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Monday, 23 June 2008

The Story of the Late Mr Elvesham by H. G. Wells (3) H・G・ウェルズ 「亡きエルヴシャム氏の物語」「故エルヴィシャム氏の物語」(3)

a. Wells & Welles. Download the 1940 radio interview with H. G. Wells and Orson Welles at Classic Destinies. Image source: The Digital Deli Online. A larger, clearer, copyrighted image is here at JAMD.
b. H. G. Wells - outside his house at Sandgate, Kent, England. Image source: Wikimedia Commons
c. H. G. Wells, Sandgate. Photographed by Alvin Langdon Coburn, 1905. The full-scale, copyrighted image is here at The Art of the Photogravure.

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a. Wellesandwells b. H_g_wells__sandgate__project_gutenb c. H_g_wells_2


■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 坂崎 1992
ぼくの変化は、書いてみればこういう単純なものなのだ。だが、だれひとり、ぼくがいいたてることを信じてはくれないだろう。ぼくは、気がふれた人間としてあつかわれ、いま現在も、みはられている。だが、ぼくは正気だ。かんぜんに正気だ。それを証明するために、ぼくは、おこったことをくわしく書きしるした。これを読んだ人にききたい。いままで読んでくれて、文体とか、書きかたに、ちょっとでも狂気の気配があったろうか?

   H・G・ウェルズ=作 坂崎麻子=訳 「故エルヴシャム氏のおぼえがき」
   坂崎麻子=編訳 『七つの恐怖物語—英米クラシックホラー
   偕成社文庫 1992/07 所収
   原文にあるルビは省略しました。


(2) 小野寺 1988
以上がわたしの変身についての、ありのままの物語である。いくら躍起になって事実だとがんばっても、誰も信じてはくれまい。わたしは狂人あつかいを受けて、いまでも拘禁されている。だがわたしは正気なのだ。完全に正気なのだ。それを証明したいからこそ、腰を据えて、この物語をくわしく、事が起こった順序どおりに書いたのである。読者にはぜひ、いま読んだ物語の文体なり書き方なりに、少しでも狂気の形跡があるかどうかを見ていただきたい。

   H・G・ウェルズ=著 小野寺健(おのでら・たけし)=訳
   「亡きエルヴシャム氏の物語」
   『バベルの図書館8 白壁の緑の扉』 国書刊行会 1988/09 所収

   原書:
   The Door in the Wall by H.G. Wells,
   from the series, The Library of Babel,
   selected by Jorge Luis Borges.
   Other titles of the series are shown here.


(3) 橋本 1980, 1990, etc.
これがぼくの変身のありのままなのである。ぼくの狂気じみた言い分をだれも信じてはくれないだろう。ぼくは乱心した人間として扱われ、現在、拘禁されている。しかし実際は正気、絶対に正気である。それを証明するために、事の次第をありのまま詳細に書き記そうと机に向かったのである。読者諸兄におききしたい、ここまで読んでこられた物語の文章、書き方にどこか狂気を思わせるところがあるだろうか。

   H・G・ウエルズ=作 橋本槙矩(はしもと・まきのり)=訳
   「故エルヴィシャム氏の物語」
   3a. 橋本槙矩+鈴木万里(すずき・まり)=訳 『モロー博士の島 他九篇
      岩波文庫 1993/11 所収
   3b. エリザベス・ボウエン〔ほか〕=著 『猫は跳ぶ—イギリス怪奇傑作集
      福武文庫 1990/07 所収
   3c. 橋本槙矩=訳 『夜光死体—イギリス怪奇小説集
      旺文社文庫 1980/04 所収
   引用は 3a. に拠りました。


(4) 阿部 1970
これが、わたしの変身についてのありのままの物語である。わたしがやっきになっていい張っても、だれひとり信じてくれないだろう。わたしは、気が狂った人間としてあつかわれており、このいまも、閉じこめられているのだ。しかし、わたしは正気だ。まったく正気である。そして、そのことを証明するために、ここに腰をおろして、自分の身に起こったことをありのままにくわしくたどりながら、この物語を書いてきた。わたしは読者に訴えるが、この物語を読んできて、その文体や筋道になにか気ちがいじみたしるしがあらわれているだろうか。

   H・G・ウェルズ=著 阿部知二=訳 「故エルヴシャム氏の物語」
   『ウェルズSF傑作集2 世界最終戦争の夢』 創元推理文庫 1970/12 所収


(5) 宇野 1962, 1978
 以上が、かんたんに述べた、わたしの変身の経過である。わたしは、気がくるったものとして、とりあつかわれた。いくら説明しても、だれひとり、信じてくれるものもない。そして、現在、わたしは監禁状態におかれている。しかし、わたしは正気である。完全に正気なのだ。それを説明するために、ここに腰を下ろして、わたしの身に起った出来ごとを、こと細かく書きとめている。
 わたしは読者諸君に訴える。諸君はこの手記を読まれて、文体とか、叙述の方法とかに、狂気の徴候をみとめられるであろうか?

   5a. H・G・ウエルズ=著 宇野利泰(うの・としやす)=訳
      「故エルヴシャム氏の話」
      『H・G・ウエルズ傑作集2 タイム・マシン
      ハヤカワ文庫SF 1978/01 所収 著者名の表記は「ウエルズ」
   5b. H・G・ウェルズ=著 宇野利泰=訳 「故エルヴシャム氏の話」
      早川書房編集部=編 『H・G・ウェルズ短篇集2 タイム・マシン
      ハヤカワ・SF・シリーズ 早川書房 1962 所収
      著者名の表記は「ウェルズ」
   引用は 5a. に拠りました。


■ロシア語訳 Translation into Russian

Такова без всяких прикрас история моего превращения. Никто не верит моим фантастическим уверениям. Со мной обращаются как с сумасшедшим и даже сейчас за мной присматривают. Между тем я человек нормальный, абсолютно нормальный, и чтобы доказать это, я сел за письменный стол и записал очень подробно все, что со мной случилось. Я взываю к читателю. Пусть он скажет, есть ли в стиле или ходе изложения истории, которую он только что прочел, какие-нибудь признаки безумия.

   Герберт Уэллс. История покойного мистера Элвешема
   Translated by Н. Семевской
   E-text at Lib.Ru


■スペイン語訳 Translation into Spanish

Tal es la historia de mi transformación. Nadie me cree. Me tratan como un demente y, aúnahora, me tienen bajo vigilancia. Pero estoy cuerdo, absolutamente cuerdo; para demostrarlo,escribo lo que me ha sucedido.

   El caso del difunto mister Elvesham by H.G. Wells
   E-text at Scribd


■フランス語訳 Translation into French

   Histoire de feu M. Elvesham by H.G. Wells,
   Translated by Henry-D. Davray and B. Kozakiewicz

   a. Histoire de feu M. Elvesham by H.-G. Wells,
     Collection Folio Junior, Gallimard Jeunesse, 2002/01
     More details here.
   b. Récits d'anticipation by H.G. (Herbert George) Wells,
     Mercure de France, 1988/09


■英語原文 The original text in English

That simply is the story of my change. No one will believe my frantic assertions. I am treated as one demented, and even at this moment I am under restraint. But I am sane, absolutely sane, and to prove it I have sat down to write this story minutely as the thing happened to me. I appeal to the reader, whether there is any trace of insanity in the style or method of the story he has been reading.

   The Story of the Late Mr Elvesham by H. G. Wells
   First published in The Idler May, 1896.
   The story was incorporated in
   The Plattner Story and Others, London: Methuen & Co., 1897

   Recent editions include:
   * The Plattner Story and Others (1904),
    Kessinger Publishing, 2007/11
   * The Complete Short Stories of H.G. Wells,
    Orion, 2001/05
   * The Plattner Story and Others,
    Methuen, 1997/06
   * The Complete Short Stories by H.G. Wells
    A & C Black Publishers, 1987/10

   E-text at:
   * The Literature Network
   * HorrorMasters.com (pdf)
   * Project Gutenberg
   * Red Moon Horror
   * Wikisource


■tomokilog の関連記事 Related articles from tomokilog

 * いわゆる「二重人格」に関わる不朽の古典。
    スティーヴンソン『ジキル博士とハイド氏』
    Dr Jekyll and Mr Hyde by Robert Louis Stevenson

 * 変身譚といえば、ずばり、
    カフカ『変身』
    Die Verwandlung / Metamorphosis by Franz Kafka

 * 窮地に陥った人間が突如姿を消すお話。
    アポリネール「オノレ・シュブラックの失踪」
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 * これに似た、フランスのもう一つの短篇。
    マルセル・エイメ「壁抜け男」
    Le Passe-Muraille by Marcel Ayme

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    エドガー・アラン・ポー「裏切り心臓」
    The Tell-Tale Heart by Edgar Allan Poe


■著者名の表記の異同
 Transliteration variations of the author's name "Wells" in Japanese

  ウェルズ………坂崎 1992
   〃  ………小野寺 1988
   〃  ………阿部 1970
   〃  ………宇野 1962
  ウエルズ………橋本 1980, 1990, etc.
   〃  ………宇野 1978


■邦題の異同 Variations of the title translated into Japanese

  故エルヴィシャム氏の物語…………橋本 1980, 1990, etc.
  故エルヴシャム氏のおぼえがき……坂崎 1992
  故エルヴシャム氏の物語……………阿部 1970
  故エルヴシャム氏の話………………宇野 1962, 1978
  亡きエルヴシャム氏の物語…………小野寺 1988


■外部リンク External links

[en] English
   * List of H.G. Wells works currently in print
    in the United Kingdom and abroad (updated through February 2005)
    by The H.G. Wells Society (UK)
   * H. G. Wells - Wikipedia (1866-1946)
   * The H.G. Wells Society

[ja] 日本語
   * ハーバート・ジョージ・ウェルズ - Wikipedia (1866-1946)
   * H・G・ウェルズ - 翻訳作品集成


■更新履歴 Change log

2012/07/29 ロシア語訳とスペイン語訳を追加しました。
2008/06/29 宇野利泰=訳 1978/01 を追加しました。


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Comments

この場面では、あくまで冷静沈着な文体が良いように思います。その面で見ると、4>2>1>3ですかね。わたしは、あくまで「日本語」としての感想を述べているだけで、訳として、どれだけ忠実に訳しているのかを述べる立場にありませんし、その技量もありません。

Posted by: 伊藤 龍樹 | Thursday, 26 June 2008 07:24 pm

伊藤 龍樹さん

いつもコメントをありがとうございます。ご返事が遅れました。さきほど (5) 宇野 1962, 1978 の訳文を追加しました。よろしければご覧ください。それも含めてご返事します。

原文はとりあえず脇において、日本語としての文章の比較ですね。自身、B級の翻訳屋である私が、先達の訳業をとやかく言うのは、大変おこがましいのですが、しいて採点するならば——

どれも一応、一定水準以上で、甲乙つけがたいです。良し悪しというより、個人的な好みで言うなら、(1) と (2) を買います。私は堅い漢語を多用しない、平明な訳し方が好きだからです。「諸兄」や「諸君」は、明治・大正のインテリの書いた文章を連想させて、私には古めかしく感じられます。

ただし、厳密にいうと (1) は別扱いにすべきかもしれません。(1) だけは児童書の枠で刊行されているからです。「完訳」というより「原文にたいへん忠実な再話、もしくはリライト」と言うべきかもしれません。

もともと大人向けに書かれた文章を、内容面で足したり引いたりしないで、なおかつ、子どもにも読めるように、表現面ですこしだけ易しく書き換える。これは、じつは普通の翻訳よりも、むずかしい。なぜならば、内容を正確に理解していなければ言い換えの可能性を思いつかないし、豊富な日本語の語彙力がなければ、言い換えの表現を見つけられないからです。

上に古風な訳し方を好まないと述べたことと、一見矛盾するように思われるかもしれませんが、私は明治や大正の作家たちがよく行なった翻案や再話に、けっこう興味を持っています。完訳主義の対極にありながら、内容の肝の部分だけをしっかり掴んで日本語にする点において、原文にもっとも肉迫しなければできない作業なので。

人や情報の行き来が発達し、良い辞書が増えたおかげで、最近の翻訳者たちは、とんでもない誤訳をする傾向は減ってきていると思います。けれども、対象(=原文)に向かう気合いとか気迫といったものもまた、同時に薄くなってしまっているかもしれません。

私がこのブログで、ふつうの本屋には見つからないような古い訳文まで、わざわざ引っぱり出してきて並べるのは、総論的にいえば閑人の所業であって、自分でもさほど意義があるとは思えません。まえに引用した、金原瑞人さんの文章(注)にもあるように、大原則をいうと「翻訳なんて、新しいものがいいに決まっているのだから。古い訳のほうが新訳よりいいなんて、よっぽど間抜けな人間が新訳をやっていないかぎり、まず考えられない」。複数の訳が手に入るならば、まずは迷わず、より新しい訳を選べ、ということです。

私のやっていることは、要するに、訳業の良否の探究というよりは、個々の訳語に対する偏愛ではないか。そんなふうに感じています。


注:翻訳は「間に合わせ」- 金原瑞人
tomokilog, Monday, 20 March 2006
http://tomoki.tea-nifty.com/tomokilog/2006/03/__be0a.html
 
 

Posted by: tomoki y. | Sunday, 29 June 2008 10:53 am

I need to know exactly what Arlene can do about this :D -Kind regards, Steve

Posted by: mandated insurance | Sunday, 12 December 2010 06:05 am

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