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Monday, 09 April 2007

The Adventures of Huckleberry Finn by Mark Twain (1) マーク・トウェイン 『ハックルベリー・フィンの冒険』 (1)

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        目次 Table of Contents

◾️はじめに Introduction
 Images  表紙画像 Cover photos
■中国語訳(簡体字)Translation into simplified Chinese
■中國語譯(繁體字)Translation into traditional Chinese
■日本語訳 Translations into Japanese
  (J1) 柴田 2017
  (J2) 土屋 2014
  (J3) 訳者未確認 2005
  (J4) 加島 2001
  (J5) 大久保 1999, 2004
  (J6) 勝浦 1998
  (J7) 大塚 1997
  (J8) 斉藤 1996
  (J9) 山本 1996
  (J10) 渡辺 1980, 1991
  (J11) 大岩 1979
  (J12) 加島 1979
  (J13) 西田 1977
  (J14) 久保田 1976
  (J15) 野崎 1971, 1976
  (J16) 西村 1970
  (J17) 刈田 1969
  (J18) 小島 1966, 1993
  (J19) 斎藤 1962
  (J20) 石川 1958, 1966, etc.
  (J21) 村岡 1959
[1はここまで]

2へ続く]
  (J22) 吉田 1956, 1976, etc.
  (J23) 佐々木 1951
  (J24) 中村 1941, 1950
  (J25) その他
■ロシア語訳 Translation into Russian
■ウクライナ語訳 Translation into Ukrainian
■ブルガリア語訳 Translation into Bulgarian
■ドイツ語訳 Translation into German
■イタリア語訳 Translation into Italian
■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese
■カタルーニャ語訳(カタロニア語訳) Translation into Catalan
■スペイン語訳 Translation into Spanish
■フランス語訳(部分) Translation into French (fragmental)
 Audio 1  朗読: ジョン・グリーンマン Audiobook read by John Greenman
 Audio 2  朗読: オーディオ・アーカイブ Audiobook presented by The Audio Archive
 Audio 3  朗読: マーク・F・スミス Videobook read by Mark F. Smith
■英語原文 The original text in English
■邦題の異同 Variations of the title in Japanese
■Mark Twainの日本語表記の異同 Transliteration variations of "Mark Twain" in Japanese
■一人称 First-person pronouns (What does Huck Finn call himself in Japanese?)
■更新履歴 Change log


 Images 
表紙画像 Cover photos

a. 693533 b. 448003650409 c. Huck_finn_german

d. C e. 849764697501 f. 7218138
 
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◾️はじめに Introduction

マーク・トウェインの小説『ハックルベリー・フィンの冒険』の第31章から引用します。


■中国語訳(簡体字)Translation into simplified Chinese

  这可是个叫人左右为难的事啊。我把纸拣了起来,拿在手里。我在发抖。因为我得在两条路中选择一条,而且永远也不能反悔。这是我深深知道的。我认真考虑了一分钟,并且几乎屏住了气考虑的,随后我对自个儿说:
  “那好吧,就让我去下地狱吧。”——随手把纸给撕了——
  这可是可怕的念头,可怕的话语啊,不过我就是这么说了。并且我既然说出了口,我就从没有想过要改邪归正。我把整个儿这件事从脑袋里统统赶了出去。我说,我要重新走邪恶这一条路,这是我的本行,从小就这样长大的嘛。走别的路就不内行了。作为开头第一件事,我要去活动起来,把杰姆从奴隶的境地给偷出来。要是我还能想出比这更为邪恶的主意,我也会照干不误。因为既然我是干的这一行,那么,只要有利,我便要干到底。

  • 《哈克贝利.费恩历险记》 作者:马克·吐温
  • E-text at 21works 经典阅读 (www.21works.cn)

■中國語譯(繁體字)Translation into traditional Chinese

  這可是個叫人左右為難的事啊。我把紙揀了起來,拿在手里。我在發抖。因為我得在兩條路中選擇一條,而且永遠也不能反悔。這是我深深知道的。我認真考慮了一分鐘,并且几乎屏住了气考慮的,隨后我對自個儿說:
  “那好吧,就讓我去下地獄吧。”——隨手把紙給撕了。
  這可是可怕的念頭,可怕的話語啊,不過我就是這么說了。并且我既然說出了口,我就從沒有想過要改邪歸正。我把整個儿這件事從腦袋里統統赶了出去。我說,我要重新走邪惡這一條路,這是我的本行,從小就這樣長大的嘛。走別的路就不內行了。作為開頭第一件事,我要去活動起來,把杰姆從奴隸的境地給偷出來。要是我還能想出比這更為邪惡的主意,我也會照干不誤。因為既然我是干的這一行,那么,只要有利,我便要干到底。

  • 馬克·吐溫 《哈克貝里·芬歷險記》
  • E-text at 龍騰世紀 (millionbook.net)

■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 柴田 2017
 きわどいところだった。おれはその紙をひろって、にぎりしめた。からだがふるえていた。ふたつにひとつ、どっちかにキッパリきめなくちゃいけない。おれはイキを半ぶんとめて、しばしかんがえた。それから、ムネのうちで言った——
「よしわかった、ならおれは地ごくに行こう」。そして紙をビリビリにやぶいた。
 さいこうにわるいかんがえ、さいこうにわるいコトバだったけど、とにかく言ってしまった。そして言ってしまったままとりけさなかったし、それっきりおれは、心を入れかえるなんてこともかんがえなかった。まるごとぜんぶ、アタマの外にほうりだした。おれはまたわるいことやるんだ、それがおれのりょうぶんなんだ。そういうふうにそだったんだから、いいことするのはおれのりょうぶんじゃない、そうおもった。手はじめにまず、ジムをもういっぺんドレイの身からぬすみだすシゴトにかかる。もっとひどいことおもいついたら、それもやる。どうせやるんだったら、どうせずっとやるんだったら、とことんやっちまったほうがいい。


(J2) 土屋 2014
 どうしよう? おいら、手紙を拾い上げて、手に持った。からだがぶるぶる震えた。ここでどっちかに決めたらそれっきりだってわかってたから。おいらは一分ぐらい息を止めて考えて、それから自分に向かって言った。
「いいや、おいら、地獄に行く」——そんで、おいらは手紙を破った。
 恐(おっそ)ろしい考えだし、恐(おっそ)ろしい言葉だけど、言っちまったもんは言っちまったもんだ。取り消すつもりはねえ。もう改心なんか考えねえぞ。ぜんぶ頭ん中から追い出して、おいら悪ガキにもどるんだ、ってつぶやいた。それがおいらには合ってる。おいら、そういうふうに育ったんだもん。いい子なんか、似合わねえや。で、手はじめに、ジムをもういっぺん奴隷の身から逃してやることにした。もっと悪いことを思いついたら、それだってやってやる。どうせ悪ガキで、この先もずっと悪ガキでいるんなら、とことんやってやるぞって思った。


(J3) 訳者未確認 2005
 今考えてもギリギリのところだった。その紙を拾って手に握り締めた。おいらはその時点で善か悪かを決めないといけないので震えていた。ほんのちょっとその紙に目を落とし、息を止めて、そして自分にこういった。
「わかったよ、こうなったら地獄にでもどこへでもいってやらぁ」といって紙を千切り捨てた。
 それは恐ろしい考えで、恐ろしい言葉だったけれど、もう後には戻れない。もう二度と改心することなんか考えない。頭からすっぱり忘れ去ってやる。育ちが悪いのだからもっと悪さをしてやるぜ。手始めにジムを盗み出して、もっと悪いことを思いついたらそれもやってやらぁ。本当にやるぜ、だってもう二度と後戻りはできないのだから地に落ちるのならトコトンやるまでさ。


(J4) 加島 2001
 ああ、ジムを密告しようか、助けようか。ああ、どっちにするか。おれ、ほんとに思い迷った。その手紙をとりあげて、手にじっと持ったまま、身を震わせたよ。だって、どっちにするか、ここで最後の腹をきめなきゃならないってことが、自分でも分かってたからだ。しばらく息を殺して考えてたけど——それから、こう言ったよ——
「ようし、こうなったら、おれ、地獄へ堕ちてやれ」——そして、手紙を破いちまった。
 それは恐ろしい考えだし、恐ろしい言葉だけど、もう口から出ちまったんだ。口に出した以上は、もう悔い改めようなんて考えなかった。頭の中から世間の教えなんかきっぱり追っ払っちまって、よこしまな生き方のほうを取ってやれって、そう思った。そのほうがおれらしいんだ。どうせそういうふうに育てられたんだから、その反対の生き方はおれには向いてないんだ。だから、まず手始めに、うまくジムを盗み出して奴隷の身からもういっぺん自由にしてやろう、その後で、もっと世間では正しくないことを考えついたら、そいつもやってやろう、と思ったね。どうせもう、正しくない横道にはまり込んだんだ、引っ返しがきかないなら、とことんまで行ってやれ、とそう思ったんだ。


(J5) 大久保 1999, 2004
 それは、重大な選択を迫る紙切れだった。おいらは、それを取り上げた。そして、手に持った。体はブルブルと震えていた。なぜって、おいらは決めなけりゃならなかったからだ。永久に、二つのうちのどちらかをだ。そして、そのことは、自分でも分かっていた。おいらは、チョットのあいだ、考えた。息は止まっているようだった。そのうちに、おいらは、心の中でこう言った。
「よし、それなら、オレは地獄に行こう」——そして、その紙を破いた。
 それは、恐ろしい考えだった。そして、恐ろしい言葉だった。だが、もう口から出てしまった。おいらはそれを、口から出たままにしておいた。悔い改めようなんて、もう考えなかった。そんなことは、みんな頭から追い出しちまった。そして言った。オレはまた性悪な人間にもどろう、それがオレの性に合ってるんだ、そのように育てられたんだからな、その反対のほうはダメなんだ、ってな。そして手始めに、ジムを盗み出して、また奴隷の身から救ってやる仕事にとりかかろう、と思った。そして、もっと悪いことを考えることができたら、そいつもやってやろう、と思った。なぜって、いったん嵌(は)まり込んだからには、永久に嵌まり込んだからには、トコトンまでやっちまったほうがいいからだ。

  • マーク・トウェイン=著 大久保博=訳 『ハックルベリ・フィンの冒険』 角川書店(単行本 1999/09|文庫 2004/08)

(J6) 勝浦 1998
 ぼくは追いつめられ、その紙切れを取り上げて手に持った。身体がブルブル震えだした。だって、二つのうちのどっちかに覚悟を決めなきゃならないことが自分でも分かってたからだ。ぼくは息を止めるみたいにして、ちょっと考え、それから、こう言った—
「よーし、こうなったら、ぼくは地獄へ行こう!」—そしてぼくはその紙を破いてしまった。
 恐ろしいことを考え、恐ろしいことを言ったもんだけど、もう口から出てしまったのだ。そしてぼくはその言葉を引っこめようとはしなかった。また、心を入れ替えようとも思わなかった。そういうことは一切合財ふりすててしまって、どうせぼくは育ちが悪いんだから、その方が性に合っている。その反対の方は駄目、また悪の道を歩こう、とぼくは言った。その手始めに、ジムを奴隷の境涯からまた救い出す仕事にとりかかろう。それよりもっと悪いことを思いついたら、そいつもやってのけるんだ。こうなったら、とことん行けるとこまで行くんだ、とぼくは考えた。


(J7) 大塚 1997
 ひどく切羽(せっぱ)つまったとこだった。おれは、その紙を拾いあげて、手にもった。身体(からだ)が、ふるえてた。なぜって、今おれは、この先(さき)いつまでも、二つのうちのどっちにするかを、きっぱり決めなきゃいけないんだし、それが自分にも分かっていたからだ。おれは、息(いき)を止(と)めるみたいにして、ちょっとのあいだ考え、それから、心のうちで、こう言った。
 「よし、それなら、おれは地獄(じごく)に行こう!」……そして、その紙を破(やぶ)いちまった。
 それは、おそろしい考えだったし、おそろしい言葉だった。けれど、もう、言っちまってた。そしておれは、その言葉を言っちまったまんまにしておいた。そうして、もう、改心(かいしん)しようなんてことも考えなかった。そんなことは、そっくり、頭から押(お)し出(だ)しちまった。そして、思った、……おれはまた、よこしまで(#「よこしま」に傍点)で悪いほうをつづけることにしよう。おれは、そうなるように育てられたから、そっちのほうが性(しょう)に合ってて、その逆(ぎゃく)のほうは、だめなんだ。それで、まず手はじめに、奴隷(どれい)の身(み)になってるジムを、また盗(ぬす)みだすのに、とりかかってやろう。そして、もしか、もっと悪いことを考えつくようだったら、それも、やってやろう。だって、いっぺん、はまりこんで、しかも、しっかりはまりこんじゃったら、もう、とことん、やっちまうほうがいいんだ。……


(J8) 斉藤 1996
 たちまちおいらは、いても立ってもいられなくなって、手紙をつかんだ。手がぶるぶるふるえた。ああ、どうしよう。今度こそ、どっちかにするかきっぱりきめなきゃならない。おいらは息をとめたまま、ちょっとのあいだ手紙をにらんだ。それから自分に向かってつぶやいた。
「よーし、それならおいらは、地獄に行ってやる。」そして手紙をビリビリッと引(ひ)きさいた。
 おいらが口に出したのは、考えただけでもおそろしい、ばちあたりな言葉だった。だけど、もういっちまったんだ。おいらはその言葉を取り消そうとも思わなかったし、心を入れかえようとも思わなかった。心を入れかえるなんてことはきっぱりと頭のなかから追い出して、これまでどおりまた悪いことをやっていけばいい。おいらはそう自分にいい聞かせた。そういう育ち方をしたんだから、それがぴったりなんだ。いいことをするなんて、ちっともおいららしくない。じゃあ、まず手はじめに、ジムを取り返して、奴隷の身から自由にしてやるか。もちろん、もっと悪いことを思いついたら、それもやってやる。どうせやるなら、とことんやらなきゃ。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]


(J9) 山本 1996
 これはこまった立場になった。その紙を取り上げて手にもってみた。体が震えた。だって、あれかこれかどっちかに決めなければならないからで、おれには分かっていたことだ。息をこらしてるみたいにして、ちょっとの間考えてから、心の中でこう言った。
「ええい、こうなったら地獄まで行ってやろうぜ」——それで紙を破いちまった。
 恐ろしい考えで、恐ろしい言葉だけど言ってしまった。だからおれは言ったままに放っておくことにして、心を改めようなんてもう考えなかった。頭の中から全部こんなことを追い出した。おれは悪い子に育てられたんで、悪い子にまたもどろう、それが自分にはお似合いなんだ、ほかには考えられねえと思った。それでまず始めに、ジムを奴隷の身から盗み出してやろうと思った。もし何かもっと悪いことを思いついたら、それもやってやろうと思った。だって、その道に入ったら、徹底的にやり通したほうがいいからだ。

  • マーク・トウェイン=著 山本長一(やまもと・ちょういち)=訳 『ハックルベリィ・フィンの冒険』 マーク・トウェイン コレクション 7 彩流社 1996/03

(J10) 渡辺 1980, 1991
 きわどいとこだったね。おれその紙取りあげると、しばらく手に持ってた。おれからだが震えてきた。てえのは、おれって、年がら年じゅう、二つのことのどっちかひとつ選ばなきゃならねえからだ。それはおれにもわかってた。おれ息止めたみてえにして、ちょっとばかり考えてみた。それから、心ん(#原文は小さい「ん」)なかで言った。
「よし、それだったら、おれ地獄だって行ってやる」——そして、その紙破いちまった。
 そいつぁ恐ろしい考えだし、恐ろしい言葉なんだけど、おれもうその通りに言っちまったんだ。そしてまた、言った通りにしといて、取り消すこともしなかった。自分の行ない改めるなんてえことも、もう考えねえで、このこたぁぜんぶ頭から押しだすと、そういったこたぁきれいさっぱり忘れちまった。おれはまた悪い行ないやってこうって自分自身に言ったんだ。そのほうが、おれそういったふうに育ってるんで、性(しょう)に合ってるしな。その反対てえのはどうも性に合わねえんだ。それで、まず手はじめにだね、ジムをまた盗みだして、奴隷の身分から救いだすっていう仕事にとりかかろうって思ったんだ。そして、それよりもっと悪いこと思いついたら、そのときゃ、それだってやるつもりだった。てえのは、悪の世界に入ってだね、一生そこにいるんだったら、なんでもとことんまでやったほうがいいって思ったからだ。


(J11) 大岩 1979

  • トウェーン=著 大岩順子=訳『ハックルベリー・フィンの冒険』 世界の名作・日本の名作 83 春陽堂少年少女文庫 1979/03
  • 児童向け抄訳。ほかの訳の引用部分に相当する箇所は訳出されていないようです。

(J12) 加島 1979
 せつない立場だった。おれはその紙を拾い上げて、じっと手に持った。身体が震えてたっけ。だって、右か左か、ここで最後の腹をきめなきゃならないことが、自分でも分かってたからな。しばらく息を殺すみたいにして考えてたけど、それから胸の中でこう言った——
「ようし、こうなったらおれ、地獄へ落ちてやれ」とね——そしておれは、その紙を破いちまったよ。
 それは恐ろしい考えだし、恐ろしい言葉だけど、もう口から出ちまったんだもんな。それはそのままにして、もう悔い改めようなんて考えないことにしたよ。そんなことは、頭の中からきれいさっぱり追っ払っちまって、よこしまな生き方のほうを取ってやれって、そう思ったんだ。そのほうがおれらしいしよ、どうせそういうふうに育てられたんだから、その反対の生き方はおれには向いてないんだ。だもんだから、まず手始めに、うまくジムを奴隷の身からもういっぺん自由にしてやって、で、その後で、もっとよこしまなことを考えついたら、そいつもやらかしてやろう、と思ったね。どうせもう、よこしまの道にはまり込んだんだんじゃないか、引っ返しがきかないなら、とことんまで行ってやれ、とそう思ったんだ。


(J13) 西田 1977
 おらは追いつめられた。おらはその紙を取り上げて手に持った。からだがブルブルふるえだした。だって、右か左か、ここで最後の腹をきめなきゃなんねえことが、自分でもわかっていたからだ。おらは、息を止めるみたいにしてちょっと考えてから、心の中でこう言った。
 「よし、こうなったら地獄へ落ちてやれ」——そしておらは、その紙を破いちまった。
 恐ろしいことを考えて、恐ろしいことを言ったもんだけど、もう口から出ちまったことだ。おれはそれをそのままにして取り消さなかった。悔い改めようなんて、もう考えなかった。そんなことはいっさい頭の外へ追い出しちまった。おらは悪者に育てられたので、悪者のほうが性に合っていて、その反対のほうはだめなんだから、また悪者に戻ろう、とおらは言った。そしてまず手はじめに、ジムを奴隷の身分からまた救い出す仕事にとりかかろうと思った。その後でもっと悪いことを考えついたら、それもやってやろうと思った。いったん悪の道にはまりこんで、もう抜けられないとなったからは、とことんまでやっちまったほうがいいんだ。


(J14) 久保田 1976
 ここがだいじなわかれ道だった。おれは紙きれをとりあげて手の中ににぎりしめた。おれはがたがたふるえていた。のるか、そるか、二つに一つ、最後の決心(けっしん)をしなけりゃならないのだ。おれにはそれがよくわかっていた。おれは一分ほど、息をころすようにして考えた。それから、きっぱりとこういった。
「よし、そんなら地獄(じごく)へゆこう!」
 そして、紙きれをひきさいた。
 考えるのもおそろしかった。口に出すのもこわかった。しかし、もう口に出していってしまったことだった。そして、いったことはいったことだ、もう二度とひるがえしはすまいと思った。おれは神妙(しんみょう)な考えのいっさいを頭の外へおいはらい、もう一度悪の道をつっぱしる腹をきめた。それがおれの柄(がら)にあってるんだ。そんなふうに育ってるんだ。いいことをするのは柄じゃないんだ。そう自分にいいきかせた。まず手はじめにジムをなんとかしてもう一度奴隷(どれい)の境涯(きょうがい)からぬすみ出そう。もし、もっとましな、もっと悪いことを思いついたら、それもえんりょなくやらかそう。毒(どく)食(く)わば皿(さら)までというやつだ。


(J15) 野崎 1971, 1976
 どっちもきめにくいとこだった。おらはその紙を拾い上げて、じっと手に持ったんよ。身体がぶるぶると震えたっけ。だってよ、二つのうちのどっちかに、きめたが最後、とり返しはつかねえし、それがおらにはよっく分かってたけにな。おらは息を殺したみたくにして、しばらくの間考えて、それから腹の中で言ったんだ。
「よし、そんなら、おらは地獄へ行く」ってな——そう言っておらは、その紙をひっちゃぶいたんよ。
 おっかねえ考えだし、おっかねえ言葉だけんど、もう言っちまったこった。おらは言ったことはそのまんまにして、心を入れ替えるなんてことはもう考えねえことにした。そうして、そのことはそっくり頭の中から追っ払っちまった。もういっぺんよこしまな方をとってやれ、おらはよこしまに育てられたんだけん、こっちの方が性に合うちょるんだ。もう一つの方は性に合わねえ。その手始めにはひとつ、ジムの野郎を、奴隷の身分から盗み出す算段をするこった。それからもっと悪いことを思いついたらば、そいつもうめえとこやらかしてやる。もはやはまりこんじまったおらじゃねえか、おまけにはまりこんだが最後引っ返しはきかねえときてやがる。そんならばいっそ、とことん行けるとこまで行った方がいいや、おら、そう思ったんだ。


(J16) 西村 1970
 せつない立場(たちば)だった。ぼくは、その紙をとりあげて手にもっていた。ぶるぶるふるえていた。永久(えいきゅう)に、ふたつのうちのどちらかにきめねばならず、そのどちらにするか、わかっていたからだ。ぼくは息(いき)をこらし、ちょっとのあいだ考えてから、こう思った。
〈よし、それじゃあぼくは地獄(じごく)へいこう〉——こういって、ぼくは紙をひきさいてしまった。
 それは、おそろしい考えであり、おそろしいことばであったが、しかし、もう口にだしてしまったのだ。そして、いったことはいったままにして、それをかえようなどとは、けっして思わなかった。ぼくは、このことはいっさい、頭(あたま)からおしだしてしまい、自分はこんなふうに育(そだ)ったのだから、自分のえて(#「えて」に傍点)である、悪いおこないをまたつづけていこう、その反対のおこないはえて(#「えて」に傍点)ではないんだから、と自分で自分にいいきかした。その手はじめとして、ジムをどれいの状態(じょうたい)から、もう一度ぬすみだすことにしよう。またもっとなにか悪いことを思いついたら、それもやってやろう。ぼくは、もう落ちこんで、しかも永久に落ちこんだ以上、あくまでやりぬいたほうがいいのだから。


(J17) 刈田 1969
 さあ、せっぱ詰った羽目に追いこまれたぞ。おれは手紙をとりあげて手に持った。善か悪か二つにひとつ、ここできっぱり決めなくてはならない。そう思うとおれは身ぶるいが出た。おれは息を止めるようにして、しばらく考えてから、こうひとりごとを言った。
「ええい、よし地獄に行こう!」——そして手紙を破り捨てた。
 恐ろしい考えだった。恐ろしい言葉だった。だがもう口に出してしまっていた。そしておれはその言葉をひっこめようとは思わず、行ないを改めようという考えもやめてしまった。そんな考えは振り捨ててしまって、やっぱりおれは悪の道に戻ろう、それがおれには似合いなんだ、人さまとはちがって育ちが育ちだからしかたがないんだ、と自分に言いきかせた。手はじめに、まず、奴隷(どれい)の身になったジムのやつを何とか企(たくら)んでまた盗みだしてやろう。それよりもっと悪いことを思いついたら、そいつもやってのけよう。毒をくらわば皿(さら)までだ。


(J18) 小島 1966, 1993
(……)手紙をもつぼくの手はぶるぶるとふるえた。いつまで考えても、二つにひとつの道をとらぬわけにはいかないということはわかっていた。しばらく考えて、じっと息をとめ、
「よし、このために地獄におちてもかまやしない。」といって、ぼくはその手紙をやぶりすてた。こういうことをいうのは悪いことだが、どうせ悪いことをするように育てられてきたのだから、もう一ど悪の道にまいもどってやろう。そのぎゃくのまともな道は、どうもぼくの性にあわない。その悪いことの手はじめに、ジムをどれいの身分からもう一どすくいだしてやろう。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]


(J19) 斎藤 1962
 苦しい立場であった。ぼくはそれを取り上げ、そして、手に持った。ぼくは、ぶるぶる震えていた。なぜというのに、ぼくは、永劫(えいごう)に、ふたつのうちのどちらかを取るように、決めなければならなかったから。そして、ぼくは、どちらを取るか、知っていた。ぼくは、息をこらすようにして、一分間、じっと考えた。そして、それから、心の中で、こういう。
 「よろしい。では、ぼくは、地獄へ行こう」——そうして、その紙きれを引き裂いた。
 それは、恐ろしい考えであり、恐ろしい言葉であった。だが、その言葉は、発せられたのだ。そして、そういったままに、あえて取り消さなかった。そして、いい直そうなどとは、けっして、考えなかった。ぼくは、このことを、ぜんぶ、頭から押し出してしまった。そして、そういうふうに育ったいじょうは、ぼくの得手(えて)であるところの、不埒(ふらち)な行ないを、ふたたび、続けていこう、といった。その反対の行ないは、ぼくの得手ではないのだ。そして、その手はじめに、ぼくは、もう一ぺん、ジムを、奴隷の状態から盗み出してやろう。そして、これよりもっと悪いことを考えつくことができたら、そいつも、やってやろう。なぜというのに、ぼくは、もう落ち込んでしまい、それも、永久に落ち込んでしまったのだから、こうなったいじょう、毒をくらわば皿まで、というふうになったほうがよいのだ。


(J20) 石川 1958, 1966, etc.
 きわどいことだった。おれは紙をひろい上げて手で持った。永遠に二つのことの一つにきめなくてはならず、それがわかっているので、おれはがたがた震えた。おれはいわば息を殺してちょっと思案したあげく、自分にいって聞かせた、
「よし、それなら、おれは地獄へ行く」——そして紙を引きちぎった。
 これは恐ろしい考えで、恐ろしい言葉だが、おれは口に出していったのだ。おれはいったままにしておいて、もうそれ以上改心のことは考えなかった。頭の中から全部押し出し、もう一度悪業を取り上げよう、そんなふうに育ったんだからこれはおれの性に合っているが、もう一つの方は性に合っていないといった。まず手初めに、ジムをもう一度奴隷の身分から盗み出すことをたくらもう、それよりもっと悪いことが思いつけたら、それもやらかそう、悪業をやることにきめた以上、それもしっかりきめた以上、とことんまでやったほうがいい。


(J21) 村岡 1959
 切ない立場だった。僕は紙を取り上げて手に持っていた。僕はぶるぶる震えていた。永久に、二つのうちのどちらかに決めねばならず、どちらにするか分っていたからだ。僕は息をこらし、ちょっとのあいだ考えてから、こう思った。
「よし、それじゃあ僕は地獄へ行こう」——こう言うと、僕は紙を引き裂いてしまった。
 それは恐ろしい考えであり、恐ろしい言葉であったが、しかし、もう口に出してしまったのだ。そして、言い放しにしておき、それを変えようなどとは決して思わなかった。僕はこのことは一切、頭から押し出してしまい、そういうふうに育ったのだから、僕の得手である、悪い行いをまたつづけて行こう、その反対の行いは僕には得手でないから、と言った。その手始めとして、ジムを奴隷の状態からもう一度盗み出すことにしよう、またもっとなにか悪いことを思いついたらそれもしよう。僕はもう落ち込み、しかも永久に落ち込んだ以上は徹底的にやった方がいいから。

  • マーク・トウエン=著 村岡花子=訳 『ハックルベリイ・フィンの冒険』 新潮文庫(初版 1959/03|改版 1988/10)
  • 上の引用は初版に拠りました。のちの版では著者名の表記が「マーク・トウェイン」となり、用字や送り仮名やルビが、すこし異なります。

 

2へつづく]
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