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Saturday, 21 June 2008

The Story of the Late Mr Elvesham by H. G. Wells (2) H・G・ウェルズ「亡きエルヴシャム氏の物語」「故エルヴィシャム氏の物語」(2)

■Books containing The Story of the Late Mr Elvesham, or its translation

Left Récits d'anticipation, Mercure de France (1988). More details here. フランス語版
Centre Stories of the Night, edited by Denys Val Baker. William Kimber (1976). Image source: British Horror Anthology Hell
Right Some Things Strange and Sinister, Coronet Books (1975). Image source: Vault of Evil: British Horror Fiction

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■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 坂崎 1992
夢にしては、あまりに現実味をおびている。あのへんな酒のおかげで、記憶がどこかでぬけおちてしまったのだ。遺産相続はほんとうらしいが、その幸運がわかったとたん、よろこびのあまり、なにかをわすれてしまったのだ、とぼくは考えたかった。(……)しかし、老エルヴシャムとの食事のことは、ふしぎにあざやかに思いだせるし、つい最近のことだとわかるのだ。シャンペン、物見だかいウエーター、粉、酒——賭けたっていい! あれはたしかに、ほんの何時間かまえのことなのだ。
 そのとき、ささいな、だが、ぼくにとってはひどくおそろしいことがおこった。そのときのことを思うと、いまでもからだがふるえる。ぼくは、考えながら、ひとりごとをいっていた。(……)

   H・G・ウェルズ=作 坂崎麻子=訳「故エルヴシャム氏のおぼえがき」
   坂崎麻子=編訳『七つの恐怖物語—英米クラシックホラー
   偕成社文庫 1992/07 所収
   原文にあるルビは省略しました。
 
 
(2) 小野寺 1988
夢を見ているにしては、万事があまりにもはっきりしている。つい、あのリキュールをあおったせいでまだ記憶に脱落があるのでは、と考えたくなった。ひょっとするともう相続はすんでいて、自分の幸運が明らかになった時から、とつぜんあらゆる記憶を失ってしまったのではないか。(……)しかし、エルヴシャム老人との食事のことは、妙に生々しく、ついさっきのことのように覚えていた。あのシャンペン、じろじろ見ていたウエイターたち、あの粉とリキュール——それが数時間前のことなのは、魂を賭けてもいいほど確かだった。
 そのとき、じつにつまらないことなのだが、わたしにとってはとても恐ろしく、いま思い出しても身震いが出るようなことが起こった。声を出して(……)

   H・G・ウェルズ=著 小野寺健(おのでら・たけし)=訳
   「亡きエルヴシャム氏の物語」
   J・L・ボルヘス=編纂・序文『バベルの図書館8 白壁の緑の扉
   国書刊行会 1988/09 所収
 
 
(3) 橋本 1980, 1990, etc.
夢にしてはすべてがあまりにリアルであった。わたしは、あの奇妙な酒を飲んだせいで記憶に間隙(かんげき)ができたのだ。すでに相続はすんでいるのに、あのエルヴィシャム氏から自分の幸運を告げられたとき以後の、すべての記憶を喪ってしまったのだと思いこもうとした。(……)しかし、エルヴィシャム老人との夕食の場面だけはいやに鮮明に、つい先刻のことのように記憶に残っていた。シャンペン、気のきく給仕たち、薬、リキュール、すべては疑いもなく数時間前の出来事だった。
 それに続く出来事は、ささいなこととはいえ、ぼくにとっては非常に恐ろしいことであった。あの時のことは今思い返してもぞっとする。ぼくは声をだして(……)

   H・G・ウエルズ=作 橋本槙矩(はしもと・まきのり)=訳
   「故エルヴィシャム氏の物語」
   3a. 橋本槙矩+鈴木万里(すずき・まり)=訳『モロー博士の島 他九篇
    岩波文庫 1993/11 所収
    著者名の表記は「ウエルズ」。書名の「博士」に「はかせ」とルビ。
   3b. エリザベス・ボウエン〔ほか〕=著『猫は跳ぶ—イギリス怪奇傑作集
    福武文庫 1990/07 所収
   3c. 橋本槙矩=訳『夜光死体—イギリス怪奇小説集
    旺文社文庫 1980/04 所収 著者名の表記は「ウエルズ」。
   引用は 3a. に拠りました。
 
 
(4) 阿部 1970
夢にしては、全体がはるかに現実的であり過ぎた。わたしは、あの奇妙なリキュールを飲んだせいで、自分の記憶にまだなにかぬけ落ちているところがあるのではないか、と想像したくなった。たぶん、もう相続をすましたのではないか。そして、自分の幸運を告げられてから、とつぜんすべての記憶を失ってしまったのではないか。(……)けれども、エルヴシャム老人といっしょに夕食をしたことは、いまもふしぎにありありとま新しく記憶に残っていた。シャンパン酒、観察好きの給仕たち、粉末、そしてリキュール——それらがみんな数時間まえに存在したことは、自分の命をかけてもよいほど確かだった。
 そしてそのとき、ごくつまらないことが起こったのだが、それはわたしにとってはたいへん恐ろしいことで、その瞬間を思いだすと、いまでも身ぶるいがでる。わたしは、大声をだしていったのだ。(……)

   H・G・ウェルズ=著 阿部知二=訳「故エルヴシャム氏の物語」
   『ウェルズSF傑作集2』創元推理文庫 1970/12 所収
 
 
(5) 宇野 1962, 1978
夢にしては、すべてのものが、あまりにも現実味を帯びすぎている。あのおかしな酒を飲みすぎたために、わたしの記憶に、ある種の断層を生じたのではなかろうか? 思いがけなく、ばく大な遺産をうけつぐことになり、それと知らされたうれしさに、それまでの記憶を失ってしまったのではあるまいか?(……)ただ、エルヴシャム老人とともにした晩餐のことだけは、奇妙なくらい、ありありと記憶にのこっていた。シャンペンの酔い、気のつくボーイたち、ふしぎな粉末、そして、リキュール——それらのものが、わずか数時間前、わたしのまわりに存在したことは、自分のたましいに誓って、うそではないのだった。
 そして、その直後に、きわめてささいなことではあるが、わたしにとっては、このうえもなく怖ろしいことが起ったのだ。わたしはその瞬間のことを考えると、いまだにぞっとしないではいられない。
 わたしは、大声を出して、こういったものである。(……)

   5a. H・G・ウエルズ=著 宇野利泰(うの・としやす)=訳
    「故エルヴシャム氏の話」
    『タイム・マシン』H・G・ウエルズ傑作集2
    ハヤカワ文庫SF 1978/01 所収
    著者名の表記は「ウエルズ」
   5b. H・G・ウェルズ=著 宇野利泰=訳「故エルヴシャム氏の話」
    早川書房編集部=編『H・G・ウェルズ短篇集2
    ハヤカワ・SF・シリーズ 早川書房 1962 所収
    著者名の表記は「ウェルズ」
   引用は 5a. に拠りました。


■ロシア語訳 Translation into Russian

  Все вокруг было вполне реальным; это не было сновидением. Я готов был вообразить, что от выпитого вчера странного напитка в памяти у меня образовался какой-то пробел. Может быть, думал я, меня уже ввели во владение наследством, а я потом вдруг забыл обо всем и не помню, что случилось после того, как я узнал о своей удаче? [Omission] Между тем воспоминания об обеде со стариком Элвешемом были необыкновенно живыми и свежими: шампанское, услужливые официанты, порошок, напиток... Я был готов дать голову на отсечение, что все это было лищь несколько часов назад!

  Затем произошло нечто совершенно обыкновенное и вместе с тем столь ужасное, что я до сих пор содрогаюсь при одном воспоминании об этой минуте. Я заговорил вслух.

   Герберт Уэллс. История покойного мистера Элвешема
   Translated by Н. Семевской
   E-text at Lib.Ru


■スペイン語訳 Translation into Spanish

Todo era demasiado real para ser un sueño. Imaginé que había un hiato en los recuerdos producido por la extraña bebida; que había recibido mi herencia y que esa brusca felicidad me había privado de la memoria. [Omission] Pero la cena con el viejo Elvesham aparecía detallada y vívida. El champagne, los mozos, el polvo rosado, los licores, yo juraría que todo eso era muy reciente. Entonces ocurrió algo trivial y al mismo tiempo tan horrible que tiemblo al recordarlo: dije en voz alta: [Omission]

   El caso del difunto mister Elvesham by H.G. Wells
   E-text at Scribd


■フランス語訳 Translation into French

   Histoire de feu M. Elvesham by H.G. Wells,
   Translated by Henry-D. Davray and B. Kozakiewicz

   a. Histoire de feu M. Elvesham by H.-G. Wells,
    Collection Folio Junior, Gallimard Jeunesse, 2002/01
    More details here.
   b. Récits d'anticipation by H.G. (Herbert George) Wells,
    Mercure de France, 1988/09
 
 
■英語原文 The original text in English

The whole thing was far too real for dreaming. I was inclined to imagine there was still some hiatus in my memory, as a consequence of my draught of that strange liqueur; that I had come into my inheritance perhaps, and suddenly lost my recollection of everything since my good fortune had been announced. (. . .) Yet my dinner with old Elvesham was now singularly vivid and recent. The champagne, the observant waiters, the powder, and the liqueurs--I could have staked my soul it all happened a few hours ago.

And then occurred a thing so trivial and yet so terrible to me that I shiver now to think of that moment. I spoke aloud. I said (. . .)

   The Story of the Late Mr Elvesham by H. G. Wells
   First published in The Idler May, 1896.
   The story was incorporated in
   The Plattner Story and Others, London: Methuen & Co., 1897

   Recent editions include:
   * The Plattner Story and Others (1904),
    Kessinger Publishing, 2007/11
   * The Complete Short Stories of H.G. Wells,
    Orion, 2001/05
   * The Plattner Story and Others,
    Methuen, 1997/06
   * The Complete Short Stories by H.G. Wells
    A & C Black Publishers, 1987/10

   E-text at:
   * The Literature Network
   * HorrorMasters.com (pdf)
   * Project Gutenberg
   * Red Moon Horror
   * Wikisource
 
 
■著者名の表記の異同
 Transliteration variations of the author's name "Wells" in Japanese

  ウェルズ 坂崎 1992
   〃   小野寺 1988
   〃   阿部 1970
   〃   宇野 1962
  ウエルズ 橋本 1980, 1990, etc.
   〃   宇野 1978


■邦題の異同 Variations of the title translated into Japanese

  故エルヴィシャム氏の物語     橋本 1980, 1990, etc.
  故エルヴシャム氏のおぼえがき   坂崎 1992
  故エルヴシャム氏の物語      阿部 1970
  故エルヴシャム氏の話       宇野 1962, 1978
  亡きエルヴシャム氏の物語     小野寺 1988


■訳語の異同 Variations of some expressions translated into Japanese

(1) far too real
  あまりにもはっきりしている    小野寺 1988
  あまりにも現実味を帯びすぎている 宇野 1962, 1978
  あまりにリアルであった      橋本 1980, 1990, etc.
  あまりに現実味をおびている    坂崎 1992
  はるかに現実的であり過ぎた    阿部 1970

(2) some hiatus in my memory
  記憶が(……)ぬけおちてしまった       坂崎 1992
  記憶に(……)ぬけ落ちているところがある   阿部 1970
  記憶に(……)断層を生じた          宇野 1962, 1978
  記憶に間隙ができた              橋本 1980, 1990, etc.
  記憶に脱落がある               小野寺 1988

(3) I could have staked my soul
  すべては疑いもなく              橋本 1980, 1990, etc.
  魂を賭けてもいいほど確かだった        小野寺 1988
  自分のたましいに誓って、うそではないのだった 宇野 1962, 1978
  自分の命をかけてもよいほど確かだった     阿部 1970
  賭けたっていい! あれはたしかに       坂崎 1992


■外部リンク External links

[en] English
   * List of H.G. Wells works currently in print
    in the United Kingdom and abroad (updated through February 2005)
    by The H.G. Wells Society (UK)
   * H. G. Wells - Wikipedia (1866-1946)
   * The H.G. Wells Society

[ja] 日本語
   * ハーバート・ジョージ・ウェルズ - Wikipedia (1866-1946)
   * H・G・ウェルズ - 翻訳作品集成
 
 
■更新履歴 Change log

2012/07/26 ロシア語訳とスペイン語訳を追加しました。
2008/06/30 宇野利泰=訳 1978/01 を追加しました。また、「訳語の異同」の
         項を新設しました。
2008/06/22 小野寺健=訳 1988/09 を追加しました。
 
 
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