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Saturday, 08 September 2007

Le Passe-Muraille by Marcel Aymé マルセル・エイメ/マルセル・エーメ 「壁をぬける男」「壁を抜ける男」「壁抜け男」

■表紙画像その他 Cover photos, etc.
a. Paris_s_01 b. Img6977d c. 51ewxmryqyl

d. 544871_2 e. Ayme_french_2 f. 51nek35wxkl

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■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 長島 2000
 ほんの一握りの同僚をびっくりさせたいばかりに、わざと警察に捕まるなんて、天才的な男にあるまじき軽率な行為だ、と思われるかもしれない。しかし、人間がそのような行動に出るとき、意志の力など、ほとんど役に立っていないのだ。デュティエルは、誇り高い復讐欲にかられて、自由を捨てる決意をしたつもりだったが、実は運命のままに動いていたにすぎない。壁抜けの術を心得ている男は、少なくとも一度は刑務所にはいってみないことには、ほんとうの出世は望めない。

   マルセル・エイメ=著 長島良三(ながしま・りょうぞう)=訳
   『壁抜け男』 角川文庫 2000/07


(2) 手塚 1979
 読者諸君は、同僚を驚かすために警察にわざとつかまったというこの態度を、稀有の才能の持主にふさわしからぬ、軽率な行為だと判断されるかもしれない。しかし、このような決意をする場合、意志などというあやふやな心の動きは、ふつうあまり役に立たないものなのである。自由を放棄することによって、デュティユールは復讐という傲慢なる欲求に従ったと信じたのだが、本当は、運命の坂道をころがりはじめただけだった。壁を抜けられる男にとって、一度ぐらい監獄生活を経験しなければ、ちょっとは顔がきく、などと威張れないのである。

   エーメ=著 手塚伸一(てづか・しんいち)=訳 「壁をぬける男」
   『世界中短編名作集』 世界文学全集46(全50巻)
   学習研究社(学研) 1979/08/01


(3) 山崎 1975, 1989, etc.
 読者はおそらく、幾人かの同僚を驚かすためにわざと警察に捕まったというこの態度、人並はずれた人物にあるまじき、大変軽率な行為であると判断されるであろう。だが、このような決心に際しては、意志のごとき表立った心の働きは、ほとんどそれにあずからぬものなのである。デュティユールは、復讐(ふくしゅう)という傲然(ごうぜん)たる欲求に身をゆだねたと信じたのであるが、実際のところはただ、彼の運命という坂道をすべり出しただけだった。また、壁を通り抜ける男にとって、すくなくとも一度は監獄の味を味わってみなければ、すこしはその道をきわめたなどと、とてもいえた柄ではないのである。

   3a. マルセル・エーメ=著 山崎庸一郎=訳 「壁をぬける男」
      『集英社ギャラリー[世界の文学]8 フランス3
      集英社 1990/12 所収
   3b. エーメ=著 山崎庸一郎=訳 「壁をぬける男」
      日影丈吉=編 『フランス怪談集』 河出文庫 1989/11 所収
   3c. マルセル・エーメ=著 山崎庸一郎=訳 「壁を抜ける男」
      『フランス短篇24 現代の世界文学』 集英社 1989/11 所収
   3d. マルセル・エーメ=著 山崎庸一郎=訳 「壁を抜ける男」
      『フランス短篇24 現代の世界文学』 集英社 1975 所収
   引用は 3a. に拠りました。


(4) 中村 1963, 1976, etc.
 考えようによっては、わずか数人の同僚たちを驚かすために、警察にわざと捕らえられるなどということは、極めて軽はずみなことであり、天才的な人間にはふさわしくないと思われるかもしれない。だが、人間の意志の見せかけの動機などは、このような決意の前にはあまり役に立たないものだ。デュチユールは自由をあきらめることによって、同僚に仕返しをしたいという誇らしい欲望に身をゆだねたと思いこんでいたが、実際には彼はただ運命の坂道をころげ落ちはじめていたのだ。壁を通り抜けることができる人間にとって、少なくとも一度ぐらいは刑務所の臭い飯を食べないことには、あまりに立派な経歴といえないわけである。

   マルセル・エイメ=著 中村真一郎=訳 「壁抜け男」
   4a. 壁抜け男』 異色作家短篇集17 早川書房 2007/01
   4b. 安野光雅〔ほか〕=編 『ちくま文学の森4 変身ものがたり
      筑摩書房 1988/02 所収
   4c.壁抜け男』 異色作家短篇集11 早川書房 1976/06
   4d.壁抜け男』 異色作家短篇集12 早川書房 1963/04
   引用は 4a. に拠りました。


■英訳 Translation into English

Now you may well think that letting himself get picked up by the police to astonish a few colleagues shows a great recklessness unworthy of such an exceptional man. But although this act appears willful, his volition had very little to do with the decision. Dutilleul believed that by giving up his freedom, he was giving in to a prideful desire for revenge. In reality, though, he was simply sliding down the slope of his destiny. When a man is able to walk through walls, one can't really speak of a career until he's tried prison at least once.

   The Man Who Could Walk Through Walls by Marcel Aymé
   translated by Karen Reshkin
   E-text at Stress Cafe


■フランス語原文 The original text in French

On jugera sans doute que le fait de se laisser prendre par la police pour étonner quelques collègues témoigne d'une grande légèreté, indigne d'un homme exceptionnel, mais le ressort apparent de la volonté est fort peu de chose dans une telle détermination. En renonçant à la liberté, Dutilleul croyait céder à un orgueilleux désir de revanche, alors qu'en réalité il glissait simplement sur la pente de sa destinée. Pour un homme qui passe à travers les murs, il n'y a point de carrière un peu poussée s'il n'a tâté au moins une fois de la prison.

   Le Passe-Muraille (1943) by Marcel Aymé
   * Le Passe-muraille et autres nouvelles, Poche, 2002/01
   * Le Passe-Muraille, Gallimard, 2000/03
   * Le Passe-Muraille, French & European Publications, 1985/10

   E-text at Le français au lycee professionnel (palf.free.fr)

   Audio CD: Le Passe-Muraille, Suivi par L'Huissier (Ecoutez Lire),
   2006/10


■邦題の異同 Variations of the title translated into Japanese

   「壁をぬける男」 ……山崎 1989, 1990
   「壁をぬける男」 ……手塚 1979
   「壁を抜ける男」 ……山崎 1975, 1989
   「壁抜け男」…………中村 1963, 1976, 1988, 2007
   「壁抜け男」…………長島 2000


■更新履歴 Change log

2012/04/22 手塚伸一=訳 1979/08/01 を追加しました。
2010/12/18 「邦題の異同」の項を新設しました。
2007/09/14 長島良三=訳 2000/07 を追加しました。


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Posted by: flex belt review | Tuesday, 23 April 2013 04:04 pm

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