふさふさとした金髪が床(ゆか)をおおい、こぼれた葡萄酒に垂れていました。

   ネルヴァル=作 内田善孝=訳 「緑の化け物」
   P.—G.カステックス=編
   『ふらんす幻想短篇精華集—冴わたる30の華々(上)』(全2冊)
   透土社 1990/08 所収


(3) 小林 1989
 やがて、軍曹は、ほろ酔いきげんとうき立つような踊りのせいで、しだいに大胆になってきました。ひょろっと首が長くて、どうやらうすい色のワインらしい、しっかり赤の封印がしてあるかわいらしいびんに目がとまると、ふと一本ひろいあげ、やさしく胸にだきしめました。
 どっと、狂ったようなわらい声が、あちこちからあがりました。その拍子に、どぎまぎした軍曹は、思わずびんをはなしました。びんはこなごなに、くだけちりました。
 踊りがやみ、地下室のすみずみに恐怖の叫びがこだましました。どくどく流れだした赤ワインが血の海のように広がり、それを見た軍曹はぞっとなって、髪の毛が逆立つような気分になりました。
 足もとに、女の裸の死体がころがっていました。ブロンドの髪が床にちらばり、血の色をしたワインが、その髪をひたしています。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

   ジェラール・ド・ネルヴァル=作 小林修=訳 「緑の怪物」
   江河徹=編 『恐ろしい幽霊の話』 幻想文学館1 くもん出版 1989/08 所収


(4) 長島 1988
 やがて、その場の陽気で魅力あふれる雰囲気にそそのかされて、軍曹は淡い青色の壜(そのように見えた)の、念入りに赤い封印をした、細長い首の一本をひろいあげると、愛情をこめて胸にだきしめた。
 すると気ちがいじみた笑いがあちこちからきこえた。軍曹は当惑し、思わず壜を落としてしまった。酒壜はこなごなにくだけた。
 踊りがとまり、酒倉の四方八方から恐怖の叫び声がわきおこった。流れ出たぶどう酒が床に血の海をつくるのを見て、軍曹は髪の毛がぞっと逆立つのをおぼえた。
 裸の女の死体が、彼の足もとに横たわっていた。ブロンドの髪は床にひろがり、ぶどう酒の血のなかにつかっている。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

   ジェラール・ド・ネルヴァル=作 長島良三(ながしま・りょうぞう)=訳
   「緑色の怪物」
   長島良三=編 『フランス怪奇小説集
   偕成社文庫 1988/08 所収


(5) 村松 1987
 それからしだいに、魅わく的な光景と、陽気なありさまにのせられて、細長い首の、一本の愛らしいびんを手にとった。それは見たところ、色のあわいボルドー酒のびんで、ていねいに赤い封印がされている。巡査部長は、愛情こめてそのびんを胸におしあてた。
 はじけるような、ばか笑いが、四すみからわきおこり、当わくした巡査部長は、びんをとりおとした。びんはこなごなにくだけちった。
 ダンスは中断し、地下室のすみずみで恐怖のさけびが聞かれた。巡査部長には、ながれたワインが血の海をなしていくように見え、髪がさかだつのをおぼえた。
 ブロンドの髪が地べたにひろがって、液体にひたり、はだかの女の体が、足もとによこたわっていた。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

   ジェラール・ネルヴァル=作 村松定史(むらまつ・さだふみ)=訳
   「緑色の怪物」
   『悪魔の肖像画』 世界こわい話ふしぎな話傑作集18
   金の星社 1987/02 所収


(6) 秋山 1979
 様子が面白そうで、かつは陽気であったため次第に図太くなった彼は、見たところ赤の封印が念入りにされているらしい薄色ボルドー酒の、長頸の形のいかにも愛らしい一本の壜を拾いあげると、愛情たっぷりで自分の胸に抱きしめたのだった。
 四方八方から狂ったような笑い声が湧き上がった。当惑した組頭は壜を取り落し、壜は粉々に砕け散った。
 踊りがはたと止み、恐怖の叫び声が穴倉の四隅に響きわたった。ぶちまけられた葡萄酒が見る見る血の沼のようにひろがってゆくのを見た組頭は、髪の毛が逆立つのを感じていた。
 床に拡がった金髪をその血の沼にひたし、一人の女が裸の屍体となって彼の足もとに横たわっていた。

   ジェラール・ド・ネルヴァル=著 秋山和夫=訳 「緑色の怪物」   
   紀田順一郎+荒俣宏=編 『怪奇幻想の文学5 怪物の時代』(全7巻)
   新人物往来社(新装版)1979/08 所収


(7) 渡辺 1976, 1988
 それから、組頭は、その場の光景が陽気でしたし、魅入(みい)られたようになって、だんだんに図太くなり、見たところ、薄色(うすいろ)ボルドー葡萄酒(ぶどうしゅ)らしく、首が長い、赤い封印が入念にしてある愛くるしい罎一本拾いあげ、その胸に後生大事に抱(だ)きしめました。
 四方八方から、狂ったような笑い声が発せられました。組頭は、当惑(とうわく)して、思わずその罎を落してしまい、それは粉々に、砕(くだ)け散りました。
 舞踏は中止され、恐怖(きょうふ)の叫び声が、酒倉の四方八方で聞えましたが、組頭は、見ると、流れ出た葡萄酒が血潮の沼(ぬま)になってゆくように思われ、頭髪(とうはつ)が逆立つのを感じました。
 裸(はだか)の女の体が、彼の足もとに横たわっており、そのブロンドの頭髪は地面に拡がり、酒にひたされていたのです。

   ネルヴァル=著 渡辺一夫=訳 「緑の物怪(もののけ)」
   * 渡辺一夫〔ほか〕=監修 『ネルヴァル全集3』 筑摩書房 1976/06 所収
   * 安野光雅〔ほか〕=編 『ちくま文学の森7』 筑摩書房 1988/06 に再録
   引用は、1988年版に拠りました。


(8) 澁澤 1969, 1982, etc.
 やがて次第に、ほろ酔い機嫌とその場の陽気な雰囲気に誘われて、大胆になった彼は、そこにあった薄色のボルドー葡萄酒の、念入りに赤い封印をした、頸の長い魅力的な形の一本を拾いあげると、ほれぼれと胸に抱きしめた。
 すると突然、気違いじみた笑い声がまわり中からどっと湧き起り、憲兵隊長はどぎまぎして、瓶を手から取り落した。瓶は粉々に砕け散った。
 踊りがぴたりと止まり、恐怖の叫びが穴倉の四隅に響きわたった。ぶちまけられた葡萄酒が、血の沼のようにひろがるのを見ると、憲兵隊長は髪の毛がぞっと逆立つのをおぼえた。
 彼の足もとには、裸の女の屍体が横たわっていた。その金髪は床にひろがり、葡萄酒の血に浸されていた。

   ジェラール・ド・ネルヴァル=作 澁澤龍彦=訳 「緑色の怪物」
   * 平井呈一=編 『怪奇小説傑作集4』
     創元推理文庫(初版 1969/06|新版 2006/07)所収
   * 『仏蘭西短篇飜訳集成1』 立風書房 1982/03 に再録
   * 『澁澤龍彦翻訳全集11』 怪奇小説傑作集4 他(全15巻・別巻1)
     河出書房新社 1997/09 にも再録


■Paris Tales: Stories translated by Helen Constantine


■英訳 Translation into English

Then, made more and more bold by this gay and charming spectacle, he picked up a beautiful bottle with a long neck, a pale Bordeaux it seemed, elegantly sealed in red, and pressed it amorously to his breast.

There was frenzied laughter throughout the cellar. The sergeant, much intrigued, le the bottle drop and it smashed into a thousand pieces.

The dancing stopped, cries of fear could be heard from every corner of the cellar, and the sergeant felt his hair stand on end as he watched the spilt wine turn into a pool of blood before his very eyes.

The body of a naked woman, her blonde hair soaked in the wet blood, was lying spread out on the floor at his feet.

   The Green Monster by Gérard de Nerval
   Paris Tales, Stories translated by Helen Constantine
   Oxford University Press, 2004
   Preview at Google Books


■フランス語原文 The original text in French

Puis, de plus en plus encouragé par gaieté et le charme du spectacle, il ramassa une aimable bouteille à long goulot d'un bordeau pâle, comme il paraissait, et soigneusement cachetée de rouge, et la pressa amoureusement sur son coeur.

Des rires frénétiques partirent de tous côtés : le sergent, intrigué, laissa tomber la bouteille, qui se brisa en mille morceaux.

La danse s'arrêta, des cris d'effroi se firent entendre dans tous les coins de la cave, et le sergent sentit ses cheveux se dresser en voyant que le vin répandu paraissait former une mare de sang.

Le corps d'une femme nue, dont les cheveux blonds se répandaient à terre et trempaient dans l'humidité, était étendu sous ses pieds.

   Le Monstre Vert by Gérard de Nerval
   E-text at Erik's Ponderings


■Le sergent とは?

上にご覧のとおり、"Le sergent" の日本語訳は、訳者によってバラバラです。はたして、どれが適訳なのでしょうか?

   軍 曹    小林 修 =訳 1989
   軍 曹    長島 良三=訳 1988
   憲兵隊長  澁澤 龍彦=訳 1969, 1982, 1997, 2006
   伍 長    内田 善孝=訳 1990
   巡査部長  村松 定史=訳 1987
   組 頭    秋山 和夫=訳 1979
   組 頭    渡辺 一夫=訳 1976, 1988
   隊 長    中村真一郎=訳 1999


■更新履歴 Change log

2011/01/19 Paris Tales のEブックと英訳を追加しました。
2007/06/18 内田善孝=訳 1990/08 を追加しました。
2007/06/04 村松定史=訳 1987/02 を追加しました。また、
         「Le sergent とは?」の項目を新設しました。


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Friday, 13 April 2007

Le secret de l'echaufaud by Auguste de Villiers de L'Isle-Adam ヴィリエ・ド・リラダン「断頭台の秘密」

■肖像写真と本の表紙 A portrait and a book cover
a. Via b. Lisleadama17623176238

a. Jean-Marie-Mathias-Philippe-Auguste, comte de Villiers de L'Isle-Adam (1838 - 1889),  Image source Ciudad Seva
b. Le secret de l'echaufaud, a free downloadable e-book at manybooks.net


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 小林 1989
(……)ギロチンの刃が落ちる瞬間、わたしは死刑台のそばに立ち、真正面からきみを見ています。できるだけ早く、きみの首が死刑執行人の手からわたしにわたされる。そこで——実験というものは単純であればあるほど、それだけで信頼のできる、決定的な結論をひきだしてくれるものです——、わたしは、きみの耳もとで、はっきりこう言います。
『ラ・ポンムレー君、生前の約束を覚えているなら、今この瞬間、左目を大きく開いたまま、右目のまぶたをつづけて三度、とじてみたまえ!』
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

   オーギュスト・ド・ヴィリエ・ド・リラダン=作
   小林修=訳 「死刑台の秘密」
   江河徹=編 『悪夢のような異常な話』 幻想文学館4(全5巻)
   くもん出版 1989/08 所収


(J2) 長島 1988
(……)だが、ギロチンの刃が落下するとき、わしは断頭台にくっつくようにして、きみの正面に立っている。できるだけ早く、きみの首は、死刑執行人の手からわしの手にわたされる。すると、わしはきみの耳もとでごくはっきりとこう叫ぶ。『ド・ラ・ポンムレー君、生前の約束どおり、ただちに、左の目を大きくあけたまま、右のまぶたを三度つづけて(#「三度つづけて」に傍点)とじたまえ』
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

   ヴィリエ・ド・リラダン=作 長島良三(ながしま・りょうぞう)=訳
   「断頭台の秘密」
   『フランス怪奇小説集』 偕成社文庫 1988/08 所収


(J3) 渡辺 1952, 1963, etc.
(……)だが、断頭台の刃物(はもの)が落下する際に、拙者は、その場に、つまり、機械の側に立って、あんたの前のところに居ますがな。できるだけ早く、あんたの首は、死刑執行人の手から拙者の手に渡されますのじゃ。そして、その時、——そもそも実験と申すものは、それが単純である場合のみ、整然と行われかつまた十分に結果も出し得るものなのだが、——、拙者は、あんたの耳元で極めてはっきりと、こう叫びますぞ。「クゥチー・ド・ラ・ポンムレー君、生前の約束通りに、今すぐ(#「今すぐ」に傍点)、左の目を大きく開けたまま、右の眼蓋(まぶた)を三度続けて閉じられるかな?」とな。(#「三度続けて閉じられるかな」に傍点)

   ヴィリエ・ド・リラダン=作 渡辺一夫=訳 「断頭台の秘密」
   * 『リイルアダン短篇集(上)』 岩波文庫 1952 所収
   * 鈴木信太郎+渡辺一夫=編
     『世界短篇文学全集6 フランス文学/19世紀
     集英社 1963/01 に再録
   * 安野光雅〔ほか〕=編 『ちくま文学の森7 恐ろしい話
     筑摩書房 1988/06 にも再録


■英訳 Translation into English

[Omission] But as the blade falls I shall be standing there in person, facing you and the machine. As quickly as possible, your head will be passed from the hands of the executioner into mine. And then–the experiment is all the more serious and conclusive by reason of its simplicity–I will cry out to you, very distinctly, in your ear: ‘Monsieur Couty de la Pommerais, in memory of our conversations during life, can you, at this moment, lower your right eyelid three times in succession while keeping the other eye wide open?’

   The Secret of the Scaffold by Villiers de L'Isle-Adam
   E-text at The Secret of the Scaffold - Black Coat Press [PDF]


■スペイン語訳 Translation into Spanish

... Pero a la caída de la cuchilla, yo, yo es-taré allí, de pie, frente a usted, junto a la má-quina. Su cabeza pasará de manos del ejecutora las mías lo más pronto posible. Y entonces, como el experimento no puede ser serio y con-cluyente más que por su misma simplicidad,yo le gritaré, muy distintamente, al oído: "Se-ñor Couty de la Pommerais, en recuerdo de loconvenido en vida, ¿puede usted, en este mo-mento, bajar tres veces seguidas el párpado de suojo derecho manteniendo el otro ojo totalmen-te abierto?

   El secreto del cadalso
   Historias insólitas by Villiers de L'Îsle-Adam, Philippe-Auguste
   E-text at Scribd


■フランス語原文 The original text in French

... Mais au tomber du couteau, je serai là, moi, debout, en face de vous, contre la machine. Aussi vite que possible, votre tête passera des mains de l’exécuteur entre les miennes. Et alors — l’expérience ne pouvant être sérieuse et concluante qu’en raison de sa simplicité même — je vous crierai, très distinctement, à l’oreille : — « Monsieur Couty de La Pommerais, en souvenir de nos conventions pendant la vie, pouvez-vous, en ce moment, abaisser, trois fois de suite, la paupière de votre œil droit en maintenant l’autre œil tout grand ouvert ? »

   Le secret de l'échafaud (1888), by Auguste de Villiers de L'Isle-Adam
   E-text at Project Gutenberg


■外部リンク External links

 [fr] Français
   * Auguste de Villiers de L'Isle-Adam - Wikipédia (1838-1889)

 [en] English
   * Auguste Villiers de l'Isle-Adam - Wikipedia (1838-1889)

 [ja] 日本語
   * オーギュスト・ヴィリエ・ド・リラダン - Wikipedia (1838-1889)


■更新履歴 Change log

2012/08/14 英訳とスペイン語訳を追加しました。また、外部リンクの項を新設
         しました。
2007/04/14 長島良三=訳 1988/08 を追加しました。


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Thursday, 12 April 2007

野田高梧+小津安二郎 『東京物語』 (1) Tokyo Monogatari a.k.a. Tokyo Story by Kogo Noda & Yasujiro Ozu (1)

« 東京物語 2 »
« Tokyo Story 2 »

■歴代名作映画ランキング、監督が選ぶ作品1位は「東京物語」


 Video 1 
ニューヨーク・タイムズ紙の映画批評家が選ぶ1本 『東京物語』 (1953)
New York Times Critics' Picks: 'Tokyo Story'

Uploaded to YouTube by The New York Times on 28 Sep 2010


 Video 2 
東京物語(全編) Tokyo Monogatari (1953) (complete)

下に引用する台詞は 2:08:40 から始まります。Uploaded to YouTube by Withnail on 19 Jul 2014. The lines quoted below start at 2:08:40.


■英語字幕 Subtitles in English

(11) NORIKO:  I'm not the nice woman she thought I was. It embarrasses me that you should think of me like that.

(12) SHUKICHI:  Well, it shouldn't.

(13) NORIKO:  Really, I can be quite selfish. I'm not always thinking of your late son, though you may think I am.

(14) SHUKICHI:  You should just forget him.

(15) NORIKO:  Often, there are days when I don't think of him at all. Sometimes I feel I can't go on like this forever. Often I lay awake at night wondering what will become of me if I remain alone. Days pass and nothing happens, and I feel so alone. In my heart, I seem to be waiting for something. -- I'm just being selfish.

(16) SHUKICHI:  No, you're not.

(17) NORIKO:  Yes, I am. But I couldn't say this to mother.

(18) SHUKICHI:  That's all right. You truly are a good woman. An honest woman.

  • Source: Transcribed by tomoki y. from  Video 2  above.

■監督使用台本 The director's own shooting script

(11) 紀子「いゝえ。あたくし、そんな、おつしやるほどのいゝ人間ぢやありません。お父さまにまでそんな風に思つて頂いたら、あたくしの方こそ却つて心苦しくつて……」

(12) 周吉「いやア、そんなこたアない」

(13) 紀子「いゝえ、さうなんです。あたくし猾いんです。お父さまやお母さまが思つてらつしやるほど、さういつも/\昌二さんのことばつかり考へてるわけぢやありません」

(14) 周吉「えゝんじやよ、忘れてくれて」〔台本「いやア、忘れてくれてえゝんじやよ」〕

(15) 紀子「でもこのごろ、(目下げて)思ひ出さない日さへあるんです。忘れてる日が多いんです。あたくし、いつまでもこのまゝぢやゐられないやうな気もするんです。このまゝかうして一人でゐたら、一体どうなるんだらうなんて、ふツと夜中に考へたりすることがあるんです。一日一日が何事もなく過ぎてゆくのがとても寂しいんです。どこか心の隅で何かを待つてるんです。——猾いんです」

(16) 周吉「いやア、猾うはない」

(17) 紀子「いゝえ、猾いんです。(目に泪)さういふことお母さまには申上げられなかつたんです」

(18) 周吉「——えゝんぢやよ。それで。——やつぱりあんたはえゝ人ぢやよ、正直で……」

   【スタッフ抜粋】 脚本:野田 高梧
               小津安二郎
            監督:小津安二郎

   【キャスト抜粋】 人物:平山 周吉 (70) ……笠 智衆
                  とみ (67) ……東山千栄子
               平山 紀子 (28) ……原 節子

  • 「東京物語」 監督使用台本 小津安二郎=著 田中真澄=編 『小津安二郎「東京物語」ほか』 大人の本棚 みすず書房 2001/12 所収
  • 上掲書の「凡例」から引用します。
    • 本書に収録されているのは、「東京物語」(公開1953年)撮影時に小津安二郎が使用した台本(活版・紐綴じ)であり、遺族より川喜多記念映画文化財団に寄託されているものである(以下、監督使用台本)。同じく同財団に寄託の、表紙に「訂正済み」と記された同じ版の台本(以下、校正台本)も参照した。
    • 本書全般での統一事項として、漢字については旧字は原則として常用漢字に換え、かなづかい、おどり字については原文通りとしている。
    • 台本の訂正・加筆・メモなど監督自身による文字の書き込みはすべてゴチックで示し、必要に応じて補足説明を〔 〕内に示した。〔 〕内はすべて編者の記述である。
    • 加筆・挿入において、台詞のなかでの動作の指示は( )で括られていない場合でも( )を加えた。
    • 訂正の場合はゴチック直後の〔 〕内に台本を復元し、線で抹消されていない場合でも( )を加えた。
    • (略)
    • (略)
    • カット割りされ、カット番号が付されたものにはそのカット冒頭行の上欄に (1) (2) と記し、カット割りのみの場合は同じくそのカット冒頭行上欄に▽を記した。(以下略)
    • (略)

 Images 
スチール写真 Still images from the film

↓ クリックして拡大 Click to enlarge ↓

a. 20031121elpepicin_3_i_lbw b. Tokyo_rgb c. Tokyo_story


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2014/12/03 英語字幕の項を追加しました。
  • 2012/08/04 歴代名作映画ランキング、監督が選ぶ作品1位は「東京物語」の項を新設しました。
  • 2009/06/10 『東京物語』 (1953) 予告編のYouTube動画を追加しました。また、このブログ記事のタイトルを次のとおり変更しました:
    • 旧題: 野田高梧+小津安二郎『東京物語』
          Tokyo Story by Kogo Noda & Yasujiro Ozu
    • 新題: 野田高梧+小津安二郎『東京物語』 Tokyo Monogatari
          a.k.a. Tokyo Story by Kogo Noda & Yasujiro Ozu

 

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Monday, 09 April 2007

The Adventures of Huckleberry Finn by Mark Twain (2) マーク・トウェイン 『ハックルベリー・フィンの冒険』 (2)

« 1 The Adventures of Huckleberry Finn »
« 1 ハックルベリー・フィンの冒険 »

1からつづく]

        目次 Table of Contents

 Images  表紙画像 Cover photos
■中国語訳(簡体字)Translation into simplified Chinese
■中國語譯(繁體字)Translation into traditional Chinese
■日本語訳 Translations into Japanese
  (J1) 土屋 2014
  (J2) 訳者未確認 2005
  (J3) 加島 2001
  (J4) 大久保 1999, 2004
  (J5) 勝浦 1998
  (J6) 大塚 1997
  (J7) 斉藤 1996
  (J8) 山本 1996
  (J9) 渡辺 1980, 1991
  (J10) 大岩 1979
  (J11) 加島 1979
  (J12) 西田 1977
  (J13) 久保田 1976
  (J14) 野崎 1971, 1976
  (J15) 西村 1970
  (J16) 刈田 1969
  (J17) 小島 1966, 1993
  (J18) 斎藤 1962
  (J19) 石川 1958, 1966, etc.
  (J20) 村岡 1959
[ここまでは1

[2はここから]
  (J21) 吉田 1956, 1976, etc.
  (J22) 佐々木 1951
  (J23) 中村 1941, 1950
  (J24) その他
■ロシア語訳 Translation into Russian
■ウクライナ語訳 Translation into Ukrainian
■ブルガリア語訳 Translation into Bulgarian
■ドイツ語訳 Translation into German
■イタリア語訳 Translation into Italian
■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese
■カタルーニャ語訳(カタロニア語訳) Translation into Catalan
■スペイン語訳 Translation into Spanish
■フランス語訳(部分) Translation into French (fragmental)
 Audio 1  朗読: ジョン・グリーンマン Audiobook read by John Greenman
 Audio 2  朗読: アニー・コールマン Audiobook read by Annie Coleman Rothenberg
 Audio 3  朗読: マーク・F・スミス Videobook read by Mark F. Smith
■英語原文 The original text in English
■邦題の異同 Variations of the title in Japanese
■Mark Twainの日本語表記の異同 Transliteration variations of "Mark Twain" in Japanese
■一人称 First-person pronouns (What does Huck Finn call himself in Japanese?)
■更新履歴 Change log


(J21) 吉田 1956, 1976, etc.
 わたしは、苦しい立場であった。わたしは、その手紙をつまみあげた。わたしは、ぶるぶるふるえた。二つのうち、どちらをとるか、なんとしてもきめなければならないからだ。わたしは、息をこらして、ちょっと考えていたが、すぐ、自分に言った。
「こうなりゃ、やぶれかぶれだ、地獄にいこう。」——そう言って、わたしは、その紙きれをやぶいてしまった。
 それはおそろしい考えだった。またおそろしいことばであった。だが、わたしはそう言ったのだ。そして、言ったまま、とり消しはしなかった。言いあらためようなどとは、考えてもみなかった。わたしは、そんなことを考えないことにしたのだ。そして、わたしは、やはりばちあたりな暮らしをつづけよう。そういうふうに、そだったのだから、そういう暮らしこそわたしのがらにあっているのだ。りっぱな生活は、わたしにはむかないのだ、とそう言った。そして、その手はじめに、ジムをまた、こっそり奴隷の身からぬけださしてやるしごとにとりかかろう。そのうえで、もっと悪いことを考えつけたら、それもやってのけよう。毒を食らわば、皿までだ。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

   * マーク・ツウェーン=作 吉田甲子太郎(よしだ・きねたろう)=訳   
    「ハックルベリー・フィンの冒険」
    『世界少年少女文学全集35 アメリカ編5』創元社 1956/11   
   * マーク=トウェイン=作 吉田甲子太郎=訳
    『ハックルベリー=フィンの冒険(下)
    偕成社文庫(初版 1976/11|改訂版 1985/12)に再録
    (ただし、児童向けに、多くの漢字が仮名書きに改められています)


(J22) 佐々木 1951
(……)書いた手紙がそこにあった。ぼくはそれを取り上げて、一読し、身をふるわしながら、
「よろしい、おれはジムのために地獄に落ちよう。自分だけよい子になろうと思えばこそ苦労をするのだ。」
といって、さきやぶってしまった。
[原文は総ルビですが、ここでは省略しました - tomoki y.]

   佐々木邦(ささき・くに)=著
   『ハックルベリーの冒険』 世界名作全集19
   大日本雄弁会講談社 1951/05(完訳ではありません)


(J23) 中村 1941, 1950
 それは苦しい立場であつた。私はそれを取り上げて、手に持つてゐた。私は震へてゐた。何故といふに私は、永久に、二つのうちのどちらかを取るやうに決(き)めなければならなかつたから。私は、息をこらすやうにして、一分間じつと考へた。それからかう心の中で言ふ。
 「ぢやあ、よろしい、僕は地獄に行かう」——さう言つてその紙片(かみきれ)を引き裂いた。
 それは恐ろしい考へであり、恐ろしい言葉であつた。だが私はさう言つたのだ。そしてさう言つたままにしてゐるのだ。そしてそれを變へようなどとは一度だつて思つたことがないのだ。私はこのことを全部頭から押し出してしまつた。そして育ちがさうなのだから、私の得手である邪(よこしま)な生活をまた讀けてゆかうと言つた。その反對の方は私の得手ではないのだ。そしてその手始めに私はまたジムを奴隷の状態から盗み出してやらう。そしてこれよりもつと惡いことを考へつけたら、それもやつてやらう。何故といふに私はもう落ち込んでしまひ、永久に落ち込んでしまつたのだから、毒喰わば皿までといふ状態になつてゐるのだ。

   マーク トウェーン=作 中村爲治(なかむら・ためじ)=譯
   a. 『ハックルベリイ フィンの冒險(下)』(全2冊)
     岩波文庫 1941/05(昭和16)
   b. 「ハックルベリイ フィンの冒險(下)」
     『世界文学全集 ホーソーン マーク・トウェーン集
     河出書房 1950/05 に再録(ただし用字などがすこし異なります)


(J24) その他
邦訳には、以上のほかに、たとえばつぎのようなものがあります。

* 渕脇 1997
   マーク・トウェイン=原作 アンドルー・ジェイ・ホフマン=解説
   平野信行=監修 渕脇耕一(ふちわき・こういち)=訳
   『ハックルベリー・フィンの冒険』Newton Classics 6
   ニュートン プレス 1997/07

   マンガ、解説、会話部分の対訳の3部構成になった冊子。
   ダイジェスト本で、本稿の引用部分は収録されていません。
   一見、平易な児童書のようですが、人種問題など、解説部分で
   指摘されている問題の多くは、今日の大人でも真剣に考察するに
   値する内容を含んでいます。


■ロシア語訳 Translation into Russian

Оно лежало совсем близко. Я взял его и подержал в руке. Меня даже в дрожь бросило, потому что тут надо было раз навсегда решиться, выбрать что-нибудь одно, — это я понимал. Я подумал с минутку, даже как будто дышать перестал, и говорю себе:

«Ну что ж делать, придется гореть в аду». Взял и разорвал письмо.

Страшно было об этом думать, страшно было говорить такие слова, но я их все-таки сказал. А уж что сказано, то сказано — больше я и не думал о том, чтобы мне исправиться. Просто выкинул все это из головы; так и сказал себе, что буду опять грешить по-старому, — все равно, такая уж моя судьба, раз меня ничему хорошему не учили. И для начала не пожалею трудов — опять выкраду Джима из рабства; а если придумаю еще что-нибудь хуже этого, то и хуже сделаю; раз мне все равно пропадать, то пускай уж недаром.

   Глава XXXI
   Твен Марк. Приключения Гекльберри Финна
   E-text at ModernLib.Ru


■ウクライナ語訳 Translation into Ukrainian

Він лежав напохваті. Я взяв його й потримав у руці. Я весь тремтів, бо мусив оце зараз, раз і назавжди, вирішити - туди чи сюди. Я замислився на мить, аж мені затамувало дух у грудях, а тоді мовив сам до себе:

«Нічого не вдієш, піду таки до пекла!» - та й подер листа на дрібненькі клаптики.

Страшні то були думки, та страшні були й слова, але чи так чи сяк, а я вже їх сказав. Хай там що, все одно мені вже не виправитися. Ну то я й кинув про все це думати і сказав собі, що знову буду грішити: така вже моя доля, якщо в неправді мене виховували. І для початку щось я придумаю, щоб Джіма знову з неволі викрасти; а якби й більший гріх спав мені на думку, я б і більший гріх учинив; якщо вже пропадати, то хоч не дурно.

   Розділ XXXI
   Марк Твен. Пригоди Гекльберрі Фінна
   Translated by Ірини Стешенко
   E-text at Ae Lib (ae-lib.org.ua)


■ブルガリア語訳 Translation into Bulgarian

То беше до мене. Взех го и го подържах в ръка. Потреперах, защото трябваше да избера завинаги пътя си. Знаех, че е така. Размислих една минута, не смеех даже дъх да си поема, после си рекох:

— Да става, каквото ще… ще се върви в ада — и скъсах писмото.

Страшни бяха тия думи, но ги казах. А казаното е казано — и не помислих вече да го променям. Заличих цялата случка от ума си и си рекох, че пак ще стана грешник, както ми е писано, щом не са ме научили на нищо хубаво. Най-напред ще се заема да измъкна Джим от робство; ако измисля нещо по-лошо — ще направя и него: щом ще се гори в ада, да има защо.

   31
   Марк Твен. Приключенията на Хъкълбери Фин
   Translated by Невяна Розева, 1965
   E-text at Моята библиотека (chitanka.info)


■ドイツ語訳 Translation into German

Ich guckte wieder auf den Brief, dann hab ich ihn in die Hand genommen; ich hab gehörig dabei gezittert, denn ich musste jetzt zwischen zwei Dingen entscheiden. Nur 'nen kleinen Augenblick hab ich noch gezögert, dann habe ich mir gesagt:

Na ja, dann muss ich eben in die Hölle! Und dann habe ich den Brief zerrissen.

Es waren schreckliche Gedanken und schreckliche Worte, aber sie waren gesagt. Ich wollte an die Arbeit gehen und Jim noch mal stehlen - jetzt kam's ja sowieso nicht mehr darauf an. Wieder dachte ich hin und her und wie ich die ganze Sache wohl anfassen sollte, bis ich schließlich einen Plan ausgeknobelt hatte, der mir passte.

   Tom Sawyer und Huckleberry Finn by Mark Twain
   E-text at Онлайн-библиотека (Litrus.net)


■イタリア語訳 Translation into Italian

Beh, devo proprio decidermi. Lo prendo su e lo tengo in mano. Tremavo perché dovevo scegliere fra due cose, ed era una scelta che facevo per sempre, e lo sapevo. Ci ho studiato per un minuto, che quasi non respiravo, e poi dico fra me:

«E va bene, allora andrò all'inferno!», e straccio il foglio.

Sto male, dopo che ho detto quelle parole terribili, ma ormai quello che è detto è detto, e non ci penso neanche a cambiare idea. Quella cosa lì me la tolgo proprio dalla testa, e quindi torno a fare il ragazzo cattivo, che mi riesce bene, mentre la vita del bravo ragazzo, be', non è proprio una cosa che fa per me. Così, per cominciare libererò di nuovo Jim dalla schiavitù, e magari poi farò anche di peggio, perché già che ci sono voglio proprio darci dentro.

   XXXI • I bugiardi non riescono a pregare
   Le avventure di Huckleberry Finn by Mark Twain
   a cura di Patrizio Sanasi
   E-text at Readme.it


■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese

[Omission] Estava tremendo, porque tinha de tomar uma decisão de uma vez por todas, escolhendo entre duas coisas, e sabia disso. Passei mais ou menos um minuto só pensando, quase sem respirar, e aí resolvi:

'Pois bem! Prefiro ir para o inferno!' - e rasguei-o.

Nunca mais pensei em reformar-me. Tirei aquilo tudo da cabeça e pensei que continuaria no mau caminho, no qual fora criado. E para começar, ia tratar de roubar Jim da escravidão, de novo; porque, no ponto em que estava, não tinha mais que recuar. [Omission]

   As aventuras de Huckleberry Finn by Mark Twain
   The above translation is not a reproduction from a single source.
   It is actually a combination I made of excerpts taken from the two sources below:
   * Módulo_Huckleberry_Finn.pdf [PDF]
   * Projeto Círculos de Leitura


■カタルーニャ語訳(カタロニア語訳) Translation into Catalan

Era un lloc proper. El va prendre i ho va sostenir a la mà. -Jo era un tremolor, perquè havia arribat a decidir, per sempre, entre dues coses, i jo sabia que. Vaig estudiar un minut, una mena de celebració de la meva alè, i després diu a mi mateix:

"Molt bé, llavors, vaig a anar a l'infern" - i va trencar.

Es pensaments terribles i horribles paraules, però que es va dir. I que es quedin, va dir, i va pensar que mai no més sobre la reforma. Vaig ficar tot l'assumpte del meu cap, i em va dir que s'ocuparà de la maldat de nou, que estava en la meva línia, sent brung a ella, i el warn't altres.

   Capítol 31
   Les aventures de Huckleberry Finn by Mark Twain
   E-text at vidqt.com


■スペイン語訳 Translation into Spanish

Me costó trabajo decidirme. Agarré el papel ylo sostuve en la mano. Estaba temblando, porque tenía que decidir para siempre entre dos cosas, y lo sabía. Lo miré un minuto, como conteniendo el aliento, y después me dije:

« ¡Pues vale, iré al infierno!», y lo rompí.

Eran ideas y palabras terribles, pero ya estaba hecho. Así lo dejé, y no volví a pensar más en lo de refor-marme. Me lo quité todo de la cabeza y dije que volvería a ser malo, que era lo mío, porque así me habían criado, y que lo otro no me iba. Para empezar, iba a hacer lo necesario para sacar a Jim de la esclavitud, y, si se me ocuría algo peor, también lo haría, porque una vez metidos en ello, igual daba ocho que ochenta.

   Capítulo 31
   Las aventuras de Huckleberry Finn by Mark Twain
   E-text at Wikisource


■フランス語訳(部分) Translation into French (fragmental)

J’étais dans un lieu isolé. Je le pris et le tins dans ma main. J'en tremblais, parce que j'avais à décider, pour toujours, entre deux choses, et je le savais. J'étudiai la question une bonne minute, plus ou moins retenant mon souffle, et ensuite je me suis dit:

"D'accord, j'irai donc en enfer" — et je le déchirai.

   Les aventures de Huckleberry Finn by Mark Twain
   Excerpt at World Socialist Web Site (WSWS)


 Audio 1 
英語原文の朗読 Audiobook read by John Greenman

下に引用した箇所は 11:08 から始まります。 Uploaded to YouTube by CBGP Literature on 1 Apr 2015. Audio courtesy of LibriVox. The excerpt below starts at 11:08.


 Audio 2 
英語原文の朗読 Audiobook read by Annie Coleman Rothenberg

下に引用した箇所は 12:58 から始まります。 Uploaded to YouTube by GreenAudioBooks on 11 Nov 2012. The excerpt below starts at 12:58.


 Audio 3 
英語原文の朗読 Videobook read by Mark F. Smith.

下に引用した箇所は 12:57 から始まります。 Uploaded to YouTube by CCProse on 5 Jun 2011. Audio courtesy of LibriVox. The excerpt below starts at 12:57.


■英語原文 The original text in English

It was a close place.  I took it up, and held it in my hand.  I was a-trembling, because I'd got to decide, forever, betwixt two things, I knowed it.  I studied a minute, sort of holding my breath, and then says to myself:

"All right, then, I'll GO to hell"--and tore it up.

It was awful thoughts and awful words, but they was said.  And I let them stay said; and never thought no more about reforming.  I shoved the whole thing out of my head, and said I would take up wickedness again, which was in my line, being brung up to it, and the other warn't.  And for a starter I would go to work and steal Jim out of slavery again; and if I could think up anything worse, I would do that, too; because as long as I was in, and in for good, I might as well go the whole hog.


■邦題の異同 Variations of the title in Japanese

  ハックルベリ・フィンの冒険  加島 祥造=訳 1979, 2001
        〃        大久保 博=訳 1999, 2004
        〃        勝浦 吉雄=訳 1998
        〃        刈田 元司=訳 1969

  ハックルベリー・フィンの冒険 土屋 京子=訳 2014

        〃        訳者未確認   2005
        〃        大塚 勇三=訳 1997
        〃        渕脇 耕一=訳 1997
        〃        大岩 順子=訳 1979
        〃        西田 実 =訳 1977
        〃        野崎 孝 =訳 1971, 1976
        〃        斎藤 正二=訳 1962
        〃        吉田甲子太郎=訳 1956
        〃        石川 欣一=訳 1958, 1966, 1973
  ハックルベリー=フィンの冒険 斉藤 健一=訳 1996
        〃        吉田甲子太郎=訳 1985
        〃        西村 孝次=訳 1970
  ハックルベリ=フィンの冒険  久保田輝男=訳 1976
  ハックルベリィ・フィンの冒険 山本 長一=訳 1996
        〃        小島 信夫=訳 1993
        〃        渡辺 利雄=訳 1980, 1991
  ハックルベリイ フィンの冒險 中村 爲治=譯 1941, 1950
  ハックルベリイ・フィンの冒険 小島 信夫=訳 1966
        〃        村岡 花子=訳 1959
  ハックルベリーの冒険     佐々木 邦=著 1951


■Mark Twainの日本語表記の異同
 Transliteration variations of "Mark Twain" in Japanese

   --  トウェーン 大岩 1979
  マーク トウェーン 中村 1941
  マーク・ツウェーン 吉田 1956
  マーク・トウェーン 野崎 1971, 1976
      〃     佐々木 1951
      〃     中村 1950
  マーク・トウェイン 土屋 2014
      〃     大久保 1999, 2004
      〃     勝浦 1998
      〃     大塚 1997
      〃     渕脇 1997
      〃     山本 1996
      〃     村岡 1988
      〃     吉田 1985
      〃     渡辺 1980, 1991
      〃     加島 1979, 2001
      〃     西田 1977
      〃     刈田 1969
      〃     小島 1966, 1993
      〃     斎藤 1962
      〃     石川 1958, 1966, 1973
  マーク・トウエン  村岡 1959
  マーク=トウェーン 斉藤 1996
      〃     久保田 1976
  マーク=トウェイン 西村 1970


■一人称 First-person pronouns
 (What does Huck Finn call himself in Japanese?)

  おいら  土屋 2014
   〃   訳者未確認 2005
   〃   斉藤 1996
  おいら/オレ(間接話法/直接話法?)
       大久保 1999, 2004
  おれ   加島 1979, 2001
   〃   大塚 1997
   〃   山本 1996
   〃   渡辺 1980, 1991
   〃   大岩 1979
   〃   久保田 1976
   〃   刈田 1969
   〃   石川 1958, 1966, etc.
  おら   西田 1977
   〃   野崎 1971, 1976
  ぼく   勝浦 1998
   〃   渕脇 1997
   〃   西村 1970
   〃   斎藤 1962
   〃   佐々木 1951
  僕    村岡 1959
  わたし  吉田 1956, 1976, etc.
  私/僕(間接話法/直接話法)
       中村 1941, 1950

  • 2016-05-15 追記 次のようなブログ記事を見かけました。一人称に関して、わたし自身の発想に似たものを感じました。

■更新履歴 Change log

  • 記事の最後の「一人称」の項に、関連リンクを追加しました。
  • 2014/10/29 カタルーニャ語訳を追加しました。
  • 2014/07/27 土屋京子=訳 2014/06/20 を追加しました。
  • 2013/09/02 オーディオブックの YouTube 画面を追加しました。
  • 2013/03/04 ロシア語訳、ウクライナ語訳、ブルガリア語訳、ドイツ語訳、イタリア語訳、ポルトガル語訳、およびフランス語訳(部分)を追加しました。
  • 2012/08/02 The Audio Archive による朗読の YouTube 動画を追加しました。
  • 2011/11/21 英語原文の朗読の YouTube 動画を追加しました。
  • 2011/01/28 スペイン語訳を追加しました。
  • 2007/08/21 加島祥造=訳 1979/01 を追加しました。
  • 2007/07/11 佐々木邦=著 1951/05 を追加しました。
  • 2007/06/24 大岩順子=訳 1979/03 の現物にあたって、この本が完訳ではなく抄訳であることを確認しました。
  • 2007/06/21 斎藤正二=訳 1962/11 を追加しました。また、渕脇耕一=訳 1997/07 についての紹介を補足しました。
  • 2007/04/15 勝浦吉雄=訳 1998/09 と野崎孝=訳 1971, 1976/09 を追加しました。また、勝浦吉雄=訳 1998/09 と野崎孝=訳 1971, 1976/09 におけるハックの一人称について、追加しました。
  • 2007/04/11 吉田甲子太郎=訳の複数の版の異同を確認しました。また、中村爲治=譯 1941/05 の訳文に、用字・送り仮名など、数か所誤りがありましたので、訂正しました。さらに、一人称についての項を新設しました。

 

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■DVD

■DVD & VHS
Discovery Channel: Great Books series
* Huck Finn: Great Books DVD
* Huck Finn: Great Books VHS
*『ハックルベリー・フィンの冒険
 グレートブックス日本語版 第9巻
 c1998, VHS, カラー, 52分
 日本語版企画・製作: 丸善
 オリジナル版制作: Discovery Channel

  

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The Adventures of Huckleberry Finn by Mark Twain (1) マーク・トウェイン 『ハックルベリー・フィンの冒険』 (1)

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« ハックルベリー・フィンの冒険 2 »

        目次 Table of Contents

 Images  表紙画像 Cover photos
■中国語訳(簡体字)Translation into simplified Chinese
■中國語譯(繁體字)Translation into traditional Chinese
■日本語訳 Translations into Japanese
  (J1) 土屋 2014
  (J2) 訳者未確認 2005
  (J3) 加島 2001
  (J4) 大久保 1999, 2004
  (J5) 勝浦 1998
  (J6) 大塚 1997
  (J7) 斉藤 1996
  (J8) 山本 1996
  (J9) 渡辺 1980, 1991
  (J10) 大岩 1979
  (J11) 加島 1979
  (J12) 西田 1977
  (J13) 久保田 1976
  (J14) 野崎 1971, 1976
  (J15) 西村 1970
  (J16) 刈田 1969
  (J17) 小島 1966, 1993
  (J18) 斎藤 1962
  (J19) 石川 1958, 1966, etc.
  (J20) 村岡 1959
[1はここまで]

2へ続く]
  (J21) 吉田 1956, 1976, etc.
  (J22) 佐々木 1951
  (J23) 中村 1941, 1950
  (J24) その他
■ロシア語訳 Translation into Russian
■ウクライナ語訳 Translation into Ukrainian
■ブルガリア語訳 Translation into Bulgarian
■ドイツ語訳 Translation into German
■イタリア語訳 Translation into Italian
■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese
■カタルーニャ語訳(カタロニア語訳) Translation into Catalan
■スペイン語訳 Translation into Spanish
■フランス語訳(部分) Translation into French (fragmental)
 Audio 1  朗読: ジョン・グリーンマン Audiobook read by John Greenman
 Audio 2  朗読: オーディオ・アーカイブ Audiobook presented by The Audio Archive
 Audio 3  朗読: マーク・F・スミス Videobook read by Mark F. Smith
■英語原文 The original text in English
■邦題の異同 Variations of the title in Japanese
■Mark Twainの日本語表記の異同 Transliteration variations of "Mark Twain" in Japanese
■一人称 First-person pronouns (What does Huck Finn call himself in Japanese?)
■更新履歴 Change log


 Images 
表紙画像 Cover photos

a. 693533 b. 448003650409 c. Huck_finn_german

d. C e. 849764697501 f. 7218138
 
             ↑ クリックして拡大 Click to enlarge ↑  


■中国語訳(簡体字)Translation into simplified Chinese

  这可是个叫人左右为难的事啊。我把纸拣了起来,拿在手里。我在发抖。因为我得在两条路中选择一条,而且永远也不能反悔。这是我深深知道的。我认真考虑了一分钟,并且几乎屏住了气考虑的,随后我对自个儿说:
  “那好吧,就让我去下地狱吧。”——随手把纸给撕了——
  这可是可怕的念头,可怕的话语啊,不过我就是这么说了。并且我既然说出了口,我就从没有想过要改邪归正。我把整个儿这件事从脑袋里统统赶了出去。我说,我要重新走邪恶这一条路,这是我的本行,从小就这样长大的嘛。走别的路就不内行了。作为开头第一件事,我要去活动起来,把杰姆从奴隶的境地给偷出来。要是我还能想出比这更为邪恶的主意,我也会照干不误。因为既然我是干的这一行,那么,只要有利,我便要干到底。

   《哈克贝利.费恩历险记》 作者:马克·吐温
   E-text at 21works 经典阅读 (www.21works.cn)


■中國語譯(繁體字)Translation into traditional Chinese

  這可是個叫人左右為難的事啊。我把紙揀了起來,拿在手里。我在發抖。因為我得在兩條路中選擇一條,而且永遠也不能反悔。這是我深深知道的。我認真考慮了一分鐘,并且几乎屏住了气考慮的,隨后我對自個儿說:
  “那好吧,就讓我去下地獄吧。”——隨手把紙給撕了。
  這可是可怕的念頭,可怕的話語啊,不過我就是這么說了。并且我既然說出了口,我就從沒有想過要改邪歸正。我把整個儿這件事從腦袋里統統赶了出去。我說,我要重新走邪惡這一條路,這是我的本行,從小就這樣長大的嘛。走別的路就不內行了。作為開頭第一件事,我要去活動起來,把杰姆從奴隸的境地給偷出來。要是我還能想出比這更為邪惡的主意,我也會照干不誤。因為既然我是干的這一行,那么,只要有利,我便要干到底。

   馬克·吐溫 《哈克貝里·芬歷險記》
   E-text at 龍騰世紀 (millionbook.net)


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 土屋 2014
 どうしよう? おいら、手紙を拾い上げて、手に持った。からだがぶるぶる震えた。ここでどっちかに決めたらそれっきりだってわかってたから。おいらは一分ぐらい息を止めて考えて、それから自分に向かって言った。
「いいや、おいら、地獄に行く」——そんで、おいらは手紙を破った。
 恐(おっそ)ろしい考えだし、恐(おっそ)ろしい言葉だけど、言っちまったもんは言っちまったもんだ。取り消すつもりはねえ。もう改心なんか考えねえぞ。ぜんぶ頭ん中から追い出して、おいら悪ガキにもどるんだ、ってつぶやいた。それがおいらには合ってる。おいら、そういうふうに育ったんだもん。いい子なんか、似合わねえや。で、手はじめに、ジムをもういっぺん奴隷の身から逃してやることにした。もっと悪いことを思いついたら、それだってやってやる。どうせ悪ガキで、この先もずっと悪ガキでいるんなら、とことんやってやるぞって思った。

   トウェイン=著 土屋京子(つちや・きょうこ)=訳
   『ハックルベリー・フィンの冒険(下)』 光文社古典新訳文庫 2014/06/20


(J2) 訳者未確認 2005
 今考えてもギリギリのところだった。その紙を拾って手に握り締めた。おいらはその時点で善か悪かを決めないといけないので震えていた。ほんのちょっとその紙に目を落とし、息を止めて、そして自分にこういった。
「わかったよ、こうなったら地獄にでもどこへでもいってやらぁ」といって紙を千切り捨てた。
 それは恐ろしい考えで、恐ろしい言葉だったけれど、もう後には戻れない。もう二度と改心することなんか考えない。頭からすっぱり忘れ去ってやる。育ちが悪いのだからもっと悪さをしてやるぜ。手始めにジムを盗み出して、もっと悪いことを思いついたらそれもやってやらぁ。本当にやるぜ、だってもう二度と後戻りはできないのだから地に落ちるのならトコトンやるまでさ。

   「ビッグ・リバー」〜ハックルベリー・フィンの冒険〜
   デフ・ウエスト・シアターによるミュージカル「ビッグ・リバー」
   の来日公演を応援するファン・サイト。翻訳者は未確認。
   Last Update: July 30, 2005.


(J3) 加島 2001
 ああ、ジムを密告しようか、助けようか。ああ、どっちにするか。おれ、ほんとに思い迷った。その手紙をとりあげて、手にじっと持ったまま、身を震わせたよ。だって、どっちにするか、ここで最後の腹をきめなきゃならないってことが、自分でも分かってたからだ。しばらく息を殺して考えてたけど——それから、こう言ったよ——
「ようし、こうなったら、おれ、地獄へ堕ちてやれ」——そして、手紙を破いちまった。
 それは恐ろしい考えだし、恐ろしい言葉だけど、もう口から出ちまったんだ。口に出した以上は、もう悔い改めようなんて考えなかった。頭の中から世間の教えなんかきっぱり追っ払っちまって、よこしまな生き方のほうを取ってやれって、そう思った。そのほうがおれらしいんだ。どうせそういうふうに育てられたんだから、その反対の生き方はおれには向いてないんだ。だから、まず手始めに、うまくジムを盗み出して奴隷の身からもういっぺん自由にしてやろう、その後で、もっと世間では正しくないことを考えついたら、そいつもやってやろう、と思ったね。どうせもう、正しくない横道にはまり込んだんだ、引っ返しがきかないなら、とことんまで行ってやれ、とそう思ったんだ。

   マーク・トウェイン=著 加島祥造=訳
   『完訳 ハックルベリ・フィンの冒険』ちくま文庫 2001/07


(J4) 大久保 1999, 2004
 それは、重大な選択を迫る紙切れだった。おいらは、それを取り上げた。そして、手に持った。体はブルブルと震えていた。なぜって、おいらは決めなけりゃならなかったからだ。永久に、二つのうちのどちらかをだ。そして、そのことは、自分でも分かっていた。おいらは、チョットのあいだ、考えた。息は止まっているようだった。そのうちに、おいらは、心の中でこう言った。
「よし、それなら、オレは地獄に行こう」——そして、その紙を破いた。
 それは、恐ろしい考えだった。そして、恐ろしい言葉だった。だが、もう口から出てしまった。おいらはそれを、口から出たままにしておいた。悔い改めようなんて、もう考えなかった。そんなことは、みんな頭から追い出しちまった。そして言った。オレはまた性悪な人間にもどろう、それがオレの性に合ってるんだ、そのように育てられたんだからな、その反対のほうはダメなんだ、ってな。そして手始めに、ジムを盗み出して、また奴隷の身から救ってやる仕事にとりかかろう、と思った。そして、もっと悪いことを考えることができたら、そいつもやってやろう、と思った。なぜって、いったん嵌(は)まり込んだからには、永久に嵌まり込んだからには、トコトンまでやっちまったほうがいいからだ。

   マーク・トウェイン=著 大久保博=訳
   『ハックルベリ・フィンの冒険』
   角川書店(単行本 1999/09|文庫 2004/08)


(J5) 勝浦 1998
 ぼくは追いつめられ、その紙切れを取り上げて手に持った。身体がブルブル震えだした。だって、二つのうちのどっちかに覚悟を決めなきゃならないことが自分でも分かってたからだ。ぼくは息を止めるみたいにして、ちょっと考え、それから、こう言った—
「よーし、こうなったら、ぼくは地獄へ行こう!」—そしてぼくはその紙を破いてしまった。
 恐ろしいことを考え、恐ろしいことを言ったもんだけど、もう口から出てしまったのだ。そしてぼくはその言葉を引っこめようとはしなかった。また、心を入れ替えようとも思わなかった。そういうことは一切合財ふりすててしまって、どうせぼくは育ちが悪いんだから、その方が性に合っている。その反対の方は駄目、また悪の道を歩こう、とぼくは言った。その手始めに、ジムを奴隷の境涯からまた救い出す仕事にとりかかろう。それよりもっと悪いことを思いついたら、そいつもやってのけるんだ。こうなったら、とことん行けるとこまで行くんだ、とぼくは考えた。

   マーク・トウェイン=著 勝浦吉雄(かつうら・よしお)=訳
   『ハックルベリ・フィンの冒険—附翻訳小史—
   文化書房博文社 1998/09


(J6) 大塚 1997
 ひどく切羽(せっぱ)つまったとこだった。おれは、その紙を拾いあげて、手にもった。身体(からだ)が、ふるえてた。なぜって、今おれは、この先(さき)いつまでも、二つのうちのどっちにするかを、きっぱり決めなきゃいけないんだし、それが自分にも分かっていたからだ。おれは、息(いき)を止(と)めるみたいにして、ちょっとのあいだ考え、それから、心のうちで、こう言った。
 「よし、それなら、おれは地獄(じごく)に行こう!」……そして、その紙を破(やぶ)いちまった。
 それは、おそろしい考えだったし、おそろしい言葉だった。けれど、もう、言っちまってた。そしておれは、その言葉を言っちまったまんまにしておいた。そうして、もう、改心(かいしん)しようなんてことも考えなかった。そんなことは、そっくり、頭から押(お)し出(だ)しちまった。そして、思った、……おれはまた、よこしまで(#「よこしま」に傍点)で悪いほうをつづけることにしよう。おれは、そうなるように育てられたから、そっちのほうが性(しょう)に合ってて、その逆(ぎゃく)のほうは、だめなんだ。それで、まず手はじめに、奴隷(どれい)の身(み)になってるジムを、また盗(ぬす)みだすのに、とりかかってやろう。そして、もしか、もっと悪いことを考えつくようだったら、それも、やってやろう。だって、いっぺん、はまりこんで、しかも、しっかりはまりこんじゃったら、もう、とことん、やっちまうほうがいいんだ。……

   マーク・トウェイン=著 大塚勇三=訳
   『ハックルベリー・フィンの冒険(下)
   福音館古典童話シリーズ 1997/10


(J7) 斉藤 1996
 たちまちおいらは、いても立ってもいられなくなって、手紙をつかんだ。手がぶるぶるふるえた。ああ、どうしよう。今度こそ、どっちかにするかきっぱりきめなきゃならない。おいらは息をとめたまま、ちょっとのあいだ手紙をにらんだ。それから自分に向かってつぶやいた。
「よーし、それならおいらは、地獄に行ってやる。」そして手紙をビリビリッと引(ひ)きさいた。
 おいらが口に出したのは、考えただけでもおそろしい、ばちあたりな言葉だった。だけど、もういっちまったんだ。おいらはその言葉を取り消そうとも思わなかったし、心を入れかえようとも思わなかった。心を入れかえるなんてことはきっぱりと頭のなかから追い出して、これまでどおりまた悪いことをやっていけばいい。おいらはそう自分にいい聞かせた。そういう育ち方をしたんだから、それがぴったりなんだ。いいことをするなんて、ちっともおいららしくない。じゃあ、まず手はじめに、ジムを取り返して、奴隷の身から自由にしてやるか。もちろん、もっと悪いことを思いついたら、それもやってやる。どうせやるなら、とことんやらなきゃ。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

   マーク=トウェーン=著 斉藤健一=訳
   『ハックルベリー=フィンの冒険(下)
   講談社青い鳥文庫 1996/09


(J8) 山本 1996
 これはこまった立場になった。その紙を取り上げて手にもってみた。体が震えた。だって、あれかこれかどっちかに決めなければならないからで、おれには分かっていたことだ。息をこらしてるみたいにして、ちょっとの間考えてから、心の中でこう言った。
「ええい、こうなったら地獄まで行ってやろうぜ」——それで紙を破いちまった。
 恐ろしい考えで、恐ろしい言葉だけど言ってしまった。だからおれは言ったままに放っておくことにして、心を改めようなんてもう考えなかった。頭の中から全部こんなことを追い出した。おれは悪い子に育てられたんで、悪い子にまたもどろう、それが自分にはお似合いなんだ、ほかには考えられねえと思った。それでまず始めに、ジムを奴隷の身から盗み出してやろうと思った。もし何かもっと悪いことを思いついたら、それもやってやろうと思った。だって、その道に入ったら、徹底的にやり通したほうがいいからだ。

   マーク・トウェイン=著 山本長一(やまもと・ちょういち)=訳
   『ハックルベリィ・フィンの冒険』マーク・トウェイン コレクション7
    彩流社 1996/03


(J9) 渡辺 1980, 1991
 きわどいとこだったね。おれその紙取りあげると、しばらく手に持ってた。おれからだが震えてきた。てえのは、おれって、年がら年じゅう、二つのことのどっちかひとつ選ばなきゃならねえからだ。それはおれにもわかってた。おれ息止めたみてえにして、ちょっとばかり考えてみた。それから、心ん(#原文は小さい「ん」)なかで言った。
「よし、それだったら、おれ地獄だって行ってやる」——そして、その紙破いちまった。
 そいつぁ恐ろしい考えだし、恐ろしい言葉なんだけど、おれもうその通りに言っちまったんだ。そしてまた、言った通りにしといて、取り消すこともしなかった。自分の行ない改めるなんてえことも、もう考えねえで、このこたぁぜんぶ頭から押しだすと、そういったこたぁきれいさっぱり忘れちまった。おれはまた悪い行ないやってこうって自分自身に言ったんだ。そのほうが、おれそういったふうに育ってるんで、性(しょう)に合ってるしな。その反対てえのはどうも性に合わねえんだ。それで、まず手はじめにだね、ジムをまた盗みだして、奴隷の身分から救いだすっていう仕事にとりかかろうって思ったんだ。そして、それよりもっと悪いこと思いついたら、そのときゃ、それだってやるつもりだった。てえのは、悪の世界に入ってだね、一生そこにいるんだったら、なんでもとことんまでやったほうがいいって思ったからだ。

   マーク・トウェイン=著 渡辺利雄=訳
   「ハックルベリィ・フィンの冒険」
   *『集英社ギャラリー[世界の文学]16』集英社 1991/01
   *『世界文学全集54 ベラージュ』集英社 1980/09


(J10) 大岩 1979

   トウェーン=著 大岩順子=訳『ハックルベリー・フィンの冒険
   世界の名作・日本の名作83 春陽堂少年少女文庫 1979/03

   児童向け抄訳。ほかの訳の引用部分に相当する箇所は訳出されて
   いないようです。


(J11) 加島 1979
 せつない立場だった。おれはその紙を拾い上げて、じっと手に持った。身体が震えてたっけ。だって、右か左か、ここで最後の腹をきめなきゃならないことが、自分でも分かってたからな。しばらく息を殺すみたいにして考えてたけど、それから胸の中でこう言った——
「ようし、こうなったらおれ、地獄へ落ちてやれ」とね——そしておれは、その紙を破いちまったよ。
 それは恐ろしい考えだし、恐ろしい言葉だけど、もう口から出ちまったんだもんな。それはそのままにして、もう悔い改めようなんて考えないことにしたよ。そんなことは、頭の中からきれいさっぱり追っ払っちまって、よこしまな生き方のほうを取ってやれって、そう思ったんだ。そのほうがおれらしいしよ、どうせそういうふうに育てられたんだから、その反対の生き方はおれには向いてないんだ。だもんだから、まず手始めに、うまくジムを奴隷の身からもういっぺん自由にしてやって、で、その後で、もっとよこしまなことを考えついたら、そいつもやらかしてやろう、と思ったね。どうせもう、よこしまの道にはまり込んだんだんじゃないか、引っ返しがきかないなら、とことんまで行ってやれ、とそう思ったんだ。

   マーク・トウェイン=著 加島祥造=訳
   「ハックルベリ・フィンの冒険」
   『世界文学全集2 マーク・トウェイン』(全50巻)
   学習研究社 1979/01 所収


(J12) 西田 1977
 おらは追いつめられた。おらはその紙を取り上げて手に持った。からだがブルブルふるえだした。だって、右か左か、ここで最後の腹をきめなきゃなんねえことが、自分でもわかっていたからだ。おらは、息を止めるみたいにしてちょっと考えてから、心の中でこう言った。
 「よし、こうなったら地獄へ落ちてやれ」——そしておらは、その紙を破いちまった。
 恐ろしいことを考えて、恐ろしいことを言ったもんだけど、もう口から出ちまったことだ。おれはそれをそのままにして取り消さなかった。悔い改めようなんて、もう考えなかった。そんなことはいっさい頭の外へ追い出しちまった。おらは悪者に育てられたので、悪者のほうが性に合っていて、その反対のほうはだめなんだから、また悪者に戻ろう、とおらは言った。そしてまず手はじめに、ジムを奴隷の身分からまた救い出す仕事にとりかかろうと思った。その後でもっと悪いことを考えついたら、それもやってやろうと思った。いったん悪の道にはまりこんで、もう抜けられないとなったからは、とことんまでやっちまったほうがいいんだ。

   マーク・トウェイン=著 西田実=訳
   『ハックルベリー・フィンの冒険(下)』(全2巻)
   岩波文庫 1977/12


(J13) 久保田 1976
 ここがだいじなわかれ道だった。おれは紙きれをとりあげて手の中ににぎりしめた。おれはがたがたふるえていた。のるか、そるか、二つに一つ、最後の決心(けっしん)をしなけりゃならないのだ。おれにはそれがよくわかっていた。おれは一分ほど、息をころすようにして考えた。それから、きっぱりとこういった。
「よし、そんなら地獄(じごく)へゆこう!」
 そして、紙きれをひきさいた。
 考えるのもおそろしかった。口に出すのもこわかった。しかし、もう口に出していってしまったことだった。そして、いったことはいったことだ、もう二度とひるがえしはすまいと思った。おれは神妙(しんみょう)な考えのいっさいを頭の外へおいはらい、もう一度悪の道をつっぱしる腹をきめた。それがおれの柄(がら)にあってるんだ。そんなふうに育ってるんだ。いいことをするのは柄じゃないんだ。そう自分にいいきかせた。まず手はじめにジムをなんとかしてもう一度奴隷(どれい)の境涯(きょうがい)からぬすみ出そう。もし、もっとましな、もっと悪いことを思いついたら、それもえんりょなくやらかそう。毒(どく)食(く)わば皿(さら)までというやつだ。

   マーク=トウェーン=著 久保田輝男=訳
   『ハックルベリ=フィンの冒険
   学研世界名作シリーズ15 学習研究社 1976


(J14) 野崎 1971, 1976
 どっちもきめにくいとこだった。おらはその紙を拾い上げて、じっと手に持ったんよ。身体がぶるぶると震えたっけ。だってよ、二つのうちのどっちかに、きめたが最後、とり返しはつかねえし、それがおらにはよっく分かってたけにな。おらは息を殺したみたくにして、しばらくの間考えて、それから腹の中で言ったんだ。
「よし、そんなら、おらは地獄へ行く」ってな——そう言っておらは、その紙をひっちゃぶいたんよ。
 おっかねえ考えだし、おっかねえ言葉だけんど、もう言っちまったこった。おらは言ったことはそのまんまにして、心を入れ替えるなんてことはもう考えねえことにした。そうして、そのことはそっくり頭の中から追っ払っちまった。もういっぺんよこしまな方をとってやれ、おらはよこしまに育てられたんだけん、こっちの方が性に合うちょるんだ。もう一つの方は性に合わねえ。その手始めにはひとつ、ジムの野郎を、奴隷の身分から盗み出す算段をするこった。それからもっと悪いことを思いついたらば、そいつもうめえとこやらかしてやる。もはやはまりこんじまったおらじゃねえか、おまけにはまりこんだが最後引っ返しはきかねえときてやがる。そんならばいっそ、とことん行けるとこまで行った方がいいや、おら、そう思ったんだ。

   マーク・トウェーン=著 野崎孝=訳
   *『ハックルベリー・フィンの冒険』講談社文庫 1971
   *『世界文学全集53』講談社 1976/09 所収


(J15) 西村 1970
 せつない立場(たちば)だった。ぼくは、その紙をとりあげて手にもっていた。ぶるぶるふるえていた。永久(えいきゅう)に、ふたつのうちのどちらかにきめねばならず、そのどちらにするか、わかっていたからだ。ぼくは息(いき)をこらし、ちょっとのあいだ考えてから、こう思った。
〈よし、それじゃあぼくは地獄(じごく)へいこう〉——こういって、ぼくは紙をひきさいてしまった。
 それは、おそろしい考えであり、おそろしいことばであったが、しかし、もう口にだしてしまったのだ。そして、いったことはいったままにして、それをかえようなどとは、けっして思わなかった。ぼくは、このことはいっさい、頭(あたま)からおしだしてしまい、自分はこんなふうに育(そだ)ったのだから、自分のえて(#「えて」に傍点)である、悪いおこないをまたつづけていこう、その反対のおこないはえて(#「えて」に傍点)ではないんだから、と自分で自分にいいきかした。その手はじめとして、ジムをどれいの状態(じょうたい)から、もう一度ぬすみだすことにしよう。またもっとなにか悪いことを思いついたら、それもやってやろう。ぼくは、もう落ちこんで、しかも永久に落ちこんだ以上、あくまでやりぬいたほうがいいのだから。

   マーク=トウェイン=作 西村孝次=訳
   『ハックルベリー=フィンの冒険』世界の名著12
   ポプラ社 1970/04


(J16) 刈田 1969
 さあ、せっぱ詰った羽目に追いこまれたぞ。おれは手紙をとりあげて手に持った。善か悪か二つにひとつ、ここできっぱり決めなくてはならない。そう思うとおれは身ぶるいが出た。おれは息を止めるようにして、しばらく考えてから、こうひとりごとを言った。
「ええい、よし地獄に行こう!」——そして手紙を破り捨てた。
 恐ろしい考えだった。恐ろしい言葉だった。だがもう口に出してしまっていた。そしておれはその言葉をひっこめようとは思わず、行ないを改めようという考えもやめてしまった。そんな考えは振り捨ててしまって、やっぱりおれは悪の道に戻ろう、それがおれには似合いなんだ、人さまとはちがって育ちが育ちだからしかたがないんだ、と自分に言いきかせた。手はじめに、まず、奴隷(どれい)の身になったジムのやつを何とか企(たくら)んでまた盗みだしてやろう。それよりもっと悪いことを思いついたら、そいつもやってのけよう。毒をくらわば皿(さら)までだ。

   マーク・トウェイン=著 刈田元司(かりた・もとし)=訳
   『ハックルベリ・フィンの冒険』旺文社文庫 1969/06


(J17) 小島 1966, 1993
(……)手紙をもつぼくの手はぶるぶるとふるえた。いつまで考えても、二つにひとつの道をとらぬわけにはいかないということはわかっていた。しばらく考えて、じっと息をとめ、
「よし、このために地獄におちてもかまやしない。」といって、ぼくはその手紙をやぶりすてた。こういうことをいうのは悪いことだが、どうせ悪いことをするように育てられてきたのだから、もう一ど悪の道にまいもどってやろう。そのぎゃくのまともな道は、どうもぼくの性にあわない。その悪いことの手はじめに、ジムをどれいの身分からもう一どすくいだしてやろう。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

   マーク・トウェイン=著 小島信夫=訳
   *『ハックルベリィ・フィンの冒険』世界文学の玉手箱7
    河出書房新社 1993/01
   *『トム・ソーヤーの冒険 ハックルベリイ・フィンの冒険
    少年少女世界の文学10 河出書房 1966/11 所収


(J18) 斎藤 1962
 苦しい立場であった。ぼくはそれを取り上げ、そして、手に持った。ぼくは、ぶるぶる震えていた。なぜというのに、ぼくは、永劫(えいごう)に、ふたつのうちのどちらかを取るように、決めなければならなかったから。そして、ぼくは、どちらを取るか、知っていた。ぼくは、息をこらすようにして、一分間、じっと考えた。そして、それから、心の中で、こういう。
 「よろしい。では、ぼくは、地獄へ行こう」——そうして、その紙きれを引き裂いた。
 それは、恐ろしい考えであり、恐ろしい言葉であった。だが、その言葉は、発せられたのだ。そして、そういったままに、あえて取り消さなかった。そして、いい直そうなどとは、けっして、考えなかった。ぼくは、このことを、ぜんぶ、頭から押し出してしまった。そして、そういうふうに育ったいじょうは、ぼくの得手(えて)であるところの、不埒(ふらち)な行ないを、ふたたび、続けていこう、といった。その反対の行ないは、ぼくの得手ではないのだ。そして、その手はじめに、ぼくは、もう一ぺん、ジムを、奴隷の状態から盗み出してやろう。そして、これよりもっと悪いことを考えつくことができたら、そいつも、やってやろう。なぜというのに、ぼくは、もう落ち込んでしまい、それも、永久に落ち込んでしまったのだから、こうなったいじょう、毒をくらわば皿まで、というふうになったほうがよいのだ。

   マーク・トウェイン=著 斎藤正二(さいとう・しょうじ)=訳
   『ハックルベリー・フィンの冒険(下)』(全2冊)角川文庫 1962/11


(J19) 石川 1958, 1966, etc.
 きわどいことだった。おれは紙をひろい上げて手で持った。永遠に二つのことの一つにきめなくてはならず、それがわかっているので、おれはがたがた震えた。おれはいわば息を殺してちょっと思案したあげく、自分にいって聞かせた、
「よし、それなら、おれは地獄へ行く」——そして紙を引きちぎった。
 これは恐ろしい考えで、恐ろしい言葉だが、おれは口に出していったのだ。おれはいったままにしておいて、もうそれ以上改心のことは考えなかった。頭の中から全部押し出し、もう一度悪業を取り上げよう、そんなふうに育ったんだからこれはおれの性に合っているが、もう一つの方は性に合っていないといった。まず手初めに、ジムをもう一度奴隷の身分から盗み出すことをたくらもう、それよりもっと悪いことが思いつけたら、それもやらかそう、悪業をやることにきめた以上、それもしっかりきめた以上、とことんまでやったほうがいい。

   マーク・トウェイン=著 石川欣一=訳「ハックルベリー・フィンの冒険」
   *『筑摩世界文学大系35 ホーソーン、マーク・トウェイン
    筑摩書房 1973/10 所収     
   *『世界文学大系81 ホーソーン、マーク・トウェイン
    筑摩書房 1966/07 所収
   *『ハックルベリー・フィンの冒険』研究社出版 1958


(J20) 村岡 1959
 切ない立場だった。僕は紙を取り上げて手に持っていた。僕はぶるぶる震えていた。永久に、二つのうちのどちらかに決めねばならず、どちらにするか分っていたからだ。僕は息をこらし、ちょっとのあいだ考えてから、こう思った。
「よし、それじゃあ僕は地獄へ行こう」——こう言うと、僕は紙を引き裂いてしまった。
 それは恐ろしい考えであり、恐ろしい言葉であったが、しかし、もう口に出してしまったのだ。そして、言い放しにしておき、それを変えようなどとは決して思わなかった。僕はこのことは一切、頭から押し出してしまい、そういうふうに育ったのだから、僕の得手である、悪い行いをまたつづけて行こう、その反対の行いは僕には得手でないから、と言った。その手始めとして、ジムを奴隷の状態からもう一度盗み出すことにしよう、またもっとなにか悪いことを思いついたらそれもしよう。僕はもう落ち込み、しかも永久に落ち込んだ以上は徹底的にやった方がいいから。

   マーク・トウエン=著 村岡花子=訳
   『ハックルベリイ・フィンの冒険』
   新潮文庫(初版 1959/03|改版 1988/10)
   上の引用は初版に拠りました。のちの版では著者名の表記が
   「マーク・トウェイン」となり、用字や送り仮名やルビが、
   すこし異なります。


 

2へつづく]
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Saturday, 07 April 2007

上田秋成 「浅茅が宿」(『雨月物語』より) The House Amid the Thickets (from the Tales of Moonlight and Rain) by Ueda Akinari

        目次 Table of Contents

 Video 1  宝塚公演「浅茅が宿」 Asajigayado, a Takarazuka production
 Images   表紙画像コレクション Cover photo collection
■フランス語訳 Translation into French
■英訳 Translations into English
  (E1) Chambers, 2006
  (E2) Zolbrod, 1974, 1988
  (E3) Sasaki, 1981
  (E4) Hamada, 1972
■簡体字中国語訳 Translations into simplified Chinese
  (C1) 申非 1996
  (C2) 阎小妹 1990
 Video 2  映画 『雨月物語』 (1953) Ugetsu monogatari (1953) a.k.a. Ugetsu
 Video 3  映画 『雨月物語』 (1953) 関係者インタビュー Ugetsu interviews
■現代日本語への翻訳・再話 Translations and retellings in contemporary Japanese
  (J1) 円城 2015
  (J2) 岩井 2009
  (J3) 菅家 2008
  (J4) 中村(晃) 2005
  (J5) 雨月妖魅堂 2004
  (J6) 立原 2002
  (J7) 高田+稲田 1997
  (J8) 葉山 1996
  (J9) 高田 1995
  (J10) 石川 1991, 2006
  (J11) 平山 1989
  (J12) 大庭 1987, 1996
  (J13) 森 1986
  (J14) 青木 1981
  (J15) 神保 1980, 2004
  (J16) 後藤 1980, 2002
  (J17) 中村(幸) 1977
  (J18) 円地 1976, 1988, etc.
  (J19) 藤本 1975
  (J20) 松崎 1966
  (J21) 大輪 1960, 1988
  (J22) 鵜月 1959, 1970, etc.
  (J23) 重友 1953
■日本語原文 The original text in 18th century Japanese
■外部リンク External links
■更新履歴 Change log


 Video 1 
宝塚公演「浅茅が宿」 Asajigayado, a Takarazuka production

1998年 宝塚大劇場公演 出演: 轟悠  月影瞳  香寿たつき ほか


 Images 
表紙画像 Cover photos

pt Pt_00000030974 es Es_ueda_akinari_ugetsu_monogatari it 9788831751094g_1

fr Fr_contes_de_pluie_et_de_lune fr Post_1 en 0231139128_2_1

zh Zh_ugetsu_monogatari ja 448008377401_1 ja Img911_1

↑ Click to enlarge ↑

[pt] Contos da Chuva e da Lua Estampa (1978) ポルトガル語
[es] La Luna de las Lluvias José J. de Olañeta (2009) スペイン語
[it] Racconti di pioggia e di luna Marsilio (2007) イタリア語
[fr] Contes de pluie et de lune Gallimard (1990) フランス語
[fr] Les contes de la lune vague apres la pluie (release in France)
   雨月物語 (1953) 監督:溝口健二 出演:京マチ子、森雅之 ほか
[en] Tales of Moonlight and Rain, translated by Anthony H. Chambers,
   Columbia University Press (2006) 英語
[zh] 雨月物语 人民文学出版社 (1990) 簡体字中国語
[ja] 雨月物語 ちくま学芸文庫 (1997)
[ja] 雨月物語(上) 講談社学術文庫 (1981)


■フランス語訳 Translation into French

   Contes de pluie et de lune [Poche]
   by Ueda Akinari (Translated by René Sieffert)
   Gallimard, 1990/10/10


■英訳 Translations into English

(E1) Chambers, 2006
   Tales of Moonlight and Rain: A Study And Translation
   by Akinari Ueda (Translations from the Asian Classics)
   Translated by Anthony H. Chambers
   Hardcover: Columbia University Press (2006/12)
  
(E2) Zolbrod, 1974, 1988
   Ugetsu Monogatari: Tales of Moonlight and Rain
   by Akinari Ueda   
   Translated by Leon M. Zolbrod
   * Hardcover: University of British Columbia Press (1974)
   * Hardcover: Allen & Unwin (1975/01)
   * Paperback: Tuttle Pub (1988/06)
 
(E3) Sasaki, 1981
   Ueda Akinari's Tales of a Rain'd Moon
   by Ueda Akinari
   Translated by Sasaki Takamasa
   Hokuseido Press (1981)
   上田秋成=著 佐々木高政=訳 『雨月物語
   北星堂書店 1981/03
 
(E4) Hamada, 1972
   Tales of Moonlight and Rain: Japanese Gothic Tales
   by Akinari Ueda
   Translated by Kengi Hamada (Kenji Hamada)
   Hardcover: Columbia University Press (1972/06)


■簡体字中国語訳 Translations into simplified Chinese

(C1) 申非 1996
   雨月奇谈
   作者: (日)上田秋成 译者: 申非
   农村读物出版社 装帧: 平装 出版年: 1996-05

(C2) 阎小妹 1990
   雨月物语 日本文学丛书
   作者: 上田秋成 译者: 阎小妹
   人民文学出版社 出版年: 1990


 Video 2 
映画 『雨月物語』 (1953) 予告編
Ugetsu monogatari (1953) a.k.a. Ugetsu trailer

監督:溝口健二 出演:京マチ子、森雅之 ほか
Directed by Kenji Mizoguchi, Starring Machiko Kyo, Masayuki Mori


 Video 3 
映画 『雨月物語』 (1953) 関係者インタビュー Ugetsu interviews

溝口健二、京マチ子、田中絹代らへのインタビュー。字幕:簡体字中国語
Interviews with Kenji Mizoguchi, Machiko Kyo, Kinuyo Tanaka. Subtitles in simplified Chinese.


■現代日本語への翻訳・再話
 Translations and retellings in contemporary Japanese

(J1) 円城 2015

(……)里の者はみな家を捨てて海を渡り、山に隠れて、里にわずかに残ったのは、乱暴者やひとくせある者ばかり。わたしがひとりでいるのを幸いと言葉巧みに言い寄ってきた者もいましたが、操を貫き、砕けることがあったとしても、見苦しい姿を晒(さら)すことはすまいとなんとかつらい日々を切り抜けました。


(J2) 岩井 2009
(……)村人は家を捨てて逃げていき、海へ山へと彷徨いました。残っていたのは、虎や狼のように獰猛(どうもう)な野蛮な人ばかり。
 独り身になったのを狙われ、幾たびもいっそ死にたい思いを味わわされました。それでも操を貫いて、玉として砕けるつもりでした。屋根の瓦のように、肌を汚して生き永らえるよりは遙かにいいと。

   岩井志麻子=著 「浅茅が宿」
   a.雨月物語』 光文社 2009/10/25
   b.小説宝石』 2008年7月号 光文社 収載
   現代語訳というよりも、翻案もしくは再話と呼ぶべき作品。初出は b.
   引用は a. に拠りました。


(J3) 菅家 2008
近所の人はみな逃(に)げて、残っているのは獣(けもの)のような男たちばかりでした。わたくしが一人でいるのをいいことに、言い寄ってきましたが、わたくしはあなただけの妻、死んでもほかの男になどなびくものですかと、つらい思いにも耐(た)えてきました。


(J4) 中村(晃) 2005
村人たちはみな家を捨て、海に漂(ただよ)い、山に隠れ、わずかに村に残った人たちの多くは心変りして虎狼の気持ちとなり、女のひとり住居をよいことにして、甘言をもってわたしに言いよって来ました。しかしわたしは貞操を守って玉と砕け散ろうとも、肌身を汚されてまで、瓦(かわら)のように醜(みにく)く生き長らえることはすまいと覚悟して、いく度となく辛(つら)い思いを耐え忍んで来ました。


(J5) 雨月妖魅堂 2004
里の者は皆家を捨てて海に漂流し、または山へと逃げ隠れました。偶々残った人々も、その殆どが残忍な虎狼の心を持っており、私に夫がいないのをいいことに言葉巧みに誘って来ましたが、玉と砕けて貞操を守り抜いても瓦のように身を汚して生きることはすまいと心に決め、幾度も辛いのを我慢しました。


(J6) 立原 2002
(……)戦(たたか)いに追われた人びとは、家をすてて海や山ににげたのです。のこったのは、虎(とら)や狼(おおかみ)のようなおそろしい心の人でした。女がひとりでいることにつけこんで、男たちがいいよってきます。わたしはいのちをすてても、あなたへの操(みさお)はまもりとおすつもりでしたし、そのとおりにいたしました。つらさにもさびしさにも耐(た)えて(……)

  • 立原えりか(たちはら・えりか)=著 『雨月物語』 浅茅が宿 21世紀によむ日本の古典17(全20巻) ポプラ社 2002/04

(J7) 高田+稲田 1997
(……)村人はみな家を捨てて海上に逃げ、山に逃げ隠れました。まれに残った人はたいてい虎や狼(おおかみ)のような恐ろしい心を持った人で、このようにひとり身になったのを好都合に思って、言葉たくみに誘惑するのですが、操(みさお)をつらぬき通して玉と砕けても、不義をして瓦のように醜く生きながらえることだけはすまいと、何度かつらい目をがまんしてきました。

  • 上田秋成=著 高田衛(たかだ・まもる)+稲田篤信(いなだ・あつのぶ)=校注 『雨月物語』 ちくま学芸文庫 1997/10

(J8) 葉山 1996
(……)苦しくて、辛(つら)いのは、あなたさまのことを考える夜昼でしたが…だって、あなたさまのこと以外に何一つ私にはなかったのですもの…それはいつかきっと会えると我慢(がまん)もできましたが、女ひとりだとわかると、いろいろ親切なことをいってくださる言葉のしたに、いやらしい、獣(けもの)の欲望(よくぼう)が隠(かく)されていて、いつも牙(きば)をむいて私に襲(おそ)いかかろうとしていたことです。私は、もしもあなたさま以外の男にこの肌(はだ)を汚(けが)されれば、その場で舌をかみきって死のうと覚悟(かくご)していました。そして、あるときなどは……」

  • 葉山修平(はやま・しゅうへい)=著 「浅茅が宿」 『亡霊』 親子で楽しむ歴史と古典11 勉誠社 1996/05 所収

(J9) 高田 1995
(……)村の人々は皆逃げ散り、家を捨てて海に漂い山に隠れして、稀々(まれまれ)に残ったのは、たいてい虎狼(ころう)の心を持った人、女の独居(ひとりずまい)を好都合(いいさいわい)とばかり、巧みな弁舌(くちさき)で言い寄るのです。たとえ玉と砕け散っても、不義をして瓦(かわら)のように醜く生命(いのち)永らえることだけはすまいと、幾度つらい目を耐え忍んだことか。


(J10) 石川 1991, 2006
(……)土地のひとびとはみな家を捨(す)てて海にうかみ山にかくれれば、たまたま残ったものとても、そのこころ根は虎(とら)おおかみ、女ひとりとつけこんで、ことばたくみに、いやらしいことばっかり、玉とくだけても瓦(かわら)の身にはなるまいものをと、いくたびかつらい目をしのびました。

   上田秋成=著 石川淳=訳 「浅茅が宿」
   a. 赤木かん子=編 岡本綺堂, 半藤一利〔ほか〕=著
     『語られると怖い話』 ホラーセレクション2
     ポプラ社 2006/03 所収
   b. 上田秋成=著 石川淳=訳
     『新釈雨月物語 新釈春雨物語』 ちくま文庫 1991/06
   a. の底本は b.


(J11) 平山 1989
村人たちはみな家をすててさまよい、山にかくれたりしてしまったのです。たまたま村に残った人は、たいていけだもののような心の持ち主で、わたしのようにひとりぐらしとなった女をつごうのよいことに思ってか、調子のよいことを言って誘惑(ゆうわく)しました。けれども、たとえこのまま死んでしまっても、よその男に乱暴(らんぼう)されて、価値(かち)のない瓦(かわら)のような体で生きのびることだけはしたくないと思って、何度も苦しい立場をたえしのびました。

  • 上田秋成=著 平山城児=訳 「浅茅が宿」 江河徹=編 『恐ろしい幽霊の話』 幻想文学館1 くもん出版 1989/08 所収

(J12) 大庭 1987, 1996
(……)村人たちはみな家を捨て、海路を逃れたり、山にかくれたりしました。たまに居残っている人たちは、飢えた虎(とら)か狼(おおかみ)と違うところもないような下心で、やもめ暮らしの私に言葉巧みに誘いをかけてきました。でも玉と砕けても、瓦(かわら)となってまで長らえたくはないものと、何度も危い目を忍びました。

   大庭みな子=著
   a.大庭みな子の雨月物語』 わたしの古典 集英社文庫 1996/08
   b.大庭みな子の雨月物語』 わたしの古典19 集英社 1987/06


(J13) 森 1986
(……)村のひとたちは、みんな、家をすてて、舟で他国へ逃げたり、山奥にはいったりしました。あとに残ったのは、騒動をいいことにして悪いことをしようという、おそろしい心のひとたちばかりです。ですから、わたくし、こわくって、こわくって、一日も安心した日がおくれませんでした。


(J14) 青木 1981
(……)里の人はみな家を捨てて、海に漂(ただよ)い出たり山に隠れ住んだりしたので、稀(まれ)に残った人はたいてい飢えた虎狼(とらおおかみ)のような恐ろしい心を隠し持っていて、こんな独(ひと)り身(み)になったのを幸(さいわ)いとばかりに、言葉を飾(かざ)って誘惑するけれど、玉(たま)として砕け散っても瓦(かわら)になって長らえたりはしたくないのだと、何度かつらい目をたえてもきました。

  • 上田秋成=著 青木正次(あおき・まさじ)=訳 『雨月物語(上)』 (全2巻)講談社学術文庫 1981/06

(J15) 神保 1980, 2004
(……)村人は皆家を捨て、海に漂(ただよ)い、山に隠れ、稀々(まれまれ)に村に残った人は、多くは虎狼(ころう)の心を持っていて、私のひとり住居(ずまい)を好都合と思ってか、甘言を弄して言い寄りましたが、貞操を守って、玉と砕け散ろうとも、肌身を汚(けが)して瓦(かわら)のように醜く生きながらえることはすまいと、いくたびか辛(つら)い思いを耐え忍びました。

   上田秋成=著 神保五彌(じんぼう・かずや)=訳 「雨月物語」
   a.雨月物語・春雨物語—若い人への古典案内
     教養ワイドコレクション〈クラシックへの遊学〉 文元社 2004/02
   b.雨月物語・春雨物語—若い人への古典案内
     現代教養文庫 社会思想社 1980/10/30
   a.b. の2001年刊31刷を原本としたオンデマンド版。
   引用は b. に拠りました。


(J16) 後藤 1980, 2002
(……)里の人々はみんな家を捨てて海や山に逃げ隠れてしまいました。たまたま残っている人といえば、これはほとんどが虎(とら)か狼(おおかみ)のように何かを狙っている人で、わたしがこうして一人暮しをしているのを、これ幸いと思うのでしょう。手を変え品を変えして誘惑して来ましたけれども、たとえ玉と砕けようとも、不義の生き恥だけはさらすまいと、幾度も辛くて危険な目を耐え忍び、逃れて参ったのです。

   後藤明生(ごとう・めいせい)=訳 「雨月物語」
   a. 後藤明生=著 『雨月物語
     学研M文庫 学習研究社 2002/07 所収
   b.現代語訳・日本の古典19 雨月物語・春雨物語』(全21巻)
     学習研究社 1980/04 所収
   引用は a. に拠りました。


(J17) 中村(幸) 1977
(……)村人はみな住家を捨てて、海よりにげ、山にこもりましたので、わずかに残った人はといえば、だいたい悪い野心をいだく連中で、このように一人身になりましたのを、よい都合に思いましてか、好言をもって誘惑しますけれど、操を立て通してたて生命はなくなりますとも、生きて不義の汚名を取りますまいと、覚悟して、何度も何度もつらい目をたえ忍びました。


(J18) 円地 1976, 1988, etc.
(……)里の人たちはみな家を捨てて船路に逃げのびたり、山にこもったりしました。たまたま居残っている人たちは、まるで虎(とら)や狼(おおかみ)のような恐ろしい心にかわって、私が寡(やもめ)でひとり暮らしているのをよい幸いと思うのか、ことばを巧みに誘って来ましたけれども、玉のままでいさぎよく砕けちっても、瓦となって長生きしたくはないと思いさだめて、いくたびとなく、それはそれはつらい目を忍びました。

   上田秋成=作 円地文子=訳 「雨月物語」
   a.現代語訳 雨月物語・春雨物語
     河出文庫 河出書房新社 2008/07/04 所収
   b.雨月物語・浮世床・春雨物語・春色梅暦
     作者:上田秋成、式亭三馬、為永春水
     訳者:円地文子、久保田万太郎、舟橋聖一
     日本古典文庫20 河出書房新社 新装版 1988/04 所収
   c.雨月物語・浮世床・春雨物語・春色梅暦
     日本古典文庫20 河出書房新社 1976/10 所収


(J19) 藤本 1975
(……)村の人は山の方へ、海の方へと避難しました。村に残った人は、みんな貪欲(どんよく)な人ばかりで、戦いでひと儲(もう)けしてやろうという人もあれば、人間のみにくい欲望の谷を満そうと思う人ばかりで、一人住いのあたしを狙(ねろ)うて、言葉巧みに誘おうとしたのです。あたしは、操(みさお)を守って死ぬのは、不義を犯して生きながらえるよりも尊いと、その一心で生きてまいりました。


(J20) 松崎 1966
(……)ここの人たちはみな家をすてて逃げ、わずかに残った人はといえば、たいてい残忍な心の持ち主でした。私がひとり暮らしになったのを好都合とばかりに、うまいことをいって誘惑するのです。でも私は、命をすてても操を守ろうと決心して、なんどつらいめに会っても、いっしょうけんめい、たえしのんできました。

  • 上田秋成=原作 松崎仁(まつざき・ひとし)=編著 『雨月・春雨物語』 古典文学全集20 ポプラ社 1966/04/10 所収 [原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

(J21) 大輪 1960, 1988
[訳文は追って挿入するつもりです - tomoki y.]

   上田秋成=著 大輪靖宏(おおわ・やすひろ)=訳注
   a.雨月物語 (対訳古典シリーズ)』 旺文社文庫 1988/04
   b.雨月物語—現代語訳対照』 旺文社文庫 1960/01


(J22) 鵜月 1959, 1970, etc.
村人はみんな家を捨てては海や山に逃げかくれてしまいましたので、まれに残っている人といえば、たいてい虎か狼のようにおそろしい貪婪(どんらん)な心を持った人で、私がこうして一人暮らしをしているのをいいさいわいと思うのでしょうか、言葉たくみに誘惑するのですが、玉砕瓦全(ぎょくさいがぜん)の言葉のように、たとえ操を守って死すとも、不義をして命ながらえる道は踏むまいと決意して、そのために幾度もつらいめをたえしのんできたのです。

   上田秋成=著 鵜月洋(うづき・ひろし)=訳注
   a.改訂版 雨月物語—現代語訳付き』 角川ソフィア文庫 2006/07
   b.雨月物語—付現代語訳』 角川文庫 1970
   c.雨月物語—附現代語譯』 角川文庫 1959/11/30
   引用は a. に拠りました。


(J23) 重友 1953
(……)この里の人たちも、みんなそれぞれの家を捨て、舟に乘って遠くへゆくか、山奥へかくれるかして、あとにのこる人といえば、たいていは恐ろしい人ばかりで、このわたくしが一人でいるのをよいことに、口を巧みにいい寄りなどしましたが、どんなことがあろうとも、操は守り通そうと、どんなに苦勞したことか知れません。


■日本語原文 The original text in 18th century Japanese

(……)里人は皆家を捨てて海に漂(ただよ)ひ山に隠(こも)れば、適(たまたま)に残りたる人は、多く虎狼(こらう)の心ありて、かく寡(やもめ)となりしを便(たよ)りよしとや、言(ことば)を巧(たく)みていざなへども玉と砕(くだけ)ても瓦(かはら)の全(また)きにはならはじものをと、幾たびか辛苦(からきめ)を忍(しの)びぬる。


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2016/11/06 円城塔=訳 2015/11/30 を追加しました。
  • 2010/12/08 神保五彌=訳 1980/10/30 と重友毅=譯 1953/12/20 の訳文を挿入しました。
  • 2010/12/07 森三千代=著 1986/03/20 を追加しました。また、重友毅=訳 1953 の書誌情報を追加しました。訳文は追って挿入するつもりです。さらに、円地文子=訳の書誌情報を補足しました。
  • 2010/12/01 菅家祐=文 2008/02/17 を追加しました。また、鵜月洋=訳注の書誌情報を修正し、神保五彌=訳と大輪靖宏=訳注の書誌情報を追加しました。さらに、外部リンクの項を新設しました。
  • 2010/11/29 中村晃=著 2005/11/01 を追加しました。
  • 2010/09/28 フランス語訳と簡体字中国語訳の書誌情報を追加しました。また、表紙画像を追加しました。
  • 2010/08/01 岩井志麻子=著 2009/10/25 を追加しました。
  • 2010/06/10 つぎの3本の YouTube 動画を追加しました。
      1) 宝塚歌劇 『浅茅が宿』 (1)
      2) 映画 『雨月物語』 (1953)
      3) 『雨月物語』 (1953) 関係者インタビュー
  • 2008/02/13 藤本義一=訳 1975 を追加しました。
  • 2007/07/21 中村幸彦=訳 1977/02 を追加しました。
  • 2007/06/19 立原えりか=著 2002/04、高田衛+稲田篤信=訳 1997/10、および葉山修平=著 1996/05 を追加しました。
  • 2007/05/15 松崎仁=訳 1966/04 を追加しました。
  • 2007/04/16 日本語原文の仮名遣いの誤りを訂正し、その書誌情報を補足しました。
  • 2007/04/14 鵜月洋=訳 2006/07、後藤明生=訳 2002/07、および円地文子=訳 1976/10 を追加しました。
  • 2007/04/11 青木正次=訳 1981/06 を追加しました。

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Wednesday, 04 April 2007

The Story of Mimi-Nashi-Hoichi by Lafcadio Hearn ラフカディオ・ハーン/小泉八雲「耳なし芳一」

a. B00004w3hf b. Creolecookbook c. 520flaefd

d. Hearn_1 e. 4484981157 f. 4623040445

             ↑ Click to enlarge ↑
 
a.『怪談』(1964) 監督:小林正樹 出演:三國連太郎、岸恵子 ほか
 Image source: Japan-101.com
b. Lafcadio Hearn's Creole Cookbook, supposedly the first Creole
 cookbook ever written. Image source: The Book Merchant
c. Lafcadio Hearn at the age of 40 in Matsue City.
 Image source: Metropolis Tokyo
d. Page 1 of "A Dead Secret" (「葬られた秘密」), a six page story
 that was done as a sample of the larger manga book:
 Lafcadio Hearn's Japanese Ghost Stories, written by Sean Michael Wilson
 and illustrated by Haruka Miyabi (out in spring 2007 from a new US
 publishing house Demented Dragon).
e.『ラフカディオ・ハーンのクレオール料理読本』TBSブリタニカ (1998).
 上掲 b. の邦訳。
f. 平川祐弘=著『ラフカディオ・ハーン—植民地化・キリスト教化・文明開化
 ミネルヴァ書房 (2004)
 
 
■日本語訳の例 A list of some translations into Japanese

    訳者    作品名     書名   出版社/シリーズ  発行年
0. 小林幸治 -- 耳なし芳一の話 -- 『怪談:怪しい物の話と研究』 --
                               プロジェクト杉田玄白 -- 2007
1a.池田雅之 -- 耳無し芳一 -- 『新編 日本の怪談』 -- 角川ソフィア文庫 -- 2005
1b.池田雅之 -- 耳無し芳一 -- 『妖怪・妖精譚』 -- ちくま文庫 -- 2004
2. 荻野祥生 -- 耳なし芳一の話 -- 『小泉八雲 日本の心』 -- 彩図社 -- 2003
3. 脇 明子 -- 耳なし芳一の話 -- 『雪女 夏の日の夢』 -- 岩波少年文庫 -- 2003
4. 船木 裕 -- 耳なし芳一 -- 『完訳 怪談』 -- ちくま文庫 -- 1994
5a.保永貞夫 -- 耳なし芳一 -- 『齋藤孝のイッキによめる!…』 -- 講談社 -- 2005
5b.保永貞夫 -- 耳なし芳一 -- 『八雲怪談傑作集』 -- 講談社青い鳥文庫 -- 1992
6. 平川祐弘 -- 耳なし芳一 -- 『怪談・奇談』 -- 講談社学術文庫 -- 1990
7. 中山伸子 -- 耳なし芳一 -- 『恐ろしい幽霊の話』 -- くもん出版 -- 1989
8. 奥田裕子 -- 耳なし芳一 -- 『小泉八雲作品集3』 -- 河出書房新社 -- 1977
9. 斎藤正二 -- 耳なし芳一のはなし -- 『完訳 怪談』 -- 講談社文庫 -- 1976
10. 上田和夫 -- 耳なし芳一のはなし -- 『小泉八雲集』 -- 新潮文庫(新) -- 1975
11. 白木 茂 -- 耳なし芳一の話 -- 『怪談』 -- 旺文社ジュニア図書館 -- 1971
12a.平井呈一 -- 耳なし芳一のはなし -- 『怪談』 -- 岩波文庫(改版) -- 1965
12b.平井呈一 -- 耳なし芳一の話 -- 『全訳 小泉八雲作品集10』 -- 恒文社 -- 1964
13. 田代美千稔 -- 耳なし芳一のはなし -- 『怪談・奇談』 -- 角川文庫 -- 1956
14. 平井程一 -- 耳無芳一のはなし -- 『怪談』 -- 岩波文庫(旧版) -- 1940
15. 山本供平 -- 耳無し芳一の話 -- 『Kwaidan (2)』 -- 春陽堂 -- 1932
16a.森 銑三+萩原恭平 -- 耳なし芳一の話 -- 『十六桜』 -- 研文社 -- 1990
16b.刈谷新三郎+萩原恭平 --
           耳なし芳一の話 -- 『小泉八雲選集2』 -- 嶺光社 -- 1927
17a.戸川明三 -- 耳無芳一の話(新字・新かな) 青空文庫 -- 2004
17b.戸川明三 -- 耳無芳一の話 -- 『小泉八雲集(上)』 -- 新潮文庫(旧) -- 1950
17c.戸川明三 -- 耳無芳一の話 -- 『小泉八雲全集8家庭版』 -- 第一書房 -- 1937
17d.戸川明三 -- 耳無芳一の話 -- 『小泉八雲全集7學生版』 -- 第一書房 -- 1931
17e.戸川明三 -- 耳無芳一の話 -- 『小泉八雲全集7』 -- 第一書房 -- 1926


■上掲日本語訳からの抜粋 Excerpts from the translations listed above

0. 小林 2007
(……)男たちは直ちに墓地へ駆けつけ、そこで、提灯の明かりを頼りに・・・雨の中を唯ひとり安徳天皇の慰霊碑の前に座り、琵琶の音を響かせ、壇ノ浦の合戦のくだりを大声で詠唱している・・・芳一を探し当てた。彼の背後や周囲の墓石の上のいたる所に死人の炎が蝋燭の火のように燃えていた。かつてこれほど多くの鬼火の群れが生者(しょうじゃ)を前に現れた事はなかった。

   ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)=著 小林幸治=訳「耳なし芳一の話
   『怪談:怪しい物の話と研究
   プロジェクト杉田玄白 正式参加作品 2007/08


1. 池田 2004, 2005
(……)男たちは、すぐに墓地へと急ぎ、提灯の明かりをたよりに、芳一を見つけだしました。
 芳一は、安徳天皇の墓碑の前で、雨にうたれながらひとり座って、琵琶をかきならし、壇の浦の合戦のくだりを声高(こわだか)く吟じているところでした。芳一のうしろにも、まわりにも、墓の上にも、いたるところに、死者の火が、ろうそくのように揺れているではありませんか。これまで、こんなにたくさんの鬼火が、人の目の前に現れたことはありませんでした。
   小泉八雲=著 池田雅之(いけだ・まさゆき)=訳「耳無し芳一」
   1a. 池田雅之=編訳『新編 日本の怪談』角川ソフィア文庫 2005/07 所収
   1b. 池田雅之=編訳『妖怪・妖精譚』小泉八雲コレクション
    ちくま文庫 2004/08 所収

   上の引用は 1b. に依拠しました。1a.1b. とでは、用字・改行など細部が
   少し異なります。
 
 
2. 荻野 2003
(……)寺男は墓地へ急いだ。
 そこには雨の中、独り、安徳天皇の御陵(ごりょう)の前で琵琶を掻き鳴らし、壇ノ浦の合戦を吟じている芳一の姿があった。芳一を取り囲むように、また、墓地のいたるところにも、数知れぬ鬼火が、蝋燭(ろうそく)のように燃えていた。かつてこれほどの鬼火が現れたことはなかった。
   ラフカディオ・ハーン=著 荻野祥生=訳
   「耳なし芳一の話」
   和田久實(わだ・ひさみつ)=監訳『小泉八雲 日本の心
   彩図社 2003/08 所収
 
 
3. 脇 2003
(……)それでも寺男たちは、墓地へと急いだ。
 提灯(ちょうちん)の明かりで照(て)らしてみると、はたしてそこには芳一(ほういち)がいた。雨に打たれてただ一人、安徳(あんとく)天皇のために作られた墓碑(ぼひ)の前にすわった芳一は、琵琶(びわ)を奏(かな)で、壇之浦(だんのうら)の戦いの物語を朗々(ろうろう)と語っていた。そのうしろや、身体(からだ)のまわり、そこらじゅうの墓(はか)の上では、亡霊(ぼうれい)たちの炎(ほのお)がろうろくのように燃えていた。生きている人間の目に、そんなにたくさんの鬼火(おにび)が一度に見えたためしはなかった。
   ラフカディオ・ハーン=著 脇明子(わき・あきこ)=訳
   「耳なし芳一の話」
   『雪女 夏の日の夢』岩波少年文庫 2003/03 所収
 
 

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Tuesday, 03 April 2007

The Case of Lady Sannox by Arthur Conan Doyle コナン・ドイル 「サノックス卿夫人の事件」

 Cover Photos  表紙画像
a. 01802458 b. Late_victorian_gothic_tales c. C6992

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■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 坂崎 1992
「それでは、切除ですか?」
「それなのです。もし毒が指についたら指を切るしかない、父はいつもそういっておりました。しかし、毒がどこについたかをお考えください。しかもそれは、わたくしの妻なのです。おそろしいことです。」
 けれども、ぞっとするような話でも、よく頭にはいってくれば同情の気持ちもうすらいでくるものだ。ダグラス・ストーンにとって、これはすでにおもしろい症例の一つにすぎなかった。夫のよわよわしいためらいは、もうどうでもよいことだった。
「切りとるか、死を待つか、二つに一つのようですな。」彼はそっけなくいった。生命をなくすより、唇をなくすほうがいい。」
「ああ、そうなのです。おっしゃるとおりです。そう、これも神のおぼしめしです。にげるわけにはいきません。辻馬車をまたせております。いっしょにおいでいただけますか? なにぶん、よろしくおねがいします。」
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]


(J2) 江河 1989
「じゃ、傷口を切りとるのですな?」
「そうです。指でしたら、その指を切りとることになります。父はいつもそう言っておりました。ところがこんどの傷は場所が悪い。しかもわたしの家内ときている。じつにひどいことになりました!」
 しかし、こういうひどいことでも、いつもまのあたりにしていると、気の毒に思う気持ちがうすれてくるものだ。ダグラス・ストーンの頭のなかでは、この手術もすでに興味をそそる仕事としか思えなくなっていた。だから、夫しての気弱な反対もきっぱりはねつけてしまった。
「ふたつにひとつの選択しかないようですな。唇をなくしても、命をなくすよりはまだましですよ」
 医者はそっけなく言った。
「いかにも、ごもっともです。それもこれも神さまのおぼしめしです。お受けしなければなりますまい。馬車を用意しておりますので、ごいっしょにおいでくださって、手術をやっていただけませんか」
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

  • ドイル=作 江河徹=訳 「サノックス卿夫人の事件」 江河徹=編 『悪夢のような異常な話』 幻想文学館4(全5巻) くもん出版 1989/08 所収

(J3) 小野寺 1985
「では、傷を切除することになりますか?」
「そのとおり。指のばあいなら指を一本切りとることになる。父はいつもそう言っていました。しかし、この傷は場所がわるい。そのうえ相手は妻です。とんでもないことになりました!」
 だが、こういう不幸も毎日経験しているとなれば、いつしか同情心が薄れるものだ。すでにこの手術も興味ぶかい症例としか思えなくなっていたダグラス・ストーンは、妻にたいする夫のためらいを愚劣とばかり一蹴した。
「切除するか諦めるか、どちらかのようですな。唇を失くしても、命を落とすよりはましですよ。」彼はぶっきらぼうに言った。
「ああ、いや、おっしゃるとおりです。これもやはりアッラーの神の思召しです。ひるんではなりません。馬車はありますので、いっしょにおいでくださって、やっていただけませんか。」

  • アーサー・コナン・ドイル=作 小野寺健=訳 「サノックス卿夫人秘話」 由良君美=編 『イギリス幻想小説傑作集』 白水Uブックス 白水社 1985/10 所収

(J4) 延原 1960, 2000
「では患部の切除はどうです?」
「それでござりますよ。指ででもあれば、切りおとせばよいわけです。父がいつもそう申しておりました。しかしこんどの場合、傷がどこにあるか、お考えください。それも私の家内なのでございますよ。おそろしいことで。」
 このような気味の悪いことも、なれれば細かい同情のやいばを鈍らすものらしい。ダグラス・ストーンにとってこれは、もはや興味ある病例でしかなかった。夫のよわよわしい苦情なぞ、もはや問題ではなかった。
「切除をするか、死ぬのを待つかです。」そっけなくいった。「口びる一つなくなすか、命をおとすかです。」
「はい、お言葉が正しいとは思いまするが……はて、さて、これが天命ならば、従うしかありません。馬車を用意してきています。ご同道ねがって万事よろしく。」

  • コナン・ドイル=著 延原謙(のぶはら・けん)=訳 「サノクス令夫人」
    • ヘンリー・ジェイムズ〔ほか〕=著 『復讐』 書物の王国16 国書刊行会 2000/07 所収
    • ドイル傑作集3—恐怖編』 新潮文庫 1960/07 所収
  • 引用は a. 国書刊行会版に拠りました。

(J5) 水野 1932, 2006
「フーン、では傷の箇所を切除するんですか?」
「さうです。もし指に毒がはひつたら、その指を切れと、よく父が申しました。ですが、傷のある場所を考へて下さい。然(しか)も私の妻なのです。何(な)んといふ恐ろしいことでせう!」
 併し、斯樣(かやう)な惨忍(ざんにん)なことに馴れた身には、その位なんでもなかつた。殊にダグラス・ストーンにとつては、それが却つて興味のある事件なのだつた。で、彼は悲嘆に暮れた土耳古(トルコ)人のさへぎるのを勢ひよく掃(はら)ひのけた。
「どうも仕方がないでせう。」と、彼は無愛想に云つた。
「唇を失ふのは、生命(いのち)を亡くすよりも、まだましですからネ。」
「それはマアさうです。貴君(あなた)の仰しやる通りですが……これも宿世(すぐせ)と、あきらめませう。では、馬車が外に待たしてありますから、何卒(どうぞ)私と一緒にお出でになつて下さい。」
[原文は総ルビですが、ここではその一部を省略しました - tomoki y.]

  • コナン・ドイル=著 水野一郎=譯 「サノツクス夫人事件」
  • a. は b. を復刻したもの。引用は a. の復刻版に拠りました。


(J6) 櫻井 1925
『それでは切開手術を希望なさるのですね。』
『さうなのです。若し、毒が指先きにムいましたならば指も切斷して頂きたいのです。全く恐ろしいことでムいます。』
『生命を失ふよりは唇を失ふ方が未だあきらめいゝと思ひます。』
『あゝ全くその通りでムいます。さう、さう運に委せませう。仕方ありません。では馬車で何卒私と一緒に御出で下さいまし。』

  • コナン・ドイル=著 櫻井邦雄(さくらい・くにお)=譯 「サンノツクス夫人の立場」 『赤ランプ』 萬國怪奇探偵叢書 12 金剛社 定價金壹圓 1925/11(大正14) 国立国会図書館デジタル化資料
  • 原文は総ルビですが、ここではそれを省略しました。

■ロシア語訳 Translation into Russian

- Тогда - иссечение раны?

- Да, только это. Если рана на пальце, отрежь палец, так всегда говорил мой отец. Но у нее-то рана на губе, вы подумайте только, и ведь это моя жена. Ужасно!

Но близкое знакомство с подобными жестокими фактами может притупить у человека остроту сочувствия. Для Дугласа Стоуна это уже был просто интересный хирургичский случай, и он решительно отметал как несущественные слабые возражения мужа.

- Или это, или ничего, - резко сказал он. - Лучше потерять губу, чем жизнь.

- Да, вы, конечно, правы. Ну что ж, это судьба и с ней надо смириться. Я взял кэб, и вы поедете вместе со мной и сделаете, что надо.

  • Артур Конан Дойл. Случай леди Сэннокс
  • E-text at Аделанта (Adelanta)

■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese

- Nesse caso, a incisão da ferida?

- É isso. Se fosse no dedo, cortar o dedo. É o que sempre dizia o meu pai. Mas pense no sítio onde se encontra a ferida, e pense que ela é a minha mulher... É horrível!

A frequência destas situações horríveis pode embotar a simpatia de um homem. Para Douglas Stone, era já um caso interessante, e repeliu por inaceitáveis as objecções do marido.

- Parece que é isso ou nada - disse ele bruscamente. - Vale mais perder um lábio do que a vida.

- Ah!, sim, sei que o senhor tem razão. Devemos arriscar. Tenho um fiacre. O senhor virá comigo e fará a operação. 


■スペイン語訳 Translation into Spanish

-Habrá que extirpar el órgano herido.

-Eso es; si la herida es en un dedo, se arranca el dedo. Es lo que decía siempre mi padre. Pero piense usted en dónde está la herida en este caso y en que se trata de mi esposa. ¡Es horrible!

Pero, en asuntos tan dolorosos, el hallarse familiarizado con ellos puede embotar la simpatía de un hombre. Para Douglas Stone aquel caso era ya interesante, e hizo a un lado como cosa sin importancia las débiles objeciones del marido, diciendo con brusquedad:

-Por lo que se ve, no hay otra alternativa. Es preferible perder un labio a perder una vida.

-Sí, reconozco que eso que dice es cierto. Bien, bien, es el destino, y no hay más remedio que aceptarlo. Tengo abajo el coche, vendrá usted conmigo y realizará la operación.

  • El caso de lady Sannox by Arthur Conan Doyle
  • E-text at Ciudad Seva

 Audio 
英語原文のオーディオブック(朗読) The Case of Lady Sannox: Audiobook in English

下に引用した箇所の朗読は 12:19 あたりから始まります。 Uploaded to YouTube by freeaudiobooks84 on 4 Jan 2013. Audio courtesy of LibriVox. Read by Betsie Bush. The excerpt below starts around 12:19.


■英語原文 The original text in English

"Excision of the wound, then?"

"That is it.  If it be on the finger, take the finger off.  So said my father always.  But think of where this wound is, and that it is my wife.  It is dreadful!"

But familiarity with such grim matters may take the finer edge from a man's sympathy.  To Douglas Stone this was already an interesting case, and he brushed aside as irrelevant the feeble objections of the husband.

"It appears to be that or nothing," said he brusquely.  "It is better to lose a lip than a life."

"Ah, yes, I know that you are right.  Well, well, it is kismet, and it must be faced.  I have the cab, and you will come with me and do this thing."


■邦題の異同 Variations of the title in Japanese

  • 「サノクス令夫人」………………延原 1960, 2000
  • 「サノックス卿夫人」……………坂崎 1992
  • 「サノックス卿夫人の事件」……江河 1989
  • 「サノックス卿夫人秘話」………小野寺 1985
  • 「サノツクス夫人事件」…………水野 1932, 2006
  • 「サンノツクス夫人の立場」……櫻井 1925

■更新履歴 Change log

  • 2014/12/31 ロシア語訳、ポルトガル語訳、およびスペイン語訳を追加しました。
  • 2013/07/21 櫻井邦雄=譯 1925/11 を追加しました。
  • 2013/03/03 LibriVox による朗読の YouTube 画面を追加しました。
  • 2008/02/01 水野一郎=譯 2006/03 を追加しました。

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■洋書 Books in non-Japanese languages

■和書 Books in Japanese

  

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Monday, 02 April 2007

木坂涼 「豚」 Buta, a poem by Kisaka Ryo

 

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a. 71nwwbwmfjl  b. Photo_2  c. Photo

 
 
 
    豚(ぶた)
             木坂 涼(きさか・りょう)
 
 
ハム、ソーセージ
ベーコン
焼き豚
  

 
背ロース、肩ロース
肩肉、ばら肉、もも肉、すね肉
ヒレ
 

ステーキ
カツレツ
酢豚(すぶた) 
 

 
骨、頭、皮、耳、鼻、しっぽ
ひづめ、血液
スープ、ラード
 
泥(どろ)に背中をこすりつけるのが目を細めるとき
でした
子だくさん
でした 
 

  • 川崎洋(かわさき・ひろし)=編 佐々木マキ=絵 『ユーモアの香り』 あなたにおくる世界の名詩 7 岩崎書店 1997/04 所収
  • 出典: 木坂涼=著 『金色の網』 思潮社 1996/08

■更新履歴 Change log

  • 2017-09-13 『金色の網』の表紙画像を追加しました。

 
  
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