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Tuesday, 09 March 2010

Антон Чехов - Скрипка Ротшильда / Rothschild's Fiddle by Anton P. Chekhov チェーホフ 「ロスチャイルドのバイオリン」「ロスチャイルドのヴァイオリン」「ロスチャイルドのワ゛ヰオリン」「提琴」

■はじめに Introduction

貧しい棺桶屋と彼の持つバイオリンについての短いお話。


■フレーイシュマン+ショスタコーヴィチ 歌劇「ロスチャイルドのヴァイオリン」1/3
 Fleishmann/Shostakovich "Rothschild's Violin" Part 1 of 3

チェーホフの短篇小説にもとづいた一幕物オペラ。夭逝した弟子フレーイシュマンが未完のまま残した作品を師ショスタコーヴィチが完成させた。


■日本語訳 Translation into Japanese

(1) 浦 2010
 その田舎町はちっぽけで、村に比べても見劣りがした。しかも、そこに住んでいるのはほとんど年寄りばかりで、これがまた滅多に死なず、腹立たしくなるくらいだ。病院でも監獄でも棺桶が注文されることはほとんどない。要するに、商売はあがったりなのだ。もしヤコフ・イワーノフが県庁所在地の棺桶屋であったなら、家一軒でんとかまえ、うやうやしくヤコフ・マトヴェーイチさまとでも称されたところだが、この町ではただたんにヤコフと呼び捨てにされ、どういうわけか〈青銅(ブロンザ)〉とあだ名されていた。暮らしぶりは水呑み百姓のように貧しく、一間っきりの小さなあばら屋に暮らし、その一間にヤコフとマルファ、暖炉、二人用の寝台、棺桶、作業台、商売道具の一切が収まっていた。

   アントン・チェーホフ=著 浦雅春(うら・まさはる)=編訳
   「ロスチャイルドのヴァイオリン」
   『馬のような名字—チェーホフ傑作選
   河出文庫 2010-03-20 版元による この本の紹介


(2) 沼野 2009, 2010
 ちっぽけな町で、村にもひけをとるくらいだった。住んでいるのも年寄りばかり、しかもなかなか死なないので、いまいましくなるくらいだ。病院からも、監獄からも、棺桶の注文はめったになかった。これじゃあ、商売あがったりだ。もしもヤーコフ・イワノフが県庁所在地の都会で棺桶屋をやっていたら、立派な家を構え、イワノフ様なんて呼ばれていたことだろう。でもこのしけた町では、おい、ヤーコフ、と呼びすてにされ、なぜか「青銅(ブロンザ)」というあだ名まで付けられていた。暮らしは貧しく、一部屋しかない古い小屋に、しがない農民のように住んでいた。その部屋には彼のほか、マルファと、暖炉と、二人用の寝台と、いくつもの棺桶と、作業台と、所帯道具の一切合財が詰め込まれていたのだ。

   アントン・パーヴロヴィチ・チェーホフ=著
   沼野充義(ぬまの・みつよし)=訳 「ロスチャイルドのバイオリン」
   a.新訳 チェーホフ短篇集』 集英社 2010-09-30
     版元による この本の紹介
   b.すばる』 集英社 2009年6月号
   初出誌は b.。引用は a. に拠りました。傍点を下線で置き換えました。


(3) 児島 2005
 その町はいかにも小さかった。
 暮らし向きは寒村よりさらにひどく、住んでいる人はといえばほとんどが老人だった。
 そして、この人たちが亡くなるのは腹立たしいほど稀(まれ)なこと。つまり、棺桶(かんおけ)なるものは病院でも牢屋(ろうや)でもまずは必要とされない。
 かいつまんで言うと、棺桶づくりの仕事は繁盛(はんじょう)とは、まず関係がなかった。
 ヤーコフ・イワーノフが、もし県都の棺桶屋だったら、きっと持家の一軒も建てて、ふつうにヤーコフ・マトヴェーヴィチと呼ばれたことだろう。
 だも彼はこの町で単にヤーコフと呼ばれ、巷(ちまた)ではなぜか綽名(あだな)の〈青銅(ブロンザ)〉で通っていた。
 暮らし向きは良くなく、大かたの農民と同じように、一部屋きりの古い小さな農家に、妻のマルファと暮らしていた。
 家には暖炉(ペチカ)、二人用の寝台、いくつかの棺桶、作業台、家事や仕事に必要な小道具類などが、手狭な場所にさらにすきなく置かれていた。

   アントン・P・チェーホフ=作 イリーナ・ザトゥロフスカヤ=絵
   児島宏子(こじま・ひろこ)=訳
   『ロスチャイルドのバイオリン』 チェーホフ・コレクション
   未知谷 2005-02-25 版元によるこの本の紹介


(4) 松下 1986
 このいなか町はちっぽけで、村にも劣り、ほとんど老人ばかりが住んでいたが、その老人たちがまた腹立たしいほどめったに死ななかった。病院だろうと監獄だろうと、棺桶(かんおけ)のいることなどそれこそめずらしかった。ひと口(くち)に言って商売はあがったりだった。もしもヤーコフ・イワーノフが県庁所在地の棺桶屋だったら、きっと自分の家も持ち、ちゃんとヤーコフ・マトヴェーイチと呼ばれたにちがいなかった。こんないなか町のこととて、ただヤーコフと呼びすてにされるだけで、通り名をなぜかブロンザ(青銅)と言い、たったひと間(ま)きりの小さな古ぼけた小屋に、水呑(みずのみ)百姓同然のしがない暮しをしていた。このひと間に、彼とマールファ、暖炉、ふたり用の寝台、棺桶、かんな台、そして世帯道具いっさいが同居しているのだった。

   チェーホフ=作 松下裕(まつした・ゆたか)=訳
   「ロスチャイルドのヴァイオリン」
   『幸福 谷間』 麥秋社 1986-11-25


(5) 池田 1960, 1976, etc.
 その田舎町は村よりちっぽけで、ほとんど老人ばかりが住んでいたが、その老人たちがいまいましくなるぐらい、めったに死ななかった。病院でも監獄でも、だから、棺桶が必要になるのはごく稀だった。ひと口に言えば、商売あがったりである。もしヤーコフ・イワーノフが県庁所在地の棺桶屋だったら、たぶん自分の家の一つも持って、まっとうにヤーコフ・マトヴェーイチと呼ばれただろうが、この田舎町ではただ素気なくヤーコフと呼ばれるだけで、なぜか通り名を「青銅(ブロンザ)」と言い、ひと間(ま)きりの小さい古い百姓小屋に、水呑み百姓も同じ貧乏暮らしを送っていた。このたったひと間に、彼とマルファと、暖炉と、二人用の寝台と、棺桶と、かんな台と、世帯道具いっさいが詰め込まれていたのである。

   チェーホフ=作 池田健太郎(いけだ・けんたろう)=訳
   「ロスチャイルドのバイオリン」
   a.チェーホフ 短篇と手紙』 みすず書房 2002-01-07
   b.チェーホフ全集9』 中央公論社 1976
   c.チェーホフ全集9』 中央公論社 1960
   引用は a. に拠りました。


(6) 中村 1936
 村よりひどい位のちつぽけな田舎町で、そこには殆ど老人ばかりが住んでゐたが、それがまた死なないことゝと言つたら、忌々しい位であつた。それで、病院でも、監獄でも、棺の需要は非常に少なかつた。一口に言ふと、商売が甚だ面白くなかつたのである。若しヤーコフ・イワーノフがこれで縣廳所在市の棺屋だつたら、彼は今頃はきつと自分の家の一つも持つて、人からもヤーコフ・マトヴェーイチと呼ばれて、幾らか立てられる身分にもなつてゐたであらうが、この町ではたゞマトヴェイと呼ばれるだけで、町での綽名は何故かブロンザ(青銅の意)と言ふのだつた、そしてまるで水呑百姓のやうに、一間きりの小さな古い家に貧乏暮らしをしてゐて、その一間に、彼と、マールファと、暖炉と、二人寝の寝台と、幾つもの棺と、仕事台と、一切の家財道具とがあるのだつた。

   チェーホフ=作 中村白葉(なかむら・はくよう)=譯
   「ロスチャイルドのワ゛ヰオリン」
   『チェーホフ全集9 黑衣の僧』 金星堂 1936-02-20(昭和11)


(7) 楠田 1910
[ルビを取り除いたテキスト]
町と云つても殆んど名ばかりで村と變らない。——住んで居る人々は多く老人のみだが、死亡と云ふ事は滅多に無い。是は彼に取つて明かに苦痛である。病院でも監獄でさへも棺の必要は餘り無い。言換れば商賣が繁昌しないのである。若しヤコブ・イバノフが市の棺造人であつたならば、彼は普通の家も有つて、ヤコブ・マヴイエッチと稱へて居たのであらう。然れども實際はヤコブと云ふ名で知られて居つて、其の理由は解らないがブロンザと云ふ綽名を有つて居る。唯一間しか無い昔の茅屋に住んで居つて、水呑百姓として貧しく暮して居つた。茅屋の内には妻のマーファも居れば、暖爐や、二人寢の寢臺、棺桶、指物師用の腰掛、其の他の器具もある。

[原文——ルビ付き]
町(まち)と云(い)つても殆(ほと)んど名(な)ばかりで村(むら)と變(かは)らない。——住(す)んで居(ゐ)る人々(ひと/゛\)は多(おほ)く老人(らうじん)のみだが、死亡(しぼう)と云(い)ふ事(こと)は滅多(めつた)に無(な)い。是(これ)は彼(かれ)に取(と)つて明(あきら)かに苦痛(くつう)である。病院(びやうゐん)でも監獄(かんごく)でさへも棺(くわん)の必要(ひつよう)は餘(あま)り無(な)い。言換(いひかへ)れば商賣(しやうばい)が繁昌(はんじやう)しないのである。若(も)しヤコブ・イバノフが市(し)の棺造人(くわんつくりにん)であつたならば、彼(かれ)は普通(ふつう)の家(うち)も有(も)つて、ヤコブ・マヴイエッチと稱(とな)へて居(ゐ)たのであらう。然(け)れども實際(じつさい)はヤコブと云(い)ふ名(な)で知(し)られて居(を)つて、其(そ)の理由(りいう)は解(わか)らないがブロンザと云(い)ふ綽名(あだな)を有(も)つて居(ゐ)る。唯(たゞ)一間(ひとま)しか無(な)い昔(むかし)の茅屋(こや)に住(す)んで居(を)つて、水呑(みづのみ)百姓(しやう)として貧(まづ)しく暮(くら)して居(を)つた。茅屋(こや)の内(うち)には妻(つま)のマーファも居(を)れば、暖爐(ストーブ)や、二人寢(ふたりね)の寢臺(ねだい)、棺桶(くわんをけ)、指物師用(さしものしよう)の腰掛(こしかけ)、其(そ)の他(た)の器具(きぐ)もある。

   チエーホフ=著 「提琴」
   表紙表示: 楠田麥圃(くすだ・ばくほ)=譯
   奥付表示: 楠田斧三郎(くすだ・おのさぶろう)=譯
   a.チエーホフ短篇集』 国立国会図書館 近代デジタルライブラリー
   b.チエーホフ短篇集』 内外出版協會 1910-02(明治43)
   亡・要・若の旧字は新字で置き換えました。


■イタリア語訳 Translation into Italian

La cittadina era piccola, peggio di un villaggio, e vi vivevano quasi soltanto dei vecchi, i quali morivano così raramente che era addirittura un dispetto. All'ospedale e alla prigione, di bare ne richiedevan pochissime. In una parola, gli affari erano cattivi. Se Jakov Ivànov fosse stato fabbricante di bare nella città principale del governatorato, certamente avrebbe avuta una casa propria e l'avrebbero chiamato Jakov Matvèi£c£; qui in questa cittaduzza lo chiamavano semplicemente Jakov, e per di più i ragazzi di strada gli avevano dato, chissà perché, il soprannome di Bronza; ed egli viveva poveramente, come un semplice contadino, in una piccola casupola vecchia, nella quale c'era soltanto una camera, e in questa camera avevano posto lui, Marfa, la stufa, un letto matrimoniale, le bare, il banco da lavoro e tutto quel che occorre alla vita quotidiana.

   Il violino di Rotschild by Anton Cechov
   E-text at Uto Ughi Fan Club - Letteratura


■スペイン語訳 Translation into Spanish

El pueblecito era pequeño, peor que una aldea; vivían en él casi nada más que viejos, los cuales morían tan de tarde en tarde que incluso fastidiaba. En el hospital y en los calabozos de la cárcel había poca necesidad de ataúdes. En una palabra, las cosas iban mal. Si Yakov Ivanov hubiera sido fabricante de ataúdes en una ciudad de provincia, seguramente tendría casa propia y le llamarían Yakov Matvéich, pero aquí en el pueblecilio le llamaban simplemente Yakov. Su apodo callejero era, no se sabe por que, Bronce, y vivía pobremente, como un simple campesino, en una pequeña y vieja isba, en la cual había una sola habitación, y en esa habitación tenían cabida él, Marfa, la estufa, la cama de matrimonio, el banco de trabajo y todos sus utensilios.

   El violín de Rothschild by Anton Chejov
   Quoted in La historia comienza: ensayos sobre literatura by Amos Oz
   Siruela, 2007


■フランス語訳 Translation into French

La ville était une petite, pire qu'un village, et il a été habité par à peine en mais vieux peuple qui sont morts avec une rareté qui ennuyé vraiment. Dans l'hôpital et dans la forteresse de prison très peu de cercueils ont été eus besoin. En fait l'affaire était mauvaise. Si Yakov Ivanov avait été entrepreneur des pompes funèbres dans la ville principale de la province il aurait eu certainement une maison de son propre, et les gens auraient l'adressé comme Yakov Matveyitch;  ici dans ce misérable peu les gens de ville l'ont appelé simplement Yakov;  son surnom dans la rue était pour quelque Bronze de la raison, et il habitait dans un chemin pauvre comme un humble paysan, dans un peu vieille hutte dans lequel il y avait seulement une pièce, et dans cette pièce lui et Marfa, le poêle, un double lit, les cercueils, son banc, et toutes leurs affaires ont été entassées ensemble.

   Le violon de Rothschild by Anton Pavlovich Chekhov
   E-text at Le douzième projet


■英訳 Translation into English

The town was a little one, worse than a village, and it was inhabited by scarcely any but old people who died with an infrequency that was really annoying. In the hospital and in the prison fortress very few coffins were needed. In fact business was bad. If Yakov Ivanov had been an undertaker in the chief town of the province he would certainly have had a house of his own, and people would have addressed him as Yakov Matveyitch; here in this wretched little town people called him simply Yakov; his nickname in the street was for some reason Bronze, and he lived in a poor way like a humble peasant, in a little old hut in which there was only one room, and in this room he and Marfa, the stove, a double bed, the coffins, his bench, and all their belongings were crowded together.

   Rothschild's Fiddle by Anton P. Chekhov
   from The Chorus Girl and Other Stories (1920)
   Translated by Constance Garnett
   E-text at The Literature Network


■ロシア語原文 The original text in Russian

Городок был маленький, хуже деревни, и жили в нем почти одни только старики, которые умирали так редко, что даже досадно. В больницу же и в тюремный замок гробов требовалось очень мало. Одним словом, дела были скверные. Если бы Яков Иванов был гробовщиком в губернском городе, то, наверное, он имел бы собственный дом и звали бы его Яковом Матвеичем; здесь же в городишке звали его просто Яковом, уличное прозвище у него было почему-то Бронза, а жил он бедно, как простой мужик, в небольшом старой избе, где была одна только комната, и в этой комнате помещались он, Марфа, печь, двухспальная кровать, гробы, верстак и всё хозяйство.

   Антон Чехов
   Скрипка Ротшильда
   E-text at Интернет-библиотека


■外部リンク External links

 書評 Book reviews
   * 『ロスチャイルドのバイオリン』 書評:児島宏子の奄美日記
   * 朝の書評:『チェーホフ 短篇と手紙』

 著者について On the author
   [zh] 安東·帕夫洛維奇·契訶夫 - 維基百科 (1860-1904)
   [ja] アントン・チェーホフ - Wikipedia (1860-1904)
   [fr] Anton Tchekhov - Wikipédia (1860-1904)
   [en] Anton Chekhov - Wikipedia (1860-1904)
   [de] Anton Pawlowitsch Tschechow – Wikipedia (1860-1904)
   [ru] Чехов, Антон Павлович — Википедия (1860-1904)


■更新履歴 Change log

2012-02-03 楠田斧三郎=譯 1910-02 を追加しました。
2012-02-02 イタリア語訳とスペイン語訳を追加しました。
2010-09-30 沼野充義=訳 2010-09-30 を追加しました。
2010-03-12 浦雅春=編訳 2010-03-20 を追加しました。


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