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Friday, 20 June 2008

The Story of the Late Mr Elvesham by H. G. Wells (1) H・G・ウェルズ「亡きエルヴシャム氏の物語」「故エルヴィシャム氏の物語」(1)

Left七つの恐怖物語—英米クラシックホラー』偕成社文庫 (1992)
Centre Histoire de feu M. Elvesham, Gallimard Jeunesse (2002). More details here. フランス語版
Right The Complete Short Stories of H.G. Wells, Orion (2001)

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■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 坂崎 1992
そのときはまだ正気だったから、ぼくは、自分のおかしな精神状態をはっきり自覚していたし、さっきのんだ物は、アヘンだったのじゃないだろうかと考えていた。いずれにしろ、ぼくには生まれてはじめてのものだった。いまとなれば、どうおかしかったのかをいいあらわすのはむずかしい。二つの精神がかさなりあった状態といえば、ぼんやりあたっているだろうか。
 リージェント・ストリートを歩きながら、なんともふしぎなことに、ここはウォータールー駅だという確信がわいた。そして、駅にいる人間が汽車にのりこむように、工科大学にはいってゆこうとするのだ。

   H・G・ウェルズ=著 坂崎麻子(さかざき・あさこ)=訳
   「故エルヴシャム氏のおぼえがき」
   坂崎麻子=編訳『七つの恐怖物語—英米クラシックホラー
   偕成社文庫 1992/07 所収
   ルビは省略しました。
 
 
(2) 小野寺 1988
そのときはまだ正気だったから、自分の心理状態が異常なこともに分かり、あの薬は阿片だったのではないか——未経験の薬だったのではないかと、疑うこともできた。いまとなっては、そのときの異常な心理状態の特殊性を説明するのはむずかしい。二重心理とでも言えば、近いだろうか。リージェント・ストリートを北へ向かって歩いていると、変なことにそこがウォータールー駅だと思えてきて、列車に乗り込むように工業学校へ入っていきたい、妙な衝動に駆られた。

   H・G・ウェルズ=著 小野寺健(おのでら・たけし)=訳
   「亡きエルヴシャム氏の物語」
   J・L・ボルヘス=編纂・序文『バベルの図書館8 白壁の緑の扉
   国書刊行会 1988/09 所収

   原書:
   The Door in the Wall by H.G. Wells,
   from the series, The Library of Babel,
   selected by Jorge Luis Borges.
   Other titles of the series are shown here.
 
 
(3) 橋本 1980, 1990, etc.
そのときまだぼくは自分を失っていなかったから、自分の奇妙な心理状態に気づいていた。そしてさっきのあの薬は阿片だったのかと思った……阿片は飲んだことはなかった。ぼくの奇妙な心理の特色を、今説明しろと言われても難しい。あえて言うなら、心理的ダブリとでも言うのだろう。リージェント街を歩いているのに、ここはウオタールー駅だという奇妙な気がしてくるのだった。そして、汽車に乗るように工芸学校へ入って行きたいという妙な衝動をおぼえた。

   H・G・ウエルズ=作 橋本槙矩(はしもと・まきのり)=訳
   「故エルヴィシャム氏の物語」
   3a. 橋本槙矩+鈴木万里(すずき・まり)=訳『モロー博士の島 他九篇
    岩波文庫 1993/11 所収
   3b. エリザベス・ボウエン〔ほか〕=著『猫は跳ぶ—イギリス怪奇傑作集
    福武文庫 1990/07 所収
   3c. 橋本槙矩=訳『夜光死体—イギリス怪奇小説集
    旺文社文庫 1980/04 所収
   引用は 3c. に拠りました。
 
 
(4) 阿部 1970
そのときはまだ正気だったので、自分の異様な精神状態に気づいて、さっき飲んだあの薬は、阿片(あへん)——経験したことのない薬——ではなかったのかと思いめぐらすことができた。いまとなっては、そのときの奇怪な精神状態をはっきり説明することはむずかしい——心の二重写しという表現が、かすかながらそれに近い。リージェント街を歩いているうちに、心の中で、そこがウォータルー駅だといいきかせるふしぎな言葉が聞こえ、まるで列車にでも乗るように、工業学校にはいってゆきたいというおかしな衝動を感じた。

   H・G・ウェルズ=著 阿部知二(あべ・ともじ)=訳
   「故エルヴシャム氏の物語」
   『ウェルズSF傑作集2』創元推理文庫 1970/12 所収
 
 
(5) 宇野 1962, 1978
 わたしはまだ、恍惚とした気分をつづけていたので、奇妙な精神状態に気づいて、さっき飲んだ粉末は、阿片ではなかったのか——経験したこともない薬品のちからにおどろいていた。
 そのときの精神状態の異様さを、いまにして説明するのは困難である——心理の二重写しとでもいったら、どうやらあたっているのではなかろうか。リージェント・ストリートを歩いていると、頭のどこかで、ここはウォタールー駅だといいきかせているものがあった。そして、汽車に乗りこむように、工芸学校の門のなかへとびこみたい奇怪な衝動にもおそわれた。

   H・G・ウエルズ(またはウェルズ)=著 宇野利泰(うの・としやす)=訳
   「故エルヴシャム氏の話」
   5a.H・G・ウエルズ傑作集2 タイムマシン
    ハヤカワ文庫SF 1978/01 所収
   5b. 早川書房編集部=編『H・G・ウェルズ短篇集2 タイム・マシン
    ハヤカワ・SF・シリーズ 1962 所収
   引用は 5a. に拠りました。
 
 
■ロシア語訳 Translation into Russian

  Я настолько сохранил ясность мысли, что замечал свое необычайное психическое состояние и спрашивал себя, не подсыпал ли он мне опиума, с действием которого я практически был совершенно незнаком.

  Мне очень трудно сейчас описать все особенности моего состояния; пожалуй, его можно было бы назвать раздвоением личности. Идя по Риджент-стрит, я не мог отделаться от странной мысли, что нахожусь на вокзале Ватерлоо, и мне даже хотелось взобраться на крыльцо Политехнического института, будто на подножку вагона.

   Герберт Уэллс. История покойного мистера Элвешема
   Translated by Н. Семевской
   E-text at Lib.Ru


■スペイン語訳 Translation into Spanish

Recuerdo vívidamente mis sensaciones. Al bajar por Regent Street, estaba extrañamente convencido de que esa era la estación Waterloo. Casi entré al Politécnico como quien toma un tren.

   El caso del difunto mister Elvesham by H.G. Wells
   E-text at Scribd


■フランス語訳 Translation into French

   Histoire de feu M. Elvesham by H.G. Wells,
   Translated by Henry-D. Davray and B. Kozakiewicz

   a. Histoire de feu M. Elvesham by H.-G. Wells,
    Collection Folio Junior, Gallimard Jeunesse, 2002/01
    More details here.
   b. Récits d'anticipation by H.G. (Herbert George) Wells,
    Mercure de France, 1988/09
 
 
■英語原文 The original text in English

I was still so far myself that I could notice my strange mental state, and wonder whether this stuff I had had was opium -- a drug beyond my experience. It is hard now to describe the peculiarity of my mental strangeness -- mental doubling vaguely expresses it. As I was walking up Regent Street I found in my mind a queer persuasion that it was Waterloo station, and had an odd impulse to get into the Polytechnic as a man might get into a train.

   The Story of the Late Mr Elvesham by H. G. Wells
   First published in The Idler Magazine, May 1896.
   The story was incorporated in
   The Plattner Story and Others, London: Methuen & Co., 1897

   Recent editions include:
   * The Plattner Story and Others (1904),
    Kessinger Publishing, 2007/11
   * The Complete Short Stories of H. G. Wells, edited by John Hammond
    Orion, 2001/05
   * The Complete Short Stories of H. G. Wells, edited by John Hammond
    Phoenix Giant, 1998. More details here.
   * The Plattner Story and Others,
    Methuen, 1997/06
   * The Complete Short Stories by H.G. Wells
    A & C Black Publishers, 1987/10

   E-text at:
   * The Literature Network
   * Project Gutenberg
   * HorrorMasters.com (pdf)
   * Red Moon Horror
   * Wikisource
 
 
■表記/訳語の異同
 Variation of translation and transliteration in Japanese

a) 著者名:Wells

   ウェルズ  坂崎 1992
    〃    小野寺 1988
    〃    阿部 1970
    〃    宇野 1962
   ウエルズ  橋本 1980, 1990, etc.
    〃    宇野 1978

ちなみに、『市民ケーン』などで知られる映画監督・プロデューサー・脚本家・俳優の故オーソン・ウェルズ氏の場合は Welles とつづります。
 
 
b) 表題:The Story of the Late Mr Elvesham

   故エルヴィシャム氏の物語   橋本 1980, 1990, etc.
   故エルヴシャム氏のおぼえがき 坂崎 1992
   故エルヴシャム氏の物語    阿部 1970
   故エルヴシャム氏の話     宇野 1962, 1978
   亡きエルヴシャム氏の物語   小野寺 1988
 
故 vs 亡き、エルヴィシャム vs エルヴシャム、物語 vs 話 vs おぼえがき。些細な違いですが、上の5つの訳題は全部、おたがいにどこかが異なります。なので、検索には、とても不便。もっとも、もしかりに表記が正確に写されているとするならば、邦題によって訳者が特定できるので、便利ともいえるのかもしれませんが……。
 
 
c) 駅名:Waterloo Station

   ウォータールー駅 坂崎 1992
      〃     小野寺 1988
   ウォータルー駅  阿部 1970
   ウォタールー駅  橋本 1993
      〃     宇野 1978
   ウオタールー駅  橋本 1980
   [未確認]    橋本 1990
   [未確認]    宇野 1962
 
 
d) 学校の名称:The Polytechnic

   工科大学  坂崎 1992
   工業学校  小野寺 1988
    〃    阿部 1970
   工芸学校  橋本 1980, 1990, etc. 
    〃    宇野 1978
   [未確認] 宇野 1962
 
 
■外部リンク External links

 [en] English
   * List of H.G. Wells works currently in print
    in the United Kingdom and abroad (updated through February 2005)
    by The H.G. Wells Society (UK)
   * H. G. Wells - Wikipedia (1866-1946)
   * The H.G. Wells Society

 [ja] 日本語
   * ハーバート・ジョージ・ウェルズ - Wikipedia (1866-1946)
   * H・G・ウェルズ - 翻訳作品集成
 
 
■更新履歴 Change log

2012/07/29 スペイン語訳を追加しました。
2012/07/26 ロシア語訳を追加しました。
2008/06/30 宇野利泰=訳 1978/01 を追加しました。
2008/06/20 小野寺健=訳 1988/09 を追加しました。
 
 
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