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Thursday, 22 March 2018

А. П. Чехов. Устрицы Oysters by Anton Chekhov チェーホフ 「牡蠣」「かき」

◾️はじめに Introduction

  • 通りで父親とふたり、物乞いを始めたばかりの子どもが、意地悪な大人にレストランへ連れていかれて、食べたことのない、食べたくもない高級シーフードを無理やり食べさせられてトラウマになる……という悪い冗談のような話。
  • チェーホフならではの、おもしろ悲しい短篇。いまから130年以上まえの1884年に発表された作品だが、国と時代を超えてアピールする。チャップリンやウディ・アレンの思想的先祖ともいえそうだ。

◾️日本語訳 Translations into Japanese

  1. 沼野 2010
    • 「父ちゃん、カキって精進料理、なまぐさ料理?」と、おれは聞く。
      「生きたまま食べるのさ……」おやじは言う。「亀みたいに、殻をかぶっていてな……でも、殻は二枚あるんだ」
       そのとたん、美味しそうな匂いは体をくすぐるのをやめ、幻が消えうせた……。なんだ、そういうことか!
      「キモい!」おれはつぶやく。「キモいぜ!」
  2. 浦 2010
    • 「父ちゃん、かきって精進料理? それとも肉料理?」
      「生きたまま食べるんだ……」と父は言った。「そいつは亀のようにかたい殻のなかに入っているのさ。もっとも殻は二枚だがな」
       ぼくの体をくすぐっていたかぐわしい匂いは、この言葉を聞いてぴたりと止んだ……。これですっかりわかった。
      「ああ、気味わるい」ぼくはつぶやいた。「気色わるい」
  3. 松下 1994
    • 「とうちゃん、かきって、精進料理なの、それともふだんの料理なの?」と僕はたずねる。
      「生のまま食べるんだよ……」と父が言う。「殻をかぶってるんだ、亀のように、でも……二枚の殻だがね」
       うまそうな匂いはとたんにぼくの体をくすぐるのをやめ、まぼろしは消えてしまう……。これで正体つかめたぞ!
      「なんていやらしいんだ!」と、僕はつぶやく。「なんていやらしいんだ!」
      • 松下裕(まつした・ゆたか)=訳 「牡蠣」 チェーホフ全集 2 ちくま文庫 2009
      • ルビは省略しました。
  4. 神西 2002
    •  「とうちゃん、かきって、精進料理なの、それとも、なまぐさ料理なの?」と、ぼくはたずねる。
       「生きたままま食べるんのさ。……」と、父が言う。「かめのように、かたいからをかぶっているんだよ。もっとも……二枚のからだがね。」
       おいしいにおいは、とたんに、ぼくのからだをくすぐるのをやめ、まぼろしは消えうせる。……なんだ、そうなのか!
       「おお、いやだ!」と、ぼくはつぶやく。「おお、いやだ!」
  5. 東郷 1951
    •   「おとうちゃん、牡蠣って精進料理に使うの、それともなまぐさ料理に使うの?」と、ぼくは訊ねる。
        「それはなまで食うんだよ……」と、父がいう。「それは龜のこみたいに殻に入ってる、でも……二枚貝になってるのさ」
       おいしそうな匂いは一瞬にしてぼくの肉體をくすぐることをやめ、幻想は消えうせる……これでみんなわかった!
        「なんてげがらわしいもんだ」と、ぼくは囁く。「なんてげがらわしいもんだ!」
      • 東郷正延(とうごう・まさのぶ)=訳 「牡蠣」 喜び・仮面 岩波文庫 1951
  6. 中村 1934
    •  『パパ、かきは精進ものか、それともなまぐさかい?』とわたしは訊く。
       『それはね、生きたまゝで食べるんだよ……』と父は言ふ。『それは殻の中に入つてゐるのだ、龜のやうにな、併し……殻は半分のが二枚重なつてゐる。』
       おいしいにほひが忽ちわたしの身體を擽るのを止めて、幻影は消える……今こそわたしはすべてを了解する!
       『何ていやなんだらう。』とわたしは囁く——『何ていやなんだらう!』
      • 中村白葉(なかむら・はくよう)=訳 「牡蠣」 チェーホフ全集 1 金星堂 1934(昭和9)
  7. 廣津 1919
    • 『父ちゃん、斷食日でも牡蠣食べていゝのかい?』と私は訊いた。
      『生きたまゝ食べるんだよ……』と父は答へた。『貝殻に這入いつてゐてね……まるで龜の子のやうなのさ、唯殻が二重になつてゐるけれども』
       そそるやうな香ひは急に私の鼻の孔を擽らなくなつた、幻影は消えて了つた。今は私は了解したのである!
      『あゝ、恐い!』と私は叫んだ。『怖(おつ)かないなァ!』
      • 廣津和郎(ひろつ・かずお)=訳 「牡蠣」 チエホフ全集 2 新潮社 1919(大正8)
  8. 長塚 1912, 2000
    •  「お父つさん、牡蠣は精進日にでも食べられるの?」
       「今度、生きたまゝでお食べ」と父が返事をした 「殻の中に居るものだ……龜を見た樣にナ、只殻が兩蓋に成つて居る。」
       私の鼻を擽ぐつてゐた、そヽる樣な臭は忽ち止んで、空想は消えた。漸く分つて來た。
       「オー厭だ! オヽ氣味が惡い」
  9. 馬場 1909, 2000
    • 『父樣(とうさん)。斷食日(だんじきび)でも、牡蠣(かき)は食(く)つて宜(い)いの』斯(か)う問(き)くと、
      『生(い)きてるのを食(く)うんだ……殻(から)のなかに入(は)いつて居(ゐ)る……龜(かめ)の子(こ)のやうに、けども、殻(から)が二枚(まい)ある』
       甘(うま)さうな香氣(にほひ)が、パッタリ、鼻孔(はなのあな)を擽(くす)ぐら無(な)くなつた 幻象(まぼろし)は消(き)えた。……あゝ、解(わ)かつた。
      『あゝ、恐(こわ)い。厭(いや)だ、厭(いや)だ』

◾️フランス語訳 Translation into French

  • Roche, 1928
       – Papa, les huîtres, demandé-je, est-ce un plat maigre ou gras?
       – On les mange vivantes... dit mon père. Elles ont, comme les tortues, une carapace, une coquille... mais composée de deux parties...
       La succulente odeur cesse instantanément de me chatouiller, et l’illusion disparaît... Je comprends tout maintenant!
       – Quelle saleté, murmuré-je, quelle saleté!
    • Les Huîtres by Anton Tchekhov. Translated by Denis Roche. Paris, Librairie Plon, 1928
    • E-text at ebooksgratuits [PDF]

◾️英訳 Translation into English

  1. Garnett, 1922
    • "Papa, are oysters a Lenten dish?" I asked.
       
      "They are eaten alive . . ." said my father. "They are in shells like tortoises, but . . . in two halves."
       
      The delicious smell instantly left off affecting me, and the illusion vanished. . . . Now I understood it all!
       
      "How nasty," I whispered, "how nasty!"
      • Oysters. Translated by Constance Garnett
      • E-text at Wikisource
  2. Edward & Long, 1908
    • “Father, can you eat oysters on fast days?” I asked.
       
      “You eat them alive . . .” he answered. “They are in shells . . . like tortoises, only in double shells.”
       
      The seductive smell suddenly ceased to tickle my nostrils, and the illusion faded. Now I understood!

      “How horrible !” I exclaimed. “How hideous!”
      • Oysters. Translated by Robert Edward and Crozier Long
      • E-text at Wikisource

◾️ロシア語原文 The original text in Russian

  • Чехов
    •    — Папа, устрицы постные или скоромные? — спрашиваю я.
         — Их едят живыми...
         — говорит отец. — Они в раковинах, как черепахи, но... из двух половинок.
         Вкусный запах мгновенно перестает щекотать мое тело, и иллюзия пропадает... Теперь я всё понимаю!
         — Какая гадость, — шепчу я, — какая гадость!

◾️"Какая гадость — какая гадость!" の訳
 Translations of "Какая гадость — какая гадость!"

  • 日本語
    1. 沼野 「キモい!」 「キモいぜ!」
    2. 浦  「ああ、気味わるい」 「気色わるい」
    3. 松下 「なんていやらしいんだ!」 「なんていやらしいんだ!」
    4. 神西 「おお、いやだ!」 「おお、いやだ!」
    5. 東郷 「なんてけがらわしいもんだ」 「なんてけがらわしいもんだ!」
    6. 中村 『何ていやなんだらう。』 『何ていやなんだらう!』
    7. 廣津 『あゝ、恐い!』 『怖かないなァ!』
    8. 長塚 「オー厭だ! オヽ氣味が惡い」
    9. 馬場 『あゝ、恐い。厭だ、厭だ』
  • Français
    • – Quelle saleté, quelle saleté!
  • English
    1. Garnett: "How nasty," "how nasty!"
    2. Edward & Long: “How horrible !” I exclaimed. “How hideous!”

◾️関連音声・動画 Audio & Video

  • Audiobook in English

    Reading of the excerpt above starts at 5:56
     
  • Radio drama in English

    The scene corresponding to the excerpt above starts at 4:42
     
  • ロシア語原文オーディオブック Audiobook in Russian

    Reading of the excerpt above starts at 5:54
     
  • Антракт в Литературном музее. На основе рассказа А. Чехова «Устрицы»

     
  • Chekhov Museum in Moscow

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