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March 2016

Sunday, 13 March 2016

The Penitent (from Fables) by Robert Louis Stevenson スティーヴンソン / スティーヴンスン(『寓話集』から)「悔い改めた者」「悔悟者」「罪を悔いる人」「悔いる人」

■はじめに Introduction

「悔い改めた者」はロバート・ルイス・スティーヴンソンの著書 『寓話集』 のなかの一話。下にその全文を引用します。ご覧のとおりごく短い文章ですが、スティーヴンソンらしいユーモアと皮肉が効いています。


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 柴田 2015
 ある男が、しくしく泣いている子供に行きあたった。「なんで泣いてるんだ?」と男は訊いた。
 「自分の罪を悔やんで泣いてるんです」と子供は言った。
 「よっぽど暇なんだな」と男は言った。
 翌日二人はまた出会った。またしても子供はしくしく泣いていた。「今度はなんで泣いてるんだ?」と男は訊いた。
 「食べるものがなくて泣いてるんです」と子供は言った。
 「いずれそう来ると思った」と男は言った。

  • スティーヴンソン=作 柴田元幸=訳 「悔い改めた者」 『MONKEY Vol.6 Summer/Fall 2015』 スイッチ・パブリッシング 2015-06-15

(J2) 枝村 1976
 一人の男が泣いている若者に出逢(あ)った。「どうして泣くの?」男は訊(き)いた。
「罪のために泣いているのです」若者はいった。
「たぶん、することがないのでしょう」男はいった。
 翌日、二人はまた出逢った。ふたたび、若者は泣いていた。「こんどはなぜ泣くの?」男は訊いた。
「食べ物がないので泣いているのです」若者は答えた。
「そうなると思ったよ」男はいった。

  • スティーヴンスン=作 ハーマン=絵 枝村吉三=訳 「悔悟者」 『寓話』 牧神社 1976-10-30

(J3) 河田 1975
 ある男が泣いている一人の少年にあった。「何で泣いてるんだね?」と男はたずねた。
「自分が罪深いので悲しくて泣いてるんだよ」と少年は言った。
「お前はよっぽどひま人なんだね」と男は言った。
 翌日、二人は再会した。少年はまた泣いていた。「今度は何で泣いてるんだね?」と男はたずねた。
「食べ物がないんで泣いてるんだよ」
「そうなるだろうと思ってたよ」


(J4) 斎藤 1958
 ある人が泣いている青年と行きあった。「何を泣いているの」と聞いたら、
 「わが罪のために泣いているのです」と青年は言った。
 「よほどすることがないと見えるネ」とその人は言った。
 翌日二人はまた会った。また青年は泣いていた。「こんどはなぜ泣くの」と聞いたら、
 「食べる物がなくて泣いているのです」と青年は言った。
 その人は言った、「おおかたそんなことになるだろうと思っていたよ」

  • スティーヴンスン=作 斎藤美洲=訳注 「悔いる人」 寓話 『びんづめの小鬼』 研究社新訳註叢書   研究社 1958-11-25

■ロシア語訳 Translation into Russian

     Один человек повстречал плачущего  юношу. "О  чем ты плачешь?"  спросил он.
     "Я плачу о моих грехах", сказал юноша.
     "Тебе, должно быть, нечем заняться", сказал человек.
     На следующий день они встретились снова. Юноша опять плакал. "Почему ты плачешь сегодня?" - спросил человек.
     "Я плачу, потому что мне нечего есть", сказал парень.
     "Я так и думал, что до этого дойдет", сказал человек.

  • VI. Кающийся. Роберт Льюис Стивенсон. Басни © Александр Сорочан (bvelvet@rambler.ru), перевод, 2006
  • E-text at Lib.Ru.

■スペイン語訳 Translation into Spanish

Un hombre se encontró con un joven que estaba llorando.
-¿Por qué lloras? -le preguntó.
-Lloro por mis pecados -respondió el joven.
-Tendrás muy poco que hacer -dijo el hombre.
Al día siguiente volvieron a encontrarse. El joven seguía llorando.
-¿Por qué lloras ahora? -preguntó el hombre.
-Lloro porque no tengo nada que comer -respondió el joven.
-Pensé que acabarías así -dijo el hombre.

  • El penitente by Robert Louis Stevenson. Translated by Jorge Luis Borges & Roberto Alifano. Fábulas Editorial Universitaria, 2004
  • Preview at Google Books

■バーチャルブック Virtual book


■英語原文 The original text in English

A man met a lad weeping. “What do you weep for?” he asked.
“I am weeping for my sins,” said the lad.
“You must have little to do,” said the man.
The next day they met again. once more the lad was weeping. “Why do you weep now?” asked the man.
“I am weeping because I have nothing to eat,” said the lad.
“I thought it would come to that,” said the man.


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Odd Shop by Walter de la Mare ウォルター・デ・ラ・メア 「奇妙な店」

■はじめに Introduction

「奇妙な店」はイギリスの詩人・作家ウォルター・デ・ラ・メア (1873-1956) の短篇小説。1955年に出版された A Beginning and Other Stories という本に収録されています。その冒頭の一段落を下に引用します。邦訳は、これまでに少なくとも3種類出ています。訳者は柴田元幸、橋本槇矩、荒俣宏の各氏です。


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 柴田 2012
一種独特の沈黙が、川べりからはじまっている裏通りの小さな暗い店にとり憑いているように思えた。真剣に聴き入っている者たちの沈黙、とでも言うか。その沈黙が突如、隅に吊るした、緑青のついた小さな鈴のくぐもった響きによって破られると、二段だけの木の階段をそろそろと降りてきた訪問者はただちにそれを耳にとめ、ジャランという歓迎の音がふたたび沈黙に吸い込まれると、なぜかその音をいっそう強く意識したのだった。


(J2) 橋本 1981, 1989
川岸からのぼる裏露路に面した小さな暗いその店には、独特な静寂がただよっていた。じいっと耳をすましているものたちがかもしだす、そんな静寂である。店のかたすみにつるした緑青(ろくしょう)だらけの小さな鈴が、くぐもった音で、突然その静寂を破った。二段しかない木の段(ステップ)を手さぐりするようにおりてきたのは通りがかりの客である。彼はすぐに静寂に気がついた。彼をむかえる鈴の音がやんでしまうと、いっそう静寂が深く感じられる。

  • W・デ・ラ・メア=作 橋本槇矩(はしもと・まきのり)=訳 「奇妙な店」
  • 引用は b. 旺文社文庫版 1981 に拠りました。

(J3) 荒俣 1979, 1989
静寂(しじま)が——といっても、静寂には付きものの現象なのだが——川からつづいている裏路にある、小さくてうす暗い店を、閉ざしこんでいるようだった——その静寂は、いってみれば、一心に耳を澄ましている者の沈黙であった。ふいにそれが、隅に吊るしてある小さな緑青(ろくしょう)のふいた鈴のたてた、籠もるような響きに破られた。そしてその店の、木でできた二段の階段につづく路を、当てもなく歩いてきた通りすがりの客がひとり、ふと店の存在に気づき、親しげな鈴の響きが静かになったとき、ほんとうに妙な成りゆきからその店に興味を惹かれたのだった。


■英語原文 The original text in English

A silence, peculiar to itself, seemed to possess the little dark shop in the back street running up from the river — the silence, as it were, of intent listeners. It was suddenly shattered by the muffled ringing of a little verdigrised bell hanging up in the corner, and a chance visitor groping his way down its two wooden steps at once perceived it, became indeed curiously aware of it when the hospitable jangle had fallen into silence.


■ "it" は何を指すか? 日本語訳のばらつき

引用した英語原文の終わり近くに、

    ... a chance visitor [ 略 ] at once perceived it, became indeed 
    curiously aware of it ...

とあります(下線は引用者 山林)。これら2つの it はおなじものを指すと思われます。さて何を指すでしょう? 邦訳者たちの理解は、上に見るとおり三者三様です。第一線の訳者たちにしては意外です。

具体的にいうと、it は柴田訳では鈴の「音」、橋本訳では「静寂」、荒俣訳では「店」を指すように読めます。このうち正解は柴田訳だと思います。作品を読み進めるとわかるとおり、この短篇は音をモチーフにしています。柴田訳以外では、ちょっと不自然です。橋本訳や荒俣訳だと物語がスムーズに流れず、ぎこちない感じがするのです。


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