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Saturday, 26 January 2008

La Legende de Saint-Julien l'Hospitalier by Gustave Flaubert フローベール / フロベール 「聖ジュリアンの伝説」「聖ジュリアン伝」「ジュリアン聖人伝」

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■おもな邦訳のリスト(訳者別に、初版刊行年の新→旧の順)
 A more or so complete list of Japanese translations

   ★=下に訳文の抜粋を引用したタイトル。
   ☆=   〃    のちほど引用するつもりのタイトル。

★太田 1991.11 三つの物語. -- 福武文庫
★小林 1989.8 恐ろしい幽霊の話. -- くもん出版 (幻想文学館1)
★菅野 1979.2 世界文学全集41 ベラージュ. -- 集英社
★平岡 1977.11 キリスト教文学の世界2. -- 主婦の友社
★蓮実 1976.10 豪華版世界文学全集11. -- 講談社
 〃  1975 世界文学全集37. -- 講談社
 〃  1971 世界文学全集17. -- 講談社
 山田(稔) 1994.7 世界の文学セレクション36-17. -- 中央公論社
★〃 (稔) 1972.2 新潮世界文学9. -- 新潮社
 〃 (稔) 1965 世界の文学15. -- 中央公論社
 桑原 1980.11 河出世界文学大系31. -- 河出書房新社
★〃  1962.11 フローベール・メリメ. -- 河出書房新社 (世界文学全集12)
★横塚 1956 フランス名作選. 3版. -- 牧書店 (学校図書館文庫16)
☆富原 1954 フランス短篇集. -- 研究社出版 (研究社新訳註叢書)
 村上 1951 三つの物語. -- 小峰書店
 〃  1951 三つの物語. -- 角川文庫
★〃  1949 三つの物語. -- 細川書店
 楠山 1949 聖母の絵像:キリスト教伝説集. -- 小峰書店 (世界おとぎ文庫8)
★〃  1947 蛙の王さま. -- 東西社 (世界童話集)
 山田(九) 1966 フローベール全集4. -- 筑摩書房
 〃 (九) 1948 三つの物語. -- 丹頂書房
★〃 (九) 1940.6 (昭和15) 三つの物語. -- 岩波文庫
 鈴木 1979.8 怪奇幻想の文学6. -- 新人物往来社
 〃  1977.12 怪奇幻想の文学6. -- 新人物往来社
 〃  1976 世界文学全集17. -- 綜合社. -- 集英社
 〃  1963 フランス文学; 19世紀. -- 集英社 (世界短篇文学全集6)
 〃  1953 三つの物語. -- 新潮文庫
 〃  1951 世界文学全集 第1期第6 19世紀篇 フローベール篇. -- 河出書房
 〃  1948 未知の女. 再版. -- 酣灯社
★〃  1947.5 未知の女. -- 酣灯社
 〃  1947 トロワ・コント : フローベール短篇集. -- 高桐書院
 〃  1935 (昭和10) フロオベエル全集2. -- 改造社
★森  2004.5 昭和初期世界名作翻訳全集31 仏蘭西短篇集. -- ゆまに書房
 〃  2000.10 フランス文学集. -- 大空社 (明治翻訳文学全集 新聞雑誌編33)
 〃  1972 鴎外全集6. -- 岩波書店
 〃  1932.9 (昭和7) 佛蘭西短篇集. -- 春陽堂 (世界名作文庫121)
 中村 1982.2 西洋少年少女小説集. -- 名著普及会 (復刻版日本児童文庫31)
 〃  1939 (昭和14) 三つの物語. -- 富山房百科文庫
★〃  1927 (昭和2) 西洋少年少女小説集. -- アルス (日本児童文庫31)
 井上 1948 三つの物語. -- 南人社 (発売:平凡社)
 〃  1926 (大正15) 仏蘭西歴代名作集. -- 近代社 (世界短篇小説大系9)
★〃  1922 (大正11) 今昔選. -- 聚英閣


■日本語訳の抜粋 Excerpts of Japanese translations

(1) 太田 1991
「腹がへった!」と男は言った。(……)
 つぎに「のどが渇いた!」と男は言った。(……)
 そして今度は、「寒い!」と言う。(……)
「寝かせてくれ!」(……)
「骨のなかまで凍りつくようだ! こっちへ来てくれ!」(……)
「服をぬいで、体のぬくもりで暖めてくれ!」(……)
「ああ! 死にそうだ! もっとそばへ寄って暖めてくれ! いや、手でじゃない! 体全体で暖めてくれ!」
 ジュリアンは口と口、胸と胸をあわせて、男の上にぴったりと重なった。
 するとレプラの男はジュリアンを抱きしめた。たちまち男の目は星のように輝いた。髪は太陽の光線のように長くのびた。鼻孔からもれる息はばらの花のようにかぐわしく(……)

  • フロベール=著 太田浩一=訳 「聖ジュリアン伝」 『三つの物語』 福武文庫 1991.11

(2) 小林 1989
「腹がすいた」と、男が言った。(……)
「のどがかわいた」と、こんどは言った。(……)
 そして、また言った。
「寒い」(……)
「おまえのベッドに寝かせてくれ」(……)
「わたしの骨は、氷でできているようだ。そばにきてくれ」(……)
「裸になって、おまえの体であたためてくれ」(……)
「ああ、死にそうだ……もっと体をよせて、あたためてくれ。そうじゃない。手ではなくて、おまえの体全体であたためてくれ」
 ジュリアンは、男の上に完全にかぶさった。口と口、胸と胸とが、ぴったり重なった。
 その瞬間、男がジュリアンをだきしめた。男の目が、とつぜん、星の形の光をはなった。髪は太陽の光線のように長くのび、鼻の穴からやさしいバラのにおいの息がただよってくる。かぐわしい香りが(……)
[原文にあるルビは、省略しました - tomoki y.]

  • フローベール=作 小林修=訳 「聖ジュリアンの伝説」 『恐ろしい幽霊の話』 くもん出版 1989.8 (幻想文学館1)

(3) 菅野 1979
「わたしは空腹なのだ!」と癩者は言った。(……)
 次に癩者は言った——「わたしは喉(のど)が渇いている!」(……)
 それから、癩者は今度はこう言った。——「わたしは寒い!」(……)
「寝床を借してくれ!」(……)
「骨のなかまで氷のようだ! わたしのそばに来てくれ!」(……)
「着ている物を脱いでくれ、お前の身体の熱がわたしに伝わるように!」(……)
「ああ、わたしは死にそうだ!……近寄ってくれ、温めてくれ! 手でなしにだ! お前の身体全体でだ!」
 口と口を、胸と胸をぴったり合わせて、ジュリアンは癩者の身体の上に長々と横たわった。
 すると癩者は彼を抱きしめた。その両眼は突如として星の光を帯びた。髪の毛は太陽の光線のように長く伸びた。鼻孔から吐きだされる息には薔薇の馨(かぐわ)しさがあった。(……)

  • フロベール=著 菅野昭正(かんの・あきまさ)=訳 「ジュリアン聖人伝」三つの物語 『世界文学全集41 ボヴァリー夫人 他』(全88巻) 綜合社=編集 集英社=発行 1979.2

(4) 平岡 1977
「腹が減った!」と、男が言った。(……)
 その後で男は言った。——「喉が渇いた!」(……)
 ついで言った。——「寒い!」(……)
「寝床に入れてくれ」(……)
「まるで骨の中に氷でもはいっているようだ! 傍へ来てくれ!」(……)
「服を脱いで、お前の身体の熱で温めてくれ!」(……)
「ああ! 死にそうだ!……もっと傍へ寄って、温めてくれ! 手でじゃない! 違う! 身体全体で温めてくれ」
 ジュリアンは、口と口を合わせ、胸と胸を重ねて、完全に男の上に俯伏せになった。
 すると、癩病やみが彼を抱き締めた。そしてその両眼が不意に星の輝きを帯びはじめた。髪の毛が、太陽の光線のように、真直ぐに延びた。鼻孔から洩れる息には薔薇の花のかぐわしさがあった。(……)

  • フローベール=著 平岡篤頼(ひらおか・とくよし)=訳 「ジュリアン聖人伝」 『キリスト教文学の世界2』 主婦の友社, 1977.11

(5) 蓮実 1971, 1975, etc.
「腹がすいている!」と男はいった。(……)
 それから「のどが渇く!」という。(……)
 そのあとで、「寒い!」と口にする。(……)
「そなたの寝床を!」(……)
「骨が凍りつく。そばに来てもらいたい」(……)
「着物を脱いで、からだを暖めてほしい」(……)
「ああ、死んでしまう。……もっと近くによって暖めてほしい。いや、手ではない。心とからだのすべてをあげて暖めてほしいのだ」
 ジュリアンは、自分のからだで男をすっかりおおいつくした。唇は唇に、胸は胸に触れあった。
 すると癩の男は彼をだきしめる。瞳はさっと星の輝きをおびる。髪は陽の光のごとく伸びてゆく。鼻からもれる吐息はバラのかぐわしさを思わせた。(……)


(6) 山田(稔)1965, 1972, etc.
「腹がへった!」と男は言った。(……)
「のどが渇(かわ)いた!」とつぎに言う。(……)
「寒い!」と今度は言う。(……)
「おまえの寝床!」(……)
「骨のなかが氷のようだ。そばに来てくれ!」(……)
「はだかになって、体で暖めてくれ!」(……)
「ああ、もう死ぬ! もっとそばへ寄って暖めてくれ! 手でじゃない! からだ全体で!」
 ジュリヤンは口と口、胸と胸を合わせて、ぴったりと相手の上に体を押しつけた。
 すると癩者は彼を抱きしめた。突然、その目は星のように輝きはじめ、髪は太陽の光線のように長くのびた。鼻から吐き出される息はばらの花のようにかぐわしく(……)


(7) 桑原 1962, 1980
「おれは腹がへった!」という。(……)
 すると、男がいう。
「おれはのどがかわく!」(……)
 そしていった。
「おれは寒い!」(……)
「おまえの寝床へ!」(……)
「骨の中が氷のようだ! おれのそばに来てくれ!」(……)
「着物をぬげ。おまえのからだのぬくもりがほしいのだ!」(……)
「ああ、おれはもう死ぬ! ……もっと近寄って、おれを暖めてくれ! 手ではないんだ! そうそう、全身で」
 ジュリアンはピッタリと上にかさなった。口と口、胸と胸を合わせて。
 癩者は彼を抱きしめた。すると、その目はたちまち星の光を放ち、かみの毛は太陽の光線のように伸び、鼻腔をもれる息は、バラの香をたたえ(……)


(8) 富原 1954
[訳文は追って挿入するつもりです - tomoki y.]

  • フロベール=著 富原芳彰(ふはら・よしあき)=訳註 「聖ジュリアンの伝説」 『フランス短篇集』 研究社出版 1954 (研究社新訳註叢書)

(9) 横塚 1951
「はらがへった。」と、その男はいいました。(……)
「のどがかわいた。」と、らい病の男はいいました。(……)
「寒い。」と、らい病の男はいいました。(……)
「ねどこにいれておくれ。」(……)
「わしのほねのなかには、氷がはいっているようだ。そばにきておくれ。」(……)
「着ものをぬいで、からだの熱で暖めてくれないか。」(……)
「ああ、わしはもう死にそうだ。もっとそばで暖めておくれ。手ではよく暖まらない。からだ全体で、暖めておくれ。」
 ジュリアンは両ほうの手で病人をすっかりつつんでやり、じぶんの熱がよくかようようにしてやりました。
 そのとき、らい病の男は、ジュリアンをいきなりだきしめました。すると、病人の二つの目は、星のように、清らかにかがやきはじめました。そのかみの毛は、太陽の光線のように長くのびて行き、そのうしろには、後光がさしてきたのでした。鼻のあなからもれるいきは、バラの花のようなよいかおりをはなってきました。(……)

  • フローベル=原作 横塚光雄(よこづか・みつお)=訳 「聖者ジュリアンものがたり」 『フランス名作選』 牧書店 1951.10 (学校図書館文庫16)

(10) 村上 1949, 1951
 ——腹が減つた!」と男は言つた。(……)
 續いて、彼は言つた。——「喉が渇いた!」
 それからかう言つた。——「寒い!」(……)
 ——お前の寢床に!」(……)
 ——骨の中には氷でも入つてゐるやうぢや! 側に來てくれ!」(……)
 ——着物を脱いで、身體のぬくみで温めてくれ!」(……)
 ——ああ、死にさうだ!……もつと近寄つて温めてくれ! 手ではいけない! 違ふ! 身體全體で。」
 ジュリアンは男の上にぴつたりと重なつた。口に口、胸に胸を押し當てて。
 折しも癩病やみはジュリアンを抱き緊めた。その兩眼は忽然と星の光を放ち、頭髪は日輪の光芒のごとく長々と延び、その鼻腔から吐く息には薔薇の甘い匂ひがあつた。(……)

   フローベル=著 村上菊一郎=訳 「ジュリアン聖人傅」
   10a.三つの物語』 角川文庫 1951
   10b.三つの物語』 小峰書店 1951.6 (少年少女のための世界文学選)
   10c.三つの物語』 細川書店 1949.12
   引用は 10c. に拠りました。


(11) 楠山 1947, 1949
『ジュリアン、わたしはひもじい。』
と、いいました。(……)すると、こんどは、
『ジュリアン、わしはかわいている。』
と、いいました。(……)
『ジュリアン、わしはさむい。』(……)
『ジュリアン、寢床を。』(……)
『ジュリアン、骨のなかがこおる、そばに來て。』(……)
『ジュリアン、きものをぬいで、からだをあたためて。』(……)
『もつと、もつと、近く、からだごとあたためて。』
 ジュリアンはのしかかるようにして、病人をだきかかえました。顏と顏とが、胸と胸とが、かさなりあいました。病人は、その上に、きつくジュリアンをしめつけました。
 そのときです。にぶい火のような病人の目が、にわかに、あかるい星のように、きらきらまたたきました。髪の毛が、一本一本お日さまの光にかわりました。くさい鼻息が、ばらの花のように、かおり出しました。(……)

   11a. フロベール=作 楠山正雄=編 「ジュリアン聖者物語」
       『聖母の絵像:キリスト教伝説集』 小峰書店, 1949.11
       (世界おとぎ文庫8)
   11b. フローベル=作 楠山正雄=編 「ジュリアンものがたり」
       『蛙の王さま』 東西社, 定價金百圓 1947.12 (世界童話集)
   引用は 11b. に拠りました。


(12) 山田(九)1940
 「腹がすいた!」と、男がいつた。(……)
 今度は、『喉が乾いた!』といふ。(……)
 今度は、『寒氣(さむけ)がする!』といふ。(……)
 『お前の寢床に!』と呟いた。(……)
 「骨の中が氷のやうぢや! 側に來てくれ!」(……)
 「着物を脱いで、お前の體のぬくもりで温めてくれ!」(……)
 「あゝ! 死ぬ!……近寄れ、温めてくれ! 手では駄目だ! さあ! 體ごと」
 ジュリヤンは、口に口、胸に胸を押しあてて、その上にぴつたりとかぶさつた。
 癩病の男はジュリヤンを抱きしめた。その眼は忽ち星の光を放ち、髪は日輪の光芒のごとく伸びた。鼻腔を洩れるその息は薔薇の香を湛へ(……)

  • フローベール=作 山田九朗(やまだ・くろう)=訳 「聖ジュリヤン傅」 『三つの物語』 岩波文庫 1940.6(昭和15)

(13) 鈴木 1935, 1947, etc.
 ——腹が空(へ)つた。と癩病やみは言つた。(……)
 ——喉が渇いた。と、今度は言つた。(……)
 さうして言つた。——寒い。(……)
 ——寢床に入れてくれ。(……)
 ——わしの骨の中には、氷でもはいつてゐるやうだ。傍に來てくれ。(……)
 ——著物を脱いで、體の熱で温めてくれ。(……)
 ——ああ、死にさうだ。……もつと近くで、温めてくれ。手で温めるんではない。いいや。體(からだ)全體で温めてくれ。
 ジュリアンは、まつたく病人の上に、長々と俯伏した。口と口とは合つてゐる。胸と胸とは重(かさな)つている。
 その時、癩病やみはジュリアンを抱き緊めた。その兩眼は忽然と星の輝く光を放つた。髪は太陽の光線のやうに長く延びて、後光がさした。鼻孔から吐く息は、薔薇の花のやうに馥郁と匂つた。(……)

  • ギュスタヴ・フロオベエル=著 鈴木信太郎=譯 「ジュリアン聖人傅」 ギュスタヴ・フロオベエル、ヴィリエ・ド・リイルアダン=作 『未知の女 其他 佛蘭西近代短篇』 酣燈社 定價22圓 1947.5

(14) 森 1932, 1972, etc.
「己は腹が減つた」と癩病やみは云つた。(……)
「己は喉が乾く」と癩病やみが云つた。(……)
 それから癩病やみが「己は寒い」と云つた。(……)
「お前の寢床へ寢かしてくれい」(……)
「なんだか己の骨骨の中には冰が這入つてゐるやうだ。己の傍へ寢て温めてくれぬか。」(……)
「裸になつて、もつとしつかり温めてくれい。」(……)
「ああ。己はもう死ぬる。もつと傍へ寄つて温めてくれい。さう手なんぞでいぢつてくれるのでは温め足りない。體ぢゆうで温めてくれい。」
 ジユリアンは兩臂を擴げて丁度葢になるやうに、病人の上に俯伏した。口と口と合ひ、胸と胸と合ふのである。
 その時、癩病やみは兩手でしつかり抱き付いた。忽然兩眼が空の星のやうに、明かに輝いた。頭の髪が長く延びて太陽の光線のやうに照つた。左右の鼻の孔から吹く息は薔薇の花の香のやうな香がする。(……)


(15) 中村 1927, 1939, etc.
「わしは腹が空いてゐる」(……)
 つぎに、かれは言ひました。
「わしは喉(のど)が渇(かわ)いた」(……)
 やがてかれは言ひました。
「わしは寒い」(……)
「お前の寢床(ねどこ)」(……)
「わしの骨のなかには氷のような物がある。わしの側(そば)へ來てくれ」(……)
「着物をお脱ぎ、お前の體(からだ)の熱がわしに來るように」(……)
「あゝ、わしは死にさうだ。……もっと近寄つて、わしを暖めて。手ではない、いゝえお前の體じゆうで」
 ジュリアンはすっかりその上に横(よこた)はりました。口は口に着き、胸は胸に重なりました。
 すると、癩病(らいびよう)やみはかれを締めつけました。そしてその眼は急に星のように光り出しました。その髪は日の線のように伸びました。その鼻の吐息は薔薇の甘さに匂ひました。(……)

  • フロベエル=作 中村星湖(なかむら・せいこ)=譯 「ジュリアン聖者」 『西洋少年少女小説集』 三つの物語 -- アルス〔非賣品〕, 1928.1(昭和3) (日本児童文庫31)
  • 原文は総ルビですが、ここではその一部を省略しました。

(16) 井上 1922
——わしは腹が空(す)いた。とその男が云つた。(……)
 すると、その男は
——咽喉が渇いた。と、云つた。(……)
 すると、その男は、
——わしは寒い。と、云つた。(……)
——お前の寐床(とこ)を、(……)
——骨の髄に氷があるやうに寒い。わしの傍(かたはら)に來てくれ。と云つた。(……)
——お前の身體(からだ)の暖(ぬく)もりが、わしに通ふやうに、着物を脱いでくれ。と云つた。(……)
——あゝ、死にさうだ。……もつと近くよつて暖めてくれ。いや、手では役にたゝない。いや、お前の身體全體で。と、答へた。
 ジュリアンは、口を口に、胸を胸に、全身をぴつたりとその男の上に張りつけた。
 すると、癩病やみは、緊(ひし)とばかりに彼を抱きしめた。忽然として、その眼は、星のやうに輝き始めた。髪は太陽の光線のやうに伸び照つた。鼻孔(はな)を泄(も)れる息(いき)は薔薇(そうび)の香のやうに床(ゆか)しかつた。(……)

  • フロオベール=作 井上勇=譯 「聖ジュリアン物語」 『今昔選』 聚英閣 定價一圓二十錢 1922.12(大正11)

 Audio 1 
ロシア語版オーディオブック Audiobook in Russian

Uploaded to YouTube by Павел Васильевич Беседин on 15 Dec 2014.


■ロシア語訳 Translation into Russian

       -- Я голоден, -- сказал он.
       Затем он сказал:
       -- Я жажду!
       Тогда он сказал:
       -- Мне холодно!
-- и почти угасшим голосом он прошептал:
       -- На твою постель!
       -- Точно лед в моих костях! Ложись возле меня!
       -- Разденься, дабы я почувствовал теплоту твоего тела!
       -- Ах, я умираю! Приблизься! Отогрей меня, не руками, а всем существом твоим!
       Юлиан совсем лег на него -- ртом ко рту, грудью к груди.
       Тогда прокаженный сжал Юлиана в своих объятьях, и глаза его вдруг засветились ярким светом звезды, волосы растянулись, как солнечные лучи, дыхание его ноздрей стало свежей и сладостней благовония розы;
[Omission]

  • Флобер Гюстав. Легенда о св. Юлиане Милостивом. Перевод И. С. Тургенева
  • E-text at Lib.Ru (az.lib.ru)

 Audio 2 
英語版オーディオブック Audiobook in English read by David Barnes

下の引用箇所の朗読は 12:21 から始まります。 Uploaded to YouTube by Story Time on 12 Dec 2014. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 12:21.


■英訳 Translation into English

"I am hungry," he said. (...)
Then he said: "I thirst!" (...)
Then he said: "I am cold!" (...)
(...) in a faint voice he whispered:
"Thy bed!"
"I feel as if ice were in my bones! Lay thyself beside me!"
"Oh! I am about to die! Come closer to me and warm me! Not with
thy hands! No! with thy whole body."
  So Julian stretched himself out upon the leper, lay on him, lips
to lips, chest to chest.
  Then the leper clasped him close and presently his eyes shone like
stars; his hair lengthened into sunbeams; the breath of his
nostrils had the scent of roses (....)


 Audio 3 
フランス語原書オーディオブック Audiobook in French read by Françoise

下の引用箇所の朗読は 1:00:09 から始まります。 Uploaded to YouTube by Poesis fr on 13 Oct 2014. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 1:00:09.


 Audio 4 
フランス語原書オーディオブック Audiobook in French

下の引用箇所の朗読は 6:42 から始まります。 Uploaded to YouTube by Giuseppe Qutait on 6 Oct 2013. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 6:42.


■フランス語原文 The original text in French

—«J'ai faim!» dit-il. (...)
Ensuite, il dit:—«J'ai soif!» (...)
Puis il dit:—«J'ai froid!»
(...) il murmura:
—«Ton lit!»  (...)
—«C'est comme de la glace dans mes os! Viens près de moi!» (...)
Le Lépreux tourna la tête.
—«Déshabille-toi, pour que j'aie la chaleur de ton corps!» (...)
—«Ah! je vais mourir!... Rapproche-toi, réchauffe-moi! Pas avec les mains! non! toute ta personne.»
  Julien s'étala dessus complètement, bouche contre bouche, poitrine sur poitrine.
  Alors le Lépreux l'étreignit; et ses yeux tout à coup prirent une clarté d'étoiles; ses cheveux s'allongèrent comme les rais du soleil; le souffle de ses narines avait la douceur des roses (...)


■邦題の異同 Variations of the title in Japanese

  • 「ジュリアン聖者」 ………………中村 1927, 1939, etc.
  • 「聖ジュリアン聖者物語」 ………楠山 1947, 1949
  • 「聖ジュリアン聖人伝」 …………菅野 1979
  • 「聖ジュリアン聖人伝」 …………平岡 1977
  • 「聖ジュリアン聖人伝」 …………鈴木 1935, 1947, etc.
  • 「聖ジュリアン聖人傅」 …………村上 1949, 1951
  • 「聖ジュリアンの伝説」 …………小林 1989
  • 「聖ジュリアンの伝説」 …………富原 1954
  • 「聖ジュリアン伝」 ………………太田 1991
  • 「聖ジュリアン伝」 ………………蓮実 1971, 1975, etc.
  • 「聖ジュリアン伝」 ………………桑原 1962, 1980
  • 「聖ジュリアン物語」 ……………井上 1922
  • 「聖ジュリヤン伝」 ………………山田(稔)1965, 1972, etc.
  • 「聖ジュリヤン傅」 ………………山田(九)1940
  • 「聖ジユリアン」 …………………森 1932, 1972, etc.
  • 「聖者ジュリアンものがたり」……横塚 1951

■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2015/01/15 ロシア語版オーディオブック、英語版オーディオブック、および2種類のフランス語原書オーディオブックの YouTube 画面を追加しました。
  • 2008/04/25 横塚光雄=訳 1951.10 および村上菊一郎=訳 1949.12 を追加しました。また、「邦題の異同 」の項を新設しました。さらに、鈴木信太郎=訳の訳文を差し換えました。これまでは、『怪奇幻想の文学6 啓示と奇蹟』新人物往来社 1979.8 からの引用を掲載しておりましたが、代わって、より古い『未知の女』 再版 酣灯社 1947.5 からの引用を掲載することにしました。用字・仮名遣いなど、違いは細部に限られています。
  • 2008/03/19 平岡篤頼=訳 1977.11 を追加しました。
  • 2008/03/08 太田浩一=訳 1991.11 を追加しました。
  • 2008/02/01 山正雄=編 1947.12 を追加しました。また、井上勇=譯 1922.12 のうち、当初判読できなかった箇所を補充しました。

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■洋書 Books in non-Japanese languages
(1) Trois Contes

(2) Three Tales

(3) Saint-Julien / Saint-Julian

■和書 Books in Japanese
(1) フローベール/フロベール 三つの物語

(2) フロオベエル

(3) 聖ジュリアン

■CD

  

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Comments

Great writing, been waiting for that.. Regards Bobbie

Posted by: haulage vehicle insurance | Saturday, 11 December 2010 at 04:36 PM

I visit everyay some web siites and information sites to read articles, but this website offers feature baszed articles.

Posted by: Coach Bags | Sunday, 08 December 2013 at 06:07 AM

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