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Friday, 16 March 2018

А. П. Чехов. Шуточка The Little Trick by Anton Chekhov チェーホフ 「いたずら」「悪ふざけ」「たわむれ」「たはむれ」

◾️はじめに Introduction

  • 「いたずら」はチェーホフの短編小説。はじめユーモア雑誌『こおろぎ』 1886年第10号に掲載され、その後、マルクス社版チェーホフ著作集第2巻(1900年)に再録するにあたり、1899年にチェーホフ自身が大幅な書き換えを行なった。こんにち決定稿として、ロシアで出る著作集に収録されているのも、海外での翻訳の底本とされるのも、改訂版のほうである(以上、沼野氏訳書による)。
  • わたしが下に引用するのも、改訂版のほうだ。もともと日本語訳の揺れを見るつもりで、いろいろな訳者によるテキストを読み比べてみた。ところが、痛感したのは、訳のバラツキよりも、過去100年の日本語表現の激変ぶりのほうだった。語彙じたいも様変わりしているが、漢字・かな表記の変化も大きい。1世紀まえの日本語は、いまでは非常に読みづらい。

◾️日本語訳 Translations into Japanese

  1. 小宮山 2017
    • 「ちょっと、いいかしら?」と、ぼくを見ずに言う。

      「何かな?」

      「もう一回……滑ってみない?」

       ぼくらは階段を上って、またスロープのてっぺんへ。真っ青になって震えるナージャを再度そりに乗せ、再度危険なクレバスへ飛びこむ。再度風が唸り、そりのエッジがシャーッと氷を切る。そりのスピードと騒音のボリュームが最高点に達したとき、ぼくは再度ささやく。
      「ア・イ・シ・テ・ル!」
  2. 沼野 2010
    • 「あのね」と、彼女はぼくを見ないで言う。
      「何でしょう?」と、ぼくが聞き返す。
      「もう一度、その……橇に乗ってみましょうか」
       ぼくたちは階段をよじのぼって丘の上にもどる。もう一度、ぼくは青ざめて震えるナッちゃんを橇に乗せ、もう一度、ぼくたちは恐ろしい深淵に飛び込み、もう一度、風がうなり滑り木がきしみ、もう一度、飛ぶような橇の勢いが一番強くなり、そのざわめきが一番激しくなったとき、ぼくは声をひそめて言う。
      「す・き・だ・よ、ナッちゃん!」
  3. 浦 2010
    • 「ねーえ」ぼくのほうには目もくれないでナージャは言う。
      「なんです?」とぼくは問い返す。
      「もう一度……すべってみません?」
       ぼくたちは階段をのぼって丘に上がる。またぼくは青い顔をして打ちふるえているナージャを橇に乗せ、またしてもぼくたちはおそろしい奈落に飛び出していく。またしても風がうなり、滑り木がきしむ。そしてふたたびけたたましい音を立てる橇のスピードが最高潮に達すると、ぼくは小声でささやく。
      「ナージャ、あなたのことが好きです!」
  4. 松下 2009
    • 「あのねえ」と彼女はこちらを見ないで言う。
      「なあに」とわたし。
      「もう一ぺん……滑りましょうよ」
       わたしたちは階段づたいに丘を登って行く。またもや、真っ青になって震えているナージェニカを橇に乗せて、またもや恐ろしい深淵へと飛びこんで行く。ふたたび風が吼(ほ)え、滑り木が軋(きし)って、またしても橇の勢いとざわめきとが最も激しくなったときを狙(ねら)いすまして、小声でささやく。
      「好きだよ、ナージェニカ!」
  5. 児島 2006
    •  「あのね」
       彼女はわたしを見ないで言う。
       「なんですか」
       わたしがたずねると
       「も一度……滑りましょうよ」
       わたしたちは階段を登って丘の頂(いただき)にたどり着いた。わたしは青ざめ慄(おのの)いているナージェンカをまたソリに乗せた。そして再び恐ろしい断崖(だんがい)めがけて出発する。風はうなり、ソリがぎしぎし軋(きし)む。勢いと騒音(そうおん)が頂点に達したとき、わたしは小声でささやく。
       「わたしは あなたを 愛しています ナージェンカ!」
      • 児島宏子(こじま・ひろこ)=訳 たわむれ チェーホフ・コレクション 未知谷 2006 
  6. 木村 1976
    • 「あのねえ」ぼくの顔は見ずに彼女は言う。
      「なに?」ぼくはきく。
      「もう一度……すべりましょうよ」
       ぼくたちは階段を上って丘の上へゆく。またもやぼくはあおい顔をしてふるえているナーデンカをソリに乗せ、またもやふたりはおそろしい深淵をめがけて飛ぶ。またもや風がほえたけり、すべり木がきしむ。ソリがいちばん勢いよく、いちばん大きな音を立てて滑走する瞬間をねらって、またもやぼくは小さな声で言う。
      「ナーデンカ、ぼくは、あなたが、好きだ!」
  7. 原 1960
    • 「あの……」彼女はわたしを見ずに言う。
      「何ですか?」わたしはたずねる。
      「あの、もう一度、滑りません?」
       わたしたちは階段づたいに丘にのぼる。わたしは、顔色をなくしてふるえているナージェニカを、また橇にのせる。二人はまた恐ろしい深淵の底をさして滑りおりる。またしても風が唸り、滑り木が軋む。橇の滑降がもっとも勢いよく、もっとも騒がしくなった折りをみはからって、わたしはまた小さな声で言う。
      「僕 あなたを 愛してます ナージェニカ!」
  8. 中村 1934
    •  『あのねえ?』彼女はわたしの方は見ないで言ふ。
       『何ですか?』とわたしは問ひ返す。
       『ねえ、もう一度……滑りませうよ。』
       わたし達は階段傳ひに、山へよぢ上る。再びわたしは、眞蒼になつて顫へてゐるナーデニカを橇に乘せる。わたし達は再び恐ろしい深淵へ滑り下りる。再び風が唸り、滑走臺が軋む、そしてまたしても、橇の疾走の最も激しく騒然たる只中に、わたしは小聲で次ぎのやうに言ふ——
       『僕、あなたを愛します、ナーデニカ!』
      • 中村白葉(なかむら・はくよう)=訳 「たはむれ」 チェーホフ全集 3 金星堂 1934(昭和9)
  9. 瀬沼 1908, 2000
    • 『あのね、貴方(あなた)!』彼女は余が顏を見ないで云ふてゐる。
      『何です』と余は問ふた。
      『もう一度爲(し)ませうか……辷(すべ)りませんか』
      余等は階段(かいだん)を踏(ふ)んで氷山(こほりやま)の上に上る。
      余は再びくなつて、顫へてゐるナアデンカを橇に乘せ、舊(もと)の如く先の恐ろしい奈落(ならく)の底に辷り下りる。又も風は嘯ぶき、橇は呻吟(うな)り、何とも譬へやうのない恐(おそ)しさの加はり行く眞中、余は小聲で又言ふた。
      『ナアデンカ私は貴方(あなた)を愛します』
      • 瀬沼夏葉(せぬま・かよう)=訳 「たはむれ」
        1. 明治翻訳文学全集 新聞雑誌編 43 チェーホフ集 2 大空社 ナダ出版センター 2000
        2. 心の花 1908-01(明治41)
      • 1は2のスキャン画像を収録したもの。わたし (tomoki y.) が閲読したのは、1のほうです。

◾️ロシア語原文 The original text in Russian

  • Чехов
    •    — Знаете что? — говорит она, не глядя на меня.
         — Что? — спрашиваю я.
         — Давайте еще раз... прокатим.
         Мы взбираемся по лестнице на гору. Опять я сажаю бледную, дрожащую Наденьку в санки, опять мы летим в страшную пропасть, опять ревет ветер и жужжат полозья, и опять при самом сильном и шумном разлете санок я говорю вполголоса.
         — Я люблю вас, Наденька!
      • Антон Павлович Чехов - Шуточка
      • E-text at:

◾️関連音声・映像

  • ロシア語原文オーディオブック Audiobook in Russian

    上に引用した箇所の朗読は 3:29 から。Reading of the excerpt above starts at 3:29
  • ソ連のテレビ映画 Шуточка (Shutochka) 1966

    上に引用した箇所に相当するシーンは 5:08 から。The scene corresponding to the excerpt above starts at 5:08

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