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Monday, 18 June 2007

Lady into Fox by David Garnett デイヴィッド・ガーネット「狐になった奥様」「狐になった人妻」「狐になった夫人」

■表紙画像と肖像画 Cover photos and a portrait

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Left: ガーネット傑作集1』 河出書房新社 (2004)
Centre: Dust-jacket from the first edition of "Lady into Fox." Image source: Wikipedia
Right: David Garnett (1892-1981)  Image source: Modern Humanities by A. Vincent


■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 安藤 2007
 ついさっきまで妻がいたところに、燃えるような赤毛の小さな狐がいた。狐は、哀願するようにテブリック氏の顔を見あげて、ひと足、ふた足、にじり寄ってきた。
 テブリック氏は、ただちに、妻が狐の目で自分を見ているのを悟った。
 かれが肝をつぶしたのは、容易に想像できるだろう。たぶん、妻もまた、そのような姿になった自分を発見して、びっくり仰天したことだろう。
 そこで、ものの半時間というもの、二人は、ただもう目を瞠(みは)って顔を見交わしてばかりいた。テブリック氏は、途方にくれ、妻のほうは目顔でかれに尋ねていた。そのまなざしは、あたかも、「あたしはいまどうなったのでしょう? あたしをかわいそうだと思ってちょうだい、あなた。だって、あたしはあなたの妻なんですもの」と言っているようだった。

   ガーネット=著 安藤貞雄=訳 レイチェル・マーシャル=木版画
   『狐になった奥様』 岩波文庫 2007/06
   下線箇所は、原文では下線でなく傍点。

   底本:
   Lady into Fox and A Man in the Zoo
   London: Chatto & Windus, 1967.


(2) 池 2004
今の今まで妻がいたはずのところに、燃えるような赤毛の小さな狐が前のめりに鼻面を突き出していた。狐はすがるようにテブリック氏を見上げて、二足、三足近づいた。その時早く、テブリック氏は獣の目で自分を見ているのは妻だと悟った。テブリック氏の驚くまいことか。妻もまた、変り果てた自身の姿にさぞかし魂消(たまぎ)る思いであったろう。なす術(すべ)もなく声もなく、二人はただ見つめ合って小半時が過ぎた。テブリック氏は狼狽(ろうばい)に竦(すく)み、見返す妻の目は口ほどに物を言っていた。「何と浅ましいこの姿。捨てないで。ねえ、あなた。どうか不憫(ふびん)と思って、私を捨てないで。だって、私はあなたの妻ですもの」

   デイヴィッド・ガーネット=著 池央耿(いけ・ひろあき)=訳
   「狐になった人妻」
   『ガーネット傑作集1 狐になった人妻/動物園に入った男
   河出書房新社 2004/05 所収


(3) 井上(安)1969
たったいままで、彼の妻がいたところに、見事な、つやつやした赤毛の小狐がたっていた。小狐は心から哀願するように彼をみつめ、一、二歩彼の方へあゆみよった。それで、とたんに彼は、妻が獣になって自分をみつめていることがわかった。諸君が、彼が呆気にとられはしなかったかとお考えになるのも無理はない。彼の夫人自身でさえ、狐になってしまった自分の姿に、おそらく気も狂わんばかりであっただろう。それで、彼らはほとんど半時間ものあいだ、なにもしないで、ただお互いに見合っているばかりであった。彼は面くらい、彼女はあたかも「一体、私、なにになったのでしょう? あなた、どうか、私を憐んで下さい。私をかわいそうに思って下さいね。私、あなたの妻ですもの」と、実際に言いでもするように、両の眼で彼をまじまじとみつめていた。

   ディビッド・ガーネット=著 
   井上安孝(いのうえ・やすたか)=訳
   『狐になった夫人 他』 原書房 1969/04
   下線箇所は、原文では下線でなく傍点。


(4) 井上(宗)1955, 1998, etc.
と、たった今まで立っていた妻の代りに、一匹のつやつやした赤毛の小狐がいるではないか! 小狐(こぎつね)はなぜか心から哀願(あいがん)するような眼差(まなざし)で、彼の方を見ながら、一歩、二歩近づいて来た。彼は直ちにその動物の眼の色に、じっと自分を見つめている妻を感じた。彼が如何(いか)に茫然自失(ぼうぜんじしつ)の態であったかは、想像に余りあるであろう。夫人自身もこのような変り方をした己(おの)が姿を見出(みいだ)して気も狂(くる)わんばかりであったことは、言うまでもない。二人は半時間近くもせん術(すべ)なく、じっと眼を見交(みかわ)すばかりであった。彼はただ茫然として佇(たたず)んでいた。彼女はその眼つきで「一体、私どうしたというんでしょう? あなた、どうか私を憐(あわれ)んで下さい。私を不憫(ふびん)に思って下さい。どうしたって、やっぱり私はあなたの妻なんですもの!」とでも言ふように、夫に訴(うった)えているらしく見えた。

   デイヴィッド・ガーネット=著 井上宗次(いのうえ・そうじ)=訳
   「狐になった夫人」
   4a. 北村薫=編 『謎のギャラリー—愛の部屋』 新潮文庫 2002/03 所収         
   4b. 北村薫=編 『謎のギャラリー特別室2』 マガジンハウス 1998/11 所収
   4c.狐になった夫人』 新潮文庫 1955/04
   下線箇所は、原文では下線でなく傍点。


(5) 上田 1948, 1964, etc.
今のいままで彼の妻が居つた場所に一匹の小狐が、非常に鮮やかな赤い色の小狐がゐた。それはすがるやうな眼つきで彼をみつめ、一歩、二歩彼の方へ寄つてきた。そのとたんに彼はその狐の眼の中に妻が自分をみつめてゐるのを感じた。彼が膽をつぶしたことは言ふまでもない。彼の妻も同じことで、そんな姿になつたことを知つて呆然としてゐた。それで彼等は互ひに眼をみはるばかりで、半時間ばかりは空しく過ぎた。彼は途方にくれ、彼女はまるで「なんといふ姿になつたのでせう。どうぞ私を可哀相だと思つて下さい。私はあなたの妻なのですもの。」とでも言ふやうに、まじまじと彼をみつめてゐた。

   ガーネット=著 上田勤(うえだ・つとむ)=訳 「狐になった奥様」
   5a. 筑摩世界文学大系86 名作集1』 筑摩書房 1975 所収
   5b.世界文学全集69 世界名作集2』 筑摩書房 1969/06 所収
   5c.世界文学大系92 近代小説集2』 筑摩書房 1964/07 所収
   D・ガーネツト=著 上田勤=譯
   5d.狐になつた奥樣 他1篇』 英米名著叢書 新月社
     定價八拾圓 1948/06 所収
   5a., 5b., 5c. は、新字・新かな。引用は 5d. に依拠しました。
   下線箇所は、原文では下線でなく傍点。


■注釈書
 A book with the original text in English and annotations in Japanese

   David Garnett 著 堀英四郎(ほり・えいしろう)=注解
   a.狐に化けた婦人
     研究社現代英文學叢書54 研究社出版 1977
   b. 『Lady into Fox and A Man in the Zoo
     研究社現代英文學叢書 研究社 1935/04

   英語の原文と日本語による注釈が収められた本。日本語訳の
   全文は掲載されていません。現物をたしかめていませんが、
   a. b. を再刊したものかと推測します。図書館やオンライン
   書店の目録によれば Lady into Fox には「狐に化けた婦人」
   という邦題が付けられているようです。


■邦題の異同 Variations of the title in Japanese
 
   「狐になった奥様」……安藤 2007
   「狐になった奥様」……上田 1948, 1964, 1969, 1975
   「狐になった夫人」……井上(安) 1969
   「狐になった夫人」……井上(宗) 1955, 1998, 2002
   「狐になった人妻」……池 2004
  (「狐に化けた婦人」……堀 1935, 1977 注釈書。現物は未確認)


■英語原文 The original text in English

Where his wife had been the moment before was a small fox, of a very
bright red.
It looked at him very beseechingly, advanced towards him a
pace or two, and he saw at once that his wife was looking at him from
the animal's eyes. You may well think if he were aghast: and so maybe
was his lady at finding herself in that shape, so they did nothing for
nearly half-an-hour but stare at each other, he bewildered, she asking
him with her eyes as if indeed she spoke to him: "What am I now become?
Have pity on me, husband, have pity on me for I am your wife."

   Lady into Fox by David Garnett (1922)
   E-text at:
   * Project Gutenberg
   * McSweeney's Internet Tendency


■更新履歴 Change log

2010/03/04 本文の見やすさを考慮して、原文の傍点の代わりに
         使用していた太字を下線に置き換えました。
2010/03/03 検索の便を考慮して、ブログ記事のタイトルに邦題の
         異題を追加しました。また、堀英四郎氏による注釈書
         についての書誌情報を修正補足しました。
2007/07/22 安藤貞雄=訳 2007/06 を追加しました。
2007/06/24 「注釈書」の項目を新設しました。


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■洋書 Books in non-Japanese languages
(1) Lady into Fox

(2) David Garnett

■和書 Books in Japanese

  

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Comments

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Posted by: ZibiavaJenned | Wednesday, 13 October 2010 01:13 pm

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