Jeeves Takes Charge (from Carry on, Jeeves) by P.G. Wodehouse P・G・ウッドハウス 「ジーヴス登場」「ジーヴズの初仕事」「ジーヴズ乗りだす」「専用心配係」 (『それゆけ、ジーヴス』『ジーヴズの事件簿』『ジーヴズ物語』より)
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本の表紙とCDのジャケット Book & CD covers
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Carry On, Jeeves: 8 Complete Stories a 5-CD set (2006)
- Carry On, Jeeves Penguin USA, Reissue ed. (2000)
- Carry on, Jeeves UK first edition by Herbert Jenkins (1925)
■日本語訳 Translations into Japanese
(1) 森村 2005
「君はこのスーツが嫌いなようだな、ジーヴス」僕は冷たく言った。
「いいえ、滅相(めっそう)もございません、ご主人様」
「どこが嫌なんだ?」
「大変結構なスーツでございます」
「だからどこが気に入らないんだ? いいから言ってみろ!」
「わたくしにご提案をお許しいただけますならば、シンプルな茶か紺でおとなしめの綾織が……」
「何たるたわ言だ!」
「かしこまりました、ご主人様」
「まったく何て見下げ果てたことを言うんだ!」
「お心のままに、ご主人様」
もう一段あると思って階段に足をかけたら、なかった時みたいに拍子抜けがした。僕はいかなる反抗をも受けて立とうというような気分だった——こう言っておわかりいただけるだろうか——で、反抗してくる相手がいない、みたいな具合か。
「よろしい、では」僕は言った。
「はい、ご主人様」
- P・G・ウッドハウス=著 森村たまき=訳 「1. ジーヴス登場」 『それゆけ、ジーヴス』 ウッドハウス・コレクション 国書刊行会 2005/10 所収
- 原書: Carry on, Jeeves (1925) by P.G. Wodehouse
(2) 岩永+小山 2005
「このスーツが気に入らないようだな、ジーヴズ?」僕は冷たい声で言った。
「滅相(めっそう)もないことです」
「いったいどこが気に入らない?」
「大変ご立派なスーツで」
「そうじゃないだろう。何が悪いんだ? 言ってみろ」
「もし申し上げてよろしければ、無地の茶か青、おとなしい綾織か何かの——」
「たわけたことを!」
「よろしゅうございます」
「全くのたわごとだぞ、おまえ!」
「仰(おお)せのとおりかと」
これではまるで、階段を登る途中で一段あると思って踏み出したら何もなかったときのようだ。何かに気持ちをぶつけたいのに、ぶつける物がない。
「よし、もういい」
「承知いたしました」
- P・G・ウッドハウス=著 岩永正勝+小山太一=編訳 「ジーヴズの初仕事」 『ジーヴズの事件簿』 P・G・ウッドハウス選集1 文藝春秋 2005/05 所収
- 原書: Carry on, Jeeves by P.G. Wodehouse. Herbert Jenkins, 1925
(3) 井上 1966
「ジーヴズ、この服が気にいらないのか?」
わたしは冷ややかにいった。
「いえ、そんなことはございません」
「ほう、どこが気にいらないんだ?」
「たいへん結構な服で」
「とにかく、どこがいけないんだ? さあ、いってみろ!」
「こう申してはなんですが、何かおとなしい杉綾のあっさりした茶か紺で——」
「そんなばかげたもの!」
「さようで」
「まったくいやなやつだな!」
「おおせのとおりで」
わたしはなんだか、階段で最後の一段があったと思って足をおろしたら段がなかったような気がした。わかってもらえるかどうか知らないが、挑戦を受けたような気がして、しかも相手がいないみたいだった。
「それならいい」わたしはいった。
「はい」
- ウッドハウス=著 井上一夫=訳 「ジーヴズ乗りだす」 ジーヴズ物語 『世界文学全集37 20世紀の文学』 ウッドハウス/マルセル・エイメ/ジャック・ペレー/イリフ、ペトロフ/ケストナー 集英社 1966/12 所収
(4) 乾 1956
「お前、この服が気に入らんのか?」
ぼくはひややかに言ってやった。
「いえ、どういたしまして」
「ええ、どういうわけで気に入らんのかね?」
「たいへん結構なお洋服だと存じます」
「どこがいけないってんだよ! 言ってごらんよ、言って!」
「されば、申し上げまするが、茶(ちゃ)か紺(こん)に目立ちませぬ縞柄(しまがら)のものが……」
「そんなもの、じじむさくて着れるかい!」
「かしこまりました」
「全然だめだよ」
「おそれいります」
どうも張合(はりあ)いがない。あるべき階段の段々に足がさわらんようなものたりなさである。やむを得ん。
「それでよろしい」
と、ぼくはともかくも主人としての格好(かっこう)をつけた。
「は」
- P・G・ウッドハウス=著 乾信一郎(いぬい・しんいちろう)=訳 「専用心配係」 ジョンストン・マッカレー〔ほか〕=著 『地下鉄サム』 世界大ロマン全集6 東京創元社 1956/11 所収
Video
Jeeves & Wooster Series 1 Episode 1 Part 2/5
下の引用箇所に相当する会話は 0:22 あたりから始まります。 Uploaded to YouTube by wolfxbloed on 10 Jun 2009. Jeeves and Wooster property of ITV. The dialogue corresponding to the excerpt below starts around 0:22.
Audio
英語原文のオーディオブック Audiobook in English read by Kevin McAsh
下の引用箇所の朗読は 9:15 から始まります。 Uploaded to YouTube by The Library Books on 14 Dec 2014. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 9:15.
■英語原文 The original text in English
"Don't you like this suit, Jeeves?" I said coldly.
"Oh, yes, sir."
"Well, what don't you like about it?"
"It is a very nice suit, sir."
"Well, what's wrong with it? Out with it, dash it!"
"If I might make the suggestion, sir, a simple brown or blue, with a hint of some quiet twill----"
"What absolute rot!"
"Very good, sir."
"Perfectly blithering, my dear man!"
"As you say, sir."
I felt as if I had stepped on the place where the last stair ought to have been, but wasn't. I felt defiant, if you know what I mean, and there didn't seem anything to defy.
"All right, then," I said.
"Yes, sir."
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Jeeves Takes Charge (1925) by P.G. Wodehouse
- E-text at:
- Yerevan State Linguistic University after V. Brusov (in Armenia) [PDF]
- Knowledgerush.com
- FullBooks.com
- Lib.Ru
■外部リンク External links
- [en] Carry On, Jeeves - Wikipedia
- [en] P. G. Wodehouse - Wikipedia (1881-1975)
- [ja] 「サー」の問題: かわうそ亭 2007/01/04
- [ja] それゆけ、ジーヴス - Wikipedia
- [ja] P・G・ウッドハウス - Wikipedia (1881-1975)
■更新履歴 Change log
- 2014/12/18 英語原文オーディオブックの YouTube 画面を追加しました。
- 2013/09/20 外部リンクの項を新設しました。
- 2013/05/02 Jeeves & Wooster Series 1 Episode 1 の YouTube 動画を追加しました。
- 2007/06/26 乾信一郎=訳 1956/11 を追加しました。
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■DVD
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