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Tuesday, 03 April 2007

The Case of Lady Sannox by Arthur Conan Doyle コナン・ドイル 「サノックス卿夫人の事件」

 Cover Photos  表紙画像
a. 01802458 b. Late_victorian_gothic_tales c. C6992

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■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 坂崎 1992
「それでは、切除ですか?」
「それなのです。もし毒が指についたら指を切るしかない、父はいつもそういっておりました。しかし、毒がどこについたかをお考えください。しかもそれは、わたくしの妻なのです。おそろしいことです。」
 けれども、ぞっとするような話でも、よく頭にはいってくれば同情の気持ちもうすらいでくるものだ。ダグラス・ストーンにとって、これはすでにおもしろい症例の一つにすぎなかった。夫のよわよわしいためらいは、もうどうでもよいことだった。
「切りとるか、死を待つか、二つに一つのようですな。」彼はそっけなくいった。生命をなくすより、唇をなくすほうがいい。」
「ああ、そうなのです。おっしゃるとおりです。そう、これも神のおぼしめしです。にげるわけにはいきません。辻馬車をまたせております。いっしょにおいでいただけますか? なにぶん、よろしくおねがいします。」
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]


(J2) 江河 1989
「じゃ、傷口を切りとるのですな?」
「そうです。指でしたら、その指を切りとることになります。父はいつもそう言っておりました。ところがこんどの傷は場所が悪い。しかもわたしの家内ときている。じつにひどいことになりました!」
 しかし、こういうひどいことでも、いつもまのあたりにしていると、気の毒に思う気持ちがうすれてくるものだ。ダグラス・ストーンの頭のなかでは、この手術もすでに興味をそそる仕事としか思えなくなっていた。だから、夫しての気弱な反対もきっぱりはねつけてしまった。
「ふたつにひとつの選択しかないようですな。唇をなくしても、命をなくすよりはまだましですよ」
 医者はそっけなく言った。
「いかにも、ごもっともです。それもこれも神さまのおぼしめしです。お受けしなければなりますまい。馬車を用意しておりますので、ごいっしょにおいでくださって、手術をやっていただけませんか」
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

  • ドイル=作 江河徹=訳 「サノックス卿夫人の事件」 江河徹=編 『悪夢のような異常な話』 幻想文学館4(全5巻) くもん出版 1989/08 所収

(J3) 小野寺 1985
「では、傷を切除することになりますか?」
「そのとおり。指のばあいなら指を一本切りとることになる。父はいつもそう言っていました。しかし、この傷は場所がわるい。そのうえ相手は妻です。とんでもないことになりました!」
 だが、こういう不幸も毎日経験しているとなれば、いつしか同情心が薄れるものだ。すでにこの手術も興味ぶかい症例としか思えなくなっていたダグラス・ストーンは、妻にたいする夫のためらいを愚劣とばかり一蹴した。
「切除するか諦めるか、どちらかのようですな。唇を失くしても、命を落とすよりはましですよ。」彼はぶっきらぼうに言った。
「ああ、いや、おっしゃるとおりです。これもやはりアッラーの神の思召しです。ひるんではなりません。馬車はありますので、いっしょにおいでくださって、やっていただけませんか。」

  • アーサー・コナン・ドイル=作 小野寺健=訳 「サノックス卿夫人秘話」 由良君美=編 『イギリス幻想小説傑作集』 白水Uブックス 白水社 1985/10 所収

(J4) 延原 1960, 2000
「では患部の切除はどうです?」
「それでござりますよ。指ででもあれば、切りおとせばよいわけです。父がいつもそう申しておりました。しかしこんどの場合、傷がどこにあるか、お考えください。それも私の家内なのでございますよ。おそろしいことで。」
 このような気味の悪いことも、なれれば細かい同情のやいばを鈍らすものらしい。ダグラス・ストーンにとってこれは、もはや興味ある病例でしかなかった。夫のよわよわしい苦情なぞ、もはや問題ではなかった。
「切除をするか、死ぬのを待つかです。」そっけなくいった。「口びる一つなくなすか、命をおとすかです。」
「はい、お言葉が正しいとは思いまするが……はて、さて、これが天命ならば、従うしかありません。馬車を用意してきています。ご同道ねがって万事よろしく。」

  • コナン・ドイル=著 延原謙(のぶはら・けん)=訳 「サノクス令夫人」
    • ヘンリー・ジェイムズ〔ほか〕=著 『復讐』 書物の王国16 国書刊行会 2000/07 所収
    • ドイル傑作集3—恐怖編』 新潮文庫 1960/07 所収
  • 引用は a. 国書刊行会版に拠りました。

(J5) 水野 1932, 2006
「フーン、では傷の箇所を切除するんですか?」
「さうです。もし指に毒がはひつたら、その指を切れと、よく父が申しました。ですが、傷のある場所を考へて下さい。然(しか)も私の妻なのです。何(な)んといふ恐ろしいことでせう!」
 併し、斯樣(かやう)な惨忍(ざんにん)なことに馴れた身には、その位なんでもなかつた。殊にダグラス・ストーンにとつては、それが却つて興味のある事件なのだつた。で、彼は悲嘆に暮れた土耳古(トルコ)人のさへぎるのを勢ひよく掃(はら)ひのけた。
「どうも仕方がないでせう。」と、彼は無愛想に云つた。
「唇を失ふのは、生命(いのち)を亡くすよりも、まだましですからネ。」
「それはマアさうです。貴君(あなた)の仰しやる通りですが……これも宿世(すぐせ)と、あきらめませう。では、馬車が外に待たしてありますから、何卒(どうぞ)私と一緒にお出でになつて下さい。」
[原文は総ルビですが、ここではその一部を省略しました - tomoki y.]

  • コナン・ドイル=著 水野一郎=譯 「サノツクス夫人事件」
  • a. は b. を復刻したもの。引用は a. の復刻版に拠りました。


(J6) 櫻井 1925
『それでは切開手術を希望なさるのですね。』
『さうなのです。若し、毒が指先きにムいましたならば指も切斷して頂きたいのです。全く恐ろしいことでムいます。』
『生命を失ふよりは唇を失ふ方が未だあきらめいゝと思ひます。』
『あゝ全くその通りでムいます。さう、さう運に委せませう。仕方ありません。では馬車で何卒私と一緒に御出で下さいまし。』

  • コナン・ドイル=著 櫻井邦雄(さくらい・くにお)=譯 「サンノツクス夫人の立場」 『赤ランプ』 萬國怪奇探偵叢書 12 金剛社 定價金壹圓 1925/11(大正14) 国立国会図書館デジタル化資料
  • 原文は総ルビですが、ここではそれを省略しました。

■ロシア語訳 Translation into Russian

- Тогда - иссечение раны?

- Да, только это. Если рана на пальце, отрежь палец, так всегда говорил мой отец. Но у нее-то рана на губе, вы подумайте только, и ведь это моя жена. Ужасно!

Но близкое знакомство с подобными жестокими фактами может притупить у человека остроту сочувствия. Для Дугласа Стоуна это уже был просто интересный хирургичский случай, и он решительно отметал как несущественные слабые возражения мужа.

- Или это, или ничего, - резко сказал он. - Лучше потерять губу, чем жизнь.

- Да, вы, конечно, правы. Ну что ж, это судьба и с ней надо смириться. Я взял кэб, и вы поедете вместе со мной и сделаете, что надо.

  • Артур Конан Дойл. Случай леди Сэннокс
  • E-text at Аделанта (Adelanta)

■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese

- Nesse caso, a incisão da ferida?

- É isso. Se fosse no dedo, cortar o dedo. É o que sempre dizia o meu pai. Mas pense no sítio onde se encontra a ferida, e pense que ela é a minha mulher... É horrível!

A frequência destas situações horríveis pode embotar a simpatia de um homem. Para Douglas Stone, era já um caso interessante, e repeliu por inaceitáveis as objecções do marido.

- Parece que é isso ou nada - disse ele bruscamente. - Vale mais perder um lábio do que a vida.

- Ah!, sim, sei que o senhor tem razão. Devemos arriscar. Tenho um fiacre. O senhor virá comigo e fará a operação. 


■スペイン語訳 Translation into Spanish

-Habrá que extirpar el órgano herido.

-Eso es; si la herida es en un dedo, se arranca el dedo. Es lo que decía siempre mi padre. Pero piense usted en dónde está la herida en este caso y en que se trata de mi esposa. ¡Es horrible!

Pero, en asuntos tan dolorosos, el hallarse familiarizado con ellos puede embotar la simpatía de un hombre. Para Douglas Stone aquel caso era ya interesante, e hizo a un lado como cosa sin importancia las débiles objeciones del marido, diciendo con brusquedad:

-Por lo que se ve, no hay otra alternativa. Es preferible perder un labio a perder una vida.

-Sí, reconozco que eso que dice es cierto. Bien, bien, es el destino, y no hay más remedio que aceptarlo. Tengo abajo el coche, vendrá usted conmigo y realizará la operación.

  • El caso de lady Sannox by Arthur Conan Doyle
  • E-text at Ciudad Seva

 Audio 
英語原文のオーディオブック(朗読) The Case of Lady Sannox: Audiobook in English

下に引用した箇所の朗読は 12:19 あたりから始まります。 Uploaded to YouTube by freeaudiobooks84 on 4 Jan 2013. Audio courtesy of LibriVox. Read by Betsie Bush. The excerpt below starts around 12:19.


■英語原文 The original text in English

"Excision of the wound, then?"

"That is it.  If it be on the finger, take the finger off.  So said my father always.  But think of where this wound is, and that it is my wife.  It is dreadful!"

But familiarity with such grim matters may take the finer edge from a man's sympathy.  To Douglas Stone this was already an interesting case, and he brushed aside as irrelevant the feeble objections of the husband.

"It appears to be that or nothing," said he brusquely.  "It is better to lose a lip than a life."

"Ah, yes, I know that you are right.  Well, well, it is kismet, and it must be faced.  I have the cab, and you will come with me and do this thing."


■邦題の異同 Variations of the title in Japanese

  • 「サノクス令夫人」………………延原 1960, 2000
  • 「サノックス卿夫人」……………坂崎 1992
  • 「サノックス卿夫人の事件」……江河 1989
  • 「サノックス卿夫人秘話」………小野寺 1985
  • 「サノツクス夫人事件」…………水野 1932, 2006
  • 「サンノツクス夫人の立場」……櫻井 1925

■更新履歴 Change log

  • 2014/12/31 ロシア語訳、ポルトガル語訳、およびスペイン語訳を追加しました。
  • 2013/07/21 櫻井邦雄=譯 1925/11 を追加しました。
  • 2013/03/03 LibriVox による朗読の YouTube 画面を追加しました。
  • 2008/02/01 水野一郎=譯 2006/03 を追加しました。

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Comments

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Posted by: ipod touch pas cher neuf 16go | Friday, 01 November 2013 at 09:35 AM

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