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May 2007

Tuesday, 29 May 2007

Jikininki by Lafcadio Hearn ラフカディオ・ハーン / 小泉八雲 「食人鬼」

        目次 Table of Contents

 Images  表紙画像と挿絵 Cover photos and an illusration
■日本語訳の例 A list of some translations into Japanese
■上掲日本語訳からの抜粋 Excerpts from the translations listed above
  (1) やぶちゃん 2005
  (2) 池田 2004
  (3) 下川 2003
  (4) 脇 2003
  (5) 船木 1994
  (6) 保永 1992
  (7) 平川 1977, 1990
  (8) 斎藤 1976
  (9) 上田 1975
  (10) 繁尾 1972
  (11) 平井 1964, 1965
  (12) 田代 1956
  (13) 平井 1940
  (14) 山本 1932
  (15) 大谷 1926, 1931, etc.
  (16) 刈谷+萩原 1927, 森+萩原 1990
  Audio   英語原文のオーディオブック Audiobook in English
■英語原文 The original text in English
■英文原書に関する詳細な書誌 Detailed bibliography on Kwaidan
■有益なサイト Useful websites
■更新履歴 Change log


 Images 
表紙画像と挿絵 Cover photos and an illusration
a. 3614 b. Kwaidan_iwanami c. Atamakajiri

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■日本語訳の例 A list of some translations into Japanese

1.  やぶちゃん=訳「食人鬼」 やぶちゃんの電子テクスト集 心朽窩旧館 2005
2.  池田 雅之=訳「食人鬼」『妖怪・妖精譚』     ちくま文庫 2004/08
3.  下川 理英=訳「食人鬼」『小泉八雲 日本の心』    彩図社 2003/08
4.  脇 明子 =訳「食人鬼」『雪女 夏の日の夢』  岩波少年文庫 2003/03
5.  船木 裕 =訳「食人鬼」『完訳 怪談』      ちくま文庫 1994/06
6. 保永貞夫訳「人を食う鬼」『耳なし芳一・雪女』講談社青い鳥文庫 1992/06
7a. 平川 祐弘=訳「食人鬼」『怪談・奇談』    講談社学術文庫 1990/06
7b. 平川 祐弘=訳「食人鬼」『小泉八雲作品集3』  河出書房新社 1977/08
8.  斎藤 正二=訳「食人鬼」『完訳 怪談』      講談社文庫 1976/10
9.  上田 和夫=訳「食人鬼」『小泉八雲集』   新潮文庫(新版) 1975/03
10. 繁尾 久 =訳「食人鬼」『怪談 他四編』     旺文社文庫 1972/06
11a.平井 呈一=訳「食人鬼」『怪談』      岩波文庫(改版) 1965/09
11b.平井 呈一=訳「食人鬼」『全訳 小泉八雲作品集10』  恒文社 1964/06
12. 田代美千稔=訳「食人鬼」『怪談・奇談』       角川文庫 1956/11
13. 平井 呈一=訳「食人鬼」『怪談』      岩波文庫(旧版) 1940/10
14. 山本 供平=譯「食人鬼」『Kwaidan (2)』       春陽堂 1932/03
15a.大谷 正信=譯「食人鬼」『小泉八雲集(上)』新潮文庫(旧版) 1950/07
15b.大谷 正信=譯「食人鬼」『小泉八雲全集第八卷家庭版』第一書房 1937/01
16a.森 銑三 +萩原恭平=訳「食人鬼」『十六桜』     研文社 1990/09
16b.刈谷新三郎+萩原恭平=訳「食人鬼」『小泉八雲選集2』 嶺光社 1927/01


■上掲日本語訳からの抜粋 Excerpts from the translations listed above

(1) やぶちゃん 2005
——と、夜の静寂(しじま)が最も深くなりました頃おひ、ぼんやりとした、大きな影が、音もなく、部屋の中に入つて參ります、と同時に、夢窓樣は、體から力が拔けて、聲も出せなくなつてしまはれた御自身を、感ぜられたのでございます。夢窓様の目に映つたのは、その影が、ご遺體を兩手で抱へ上げ、瞬く間に、猫が鼠を食らふよりも素早く、貪り喰らふ姿でした。頭より初めて、髮の毛、骨、遂には帷子(かたびら)までも、何もかも、すべて、殘る隈なく。さうして、そのおぞましき影は、盡く亡骸を喰らひ盡くすと、次はお供物に向き直り、それもすつかり喰らつてしまひました。さうして、やがて、入つて來た折と同じやうに、音もなく、すうつと立ち去つて行つたのでした——。

   小泉八雲=著 やぶちゃん(Yabtyan)=訳 「食人鬼(じきにんき)
   心朽窩旧館 やぶちゃんの電子テクスト集:小説・評論・随筆篇 2005


(2) 池田 2004
 やがて、夜の静けさが深まった時でした。なにか得体の知れない、掴(つか)みどころのない形をしたものが、音もなく部屋へ入ってきました。その時、国師さまは、金縛(かなしば)りにあったかのように動くことも声を出すこともできませんでした。 しかし、国師さまは、この奇怪な侵入者が、手で死骸を持ち上げ、猫がネズミを飲み込むよりもずっと早く、死骸を飲み込んでしまうのを、目のあたりになさいました。まず頭、それから胴体、髪の毛も骨も、経帷子(きょうかたびら)までも喰らい尽くしてしまいました。死骸を喰べ終わると、次に仏壇に向かい、お供えものもすべて平らげてしまいました。そして、入ってきた時と同じように、どこへともなく去っていきました。

   小泉八雲=著 池田雅之(いけだ・まさゆき)=訳 「食人鬼」
   池田雅之=編訳 『妖怪・妖精譚』 小泉八雲コレクション
   ちくま文庫 2004/08 所収


(3) 下川 2003
夜のしじまが深まったころ、ぼんやりとした大きな影が、音もなく入ってきた。その刹那(せつな)、夢窓は金縛りにあい、口もきけなくなった。夢窓は、影が両手で亡骸を持ち上げ、猫が鼠を食らうよりも素早く食らいつくのを見た。影はまず頭を食べ、そして髪も、骨も、経帷子(きょうかたびら)も次々に食べ尽くした。供え物も残らず食べてしまった。そうして、影は入ってきたとき同様、音も立てず出て行った。

   ラフカディオ・ハーン=著 下川理英=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   和田久實(わだ・ひさみつ)=監訳 『小泉八雲 日本の心
   彩図社 2003/08 所収


(4) 脇 2003
 しかし、夜の静けさが最も深まったころ、何やらもうろうとした大きな影が、音もなくすべりこんできた。その瞬間(しゅんかん)、夢窓国師(むそうこくし)、動くことも口をきくこともできなくなった。その影は、見えない手でつかむようにして死体を持ち上げ、まずは頭から食べはじめたかと思うと、猫がネズミを食べるよりもすばやく、髪(かみ)の毛も骨(ほね)も経帷子(きょうかたびら)さえも残さずに、きれいさっぱり片づけてしまった。そうやって死体を平らげてしまうと、怪物(かいぶつ)は供(そな)えもののほうへむかい、それも食べてしまった。そして、来たときとおなじように、いずこへともなく消えていった。

   ラフカディオ・ハーン=著 脇明子(わき・あきこ)=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   『雪女 夏の日の夢』 岩波少年文庫 2003/03 所収


(5) 船木 1994
ところが、深々と夜が更けた頃、何やら漠とした、どでかい物影が音もなく、室内に入り込んできました。その瞬間、夢窓は自分が身動きもならず、ものを言うこともできぬのを悟りました。見ると、その物影らしきものが、まるで両手で死骸を持ち上げるようにするや、猫が鼠を食らうより素早く、むさぼり食らうではありませんか。——まず、頭からはじまって、何もかも食い尽くすのが見えました。髪といわず、骨といわず、経帷子(きょうかたびら)までも。そんな風に死体を食い尽くしてしまうと、今度は供物の方に向き直り、それも食いだしました。そうして、入ってきた時と同様、音もなく、いずこへともなく姿を消したのです。

   ラフカディオ・ハーン=著 船木裕(ふなき・ひろし)=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   『完訳 怪談』 ちくま文庫 1994/06 所収


(6) 保永 1992
 夜(よ)がふけて、あたりがしんしんとしずまりかえったころ、ぼんやりとした、大きなものの影が一つ、音もなくすーっと部屋にはいってきた。と同時に、夢窓国師(むそうこくし)は、自分の体から、声をたてる力も、手足を動かす力も、ぬけていくのを感じた。
 みると、その影は、両手で持ち上げるように、死人をだきおこし、死体をがつがつとむさぼり食いはじめたではないか。
 それは、ねこがねずみを食うよりもすばやかった。頭から食いはじめて、髪の毛も、骨も、経帷子(きょうかたびら)(仏式で死人をほうむるときに着せる着物)にいたるまで、なにもかもむさぼり食った。
 それから、こんどは供(そな)え物(もの)にむかい、これも食いつくすと、きたときと同じように、あやしい影につつまれたまま、どこへともなく、すーっとさっていった。

   小泉八雲=作 保永貞夫(やすなが・さだお)=訳 「人を食う鬼」
   『耳なし芳一・雪女—八雲怪談傑作集』 講談社青い鳥文庫 1992/06
   引用文中のルビを一部省略しました。


(7) 平川 1977, 1990
すると夜も更けて、あたりがしんしんと静まりかえった頃、漠とした大きな物影が一つ音もなくそこへはいってきた。と同時に夢窓禅師は我が身から、声を立てる力も、体を動かす力も、抜けてゆくのを感じた。見るとその物影は、両手で持ちあげるかのように、死人を抱きおこし、死体をがつがつ貪り食った。それは猫が鼠を食うよりもすばやかった。頭から食いはじめて、なにもかも、髪の毛も骨も、経帷子(きょうかたびら)にいたるまで、むさぼり食った。そしてその怪しいものの怪(け)は、そうして死体を食い尽すと、今度はお供物(そなえもの)に向かい、それもまた食い尽した。それからまた、来た時と同様、不思議に包まれたまま、またどこかへすっと立去った。

   小泉八雲=著 平川祐弘(ひらかわ・すけひろ)=訳 「食人鬼」
   7a. 平川祐弘=訳 『怪談・奇談』 講談社学術文庫 1990/06 所収
   7b. 森亮(もり・りょう)〔ほか〕=訳 『小泉八雲作品集3—物語の文学
      河出書房新社 1977/08 所収
   引用は、7b. に依拠しました。7a. も、送り仮名、ルビなど
   細部の違いを除き、ほぼ同文。


(8) 斎藤 1976
ところが、夜の静けさがもっとも深くなったころ、朦朧(もうろう)とした、どでかい、なにやら「かたち(シェイプ)」のようなものが、音もなく、部屋のなかへすうっとはいってきた。それと同時に、夢窓は、自分が、身動きする力も、ものを言う力も失ってしまっていることに気づいた。夢窓は、その「すがた(シェイプ)」のようなものが、両手で持ちあげるようにして死骸を持ちあげ、猫が鼠を食らうよりもすばやく、それをむさぼり食らうのを見た。——まず頭からはじめて、何もかも食らうのを見た。髪の毛も、骨も、それから経帷子(きょうかたびら)さえも食らってしまうのである。さらに、この怪しい「もの(シング)」は、こんなにして死体を食べつくしてしまうと、こんどは供え物のほうへ向き直り、それをも食らいつくした。それから、はいってきた時と同じように、いずこへともなく立ち去った。

   ハーン=著 斎藤正二(さいとう・しょうじ)=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   『完訳 怪談』 講談社文庫 1976/10 所収


(9) 上田 1975
しかし、夜の静寂(しじま)がいよいよ深まったとき、音もなく、ぼんやりした大きな「すがた」が、はいってきた。同時に、夢窓は、動くことも口をきくこともできなくなった。見ていると、その「すがた」は、まるで両手でかかえるように、亡骸をもち上げ、猫(ねこ)が鼠(ねずみ)を食べるよりもはるかに早く、それをむさぼり食った——頭からはじめて、なにもかも、髪の毛や骨や経帷子(きょうかたびら)にいたるまでも。そして、その異形(いぎょう)のものは(#「もの」に傍点)、亡骸を食いつくすと、こんどは供え物にかかり、それらもまた食べてしまった。それから、来たときと同じように、いずこともなく立ち去った。

   小泉八雲=著 上田和夫=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   『小泉八雲集』 新潮文庫(新版)1975/03 所収


(10) 繁尾 1972
ところが、軒もさがる丑満(うしみつ)どきに、音もなく、大きな、とりとめもない影がすーっと忍びこんできた。と、そのせつな、夢窓はからだの力が抜け、声も出なくなってしまった。あたかも手を用いているかのように、影は遺骸を持ちあげ、猫がねずみを食らうよりもすばやく、それをむさぼった——まず頭からはじめて、髪の毛や骨、それに経帷子(きょうかたびら)まで食らうのである。このように死骸をあまさず食らいつくすと、物(もの)の怪(け)は供物の方に向きなおり、それをも食いつくした。それから、忍びこんだときと同じように、いずこともなくかき消えてしまった。

   ハーン=作 繁尾久(しげお・ひさし)=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   『怪談 他四編』 旺文社文庫 1972/06 所収


(11) 平井 1964, 1965
すると、夜の静寂がもっとも深くなったころである。いきなり、大きな、形のはっきりせぬ、朦朧(もうろう)としたものが、音もたてずに家のなかへすっとはいってきた。と思ったその刹那、夢窓は、きゅうに五体が金縛りにあったようになって、口がきけなくなってしまった。見ているうちに、その大きな、おぼろげなものが、死骸をもろ手にかかえ上げたと思うと、たちまちそれにかぶりついて、猫が鼠を食らうよりも早く、がりがりと音をたてて、むさぶり食らいだした。まず死骸の頭からはじめて、髪の毛から、骨から、経帷子(きょうかたびら)まで食らうのである。さて、死骸を食らいつくしてしまうと、怪しいものは、こんどは供物の方に向きなおって、それも食らいつくした。それから、はいってきたときと同じように、音もたてずに、いずくへともなく立ち去っていった。

   11a. ラフカディオ・ハーン=作 平井呈一=訳 「食人鬼」
       『怪談—不思議なことの物語と研究
       岩波文庫(改版)1965/09 所収
   11b. 小泉八雲=著 平井呈一=訳 「食人鬼(じきにんき)」
       『全訳 小泉八雲作品集10 骨董・怪談・天の川綺譚
       恒文社 1964/06 所収


(12) 田代 1956
ところが、夜の静けさがこのうえなく深まったとき、もうろうとした大きな姿のものが、音もなくはいってきた。と同時に、夢窓は身動きができず、ものを言う力もなくなっていた。見ているうちに、その姿のものは、両手を使ってやるように、遺骸をも
ちあげて、猫が鼠(ねずみ)を食べるよりもすばやく、それを貪(むさぼ)り食った。——頭からはじめて、何もかも、髪の毛も、骨も経帷子(きょうかたびら)までも食べた。そして、この怪物は、こうして遺骸を食べてしまうと、こんどは供え物のほうへむいて、それもみな平(たいら)げてしまった。それから、はいって来たときと同じように、いずこともなく姿を消した。

   ラフカディオ・ハーン=著 田代美千稔(たしろ・みちとし)=訳
   「食人鬼」 『怪談・奇談』 角川文庫 1956/11 所収


(13) 平井 1940
すると、夜の靜寂が最も深くなつた比である。俄かに巨きな、形のはつきりせぬ、朧ろげなものが、音も立てずに家の中へはひつて來た。と思つたその刹那に、夢窓は體ぢゆうが金縛りに逢つたやうになつて、口が利けなくなつてしまつた。見てゐるうちに、その巨きな、朧ろげなものは死骸を兩手に抱き上げたと思ふと、いきなりそれにかぶりついて、猫が鼠を啖ふよりも早くがり/\と啖いはじめた。まづ頭から始めて、なにもかにも、髪の毛から骨から經帷子まで啖ふのである。さて、死骸を啖いつくしてしまうと、怪しいものは今度は供物の方へ向き直つて、それも食べつくした。それから這入つて來た時と同じやうに、音も立てずにどこかへ出て行つてしまつた。

   ラフカディオ・ヘルン=作 平井呈一=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   『怪談—不思議な事の研究と物語』 岩波文庫(旧版)1940/10 所収


(14) 山本 1932
ところが、夜(よる)の沈默が最も深まつた時、朦朧とした大きな姿が、音もなく其處にはいつて來た。と同時に夢窓は、自分が動くことも、聲を立てることも出來なくなつてゐるのに氣付いた。見てゐると、その姿は、手で持ち上げる樣に死骸を取り上げ、猫が鼠を食べるよりもずつと速くそれを貪り食つた。——頭からかゝつて、髪の毛も、骨も、何もかも、經帷子(きやうかたびら)までも食べてしまつた。そして死骸を食べ盡すと怪しげな奴は今度は供物にとりつき、それをも亦すつかり食べて仕舞つた。それから、來た時と同じやうに、何處ともなく立ち去つて了つた。

   ラフカディオ・ハーン=著
   山本供平(やまもと・きょうへい)=譯註 「食人鬼」
   『Kwaidan (2)』 英學生文庫第八卷怪談下卷
   春陽堂 1932/06 所収(ただし、この本の扉には "Kawidan" と表記)


(15) 大谷 1926, 1931, etc.
ところが、夜の靜けさの最も深くなつた時、音も立てずに朧げな大きなものが(#「もの」に傍点)入つて來た。同時に夢窗は自分が動く力も、物云ふ力もなくなつて居る事に氣がついた。彼はそのもの(#「もの」に傍点)が抱き上げるやうに死骸をあげて、猫が鼠を喰べるよりも早く、それを喰べつくすのを見た、——頭から始めて、何もかも、髪の毛も、骨も、それから經かたびらさへも喰べるのを見た。それから、その怪しいもの(#「もの」に傍点)がこんなにして死骸を喰べつくしてから、供物の方へ向いて、それも又喰べた。それから來た時と同じく不可思議に出て行つた。

   小泉八雲=著 大谷正信(おおたに・まさのぶ)=譯 「食人鬼」
   『怪談—不思議な事の研究と物語』
   15a. 古谷綱武(ふるや・つなたけ)=編 『小泉八雲集(上)』         
       新潮文庫(旧版)1950/07 所収
   15b. 小泉八雲全集第八卷家庭版』 第一書房 1937/01(昭和12)所収
   15c. 田部隆次=編 『學生版 小泉八雲全集第七卷』 第一書房
       1931/01(昭和6)第二囘豫約刊行
   15d. 田部隆次=編 『小泉八雲全集第七卷』 第一書房 1926/07(大正15)所収


(16) 刈谷+萩原 1927, 森+萩原 1990
ところが、夜の沈黙がその絶頂に達した時、茫漠とした巨きな姿が、音もなくそこにはひつて来ました。同時に夢窓は、自分が動くことも声立てることも出来なくなつてゐるのに気づきました。見てゐると、その姿は、手を以てするやうに死体を取り上げ、猫が鼠を食ふよりも、もつと早くそれを貪(むさぼ)り啖ひました。——頭から始めて、髪の毛も、骨も、経帷子(きやうかたびら)までも、何もかも食べました。そして怪しのものは、死体を終ると供物にかゝり、それらをもまた食べました。それから来た時と同じく、いづこともなく立ち去りました。

   16a. 小泉八雲=著
       森銑三(もり・せんぞう)+萩原恭平(はぎわら・きょうへい)=訳
       『十六桜—小泉八雲怪談集』 研文社 1990/09 所収
   16b. 小泉八雲=著
       刈谷新三郎(かりや・しんざぶろう)+萩原恭平=共訳
       『小泉八雲選集 第2篇』 嶺光社+開隆堂=相版 1927/01(昭和2)所収
   「刈谷新三郎」は森銑三のペンネーム、つまり森氏と刈谷氏は同一人物です。


  Audio  
英語原文のオーディオブック Audiobook in English

「食人鬼」の朗読は 1:00:08 から、下の引用箇所の朗読は 1:04:39 から、それぞれ始まります。 Uploaded to YouTube by FULL audio books for everyone on 23 Feb 2014. Audio courtesy of LibriVox. Reading of Jikininki starts at 1:00:08 and reading of the excerpt below starts at 1:04:39.


■英語原文 The original text in English

But, when the hush of the night was at its deepest, there noiselessly entered a Shape, vague and vast; and in the same moment Muso found himself without power to move or speak. He saw that Shape lift the corpse, as with hands, and devour it, more quickly than a cat devours a rat,--beginning at the head, and eating everything: the hair and the bones and even the shroud. And the monstrous Thing, having thus consumed the body, turned to the offerings, and ate them also. Then it went away, as mysteriously as it had come.


■ハーンによる英文原書『怪談』に関する詳細な書誌
 Detailed bibliography on Kwaidan, Hearn's collection of ghost stories
 in English


■有益なサイト Useful websites


■更新履歴 Change log

  • 2014/02/27 目次と英語版オーディオブックの YouTube 画面を追加しました。
  • 2007/06/02 森銑三+萩原恭平=訳 1990/09、および刈谷新三郎+萩原恭平=訳 1927/01 を追加しました。

■和書 Books in Japanese
(1) ラフカディオ・ハーン + 怪談

(2) 小泉八雲 + 怪談

■洋書 Books in non-Japanese languages

■DVD

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Monday, 28 May 2007

On the Brighton Road by Richard Middleton リチャード・ミドルトン 「ブライトンへいく途中で」「ブライトン街道で」「ブライトン街道にて」

        目次 Table of Contents

■はじめに Introduction
 Images  表紙画像と肖像写真 Book covers and a portrait
■日本語訳 Translations into Japanese
  (J1) 金原 2010
  (J2) hiro 2007
  (J3) 南條 1997
  (J4) 斎藤 1989
  (J5) 乾 1988
  (J6) 平井 1974, 1985
■ドイツ語訳 Translation into German
■スペイン語訳 Translations into Spanish
  (Es1)
  (Es2)
 Audio  英語原文のオーディオブック(朗読) Audiobook in English
■英語原文 The original texts in English
■英語原文の異同 Variation of the original texts in English
■更新履歴 Change log


■はじめに Introduction

怪談(ホラーストーリー)のアンソロジーにたびたび収録されている短篇。


 Images 
表紙画像と肖像写真 Book covers and a portrait

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a. Middleton_yureisen b. Middletonpoemsandsongslar c. Tclc_0001_0056_0_img0023

■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 金原 2010
 「だってさ」 男の子がかすれ声でいった。「[略]だけど、もう六年ひどい目にあってるんだ。ぼくが死んでないって思える? マーゲイトで溺(おぼ)れたこともあるし、ジプシーにでっかい釘(くぎ)で殺されたこともあるんだ。そいつったら、ぼくの頭をおもいきり大釘でなぐったんだ。それでも、ぼくはいまここを歩いてる。ロンドンに行ってはもどってくる。だって、どうしようもないんだ。死んでるんだから! ぼくらは逃げたくても逃げられないんだ」

  • リチャード・ミドルトン=作 金原瑞人(かねはら・みずひと)=訳 「ブライトンへいく途中で」 金原瑞人=編訳 『八月の暑さのなかで—ホラー短編集』 岩波少年文庫 2010/07/14

(J2) hiro 2007
「あのね、」 少年はしゃがれ声で言った。
「[略]けど、もう六年間もこんなふうにうろつき回っているんですぜ。おれが死んでないとおもいます? マーゲートじゃ溺れたし、ジプシーに大釘でめちゃくちゃにぶん殴られたこともある。頭を殴られたのに、まだこうして歩いてるよ。またロンドンを目指してるよ。どうしようもないんだ。死んでんだからよ! だからね、おれらは逃げたくっても逃げられないんですよ。」

  • リチャード・バラム・ミドルトン=作 hiro=訳 「ブライトン街道にて」 訳了 2007-01-25 改訳 2008-03-02
  • E-text at:
  • 底本: Project Gutenberg

(J3) 南條 1997
「いいかい」と少年はかすれた声で言った。「[略]それがこうして六年間流れ歩いてきたんだ。あんた、おれが死んでないと思ってるのかい? マーゲイトで泳いでて溺れたこともある。ジプシーに大釘で殺されたこともある。彼奴(あいつ)ときたら、脳天をモロにぶったたきやがったよ! それから昨夜(ゆうべ)のあんたみたく凍え死んだことも二回あるし。ほら、この道で自動車(くるま)に轢(ひ)かれたことだってさ。それでもやっぱり、おれは今ここを歩いてる。ロンドンに向かって歩いてる。どうせまたおん出るだけなのにさ。何故って、ほかにしようがないからだよ。死ぬってか! いいかい、おれたちはね、嫌だって逃げられやしないんだ」

  • リチャード・ミドルトン=著 南條竹則(なんじょう・たけのり)=訳 「ブライトン街道で」 リチャード・ミドルトン=著 『幽霊船』 魔法の本棚 国書刊行会 1997/04

(J4) 斎藤 1989
「いいかい」
 しわがれた声で少年は言った。
「[略]これでもおれはもう六年も、こうしてあちこちを流れ歩いているんだぜ。それなのに、おれが今まで死なずにすんだと思うのかい。マーギットの海では、泳いでいておぼれて死んだだろう。ジプシーに、ふといくぎでなぐり殺されたこともある。頭に命中したんだ。それからゆうべのおじさんみたいに、こごえて死んだことも二度ある。ちょうどこの街道じゃ、車にひき殺されたのさ。
 それでもまだ、今こうしてこの街道を歩いてる、ロンドンへ向かってね。ロンドンに着いたら、またそこからほかの町に流れていくのに。そうするしかないもの。死んでるのさ。逃げたくったって、おれたちは死ぬってことからは逃げられないのさ」
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.

  • リチャード・バラム・ミドルトン=著 斎藤喜美子=訳 「ブライトン街道にて」 江河徹=編 『なぞめいた不思議な話』 幻想文学館2 くもん出版 1989/08

(J5) 乾 1988
「いいかい、おっさん」と少年がしわがれ声でいった、「[略]こんなふうにもう六年もほっつき歩いててさ、よく死なねぇと思うだろ? おれ、マーゲートの海岸で泳いでて溺れちまったし、ジプシーから長くぎ(#「くぎ」に傍点)脳天にぶちこまれて殺されちまったこともあるし、おっさんみたいに凍死しかけたことだって二度もあるよ、それからこの街道でもって自動車に轢き逃げされちまったし、それでもおれ、こうやってここを歩いてらね、ロンドンへ向けて歩いてる、そこからまた逃げ出すためにね。どうしてって、しょうがねぇからさ。死だよ! こいつだけは誰ものがれられっこねぇ、どうしたってね」

  • リチャード・ミドルトン=著 乾信一郎(いぬい・しんいちろう)=訳 「ブライトン街道にて」 ロアルド・ダール=編 『ロアルド・ダールの幽霊物語』 ハヤカワ・ミステリ文庫 早川書房 1988/12

(J6) 平井 1974, 1985
「あのね、いいかい、おじさん」と若者はしゃがれた声でいった。「[略]でもさ、これで六年間もほうぼうの家をこうやって叩き歩いてるんだぜ。おじさん、おれのことを不死身(ふじみ)だと思うかい? ほんというと、おれね、マーゲートで泳いでて溺れたこともあるし、ジプシーにスパイクでもって殴り殺されたこともあるんだよ。ジプシーの野郎、おいらの脳天を真向(まっこう)から殴りつけやがってさ。それから、ゆうべのおじさんみたいに、凍死しかけたことも二度あるし、ここの街道で自動車に轢かれたこともあるんだ。それがこうやって、今もここを歩いて、ロンドンまで歩いて行っちゃあ、また歩いて帰ってきてるんだぜ。そうしなきゃいられないんだものね。死ぬってこと! こりゃいくら厭だといったって、遁れられないものなのさ。」


■ドイツ語訳 Translation into German

„Ich erklär’s Ihnen“, sagte der Junge heiser. [Omission] aber ich treibe mich seit sechs Jahren so rum, und Sie denken, ich sei nicht tot? Ich bin in Margate beim Baden ertrunken, und ich wurde von einem Zigeuner mit einem Spieß kaltgemacht; er schlug mir regelrecht den Kopf ein, und zweimal bin ich erfroren wie Sie letzte Nacht, und ein Auto hat mich genau auf dieser Straße überfahren, und trotzdem gehe ich jetzt hier, auf dem Weg nach London, damit ich wieder davon weglaufen kann, weil ich’s nicht ändern kann. Tot! Ich sag’ Ihnen, wir können nicht einfach weg, wenn’s uns danach ist.“


■スペイン語訳 Translations into Spanish

(Es1)
-Pues yo le digo -exclamó el muchacho- [Omission] pero he ambulado seis años, ¿y cree usted que no estoy muerto? Me ahogué mientras me bañaba en Margate, y un gitano me mató con una lanza; me atravesó la cabeza, y dos veces me helé como usted anoche, y en este mismo camino me destrozó un automóvil; y sin embargo, aquí me ve, caminando, caminando en dirección a Londres, para irme de Londres caminando, porque no puedo evitarlo. ¡Muerto! Le digo que no podemos escapar aunque queramos.


(Es2)
-Le diré algo -dijo el muchacho con voz ronca- [Omission] pero he sido maltratado durante seis años, ¿y aún cree usted que no estoy muerto? Me ahogué bañándome en Margate, y me mató un gitano con una estaca; me aplastó la cabeza; y me quedé congelado dos veces, como usted la pasada noche, y un coche me hizo papilla en esta misma carretera, y sin embargo aquí me tiene caminando, caminando hacia Londres para marcharme de allí de nuevo, porque no lo puedo remediar. ¡Muerto! Le digo que no podemos escapar aunque queramos.

  • En el camino de Brighton by Richard Middleton
  • E-text at Angelfire

 Audio 
英語原文のオーディオブック(朗読) Audiobook in English

下に引用する箇所の朗読は 6:11 あたりから始まります。 Uploaded by rt20bg on 17 Oct 2012. Audio courtesy of LibriVox. Read by Chiquito Crasto. Reading of the excerpt below starts around 6:11.


■英語原文 The original texts in English

Text A
"I tell you," the boy said hoarsely, "[Omission] but I've been knocking about like this for six years, and do you think I'm not dead? I was drowned bathing at Margate, and I was killed by a gypsy with a spike; he knocked my head and yet I'm walking along here now, walking to London to walk away from it again, because I can't help it. Dead! I tell you we can't get away if we want to."


Text B
"I tell you," the boy said hoarsely, "[Omission] but I've been knocking about like this for six years, and do you think I'm not dead? I was drowned bathing at Margate, and I was killed by a gipsy with a spike — he knocked my head right in ; and twice I was froze like you last night ; and a motor cut me down on this very road, and yet I'm walking along here now, walking to London to walk away from it again, because I can't help it. Dead! I tell you we can't get away if we want to."

  • On the Brighton Road (1912) in The Ghost Ship and Others by Richard Middleton. Wildside Press LLC, 2003/09/30
  • Underlined by tomoki y. (the quoter). 下線は引用者 tomoki y. による。

■英語原文の異同 Variation of the original texts in English

上にご覧のとおり、引用箇所に関するかぎり英語原文には2種類が存在するようです。テキストBには、テキストAに見られない "right in ; and twice I was froze like you last night ; and a motor cut me down on this very road," という語句(=下線部分)が挿入されています。上掲日本語訳のうち、金原 2010 と hiro 2007 はテキストAを底本としており、その他の訳はテキストBを底本としているようです。


■更新履歴 Change log

  • 2016/06/13 ドイツ語訳を追加しました。
  • 2014/01/01 目次を新設しました。
  • 2013/05/01 2種類のスペイン語訳と英語原文オーディオブックの YouTube 画面を追加しました。また、英語原文を補足修正し、「英語原文の異同」という項を新設しました。
  • 2012/04/08 hiro=訳 2007-01-25 を追加しました。
  • 2010/07/20 金原瑞人=訳 2010/07/14 を追加しました。また、ブログ記事のタイトルに邦題「ブライトンへいく途中で」と「ブライトン街道にて」を追加しました。


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Only in....

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何か月もまえに、ロンドンの友達がメールに添付して送ってきた画像ファイル。写真がぜんぶで9枚あります。お手数ですが、ダウンロードしてパワーポイントでスライドショーにしてご覧ください。

mixi にはアップロードできないみたいだし、ブログに直接埋め込むやり方も、わからない。画像だけこのページにコピー&ペーストすれば、いちいちパワーポイントを起動させる手間も省ける。でも、そのやり方もわからない。そんなわけなので、すみません。ファイルは、700キロバイトぐらいのが1つです。

「only_In_1.pps」をダウンロード
 
 

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Sunday, 27 May 2007

The Story of O-Tei by Lafcadio Hearn ラフカディオ・ハーン / 小泉八雲 「お貞の話」

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表紙画像 Cover photos

a. Url b. Manga_guide_kwaidan c. Kwaidan

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■日本語訳の例 A list of some translations into Japanese

1a.池田雅之=訳「お貞の話」  『新編 日本の怪談』角川ソフィア文庫 2005/07
1b.池田雅之=訳「お貞のはなし」『妖怪・妖精譚』    ちくま文庫 2004/08
2. 金振寿香=訳「お貞の話」  『小泉八雲 日本の心』   彩図社 2003/08
3. 船木 裕=訳「お貞の話」  『完訳 怪談』     ちくま文庫 1994/06
4. 平川祐弘=訳「お貞の話」  『怪談・奇談』   講談社学術文庫 1990/06
5. 奥田裕子=訳「お貞の話」  『小泉八雲作品集3』 河出書房新社 1977/08
6. 斎藤正二=訳「お貞のはなし」『完訳 怪談』     講談社文庫 1976/10
7. 上田和夫=訳「お貞の話」  『小泉八雲集』   新潮文庫(新) 1975/03
8. 繁尾 久=訳「お貞のはなし」『怪談 他四編』    旺文社文庫 1972/06
9a. 平井呈一=訳「お貞の話」  『怪談』      岩波文庫(新) 1965/09
9b. 平井呈一=訳「お貞の話」  『全訳 小泉八雲作品集10』 恒文社 1964/06
10. 田代美千稔=訳「お貞の話」 『怪談・奇談』      角川文庫 1956/11
11. 平井呈一=訳「お貞の話」  『怪談』      岩波文庫(旧) 1940/10
12. 山本供平=譯「お貞の話」  『Kwaidan (1)』     春陽堂  1932/03
13a.森 銑三+萩原恭平=訳「お貞の話」『十六桜』     研文社  1990/09
13b.刈谷新三郎+萩原恭平=訳「お貞の話」『小泉八雲選集2』嶺光社  1927/01
14a.大谷正信=譯「お貞のはなし」『小泉八雲集(上)』新潮文庫(旧) 1950/07
14b.大谷正信=譯「お貞のはなし」『小泉八雲全集8 家庭版』 第一書房 1937/01
14c.大谷正信=譯「お貞のはなし」『小泉八雲全集7 學生版』 第一書房 1931/01
14d.大谷正信=譯「お貞のはなし」『小泉八雲全集7』     第一書房 1926/07


■上掲日本語訳からの抜粋 Excerpts from the translations listed above
 
(J1) 池田 2004, 2005
「いえ、いえ」お貞は、もの静かに応えました。
「極楽浄土でお会いできるなどと申し上げているのではございません。わたくしたちは、この世でふたたびお目にかかれる定めだと信じているのでございます。たとえ、わたくしが明日、お葬(とむら)いされたとしましても」
(……)
「ええ、わたくしが申しているのは、今生(こんじょう)のことでございます。この現世でのことでございますよ、長尾さま……。本当にあなた様がお望みになってくださるのであれば、の話です。
 ただ、そうなるためには、わたくしは、もう一度、女の子に生まれ変わり、一人前の女にならなければなりません。ですから、あなた様には待っていただかなければなりません。十五年、あるいは十六年。それは長い年月でございますね。
 ……でも、長尾さま、あなた様はまだ十九ですものね」

   a. ラフカディオ・ハーン=著 池田雅之=訳 「お貞の話」
     池田雅之=編訳 『新編 日本の怪談』 角川ソフィア文庫 2005/07 所収
   b. 小泉八雲=著 池田雅之(いけだ・まさゆき)=訳 「お貞のはなし」
     池田雅之=編訳 『妖怪・妖精譚』 小泉八雲コレクション
     ちくま文庫 2004/08 所収
 
 
(J2) 金振 2003
「いえ、いえ。来世(らいせ)のことを言っているのではありません。今死んでも、私たちはこの世でまた会える運命(さだめ)なのです」
(……)
「そうです、永尾樣。私はこの世で、またお会いできると申し上げているのです。……でも、それもあなたが望めばの話です。またお会いするためには、私はもう一度娘に生まれ、大人に成長しなければなりません。そのためには、あなたは十五、六年は待たねばならないでしょう。それが長い年月だとはわかっております。でも、あなたはまだ十九歳……」

   ラフカディオ・ハーン=著 金振寿香=訳 「お貞の話」
   和田久實(わだ・ひさみつ)=監訳 『小泉八雲 日本の心
   彩図社 2003/08 所収
 
 
(J3) 船木 1994
「いいえ、そうではありません」と相手は穏やかに、その言葉をさえぎって、「わたしの申すのは浄土のことではありません。きっとこの世でまたお目にかかれるものと信じておりますの。——たとい明日、この身が埋葬されることになりましても」
(……)
「そう。この世のことを申しているのです。——今の、この世のことなのです。長尾さま。——もっとも、あなたがそれを望んで下されば、ですけれども。ただ、そうなるには、わたしがまた女子に生まれ変わり、一人前の女にならなければなりません。ですから、それまで待っていただかなければなりません。十五年、いえ十六年、ずいぶん長い年月ですが……。でも、いとしい長生さま、あなたはまだやっと十九でございますものね……」

   ラフカディオ・ハーン=著 船木裕(ふなき・ひろし)=訳 「お貞の話」
   『完訳 怪談』 ちくま文庫 1994/06 所収
 
 
(J4) 平川 1990
「いえ、いえ」
 とお貞はおだやかに答えた、
「西方浄土のお話をいたしたのではございません。わたしどもはこの世でまたお会いするよう運命づけられている、と信じているのでございます——たといこの体が明日埋葬(まいそう)されようともでございます」
(……)
「左様でございます。この世で——あなた様の今生(こんじょう)のうちに、またお目にかかれるのでございます、おいたわしい長尾様…… ただ、本当にあなた様がお望みならばでございますよ。ただ、そうなるためには、もう一度女の子に生れて一人前の女にまで育たなければなりませぬ。そのためにはあなた様はお待ちにならなければいけませぬ。十五年か、十六年でございましょうか。これは長い年月でございます…… でもあなた様はまだ十九歳でございますものね……」

   小泉八雲=著 平川祐弘(ひらかわ・すけひろ)=訳 「お貞の話」
   『怪談・奇談』 講談社学術文庫 1990/06 所収                     
 
 
(J5) 奥田 1977
「いいえ、そうではございません」お貞は静かに答えた。「私の申すのは浄土のことではございません。この世で、もう一度お目にかかれるものと信じているのでございます。たとえ、明日私の葬式が行われましょうとも」
(……)
「そうです、長尾様。私はこの世で貴方様の生きていらっしゃる間にお目にかかれる、と申すのでございます。無論、貴方様がそうお望みならば、のことでございますが。そうなる為に、私はもう一度女子(おなご)に生まれ直して、大人にならねばなりません。貴方様は、それまで十五年、六年はお待ちになるのです。長い年月(としつき)ではございますけれど……。でも、貴方様はまだ十九でいらっしゃいますし……」

   ラフカディオ・ハーン=著 奥田裕子(おくだ・ひろこ)=訳 「お貞の話」
   『小泉八雲作品集3—物語の文学』 河出書房新社 1977/08 所収
 
 
(J6) 斎藤 1976
「いいえ、そうじゃないの!」と、彼女はおだやかに答えた。「あたくし、浄土のことを申したのではございません。あたくし、ふたりは、きっとこの世で、もういちど会える宿運(さだめ)になっていると信じていますの。——たとい、あたくし、明日(あす)が日にも土の下に埋められるにしても、ですわ」
(……)
「そうですわ。あたくしの申しておりますのは、この世なのです。——あなたがげんにこうして生きていらっしゃる、この世なのでございますわ、長尾さま。……ほんとうに、あなたさまがそれを望んでくださるのだったら、ですわ。ただ、そうなるためには、あたくし、もういちど、女の子に生まれ、それからいちにんまえの女にならなければなりませんの。ですから、あなたには、それまで待っていただかねばなりませんの。十五年——十六年。ずいぶん長い年月でございますわ……。でも、いとしい方(かた)、あなたはまだやっと十九でございますものね」……

   ハーン=著 斎藤正二(さいとう・しょうじ)=訳 「お貞のはなし」
   『完訳 怪談』 講談社文庫 1976/10 所収
 
 
(J7) 上田 1975
「いえ、いえ!」彼女は、静かに答えた、「わたしの申しておりますのは、浄土のことではございません。わたしどもは、この世でもう一度、会えることになっていると信じます——たとえ、明日、わたしが葬(ほうむ)られましても」
(……)
「そうです、この世で——長尾さま、あなたの現にいらっしゃる、この世のことでございます……もし、ほんとうに、そう願ってくださるなら。ただ、そうなるには、わたしはもう一度、女の子に生れかわって、大人にならなければなりません。ですから、きっと待っていてくださいませ。十五、六年を。長い年日ですわ……でも、ねえ、あなたはまだ、十九歳ですもの」

   小泉八雲=著 上田和夫=訳 「お貞の話」
   『小泉八雲集』 新潮文庫(新版)1975/03 所収
 
 
(J8) 繁尾 1972
 「いいえ、ちがいますわ」と女はやさしく応じた。「わたくしは極楽浄土でなどと申しあげてはおりませんの。わたくしたちは、かならずまたこの世で会える宿縁(しゅくえん)になっていると思うのです——たとえあすこの身が埋められてしまいましても」
(……)
 「そうです、わたくしは、この世でと申しあげているのです。あなたがいま生きていらっしゃるこの世でなのです、長尾さま。でも、あなたが本当に、それをお望みならのことですわ。ただ、それをするためには、わたくしが娘に生まれて、女にならなければなりません。ですから、あなたにはお待ちになっていただくのですわ。十五年か十六年も。とても長い年月です。でも、あなたはことしまだ十九でいらっしゃるから……」

   ハーン=作 繁尾久(しげお・ひさし)=訳 「お貞のはなし」
   『怪談 他四編』 旺文社文庫 1972/06 所収
 
 
(J9) 平井 1964, 1965
 「いいえ、いいえ。わたくし、来世のことを申しているのではございませんの。わたくし、きっとこうだと思います。ふたりは、かならずこの世で、もういちど会える宿世(すくせ)になっているものと存じますの。たとえあすが日にも、わたくしが土の下に埋められましても」
(……)
 「そう、わたくしの申すのは、この世のこと。長尾さま、こうしてげんにあなたが生きておいであそばすこの世のことですの。あなたさえ、ほんとにそうなることを望んでくださるのでしたら。……ただ、そうなるためには、わたくし、もういちど子どもに生まれ変って、女にならなければなりません。あなた、それを待っていただけるでしょうね。十五年、十六年、長い年月ですわ。……でも、あなたはまだ、ことし十九でいらっしゃるのですから……」

   a. ラフカディオ・ハーン=作 平井呈一=訳 「お貞の話」
     『怪談—不思議なことの物語と研究』 岩波文庫(改版)1965/09 所収
   b. 小泉八雲=著 平井呈一=訳 「お貞の話」
     『全訳 小泉八雲作品集10 骨董・怪談・天の川綺譚
     恒文社 1964/06 所収
 
 
(J10) 田代 1956
 「いえ、いえ」と、彼女はものしずかに答えた。「浄土のことを申したのではございません。わたしたちは、きっとこの世で、もう一度会える定めになっていると思います。——たとい、わたしが、あしたお葬(とむら)いされるにいたしましても」
(……)
 「そうです。わたしの申しますのは、この世——あなたが、現に生きていらっしゃる、この世でございますよ、長尾さま。……ほんとにあなたさまが、そう望んでくださるのでしたら。ただ、そうなるためには、わたしはもう一度、女の子に生れて、ひとりまえの女にならねばなりません。ですから、それまで待っていただかねばなりません。十五年——十六年、ずいぶん長いことでございます。……でも、長尾さま、あなたはまだやっと、十九でございますものね」

   ラフカディオ・ハーン=著 田代美千稔(たしろ・みちとし)=訳
   「お貞の話」 『怪談・奇談』 角川文庫 1956/11 所収
 
 
(J11) 平井 1940
 「いゝえ、いゝえ。」女は詞しづかに云ふのである。「わたくし、來世のことを申してゐるのではございません。わたくし、きつとかうだと思ひます。二人は屹度此世でもう一ど逢へる宿世(すくせ)になつてゐるのだと思ひますわ。たとひ、ひよつとしてわたくしが明日が日に土の下へ埋められましても。」
(……)
 「さうです。わたくしの申すのは此世のことでございます。ねえ長尾さま、あなたが現に生きていらつしやる此世の事でございます。あなたさへほんたうにお厭でなければ。……たゞさうなるためには、わたくしもう一ど子供に生れ變つて、女にならなければなりません。あなた、それを待つてゐて下さるでせうね。十五年、十六年。長い年ですわね。だつて、あなたはまだやつと十九でいらつしやいますもの。」

   ラフカディオ・ヘルン=作 平井呈一=訳 「お貞の話」
   『怪談—不思議な事の研究と物語』 岩波文庫(旧版)1940/10 所収
 
 
(J12) 山本 1932
「いえ、いえ」と彼女は靜かに答へた。「淨土の事を云ふたのでは御座いませんか[ママ]。私は明日葬られるのでせうが、何時か復た此世でお互ひに廻り合ふやうな運命にたつて居ると信じて居ります。」
(……)
「ほんとうに此世でのつもりです——それもあなたの今生の間の事です。……それは長尾樣、あなたがさうなる事をお望みならの事です。只さうなる爲には、私はも一度女子に生れかはつて、それから一人前の女にならねばなりません。ですから、あなたは待つてゐて下さらなければなりません。十五年か十六年、それはずゐぶん長い事ですね、……けれど私の許婚の長尾樣、あなたは未だやつと十九ですものね」。

   ラフカディオ・ハーン=著 山本供平(やまもと・きょうへい)=譯註
   「お貞の話」 『Kwaidan (1)』 英學生文庫第一卷怪談
   春陽堂 1932/03(昭和7)所収(扉には "Kawidan" と印刷されています)
 
 
(J13) 刈谷+萩原 1927, 森+萩原 1990
 「いゝえ、いゝえ」彼女はよわよわしく言葉を返した。「わたしの申しますのは浄土ではありません。わたしはこの世でもう一度わたし等の逢はれるやうになつてゐるのを信じます。——たとひあす葬られませうと」
(……)
 「さうですの、わたしの申しましたのは、この世——あなたの現にいらつしやるこの世ですの、長尾様。……ほんたうにあなたがそれを望んで下さるなら。たゞ、この通りになりますには、わたしはもう一度娘に生れて来て、女に成人せねばなりません。ですからあなたは待つてゐて下さらうなくてはなりませんわね。十五年——十六年。長いことですのよ。でも、長尾様、あなたはまだ十九歳でいらつしやいますわ」……

   a. 小泉八雲=著
     森銑三(もり・せんぞう)+萩原恭平(はぎわら・きょうへい)=共訳
     『十六桜—小泉八雲怪談集』 研文社 1990/09 所収
   b. 小泉八雲=著
     刈谷新三郎(かりや・しんざぶろう)+萩原恭平=共訳
     『小泉八雲選集 第2篇』 嶺光社+開隆堂=相版 1927/01(昭和2)所収

   「刈谷新三郎」は森銑三のペンネーム、つまり森氏と刈谷氏は同一人物です。
 
 
(J14) 大谷 1926, 1931, etc.
 『いゝえ、いゝえ』彼女は靜かに答へた。『淨土での事ではありません。明日葬られますけれども——この世で再びあふ事にきまつて居ると信じてゐます』
(……)
 『さうです。この世のつもりです——あなたのこの今の世でです。長尾さま、……全くあなたもおいやでなければ。……たださうなるために私もう一度子供に生れかはつて女に成人せねばなりません。それまで、あなたは待つてゐて下さるでせう。十五年、十六年、長い事ですね、……しかし私の約束の夫のあなたは今やつと十九です……』

   小泉八雲=著 大谷正信(おおたに・まさのぶ)=譯 「お貞のはなし」
   a. 古谷綱武(ふるや・つなたけ)=編 『小泉八雲集(上)』               
     新潮文庫(旧版)1950/07 所収
   b. 小泉八雲全集第八卷 家庭版』 第一書房 1937/01(昭和12)所収
   c. 田部隆次=編 『小泉八雲全集第七卷 學生版』 第一書房
     1931/01(昭和6)第二囘豫約刊行
   d. 田部隆次=編 『小泉八雲全集第七卷』 第一書房 1926/07(大正15)
     (豫約非賣品)所収


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英語原文のオーディオブック 朗読: ナディーン・エッカート・ブレ
Audiobook in English read by Nadine Eckert-Boulet

下の引用箇所の朗読は 2:08 から始まります。 Uploaded to YouTube by Story Time on 25 Apr 2015. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 2:08.


■英語原文 The original text in English

"Nay, nay!" she responded softly, "I meant not the Pure Land. I believe that we are destined to meet again in this world,--although I shall be buried to-morrow."

(......)

"Yes, I mean in this world,--in your own present life, Nagao-Sama.... Providing, indeed, that you wish it. Only, for this thing to happen, I must again be born a girl, and grow up to womanhood. So you would have to wait. Fifteen--sixteen years: that is a long time. . . . But, my promised husband, you are now only nineteen years old." . . .


■ハーンによる英文原書『怪談』に関する詳細な書誌
 Detailed bibliography on Kwaidan, Hearn's collection of ghost stories
 in English


■有益なサイト Useful websites


■更新履歴 Change log

  • 2015/06/26 英語原文オーディオブックの YouTube 画面を追加しました。
  • 2007/06/02 森銑三+萩原恭平=訳 1990/09、および刈谷新三郎+萩原恭平=訳 1927/01 を追加しました。

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(2) 小泉八雲 + 怪談

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Saturday, 26 May 2007

Le matelot d'Amsterdam by Guillaume Apollinaire アポリネール 「アムステルダムの水夫」「アムステルダムの船員」

a. Lheresiarque_et_cie b. Apollinairecoeur_1 c. Apollinaire_3
↑ Click to enlarge ↑

a. L'heresiarque et Cie Stock (2003)
b. Mon coeur pareil a une flamme renversee (My heart is like an upside down flame): A Calligramme.  Image source: Artistique Eclectique
c. Photo of Apollinaire in 1917.  Image source: French Culture, From Napoleon to Asterix, Department of French, University of Toronto


■Il pleut - Apollinaire: Video art created by shakanyorai82

Uploaded by shakanyorai82 on May 15, 2008


■中国語訳(簡体字) Translation into simplified Chinese

  亨得里克·维尔斯提格乖乖地照做了,他来到了指定的隔壁房间里。立刻,他听到房门在他的身后关上了,钥匙在转动。他被关住了。   没有办法,他只得把灯放到桌上,想过去把门撞开。但是,一个声音喝住了他:   “水手,你若是敢走一步,我就要你的命!”   亨得里克抬头望去,只见从一个他还来不及发现的老虎窗的窗口,伸着一截手枪,黑洞洞的枪口正瞄准着他。他停住脚步,心里一阵恐惧。

   纪尧姆·阿波利奈尔 〈阿姆斯特丹的水手〉
   E-text at 百度贴吧


■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 藤田 1998
 ヘンドリーク・ヴェルスティーグは指示に従い隣の部屋に入った。とたんに背後でドアが閉まり、鍵のまわる音がした。彼は閉じ込められたのだ。
 呆然としてランプをテーブルにおき、ドアを押し破ろうと突進しかけたとき、男の声がした。
「一歩でも動いたら命はない!」
 顔を上げるとそれまで気づかなかった明り取りの窓から銃口が狙っているのが見えた。彼はすくみ上がって足を止めた。

   アポリネール=著 藤田真利子=訳 「アムステルダムの水夫」
   光文社 「EQ Ellery Queen's mystery magazine」
   通巻125号 1998/09 所収


(2) 窪田 1987
 ヘンドレイク・ヴェルステーヒはそのとおりに、指定された部屋にいった。入るとすぐに、背後でドアの閉まる音がきこえ、鍵がまわった。かれは閉じこめられたのだ。
 かれはどぎまぎして、ランプをテーブルの上に置き、ドアに体当りをして壊そうとした。しかし、次の一声がかれにそうしたことをやめさせた。
 ——おい船員、一歩でも動いたら命はないんだぞ!
 頭をあげると、ヘンドレイクはそれまで気づきもしなかった明り窓から、ピストルの筒先が自分に向けられているのを知った。かれは怖ろしくなって棒立ちになった。

   ギヨーム・アポリネール=著 窪田般彌=訳 「アムステルダムの船員」
   『アポリネール傑作短篇集』 福武文庫 1987/01 所収


(3) 飯島 1979
 ヘンドレーク・ヴェルステヒはそれに従って、示された部屋に入った。とすぐに、彼は背後で、ドアの閉まる音がするのを聞いた。鍵がかけられた。彼は囚われ人となったのだ。
 狼狽(ろうばい)して彼はランプをテーブルに置き、ドアに飛びかかって押し破ろうとした。しかし一つの声が彼を停めた。
「水夫よ、一歩でも動いたら命はないぞ!」
 ヘンドレークは頭をあげると、いままで気づかなかった明り窓から、ピストルの銃身が自分に向けられているのを見た。すくみあがって彼は立ち止まった。

   アポリネール=著 飯島耕一(いいじま・こういち)=訳 「アムステルダムの水夫」
   『世界中短編名作集』 世界文学全集46(全50巻)
   学習研究社(学研) 1979/08/01 所収


(4) 鈴木 1974
 ヘンドリック・ヴェルステーヒは言われたとおりに隣室へ入ったが、その部屋はなんとなく彼の気持を不安にした。そのとたんに彼の背後でドアの閉まる音が聞え、カチリと鍵が回った。彼は閉じ込められてしまったのだ。
 あわてて、彼はテーブルの上にランプを置き、ドアに殺到して突き破ろうとした。ところが人声が聞えたので、彼を足を止めた。
「一歩でも歩いたらおだぶつだよ、船乗くん!」
 顔を上げると、ヘンドリックに、今まで気が付かなかった明り取りの窓から、自分に向けて狙いを定めているピストルの銃口が見えた。ゾッとして、彼は立ち止った。

   アポリネール=著 鈴木豊(すずき・ゆたか)=訳 「アムステルダムの水夫」
   『異端教祖株式会社』 講談社文庫 1974/09 所収


(5) 滝田 1966
 ヘンドレック・ヴェルステークは、言われたとおり、隣の部屋に移った。と、そのとたん、背後で扉のしまる音がして、鍵がかかった。閉じこめられてしまったのである。
 うろたえたヘンドレックは、机の上にランプを置くと、力ずくで破ろうとして扉にぶつかっていった。だが、声がして、彼を止めた。
「水夫、一歩でも動いたら、命はないぞ!」
 顔をあげたヘンドレックは、今まで気がつかなかった天窓から、一挺の拳銃の銃身が、自分に狙いをつけているのを見た。ヘンドレックは、おびえて足を止めた。

   アポリネール=著 滝田文彦=訳 「アムステルダムの水夫」
   『世界の文学52 フランス名作集』 中央公論社 1966/08 所収


(6) 川口 1964, 1969
 ヘンドレーク・ヴェルステヒは言われるままに、示された部屋に通った。とたちまち彼は背後にドアの閉じる音を聞いた。鍵がかけられた。彼は押し込められてしまったのだ。
 狼狽して、彼はランプをテーブルの上に置き、ドアに飛びかかって押し破ろうとしてた。しかし人声が彼を停めた。
 ——水夫、一歩でも動いたらおまえの命はないぞ!
 ヘンドレークは頭を上げると、今まで気づかなかった明り窓から、自分に向けられたピストルの銃身が眼についた。震え上がって彼は立ち停まった。

   アポリネール=著 川口篤=訳 「アムステルダムの水夫」
   * 『世界文学大系92 近代小説集2』 筑摩書房 1964/07 所収
   * 『世界文学大系97 近代小説集2』 筑摩書房
    初版第1刷 1964/07、初版第7刷 1969/06 所収


(7) 堀 1958
 そこでヘンドリク・ウエルステイグは自分に指定された部屋の中へ、言はれる通りに入つていつた。すると突然、彼は自分のうしろのドアが閉められて、鍵がまはされるのを聞いた。彼はとりこにされてしまつたのだ。
 狼狽しながら、彼はランプを机の上に置いて、ドアを破るため、それに飛びかからうとした。そのとき一つの聲が彼を止めた。
「一足でも動くと、貴樣の命はないぞ!」
 顏をあげたヘンドリクは、そのとき始めて氣のついた明り窓ごしに、彼の上へピストルが向けられてゐるのを見たのである。ぎよつとして彼は立ち止まつた。

   ギヨオム・アポリネエル=作 堀辰雄=譯 「アムステルダムの水夫」
   『堀辰雄全集5』 新潮社 1958/11 所収


(8) 堀口 1929
 ヘンドリック・ウェルステッグは、言はれるまゝに、その室の中へはひつて行つた。それと同時に、彼は、背後(うしろ)で、戸の閉る音を聞いた、鍵もがちやりとかゝつた。彼は囚(とらはれ)になつてゐた。
 狼狽(あわて)て、彼はランプを卓子(テーブル)の上に置いて、扉(ドア)を破るために、戸口に向つて襲ひかゝらうとした。だが、その時、一つの聲があつて、彼にそれを思ひとゞまらせた。
「——水夫、ひと歩(あし)でも動いたら、貴樣の命(いのち)はないぞ!」
 頭を上げて、ヘンドリックは見た、その時までまだ氣がつかずにゐた一つの天窓から、短銃の筒先がぴつたりと彼に向けられてゐるのを、ぎくりとして、彼はその場に立ちつくした。

   アポリネエル=作 堀口大學=譯 「アムステルダムの水夫」
   『世界文學全集36 近代短篇小説集
   新潮社(非賣品)1929/07(昭和4)所収


■主人公の名前の日本語表記
 Transliteration variations of the protagonist's name in Japanese

   Hendrijk Wersteeg

  ヘンドリーク・ヴェルスティーグ 藤田真利子=訳 1998
   ヘンドリク・ウエルステイグ  堀 辰雄 =譯 1958
  ヘンドリック・ウェルステッグ  堀口 大學=譯 1929
  ヘンドリック・ヴェルステーヒ  鈴木 豊 =訳 1974
  ヘンドレーク・ヴェルステヒ   飯島 耕一=訳 1979 
  ヘンドレーク・ヴェルステヒ   川口 篤 =訳 1964, 1969 
  ヘンドレイク・ヴェルステーヒ  窪田 般彌=訳 1987 
  ヘンドレック・ヴェルステーク  滝田 文彦=訳 1966

見事なまでに、バラバラですね(笑)。他の訳との差別化をねらって、訳者の皆さんがた、わざと、意地でも、ちがう表記にしようとしていらっしゃるのかしら。たしかに、この名前の部分だけを見れば、どの訳文が誰の訳か、判別できるという利点は、あることはありますが……。


■作家の出自 The author's ethnic and linguistic background

アポリネールは、いうまでもなくフランスで活躍し、フランス語で作品を発表した詩人・小説家・批評家です。当然フランス人だとお考えのかたも多いでしょう。そう言っても、まちがいではありません。要は「フランス人」の定義しだいです。けれども、彼の出自は必ずしも単純ではありません。

生名ヴィルヘルム・アルベルト・ウラジーミル・アポリナリス・コストロヴィツキ。
母親は、ポーランド貴族の末裔で、旧ソビエト連邦、今日のベラルーシに生まれた人。父親は不明ですが、スイス=イタリア系の貴族だという説があります。

アポリネール本人はイタリアのローマで生まれ、子供のころからフランス語その他の言語を話す環境で育ちました。アポリネールと名乗るようになったのは、はっきりは存じませんが、19歳でパリに出てからのようです。「アポリナリス」をフランス風に変えたのでしょうね。


■主人公の名前 The protagonist's name

さて、上のような氏素性の作家が、フランス語で書いた短篇小説が「アムステルダムの水夫」です。題名からおわかりのように主人公はオランダ人。小説の舞台は、イギリスの港町サザンプトン。主人公と、もう一人の人物は、英語で会話をしているという設定になっています。今日でもそうですが、オランダ人の多くは、とても流暢な英語を話します。ですから、この設定はぜんぜん不自然ではありません。

さて、こうした背景をぜんぶ理解したうえで、この作品を日本語に翻訳した場合、主人公の名前は、どのように表記すべきでしょうか? ——わたしには、わかりません(苦笑)。上にご覧のとおり、これまでの訳者たちの考えは、みごとなまでにバラバラのようです。


■スペイン語訳 Translation into simplified Spanish

Hendrijk Wersteeg obedeció y entró en la habitación que se le había indicado. De inmediato, sintió que la puerta se cerraba detrás de él, que la llave giraba. Estaba prisionero.

Trastornado, posó la lámpara sobre la mesa y quiso arrojarse contra la puerta para forzarla. Pero una voz lo detuvo:

-¡Un paso más y es hombre muerto, marinero!

Levantando la cabeza, Hendrijk vio que, por un tragaluz que antes no había percibido, el caño de un revólver apuntaba hacia él. Aterrorizado, se detuvo.

   El Marinero de Ámsterdam by Guillaume Apollinaire
   E-text at Scribd


■フランス語原文 The original text in French

Hendrijk Wersteeg obéit et alla dans la chambre qui lui était indiquée. Aussitôt, il entendit la porte se refermer derrière lui, la clef tourna. Il était prisonnier.

Interdit, il posa la lampe sur la table et voulut se ruer contre la porte pour l’enfoncer. Mais une voix l’arrêta :

" Un pas et vous êtes mort, matelot ! "

Levant la tête, Hendrijk vit par la lucarne qu’il n’avait pas encore aperçue, le canon d’un revolver braqué sur lui. Terrifié, il s’arrêta.

   Le matelot d'Amsterdam
   from L’Hérésiarque et Cie (1907) by Guillaume Apollinaire
   E-text at:
   * Academie de Reims
   * Yves Esse


■更新履歴 Change log

2012/04/22 飯島耕一=訳 1979/08/01 を追加しました。
2012/03/01 中国語訳(簡体字)とスペイン語訳を追加しました。
2010/08/26 Il pleut - Apollinaire の YouTube 動画を追加しました。
2007/08/29 藤田真利子=訳 1998/09 を追加しました。また、「作家の出自
         と主人公の名前」の項を2つに分け、それぞれ「作家の出自」
         「主人公の名前」という見出しをつけました。
2007/06/07 鈴木豊=訳 1974/09 を追加しました。
2007/05/29 堀口大學=譯 1929/07 を追加しました。


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Wednesday, 23 May 2007

Yuki-Onna by Lafcadio Hearn ラフカディオ・ハーン / 小泉八雲 「雪女 / 雪おんな / 雪をんな」

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表紙画像 Cover photos

a. Nihon_no_kaidan b. Yukionna_1 c. Hearn_no_sekai
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  Audio  
平井呈一訳の朗読 Audiobook in Japanese

下に引用した個所は 5:33 あたりから。The excerpted section starts around 5:33.


■日本語訳の例 A list of some translations into Japanese

1.  小林幸治=訳「雪女」  『怪談』プロジェクト杉田玄白 2006 or 2010(?)
2a. 池田雅之=訳「雪女」  『語られると怖い話』    ポプラ社 2006/03
2b. 池田雅之=訳「雪女」  『新編 日本の怪談』角川ソフィア文庫 2005/07
2c. 池田雅之=訳「雪女」  『妖怪・妖精譚』     ちくま文庫 2004/08
3.  井上雅之=訳「雪女」  『小泉八雲 日本の心』    彩図社 2003/08
4.  脇 明子=訳「雪女」  『雪女 夏の日の夢』  岩波少年文庫 2003/03
5.  船木 裕=訳「雪おんな」『完訳 怪談』      ちくま文庫 1994/06
6.  保永貞夫=訳「雪女」  『耳なし芳一・雪女』講談社青い鳥文庫 1992/06
7.  平川祐弘=訳「雪女」  『怪談・奇談』    講談社学術文庫 1990/06
8.  中山伸子=訳「雪おんな」『恐怖の1ダース』    講談社文庫 1980/08
9.  奥田裕子=訳「雪女」  『小泉八雲作品集3』  河出書房新社 1977/08
10. 斎藤正二=訳「雪おんな」『完訳 怪談』      講談社文庫 1976/10
11. 上田和夫=訳「雪おんな」『小泉八雲集』   新潮文庫(新版) 1975/03
12. 保永貞夫=訳「雪女」  『怪談2』    少年少女講談社文庫 1972/11
13. 繁尾 久=訳「雪おんな」『怪談 他四編』     旺文社文庫 1972/06
14. 白木 茂=訳「雪おんな」『怪談』    旺文社ジュニア図書館 1971/04
15a.平井呈一=訳「雪おんな」『怪談』      岩波文庫(改版) 1965/09
15b.平井呈一=訳「雪おんな」『新・日本児童文学選2』   偕成社 1965/07
15c.平井呈一=訳「雪おんな」『全訳 小泉八雲作品集10』  恒文社 1964/06
16. 田代美千稔=訳「雪おんな」『怪談・奇談』      角川文庫 1956/11
17. 竹村 覺=譯「雪女」  『怪談・奇談』     金文堂出版部 1948/06
18. 平井呈一=訳「雪をんな」『怪談』      岩波文庫(旧版) 1940/10
19a.田部隆次=譯「雪女」  『小泉八雲集(上)』新潮文庫(旧版) 1950/07
19b.田部隆次=譯「雪女」  『小泉八雲全集第八卷家庭版』第一書房 1937/01
20. 山本供平=譯「雪女」  『Kwaidan (1)』       春陽堂 1932/03
21a.森銑三+萩原恭平=訳「雪をんな」『十六桜』      研文社 1990/09
21b.刈谷新三郎+萩原恭平=訳
        「雪をんな」『小泉八雲選集1』  嶺光社+開隆堂 1926/05


■上掲日本語訳からの抜粋 Excerpts from the translations listed above

(1) 小林 2006(?), 2010(?)
「私は、お前もあの人のようにする積りだったけど、お前が哀れに思えて仕方がない。だから見逃してやる事にするわ。見ればとても若くてかわいい坊やなんだから、巳之吉、今はお前には何もしないであげる。けど、もし今夜見た事を誰かに話したら、たとえそれがお前の母さんでも、私はすぐ分かるからね、その時はお前を殺してやるわ。私の言葉、忘れないで。」

   ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)=著 小林幸治=訳 「雪おんな
   『怪談:妖しい物の話と研究』 「プロジェクト杉田玄白」正式参加作品
   出版年は不明。アクセスカウンターは2010/09/06からカウント開始している。
   あとがきに相当する「訳者より」のページには「平成18年12月7日」
   すなわち 2006/12/07 の日付が見える。


(2) 池田 2004, 2005, etc.
「わたしは、おまえをあの年寄りのようにしてやろうと思っていたのさ。だが、おまえはたいそう若いから、どうも憐(あわ)れになった。
 巳之吉(みのきち)、おまえはなかなかきれいだから、今は許してやることにしよう。しかし、もしも、おまえが今夜見たことを、たとえ母親にでもしゃべったなら、そのときは、きっと命はないものと思うがいい。いいか、わたしの言ったことを忘れるでないぞ」

   小泉八雲=著 池田雅之(いけだ・まさゆき)=訳 「雪女」
   a. 赤木かん子=編 『語られると怖い話』 ホラーセレクション2
     ポプラ社 2006/03 所収
   b. 池田雅之=編訳 『新編 日本の怪談』 角川ソフィア文庫 2005/07 所収
   c. 池田雅之=編訳 『妖怪・妖精譚』 小泉八雲コレクション
     ちくま文庫 2004/08 所収


(3) 井上 2003
「おまえもあの爺さんと同じ目に遭わせてやろうと思っていたのさ。でも、気の毒になってね。だって、おまえは若いし、ほんとに可愛いからね。……今夜のことを、たとえ、おまえのおっ母さんにでもだよ、口にしたら、殺してしまうからね。わたしにはすべてお見通しなのさ。……わたしの言葉を忘れるでないよ」

   ラフカディオ・ハーン=著 井上雅之=訳 「雪女」
   和田久實(わだ・ひさみつ)=監訳 『小泉八雲 日本の心
   彩図社 2003/08 所収


(4) 脇 2003
「おまえも、もう一人のようにしてやるつもりだった。でも、なんだかかわいそうになってきたわ。おまえはこんなに若いんだもの。……おまえはきれいね、巳之吉(みのきち)。いまはおまえには触(さわ)らないでおくわ。でも、今夜ここで見たことをだれかに言ったら——たとえ、それがおまえのお母さんであっても——だれかにひとことでも言おうものなら、あたしにはちゃんとそれがわかるからね。そうしたら、おまえを殺してしまうよ。……あたしの言ったことを覚えておおき!」

   ラフカディオ・ハーン=著 脇明子(わき・あきこ)=訳 「雪女」
   『雪女 夏の日の夢』 岩波少年文庫 2003/03 所収


(5) 船木 1994
「おまえもあの爺さんと同じ目にあわせるつもりだったのに、なんだかかわいそうになってしまった。——なにしろあんまり若いのだもの。——ねえ、巳之吉(みのきち)、あんたはかわいい子だね。だから、今回は見逃してあげよう。でもね、今夜見たことは決して誰にもいってはいけないよ——母親にもね。そんなことしてごらん、あたしにはちゃんとわかるんだからね。そのときには、おまえの命はないからね——いいかい、それを忘れるんじゃないよ」

   ラフカディオ・ハーン=著 船木裕(ふなき・ひろし)=訳 「雪おんな」
   『完訳 怪談』 ちくま文庫 1994/06 所収


(6) 保永 1992
「おまえも、茂作(もさく)と同(おな)じめにあわせてやろうと思(おも)ったが、なんだかかわいそうになった。だって、おまえはまだ若(わか)いし、心(こころ)もやさしそうだから、こんどは助(たす)けてあげよう。しかし、今晩(こんばん)のことは、だれにも——たとえ、おまえのお母(かあ)さんにでも話(はな)してはいけないよ。そうしたら、おまえの命(いのち)はないからね……いいかい、わたしのいったことを、けっしてわすれるんじゃないよ。」

   小泉八雲=作 保永貞夫(やすなが・さだお)=訳 「雪女」
   『耳なし芳一・雪女—八雲怪談傑作集
   講談社青い鳥文庫 1992/06


(7) 平川 1990
「お前も同じ目にあわせてやろうと思ったが、なんだか不憫(ふびん)になった。お前はあんまり若いから。お前は可愛いから、今度は助けてあげる。しかし今晩のことは誰にも話してはいけない。たといお母さんにでも言えば、只ではおかない。そうしたら命はないよ。いいか、わたしの言いつけをお忘れでないよ」

   小泉八雲=著 平川祐弘(ひらかわ・すけひろ)=訳 「雪女」
   『怪談・奇談』 講談社学術文庫 1990/06 所収                     


(8) 中山 1980
「お前ももう一人の人と同じような目に会わせてやるつもりだったんだけどね。何だかちょっとかわいそうになったのさ——お前はまだとっても若いから……きれいな子だね、お前は、巳之吉。お前を痛めつけるのは今はやめにしてあげよう。だけど、もしお前が誰かに——そう、たとえお前のお母さんにだってさ——今夜見たことを話したら、私には、ちゃんと分かるんだよ。もしもしゃべったら、そしたら、お前の命は今度こそないよ……私が言ったことをお忘れでないよ」

   ラフカディオ・ハーン=著 中山伸子=訳 「雪おんな」
   中田耕治=編 『恐怖の1ダース』 講談社文庫 1980/08 所収


(9) 奥田 1977
「お前さんもこの爺さんとおんなじ目に遭わせてやるつもりだったが、まだ若いらしいから、今日のところは止めにしておいてあげよう。顔も可愛らしいし、かわいそうになったんだよ。だが、もしお前さんが今夜の出来事を人にしゃべったりすれば、この私にゃちゃんと分かるんだからね。そうしたら、ただではおかないよ。おふくろさんにしゃべっても、お前さんの命はないからね。いいかい、今言ったことをお忘れでないよ」

   小泉八雲=著 奥田裕子(おくだ・ひろこ)=訳 「雪女」
   森亮(もり・りょう)〔ほか〕=訳 『小泉八雲作品集3—物語の文学
   河出書房新社 1977/08 所収


(10) 斎藤 1976
「あたしは、おまえさんを、もうひとりの人と同じような目にあわせてやろうと思っていたんだよ。だが、どうもすこし、おまえさんがかわいそうになってきてね。——だって、おまえさんは、まだとても若いんだものね。……おまえさんは美少年だね、巳之吉。それで、あたしは、きょうのところ、おまえさんを殺(あや)めるようなことはしないでおくよ。だが、もしも、おまえさんが、今夜見たことを、だれかに——たといおまえの母親にだってもだよ——口外したとすればだよ、あたしには、それが、ちゃんとわかるんだからね。そして、そのときには、あたしゃ、おまえさんを生かしちゃおかないからね。……あたしの言ったことを、よく覚えておおき!」

   ハーン=著 斎藤正二(さいとう・しょうじ)=訳 「雪おんな」
   『完訳 怪談』 講談社文庫 1976/10 所収


(11) 上田 1975
「わたしは、おまえも、あの人のようにするつもりだったのよ。だけど、ちょっとかわいそうになってね——あんまり若いものだから。……なんて、かわいい子だろう、巳之吉さん。もう、おまえを殺しはしない。でも、もしおまえが、だれかに——たとえ、おまえの母親であっても——今夜見たことを言ったら、わたしにはわかるのだから。そのときは、おまえを殺してしまう……言ったことをよくおぼえておくのだよ!」

   小泉八雲=著 上田和夫=訳 「雪おんな」
   『小泉八雲集』 新潮文庫(新版)1975/03 所収


(12) 保永 1972
「おまえも、あの人と、おなじようなめにあわせてやろうと思ったのだが、すこし、かわいそうになってきたよ——。だって、まだわかいのだもの……。
 巳之吉や、おまえは、ほんとうに、きれいで、やさしそうな子だね。それで、いまのところ、おまえをいためつけるようなことはしないから、安心をおし。
 けれど、今夜見たことを、もしだれかに——たとい、おまえの母親にでも——話そうものなら、わたしには、ちゃんとわかって、そのときは、おまえを殺してしまうからね……。わたしのいったことを、けっしてわすれるのではないよ。」

   小泉八雲=作 保永貞夫(やすなが・さだお)=訳 「雪女」
   『怪談 2』 少年少女講談社文庫 1972/11
   原文は総ルビですが、ここではそれらをすべて略しました。


(13) 繁尾 1972
「おまえも、あっちの男のようにしてくれようと思ったけれど、でもなんだかかわいそう——まだ、こんなに若いんだから……かわいい子だね、巳之吉、おまえは。今はいたぶるのはよしにしよう。でも、こん夜見たことを人にいいつけたら、たとえおまえのおっ母(か)さんにしゃべったって、あたしにはわかっちまうんだから、いいね。そんなことをしでかしたら、わたしはおまえを取り殺してしまうから……あたしのいったことを、よくおぼえておくがいい!」

   ハーン=作 繁尾久(しげお・ひさし)=訳 「雪おんな」
   『怪談 他四編』 旺文社文庫 1972/06 所収


(14) 白木 1971
「わたしは、おまえも、この年よりのような目にあわせてやろうと思ったのだが、なんだか、かわいそうになってきたんだよ。——おまえは、まだ若いんだからね……。ねえ、巳之吉(みのきち)、あんたは、かわいい少年だね。だから、そっとしといてあげる。そのかわり、おまえは、今夜のことをだれにもいってはいけないよ。おまえのおかあさんにもだよ。——もし、このやくそくをやぶるようなことがあれば、このわたしには、すぐわかるんだからね。いいね、だれかにいったりしたら、おまえをころしてしまうよ。わかったね、ようくおぼえておくんだよ。」
[原文にあるルビは一部省略しました - tomoki y.]

   ハーン=作 白木茂(しらき・しげる)=訳 「雪おんな」
   『怪談(ふしぎな話)』 旺文社ジュニア図書館 1971/04 所収


(15) 平井 1964, 1965
「わたしは、おまえのことも、こっちの人のような目に会わせてやろうと思ったけれど、でも、なんだか、むしょうにかわいそうになってきた。おまえは、まだ年がいかないものね。巳之吉、おまえはかわいい子だね。もう、わるさはしないよ。でも、今夜おまえが見たことは、だれにも言ってはいけないよ。おまえのおっ母さんにも、黙っているのだよ。言うと、わたしにゃ、ちゃんとわかるよ。そうしたら、わたしはおまえを殺してやるからね。いいかえ、わたしの言ったことを、よくおぼえてお置き」

   a. ラフカディオ・ハーン=作 平井呈一=訳 「雪おんな」
     『怪談—不思議なことの物語と研究』 岩波文庫(改版)1965/09 所収
   b. 小泉八雲=著 平井呈一=訳 「雪おんな」
     『新・日本児童文学選2』 偕成社 1965/07 所収
   c. 小泉八雲=著 平井呈一=訳 「雪おんな」
     『全訳 小泉八雲作品集10 骨董・怪談・天の川綺譚
     恒文社 1964/06 所収

   上の引用は、a. および c. に依拠しました。
   b. は、児童向きに字句や表記がすこし改めてあるため、
   細部が異なりますが、大筋は同じです。


(16) 田代 1956
「おまえも、あの人と同じような目にあわせてやろうと思ったんだが、どうもすこし、かわいそうになってきてね。——だって、まだとても若いんだから。……おまえはきれいな子だね、巳之吉。それで、今のところ、おまえを傷めるようなことはしないよ。だけど、おまえがもしだれかに——たといおまえの母親にでも——今夜見たことを話そうものなら、ちゃんとわたしにわかるのだから、そのときは、おまえを殺してしまうからね。……わたしの言ったことを、よく覚えておいで」

   ラフカディオ・ハーン=著 田代美千稔(たしろ・みちとし)=訳
   「雪おんな」 『怪談・奇談』 角川文庫 1956/11 所収


(17) 竹村 1948
『妾は、お前も、あの男の樣にしてやらうと思つてゐたよ。けれども、妾はどうしてもお前が可哀想でならないのだよ、——お前はこんなに若いのだものね。……巳之吉、お前は美しい子だわね。もうお前に危害を加へるのは止めようね。けれども若しお前が誰にでも——たとへお前の母親にだつても——今夜見た事を話さうものなら、妾にはそれが分るのだよ。その時には、お前も殺してしまふからね。……妾の言ふことを忘れないでね!』

   小泉八雲=著 竹村覺(たけむら・さとる)=譯註 「雪女」
   『怪談・奇談』 金文堂出版部 1948/06 所収


(18) 平井 1940
「わたしはお前もこつちの人のやうな目に遭わせてやらうと思つたが、でもなんだか耐(たま)らなく可哀さうになつて來たよ。お前はまだ年が行かないからね。巳之吉や、お前は可愛いゝ子だね。もう惡戲(わるさ)はしないよ。だが、今夜お前が見たことは誰にも言つてはいけない。お前のおつ母さんにも默つてゐるのだよ。言ふと、ちやんとわたしにや分かるよ。さうしたら、わたしやお前を殺してしまうよ。いゝかえ、わたしの言ふこと、よく覺えてお置き。」

   ラフカディオ・ヘルン=作 平井呈一=訳 「雪をんな」
   『怪談—不思議な事の研究と物語』 岩波文庫(旧版)1940/10 所収


(19) 田部 1937, 1950, etc.
「私は今ひとりの人のやうに、あなたをしようかと思つた。しかし、あなたを氣の毒だと思はずには居られない、——あなたは若いのだから。……あなたは美少年ね、巳之吉さん、もう私はあなたを害しはしません。しかし、もしあなたが今夜見た事を誰かに——あなたの母さんにでも——云つたら、私に分ります、そして私、あなたを殺します。……覺えていらつしやい、私の云ふ事を」

   小泉八雲=著 田部隆次(たなべ・りゅうじ)=譯 「雪女」
   a. 古谷綱武(ふるや・つなたけ)=編 『小泉八雲集(上)
     新潮文庫(旧版)1950/07 所収
   b.小泉八雲全集第八卷家庭版』 第一書房 1937/01(昭和12)所収
   この訳のオーディオブック 『小泉八雲の怪談傑作選』 でじじ


(20) 山本 1932
「妾はね、お前もあの人の樣に仕樣と思つたんだよ、だが、どうも、少し可哀想でね——お前はまだほんとに若いのだから……。巳之吉、お前は綺麗な子だね、妾は今お前を殺しませんよけれども、お前が若し誰にでも、例ばお前のほんとのお母さんにでも、今夜見たことを、云つたら最後、妾にはちやんと解るのだからその時こそはお前の命を貰ふからね……妾の云つたことを覺えて置いで!」

   ラフカディオ・ハーン=著 山本供平=譯註 「雪女」
   『Kwaidan (1)』 春陽堂 1932/03(昭和7)所収
   (ただし、この本の扉には "Kawidan" と表記)


(21) 刈谷+萩原 1926, 森+萩原 1990
「あたしはね、お前もあの人のやうにしようと思つたのだよ。だがどうも、ちつと可哀さうよ——お前はほんたうにまだ若いのだから……。巳之吉お前は美しい子だね。あたしは今お前をあやめまい。けれども、お前がもし誰にでも——お前のほんとの母親にでも——今夜見たことをいはうなら、わたしには解るのだから、その時こそお前を殺してしまふからね。……あたしのいったことを覚えておき!」

   a. 小泉八雲=著
     森銑三(もり・せんぞう)+萩原恭平(はぎわら・きょうへい)=共訳
     『十六桜—小泉八雲怪談集』 研文社 1990/09 所収
   b. 小泉八雲=著
     刈谷新三郎(かりや・しんざぶろう)+萩原恭平=共訳
     『小泉八雲選集 第1篇』 嶺光社+開隆堂=相版 1926/05(大正15)所収

  • 「刈谷新三郎」は森銑三のペンネーム、つまり森氏と刈谷氏は同一人物です。a.b.『小泉八雲選集 第1篇』所収の12篇に、『小泉八雲選集第2篇』を併せ、一冊にまとめたもの。
  • a. の「編集後記」および、そこに引用されている b. 序文によって、b. の成立事情がわかります。それらによると、b. 所収の12篇のほとんどすべては、すでに1919, 1920(大正8, 9)年ごろ、大道義塾の機関誌「帝國民」に、あるものは刈谷氏、あるものは萩原氏の名前で発表されていたそうです。しかし、その実態は12篇すべてが両氏の共訳だったとのこと。b. 刊行にあたっては、両氏が共同で全篇をことごとく改稿された由。
  • a. には、なぜか ISBN が記載されていません。また、b. は、国立国会図書館「日本全国書誌」2004-32三康図書館蔵書検索−語学明治大学図書館書誌 などに記載されています。

  Video  
英語原書のアニメ化作品 Animated adaptation of the original text in English

下の引用箇所の朗読は 2:39 から始まります。 Uploaded to YouTube by Machinima on 2 Nov 2007. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 2:39.


■英語原文 The original text in English

"I intended to treat you like the other man. But I cannot help feeling some pity for you, -- because you are so young... You are a pretty boy, Minokichi; and I will not hurt you now. But, if you ever tell anybody -- even your own mother -- about what you have seen this night, I shall know it; and then I will kill you... Remember what I say!"


■ハーンによる英文原書『怪談』に関する詳細な書誌
 Detailed bibliography on Kwaidan, Hearn's collection of ghost stories
 in English


■有益なサイト Useful websites


■更新履歴 Change log

  • 2015/02/09 保永貞夫=訳 1972/11 を追加しました。
  • 2014/02/27 英語原書のドラマ仕立ての朗読の YouTube 画面を追加しました。
  • 2011/11/10 小林幸治=訳 2006 or 2010(?) を追加しました。
  • 2010/05/19 平井呈一=訳 1964, 1965 の朗読の YouTube 画面を追加しました。
  • 2007/07/06 中山伸子=訳 1980/08 を追加しました。
  • 2007/06/02 森銑三+萩原恭平=共訳 1990/09、および刈谷新三郎+萩原恭平=共訳 1926/05 を追加しました。また、日本語訳の例 A list of some translations into Japanese の項を新設しました。

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Friday, 18 May 2007

L'enfant de la haute mer / A Child of the High Seas by Jules Supervielle シュペルヴィエル 「海に住む少女」

 Video 1 
En mai, fais ce qu'il te plaît (2002)

A short animated film directed by Laetitia Gabrielli, Pierre Marteel, Mathieu Renoux and Max Tourret. Music by René Aubry. More details at Internet Archive


 Video 2 
L'enfant de la haute mer (1985)

Uploaded to YouTube by aaaproductionParis on 2 Apr 2013


 Images 
表紙画像ほか Cover photos, etc.

a. 33475111 b. Supervielle_2 c. 045

↑ クリックして拡大 Click to enlarge ↑

■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 永田 2006
 少女はこの世に、自分以外にも女の子がいるなんて知りませんでした。いえ、そもそも自分が少女であることすら、知っていたのでしょうか。
 とんでもない美少女、というわけではありませんでした。前歯にちょっと隙間がありましたし、鼻もちょっと上向きでしたから。でも、肌は真っ白で、そのうえに少しだけ、てんてんがありました。まあ、そばかすといってもいいでしょう。ぱっちりというわけではありませんが、輝く灰色の瞳が印象的なこの少女、灰色の瞳に動かされているようなこの少女の存在に気づいたとき、あなたは時間の底から大きな驚きが湧き上がり、身体をつらぬき、魂にまで届くのを感じることでしょう。

   ジュール・シュペルヴィエル=作 永田千奈(ながた・ちな)=訳
   『海に住む少女』 光文社古典新訳文庫 2006/10


(J2) 綱島 2004
 少女は自分が世界じゅうでただ一人の少女だと思っていた。しかし、はたして自分が少女だということからして、本当にわかっていたかどうか……
 歯並びにいくぶん隙間があり、鼻が少し上を向きすぎていて、美少女とは言いがたかったが、肌は白く透きとおり、そこには穏やかさのしみ、というか、そばかすがかすかに散っていた。そして、控えめだがよく輝く灰色の瞳の指図で動く、彼女の小さな姿を見ていると、時の深みから大きな驚きが湧き起こり、体をつらぬいて魂にまでも届くのだった。

   ジュール・シュペルヴィエル=作
   綱島寿秀(つなしま・としひで)=訳
   『海の上の少女—シュペルヴィエル短篇選
   大人の本棚 みすず書房 2004/05 所収


(J3) 三野 1990
 この子は、世界じゅうで女の子は自分ひとりだけだと思っていた。でもいったい、自分が女の子だということを知っていたのだろうか?
 少女はそんなにかわいくはなかった。歯並びがすこし悪かったし、鼻は少々そりかえっていた。だけど、肌はとても白かった、いくつかやわらかい染みが、つまりその、そばかすがあったけれども。そして、灰色の、つつましいけれどとても明るく光る目が印象的なこの少女は、時間の奥底からやってくる大きな驚きで、見る者の体を、魂までつらぬくのだった。
 
   J・シュペルヴィエル=著 三野博司=訳
   『沖の少女—シュペルヴィエル幻想短編集
   現代教養文庫 社会思想社 1990/05


(J4) 石川 1989
 娘(むすめ)は、自分がこの世でたったひとりの女の子だと思っていた。いや、自分が女の子だということをいったい知っていたのだろうか?
 歯ならびが悪く、鼻もちょっと上を向いていたので、娘(むすめ)はとびきり美しかったわけではないが、肌(はだ)はまっ白で、かわいらしいそばかすがぽつぽつとついていた。それに、その小さなすがたを見た者は、ひかえめだがきらきらかがやく灰色(はいいろ)のひとみにひきつけられ、大きなおどろきが時間のおく深いところからわきでて、心の底にまでしみわたってくるのを感じるだろう。

   シュペルヴィエル=作 石川清子=訳 「沖の娘」
   『なぞめいた不思議な話』 幻想文学館2 くもん出版 1989/08 所収


(J5) 堀口 1977, 1989, etc.
 小娘は自分を、世界じゅうでたった一人の女の子だと信じていた。いやそれどころか、彼女が自分を女だと知っていたかさえ疑わしい。
 歯の間に隙間があるのと、鼻が少々上向きすぎるので、彼女はそうたいして美しいというほどではなかったが、ただ肌は真白で、その上それを可愛らしいものに見せる雀斑(そばかす)までがあった。おとなしやかな、ぱっちりした灰色の眼が司っている彼女の小さな姿を見ると、人は、魂の奥まで滲み透る大きな驚き、時劫の底から来るような、大きな驚きを感じるのであった。

   ジュール・シュペルヴィエル=作 堀口大學=訳 「沖の小娘」
   a.シュペルヴィエル抄』 小沢書店 1992/03 所収
   b.幼童殺戮 堀口大學訳短篇物語1』 書肆山田 1989/03 所収
   c.沖の小娘』 青銅社 1977/12 所収


(J6) 窪田 1970, 1985
 娘は、自分は世界でただ一人の女の子だと思いこんでいた。いや、自分が娘なことを果たして知っていただろうか?
 歯の間には少々隙間があったし、鼻もやや天井を向きすぎていたので、彼女は非常な美人ではなかった。しかし、肌はじつに白く、そこには愛らしい二、三の斑点(しみ)、つまり雀斑(そばかす)がついていた。慎(つつ)ましやかだが、きらきらと光り輝く灰色の眼に支配された彼女の小さな身体(からだ)は、見る者の肉体の奥深く、魂に達する大きな驚きを——この驚きは時間の底から生まれてくるものだ——感じさせた。

   ジュール・シュペルヴィエル=作 窪田般彌=訳「沖の娘」
   a. 窪田般彌=編 『フランス幻想小説傑作集』 白水Uブックス
     白水社 1985/09 所収
   b. マルセル・シュネデール=編 『現代フランス幻想小説
     白水社 1970/09 所収


(J7) 安藤 1966
 娘は自分がこの世界にたった一人の少女だと思っていた。それでも、自分が少女だということだけはわかっていたのだろうか?
 それほど美しい娘だとはいえなかった。歯並びにはいくらか隙間(すきま)があいていたし、鼻も少しばかり上を向きすぎていたからだ。しかしその肌は実に白くて、そこへ点点とかわいいしみが、いや、つまりそばかすが(#「そばかす」に傍点)ついていた。小さな体つきのなかで、おとなしそうな、だがきらきら光る灰色の目がひときわ目立つその姿は、見る人の体から魂までを、時の流れの奥底からくる大きな驚きでゆさぶるほどのものがあった。

   シュペルヴィエル=作 安藤元雄=訳 「海原の娘」
   『世界の文学52 フランス名作集』 中央公論社 1966/08 所収


■邦題の異同 Variations of the title in Japanese

   「沖の小娘」…………堀口大學=訳 1980, 1989, 1992
   「沖の少女」…………三野博司=訳 1990
   「沖の娘」……………石川清子=訳 1989
   「沖の娘」……………窪田般彌=訳 1970, 1985
   「海に住む少女」……永田千奈=訳 2006
   「海の上の少女」……綱島寿秀=訳 2004
   「海原の娘」…………安藤元雄=訳 1966


■英訳 Translation into Englsh

The child thought she was the only little girl in the world. But did she really know that she was a little girl?

She wasn't a very pretty child, because of her teeth that were rather uneven and her nose a little too turned-up, but she had a very white skin with a few gentle freckles on it. And her small person, dominated by two grey eyes, rather shy but extremely luminous, sent through you, from your body right to your soul, a sense of great wonderment, a wonderment old and deep as time itself.

   A Child of the High Seas by Jules Supervielle
   Translated from the French by Dorothy Baker
   The Penguin New writing, Issue 37 by John Lehmann
   Penguin Books, 1949
   Preview at Google Books


■フランス語原文 The original text in French

L'enfant se croyait la seule petite fille au monde. Savait-elle seulement qu'elle était une petite fille ?

Elle n'était pas très jolie à cause de ses dents un peu écartées, de son nez un peu trop retroussé, mais elle avait la peau très blanche avec quelques taches de douceur, je veux dire de rousseur. Et sa petite personne commandée par des yeux gris, modestes mais très lumineux, vous faisait passer dans le corps, jusqu'à l'âme, une grande surprise qui arrivait du fond des temps.

   L'enfant de la haute mer (1930)
   by Jules Supervielle
   E-text at Le plaisir de lire


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2016/06/05 もう1本の短篇アニメ (1985年) を追加しました。
  • 2010/12/08 短篇アニメ L'enfant de la haute mer の動画と Dorothy Baker による英訳を追加し、「外部リンク」の項を新設しました。
  • 2007/06/04 三野博司=訳 1990/05 を追加しました。
  • 2007/05/20 安藤元雄=訳 1966/08 を追加しました。
  • 2007/05/19 石川清子=訳 1989/08 を追加しました。


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Thursday, 17 May 2007

The Snows of Kilimanjaro by Ernest Hemingway ヘミングウェイ 「キリマンジャロの雪」

        目次 Table of Contents

 Images   本の表紙とDVDのジャケット Book and DVD covers
■中國語譯(繁體字)Translation into traditional Chinese
■日本語訳 Translations into Japanese
  (1) 西崎 2010
  (2) 高見 1996
  (3) 沼澤 1977
  (4) 池澤 1973
  (5) 佐伯 1970, 1974, etc.
  (6) 西村 1969
  (7) 谷口 1964, 1972, etc.
  (8) 大久保 1963, 1970, etc.
  (9) 石 1959
  (10) 高村 1957, 1966, etc.
  (11) 福田 1955, 1964
  (12) 中田 1955
  (13) 龍口 1953, 1969, etc.
■ロシア語訳 Translation into Russian
■ウクライナ語訳 Translation into Ukrainian
■ブルガリア語訳 Translation into Bulgarian
■ドイツ語訳 Translation into German
■イタリア語訳 Translation into Italian
■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese
■スペイン語訳 Translation into Spanish
  Audio    英語原文のオーディオブック(朗読) Audiobook in English
■英語原文 The original text in English
 Video 1  映画 キリマンジャロの雪 (1952) Film The Snows of Kilimanjaro (1952) 
 Video 2  Biography Ernest Hemingway: Wrestling with Life (27 Sep 1998)
■更新履歴 Change log


 Images  
本の表紙とDVDのジャケット Book and DVD covers

↓ クリックして拡大 Click to enlarge ↓

a. 068484332301 b. Kilimanjaro_film c. Hemingway_in_africa

■中國語譯(繁體字)Translation into traditional Chinese

  “(……)我愛你,真的。你知道我愛你。我從來沒有象愛你這樣愛過任何別的女人。”
  他不知不覺地說出了他平時用來謀生糊口的那套説慣了的謊話。
  “你對我挺好。”
  “你這個坏娘們,”他説。“你這個有錢的坏娘們。這是詩。現在我滿身都是詩。腐爛和詩。腐爛的詩。”
  “別説了。哈里,為什麼你現在一定要變得這樣惡狠狠的?”
  “任何東西我都不愿留下來,”男人説。“我不愿意有什麼東西在我身后留下來。”

   《乞力馬扎羅的雪》 海明威/著 湯永寬/譯
   E-text at 龍騰世紀 (millionbook.net)


■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 西崎 2010
「(……)愛しているんだ、ほんとうは。きみはぼくがきみを愛していることを知ってる。きみを愛するようにほかの誰かを愛したことはなかった」
 かれはお馴染みの嘘のなかに滑りこんだ。かれはそれによって食い扶持を稼いできたのだった。
「あなたはわたしに優しいわ」
「雌犬」かれは言った。「金持ちの雌犬。で、これは詩だ。いまぼくは詩に満ちあふれている。腐敗と詩。腐った詩」
「やめて、ハリー。どうしてまた悪魔に戻らなきゃいけないの?」
「ぼくは何も残したくないんだ」男は言った。「後ろに何も残したくないんだ」

   アーネスト・ヘミングウェイ=著 西崎憲(にしざき・けん)=訳
   「キリマンジャロの雪」
   西崎憲=編訳 『ヘミングウェイ短篇集
   ちくま文庫 2010/03/10 所収


(2) 高見 1996
「(……)おれはおまえを愛している。おまえくらい愛している人間など、一人もいなかった」
 彼はまた、自分の生きる糧(かて)ともなっている、おなじみの嘘の中にすべり込んだ。
「優しいのね、あなたって」
「ふん、あばずれめ」彼は言った。「金持ちのあばずれめ。これは詩なんだ。いまのおれは、詩心にあふれてるんだよ。たわごとと詩にな。たわごとのような詩に、さ」
「やめて。どうしてそんな意地悪をするの、ハリー?」
「あとには何も残したくないんだよ、おれは」彼は言った。「あとには何も残したくないんだ」

   アーネスト・ヘミングウェイ=著 高見浩=訳
   「キリマンジャロの雪」
   『勝者に報酬はない・キリマンジャロの雪—ヘミングウェイ全短編2
   新潮文庫 1996/07 所収


(3) 沼澤 1977
「(……)僕は君が好きだよ、本当に。分ってるな、僕は君が好きだってこと。君を愛するようにほかの人間を愛したことなどありはしない」
 彼はすらすらとおなじみの商売物の嘘を並べ立て始めた。
「ありがとう、優しくして下さって」
「この売女(ばいた)め」と彼は言う。「あんたは富める売女さ。なかなか詩的だろう。小生今や詩に充ち満ちてる。身は腐り詩に充ち満ち——文字どおりの腐れ詩人だ」
「やめて、ハリー。なぜ今さらそんな意地悪に?」
「後に何も残したくないんでね。後に物を残して行くのがいやなのさ」

   ヘミングウェイ=著 沼澤洽治(ぬまさわ・こうじ)=訳
   「キリマンジャロの雪」
   『集英社版 世界文学全集77 ヘミングウェイ
   集英社 1977/10 所収


(4) 池澤 1973
 「(……)きみを愛しているよ。ほんとうだ。わかっているんだろ。きみを愛するように人を愛したことは今までに一度もなかったんだ」
 彼の口からは何度も使った嘘がなめらかに出てきた。この嘘で長年パンとバターをかせいできたのだ。
 「あなたはやさしい人ね」
 「おまえは悪女(ビッチ)だ」と彼は言った。「金持(リッチ)の悪女(ビッチ)だ。これは詩になるな。おれの頭は今や詩でいっぱいなんだ。たわごとと詩。たわけた詩」
 「もうやめて。ハリー、なぜ急にひどいことばかり言うようになったの?」
 「何も残して行きたくないから」と男は言った。「後へ何も残して行きたくないんだ」

   アーネスト・ヘミングウェイ=著 池澤夏樹=訳
   「キリマンジャロの雪」
   志村正雄=編 『現代アメリカ幻想小説
   白水社 1973/07 所収


(5) 佐伯 1970, 1974, etc.
「(……)おれが何をしゃべり出そうと君のこと、本当は愛してるんだ。わかってくれるだろう。こんなに愛した相手は、君以外にはいなかったんだ」
 彼はいつか使いなれた嘘、それで暮らしを立ててきた嘘にするりと入りこんでしまう。
「やさしい方ね」
「あ、牝よ、金持ちの牝よ。いや、こいつは詩なんだ。今や、おれのからだじゅう、詩でみち溢れてるのさ。腐れと詩と。いや、腐った詩かな」
「止してよ、ハリー。今になって、どうしてそんなひどい事を」
「後に残してゆくのがいやなんだ」男が言った。「何一つ残してゆきたくないんだよ」

   ヘミングウェイ=著 佐伯彰一=訳 「キリマンジャロの雪」
   * 『豪華版 世界文学全集33 ヘミングウェイ』 講談社 1976/10 所収
   * 木村彰一〔ほか〕=編 『世界文学全集90 ヘミングウェイ
    (全103巻別巻1) 講談社 1974/09 所収
   * 『アメリカ短篇24』 現代の世界文学 集英社 1970 所収


(6) 西村 1969
「(……)気にしないでくれよ、ねえ、ぼくのいうことなんか。きみを愛してるんだ、ほんとに。愛してるとも。きみを愛するようにほかの人を愛したこと、一度だってない。」
 いつもの嘘にずるずるとはまりこむ、その手でパンとバターをかせいできた嘘に。
「あたしにはやさしいのね。」
「この色気違いめ、金もちの色気違いめ。これは詩なんだぜ。ぼくはいま、詩でいっぱいなんだ。たわごとと詩。たわけた詩。」
「やめて。ハリー、どうしていま悪魔みたいにならなきゃいけないの?」
「なんにも残していきたかないんだ。あとにいろんなものを残していきたかないんだ。」

   ヘミングウェイ=著 西村孝次=訳 「キリマンジャロの雪」
   『世界文学全集1-2』(全20巻)
   研秀 1969/11/20 所収


(7) 谷口 1964, 1972, etc.
 「(……)おれは君を愛してるんだ、ほんとに。ね、君を愛してるんだよ。君を愛するようにほかの人を愛したことはいちどもないんだ」
 彼はいつもの嘘にずるずるとすべりこんで行く、この手でパンとバターをかせいできた。
 「あなた、あたしにはやさしいわね」
 「この色きちがいめ」彼が言う。「金持ちの色きちがいめ。こいつは詩だぜ。いまじゃ、おれの頭は詩だらけさ、タワゴトと詩。タワケタ詩」
 「やめて。ハリー、どうしてこんなときに悪魔みたいにならなきゃいけないの?」
 「おれはなんにも残して行きたくない」男が言う。「後にいろんなものを残して行きたかないんだ」

   ヘミングウェイ=著 谷口陸男(たにぐち・りくお)=訳
   「キリマンジャロの雪」
   * 大橋健三郎〔ほか〕=訳
    『世界の文学セレクション36. 32 ヘミングウェイ』 新装版
    中央公論社 1993/11 所収
   * 谷口陸男=編訳 『ヘミングウェイ短篇集(下)』(全2冊)
    岩波文庫 1972/12 所収
   * 『世界の文学44 ヘミングウェイ』 中央公論社 1964/04 所収

   上の岩波文庫版の「編集付記」には、つぎのようにあります:
   第四刷に際し、書名を『死者の博物誌・密告 他十一編』から、
   『ヘミングウェイ短編集』(下)とあらためた。
   (一九八七年一◯月 岩波文庫編集部)


(8) 大久保 1963, 1970, etc.
「(……)おれは、ほんとうにきみを愛してるんだ。それは、きみにもわかってるはずだ。きみを愛するようにほかの女を愛したことは一度もないんだ」
 彼は、いつもの嘘に、ずるずるとはまりこんでいった。この嘘でパンとバターをかせいできたのだ。
「あなたはやさしい方ね」
「この牝犬(めすいぬ)め」彼は言った。「金持の牝犬め。いや、こいつは詩なんだ。いま、おれの頭は詩でいっぱいなんだ。タワゴトや詩でね。タワゴトみたいな詩でね」
「やめて、ハリー。どうしていま悪魔みたいにならなきゃならないの?」
「おれは何も残してゆきたくないんだ」男は言った。「あとに何かを残してゆきたくないんだ」

   ヘミングウェイ=著 大久保康雄=訳 「キリマンジャロの雪」
   * 阿部知二〔ほか〕=編 『河出世界文学大系89 ヘミングウェイ1
    河出書房新社 1980/11
   * 『ヘミングウェイ短編集1』 新潮文庫 1970/06 所収
   * 『新潮世界文学44 ヘミングウェイ2』 新潮社 1970 所収
   * 阿部知二〔ほか〕=編 『世界全学全集 第2集 第18 ヘミングウェイ
    河出書房新社 1963 所収


(9) 石 1959
 「(……)ほんとうに君を愛しているんだよ。君を愛しているって、君だって分ってるんだよ。君を愛しているみたいに、だれもぼくは愛したことなんかないんだ」
 いつものおなじみのウソの中へこっそりすべりこんだ。このウソのおかげで、パンやバターを彼はかせいだのである。
 「やさしい方ね」
 「牝犬め」と彼はいった。「この金持の牝犬め。それは詩なんだ。ぼくはいま詩でいっぱいなんだ。たわごとと詩でね。たわいない詩でね」
 「止めて。ハリー、どうしてあなたいま悪魔にならなきゃならないの」
 「ぼくは何もあとにのこしておきたくないんだ」と、男はいった。「あれやこれやをあとにのこしておきたくないんだよ」

   アーネスト・ヘミングウェイ=著 石一郎(いし・いちろう)=訳
   「キリマンジャロの雪」
   石一郎+江島祐二(えじま・ゆうじ)=訳
   『キリマンジャロの雪・二つの心の河
   双書・20世紀の珠玉9 南雲堂 1959/07 所収


(10) 高村 1957, 1966, etc.
 「(……)おれは、ほんとに、君を愛しているんだ。それはわかってるね。君を愛してるようにほかの人を愛したことなんか一度もないんだ。」
 彼はいつもの嘘(うそ)にずるずるとはまりこんでいった。その嘘で彼はパンとバターをかせいできたのだ。
 「あなたはやさしいかたね。」
 「この牝犬(めすいぬ)め」と彼はいった。「金持ちの牝犬め。こりゃ詩だ。おれの頭は、いま、詩でいっぱいなんだ。たわごとや詩でね。たわごとみたいな詩でね。」
 「やめて。ハリー、どうして、あなたは、いま、悪魔にならなきゃならないの?」
 「おれはなんにも残してゆきたくないんだ」と男はいった。「おれはあとにものを残してゆきたくないんだ。」

   ヘミングウェイ=著 高村勝治(たかむら・かつじ)=訳
   「キリマンジャロの雪」
   * 『勝者には何もやるな』 講談社文庫 1977/11 所収
   * 『ノーベル賞文学全集12 アーネスト・ヘミングウェイ
    主婦の友社 1970 所収
   * 『キリマンジャロの雪 他十二編』 旺文社文庫 1966/11
   * 『ヘミングウェイ傑作選』 ミリオン・ブックス
    大日本雄弁会講談社 1957 所収


(11) 福田 1955, 1964
 「(……)おれはほんとに君を愛しているんだ。わかつてくれるだろうが、君を愛しているんだよ。君を愛するようにほかの人を愛したことなんか一度もないんだ」
 彼はいつも言う嘘にずるずるはまつてゆく。その嘘で彼はパンとバターをかせいできたのだ。
 「あなたはあたしにはやさしい方よ」
 「この牝犬め」と彼は言つた。「この金持の牝犬め。いや、こりや詩だよ。おれの頭は今、詩で一杯なんだ。たわごとと詩。たわごとみたいな詩でね」
 「やめて、ハリー。なぜ今、惡魔のようにならなきやならないの?」
 「おれは何一つ殘してゆきたくないんだ」と男は言つた。「おれは後にものを殘してゆきたくないんだよ」

   ヘミングウエイ=著 福田陸太郎=訳 「キリマンジャロの雪」
   * 『ヘミングウエイ全集3』 三笠書房 1955/12 所収
   * 『ヘミングウェイ全集1 短篇集』 三笠書房 1964/09(ただし、扉および
    多くの図書館の蔵書目録には1963と記載)に再録


(12) 中田 1955
「(……)俺は君を心から愛している。君だって知っているだろう。俺は今だかつて、ほかの誰も君ほどに愛したことはなかったんだ。」
 彼は、いつもの、この手で今までパンとバタを稼いで来た嘘にのめり込んで行った。
「あなたは私にはいい人だわ。」
「君は牡犬だよ。」と彼は言った。「金持の牡犬、こいつは詩なんだ。今の俺は詩が身体にいっぱいなんだ。腐敗と詩か。腐った詩だよ。」
「止して頂戴。ハリィ。何だってそんな悪魔みたいになるの、あなた?」
「俺は何にも残しておきたくないんだ。後に何一つ残して行くのは厭なんだ。」と男は言った。

   中田耕治(なかだ・こうじ)=訳 「キリマンジャロの雪」
   ヘミングウェイ=著 中田耕治=訳 『春の奔流
   河出文庫 1955/05 所収
 
   原文の "bitch" が「牝犬」♀でなく「牡犬」♂と訳されているのは不可解。
   上の引用は原文のままです。- tomoki y.


(13) 龍口 1953, 1969, etc.
「(……)ほんとうはきみを愛してるんだ。それはきみにもわかってるはずだ。きみを愛するようにほかの女を愛したことなど一度だってないんだよ」
 つい彼は、いつものウソをつく癖にはまりこんでしまった。このウソをつく仕事で彼はパンとバターを稼(かせ)いできたのだ。
「あなたはやさしいお方」
「この雌犬め」と彼は言った。「この金持ちの雌犬め。いいや、これは詩なんだよ。おれの頭はいま詩でいっぱいなんだ。たわごとや詩でね。たわごとのような詩でね」
「やめて。ねえ、ハリー、あなたはどうしてそう悪魔みたいにならなきゃいけないの?」
「おれは何でも残して行くのがいやなんだ」と男は言った。「あとにものを残して行くのがきらいなんだよ」
 
   ヘミングウェイ=著 龍口直太郎(たつのくち・なおたろう)=訳
   * 『キリマンジャロの雪
    角川文庫 改版 1969/12|再改版 1994/05
   * 五木寛之〔ほか〕=編 『世界文学全集6 ヘミングウェイ
    学習研究社 1978/03 所収
   * 『キリマンジャロの雪 他六篇』 角川文庫(旧版)1953 所収


■ロシア語訳 Translation into Russian

  -- [Omission] Я люблю тебя. Ты  же знаешь, что люблю. Я никого  так  не любил,  как тебя. -- Он  свернул  на  привычную дорожку лжи, которая давала ему хлеб его насущный.
  -- Какой ты милый.
  -- Сука,-- сказал он.--  У суки щедрые руки. Это поэзия. Я сейчас полон поэзии. Скверны и поэзии. Скверны и поэзии.
  -- Замолчи, Гарри. Что ты беснуешься?
  -- Я ничего не оставлю, --  сказал он.  -- Я  ничего  не хочу оставлять после себя.

   Эрнест Хемингуэй. Снега Килиманджаро
   E-text at: Lib.Ru


■ウクライナ語訳 Translation into Ukrainian

- [Omission] Я ж бо справді кохаю тебе. Ти й сама знаєш. Я ніколи нікого не кохав так, як тебе.
Він збився на звичну брехню, що нею добував хліб свій насущний.
- Ти дуже добрий до мене.
- Ти повія,- сказав він.- Повійниця-благодійниця. Це вже поезія. Я тепер повен поезії. Гною і поезії. Гнилої поезії.
- Мовчи, Гаррі, ну що за диявол у тебе вселився?
- Не хочу нічого залишати,- сказав він.- Нічого по собі не залишу.

   Ернест Хемінгуей. Сніги Кіліманджаро
   Translated by В.Митрофанов
   E-text at Бібліотека зарубіжної літератури (ukrlib.com.ua)


■ブルガリア語訳 Translation into Bulgarian

— [Omission] те обичам. Знаеш, че те обичам. Никоя друга не съм обичал тъй, както теб.
Той отново поде привичната лъжа, станала за него хляб насъщен.
— Колко си мил.
— Кучка — каза той. — Кучка и милионерска внучка. Това е поезия. Сега съм пълен с поезия. С гангрена и поезия. Гангренясала поезия.
— Престани, Хари. Нужно ли е отново да ставаш зъл?
— Не искам нищо да оставя — каза той. — Не искам нищо да оставя след себе си.

   Эрнест Хемингуэй. Снега Килиманджаро
   Translated by Димитри Иванов, 1982
   E-text at: Моята библиотека (chitanka.info)


■ドイツ語訳 Translation into German

  « [Omission]  Ich hab dich lieb, wirklich. Du weißt, daß ich dich lieb habe. Ich habe niemals irgend jemand so geliebt wie dich.»
  Er schlitterte in die gewohnte Lüge, von der erlebte.
  «Du bist geliebt zu mir.»
  «Hu-re du», sagte er, «reiche Hu-re, du. Das ist Poesie. Ich bin jetzt voller Poesie. Fäule und Poesie. Faule Poesie.»
  «Hör auf, Harry. Warum mußt du jetzt wieder so teuflisch sein?»
  «Ich will nichts zurücklassen», sagte der Mann. «Ich will nichts übriglassen.»

   Schnee auf dem Kilimandscharo
   Die Hauptstadt der Welt: Storys by Ernest Hemingway
   Rowohlt Taschenbuch Verlag
   E-text at Scribd


■イタリア語訳 Translation into Italian

« [Omission] Ti amo, sul serio. Lo sai che ti amo. Non ho mai amato nessun'altra come amo te.»
E ricadde nella solita bugia con cui si guadagnava il pane.
«Sei carino.»
«Puttana» disse lui. «Puttana con la grana. Senti? È una poesia. Ora sono pieno di poesia. Di marcio e di poesia. Di poesia marcia.»
«Piantala, Harry, perché adesso devi trasformarti in un demonio?»
«Non voglio lasciarmi dietro nulla» disse l'uomo. «Non mi piace lasciarmi dietro delle cose.»

   Le nevi del Kilimangiaro by Ernest Hemingway
   Mondadori, 2000
   Preview at Google Books


■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese

— [Omission] Eu amo-te mesmo. Sabes bem que sim. Nunca amei ninguém como amo a ti. Caiu nas mentiras habituais que o sustentavam.
— Tu és muito meigo para mim.
— Ó minha cabra —, disse ele. — Minha cabra rica. Isso é poesia. Já estou cheio de poesia. De podridão e poesia. De poesia podre.
— Cala-te. Harry, por que é que te hás-de agora transformar num demônio?
— Não gosto de deixar ficar seja o que for —, disse o homem. — Não gosto de deixar ficar as coisas para trás.

   Ernest Hemingway
   Translated by Luís Varela Pinto
   * As Neves do Kilimanjaro. E-text at A Companhia dos Poetas
   * A Neves de Kilimanjaro. E-text at Contos de Aula


■スペイン語訳 Translation into Spanish

-[Omission] Te quiero. Bien sabes que te quiero. Nunca he querido a nadie como te quiero a ti.
Y deslizó la mentira familiar que le había servido muchas veces de apoyo.
-¡Qué amable eres conmigo!
-Ahora estoy lleno de poesía. Podredumbre y poesía. Poesía podrida...
-Cállate, Harry. ¿Por qué tienes que ser malo ahora? ¿Eh?
-No me gusta dejar nada -contestó el hombre-. No me gusta dejar nada detrás de mí.

   Las nieves del Kilimanjaro by Ernest Hemingway
   E-text at: Ciudad Seva


  Audio   
英語原文のオーディオブック(朗読) Audiobook in English

下の引用箇所の朗読は 12:55 から始まります。 Uploaded to YouTube by Free audiobooks Am on 21 Aug 2014. Reading of the excerpt below starts at 12:55.


■英語原文 The original text in English

  "[Omission] I love you, really. You know I love you. I've never loved any one else the way I love you."
  He slipped into the familiar lie he made his bread and butter by.
  "You're sweet to me."
  "You bitch," he said. "You rich bitch. That's poetry. I'm full of poetry now. Rot and poetry. Rotten poetry."
  "Stop it. Harry, why do you have to turn into a devil now?"
  "I don't like to leave anything," the man said. "I don't like to leave things behind."

   The Snows of Kilimanjaro by Ernest Hemingway (1936)
   E-text at: American Studies @ The University of Virginia


 Video 1 
映画 キリマンジャロの雪 (1952) Film The Snows of Kilimanjaro (1952)

監督: ヘンリー・キング 出演: グレゴリー・ペック、スーザン・ヘイワード、エヴァ・ガードナー 上の引用箇所に相当するシーンは 15:30 あたりから始まります。Directed by Henry King. Starring Gregory Peck, Susan Hayward, Ava Gardner. The scene more or less corresponding to the excerpt above starts around 15:30.


 Video 2 
Biography Ernest Hemingway: Wrestling with Life (27 Sep 1998)

Uploaded to YouTube by SrLusofono on 2 Jul 2013. An episode from A&E Network's Biography series. DVD available from Amazon.co.jp. More details here.


■更新履歴 Change log

  • 2014/10/01 英語原文オーディオブックと映画 キリマンジャロの雪 (1952) の YouTube 画面を追加しました。
  • 2013/09/10 目次を新設しました。
  • 2013/03/10 ウクライナ語訳、ブルガリア語訳、ドイツ語訳、イタリア語訳、ポルトガル語訳、およびスペイン語訳を追加しました。
  • 2012/07/16 ロシア語訳を追加しました。
  • 2010/05/18 西崎憲=訳 2010/03/10 を追加しました。
  • 2009/11/14 西村孝次=訳 1969/11/20 を追加しました。
  • 2007/06/11 石一郎=訳 1959/07 と中田耕治=訳 1955/05 を追加しました。
  • 2007/05/20 福田陸太郎=訳 1964/09、1955/12 を追加しました。
  • 2007/05/18 佐伯彰一=訳 1974/09 と高村勝治=訳 1966/11 を追加しました。

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Tuesday, 15 May 2007

L'oiseau du tour du monde by Jules Supervielle シュペルヴィエル 「牛小屋に寝ていた……」

a. 33475111 b. 51m7q2fvmgl c. Supervielle_3

↑ Click to enlarge ↑

a. シュペルヴィエル 『海に住む少女』 光文社古典新訳文庫 (2006)
b. Un boeuf de Chine by Jules Supervielle, Illustration by Marc Daniau (2002)
c. Jules Supervielle (1884-1960) Image source: Meridiano Zero and Academie de Versailles


■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 小海 1996
牛小屋に寝ていた
中国の灰色の牛が、
のびをする。
するとそれと同じ瞬間に、
ウルグアイの牡牛が
誰か動いたかしらんと
見ようとして寝返りをうつ。
その両方の牡牛の上を
昼と夜とを横切って
一羽の鳥が飛び、音もなく
この地球を一回りする、
決して地球にさわらずに
決して途中で休まずに。

   ジュール・シュペルヴィエル=作 小海永二(こかい・えいじ)=訳
   「牛小屋に寝ていた……」
   * 小海永二=編 篠崎三朗(しのざき・みつお)=画
    『ふしぎのうた』 みんなで読む詩・ひとりで読む詩4
    ポプラ社 1996/04 所収
   * 『現代フランス詩集』 世界現代詩文庫6 土曜美術社 1989/01 所収


(2) 三野 1990
中国の灰色の牛が、
自分の家畜小屋で横になり、
背を長々とのばす、
すると同じ瞬間に
ウルグアイの牛が
だれかが動いたかと
ふりかえって見る。
音もたてずに
昼と夜とを横切って
地球の周りをまわり
けっして地球にふれず
けっしてとどまることもない小鳥が
昼と夜をつらぬいて
二頭の牛の上を飛んでいる。

   ジュール・シュペルヴィエル=著 三野博司(みの・ひろし)=訳
   「中国の灰色の牛が……」(『無実の囚人』)
   『沖の少女—シュペルヴィエル幻想短編集
   現代教養文庫 社会思想社 1990/05 所収


(3) 堀口 1972
灰色の支那の牛が
家畜小屋に寝ころんで
背のびをする
するとこの同じ瞬間に
ウルグヮイの牛が
誰か動いたかと思って
ふりかえって後(うしろ)を見る。
この双方の牛の上を
昼となく夜となく
翔(と)びつづけ
音も立てずに
地球のまわりを廻り
しかもいつになっても
とどまりもしなければ
とまりもしない鳥が飛ぶ。

   ジュール・シュペルヴィエル=作 堀口大學=訳 「灰色の支那の牛が……」
   詩集『無実の囚人』(Le Forca innocent, 1930) より
   * 『シュペルヴィエル抄』 小沢書店 1992/03 所収
   * 『堀口大學全集3』 小澤書店 1982/04 所収
   * 『堀口大學訳詩集』 思潮社 1980/09 所収
   * 『シュペルヴィエル詩集』 世界の詩61 彌生書房 1972/08 所収


(4) 飯島 1968
家畜小屋に横たわっていた
灰色のシナの牛が
背伸びをする
と おなじ瞬間に
ウルグワイの牛が
誰かが動いたのかと
うしろをふりかえって見る。
この両方の牛の上を
昼も夜もとおして飛び
音も立てずに
地球のまわりをまわる鳥がいる
いつになっても下りて来ず
いつになっても止まりもしない。

   シュペルヴィエル=作 飯島耕一=訳 「灰色のシナの牛が……」
   『世界詩人全集17』 アポリネール詩集・コクトー詩集・シュペルヴィエル詩集
   新潮社 1968/07 所収


■英訳 Translation into English

A grey Chinese ox,
Lying in its shed,
Stretches its back
And at the same moment
An ox in Uruguay
Turns round to see
If someone has moved.
Flying above them both,
Bridging night and day,
The bird who silently
Flies around the planet,
Yet never touches it,
And never stops to rest.

   Jules Supervielle
   Quoted in Dai Wangshu: The Life and Poetry of a Chinese Modernist
   by Gregory Lee. Chinese University Press, 1989.
   Preview at Google Books


 Video 
L'oiseau du tour du monde

Uploaded by misterdivideo on Jan 25, 2010. Poésie de Jules Supervielle, récité en classe de CE2 à fort-Mardyck, en janvier 2010 par Maxence B, élève de la classe de Mister Di.


■フランス語原文 The original text in French

Un bœuf gris de la Chine
Couché dans son étable
Allonge son échine
Et dans le même instant
Un bœuf de l'Uruguay
Se retourne pour voir
Si quelqu'un a bougé.
Vole sur l'un et l'autre
A travers jour et nuit
L'oiseau qui fait sans bruit
Le tour de la planète
Et jamais ne la touche
Et jamais ne s'arrête.

   L'oiseau du tour du monde
   by Jules Supervielle
   E-text at Le Fuilet - Ecole Primaire Publique


■更新履歴 Change log

2013/03/10 英訳を追加しました。
2012/10/03 フランス語原詩を朗読する子供の YouTube 動画を追加しました。
2007/06/18 飯島耕一=訳 1968/07 を追加しました。
2007/06/04 三野博司=訳 1990/05 を追加しました。
2007/05/16 小海永二=訳と堀口大學=訳の書誌情報を補足しました。


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Sunday, 13 May 2007

Elegy Written in a Country Churchyard by Thomas Gray トマス・グレイ 「田舎の教会墓地にて書かれた挽歌」「田舎の墓地にて詠める悲歌」「野寺の庭」「墓畔の哀歌」「グレー氏墳上感懐の詩」

            目次 Table of Contents

    Audio 1  朗読: アントン・レッサー Read by Anton Lesser
    Audio 2  朗読: ブラムウェル・フレッチャー Read by Bramwell Fletcher
    Audio 3  朗読: トム・オベドラム Read by Tom O'Bedlam
   ■現代中国語訳 Translations into contemporary Chinese
     (Zh1) 丰(豐) 1997
     (Zh2) 郭
     (Zh3) 卞
   ■古典中国語訳(漢詩訳) Translations into classical Chinese verse
     (K1) 夏目 1924, 2003
     (K2) 末松 1881, 2014
   ■日本語訳 Translations into Japanese
     (J1) 柳沢 2003
     (J2) 海老澤 1996
     (J3) 簡野 1985

     (J4) 増田 1961

     (J5) 戸田 1959

     (J6) 福原 1958

     (J7) 帆足 1935

     (J8) 大和田 1894

     (J9) 矢田部 1882, 1971, etc.

   ■ハンガリー語訳 Translation into Hungarian
   ■ロシア語訳 Translations into Russian
     (R1) Черфас
     (R2) Жуковский, 1839
     (R3) Жуковский, 1802
   ■ポーランド語訳 Translation into Polish
   ■チェコ語訳 Translation into Czech
   ■ドイツ語訳 Translation into German
   ■イタリア語訳 Translation into Italian
   ■スペイン語訳 Translations into Spanish
     (Es1)

     (Es2)

   ■フランス語訳 Translation into French
    Audio 4  朗読: サミュエル・ゴッドフリー・ジョージ
           Read by Samuel Godfrey George
    Audio 5  朗読: ナイジェル・ダヴェンポート Read by Nigel Davenport

   ■英語原文 The original text in English
   ■邦題の異同 Variations of the title in Japanese
   ■日本語訳の書誌情報詳細
 Detailed bibliography on Japanese translations
   ■外部リンク External links
   ■更新履歴 Change log


 Audio 1 
アントン・レッサーによる朗読 Anton Lesser reads the Elegy

Thomas Gray - Elegy Written In A Country... 投稿者 poetictouch


 Audio 2 
ブラムウェル・フレッチャーによる朗読 Bramwell Fletcher reads the Elegy

Elegy Written In A Country Churchyard - Thomas... 投稿者 poetictouch


 Audio 3 
トム・オベドラムによる朗読 Tom O'Bedlam reads the Elegy

Uploaded by SpokenVerse on Aug 18, 2008


■教会と墓地、詩集、詩人 The church and graveyard, the poem and the poet

a. Churchyard b. Wm8p21d c. Gray0004
↑ Click to enlarge ↑
  • Detail from photograph of the parish church and graveyard at Stoke Poges in Buckinghamshire, taken by Sir John Benjamin Stone (1838-1914), in August 1909. This is the parish church which inspired Gray's 'Elegy.' Image source: Speakwell.com
  • Elegy Written in a Country Churchyard. Image source: Historical Narratives of Early Canada
  • Thomas Gray (1716 - 1771) Image source: Wikipedia

■現代中国語訳 Translations into contemporary Chinese

(Zh1) 丰(豐) 1997
    [简体]             [繁體]
1 晚钟殷殷响,夕阳已西沉。     晚鐘殷殷響,夕陽已西沉。
2 群牛呼叫归,迂回走草径。     群牛呼叫歸,迂回走草徑。
3 农夫荷锄犁,倦倦回家门。     農夫荷鋤犁,倦倦回家門。
4 惟我立旷野,独自对黄昏。     唯我立曠野,獨自對黃昏。


(Zh2) 郭
    [简体]             [繁體]
1 墓钟鸣,昼已瞑,          暮鐘鳴,晝已暝。
2 牛羊相呼,纡回草径,        牛羊相呼,紆於草經,
3 农人荷锄归,蹒跚而行,       農人荷鋤歸,蹣跚而行,
4 把全盘的世界剩给我与黄昏。     把全盤的世界剩給我與黃昏。


(Zh3) 卞
    [简体]             [繁體]
1 晚钟响起来一阵阵给白昼报丧,    晚鐘響起來一陣陣給白晝報喪,
2 牛群在草原上迂回,吼声起落,    牛群在草原上迂回,吼聲起落,
3 耕地人累了,回家走,脚步踉跄,   耕地人累了,回家走,腳步踉蹌,
4 把整个世界留给了黄昏与我。     把整個世界給了黃昏與我。

     [略]              [略]

73 远离了纷纭人世的勾心斗角,    遠離了紛紜人世的勾心鬥角,
74 他们有清醒愿望,从不学糊涂,   他們有清醒願望,從不學糊塗,
75 顺着生活的清凉僻静的山坳,    順着生活的清涼僻靜的山坳,
76 他们坚持了不声不响的正路。    他們堅持了不聲不響的正路。

     [略]              [略]

117 这里边,高枕地膝,是一位青年,  這裏邊,高枕地膝,是一位青年,
118 生平从不曾受知于“富贵”和    生平從不曾受知于“富貴”和
            “名声”;           “名聲”;
119 “知识”可没轻视他出身的微贱, “知識”可沒輕視他出身的微賤,
120 “清愁”把他标出来认作宠幸。  “清愁”把他標出來認作寵幸。

     [略]              [略]


■古典中国語訳(漢詩訳) Translations into classical Chinese verse

(K1) 夏目 1924, 2003
1 暮鐘伝韻弔逝日    暮鐘は韻を伝えて逝日を弔い、
2 群羊歩遅啼曠野    群羊の歩み遅くして曠野に啼く

   夏目漱石による英語原詩から漢詩への訳(冒頭2行のみの抜粋訳)
   a. 夏目金之助=著 「英文学形式論」
     『漱石全集 第13巻 英文学研究』 注 682ページ
     岩波書店 第2刷 2003/04/04 所収
   b. 夏目漱石=述 皆川正禧=編 『英文学形式論
     岩波書店 1924/09/15(大正13)
   引用は a. に拠りました。


(K2) 末松 1881, 2014
1 疎鐘送残日
2 帰牛下平野
3 鋤夫追倦路
4 彷徨独留我

   末松謙澄(すえまつ・けんちょう) 「訳希伶古塋詩」
   a. 亀井秀雄=著 『日本人の「翻訳」』 岩波書店 2014/03/25
   b.同人社文学雑誌』 66号 1881/12(明治14)
   a.b. から冒頭4行のみを引用したもの。引用は a. からの孫引きです。


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 柳沢 2003(抜粋訳)
1 教会の塔の鐘は夕刻を告げ
2 草地で牛は鳴きつつ巡る
3 鋤き返しに疲れた農夫は家路を辿る
4 あとに残るのは闇とこの私だけ

   トマス・グレイ=作 柳沢正臣=訳 「エレジー」 2003
   柳絮舎の書斎 » 目次 » 訳詩の試み » エレジー
   最初の2連(スタンザ)のみの部分訳。


(J2) 海老澤 1996
1 晩鐘が暮れゆく日の弔いの音を響かせ、
2 啼きつつ牛の群れは、ゆっくりと草地をうねり、
3 農夫が疲れ果てて、とぼとぼと家路を辿れば、
4 この世界には夕闇と私だけが残される。

     [略]

73 狂乱する群れの恥ずべき争いから遠く離れて、
74 彼らの謹直な願いは決してさまようことを知らず、
75 冷ややかな引き籠もった人生の谷間に沿って、
76 彼らは自らの静かなる行路を辿ったのだ。

     [略]

117 此処に大地の膝を枕にして眠るのは、
118 「幸運」も「名声」も知らざりし若者、
119 公平な「学問」は彼の卑しい生まれに眉を顰(ひそ)めず、
120 「憂欝」は自らの虜として彼に印を押した。

     [略]

   トマス・グレイ=作 海老澤豊=訳
   「田舎の教会墓地にて書かれた挽歌」
   『たのしく読める英米詩—作品ガイド120』 ミネルヴァ書房 1996


(J3) 簡野 1985
1 入相の鐘日暮れを告げ
2 啼く牛はゆるく牧場をめぐる
3 脚重く家路たどる農夫、
4 あたりは暗闇(やみ)と我のみ残す

     [略]

   グレー=作 簡野正明=訳 「悲歌」
   『英詩珠玉集』 あぽろん社 1985


(J4) 増田 1961
1 夕鐘陰々日の暮れ去るを告ぐ
2 歸牛は吼えつゝ遲々として野邊をたどり
3 耕夫家路を指して疲れたる歩を運ぶ
4 天地冥黯吾れ獨り遺る

     [略]

73 名奔利走(めいほんりそう)の塵界を離れて
74 渠等は甞て清淨の志を亂さず
75 淳朴幽閑の道を循行して
76 人知れず静かに一生を送りにき

     [略]

117 巧名富貴兩つながら知らざりし一青年
118 此(ここ)に大塊の膝に其の頭べを安んず
119 「學藝」の神は彼れが微賤を嫌はざりき
120 「沈鬱」の神は彼れを其の所屬と標しぬ

     [略]

   トマス・グレー=作 =訳 増田藤之助=譯註
   「田舎の墓地にて詠める悲歌」
   『グレー「悲歌」』 研究社出版 1961


(J5) 戸田 1959
1 夕べの鐘が暮れてゆく日の訃(ふ)を報らせ
2 啼く牛の群は、緩やかに野をうねる。
3 耕す人は疲れ果てて、とぼとぼと家路を辿り
4 地上には宵闇と自分だけが取り残される。

     [略]

73 狂乱する群の恥ずべき闘争から遠く離れて、
74 その慎しい願望(のぞみ)は片時も道に悖(もと)らず、
75 人生の冷やかな引き籠った谷間に沿い、
76 平穏単調に日々を過したのだ。

     [略]

117 此処、大地の膝に頭を凭(よ)せて眠るものは
118 「幸運」も「名声」も知らざりし若者。
119 賤しい生れにも美(うる)わしい「学芸」は眉をひそめず、
120 「憂鬱」も自己のものと刻印(しるし)た男。

     [略]

   グレイ=作 戸田基=訳 「墓畔の哀歌」
   『世界名詩集大成 9 イギリス篇 1』 平凡社 1959


(J6) 福原 1958
1 夕暮の鐘の音が落ちてゆく日を弔(とむら)い
2 鳴きつれて牛の群(むれ)は、ゆるやかに野を渡る
3 野の人は疲れはてて、とぼとぼと家路(いえじ)につけば
4 この世界には、夕暮と自分とのみが残っている。

     [略]

73 あさましく争い狂う群(むれ)を離れて、
74 彼らの願いはただ一筋(ひとすじ)につつましく、
75 冷たい、奥まった人生の谷に沿(そ)うて
76 静かな自らの道を歩くにあったのだ。

     [略]

117 このところ地の膝に枕(まくら)して憩(いこ)えるは
118 「幸運」も「名声」も知らざりし若者ぞ。
119 その生れ卑(いや)しきも「学芸」は眉寄(まゆよ)せず
120 「憂欝」はしるしして、わがものとなしにけり。

     [略]

   トマス・グレイ=作 福原麟太郎=訳
   「田舎の墓地で詠んだ挽歌」
   『墓畔の哀歌』 岩波文庫 1958


(J7) 帆足 1935
1 暮鐘は別れ行く日の挽歌を奏してゐる。
2 牛はうなりつゝたど/\と草原を辿り、
3 耕夫は疲れた足を家路に運ぶ、
4 そして暗と我とに世界を殘しゆく。

     [略]

73 狂奔せる群衆の下劣な闘爭から離れた
74 彼等の地味な願望は、少しも迷はされることはなかつた。
75 冷靜な僻陬の生命(いのち)の谿に沿ふて、
76 彼等は徐(しづ)々としめやかな進路を續けた。

     [略]

117 茲に大地の裾に彼の頭を横へて、
118 富にも名譽にも知られない一靑年は眠る。
119 美はしい學問は彼の卑しい家柄に
120 顰蹙はしなかつたが、憂欝は寂しく彼を領した。

     [略]

   帆足理一郎=譯 グレイの「哀歌」
   『人生詩集』 新生堂 1935


(J8) 大和田 1894
   其一

夕べを送る鐘の聲
      ひゞく方より暮れそめて
牧場の牛は我小屋に
      小田の農夫は我いへに
身を休めんとかへりゆく
    地上に立ちて殘りしは
        暗と我との唯ふたり
 
   其十九

塵の浮世の波風も
      よそに隔てゝ住む身には
成らぬ望みを夢に見て
      心なやます夜半もなし(#「なし」の「な」は変体仮名)
細谷川をゆく水は
    濁らぬ月の影のせて
        静けき歩み運ぶらん
 
   其三十

春の光に逢はざりし
        身は此土の下にあり
花の譽れを受けざりし
      身は此苔の底にあり
木深(こぶが)き谷に潜みつゝ
    涙の内に生涯を
        送りし人は唯こゝに
     [略]

   グレー=作 大和田建樹=輯譯 「野寺の庭」
   『歐米名家詩集(上)』 博文舘 1894


(J9) 矢田部 1882, 1971, etc.
山々かすみいりあひの      鐘はなりつゝ野の牛は
徐(しづか)に歩み歸り行く   耕へす人もうちつかれ
やうやく去りて余(われ)ひとり たそがれ時に殘りけり

   [略]

此處に生れて此處に死に     都の春を知らざれば
其身は淨き蓮(はす)の花    思ひは清(す)める秋の月
實(げ)に厭ふべき世の塵の   心に染みしことぞなき

   [略]

土に枕しこの下に        身をかくしたる若人(わかうど)は
富貴名利もまだ知らず      學びの道も暗けれど
あはれ此世を打捨てゝ      あの世の人となりにけり

   [略]

   グレー=作 尚今居士識(矢田部良吉)
   「グレー氏墳上感懐の詩」
   『新體詩抄 初編』 丸屋善七=発行 1882


■ハンガリー語訳 Translation into Hungarian

1 Harang búcsúztat elköszönt napot,
2 bégetve tér meg a rétről a nyáj,
3 a fáradt pór is hazaballagott,
4 s az éjre és reám maradt a táj.

     [Omission]

73 Őrült tömeg zajától messzire,
74 józan vágyuk túlságba nem csapott,
75 az élet hűs patakja mentibe'
76 pályájuk zajtalan volt és nyugodt.

     [Omission]

117 Egy ifjú szállt itt sírjába korán,
118 kit hír s szerencse nem pártolt soha,
119 de kegyes volt hozzá a tudomány,
120 s mátkája volt a melancholia.

     [Omission]

   Elégia egy falusi temetőben by Thomas Gray
   E-text at Magyarul Bábelben (The Hungarians in Babel)


■ロシア語訳 Translations into Russian

(R1) Черфас
1 День отпевая, колокол гудит,
2 В село плетутся овцы по стерне,
3 Усталый пахарь к очагу спешит,
4 Мир оставляя тишине и мне.

     [Omission]

73 Вдали от шумных и позорных сцен
74 Тропа их тихой жизни пролегла,
75 Без войн и буйств, обетов и измен
76 Они вершили скромные дела.

     [Omission]

117 Здесь юноша в объятьях у земли,
118 Кого ни Счастье, ни Почёт не знали,
119 Но знания под скудный кров пришли,
120 И был весь век он осенён печалью.

     [Omission]

   Томас Грей. Элегия на сельском кладбище
   Translated by Черфас Самуил
   E-text at zhurnal.lib.ru


(R2) Жуковский, 1839
1 Колокол поздний кончину отшедшего дня возвещает;
2 С тихим блеяньем бредет через поле усталое стадо;
3 Медленным шагом домой возвращается пахарь, уснувший
4 Мир уступая молчанью и мне.

     [Omission]

73 Здесь разливает предчувствие вечного мира. Чтоб праха
74 Мертвых никто не обидел, надгробные камни с простою
75 Надписью, с грубой резьбою прохожего молят почтить их
76 Вздохом минутным; на камнях рука неграмотной музы

     [Omission]

116 Небо: несчастным давал, что имел он, — слезу; и в награду
117 Он получил от неба самое лучшее — друга.
118 Путник, не трогай покоя могилы: здесь все, что в нем было
119 Некогда доброго, все его слабости робкой надеждой
120 Преданы в лоно благого отца, правосудного бога».

     [Omission]

   Сельское кладбище. Элегия.
   Translated by Василий Андреевич Жуковский, 1839
   E-text at Викитека (Wikisource)


(R3) Жуковский, 1802
1 Уже бледнеет день, скрываясь за горою;
2 Шумящие стада толпятся над рекой;
3 Усталый селянин медлительной стопою
4 Идет, задумавшись, в шалаш спокойный свой.

     [Omission]

73 Скрываясь от мирских погибельных смятений,
74 Без страха и надежд, в долине жизни сей,
75 Не зная горести, не зная наслаждений,
76 Они беспечно шли тропинкою своей.

     [Omission]

117 Здесь пепел юноши безвременно сокрыли;
118 Что слава, счастие не знал он в мире сём;
119 Но Музы от него лица не отвратили,
120 И меланхолии печать была на нём.

     [Omission]

  • Томас Грей. Сельское кладбище. Translated by Василий Андреевич Жуковский, 1802
  • E-text at:

■ポーランド語訳 Translation into Polish

1 Dzwon wieczorny żałobnie nad zgonem dnia płacze,
2 Porykując, z łąk schodzą ociężałe stada,
3 Ku zagrodom zmierzają znużeni oracze;
4 Światem już tylko ciemność – i myśl moja włada.

     [Omission]

73 Z dala od ciżb, którymi waśń obłędna miota,
74 Ustrzegli się manowców nieoględnych marzeń
75 I szli chłodną, zaciszną doliną żywota,
76 Szlakiem bezgłośnych dążeń i codziennych zdarzeń.

     [Omission]

117 Tutaj śni swój spokojny sen na Ziemi łonie
118 Młodzieniec, który nie znał, co Splendor lub Sława;
119 Cień skrzydeł Melancholii omraczal mu skronie;
120 Choć ród miał skromny, Wiedza była dlań łaskawa.

     [Omission]

   Elegia napisana na wiejskim cmentarzu by Thomas Gray
   E-text at Chomikuj.pl


■チェコ語訳 Translation into Czech

1 Zvon večerní uspává mroucí den,
2 a stádo bučíc v chlív se cestou dává,
3 ku vísce rolník potácí se zmdlen
4 a temnotám a mně svět přenechává.

     [Omission]

73 Měst vřavě, davu zpitých vzdálená
74 jich z cesty prostá nezbloudila přání,
75 jen stezkou, která stínem halena
76 šli zatím neuznáni v odříkání.

     [Omission]

117 Zde v lůnu země leží mladá skráň,
jež slávy ani štěstí nepoznala,
v kolébce Musa usmála se naň,
však těžkomyslnost jej svojím zvala.

     [Omission]

   Elegie psána na hřbitově vesnickém by Thomas Gray
   Translated by Jaroslav Vrchlický
   Moderní básníci angličtí (1700—1800). Praha : Jos. R. Vilímek, vyd. okolo 1900.
   E-text at Wikizdroje (Wikisource)


■ドイツ語訳 Translation into German

1 Die Abendglocke schlägt das Geläut des scheidenden Tages,
2 Die muhende Herde schlängelt langsam über der Aue,
3 Heimwärts stapft der Pflüger seinen beschwerlichen Weg
4 Und läßt die Welt zur Dunkelheit und mir.

     [Omission]

73 Fern vom unedlen Streit der bunten Menge
74 Lernten ihre nüchternen Wünsche nie abzukommen;
75 Entlang dem kuhlen versteckten Tal des Lebens
76 Hielten sie den lautlosen Verlauf ihrem Wege.

     [Omission]

117 Hier rastet sein Kopf auf dem Erdenschoß
118 Ein Geselle, der zum Glück und Ruhm unbekannt war.
119 Das holde Wissen runzelte nicht auf seinem bescheidenen Geburt
120 Und Schwermut zeichnete ihn zu Eigen.

     [Omission]


■イタリア語訳 Translation into Italian

1 La campana della sua annunzia tristemente il rintocco del giorno che muore.
2 Il gregge muggente si snoda lentamente sui prati,
3 l'oratore volge verso casa il suo stanco cammino
4 e lascia il mondo all'oscurità e a me.

     [Omission]

73 Lontano dall’ignobile lotta della pazza folla,
74 non impararono mai a deviare i loro pii desideri,
75 lungo la fredda e appartata valle della vita.
76 Mantennero il corso silenzioso della loro esistenza.

     [Omission]

117 Qui posa la sua testa sul grembo della terra
118 un giovane alla fortuna e alla fama ignota.
119 La bella scienza non arrise mai alla sua umile nascita,
120 e la malinconia lo segnò per sempre come suo

     [Omission]


■スペイン語訳(第1連) The first stanza translated into Spanish

(Es1)
1 El toque de queda el toque de los peajes del día de despedida,
2 El rebaño siguientes viento lentamente que sobre el LEA,
3 el labrador a casa plods su fatigoso camino,
4 y deja el mundo a la oscuridad y para mí.

     [Omission]

   Elegía sobre un cementerio de aldea by Thomas Gray
   Excerpt at Poder y la responsabilidad - how to sing my country tis of thee


(Es2)
1 El peajes toque de queda el toque del día de despedida,
2 el mugido del viento rebaño lentamente que sobre el LEA,
3 el agricultor en su camino de regreso Plod cansado
4 y abandonó el mundo de las tinieblas y para mí.

     [Omission]

   Elegía sobre un cementerio de aldea by Thomas Gray
   Excerpt at Power y Responsabilidad - Tech News - Part 847


■フランス語訳の抜粋 Excerpts of translation into French

[Lines 1-4 of the original]
 L'airain grave a du jour teinté l'heure dernière,
 Le troupeau qu'en rêvant le pâtre suit des yeux,
 Mugissant, à pas lents, regagne la barrière,
 Le laboureur lassé retourne à sa chaumière,
 Et seuls, la nuit et moi, nous veillons sous les cieux.

[Lines 13-16 of the original]
 A l'ombre de ces ifs déchirés par l'orage,
 Où le gazon pâlit sous les larmes du deuil,
 Vénérables témoins des vertus d'un autre âge,
 Les ancêtres vaillants de cet humble village
 Dorment, chacun couché dans son étroit cercueil.

   Elégie écrite dans un cimetière de campagne by Thomas Gray
   Excerpts in Revue du Monde Catholique: Volume 93 - Page 613
   Preview at Google Books


 Audio 4 
サミュエル・ゴッドフリー・ジョージによる朗読(第1-76行)
Samuel Godfrey George reads the Elegy (Lines 1-76)

Uploaded by samuelgodfreygeorge on Jun 14, 2008


 Audio 5 
ナイジェル・ダヴェンポートによる朗読(全文)
Nigel Davenport reads the Elegy (complete)

朗読:  Uploaded by JustAudio2008 on May 22, 2008. Produced by Ipodity


■英語原文 The original text in English

1 The Curfew tolls the knell of the parting day,
2 The lowering herd wind slowly o'er the lea,
3 The plowman homeward plods his weary way,
4 And leaves the world to darkness and to me.

     [Omission]

73 Far from the madding crowd's ignoble strife,
74 Their sober wishes never learn'd to stray;
75 Along the cool sequester'd vale of life
76 They kept the noiseless tenor of their way.

     [Omission]

117 Here rests his head upon the lap of Earth
118 A Youth to Fortune and to Fame unknown,
119 Fair Science frown'd not on his humble birth,
120 And Melancholy mark'd him for her own.

     [Omission]


■邦題の異同 Variations of the title in Japanese

  「エレジー」…………………………………柳沢 2003
  「グレー氏墳上感懐の詩」…………………矢田部 1882, 1971, etc.
  「悲歌」………………………………………簡野 1985
  『悲歌』………………………………………増田 1961(本の題)
  「田舎の墓地で詠んだ挽歌」………………福原 1958(詩の題)
  「田舎の墓地にて詠める悲歌」……………増田 1961(詩の題)
  「田舎の教会墓地にて書かれた挽歌」……海老澤 1996
  「野寺の庭」…………………………………大和田 1894
  「墓畔の哀歌」………………………………戸田 1959
  『墓畔の哀歌』………………………………福原 1958(本の題)


■日本語訳の書誌情報の詳細
 Detailed bibliography on translations into Japanese

(J1) 柳沢 2003
   トマス・グレイ=作 柳沢正臣(やなぎさわ・まさおみ)=抜粋訳
   「エレジー」 2003/10 掲載
   ウェブサイト 柳絮舎の書斎 > 目次 > 訳詩の試み > エレジー
   最初の2連(スタンザ)、第1行〜第8行のみの部分訳


(J2) 海老澤 1996
   トマス・グレイ=作 海老澤豊=訳
   「田舎の教会墓地にて書かれた挽歌」
   木下卓(きのした・たかし)+野田研一+太田雅孝=編著
   『たのしく読める英米詩—作品ガイド120
   シリーズ・文学ガイド3 ミネルヴァ書房 1996/03 所収


(J3) 簡野 1985
   グレー=作 =訳 簡野正明(かんの・まさあき)=訳 「悲歌」
   『英詩珠玉集』 あぽろん社 1985/02 所収
   全訳ではなく、部分訳。


(J4) 増田 1961
   トマス・グレー=作 =訳 増田藤之助(ますだ・とうのすけ)=譯註
   「田舎の墓地にて詠める悲歌」
   『グレー「悲歌」』 研究社出版 1961/05 所収


(J5) 戸田 1959
   グレイ=作 戸田基(とだ・もとい)=訳 「墓畔の哀歌」
   『世界名詩集大成 9 イギリス篇 1』 平凡社 1959/10/20 所収


(J6) 福原 1958
   トマス・グレイ=作 福原麟太郎=訳
   「田舎の墓地で詠んだ挽歌」
   『墓畔の哀歌』 岩波文庫 1958/11 所収


(J7) 帆足 1935
   グレイ=作 帆足理一郎(ほあし・りいちろう)=譯
   グレイの「哀歌」(田舍の敎會墓地にて)
   帆足理一郎=編 『人生詩集
   新生堂 1935/10/14(昭和10) 定價二圓 所収
   辿・運・望・迷・進・横の旧字は新字で置き換えました。


(J8) 大和田 1894
   グレー=作 大和田建樹=輯譯 「野寺の庭」
   『歐米名家詩集(上)』 國民文庫
   大橋新太郎=編輯兼發行
   博文舘=發兌 1894/01(明治27)所収


(J9) 矢田部 1882, 1971, etc.
   グレー=作 尚今居士識(「尚今居士」は矢田部良吉の号)
   「グレー氏墳上感懐の詩」 『新體詩抄』


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2014/06/14 末松謙澄=訳 1881/12  を追加しました。
  • 2013/12/31 戸田基=訳 1959/10/20 を追加しました。
  • 2013/09/03 矢田部良吉=譯の書誌情報を修正・補足しました。
  • 2013/04/06 帆足理一郎=譯 1935/10/14 を追加しました。
  • 2013/03/27 チェコ語訳と В. А. Жуковский によるもう1種類のロシア語訳を追加しました。
  • 2013/03/20 3種類の現代中国語訳と夏目漱石による漢詩訳を追加しました。
  • 2013/02/19 ハンガリー語訳を追加しました。
  • 2012/10/18 柳沢正臣=抜粋訳 2003/10 と次の3本の YouTube 画面を追加しました。
    1. アントン・レッサーによる朗読
    2. ブラムウェル・フレッチャーによる朗読
    3. トム・オベドラムによる朗読
  • 2012/06/28 2種類のロシア語訳、ポーランド語訳、ドイツ語訳、イタリア語訳、2種類のスペイン語訳(第1連)、およびフランス語訳の抜粋を追加しました。また、目次と外部リンクの項を新設しました。
  • 2010/05/10 【訂正】 お恥ずかしいことに、詩のタイトルに(したがって、ブログ記事のタイトルにも)ミススペリングがありました。この記事をアップロードして以来きょうまでの3年間、気がつかなかったのが、われながら不思議ですが。失礼しました。つぎのとおり、訂正します。
      × Elergy → ○ Elegy
    また、検索の便を考慮し、ブログ記事のタイトルに、いくつかの邦題を追加しました。さらに、書誌情報を一部修正し、英語原文に行番号を振りました。さらに、英語原詩の朗読の YouTube 動画を追加し、「邦題の異同」の項を新設しました。
  • 2008/08/04 簡野正明=訳 1985/02 を追加しました。
  • 2007/05/23 増田藤之助=譯 1961/05 を追加しました。

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