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Tuesday, 03 July 2007

Evelyn Waugh "Decline and Fall" 018

Waugh3
Evelyn Waugh arriving in America, Jan. 1947.
Image source: The New York Times on the Web
Copyright 1999 The New York Times Company
 
  
■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 
   第二章 ラナバ城
 
 ラナバ城はバンガー国道の方から近づくか、海岸の道路の方から近づくかによって、まったく違った顔をみせる。裏手から見ると、それはどこにでもある大きな田舎屋敷で、窓がずらりと並び、石畳の庭があり、温室が行列し、平凡さを絵にしたような台所の建物の屋根がむやみにたくさん木々のあいだに溶けこんでいるというだけのこと。しかし正面から見ると——ラナバ駅を出るとこの正面が見えるわけである——威風堂々たる中世建築だ。正門にたどりつくまえに、突出し狭間(はざま)のある城壁にそって最低一マイルは車で走らなくてはならない。しかも正門には大小の塔があり、紋章動物の装飾がほどこされ、今でも動く落し格子まである。そこを抜けると並木道になっていて、その奥に、難攻不落の中世の城を絵に画いたようなラナバ城が佇立(ちょりつ)しているのである。
 この相当にあざといチグハグの理由を説明するのは簡単だ。一八六◯年代に綿花飢饉が起ったころ、ラナバ屋敷を所有していたのは、ランカシャーの裕福な紡績工場主であった。この工場主の夫人というひとは、従業員が飢えているのを座視していられなかった。そこで娘たちと協力して、彼らのために小さな慈善市を開いたりした(ただし、はかばかしい成果はあがらなかった)。夫の方はと言えば、進歩派の経済学者の書くものを読んでいて、収益無しの払い捨てということは考えることすらできなかった。そこで、「啓かれた自己利益主義」が導入されることになる。紡績工場で働いていた人々がここの領地に連行されて、建物のまわりの土地に壁をつくり、近くの石切り場でとれる大きな石塊で屋敷の表(おもて)を飾る仕事をさせられたのだ。やがてアメリカの南北戦争が終ると彼らは工場に戻り、ラナバ屋敷の方は、ひどく安上りの大普請の功あって、ラナバ城に変身したという次第である。

   イーヴリン・ウォ−=作 富山太佳夫=訳
   『大転落』岩波文庫 1991年6月
 
 
(J2)
   第二章 ラナバ城
 
 ラナバ城はバンガー国道から近づくか、海岸道路から近づくかによって大いに異った二つの様相を見せる。裏手から見ると貴族の田舎の大邸宅と変りない。たくさんの窓、テラス、一連の温室、それに無数のこれといった特徴のない台所の建物の屋根が木立ちの間に消えている。しかし表側から見ると——ラナバ駅から近づく場合はそちらからであるが——それはおそろしく中世風である。車で門に着くまでに、はね出し狭間のついた塀が少くとも一マイルは続いている横を通って行く。門にはやぐらがそびえ小塔があり、動物をかたどった紋章があしらってあり、動くつるし門がついている。門をくぐって並木道の果てに城が立っている、中世の難攻不落の手本みたいに。
 この際立った対照のわけは簡単に説明できる。一八六◯年代の綿不足の頃、ラナバ邸はランカシャーの富裕な紡績工場主が所有していた。彼の妻は職工達が飢えるのをみていられなかった。実際娘達と一緒に職工を救援するバザーを組織したほどである、
もっとも大した実質的な効果があがったわけではない。夫は自由主義経済学者の説を読んでいたので、正当な代償なしに金を出すことなど考えられなかった。そこで「目覚めた私利心」から一計を案じた。庭苑に職工達の飯場をこしらえ、近くの石切場から切り出した大きな石で所有地に塀をめぐらし、また建物の表張りをする仕事をさせたのである。アメリカの南北戦争が終ると職工はまた工場にもどった。大量の労働が安い賃銀でなされた後に「ラナバ邸」は「ラナバ城」になったわけである。

   イーヴリン・ウォ−=作 柴田稔彦=訳
   『ポール・ペニフェザーの冒険』福武文庫 1991年4月
 
 
■英語原文 The original text in English

  Chapter II Llanabba Castle

Llanabba Castle presents two quite different aspects, according as you approach it from the Bangor or the coast road. From the back it looks very much like any other large country house, with a great many windows and a terrace, and a chain of glass-houses and the roofs of innumerable nondescript kitchen buildings, disappearing into the trees. But from the front -- and that is how it is approached from Llanabba station -- it is formidably feudal; one drives past at least a mile of machicolated wall before reaching the gates; these are towered and turreted and decorated with heraldic animals and a workable portcullis. Beyond them at the end of the avenue stands the Castle, a model of medieval impregnability.
  The explanation of this rather striking contrast is simple enough. At the time of the cotton famine in the sixties Llanabba House was the property of a prosperous Lancashire millowner. His wife could not bear to think of their men starving; in fact, she and her daughters organized a little bazaar in their aid, though without any very substantial results. Her husband had read the Liberal economists and could not think of paying without due return. Accordingly 'enlightened self-interest' found a way. An encampment of mill-hands was settled in the park, and they were put to work walling the grounds and facing the house with great blocks of stone from a neighbouring quarry. At the end of the American war they returned to their mills, and Llanabba House became Llanabba Castle after a great deal of work had been done very cheaply.

   Decline and Fall by Evelyn Waugh
   First published by Chapman & Hall 1928
   Published in Penguin Books 1937
   Excerpt based on Penguin's Evelyn Waugh Centenary Edition 2003
 
 
■洋書 Books in non-Japanese languages

■和書 Books in Japanese

■DVD

 
 

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