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Thursday, 23 August 2007

蒲松齢 「書癡/書痴」(『聊斎志異』より) Strange Stories from a Chinese Studio by Pu Songling (2)

           目次 Table of Contents

   ■はじめに Introduction
    Cover Photos  表紙画像
   ■現代日本語訳 Translations into contemporary Japanese
     (1) 竹田+黒田 2009
     (2) 立間 1997
     (3) 増田+松枝+常石 1971
     (4) 柴田 1955, 1987, etc.
     (5) 佐藤 1922, 1998
     Video   《鬼屋麗人》 (1970)——楊麗花電影精選
   ■中国語原文(簡体字)The original text in simplified Chinese
   ■中國語原文(繁體字)The original text in traditional Chinese
   ■外部リンク External links
   ■更新履歴 Change log


■はじめに Introduction

本を読むしか能のない、うぶで不粋で世間知らずの独身男——その名は郎玉柱(ろう・ぎょくちゅう)。そんな郎のまえに、ある日、本のページの間から絶世の美女が姿を現わす。郎は女に恋をして、ふたりは……。

清代中国版「奥さまは魔女」といった趣きもある、ちょっとエッチで、くすっと笑える小話。でも、結末は苦い。


 Cover Photos  表紙画像

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■現代日本語訳 Translations into contemporary Japanese

(1) 竹田+黒田 2009
 ある夜、郎は彼女に言った。
 「だいたい、人は、男女が同居すれば子供が生まれている。今、君と暮らして大分たつのに、どうして生まれないのだろう。」
 女は笑って言った。
 「あなたは、毎日、本ばかり読んでいるけれど、最初から、それは無駄と言ったでしょ。未だに〝夫婦〟というこの一章さえも、まだ理解していないなんて、〝枕席〟というこの二字は奥が深いのよ。」
 郎は驚いて尋ねた。
 「一体どんな奥の深さだい?」
 女は笑って答えなかったが、しばらくして、そっと彼を迎えて身を寄せた。郎は歓びを極めて言った。
 「夫婦の楽しみが、言葉では言えないほどだとは思いもよらなかったぞ。」
 そこで、人に会えば、それを言い、聞いた者は、誰しも笑いを隠さなかった。[以下略]

  • 蒲松齢(ほ・しょうれい) 『聊斎志異』 「書痴(しょち)」 竹田晃(たけだ・あきら)+黒田真美子(くろだ・まみこ)=編 竹田晃+黒田真美子=著 『聊斎志異2 清代2』 中国古典小説選 10 明治書院 2009/10/10
  • 底本: 会校会注会評本 『聊斎志異』 (張友鶴輯校、上海古籍出版社 1986-08 第一版、1987-10 第四次印刷)。本書は、1963年、中華書局上海編輯所で出版された張友鶴輯校、いわゆる三会本12巻に章培恒「新序」を付したもの。

(2) 立間 1997
 郎(ろう)はある夜、如玉(じょぎょく)に言った。
「世間では男と女が一緒にいれば必ず子供ができるものなのに、君ともう久しく一緒に暮らしているのにどうしてできないのだろう」
「ほほほ、わたしは毎日のお勉強など詮ないことと申しましたが、まったく、この年になって夫妻のこともご存知ないのですね。枕席という二字には別の意味があるのですわよ」
「えっ、別の意味が…」
 郎が驚くと、如玉は笑うばかりだったが、ややあって、そっと手をさしのべてきて導きおさめた。郎は感極まり、
「夫婦の楽しみがこんなに楽しいものとは思わなかった」
 と叫んだものだったが、以来、会う人ごとにこれを話したので、聞いて吹き出さない者はなかった。[以下略]

  • 蒲松齢(ほ・しょうれい)=作 立間祥介(たつま・よしすけ)=編訳 「書中の美女——書痴(しょち)」 『聊斎志異(下)』 全2冊 岩波文庫 1997/02

(3) 増田+松枝+常石 1971
 彼はある夜、女に、
「だいたい夫婦がいっしょにくらせば、子供が生まれるものなのに、いまあなたとずいぶんながい間いっしょにいながら、どうして子供が生まれないのだろう?」
 とたずねた。女は笑って言った。
「あなたは毎日、書物ばかりお読みになっています。それを私は無益のことだといつも言っています。夫妻の間のことも、まだご存じないのですが、それは夜の臥所(ふしど)ということに工夫がいるのです」
「どんな工夫です?」
 女は笑って答えなかったが、しばらくしてから、そっと彼を迎えてそれを教えた。彼はひどく楽しかった。そして言った。
「私は夫婦の楽しみが、口に言えない楽しいものであることを知らなかった」
 そして逢う人ごとに、それを話したので、口をおおって可笑(おか)しがらない者はなかった。[以下略]

  • 蒲松齢=作 増田渉(ますだ・わたる)+松枝茂夫(まつえだ・しげお)+常石茂(つねいし・しげる)=訳 「書物気狂い(書癡)」 『聊斎志異(下)』 中国古典文学大系41(全60巻) 平凡社 1971/04

(4) 柴田 1955, 1987, etc.
 一夜(あるよ)、郎(らう)は女にむかひ、
 「一凡(いつたい)、人は、男と女が同(いつしよ)に居(ゐ)れば子を生むのに、卿(きみ)と久(なが)いこと同(いつしよ)に居ながら、何(ど)うして子どもができないのだらうね」
 といふので、女は笑つた、
 「君(あなた)が毎日書(ほん)を讀むのを、妾(あたし)固(もと)から無益なことだと云つてるでせう。今でも未だ、夫妻の一章すら悟(わか)らないぢやありませんか。枕席の二字には工夫が有るのよ」
 郎は驚いて、
 「何(ど)ういふ工夫があるんだ?」
 と問(き)いた。女は笑つて何とも言(い)はなかつたが、少間(しばらく)してから、潛(こつそ)り迎就之(をしへ)ると、郎は樂しさ極(きは)まつて、
 「我(ぼく)は夫婦の樂しみが、言(ことば)で傅へられないものとは意(おも)はなかつたよ」
 と曰(い)つたが、それから人に逢へば其の話をするのを[以下略]


(5) 佐藤 1922, 1998
 或る夜、郎は彼の女に言った。
『男と女とが一しよに住んでゐると子供が生れるといふ。私はお前と随分永い間住んでゐるのに私たちに子供がないのはどういふ理由(わけ)だらうか?』
 彼の女は笑ひながら言つた。
『だから私は、あなたがそんなに御勉強なさるのは無駄だと云つたではありませんか。あなたは今まできつと一度だつて「男と女」との章をほんたうにわかつて読んだことはないでせう。枕と蓆(むしろ)といふ二つの言葉は或る仕事を意味してゐるのでございます。』
 彼は驚いてそれはどんな仕事かと訊ねた。彼の女は笑つて黙つてしまつた。しかし彼が、それから、それについて彼の女の教示を受けた時、彼は総ての度を越えて喜んだ。
『私は、今までこんな深い、こんな深い、こんな得も言はれぬ喜(よろこび)を知らなかつた。』
 彼は逢ふ人毎(ごと)にその事を語つた。それを聞いた人々は皆んな彼を笑つた。[以下略]

  • 佐藤春夫=著 「書痴」
  • 初出は b。引用は a. 臨川書店 1998/11 に拠りました。原文にない改行を追加しました。

  Video  
《鬼屋麗人》 (1970)——楊麗花電影精選

『聊斎志異』のなかの「書痴」を脚色した作品。出演: 楊麗花張美瑤


■中国語原文(簡体字)The original text in simplified Chinese

郎一夜谓女曰:“凡人男女同居则生子;今与卿居久,何不然也?”
女笑曰:“君日读书,妾固谓无益;今即夫妇一章,尚未了悟,枕席二字有工夫。”
郎惊问:“何工夫?”女笑不言;少间,潜迎就之。郎乐极,曰:“我不意夫妇之乐,有不可言传者。”
于是逢人辄道,无有不掩口者。[略]


■中國語原文(繁體字)The original text in traditional Chinese

郎一夜謂女曰:「凡人男女同居則生子;今與卿居久,何不然也?」
女笑曰:「君日讀書,妾固謂無益。今即夫婦一章,尚未了悟,枕席二字有工夫。」
郎驚問:「何工夫?」女笑不言。少間,潛迎就之。郎樂極,曰:「我不意夫婦之樂,有不可言傳者。」
於是逢人輒道,無有不掩口者。[略]


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2013/08/04 目次と外部リンクの項を新設しました。
  • 2011/11/19 《鬼屋麗人》 (1970) の YouTube 動画と、竹田晃+黒田真美子=著 2009/10/10 を追加しました。
  • 2007/11/18 佐藤春夫=著 1998/11, 1922/08/01 を追加しました。

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