« 溺死しないための心得(ホミサイドラボ『人殺し大百科』より) | Main | 蒲松齢 「書癡/書痴」(『聊斎志異』より) Strange Stories from a Chinese Studio by Pu Songling (2) »

Wednesday, 22 August 2007

三島由紀夫から北杜夫への手紙 1966/07/16 A letter from Yukio Mishima to Morio Kita, 16 July 1966

           目次 Table of Contents

    Image Gallery  DVDのジャケットと全集本の函 DVD covers & Dustbox
   ■日本語原文 The original text in Japanese
   ■北杜夫と三島 Morio Kita and Mishima
   ■大江健三郎と三島 Kenzaburo Oe and Mishima
   ■「危険な兆候」"Dangerous symptoms"
    Book Covers   『三島由紀夫の家』 Yukio Mishima's House
   ■三島邸周辺の散策案内 Guide for walking around Mishima's house
   ■その他の外部リンク Other external links
   ■更新履歴 Change log


 Image Gallery  DVDのジャケットと全集本の函 DVD covers and a Dustbox

↓ クリックして拡大 Click to enlarge ↓

a. A_mishima_schrader b. B_mishima_zenshu_38 c. C_afraid_to_die


■日本語原文 The original text in Japanese

 昭和四十一年七月十六日(封書)

          世田谷区松原6—16—5 北杜夫
          大田区南馬込4丁目32番8号 三島由紀夫

 前略

(……)

 ——それはさうと大江健三郎自殺未遂といふ噂をききましたが本当でせうか? 彼にはたしかに何か、精神病質の危険な兆候が感じられます。
 小生も躁病が極度に達し、つひにステージで歌をうたひました。しかしカーテン・コールで出ると、女の子が一せいにキャーッと云つてくれたので感激しました。あのキャーッといふ声を一度体に受けてみたいと思つてゐたので宿望を達しました。あの声は一体どこから出るのでせうか。
 貴兄の躁病の御文章をよんで、大笑ひ、といふのも、医者の病気ほど愉快なものはないからです。御病気悪化の一助にもと、イヂワル・ヂヂイがこの手紙を書きました。匆ゝ
   七月十六日    三島由紀夫
  北杜夫様

  • 三島由紀夫(みしま・ゆきお)=著 『決定版 三島由紀夫全集38 書簡』(全42巻) 新潮社 2004/03 所収
  • 原文の住所表示の漢数字部分を算用数字に改めました。横書きだと「一(漢字のイチ)」と「—(横棒)」の区別がつきませんから。

■北杜夫と三島 Morio Kita and Mishima

この決定版三島全集には、三島由紀夫(1925-1970)から 北杜夫(1927-2011)に宛てた手紙が10通(葉書5通、封書5通)収録されています。北杜夫の代表作『楡家の人びと』(1963) は、三島によって激賞されました。
 
   「この小説の出現によって、日本文学は真に市民的な作品をはじめて
    持ち、小説というものの正統性(オーソドクシー)を証明するのは、
    その市民性に他(ほか)ならないことを学んだといえる」

この三島による賛辞は、新潮文庫版『楡家の人びと(下)』の「解説」(1971/05) で、辻邦生(1925-1999)が引用しているものです。「オーソドクシー」? 「市民性」? よく存じません。どういう意味であれ、1,500枚をこえる、この大作を世に知らしめる、史上最強の広告コピーとなったことは、まちがいないでしょう。
 
なお、北杜夫は「次第に政治的に過激になっていった晩年の三島とは疎遠だった」そうです(三島由紀夫 - Wikipedia|関連人物)。


■大江健三郎と三島 Kenzaburo Oe and Mishima

三島由紀夫と 大江健三郎(1935-  )とのあいだに、どの程度の交流があったかは存じません。ウィキペディアには、こうあります。

   1960年代に、三島由紀夫がノーベル賞を逃した時、「次は大江君だよ」
   と、当時まだ新進であった大江の名を挙げた。

   大江が実際にノーベル賞を受賞するのは三島の発言から30年余り経って
   の事となる。三島は大江を自邸のパーティに招くほど親しくしていた
   時期もあったが、政治思想の右傾化と共に疎遠になった。
   (大江健三郎 - Wikipedia|エピソード

三島から大江宛の書簡が何通存在したかも存じません。いずれにせよ、三島由紀夫の141名宛て806通の書簡を収めた上の全集に、大江健三郎宛てのものは1通も含まれていません。全集「解題」によれば、たとえば次のような場合、「書簡の存在が明らかでありながら、収録を見送らざるを得なかった」としています。いずれも当然と思われるケースです。

  1. 三島本人のプライバシーにかかわる場合 
  2. 所蔵者の許可が得られなかった場合
  3. 所蔵者やその消息が不明の場合

■「危険な兆候」"Dangerous symptoms"

三島が大江を評するのに用いた「精神病質の危険な兆候」という表現は、いまとなっては皮肉な印象を与えます。上の異様に躁的な、おどけた筆致の手紙を北杜夫に送ってから4年後に、三島は陸上自衛隊 市ヶ谷駐屯地 で、あの事件 を起こして45年の生涯を自ら閉じました。

「精神病質」かどうかはともかく、「危険な兆候」を実際に示したのは、はたして大江のほうだったか、三島のほうだったか?


 Book Covers  三島由紀夫の家 Yukio Mishima's House

↓ クリックして拡大 Click to enlarge ↓

a. Mishima_yukio_no_ie_fukyuuban_20009 b. Mishima_yukio_no_ie_1995_97845681_2

  • 三島由紀夫の家 普及版 (2000) 篠山紀信=撮影 篠田達美=文 石黒紀夫=アートディレクション 美術出版社 下の b. を内容はそのままで、サイズをB5判からA5判に改め、縮刷したもの。
  • 三島由紀夫の家 (1995) 篠山紀信=撮影 篠田達美=文 石黒紀夫=アートディレクション 美術出版社

■三島邸周辺の散策案内 Guide for walking around Mishima's house
Magome_bunshimura_sansaku_map
Image source: Magome Bunshimura 資料提供:社団法人大森倶楽部 No copyright infringement intended. Copyright (C) 1997-2013 Magome Bunshimura All Rights Reserved. 最新版マップ(100円)は大田区役所 区政情報コーナーで購入可能。


■その他の外部リンク Other external links


■更新履歴 Change log

  • 2013/05/18 『三島由紀夫の家 普及版』 (2000) と『三島由紀夫の家』 (1995) の表紙画像を追加しました。また、散策マップの情報を補足しました。
  • 2013/05/16 目次と「三島邸周辺の散策案内」の項を新設しました。
  • 2011/10/27 北杜夫氏は2011年10月24日に亡くなられました。訃報など、関連するリンクを追加しました。氏のご冥福をお祈りします。
  • 2011/08/24 外部リンクの項を新設しました。

にほんブログ村 本ブログへにほんブログ村 英語ブログへにほんブログ村 外国語ブログへブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村 本ブログ 洋書へにほんブログ村 英語ブログ 通訳・翻訳へにほんブログ村 外国語ブログ マルチリンガルへ翻訳ブログ人気ランキング参加中

↓ 以下の本・CD・DVDのタイトルはブラウザ画面を更新すると入れ替ります。
↓ Refresh the window to display alternate titles of books, CDs and DVDs.

■洋書 Books in non-Japanese languages

■和書 Books in Japanese

■DVD

  

  

|

« 溺死しないための心得(ホミサイドラボ『人殺し大百科』より) | Main | 蒲松齢 「書癡/書痴」(『聊斎志異』より) Strange Stories from a Chinese Studio by Pu Songling (2) »

Comments

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 三島由紀夫から北杜夫への手紙 1966/07/16 A letter from Yukio Mishima to Morio Kita, 16 July 1966:

« 溺死しないための心得(ホミサイドラボ『人殺し大百科』より) | Main | 蒲松齢 「書癡/書痴」(『聊斎志異』より) Strange Stories from a Chinese Studio by Pu Songling (2) »