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Friday, 15 May 2009

La Morte / Was it a dream? by Guy de Maupassant モーパッサン/モウパツサン「死せる女」「一場の夢?」「死んだ女」「夢かあらぬか」「夢なりしか」

■はじめに Introduction

哀れな男についての、ごく短くてシンプルな話。ホラー仕立て。文庫本で8ページ程度。終始一人称で語られる。下に引用するのは、その冒頭の一パラグラフ。


 Images 
表紙画像 Cover photos

↓ クリックして拡大 Click to enlarge ↓
a. Maupassant_kessakusen  b. Maupassant_tampensen
c. Maupassant_zankoku_tampenshu  d. Maupassant_yamada_chikuma_2009_2

上の a.〜c. の3冊の本は、いずれも新本または古本で比較的容易に入手できます。でも、3冊とも La Morte の邦訳を収録していません。この短篇は最近の日本ではあまり高く評価されていないのでしょうか? 1980年代以降に出た邦訳書でこれを収録しているものを探しましたが見当たりませんでした。

――と思っていたら、2009年10月に出た d. ちくま文庫版に、山田登世子さんによる新訳が収録されました。(2009/10/28 追記)


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 山田(登) 2009
おれは夢中で愛していた! なぜ愛するのかだと? 世界じゅうでただ一人の女の姿しか眼に入らないのがおかしいとでもいうのか? 頭にあるのはただ一つのこと、胸にあるのはただ一つの欲望、口にするのはただ一つの名前、それがおかしいのか? その名はたえず口にのぼり、泉から湧きでる水のように、魂の深みから湧きでて唇にのぼる。おれはその名を言ってみる、もういちど言ってみる、絶え間なくその名を呼ぶ。どこにいても、どんなときも、祈りみたいに。

  • ギ・ド・モーパッサン=著 山田登世子(やまだ・とよこ)=訳 「死せる女」 山田登世子=編訳 『モーパッサン短篇集』 ちくま文庫 2009/10/10

(J2) 長谷 1977
ぼくは気が狂うほどに彼女を愛していた。 どうして人は恋をするのだろう? どうして恋になど陥るのだろう? まったく実におかしな話だ。この広い世間を舞台に、たった一人の人物しか目に入らず、頭にはたった一つの考えしかない。心はただ一つの想いに燃え、唇にはただ一つの名をのぼせる――清水のように湧き上る、魂の奥底から唇へと絶えず湧き上ってくる名前、幾度でも飽きずに繰り返す名、いつもいつも、どこにいても、お祈りでも唱えるようにひとり囁いてみる名。


(J3) 新庄 1964, 1965, etc.
ぼくはまるで気ちがいのように彼女を愛していた! なぜ人間は恋をするのだろう? この広い世界の中でもはや一人の人間しか眼に映らず、胸にはもはやたった一つの思いしかなく、心にはただ一つの望みしかなく、口にするのはただ一つの名前だけだ。しかもこの名前は、絶えず浮かんでくる、泉の水のように、魂の奥底から唇に浮かんでくるのだ。そしてそれを口に出して言い、繰り返して言い、到るところで、まるでお祈りの文句のように絶え間なく呟きつづけるのだ。まったくもって不思議なものさ。


(J4) 山田(枯) 1904, 1999
『私は彼女(あれ)を狂(きやう)するやうに愛(あい)してゐたのです。何故(なぜ)人は愛するのでせうか、何故でせうか。世界の中(うち)の唯(ただ)一人(ひとり)を見そめて、唯一人の事を考へ、心中(しんちう)で唯一人を焦(こが)れ、唯一人を口にしてゐるのは何(なん)と奇妙(きめう)ぢやありませんか。その唯一人の名が始終(しじう)浮(ゝか)んで來(く)る、丁度(ちやうど)靈魂(たましひ)の底から湧いて來る泉(いづみ)の水(みづ)のやうに唇から溢れて、幾度(いくたび)も/\繰返(くりかへ)し、何處(どこ)へ往(い)つても絕えず祈禱(いのり)のやうに囁(さゝ)やいてゐるのは何(なん)と奇妙(きめう)ぢやありませんか。』

  • モウパツサン=著 山田枯柳(やまだ・こりゅう)=訳 「夢かあらぬか」
  • a. は b. を複製したもの。引用は a. 大空社版 1999 に拠りました。ルビを一部省略しました。

(J5) 厨川 1903, 1929, etc.
 もの狂ほしきまで、われはかの君を戀ひたり。
 そもいかなれば人は戀ほるにや。戀ほるは何の故ぞ。げにも奇(く)しきかな、この世にして見るもの唯だひとつ、こゝろに思ふも唯だそのひとつ、胸のなかなる願ひさては口にのぼす名さへ、またこの一つの外はあらず。あはれその名、絕ゆる間もなく心に浮び、靈の底より湧きくる水のやうにのぼりきて、口にかたり、繰りかへしてはまた繰り返へし、祈禱(いのり)のやうに、いづくにもさゝやきて、やむ事を知らず。


 Audio 1 
英語版オーディオブック(朗読) Audiobook in English

Uploaded to YouTube by FULL audio books for everyone on 8 Oct 2012. Audio courtesy of LibriVox.


■英訳 Translations into English

(E1) Translator unknown
"I had loved her madly!

"Why does one love? Why does one love? How queer it is to see only one being in the world, to have only one thought in one's mind, only one desire in the heart, and only one name on the lips--a name which comes up continually, rising, like the water in a spring, from the depths of the soul to the lips, a name which one repeats over and over again, which one whispers ceaselessly, everywhere, like a prayer.


(E2) Translator unknown
"I had loved her madly! Why does one love? Why does one love? How queer it is to see only one being in the world, to have only one thought in one's mind, only one desire in the heart, and only one name on the lips; a name which comes up continually, which rises like the water in a spring, from the depths of the soul, which rises to the lips, and which one repeats over and over again which one whispers ceaselessly, everywhere, like a prayer.

  • Was it a dream? from The Works of Guy de Maupassant, Volume 3 (of 8) by Guy de Maupassant
  • E-text at Project Gutenberg

■イタリア語訳 Translation into Italian

L'avevo amata perdutamente! Perché si ama? Non è una cosa bizzarra non veder nel mondo null'altro che un unico essere, non aver più nella mente che un solo pensiero, nel cuore che un solo desiderio, sulla bocca che un solo nome: un nome che affiora continuamente, che affiora come l'acqua di una fonte dal profondo dell'anima, un nome che viene sulle labbra e che si pronuncia, si ripete, si mormora senza tregua, dovunque, come una preghiera?


■スペイン語訳 Translation into Spanish

¡La había amado locamente!

¿Por qué se ama? ¿Por qué se ama? Cuán extraño es ver un solo ser en el mundo, tener un solo pensamiento en el cerebro, un solo deseo en el corazón y un solo nombre en los labios... un nombre que asciende continuamente, como el agua de un manantial, desde las profundidades del alma hasta los labios, un nombre que se repite una y otra vez, que se susurra incesantemente, en todas partes, como una plegaria.


 Audio 2 
「死せる女」 フランス語原文のオーディオブック(朗読)
La Morte: An audiobook in the French original
Uploaded by azuhyde on Jul 7, 2011


■フランス語原文 The original text in French

Je l'avais aimée éperdument ! Pourquoi aime-t-on ? Est-ce bizarre de ne plus voir dans le monde qu'un être, de n'avoir plus dans l'esprit qu'une pensée, dans le cœur qu'un désir, et dans la bouche qu'un nom : un nom qui monte incessamment, qui monte, comme l'eau d'une source, des profondeurs de l'âme, qui monte aux lèvres, et qu'on dit, qu'on redit, qu'on murmure sans cesse, partout, ainsi qu'une prière.


■邦題の異同 Variations of the title translated into Japanese

  • 一場の夢?」………長谷 1977
  • 死せる女」…………山田(登) 2009
  • 死んだ女」…………新庄 1964, 1965, etc.
  • 夢かあらぬか」……山田(枯) 1904, 1999
  • 夢なりしか」………厨川 1903, 1929, etc.

■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2017/10/06 厨川白村=訳 1929/12 の書誌情報を追加しました。
  • 2015/04/11 英語版オーディオブックの YouTube 画面を追加しました。
  • 2012/08/29 フランス語原文のオーディオブック(朗読)の YouTube 画面を追加しました。
  • 2009/10/28 山田登世子=訳 2009/10/10 と、その表紙画像を追加しました。また、「邦題の異同」の項を新設しました。

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Comments

1.修飾語を前置して日本語に直すと、読みづらい。
2.最後のainsi qu'une prièreは、murmureだけにかかっているのではなく、全体にかかっている雰囲気がこの文にはある。
3.決して名文ではない。殊更に文学的に訳そうとするとおかしい。
4.原文の順に頭から訳していくと、日本語では当然、倒置法となる。そこに文学的な意味はないが、原文の雰囲気を伝えるには必要な手段と思われる。

わたしは、狂おしいほど愛してきた。なにゆえに人は愛するのか。異様だ、世界にただ一つのことを見、理性はただ一つのことを覚え、心はただ一つのことを望み、唇はただ一つの名を呼ぶとは。その名は魂にあふれる泉の水のよう、唇に込みあげ、呼び、繰り返し呼び、休む間もなく呟く、何処にても、間断なく祈りをささげるように。

Posted by: 伊藤 龍樹 | Saturday, 16 May 2009 at 08:19 AM

ロマンティックな文章ですね。

恋をすると、女性の思考の大部分が恋愛に集中するのに対し、男性の思考は、恋愛と同じ度合いでなどいろんなチャネル(仕事・友人・趣味など)が共存・機能すると聞いたことがありますので、モーパッサンの文章は、とても女性的に感じました。

英語同様、スペイン語訳もお勉強になりました。
好きな人ができたら、ちょっと使ってみようかな。へへへ。

伊能さんのように、まじめなコメントじゃなくて、すみません。

Posted by: y_flores_o | Saturday, 16 May 2009 at 08:56 AM

伊藤 龍樹さん
いつもコメントありがとうございます。

1.2.4.とも、おっしゃるとおりだと思います。伊藤さんの訳は、読みやすく分かりやすいですね。3.については、私はフランス語文の文体の良否を批評できるほど、フランス語が分からないので、なんともお答えすることができません。

Posted by: tomoki y. | Sunday, 17 May 2009 at 09:17 PM

y_flores_oさん

コメントありがとうございます。モーパッサンの文章が女性的であるとは、ご指摘をいただくまで気がつきませんでした。なるほど、そうですか。

さすがフラメンコをなさるだけあって、スペイン語がおできになるのですね。ぜひ実用に役立ててみてください。wink

まじめなコメントも、ふまじめなコメントも、歓迎いたしますよ。happy02

Posted by: tomoki y. | Sunday, 17 May 2009 at 09:22 PM

so informative, thanks to tell us.

Posted by: ARGUPETRUGH | Sunday, 26 September 2010 at 01:05 PM

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