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Sunday, 12 August 2007

浅井了意 「牡丹の灯籠」「牡丹灯籠」(『伽婢子(おとぎぼうこ)』より) The Peony Lantern (from Hand Puppets) by Asai Ryōi

■表紙画像ギャラリー Cover photo gallery

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a. Early_modern_japanese_literature b. Fuji_masaharu c. Toudou_otogibouko

d. Sunaga_kaidan e. Ja_edo_kaidanshu_chu f. Otogibouko_toyobunko


■物語成立の経緯

作品の成立の順番からいうと、

   中国明代:瞿佑「牡丹燈記」(『剪燈新話』
       ↓
   江戸時代:浅井了意「牡丹燈籠」(『伽婢子』)
       ↓
   幕末・明治:三遊亭圓朝『怪談牡丹燈籠』 

と、なります。瞿佑の種本は、あっけないほど短く、浅井了意と圓朝とが、それぞれ大変にすぐれたアレンジメントをくわえることによって、「牡丹燈籠」を不朽の名作に仕立て上げたことがわかります。


■英訳 Translation into English

After that, the woman came to Ogihara at dusk and departed at dawn; every night she kept her vow to visit. Ogihara's heart was in turmoil, his reason had flown. He was thrilled that the woman cared for him so deeply and never failed to come. He lost interest in seeing anyone else, even during the day. For more than twenty days he remained in this state.

Next door to Ogihara lived a wise old man. He thought it strange that lately, night after night, he could hear the voice of a young woman, laughing and singing, coming from Ogihara's house. He became so suspicious that finally he went and peeked through a crack in his fence. Lo and behold, there in the lamplight sat Ogihara, face to face with a skeleton! When Ogihara spoke, the skeleton would move its arms and legs, nod its skull, and reply in a voice that seemed to come from its mouth. The old man was aghast. As soon as it was daybreak he sent for Ogihara.

   Asai Ryōi. "The Peony Lantern."
   Translated by Maryellen Toman Mori.
   Hand Puppets (Otogi bōko)
   Early Modern Japanese Literature: An Anthology, 1600-1900.
   Edited by Haruo Shirane.
   New York: Columbia University Press, 2002.

   名前の表記 Ogihara は原文のまま。


■現代日本語訳 Translations into contemporary Japanese

(1) 藤堂 2001, 2006
 それから毎日、女は日暮れにきては明け方に帰るようになった。夜毎(よごと)に通ってくると約束し、それを一度も違(たが)えなかった。荻原(おぎわら)は心乱れて分別をなくした。一心同体で相思相愛となったこの女が、「二人の絆(きずな)は千世(ちよ)も変わりません」と言って通ってくることがうれしくてたまらず、昼も他人に会うことをやめた。そのような日々が、二十日余りつづいた。
 ところで、隣の家には、世故(せこ)に長(た)けた老人が住んでいた。
 〈荻原の家では、ずいぶん若い女の声がする。夜毎、歌い、笑い、遊んでいるのは尋常ではない〉
 こう思った老人は、壁の隙間から覗(のぞ)き見た。すると灯火の下には、一体の白骨と荻原とが差し向かいになって座っていた。荻原が何か言うと、その白骨の手足が動き、髑髏(されこうべ)が頷(うなず)き、口と思われるところから声が響き出てしゃべっていた。老人はたいそう驚き、夜が明けるのも待ちかねて荻原を呼び寄せた。(……)

   1a. 浅井了意(あさい・りょうい)=作
     藤堂憶斗(とうどう・おくと)=訳 「牡丹の灯籠」
     さねとうあきら、岡本綺堂〔ほか〕=著 赤木かん子=編
     『牡丹灯籠』 ホラーセレクション1(全10巻)
     ポプラ社 2006/03 所収         
   1b. 浅井了意=作 藤堂憶斗=訳 「牡丹の灯籠」
     『伽婢子・狗張子 江戸怪談集
     鈴木出版 2001/07 所収       

   1a. の底本は 1b.。引用は 1a. に拠りました。ルビを一部省略しました。


(2) 須永 1996
 それより毎日、女は、暮れれば訪れ、明ければ帰り、約束を違(たが)える事はなかった。荻原(おぎわら)は、女との逢瀬に溺れ、昼と雖(いえど)も家に引き籠り、人に会う事も止め、かくして廿日(はつか)あまりに及んだ。さて、隣家には世故(せこ)に長(た)けた翁(おきな)が住んでいたが、荻原の家より夜毎に聞き馴れぬ若い女の声がして歌い遊び笑いささめく様子ゆえ、これを怪しみ、壁の隙間より覗き見れば、燈火の下に新之丞が一体の白骨と差し向いに坐しているではないか。荻原がものを言えば、白骨の手足が動き、髑髏(しゃれこうべ)が頷き、口と覚しき所より声を発して答える体(てい)である。驚いた翁は、夜が明けるのを待ちかねて、荻原を呼び寄せ(……)

   瓢水子松雲(浅井了意) 『伽婢子(おとぎぼうこ)』 「牡丹灯籠」
   須永朝彦(すなが・あさひこ)=編訳
   『日本古典文学幻想コレクション3 怪談
   国書刊行会 1996/04/25 所収


(3) 江本 1980
 その後女は、日が暮れると訪れ、夜が明けると帰り、毎夜、通ってくるに約束を違(たが)えなかった。荻原のほうも、もう心は乱れて分別も付かず、ただこの女が自分に深く想いをかけて、契りは千代も変わらじと通ってくるのが嬉しく、昼でも他の者には会おうとしない。そして、二十日余りが過ぎた。
 荻原の家の隣に、物の道理をよくわきまえた老人が住んでいたのであるが、その老人がある日、変なことに気付いた。ひとり暮らす荻原の家から夜ごとに若い女の声が聞こえ、歌ったり笑ったりするのである。怪しく思って壁の隙間(すきま)から覗(のぞ)いてみると、荻原が一体の骸骨と向かいあっていた。荻原がものを言うと、白骨が手足を動かし、髑髏(しゃれこうべ)がうなずき、その口元あたりから声が響き出ている。老人はびっくりして、夜が明けるのを待ちかねて荻原を呼び寄せ(……)

   浅井了意=著 江本裕(えもと・ひろし)=訳 「牡丹の灯籠」
   『伽婢子—近世怪異小説の傑作』 教育社新書 原本現代訳 59
   教育社 1980/09/20


(4) 富士 1974, 1977, etc.
それからは日が暮れれば来、明け方には帰り、夜毎に通い来ること、全然約束を違(たが)えない。荻原(おぎわら)は心がわくわくして何彼(なにかれ)の事も考えられず、唯この女が睦まじく思い交(か)わして、契りに千世も変らじと通い来る嬉しさに、昼といえども又、他の人に逢う事もない。こうして二十日余りに及んだ。
 隣の家によく物を心得た翁が住んでいたが、荻原の家に不思議なことに若い女の声がして、夜毎に歌をうたい笑い遊ぶことの怪しさよと思い、壁の隙間から覗いて見ると、一揃いの白骨と荻原と燈火のもとに差向いで坐っていた。荻原が物をいうと、かの白骨の手あしが動いて、しゃれこうべがうなずき、口と思われる所より、声が響いて物語りをしている。翁は大いに驚いて、夜の明けるのを待ち兼ね荻原を呼びよせ(……)

   浅井了意(あさい・りょうい)=著 富士正晴(ふじ・まさはる)=訳
   『伽婢子(おとぎぼうこ)』「牡丹灯籠(ぼたんどうろう)」
   4a.現代語訳 江戸怪異草子(えどかいいぞうし)』 河出文庫 2008/08/20 所収
   4b.伽婢子・狗張子—怪談』 河出書房新社 1977/09 所収
   4c.日本の古典24 江戸小説集1』 河出書房新社 1974 所収

   4a.4b. を改題の上、文庫化したもの。引用は 4a. に拠りました。


■日本語原文 The original text in 17th-century Japanese

 (……)それよりして、日暮(くる)れば来り、明がたにはかへり、夜ごとにかよひ来(く)る事、更にその約束をたがへず。荻原(おぎはら)は心まどひてなにはの事も思ひわけず、たゞ此女のわりなく思ひかはして、契りは千世(ちよ)もかはらじと通ひ来るうれしさに、昼(ひる)といへども又こと人に逢(あふ)ことなし。かくて廿日あまりにをよびたり。
 隣(となり)の家によく物に心得たる翁(おきな)のすみたるが、荻原が家にけしからずわかき女のこゑして、夜ごとに哥うたひわらひあそぶ事のあやしさよと思ひ、壁(かべ)のすき間(ま)よりのぞきてみれば、一具(ぐ)の白骨(はつこつ)と荻原と、灯(ともしび)のもとにさしむかひて座したり。荻原ものいへば、かの白骨手あしうごき、髑髏(しやれかうべ)うなづきて、口とおぼしき所より声ひゞき出て物がたりす。翁大(おほい)におどろきて、夜のあくるを待かねて荻原をよびよせ(……)

   浅井了意=作 江本裕(えもと・ひろし)=校訂
   「巻の三 3. 牡丹灯籠(ぼたんのとうろう)」
   『伽婢子1』 (全2巻)東洋文庫475
   平凡社 1987/09 所収

   この東洋文庫の底本は、
   国立国会図書館所蔵の1666/03(寛文6)西沢太兵衛版、『御伽婢子』。


■『伽婢子』翻刻本の書誌情報
 Bibliography on books incorporating the republished text of Otogi Bouko

『伽婢子』を翻刻した本は、上に引用した東洋文庫版 (1987) のほかに次のものがある。d.g. を復刻したものである。

   a.新日本古典文学大系75 伽婢子
     佐竹昭広〔ほか〕=編 岩波書店 2001/09/20
   b.江戸怪談集(中)』 (全3冊) 「伽婢子」
     高田衛(たかだ・まもる)=編・校注 岩波文庫 1989/04/17
   c.假名草子集成7』 「おとぎばうこ」
     朝倉治彦(あさくら・はるひこ)=編 東京堂出版 1986/09/15
   d.近世文芸叢書3 復刻 小説』 国書刊行会=編輯 第一書房 1976
   e.近代日本文學大系13 怪異小説集』 瓢水子松雲=作「伽婢子」
     國民圖書株式會社=編輯 國民圖書 1927/05(昭和2)
   f.日本名著全集 江戸文芸之部 第10巻 怪談名作集
     日本名著全集刊行会=編輯 日本名著全集刊行会 1927(昭和2)
   g.近世文藝叢書第三 小説(上)』 (饗庭篁村による緒言つき)
     國書刊行會 非賣品 1910/09/30(明治43)


■更新履歴 Change log

2010/07/23 表紙画像を追加し、書誌情報を補足しました。
2010/06/15 江本裕=訳 1980/09/20 の訳文を挿入しました。また、
         「『伽婢子』翻刻本の書誌情報」の項を新設しました。
2010/06/01 須永朝彦=編訳 1996/04/25 と富士正晴=訳 2008/08/20
         の訳文を挿入しました。また、表紙画像と、江本裕=訳
         1980/09/20 の書誌情報を追加しました。
2010/05/29 Maryellen Toman Mori による英訳 2002 を追加しました。


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