cannibalism / 人食い / 食人 / カニバリズム

Sunday, 08 February 2015

The Picture in the House by H. P. Lovecraft H・P・ラヴクラフト 「血を呼ぶ絵」「一枚の絵」「家のなかの絵」

        目次 Table of Contents

■はじめに Introduction
 Video 1  The Picture in the House (2013)
 Video 2  Picture in the House (2012)
 Video 3  The Picture in the House (2009)
 Video 4  H・P・ラヴクラフトの ダニッチ・ホラー (2007)
        H. P. Lovecraft's Dunwich Horror (2007)
 Video 5  The Picture in the House (2003)
 Audio 1  日本語版オーディオブック Audiobook in Japanese
■日本語訳 Translations into Japanese
  (J1) 岡上 1987
  (J2) 高木 1984
  (J3) 大瀧 1984, 1990
■ロシア語訳 Translation into Russian
 Audio 2  英語朗読: サンドラ・ゼラ Audiobook read by Sandra Zera
 Audio 3  英語朗読: グレン・ホールストロム Audiobook read by Glen Hallstrom
■英語原文 The original text in English
 Image 1  A Report of the Kingdom of Congo
 Image 2  Regnum Congo
 Image 3  ミディアン人に対する戦い Battle Against the Midianites
 Image 4  モーゼとミデアンびとの物語 The Story of Moses and the Midianites
■外部リンク External links
■更新履歴 Change log


■はじめに Introduction

「家のなかの絵」はH・P・ラヴクラフトが書いた短編ホラー小説。はじめ雑誌『ナショナル・アマチュア』1919年7月号に掲載され、のちに雑誌『ウィアード・テールズ』1924年1月号に再録された。


 Video 1 
ピクチャー・イン・ザ・ハウス (原題) The Picture in the House (2013)

Director: R. Clay Ayers. Uploaded to YouTube by Clay Ayers on 11 Oct 2013.


 Video 2 
ピクチャー・イン・ザ・ハウス (原題) Picture in the House (2012)

Director: Sean Quillen. Uploaded to YouTube by Sean Quillen on 31 May 2012.


 Video 3 
ピクチャー・イン・ザ・ハウス (原題) The Picture in the House (2009)

監督: クリストファー・ジェイムズ・ジョーダン、ゲーリー・ロブスタイン Directors: Christopher James Jordan, Gary Lobstein. Uploaded to YouTube by Gary Lobstein on 22 Jan 2010.


 Video 4 
H・P・ラヴクラフトの ダニッチ・ホラー その他の物語 (2007) 予告編
H.P. Lovecraft's Dunwich Horror and Other Stories (2007) Trailer

監督・脚本・絵コンテ: 品川亮 プレスリリース/東映アニメーション株式会社 Directed by Ryo Shinagawa. Uploaded to YouTube by arkhamdrivein on 4 Mar 2011.


 Video 5 
ピクチャー・イン・ザ・ハウス (原題) The Picture in the House (2003)

Director: Gant Haverstick. Uploaded to YouTube by Gary Lobstein on 8 Apr 2012.


 Audio 1 
日本語版オーディオブックのサンプル Audiobook sample in Japanese

訳文は大久保ゆう訳「この家いちばんの絵」に拠る。全文をお聞きになりたい方は でじじ でMP3版を購入可能です。 Uploaded to YouTube by panrolling on 16 Aug 2010


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 岡上 1987
「こんな絵を見たことがありますかな。罪ぶかい絵だと思いますがねえ。けど、わしらはみな、罪のうちに生きとる、そうじゃありませんか。この切りきざまれている男を見るたびに、わしはむずむずします。それでいつもじいっとながめていますのじゃ。肉屋の主人が足を切っとるところがわかりますかな。頭が台の上にあって、片一方の腕が、ほら、こっち側にありますじゃろ。」

  • 「血を呼ぶ絵」 岡上鈴江(おかのうえ・すずえ)=訳 『血を呼ぶ絵』 世界こわい話ふしぎな話傑作集 16 金の星社 1987-01
  • この本は児童書です。訳は完訳ではなく再話です。ルビは省略しました。

(J2) 高木 1984
「あんた、この絵をどう思うね? こんたら店はこの近所にゃないからなあ——。[略] 聖書ん中で人を殺す場面を読んだことがあったけど、そら、ミディアン人が殺されるところなんだが、その時わしはムラムラって気はしたけど実際どんなふうだか頭ん中で逐一思い描くことはできんかったよ。けどこの絵さ見りゃ、何でもかでも分かっちまうって寸法さね。まあそれが罪深いことだろうって気はするけど、そんなこと云やあ人間なんてみんな罪の中に生まれ罪の中に生きてくんじゃないかね? ——ほら、このバラバラにされた男を見るたんび、わしゃ身内がウズウズして来るんだ——わしゃ、このバラバラを眺めんのが一等好きなんじゃ——ほれ、肉屋がこいつの足をどこから切り落としたか分かるじゃろう? ベンチの上にあるのがその頭で、一方の腕はその横にころがっとる。もう一方の腕はその反対側にあるじゃろうが」


(J3) 大瀧 1984, 1990
「どう思いなさる。こげなもんをご覧になったことはありませんじゃろう。[略] 聖書で人が殺されるようなとこ、ミデアン人が殺されるようなとこを読むとき、こげなものを考えとりましたが、はっきり思いうかべることはできませなんだ。ところが、ほれ、ここにははっきり描(か)かれとる。罪深い絵じゃとは思いますがのう。けど、わしらは皆、罪をもって生まれ、罪のうちに生きとるそうじゃありませんか。この切り刻まれとる男を見るたびに、わしはむずむずしますのじゃよ。それでいつもじいっとながめておりますのじゃ。肉屋の主人が足を切っとるところがわかりますかな。頭がほれ、その台の上にあって、片一方の腕がこっちがわ、もう一方の腕が肉の塊のむこうがわにありますじゃろ」

  • 「家のなかの絵」 ラヴクラフト=著 大瀧啓裕(おおたき・けいすけ)=訳
  • 引用は b. 創元推理文庫版に拠りました。

■ロシア語訳 Translation into Russian

- Ну, что вы думаете по этому поводу? Наверное, никогда ни о чем подобном и не слышали, а?  [Omission]  Когда я в Библии читал про убийства людей - там много об этом написано, так ведь? - ну так вот, я тоже об этом думал, вот только картинок там не было. А здесь все видно как на ладони - грех, конечно, все это, но разве все мы не родились в грехе, и не живем в нем?.. Этот парень, которого на куски разрубили - я как гляну на него, всякий раз вздрагиваю. Но мне надо постоянно смотреть на это - видеть, как мясник отрубает ему ногу. Вот на лавке его голова, рядом с ней - одна рука, а другая уже на стене висит.

  • Говард Филлипс Лавкрафт. Картина в доме. На русском языке впервые опубликовано в книге "В склепе" в 1993 году.
  • E-text at Лавкрафт : По ту сторону сна

 Audio 2 
英語原文のオーディオブック 朗読: サンドラ・ゼラ
Audiobook in English read by Sandra Zera

下の引用箇所の朗読は 18:38 から始まります。 Uploaded to YouTube by Free Audio Books and Recordings on 4 Nov 2013. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 18:38.


 Audio 3 
英語原文のオーディオブック 朗読: グレン・ホールストロム
Audiobook in English read by Glen Hallstrom

下の引用箇所の朗読は 16:10 から始まります。 Uploaded to YouTube by FULL audio books for everyone on 5 Oct 2012. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 16:10.


■英語原文 The original text in English

"What d'ye think o' this - ain't never see the like hereabouts, eh? [Omission] When I read in Scripter about slayin' - like them Midianites was slew - I kinder think things, but I ain't got no picter of it. Here a body kin see all they is to it - I s'pose 'tis sinful, but ain't we all born an' livin' in sin? - Thet feller bein' chopped up gives me a tickle every time I look at 'im - I hey ta keep lookin' at 'im - see whar the butcher cut off his feet? Thar's his head on thet bench, with one arm side of it, an' t'other arm's on the other side o' the meat block."


 Image 1 
A Report of the Kingdom of Congo, Plate 12
Debry
Image source: Miskatonic Museum A Report of the Kingdom of Congo, and the Surrounding Countries, Drawn Out of the Writings and Discourses of the Portuguese, Duarte Lopez, as was introduced in Evidence as to Man's Place in Nature by Thomas Henry Huxley. D. Appleton, 1884


 Image 2 
Regnum Congo, Plate 12
Regnum_congo_12
Image source: Nakład niewyczerpany


 Image 3 
ギデオンのミディアン人に対する戦い 旧約聖書 士師記
Battle of Gideon Against the Midianites. Book of Judges
Gideon
ニコラ・プッサン画。主はギデオンに言われた、「わたしは水をなめた三百人の者をもって、あなたがたを救い、ミデアンびとをあなたの手にわたそう。残りの民はおのおのその家に帰らせなさい」。(7:7) Painted by Nicolas Poussin. Image source: Jesse's Blog: The Bible: a Book Report More info on this picture at WikiArt.org


 Image 4 
モーゼとミデアンびとの物語 旧約聖書 民数記 第31章
The Story of Moses and the Midianites. Numbers Chapter 31
Griffiths_mid_xl
バーバラ・グリフィス画。彼らは主がモーセに命じられたようにミデアンびとと戦って、その男子をみな殺した。(31:7) モーセは彼らに言った、「あなたがたは女たちをみな生かしておいたのか。(31:15) それで今、この子供たちのうちの男の子をみな殺し、また男と寝て、男を知った女をみな殺しなさい。(31:17) The Story of Moses and the Midianites by Barbara Griffiths. Image source: barbaragriffiths.com


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2015-02-21 日本語版オーディオブックのサンプルと、次の4本の短編映画を追加しました。
    1. The Picture in the House (2013)
    2. Picture in the House (2012)
    3. The Picture in the House (2009)
    4. The Picture in the House (2003)

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■DVD

■洋書 Books in non-Japanese languages

■和書 Books in Japanese
  
  

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Wednesday, 28 April 2010

The Voyage of the Beagle by Charles Darwin ダーウィン 『ビーグル号航海記』

        目次 Table of Contents

■はじめに Introduction
 Images   表紙画像 Cover photos
■言語と書誌情報 Linguistic and bibliographic information
 Video 1  映画 『クリエーション』 (2009) Creation (2009), a film directed by Jon Amiel
 Video 2  The Young Charles Darwin DVD clip
■日本語訳 Translations into Japanese
  (1) 荒俣 2013
  (2) 荒俣 1995
  (3) 柴 1990
  (4) 三谷 1979
  (5) 才野 1962, 1974
  (6) 島地 1960, 1975
  (7) 荒川 1958, 1975, etc.
  (8) 内山 1938, 1941, etc.
  (9) 小岩井 1912
  Image   『ダーヰン氏世界一週 學術探檢實記』 (1912) の扉
  Title page of Daawin-shi Sekai Isshuu Gakujutsu Tanken Jikki (1912)
■ロシア語訳 Translation into Russian
■イタリア語訳 Translation into Italian
■スペイン語訳 Translation into Spanish
■フランス語訳 Translation into French
  Audio  
英語原書のオーディオブック(朗読) Audiobook - Chapter 10
■英語原文 The original text in English
■カワウソかラッコか? What? Otters?
■外部リンク External links
■更新履歴 Change log


■はじめに Introduction

南米大陸最南端の、さらに南に浮かぶ群島ティエラ・デル・フエゴ。西側はチリ、東側はアルゼンチンに属する。人類が定住している最南端の土地だ。——え? 南極の基地にも人は住んでるって? うむ、たしかに。でも、あそこは「越冬」する場所ではあっても、「定住」する場所ではないでしょ。たぶん。

1831年12月、イギリス海軍の帆船ビーグルは、南アメリカ沿岸を測量するため2回目の航海に出発した。この船に、船長の話し相手を務めるジェントルマン兼無報酬のナチュラリスト(博物学者)として乗り込んだのがチャールズ・ダーウィン。ケンブリッジを卒業したばかりで22歳だった。

ゆくゆくは牧師になるはずだったダーウィン。だが、彼の真の関心は地質や動植物などにあった。のちに出版される『ビーグル号航海記』は、航海そのものの記録ではなく、上陸先各地の地質や動植物・昆虫などを調査・採集した記録、ならびに現地の人々を観察した記録だった。

ダーウィンはめぐまれていた。裕福な親、理解ある伯父(冒険に反対する父を説き伏せてくれた)、そして一生に一度の大航海のチャンスをもたらしてくれた恩師(乗船の口について紹介と推薦をしてくれた)。

さて、イギリスを出発して丸一年。南米の最果ての地に上陸したダーウィンは何を見たか? どう書き残したか?


 Images  表紙画像 Cover photos

↓ クリックして拡大 Click to enlarge ↓

J1 Ja_annies_box J2 Ja_what_mr_darwin_saw J3 Ja_darwin_sensei_3

E1 En_annies_box E2 En_what_mr_darwin_saw E3 En_the_voyage_of_the_beagle


■言語と書誌情報 Linguistic and bibliographic information

J1 日本語
タイトル: ダーウィンと家族の絆—長女アニーとその早すぎる死が進化論を生んだ
著者: ランドル・ケインズ=著 渡辺政隆+松下展子=訳
単行本
出版社: 白日社
出版年: 2003-12
ISBN-10 : 4891731109
ISBN-13 : 9784891731106
版元による この本の紹介
上に紹介した映画 『クリエーション』 (2009) の原作である下記 E1 を邦訳したもの。


J2 日本語
タイトル: ビーグル号世界周航記——ダーウィンは何をみたか (講談社学術文庫)
著者: チャールズ・ダーウィン=著 荒川秀俊=訳
文庫
出版社: 講談社
出版年: 2010-02-10
ISBN-10 : 4062919818
ISBN-13 : 9784062919814
版元による この本の紹介


J3 日本語
タイトル: ダーウィン先生地球航海記〈3〉地球最悪の岬をぬけるの巻(全5巻)
著者: チャールズ・ダーウィン=著 荒俣宏=訳 内田春菊=イラスト
単行本
出版社: 平凡社
出版年: 1995-11-20
ISBN-10 : 458254133X
ISBN-13 : 9784582541335
版元による この本の紹介

この5巻本セットの刊行に先立って、雑誌 『太陽』(平凡社) 1992年1月号〜93年12月号に、荒俣氏による同航海記の翻訳が連載された由(新妻昭夫『種の起原をもとめて—ウォーレスの「マレー諸島」探検』 朝日新聞社 1997-05-05 第1章 注5 に拠る)。


E1 英語
タイトル: Annie's Box: Charles Darwin, His Daughter and Human Evolution
著者: Randal Keynes 
ペーパーバック
出版社: Fourth Estate
出版年: 2002-06-05
ISBN-10 : 1841150614
ISBN-13 : 9781841150611
上に紹介した映画 『クリエーション』 (2009) の原作。上記 J1 の原書。


E2 英語
タイトル: What Mr Darwin Saw
著者: Mick Manning Brita Granstrom 
ペーパーバック
出版社: Frances Lincoln Childrens Books
出版年: 2010-04-01
ISBN-10 : 1847801072
ISBN-13 : 9781847801074
版元による この本の紹介


E3 英語
タイトル: The Voyage of the Beagle: Charles Darwin's Journal of Researches (Penguin Classics)
著者: Charles Darwin 
ペーパーバック
出版社: Penguin Classics
出版年: 1989-11-07
ISBN-10 : 014043268X
ISBN-13 : 9780140432688
版元による この本の紹介


 Video 1 
映画 『クリエーション』 (2009) 監督: ジョン・アミエル 主演: ポール・ベタニー
Creation (2009), a UK film. Directed by Jon Amiel, Starring Paul Bettany.

公式予告篇を観るには ここ をクリック。To watch the official trailer click here.
Paul_bettany_creation_3
東京国際映画祭 | クリエイション  ダーウィンの幻想 (2009年10月17日〜25日)
クリエーション (2009年の映画) - Wikipedia
日本の一般劇場での公開予定は未確認。
Creation (2009 film) - Wikipedia
Creation (2009) - IMDb
Creation Official Site


 Video 2 
The Young Charles Darwin DVD clip

The Young Charles Darwin, a DVD from Cam 3 Media, Film Production Services and Studios in Shrewsbury, Shropshire, North West England.


■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 荒俣 2013
戦争になると人肉を食ったりする種族もいる。ロウ氏に雇われた少年とジェミー・ボタンから、それぞれ別ものだが内容の一致する証拠を提供されたうえで考えると、次の事実は間違いなくほんとうである。すなわち冬季に飢えた人びとは、犬を殺すよりも先に老女を殺して食べるのだ。なぜそういうことがおこなわれるのかとロウ氏が少年に質(ただ)したところ、答えはこうだった——「犬はカワウソを捕まえる。おばばは捕まえない」と。この少年は老女がとり押さえられ煙にかざされ、窒息死するまでのプロセスを説明した。かれはたわむれに、悲鳴の真似をしてみせ、人肉のどこがいちばんうまいかも教えてくれた。


(2) 荒俣 1995
戦争になると人肉を食ったりする部族もいる。ロウ氏にやとわれた少年とジェミー・ボタンと、それぞれべつの子だがよく一致する証拠からかんがえても、つぎの事実はまちがいなくほんとうである。すなわち冬季に飢えた人びとは、犬をころすよりもさきに老いた女性をころしてたべるのだ。なぜそういうことがおこなわれるのか、とロウ氏が少年にただしたところ、答えはこうだった——「犬はカワウソをつかまえる。おばばはつかまえない」。この少年は、老いた女性がとりおさえられてけむりでくゆられ、窒息死するまでのプロセスを説明した。かれはたわむれに、女のひとがあげた悲鳴のまねをしてみせ、人肉のどこがいちばんうまいかもおしえてくれた。

  • 第10章 フエゴ島に上陸する——フォークランド諸島からフエゴ島へ
    チャールズ・ダーウィン=著 荒俣宏(あらまた・ひろし)=訳 内田春菊=イラストレーション 『ダーウィン先生地球航海記 第3巻 地球最悪の岬をぬけるの巻』 全5巻 平凡社 1995-11-20
  • 原文にあるルビはすべて省略しました。
  • 原書: 1913年にロンドンで発行された『ビーグル号航海記』。ごく一部を省略しただけの、ほぼ全訳。(「凡例」による)

(3) 柴 1990
「ここの人たち、おそろしいです、ジョージさん」とジェミーが言った。
「注意しなさい。あなた、食べますよ」
 ぼくはジェミーの言うことが信じられなかった。
「ほんと、ジョージさん。時どき、食べ物がなくなる。彼らは犬を食べる。でも、まず最初に食べるのは、おばあさん」
「きみは、彼らが人食い人種だというのかい、ジェミー?」ぼくはおどろいてたずねた。
「そうです、ジョージさん。食べ物がなくなると、おばあさんは森ににげます。男たちが後を追いかけ、殺します。食べます。おばあさんがいなくなったら、犬を食べます」
 それにしても、いったいなぜ、犬より先におばあさんを食べたりなんかするのか、ぼくには理解できなかった。
「犬はよいのです。動物をつかまえる。かわうそを殺す。その毛皮は着物の材料になります」とジェミーは説明した。 「時どき、部族同士が戦います。そしておたがい食べあうのです、ほんとに」

  • ジェミー・ボタン 火の国に帰る
    ピーター・ワード=作 柴鉄也(しば・てつや)=訳 伊東寛(いとう・ひろし)=絵 『ダーウィンのぼうけん』 (The excellent series of foreign literature books) ほるぷ出版 1990-04-20
  • 児童書。原文にあるルビはすべて省略しました。底本はダーウィンの原著ではなくて、次の再話本です。
  • 原書:

(4) 三谷 1979
 冬など、いよいよたべるものがなくなると、土人たちは犬をころすまえに、老婆(ろうば)をころしてたべるという。ある土人は、なぜそんなことをするのかとたずねられて、
「犬はカワウソをつかまえる。ばあさんはつかまえない」
と、こたえた。この土人は、老婆(ろうば)がけむりでいぶしころされるありさまを説明(せつめい)し、じょうだんのつもりか、そのときのひめいのまねをし、どこがいちばんうまいかといったようなことを、つけくわえた。

  • フェゴ島のフェゴ人
    ダーウィン=著 三谷貞一郎(みたに・ていいちろう)=訳・編 『世界偉人自伝全集14 ダーウィン』 偉人みずからが語る感動の生涯 小峰書店 1979-02-05

(5) 才野 1962, 1974
彼らは異民族と戦うときには人肉を食べる食人種になる。また冬になって食物が欠乏すると、彼らはイヌを殺す前に、老婆を殺して食べるといわれているが、これは事実である。この驚くべき事実は、アザラシ業者であるローが土人の少年から聞いた話と、ジェミー・バトンが語った話とが、べつべつの話であるのに内容が一致しているのでまさしく真実である。その少年は、ローになぜそんな残酷なことをするのかと尋ねられて、「イヌはカワウソを捕えるが婆さんにはできない」と答えたという。またその少年は老婆が押えつけられ、煙で窒息して殺されるようすを話し、冗談(じょうだん)半分に老婆の悲鳴をまねてから、いちばんおいしいからだの部分を説明した。

  • 第一○章 ティエルラ・デル・フェゴ
    C・R・ダーウィン=著 才野重雄(さいの・しげお)=訳 「ビーグル号航海記」
  • a. b. とも抄訳。引用は b. に拠りました。

(6) 島地 1960, 1975
異部族が戦う時は食人種となる。冬期に饑えて窮迫すると、彼らはいぬを屠殺する前に、老婆を殺して食うことは確実である。このことはロー氏が少年から聞いたものと、ジェミー バトンが話したことと、いずれも別々の証拠によるものだったが、全く一致していた。その少年は、ロー氏になぜそんなことをすると尋ねられた時に、「いぬかわうそをつかまえる。婆さんにはつかまらない」と答えたという。この少年は、女が煙の立つ上に押さえつけられて、窒息して殺される状況を叙述し、冗談にその悲鳴を模倣し、また最も美味とされている体の部分を説明した。

  • 第一○章 ティエルラ デル フェゴ
    チャールズ・ダーウィン=著 島地威雄(しまじ・たけお)=訳
  • 原文の傍点は下線に置き換えました。引用は a. に拠りました。
  • 原書: Darwin's Naturalist's Voyage in the Beagle, 1st edition, 1906. Everyman's Library, J. M. Dent & Sons Ltd., London. (Journal of Researches into the Geology and Natural History of the Various Countries visited during the Voyage of H.M.S. Beagle round the World by Charles Darwin)

(7) 荒川 1958, 1975, etc.
戦争のときは異種族の人間は食べてしまう。冬のあいだ、飢えにせまられると、彼らが犬を殺す前に老婆を殺してその肉を食べることは、どうやらほんとうのようである。ロー氏が彼らに、なんでこんなことをしたかと問いただしたら、ある少年は「犬っころはラッコを捕まえるが、老婆はなにもしない」と答えたそうである。


(8) 内山 1938, 1941, etc.
異う部族が戦争を始めると食人をやる。ロー氏のつれていた少年とジェミー・バトンの一致した、だがまったく別々の証言によると、冬、饑饉に迫られると、彼らが犬を殺す前に老婆を殺してその肉を喰うのは確かに真実なのだ。少年はなぜそういうことをするのか訊かれると「犬は獺をつかまえるけど、お婆さんはつかまえないもの」と答えた。この少年は、老婆たちが煙の上にわたされて抑えつけられており、こうして窒息させられて殺される有様を語った。彼は冗談にその悲鳴の真似をし、食べていちばんうまいと教えられている彼らの体の部分を述べた。


(9) 小岩井 1912
蠻人が冬季饑饉に遭遇した場合には、往々犬を殺して食ふことがある。このやうな場合には、犬を食ふ前に先づ老婦を殺して食ふのが常である。其理由とする所は、犬は水獺(かはをそ)を捕へる働があるけれども、老婦は何の働もなし得ないといふのである。而して老婦を殺す場合には、畑の中に燻(くす)べて窒息せしめるのであるが、殺される事を聞き知つた老婦は、直ぐ山間に隱れるが、忽ち捕(とらは)れて、爐邊に伴れて來られるのだ。聞くも酸鼻の極みである。

  • 第十章 テラ、デル、フェゴ島
    チャールス、ダーヰン氏原著 小岩井兼輝(こいわい・かねてる)=譯述 『ダーヰン氏世界一週 學術探檢實記』 同文館 定價金八十錢 1912-03-15(明治45)
  • この本の全ページの複写画像: 国立国会図書館 近代デジタルライブラリー
  • 食と婦の旧字は、それぞれ新字で置き換えました。なお、下の画像でおわかりのとおり、この本のには、なぜか「米國 チャールス、ダーヰン氏原著」とあります。ダーウィンがアメリカ人だと誤認する理由がなにかあったのでしょうか。不思議です。

  Image  
『ダーヰン氏世界一週 學術探檢實記』 同文館 1912 (明治45)の扉
Title page of Daawin-shi Sekai Isshuu Gakujutsu Tanken Jikki (1912)

1912_koiwai_darwin_beagle_3
Image source: 国立国会図書館 近代デジタルライブラリー

■ロシア語訳 Translation into Russian

Различные племена, воюя между собой, становятся людоедами. На основании совпада­ющих, но совершенно независимых показаний мальчика, нанятого м-ром Лоу, и Джемми Баттона можно считать совершенно несомнен­ным, что зимой, побуждаемые голодом, огнеземельцы убивают и поедают своих старых женщин раньше, чем собак; когда м-р Лоу спросил мальчика, почему они так поступают, тот отвечал: «Собачки ловят выдр, а старухи нет». Мальчик описывал, как умерщвляют старух, держа их над дымом до тех пор, пока они не задохнутся; он в шутку передразнивал их вопли и показывал, какие части их тела считаются особенно вкусными.


■イタリア語訳 Translation into Italian

Le differenti tribù quando fanno guerra sono cannibali. Secondo concorrente testimonianza del fanciullo preso dal signor Low e di Jemmy Bulton, è certamente vero che quando in inverno sono stretti dalla fame, uccidono e divorano le loro vecchie donne prima di uccidere i loro cani; il fanciullo al quale il signor Low domandò perchè facessero, questo rispose: « i cani prendono le lontre; le vecchie noi » Questo fanciullo descriveva il modo in cui sono uccise, essendo tenute sopra il fumo ed in tal modo soffocate; egli imitava per scherzo le loro grida, e descriveva le parti del loro corpo che son considerate migliori da mangiare.


■スペイン語訳 Translation into Spanish

Las diferentes tribus cuando guerrean entre sí, son caníbales. De dos testimonios concordes del todo, pero enteramente independientes, el de un muchacho que lo refirió a Mr. Low, y el de Jemmy Button, resulta probado con toda certeza que cuando en invierno apreta el hambre matan y devoran a las ancianas de la tribu, antes que a sus perros. Cuando el Sr. Low le preguntó al muchacho la razón de esto, respondió: "Los perros cogen nutrias, y las viejas no". El chicuelo describió el modo que tienen de matarlas, reteniéndolas sujetas sobre el humo, hasta que se asfixian; imitaba como por juego los gritos de las víctimas, e indicaba las partes de sus cuerpos que se consideraban más apetitosas.


■フランス語訳 Translation into French

Quand les différentes tribus se font la guerre, elles deviennent cannibales. S’il faut en croire le témoignage indépendant d'un jeune garçon interrogé par M. Low et celui de Jemmy Button, il est certainement vrai que, lorsqu'ils sont vivement pressés par la faim en hiver, ils mangent les vieilles femmes avant de manger leurs chiens ; quand M. Low demanda au jeune garçon pourquoi cette préférence, il répondit : « Les chiens attrapent les loutres, et les vieilles femmes ne les attrapent pas. » Ce jeune garçon raconta ensuite comment on s'y prend pour les tuer : on les tient au-dessus de la fumée jusqu'à ce qu'elles soient étouffées, et, toul en décrivant ce supplice, il imitait en riant les cris des victimes et indiquait les parties du corps que l'on considère comme les meilleures.


  Audio  
英語原書全巻のオーディオブック(朗読)
The Voyage of the Beagle - Full Audiobook. Chapter 10 read by Rob Whelan

下に引用する箇所の朗読は 9:27:55から。 Uploaded to YouTube by GreenAudioBooks on 21 Jan 2013. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 9:27:55.


■英語原文 The original text in English

The different tribes when at war are cannibals. From the concurrent, but quite independent evidence of the boy taken by Mr. Low, and of Jemmy Button, it is certainly true, that when pressed in winter by hunger they kill and devour their old women before they kill their dogs: the boy, being asked by Mr. Low why they did this, answered, "Doggies catch otters, old women no." This boy described the manner in which they are killed by being held over smoke and thus choked; he imitated their screams as a joke, and described the parts of their bodies which are considered best to eat.


■カワウソかラッコか? What? Otters?

   "Doggies catch otters, old women no."
   「犬っころはラッコを捕まえるが、老婆はなにもしない」……荒川 1958, etc.
   「犬はカワウソをつかまえる。おばばはつかまえない」………荒俣 1995
   「犬はカワウソを捕まえる。おばばは捕まえない」……………荒俣 2013
   「いぬはかわうそをつかまえる。婆さんにはつかまらない」 …島地 1960, etc.
   「犬はカワウソをつかまえる。ばあさんはつかまえない」 ……三谷 1979
   「犬は獺をつかまえるけど、お婆さんはつかまえないもの」内山 1938, etc.
   「イヌはカワウソを捕えるが婆さんにはできない」…………才野 1962, etc.
   「犬は水獺を捕へる働があるけれども、老婦は何の働もなし得ない」
                                      ……小岩井 1912
   「犬はよいのです。動物をつかまえる。かわうそを殺す」 ……柴 1990

英語原文の "otters" の正しい和訳は、カワウソ/かわうそ/獺か? それともラッコか? ウィキペディアには、こうある。

   カワウソはネコ目(食肉目)イタチ科カワウソ亜科に属する哺乳動物の
   総称。カワウソ亜科にはニホンカワウソやラッコなどが属している。

   ラッコは、食肉目(ネコ目)- イヌ亜目- クマ下目 (en)- イタチ科-
   カワウソ亜科- ラッコ属に分類される、中型の海棲哺乳類(1種)。
   本種のみでラッコ属を形成する。

つまり、ラッコは広義のカワウソに含まれる。カワウソの方がラッコよりも上位のカテゴリーであるらしい。ラッコは英語ではふつう sea otter と sea を付けて呼ぶようだ。


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2013-10-02 荒俣宏=訳 2013-06-25 とオーディオブックの YouTube 画面を追加しました。
  • 2013-07-05 目次を新設しました。
  • 2010-08-07 イタリア語訳、スペイン語訳、フランス語訳、およびロシア語訳を追加しました。
  • 2010-07-25 「はじめに」の字句を一部修正しました。
  • 2010-07-13 三谷貞一郎=訳・編 1979-02-05 を追加しました。
  • 2010-05-09 小岩井兼輝=譯述 1912-03-15(明治45)、および『ダーヰン氏世界一週 學術探檢實記』 の扉画像を追加しました。
  • 2010-05-08 柴鉄也=訳 1990-04-20 を追加しました。
  • 2010-04-29 「カワウソかラッコか?」の項を新設しました。

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Tuesday, 29 May 2007

Jikininki by Lafcadio Hearn ラフカディオ・ハーン / 小泉八雲 「食人鬼」

        目次 Table of Contents

 Images  表紙画像と挿絵 Cover photos and an illusration
■日本語訳の例 A list of some translations into Japanese
■上掲日本語訳からの抜粋 Excerpts from the translations listed above
  (1) やぶちゃん 2005
  (2) 池田 2004
  (3) 下川 2003
  (4) 脇 2003
  (5) 船木 1994
  (6) 保永 1992
  (7) 平川 1977, 1990
  (8) 斎藤 1976
  (9) 上田 1975
  (10) 繁尾 1972
  (11) 平井 1964, 1965
  (12) 田代 1956
  (13) 平井 1940
  (14) 山本 1932
  (15) 大谷 1926, 1931, etc.
  (16) 刈谷+萩原 1927, 森+萩原 1990
  Audio   英語原文のオーディオブック Audiobook in English
■英語原文 The original text in English
■英文原書に関する詳細な書誌 Detailed bibliography on Kwaidan
■有益なサイト Useful websites
■更新履歴 Change log


 Images 
表紙画像と挿絵 Cover photos and an illusration
a. 3614 b. Kwaidan_iwanami c. Atamakajiri

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■日本語訳の例 A list of some translations into Japanese

1.  やぶちゃん=訳「食人鬼」 やぶちゃんの電子テクスト集 心朽窩旧館 2005
2.  池田 雅之=訳「食人鬼」『妖怪・妖精譚』     ちくま文庫 2004/08
3.  下川 理英=訳「食人鬼」『小泉八雲 日本の心』    彩図社 2003/08
4.  脇 明子 =訳「食人鬼」『雪女 夏の日の夢』  岩波少年文庫 2003/03
5.  船木 裕 =訳「食人鬼」『完訳 怪談』      ちくま文庫 1994/06
6. 保永貞夫訳「人を食う鬼」『耳なし芳一・雪女』講談社青い鳥文庫 1992/06
7a. 平川 祐弘=訳「食人鬼」『怪談・奇談』    講談社学術文庫 1990/06
7b. 平川 祐弘=訳「食人鬼」『小泉八雲作品集3』  河出書房新社 1977/08
8.  斎藤 正二=訳「食人鬼」『完訳 怪談』      講談社文庫 1976/10
9.  上田 和夫=訳「食人鬼」『小泉八雲集』   新潮文庫(新版) 1975/03
10. 繁尾 久 =訳「食人鬼」『怪談 他四編』     旺文社文庫 1972/06
11a.平井 呈一=訳「食人鬼」『怪談』      岩波文庫(改版) 1965/09
11b.平井 呈一=訳「食人鬼」『全訳 小泉八雲作品集10』  恒文社 1964/06
12. 田代美千稔=訳「食人鬼」『怪談・奇談』       角川文庫 1956/11
13. 平井 呈一=訳「食人鬼」『怪談』      岩波文庫(旧版) 1940/10
14. 山本 供平=譯「食人鬼」『Kwaidan (2)』       春陽堂 1932/03
15a.大谷 正信=譯「食人鬼」『小泉八雲集(上)』新潮文庫(旧版) 1950/07
15b.大谷 正信=譯「食人鬼」『小泉八雲全集第八卷家庭版』第一書房 1937/01
16a.森 銑三 +萩原恭平=訳「食人鬼」『十六桜』     研文社 1990/09
16b.刈谷新三郎+萩原恭平=訳「食人鬼」『小泉八雲選集2』 嶺光社 1927/01


■上掲日本語訳からの抜粋 Excerpts from the translations listed above

(1) やぶちゃん 2005
——と、夜の静寂(しじま)が最も深くなりました頃おひ、ぼんやりとした、大きな影が、音もなく、部屋の中に入つて參ります、と同時に、夢窓樣は、體から力が拔けて、聲も出せなくなつてしまはれた御自身を、感ぜられたのでございます。夢窓様の目に映つたのは、その影が、ご遺體を兩手で抱へ上げ、瞬く間に、猫が鼠を食らふよりも素早く、貪り喰らふ姿でした。頭より初めて、髮の毛、骨、遂には帷子(かたびら)までも、何もかも、すべて、殘る隈なく。さうして、そのおぞましき影は、盡く亡骸を喰らひ盡くすと、次はお供物に向き直り、それもすつかり喰らつてしまひました。さうして、やがて、入つて來た折と同じやうに、音もなく、すうつと立ち去つて行つたのでした——。

   小泉八雲=著 やぶちゃん(Yabtyan)=訳 「食人鬼(じきにんき)
   心朽窩旧館 やぶちゃんの電子テクスト集:小説・評論・随筆篇 2005


(2) 池田 2004
 やがて、夜の静けさが深まった時でした。なにか得体の知れない、掴(つか)みどころのない形をしたものが、音もなく部屋へ入ってきました。その時、国師さまは、金縛(かなしば)りにあったかのように動くことも声を出すこともできませんでした。 しかし、国師さまは、この奇怪な侵入者が、手で死骸を持ち上げ、猫がネズミを飲み込むよりもずっと早く、死骸を飲み込んでしまうのを、目のあたりになさいました。まず頭、それから胴体、髪の毛も骨も、経帷子(きょうかたびら)までも喰らい尽くしてしまいました。死骸を喰べ終わると、次に仏壇に向かい、お供えものもすべて平らげてしまいました。そして、入ってきた時と同じように、どこへともなく去っていきました。

   小泉八雲=著 池田雅之(いけだ・まさゆき)=訳 「食人鬼」
   池田雅之=編訳 『妖怪・妖精譚』 小泉八雲コレクション
   ちくま文庫 2004/08 所収


(3) 下川 2003
夜のしじまが深まったころ、ぼんやりとした大きな影が、音もなく入ってきた。その刹那(せつな)、夢窓は金縛りにあい、口もきけなくなった。夢窓は、影が両手で亡骸を持ち上げ、猫が鼠を食らうよりも素早く食らいつくのを見た。影はまず頭を食べ、そして髪も、骨も、経帷子(きょうかたびら)も次々に食べ尽くした。供え物も残らず食べてしまった。そうして、影は入ってきたとき同様、音も立てず出て行った。

   ラフカディオ・ハーン=著 下川理英=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   和田久實(わだ・ひさみつ)=監訳 『小泉八雲 日本の心
   彩図社 2003/08 所収


(4) 脇 2003
 しかし、夜の静けさが最も深まったころ、何やらもうろうとした大きな影が、音もなくすべりこんできた。その瞬間(しゅんかん)、夢窓国師(むそうこくし)、動くことも口をきくこともできなくなった。その影は、見えない手でつかむようにして死体を持ち上げ、まずは頭から食べはじめたかと思うと、猫がネズミを食べるよりもすばやく、髪(かみ)の毛も骨(ほね)も経帷子(きょうかたびら)さえも残さずに、きれいさっぱり片づけてしまった。そうやって死体を平らげてしまうと、怪物(かいぶつ)は供(そな)えもののほうへむかい、それも食べてしまった。そして、来たときとおなじように、いずこへともなく消えていった。

   ラフカディオ・ハーン=著 脇明子(わき・あきこ)=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   『雪女 夏の日の夢』 岩波少年文庫 2003/03 所収


(5) 船木 1994
ところが、深々と夜が更けた頃、何やら漠とした、どでかい物影が音もなく、室内に入り込んできました。その瞬間、夢窓は自分が身動きもならず、ものを言うこともできぬのを悟りました。見ると、その物影らしきものが、まるで両手で死骸を持ち上げるようにするや、猫が鼠を食らうより素早く、むさぼり食らうではありませんか。——まず、頭からはじまって、何もかも食い尽くすのが見えました。髪といわず、骨といわず、経帷子(きょうかたびら)までも。そんな風に死体を食い尽くしてしまうと、今度は供物の方に向き直り、それも食いだしました。そうして、入ってきた時と同様、音もなく、いずこへともなく姿を消したのです。

   ラフカディオ・ハーン=著 船木裕(ふなき・ひろし)=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   『完訳 怪談』 ちくま文庫 1994/06 所収


(6) 保永 1992
 夜(よ)がふけて、あたりがしんしんとしずまりかえったころ、ぼんやりとした、大きなものの影が一つ、音もなくすーっと部屋にはいってきた。と同時に、夢窓国師(むそうこくし)は、自分の体から、声をたてる力も、手足を動かす力も、ぬけていくのを感じた。
 みると、その影は、両手で持ち上げるように、死人をだきおこし、死体をがつがつとむさぼり食いはじめたではないか。
 それは、ねこがねずみを食うよりもすばやかった。頭から食いはじめて、髪の毛も、骨も、経帷子(きょうかたびら)(仏式で死人をほうむるときに着せる着物)にいたるまで、なにもかもむさぼり食った。
 それから、こんどは供(そな)え物(もの)にむかい、これも食いつくすと、きたときと同じように、あやしい影につつまれたまま、どこへともなく、すーっとさっていった。

   小泉八雲=作 保永貞夫(やすなが・さだお)=訳 「人を食う鬼」
   『耳なし芳一・雪女—八雲怪談傑作集』 講談社青い鳥文庫 1992/06
   引用文中のルビを一部省略しました。


(7) 平川 1977, 1990
すると夜も更けて、あたりがしんしんと静まりかえった頃、漠とした大きな物影が一つ音もなくそこへはいってきた。と同時に夢窓禅師は我が身から、声を立てる力も、体を動かす力も、抜けてゆくのを感じた。見るとその物影は、両手で持ちあげるかのように、死人を抱きおこし、死体をがつがつ貪り食った。それは猫が鼠を食うよりもすばやかった。頭から食いはじめて、なにもかも、髪の毛も骨も、経帷子(きょうかたびら)にいたるまで、むさぼり食った。そしてその怪しいものの怪(け)は、そうして死体を食い尽すと、今度はお供物(そなえもの)に向かい、それもまた食い尽した。それからまた、来た時と同様、不思議に包まれたまま、またどこかへすっと立去った。

   小泉八雲=著 平川祐弘(ひらかわ・すけひろ)=訳 「食人鬼」
   7a. 平川祐弘=訳 『怪談・奇談』 講談社学術文庫 1990/06 所収
   7b. 森亮(もり・りょう)〔ほか〕=訳 『小泉八雲作品集3—物語の文学
      河出書房新社 1977/08 所収
   引用は、7b. に依拠しました。7a. も、送り仮名、ルビなど
   細部の違いを除き、ほぼ同文。


(8) 斎藤 1976
ところが、夜の静けさがもっとも深くなったころ、朦朧(もうろう)とした、どでかい、なにやら「かたち(シェイプ)」のようなものが、音もなく、部屋のなかへすうっとはいってきた。それと同時に、夢窓は、自分が、身動きする力も、ものを言う力も失ってしまっていることに気づいた。夢窓は、その「すがた(シェイプ)」のようなものが、両手で持ちあげるようにして死骸を持ちあげ、猫が鼠を食らうよりもすばやく、それをむさぼり食らうのを見た。——まず頭からはじめて、何もかも食らうのを見た。髪の毛も、骨も、それから経帷子(きょうかたびら)さえも食らってしまうのである。さらに、この怪しい「もの(シング)」は、こんなにして死体を食べつくしてしまうと、こんどは供え物のほうへ向き直り、それをも食らいつくした。それから、はいってきた時と同じように、いずこへともなく立ち去った。

   ハーン=著 斎藤正二(さいとう・しょうじ)=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   『完訳 怪談』 講談社文庫 1976/10 所収


(9) 上田 1975
しかし、夜の静寂(しじま)がいよいよ深まったとき、音もなく、ぼんやりした大きな「すがた」が、はいってきた。同時に、夢窓は、動くことも口をきくこともできなくなった。見ていると、その「すがた」は、まるで両手でかかえるように、亡骸をもち上げ、猫(ねこ)が鼠(ねずみ)を食べるよりもはるかに早く、それをむさぼり食った——頭からはじめて、なにもかも、髪の毛や骨や経帷子(きょうかたびら)にいたるまでも。そして、その異形(いぎょう)のものは(#「もの」に傍点)、亡骸を食いつくすと、こんどは供え物にかかり、それらもまた食べてしまった。それから、来たときと同じように、いずこともなく立ち去った。

   小泉八雲=著 上田和夫=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   『小泉八雲集』 新潮文庫(新版)1975/03 所収


(10) 繁尾 1972
ところが、軒もさがる丑満(うしみつ)どきに、音もなく、大きな、とりとめもない影がすーっと忍びこんできた。と、そのせつな、夢窓はからだの力が抜け、声も出なくなってしまった。あたかも手を用いているかのように、影は遺骸を持ちあげ、猫がねずみを食らうよりもすばやく、それをむさぼった——まず頭からはじめて、髪の毛や骨、それに経帷子(きょうかたびら)まで食らうのである。このように死骸をあまさず食らいつくすと、物(もの)の怪(け)は供物の方に向きなおり、それをも食いつくした。それから、忍びこんだときと同じように、いずこともなくかき消えてしまった。

   ハーン=作 繁尾久(しげお・ひさし)=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   『怪談 他四編』 旺文社文庫 1972/06 所収


(11) 平井 1964, 1965
すると、夜の静寂がもっとも深くなったころである。いきなり、大きな、形のはっきりせぬ、朦朧(もうろう)としたものが、音もたてずに家のなかへすっとはいってきた。と思ったその刹那、夢窓は、きゅうに五体が金縛りにあったようになって、口がきけなくなってしまった。見ているうちに、その大きな、おぼろげなものが、死骸をもろ手にかかえ上げたと思うと、たちまちそれにかぶりついて、猫が鼠を食らうよりも早く、がりがりと音をたてて、むさぶり食らいだした。まず死骸の頭からはじめて、髪の毛から、骨から、経帷子(きょうかたびら)まで食らうのである。さて、死骸を食らいつくしてしまうと、怪しいものは、こんどは供物の方に向きなおって、それも食らいつくした。それから、はいってきたときと同じように、音もたてずに、いずくへともなく立ち去っていった。

   11a. ラフカディオ・ハーン=作 平井呈一=訳 「食人鬼」
       『怪談—不思議なことの物語と研究
       岩波文庫(改版)1965/09 所収
   11b. 小泉八雲=著 平井呈一=訳 「食人鬼(じきにんき)」
       『全訳 小泉八雲作品集10 骨董・怪談・天の川綺譚
       恒文社 1964/06 所収


(12) 田代 1956
ところが、夜の静けさがこのうえなく深まったとき、もうろうとした大きな姿のものが、音もなくはいってきた。と同時に、夢窓は身動きができず、ものを言う力もなくなっていた。見ているうちに、その姿のものは、両手を使ってやるように、遺骸をも
ちあげて、猫が鼠(ねずみ)を食べるよりもすばやく、それを貪(むさぼ)り食った。——頭からはじめて、何もかも、髪の毛も、骨も経帷子(きょうかたびら)までも食べた。そして、この怪物は、こうして遺骸を食べてしまうと、こんどは供え物のほうへむいて、それもみな平(たいら)げてしまった。それから、はいって来たときと同じように、いずこともなく姿を消した。

   ラフカディオ・ハーン=著 田代美千稔(たしろ・みちとし)=訳
   「食人鬼」 『怪談・奇談』 角川文庫 1956/11 所収


(13) 平井 1940
すると、夜の靜寂が最も深くなつた比である。俄かに巨きな、形のはつきりせぬ、朧ろげなものが、音も立てずに家の中へはひつて來た。と思つたその刹那に、夢窓は體ぢゆうが金縛りに逢つたやうになつて、口が利けなくなつてしまつた。見てゐるうちに、その巨きな、朧ろげなものは死骸を兩手に抱き上げたと思ふと、いきなりそれにかぶりついて、猫が鼠を啖ふよりも早くがり/\と啖いはじめた。まづ頭から始めて、なにもかにも、髪の毛から骨から經帷子まで啖ふのである。さて、死骸を啖いつくしてしまうと、怪しいものは今度は供物の方へ向き直つて、それも食べつくした。それから這入つて來た時と同じやうに、音も立てずにどこかへ出て行つてしまつた。

   ラフカディオ・ヘルン=作 平井呈一=訳 「食人鬼(じきにんき)」
   『怪談—不思議な事の研究と物語』 岩波文庫(旧版)1940/10 所収


(14) 山本 1932
ところが、夜(よる)の沈默が最も深まつた時、朦朧とした大きな姿が、音もなく其處にはいつて來た。と同時に夢窓は、自分が動くことも、聲を立てることも出來なくなつてゐるのに氣付いた。見てゐると、その姿は、手で持ち上げる樣に死骸を取り上げ、猫が鼠を食べるよりもずつと速くそれを貪り食つた。——頭からかゝつて、髪の毛も、骨も、何もかも、經帷子(きやうかたびら)までも食べてしまつた。そして死骸を食べ盡すと怪しげな奴は今度は供物にとりつき、それをも亦すつかり食べて仕舞つた。それから、來た時と同じやうに、何處ともなく立ち去つて了つた。

   ラフカディオ・ハーン=著
   山本供平(やまもと・きょうへい)=譯註 「食人鬼」
   『Kwaidan (2)』 英學生文庫第八卷怪談下卷
   春陽堂 1932/06 所収(ただし、この本の扉には "Kawidan" と表記)


(15) 大谷 1926, 1931, etc.
ところが、夜の靜けさの最も深くなつた時、音も立てずに朧げな大きなものが(#「もの」に傍点)入つて來た。同時に夢窗は自分が動く力も、物云ふ力もなくなつて居る事に氣がついた。彼はそのもの(#「もの」に傍点)が抱き上げるやうに死骸をあげて、猫が鼠を喰べるよりも早く、それを喰べつくすのを見た、——頭から始めて、何もかも、髪の毛も、骨も、それから經かたびらさへも喰べるのを見た。それから、その怪しいもの(#「もの」に傍点)がこんなにして死骸を喰べつくしてから、供物の方へ向いて、それも又喰べた。それから來た時と同じく不可思議に出て行つた。

   小泉八雲=著 大谷正信(おおたに・まさのぶ)=譯 「食人鬼」
   『怪談—不思議な事の研究と物語』
   15a. 古谷綱武(ふるや・つなたけ)=編 『小泉八雲集(上)』         
       新潮文庫(旧版)1950/07 所収
   15b. 小泉八雲全集第八卷家庭版』 第一書房 1937/01(昭和12)所収
   15c. 田部隆次=編 『學生版 小泉八雲全集第七卷』 第一書房
       1931/01(昭和6)第二囘豫約刊行
   15d. 田部隆次=編 『小泉八雲全集第七卷』 第一書房 1926/07(大正15)所収


(16) 刈谷+萩原 1927, 森+萩原 1990
ところが、夜の沈黙がその絶頂に達した時、茫漠とした巨きな姿が、音もなくそこにはひつて来ました。同時に夢窓は、自分が動くことも声立てることも出来なくなつてゐるのに気づきました。見てゐると、その姿は、手を以てするやうに死体を取り上げ、猫が鼠を食ふよりも、もつと早くそれを貪(むさぼ)り啖ひました。——頭から始めて、髪の毛も、骨も、経帷子(きやうかたびら)までも、何もかも食べました。そして怪しのものは、死体を終ると供物にかゝり、それらをもまた食べました。それから来た時と同じく、いづこともなく立ち去りました。

   16a. 小泉八雲=著
       森銑三(もり・せんぞう)+萩原恭平(はぎわら・きょうへい)=訳
       『十六桜—小泉八雲怪談集』 研文社 1990/09 所収
   16b. 小泉八雲=著
       刈谷新三郎(かりや・しんざぶろう)+萩原恭平=共訳
       『小泉八雲選集 第2篇』 嶺光社+開隆堂=相版 1927/01(昭和2)所収
   「刈谷新三郎」は森銑三のペンネーム、つまり森氏と刈谷氏は同一人物です。


  Audio  
英語原文のオーディオブック Audiobook in English

「食人鬼」の朗読は 1:00:08 から、下の引用箇所の朗読は 1:04:39 から、それぞれ始まります。 Uploaded to YouTube by FULL audio books for everyone on 23 Feb 2014. Audio courtesy of LibriVox. Reading of Jikininki starts at 1:00:08 and reading of the excerpt below starts at 1:04:39.


■英語原文 The original text in English

But, when the hush of the night was at its deepest, there noiselessly entered a Shape, vague and vast; and in the same moment Muso found himself without power to move or speak. He saw that Shape lift the corpse, as with hands, and devour it, more quickly than a cat devours a rat,--beginning at the head, and eating everything: the hair and the bones and even the shroud. And the monstrous Thing, having thus consumed the body, turned to the offerings, and ate them also. Then it went away, as mysteriously as it had come.


■ハーンによる英文原書『怪談』に関する詳細な書誌
 Detailed bibliography on Kwaidan, Hearn's collection of ghost stories
 in English


■有益なサイト Useful websites


■更新履歴 Change log

  • 2014/02/27 目次と英語版オーディオブックの YouTube 画面を追加しました。
  • 2007/06/02 森銑三+萩原恭平=訳 1990/09、および刈谷新三郎+萩原恭平=訳 1927/01 を追加しました。

■和書 Books in Japanese
(1) ラフカディオ・ハーン + 怪談

(2) 小泉八雲 + 怪談

■洋書 Books in non-Japanese languages

■DVD

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Sunday, 03 December 2006

易子而食 - 春秋左氏伝 宣公十五年 Zuo Zhuan 504 B.C.

■表紙画像 Cover photos
A B


■日本語訳 Translations into Japanese

以下の引用は、いずれも宣公十五年(紀元前504年)の記録。

(J1) 小倉 1988
「寡君(わがきみ)は、宋の窮状をこう申せと元(わたし)に命じられた。敝邑(わがくに)は、子供を交換して食べ、死人の骨を割いて炊事をする程になっている。だが、城下の盟だけは、たとえ国が亡びても、受け入れられぬ。もし〔一舎〕三十里だけ兵を引かれれば、仰せには何なりと従おう、と」

   小倉芳彦(おぐら・よしひこ)=訳 『春秋左氏伝(上)』(全3冊)
   岩波文庫 1988/11/16


(J2) 貝塚 1970
「主人の命令をうけ、宋の窮状を訴えにまいりました。主人は、『わが宋では、今では互に子供を取りかえて食(た)べ、死人の骨をうち砕いてたきものにするといった有様です。しかし、城下の盟だけはたとえ国が亡んでも結ぶことはできません。いま楚の方で三十里だけ後退してくださるなら、どんな仰せでも従います』と申しています」

   貝塚茂樹=編 『春秋左氏伝 世界古典文学全集13』(全50巻)
   筑摩書房 1970/11


(J3) 鎌田 1968, 1974
「わが君にはこの私を使者として宋の苦しい状態を訴えさせるのです。宋はいまや兵糧がなくなり、子供を交換して食べあい、燃料もなくなったので、死者の骨を折りくだいて炊事をしているという状態です。とは申すものの、城下に攻めこまれて降服の盟いをすることは、たとい国が滅亡しようとも、できない相談です。どうか宋を三十里退却してください。そうすればどんなご命令にも従います。」

  • 鎌田正=著 『春秋左氏伝』 中国古典新書(全100巻) 明徳出版社 1968/09/15
  • 鎌田正=著 『新釈漢文大系31 春秋左氏伝2』 明治書院 1974/09 も、用字・仮名づかいなど細部の違いを除けば、ほぼ同文。

(J4) 竹内 1968
「宋公がわたくしを使者に、宋の苦しさを訴えるのだ。今や宋は子どもを取り換えて食い、屍(かばね)を薪に用いねばならぬ。しかも城下の盟いだけは、国が亡んでも、結びたくないのだ。楚が三十里だけ退却してくれたら、どんないいぶんでも聞くつもりでいる」

   竹内照夫=訳 『春秋左氏伝 中国古典文学大系』(全60巻)
   平凡社 1968/09/05


■中国語原文(簡体字) The original text in simplified Chinese

宣公十五年 (504 B.C.)
寡君使元以病告.曰.敝邑易子而食.析骸以爨.虽然.城下之盟.有以国毙.不能从也.去我三十里.唯命是听.

   春秋左氏传
   E-text at Wikisource


■中國語原文(繁體字) The original text in traditional Chinese

宣公十五年 (504 B.C.)
寡君使元以病告.曰.敝邑易子而食.析骸以爨.雖然.城下之盟.有以國斃.不能從也.去我三十里.唯命是聽.

   春秋左氏傳
   E-text at Wikisource


■「易子而食 析骸以爨」の意味

  • 原 文   易子而食 析骸以爨
  • 読み下し文 子を易えて食ひ、骸を析きて爨ぐ
  • 読みかた  こをかえてくらい、がいをさきてかしぐ
  • 意 味   子どもを交換して食べ、死人の骨をくだいて炊事する

「子どもを交換して食べる」とは——いくら戦乱の世で飢餓に苦しんでいるとはいえ、自分の子どもを食べるのは、さすがに忍びない。そこで、近所の人の子どもと取りかえて、近所の人の子どもを食べて飢えをしのぐ——という意味だそうです。
 
「春秋左氏伝」の哀公八年(紀元前487年)の記述にも、おなじ表現が見られます。また、魯迅の短篇小説「狂人日記」(1918年。中国語原文は ここ)にも、前半部分「易子而食」の字句が登場します。中国では、ひろく知られた表現だそうです。といっても、こんにち正確にどのていど認知されているかは存じませんが。


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■更新履歴 Change log

  • 2010/03/26 中国語原文(簡体字)を追加しました。
  • 2006/12/08 書誌情報を修正・補足しました。

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Tuesday, 28 November 2006

Cannibalism in the Cars by Mark Twain マーク・トウェイン 「列車内の人食い事件」「人喰い列車」「車中人肉を喰ふ話」「雪に埋もれた汽車」

 Video 
Biography of Mark Twain (1835-1910) Part 1 of 5

Uploaded to YouTube by dizzo95 on 5 Feb 2008


■中国語訳(簡体字) Translation into simplified Chinese

(……)
  “你打算给我讲——”
  “请不要打断我的话。早饭后我们推选了一个从底特律来的名叫沃克的人当晚餐。他很不错,我后来给他老婆写信就是这么说的。怎么夸他都不过份,我将永远怀念沃克。他煮得嫩了点儿,可是非常好。第二天早上,我们又把亚拉巴马州的摩尔根当早餐。他是我们享用过的最好的人之——仪表堂堂,很有教养,文质彬彬,能流利地讲几种语言——一个十全十美的绅士——他是个十全十美的绅士,油水多得出奇。晚饭我们选的是那个俄勒冈的老头儿,他的确是个骗人的货色,这一点毫无疑问——又老又瘦又粗,谁也无法形容那种状况。(……)”

   《火车上的嗜人事件》  马克·吐温 译者:蒲隆
   E-text at 语文备课大师


■中國語譯(繁體字) Translation into traditional Chinese

(……)
  “你打算給我講——”
  “請不要打斷我的話。早飯后我們推選了一個從底特律來的名叫沃克的人當晚餐。他很不錯,我后來給他老婆寫信就是這么說的。怎么夸他都不過份,我將永遠怀念沃克。他煮得嫩了點儿,可是非常好。第二天早上,我們又把亞拉巴馬州的摩爾根當早餐。他是我們享用過的最好的人之——儀表堂堂,很有教養,文質彬彬,能流利地講几种語言——一個十全十美的紳士——他是個十全十美的紳士,油水多得出奇。晚飯我們選的是那個俄勒岡的老頭儿,他的确是個騙人的貨色,這一點毫無疑問——又老又瘦又粗,誰也無法形容那种狀況。(……)”

   《火車上的嗜人事件》 作者:馬克·吐溫 譯者:蒲隆
   E-text at 龍騰世紀 (millionbook.net)


■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 勝浦 1993
(……)
 「あなたが話そうとなさるのは——」
 「どうか口を出さないで下さい。朝食後わたしたちは、デトロイトから来たウォーカーという男を夕食に選びました。この人はとてもおいしかったです。わたしは後で、この男の奥さんにそう書いておきました。彼は絶賛するだけの値打はありました。ウォーカーは決して忘れません。少々生(なま)焼けだったが、実においしかった。それから翌朝は、アラバマのモーガンを朝食にしました。これまでじゃ最高のご馳走の一人でした——ハンサムで、教養もあり、洗練されていて、数カ国語をペラペラ——全く申し分のない紳士でした——確かに完璧な紳士で、珍しいほど汁っけの多い人でした。夕食には、オレゴンのあの長老をやりましたが、奴は確かに(#原文は太字でなく傍点)ペテン師で、この点についちゃ疑問の余地はありません——年をとっていて、痩せこけて、硬くて、何とも想像のしようもありません(……)」

   マーク・トウェイン=著 勝浦吉雄(かつうら・よしお)=訳
   「列車内の人食い事件」
   『マーク・トウェイン短編全集(上)』 文化書房博文社 1993/11 所収


(2) 坂下 1977
(……)
 「まさか、あなた、そんな馬鹿な——」
 「話の腰を折らんでくれよ、まあ。朝飯の次は、おいらは、デトロイトのウォーカーを昼飯用に選出したな。こいつがまた、とってもうめえんでよ。おれは後で奴の細君に手紙を書いちゃってさ。奴はあらゆる賞讃に値する人間よな。ウォーカーの味は生涯忘れるもんじゃねえ。ちょっぴり生焼(なまやけ)だったけどさ、それがとってもうめえんだぜ。それから翌る朝は、アラバマのモーガンを食っちまった。おれが箸(はし)をつけたもんで、あんな最高の美味は存在しないっていう人間の一人だろうぜ——美男で、教育があって、洗練されてて、数カ国語をぺらぺらやれて——完全な紳士ってとこよな——そうさ、完全な紳士で、汁もたっぷりあらあな。昼飯には、例のオレゴンのおっさんを食っちまったけどよ、こいつが詐欺師だってことはもう疑問の余地はねえや——おいぼれの、骨と皮だらけ、ごついのなんのって、この現実感を描ける文学者がいるもんかってんだ!(……)」

   マーク・トウェイン=作 坂下昇(さかした・のぼる)=訳
   「人喰い列車」
   『バック・ファンショーの葬式 他十三篇』 岩波文庫 1977/06 所収


(3) 鍋島 1976
(……)
 「あなたが話そうとなさるのは——?」
 「どうか口を出さないで下さい。朝飯の後、われわれは、デトロイトからきたウォーカーという名前の男を、夕飯の食物に選んだのだった。奴はなかなかうまかったのです。私は後で、女房へそう手紙に書いてやったんですがね。奴はどんなに褒めてもいいくらいだ。ウォーカーは決して忘れない。奴は少し珍しい方だったが、とてもうまかったのだ。それから次の朝、われわれはアラバマ州のモーガンを朝飯に食った。奴のような立派な男に向かったことはない。——男っぷりもよく、教育もあり、洗練されていて、二三カ国語もぺらぺら喋る——申し分のない紳士だった——たしかに申し分のない紳士であって、珍しいほど汁っ気も多かったのです。夕飯の食物には、あのオレゴン州の長老をやっつけた。奴は確かに(#「確かに」に傍点)まやかしものであった。これは疑いもないことだ。——年とって、痩せこけて、固くって、本当に何といってよいやら分らない。(……)」

   マーク・トウェーン=作 鍋島能弘(なべしま・のりひろ)=訳
   「列車内の人食い事件」
   『マーク・トウェーン短篇全集1』 出版協同社 1976/05 所収

   原文の "rare" を「レア=生焼け」でなく「珍しい」と誤訳しているのは、
   いまとなってみれば、ご愛嬌か?(笑) - tomoki y.


(4) 杉木 1932
(……)
 「ぢや、どうでせう、一つお話して下さらないでせうか——」
 まあ、默つて聽いてゐて下さい、どうぞ。朝食後、私たちは、デトロイトのウォーカーといふ人を夕食に選びました。この人は素的でしたね。後になつて、私はその人の奥さんにそのことを書き送つて上げました。あの人は實に賞讃に値した人でしたよ。私はウォーカーといふ名前はいつも忘れないことゝ思ひます。少し生燒けでしたが、實に素的でした。それから翌朝はアラバマのモーガンを朝食にしました。その人は私が御馳走になつた人のうちでは一等素的な人でした——美男で、教育があり、洗練されてゐて、數ヶ國の言葉を流暢に喋り——何といひますか、まあ完全な紳士ですね——全く完全な紳士で、而も非常に汁氣(つゆけ)の多い人でした。夕食にはあのオレゴンの大長老を御馳走になりましたが、あの人はぺてん師でしたよ。それはたしかです——年を老つてゐて、骨張つてゐて、硬くつて、誰もその本當の姿を想像しかねますね。(……)

   Mark Twain 著 杉木喬(すぎき・たかし)=譯註 「車中人肉を喰ふ話」
   『ユーモア・小説集』 英學生文庫 第16卷
   春陽堂 1932/10(昭和7)所収
   (奥付の譯註者表示は、末弘淺次郎)


(5) 梅田=編 1928
 朝の食事がすんでから、私たちは夕食のためにデトロイド州のウォーカといふ男を選出いたしました。この男は非常に結構でした私はこの男の細君に、そのことを後日報告してやりましたよ。實にその味ひは賞讃に値するものがありましたからね。私はウォーカを永久に忘れません。ちよつと風變りな味ひではあつたが、なか/\うまかつたです。
 さて、又、その翌朝はアラバマのモルガンを採用しました。モルガンは今までのうちで最も美味でした。彼は美男で、上品で、數ヶ國語を自由にあやつる、完全な紳士でした。しかもたつぷりと汁氣(しるけ)がありました。
 その夕食には、あのオリガンの長老ドエイビスが選に當つたといふわけです。この人はあの議會討論の時に、ごまかしものだと云はれましたが、なる程やつぱりその通りでしたね。老ぼれてゐて、骨と皮ばかりで、硬(かた)くて、全く齒のたゝない代物(しろもの)でしたよ。それも貴方がたの想像も及ばぬ程度の代物なんです。(……)

   原作: マーク・トウェイン(目次の表記)
       マーク・トゥウェイン(本文13ページの表記)
    「二、ユーモラスな話五篇」 雪に埋もれた汽車
   梅田寛=編 『諧謔文學 外國後篇』 名作物語
   文敎書院 1928/08/01(昭和3)所収
   雪・選・又・採・通の旧字は新字で置き換えました。


■Sketches New and Old

Cannibalism_1
↑Click to enlarge↑

Cannibalism in the Cars in Sketches New and Old, Part 7, by Mark Twain. Image source: Project Gutenberg


■スペイン語訳 Translation into Spanish

  —¿Me quiere usted decir que realmente usted...?
  —No me interrumpa, se lo ruego.
  «Después de aquel frugal almuerzo, había que pensar en la comida; elegimos a un talWalker, oriundo de Detroit. Era excelente; se lo escribí a su mujer algo después. Noolvidaré en mi vida a Walker. ¡Qué plato tan delicioso! Algo delgado, pero suculento a pesar de todo. Al día siguiente, nos regalamos con Morgan, de Alabama, para almorzar.Era uno de los hombres más atractivos que yo haya visto nunca; apuesto, elegante, demodales distinguidos; hablaba corrientemente varios idiomas; en suma, un muchachocompleto, que nos proporcionó un jugo muy gustoso. Para la comida, nos prepararon elviejo patriarca del Oregón. Con él recibimos un buen «escopetazo»: viejo, seco, coriáceo,fue imposible de comer.

   Canibalismo en los vagones
   in Narraciones by Mark Twain
   E-text at Scribd


 Audio 1 
フランス語訳のオーディオブック(朗読) Audiobook in French

下に引用する箇所は 20:05 あたりから。 The excerpt below starts around 20:05.


■フランス語訳 Translation into French

— Me donnez-vous à entendre que réellement vous... ?
— Ne m'interrompez pas, je vous en prie.
« Après ce frugal déjeuner, il fallait songer au dîner ; nous portâmes notre choix sur un nommé Walker, originaire de Détroit. Il était excellent ; je l'ai d'ailleurs écrit à sa femme un peu plus tard. Ce Walker ! je ne l'oublierai de ma vie ! Quel délicieux morceau ! Un peu maigre, mais succulent malgré cela. Le lendemain, nous nous offrîmes Morgan de l'Alabama pour déjeuner. C'était un des plus beaux hommes que j'aie jamais vus, bien tourné, élégant, distingué de manières ; il parlait couramment plusieurs langues ; bref un garçon accompli, qui nous a fourni un jus plein de saveur. Pour le dîner, on nous prépara ce vieux patriarche de l'Orégon. Là, nous reçûmes un superbe « coup de fusil » ; — vieux, desséché, coriace, il fut impossible à manger. Quelle navrante surprise pour tous !

   Cannibalisme en voyage
   in Plus fort que Sherlock Holmès by Mark Twain
   E-text at Project Gutenberg


 Audio 2 
英語原文のオーディオブック(朗読: マイク・ベネット)
The Cannibalism in the Cars. Audiobook in English. Read by Mike Bennett.

下に引用する箇所は 20:16 あたりから。 Uploaded to YouTube by angrypyjamas on 12 Nov 2011. The excerpt below starts around 20:16.


■英語原文 The original text in English

(......)
"Do you mean to tell me that--"
"Do not interrupt me, please. After breakfast we elected a man by the name of Walker, from Detroit, for supper. He was very good. I wrote his wife so afterward. He was worthy of all praise. I shall always remember Walker. He was a little rare, but very good. And then the next morning we had Morgan of Alabama for breakfast. He was one of the finest men I ever sat down to handsome, educated, refined, spoke several languages fluently a perfect gentleman he was a perfect gentleman, and singularly juicy. For supper we had that Oregon patriarch, and he was a fraud, there is no question about it--old, scraggy, tough, nobody can picture the reality. (......)"

   Cannibalism in the Cars
   Written circa 1867 by Mark Twain
   Sketches New and Old, Part 7
   E-text at Project Gutenberg


■更新履歴 Change log

2013/07/16 スペイン語訳を追加しました。
2013/07/15 フランス語版朗読の YouTube 画面とフランス語訳を追加しました。
2012/09/02 梅田寛=編 1928/08/01 とマイク・ベネットによる朗読の YouTube
         動画を追加しました。
2011/04/01 中国語訳(簡体字)を追加しました。
2010/05/20 Biography of Mark Twain (1835-1910 part 1 of 5) の
         YouTube 動画を追加しました。
2007/09/04 杉木喬=譯註 1932/10 を追加しました。
2007/07/27 勝浦吉雄=訳 1993/11 を追加しました。


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Sunday, 26 November 2006

魯迅 『狂人日記』 A Madman's Diary by Lu Xun

■表紙画像 Cover photos
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[Left] English translation by William A. Lyell
[Right] Japanese translation by Yoshimi Takeuchi


■ロシア語訳 Translation into Russian

Несколько дней тому назад из деревни Волчьей пришел арендатор сообщить о неурожае, он рассказал моему старшему брату, что жители этой деревни сообща убили одного злодея из своей же деревни; потом вынули у него сердце и печень, зажарили и съели, чтобы стать более храбрыми. Я вмешался было в разговор, но тут арендатор и брат несколько раз взглянули на меня. Только сегодня я понял, что их взгляды были точно такими же, как и у тех людей на улице.

При мысли об этом меня всего, с головы до пят, бросило в дрожь.

Раз они могут есть людей, значит, могут съесть и меня.

   Лу Синь - Записки сумасшедшего
   Translated by Сергей Леонидович Тихвинский
   E-text at FictionBook.ru


■スペイン語訳 Translation into Spanish

Hace algunos días, uno de nuestros arrendatarios de la aldea de los Lobos, al venir a informar sobre la sequía que reina en el campo, contó a mi hermano mayor que los campesinos habían dado muerte a un conocido malhechor del lugar. Luego algunos hombres le arrancaron el corazón y el hígado, los frieron y se los comieron, para criar valor. Los interrumpí con una palabra y mi hermano y el labrador me lanzaron muchas miradas raras. Hoy comprendo que sus miradas eran absolutamente iguales a las de los hombres de la calle.

Sólo de pensar en ello me estremezco de la cabeza a los pies.

Si comen hombres, ¿por qué no habrían de comerme a mí?

   El diario de un loco by Lu Sin
   E-text at Ciudada Seva


■フランス語訳 Translation into French

Il y a quelques jours, l’un de nos fermiers du village du Louveteau vint annoncer que les récoltes étaient désastreuses, et il raconta à mon frère aîné que les villageois avaient battu à mort un mauvais garçon de l’endroit; puis, certains lui avaient enlevé le cœur et le foie, les avaient fait frire à l’huile et les avaient mangés dans le but de stimuler leur courage. Le fermier et mon frère me dévisagèrent lorsque je voulus risquer un mot. Et je réalise aujourd’hui seulement que leurs regards avaient exactement la même expression que celle des gens dans la rue.

Rien que d’y penser, j’en frissonne du sommet de la tête à la plante des pieds.

Ils se nourrissent de chair humaine, pourquoi un jour ne me mangeraient-ils pas?

   Le journal d’un fou by Lu Sin
   E-text at Les contes de Lu Xun - hst1061


■英訳 Translations into English

(E1) Lyell, 1990
A few days back one of our tenant farmers came in from Wolf Cub Village to report a famine. Told my elder brother the villagers had all ganged up on a "bad" man and beaten him to death. Even gouged out his heart and liver. Fried them up and ate them to bolster their own courage! When I tried to horn in on the conversation, Elder Brother and the tenant farmer both gave me sinister looks. I realized for the first time today that the expression in their eyes was just the same as what I saw in those people on the street.

As I think of it now, a shiver's running from the top of my head clear down to the tips of my toes.

If they're capable of eating people, then who's to say they won't eat me?

   Diary of a madman and other stories by Lu Xun
   Translated by William A. Lyell
   University of Hawaii Press, 1990


(E2) Yang & Yang, 1960, 1972

A few days ago a tenant of ours from Wolf Cub Village came to report the failure of the crops, and told my elder brother that a notorious character in their village had been beaten to death; then some people had taken out his heart and liver, fried them in oil and eaten them, as a means of increasing their courage. When I interrupted, the tenant and my brother both stared at me. Only today have I realized that they had exactly the same look in their eyes as those people outside.

Just to think of it sets me shivering from the crown of my head to the soles of my feet.

They eat human beings, so they may eat me.

   A Madman's Diary
   Selected Stories of Lu Hsun (Lu Xun)
   By Lu Hsun (Lu Xun)
   [The True Story of Ah Q, and Other Stories (written 1918-1926)]
   Translated by Yang Hsien-yi and Gladys Yang
   Published by Foreign Languages Press, Peking, 1960, 1972
   * E-text at the Marxists Internet Archive
   * PDF at the Dickinson State University website


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 藤井 2009
 数日前、狼子(ランツ)村の小作人が不作を訴えてきて、僕の大兄(おおにい)さんに向かって言うには、村にとんでもない悪人がいて、みんなで殴り殺したところ、数人の者がその男の心臓と肝臓をえぐり出し、油で炒めて食べたという――肝っ玉が太くなるからだ。僕が口を挟むと、小作人も大兄さんもジロジロと僕を見ていた。今日になって二人が、外の連中とまったく同じ目つきをしていたことに気がついた。
 思い出すと、全身に寒気を覚える。
 奴らは人食いをするのだから、僕のことも食べてしまうかもしれない。

   魯迅=作 藤井省三(ふじい・しょうぞう)=訳 「狂人日記」
   『故郷/阿Q正伝』 光文社古典新訳文庫 2009/04 所収


(J2) 駒田 1998
 数日前、狼子村(ろうしそん)の小作人が凶作を訴えに来て、兄に話していた。彼らの村の極悪人がみんなになぐり殺されたが、数人の者がその男の心臓と肝臓をえぐり出し、油でいためて食った。そうすると肝っ玉が大きくなるという。おれが口をはさんだら、小作人も兄貴もじろじろとおれを見た。今日やっとわかったのだが、彼らの眼つきは外のあの連中とまったく同じだ。
 思い出すと、頭のてっぺんから足のつまさきまでゾッとする。
 彼らは人間を食うのだ。とすれば、おれを食わないとはかぎらない。

   魯迅=作 駒田信二=訳 「狂人日記」
   『阿Q正伝・藤野先生』 講談社文芸文庫 1998/05 所収


(J3) 竹内 1955, 1981
 二、三日前、狼子村(ランズツン)から小作人が来て、不作をこぼして、兄貴に話していったっけ。やつらの村に大悪人がいて、みんなに殴り殺されたが、そいつの内臓をえぐり出して、油でいためて食ったやつがあるそうで、そうすると肝っ玉が太くなるという話だ。おれがちょっと脇から口を入れたら、小作人と兄貴とが、じろじろおれの方を見たっけ。今日やっとわかった。やつらの眼つきは、町にいた連中の眼つきとそっくりそのままじゃないか。
 思い出しただけで、おれは頭のてっぺんから脚の先まで、ゾッとなる。
 やつらは人間を食いやがる。してみると、おれを食わないという道理はない。

   魯迅=作 竹内好=訳 「狂人日記」
   『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊)』
   岩波文庫(初版 1955/11|改訳 1981/02)所収


(J4) 松枝+和田 1976
 二、三日前、狼子(ランツ)村の小作人が不作を訴えにきたとき、兄貴にこんな話をしていた。やつらの村に大悪党がいて村の連中になぐり殺されたそうだ。そのとき、そいつの臓腑(はらわた)をえぐり出して、油でいためて食ったものがいて、なんでもそれを食うと、肝っ玉が大きくなるんだそうだ。わきからおれがちょっと口をはさんだら、小作人も兄貴も、じろじろおれのほうを見たっけ。きょうになって気がついたんだが、その目つきが、あの町の連中の目つきとまるっきりそっくりじゃないか。
 そう思うだけで、おれは頭のてっぺんから足の先までゾッとなる。
 やつらは人間を食うんだ。おれを食わないという保証はないぞ。

   魯迅=作 松枝茂夫+和田武司=訳 「狂人日記」
   『豪華版 世界文学全集35 魯迅』 講談社 1976/10 所収


(J5) 丸山 1975
 数日前、狼子(ランツ)村の小作人が、不作の訴えにきて、兄貴に話していた。彼らの村に大悪人が一人いたが、みんなに殴り殺された、数人のものがその心臓と肝臓をえぐり出して、油でいためて食った、肝(きも)が太くなるのだ、という。おれがひとこと口をはさむと、小作人も兄貴もおれをじろじろ見た。きょうはじめてわかった、彼らの眼つきも、外のあの連中とそっくりなのだ。
 考えて、おれは頭のてっぺんからかかとの先までぞっとした。
 彼らが人を食えるのだとすれば、おれを食わないとは限らない。

   魯迅=作 丸山昇=訳 「狂人日記」
   『阿Q正伝 他九編』 新日本文庫 1975/11 所収


(J6) 松枝 1970
 何日か前に、狼子(ランツ)村の小作人が不作を訴えに来て、おれの兄に向かって話していた。彼らの村の大悪党がみんなになぐり殺され、何人かの者はそいつの臓腑(はらわた)をえぐり出して、油でいためて食ったんだそうだ。それを食うと肝っ玉が大きくなるというのだ。おれがわきから一言口をはさんだら、小作人も兄もおれをじろじろ見た。彼らの目つきが、町の連中のそれとそっくり同じであることを、きょうになって気がついた。
 思い出すと、おれは頭のてっぺんから足のカカトまで、ぞうっとする。
 彼らは人間を食うことができるんだから、おれを食うことができないとはいえない。

   魯迅=作 松枝茂夫=訳 「狂人日記」
   『阿Q正伝・狂人日記 他六編』 旺文社文庫 1970/03 所収


(J7) 高橋 1967
 数日前、狼子(ランツ)村の小作人が不作を訴えにきて、兄に話していた。彼らの村の極悪人が、皆に殴り殺され、数人が彼の心臓と肝臓をえぐり出して、油でいためて食った、と。胆力が増すのだそうだ。わたしが言葉をはさむと、小作人と兄がじろじろとわたしを見た。今日になってわかったことだが、彼らの眼付は、街のやつらと全く同じだった。
 想い出すと、頭のてっぺんから足の先までぞっとする。
 彼らは人間を食えるのだ。とすればわたしを食わないとは言いきれぬ。
  
   魯迅=作 高橋和己=訳 「狂人日記」
   『世界の文学47 魯迅』 中央公論社 1967/06 所収


(J8) 増田 1961
 五、六日前、狼子(ランツ)村の小作人が饑饉(ききん)で収穫のないことを訴えてきて、私の兄貴(あにき)に、彼等の村の一人の大悪人が、大勢に打ち殺された話をした。何人かの者はその男の内臓をほじくり出し、肝(きも)ッ玉を太くするのだといって、油でいためて食ったという。私が一こと口をはさむと、小作人と兄貴は私をジロジロと見た。今日はじめて私は彼等の眼の色が、外部のあの一群の者たちと全く同じであることを知った。
 それを思い出すと、私は頭のてっぺんから足のさきまでサッと冷たくなる。
 彼等は人を食うことができる、だとすれば私を食わないものでもない。

   魯迅=作 増田渉=訳 「狂人日記」
   『阿Q正伝』 角川文庫 1961/04 所収


(J9) 井上 1932, 2004
 四五日前に狼村(おおかみむら)の小作人が不況を告げに来た。彼はわたしの大(おお)アニキと話をしていた。村に一人の大悪人(だいあくにん)があって寄ってたかって打殺(うちころ)してしまったが、中には彼の心臓をえぐり出し、油煎(あぶらい)りにして食べた者がある。そうすると肝が太くなるという話だ。わたしは一言(ひとこと)差出口(さしでぐち)をすると、小作人と大アニキはじろりとわたしを見た。その目付がきのう逢った人達の目付に寸分違いのないことを今知った。
 想い出してもぞっとする。彼等は人間を食い馴(な)れているのだからわたしを食わないとも限らない。

   魯迅=作 井上紅梅=訳 「狂人日記」
   E-text at 青空文庫
   底本: 『魯迅全集』 改造社 1932/11/18
   旧字、旧仮名を新字、新仮名に改めてあります。
   底本は総ルビですが、一部を省いてあります。
   入力:京都大学電子テクスト研究会入力班(上村要)
   校正:京都大学電子テクスト研究会(高柳典子)
   2004/11/19 作成


■中国語原文(簡体字)The original text in simplified Chinese

  前几天,狼子村的佃户来告荒,对我大哥说,他们村里的一个大恶人,给大家打死了;几个人便挖出他的心肝来,用油煎炒了吃,可以壮壮胆子。我插了一句嘴,佃户和大哥便都看我几眼。今天才晓得他们的眼光,全同外面的那伙人一模一样。
  想起来,我从顶上直冷到脚跟。
  他们会吃人,就未必不会吃我。

   鲁迅 《狂人日记》
   E-text at Lu Xun Home Page


■更新履歴 Change log

2013/05/24 フランス語訳を追加しました。
2012/03/19 William A. Lyell によるもう一つの英訳を追加しました。
2012/03/02 ロシア語訳を追加しました。
2012/01/28 スペイン語訳を追加しました。
2009/04/14 藤井省三=訳 2009/04 を追加しました。
2006/11/30 井上紅梅=訳 1932/11/18 を追加しました。


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肉饅頭の肉 - 水滸伝 Water Margin

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忠義水滸全書 Image source: Wikimedia Commons
 
 
■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 駒田 2005
女はつづけさまに四、五へん酒をつぎ、そしてかまどから肉饅頭を蒸籠(せいろ)で一枚ぶんはこんできて机の上においた。役人はふたりともすぐに手を出してむしゃむしゃやり出したが、武松は、ひとつとりあげてぱくんと割ってなかをあらためながら、「おい、この肉饅頭は人間の肉か犬の肉か」
 女はにこにこしながら、
「お客さんご冗談を。この太平無事なご時世に、人間の肉饅頭や犬の肉饅頭があるものですか。あたしのところの肉饅頭は、先祖代々、牛ときまっておりますわ」
(……)
「この饅頭の餡(あん)のなかに、人間のあそこの毛のようなのが何本かはいってやがるんで、そうじゃないかと思ったのさ」
(……)
「これだけ肉付きがよけりゃ、牛肉として売るのはおあつらえむきだ。むこうの痩せっぽちは水牛ってとこか。かつぎこんで、まずこいつから料理だ」

   第二十七回 母夜叉 孟州道に人肉を売り 武都頭 十字坡に張青に遇う
   施耐庵=著 駒田信二=訳
   1a. 水滸伝2』(全8巻) ちくま文庫 2005/08    
   1b. 中国古典文学大系28 水滸伝(上)』(全60巻)
      平凡社 1967/10
   1b. は、細部の違いを除き 1a. とほぼ同文。
   引用は 1a. に拠りました。
 
 
(J2) 松枝 2001
 女はにこにこしながら、中から料理をはこんできた。ふたりの護送人はさっそく肉饅頭(にくまんじゅう)をぱくついた。
 武松(ぶしょう)は一つ取ると、中をわってみて、さけんだ。
「おい、おかみさん、この饅頭(まんじゅう)のあんは人間の肉じゃないか? それとも犬の肉(にく)かな?」
 女はにこにこ笑いながら、「あら、お客さんはご冗談ばっかり。太平無事のご時世に、人間の肉や犬の肉のお饅頭があるものですか。うちのお饅頭は先祖代々黄牛(あめうし)でございますよ」
(……)
「そうかね? あんの中にどうも人間の毛のようなのがはいっているから、そうじゃないかと思ったんだ……」
(……)
「(……)こいつはふとっているから、黄牛の肉として売れるよね。あのふたりはやせているから、せいぜい水牛の肉ってところだけど……」

[原文にあるルビを、一部略しました - tomoki y.]

   二五 孫二娘、十字坡にて人肉饅頭を売ること
   施耐庵(し・たいあん)=作 松枝茂夫=編訳
   『水滸伝(中)』(全3冊) 岩波少年文庫(初版 1959/10|新版 2001/06)
 
 
(J3) 吉川+清水 1998
つづけさまに四、五わたり酒をつぎますと、台所へ行って取って来た饅頭一籠、それを食卓の上におきます。警吏二人は、取り上げるなりすぐ食べましたが、武松は一つ取って割って見て、
 「おい酒屋、この饅頭の餡は、人の肉か犬の肉か。」
 女、ひひひと笑って、「旦那、ご冗談でしょう。この太平の世の中に、お天道様の照ってる下で、人肉の饅頭、犬の肉のご馳走などあるものですか。昔からうちの饅頭は、先祖代々黄牛(あめうし)の餡です。」
(……)
 武松、「この饅頭の餡には、毛が何本かまじってるが、人間のあそこの毛とよく似ている。それで疑ぐったのだ。」
(……)
 「これだけ肥えてりゃ、黄牛(あめうし)の肉にして売るのにもってこい。そちらの痩せた下っ端二人は、せいぜい水牛の肉とするぐらいだがね。さあかついで行って、まずこいつから料理しよう。」

   第二十七回 母夜叉 孟州道にて人肉を売り 武都頭 十字坡にて張青に遇う
   吉川幸次郎+清水茂=訳
   『完訳 水滸伝3』(全10冊) 岩波文庫 1998/12
 
 
(J4) 嵐山 1998
護送役は、腹が減っていたせいもあって、だされた肉まんじゅうをがつがつと食べた。武松はその肉まんじゅうを食おうとして、
「おい、ちょっと、このまんじゅうのなかの肉は、人間の肉じゃないだろうな。」
ときいてみた。女は、
「人間の肉を食べさせるわけないでしょう。うちの肉は、牛肉のいちばん上等なところを使っていますよ。」「そうかな、まんじゅうのなかに、ちりちりと縮れた毛がはいっていたから、人の毛じゃないかと思ってきいてみたんだよ。」
(……)
「……この男は太っているから、上等の肉になるわよ。さっきの護送役は、スープのだしね。やせてるからね。」

[原文は総ルビですが、ここでは省略しました - tomoki y.]

   15 なぞの居酒屋
   嵐山光三郎(あらしやま・こうざぶろう)=文(再話)
   施耐庵(し・たいあん)=原作 譚小勇(たん・しょうゆう)=絵
   『痛快世界の冒険文学11 水滸伝』 講談社 1998/08
 
 
(J5) 杉本+中村 1977
ふたりの役人はすぐにむしゃむしゃやりはじめたが、武松はひとつを手にすると、割(わ)ってみて首をひねった。
「おかみさん、このまんじゅうの中味は、犬の肉かい、人間の肉かい。」
「お客さん、ごじょうだんばっかり。うちのはむかしから牛肉ですよ。」
「だって、あやしい毛がはいっているぞ。」
(……)
「きょうは三びきも仕入れたんで、当分肉まんじゅうの材料にこまらないわね。(……)」

   あやしい肉まんじゅう
   杉本達夫+中村愿(なかむら・すなお)=訳
   『水滸伝(上)』 中国の古典文学11 さ・え・ら書房 1977/06
 
 
(J6) 佐藤一郎 1975
たてつづけに四、五回酒を注(つ)ぐと、竈(かまど)のところから蒸籠(せいろう)をひと重ね取ってきて卓上に置いた。役人はふたりとも手を伸ばして食べたが、武松はひとつつまんで割ってみて、
「おい、おかみ。この饅頭は人間の肉か、それとも犬の肉かい」
 女はにたにた笑って、
「お客さん、ご冗談ばっかり。このありがたいご時世に、人肉饅頭や犬の肉をつかう手があるもんですか。わたしどものは、代々、黄牛(あめうし)で通っておりますよ」
(……)
「この饅頭の餡(あん)の中に、人間さまのあそこの毛がまじっているので、ちょっくら解せねえと思ったわけさ」
(……)
「これだけよく肥えていりゃ牛肉として売っても立派に通るよ。あの痩せっぽちどもはせいぜい水牛の肉さね。ひっ担いでいって、こいつから先に腑分(ふわ)けするとするか」

   第二十六回 母夜叉 孟州道に人肉を売り 武都頭 十字坡に張青に遇う
   金聖嘆(きん・せいたん)=著 佐藤一郎=訳
   『愛蔵版 世界文学全集5』 集英社 1975/03
 
 
(J7) 佐藤春夫 1952
(……)つづけざまに四五へん酒をつぎ、竈(かまど)のうへから蒸籠(せいろう)に一枚のまんじゆうを取つて來て、つくゑの上にさしだした。
 護送人等は、すぐ手づかみでパクついたが、武松は一つ取りあげると、割つて、なかの餡(あん)をみて、
 「おかみ、こいつァ人間の肉か、犬の肉か?」
 女はにったり顏で、
 「お客さん、ご常談(じやうだん)でせう。吹く風も枝をならさずってご當節(たうせつ)、どこに人間の肉や、犬の肉のおまんじゆうがございませう。あたしン(注1)とこのは前(まへ)っから名題(なだい)の黄牛(あめうし)のなんですよ。」
(……)
 「おらァこの餡のなかに、人間のあそこン(注2)とこの毛みたいのが二三本まじつてゐるので、聞いてみたのさ。」
(……)
 「(……)これだけ肥つてゐりや、黄牛(あめうし)の肉にして、だいぢやうぶ、賣れるだらうし、あっちの痩(や)せたのは水牛の肉ってとこだね。かつぎ込んで、こいつから、さきにつぶすさ。」

(注1) (注2) ともに、原文は小さい「ン」。 - tomoki y.

   第二十七囘 母夜叉 孟州道に人肉を賣り 武都頭 十字坡に張青に遇ふ
   佐藤春夫=譯 『新譯 水滸傳3』 中央公論社 1952/11
 
 
(J8) 幸田 1940, 2000
(……)一連に四五巡の酒を篩ぎ、竈上去り一籠の饅頭を取り來り、卓子上に放在す。兩箇の公人拏起し來りて便ち喫す。武松一箇を取りて拍開し看了す。叫び道ふ、酒家、這の饅頭は是人肉的か是狗肉的か?。那の婦人〓〓笑ひ道ふ、客官、笑を取るを要するを休めよ、清平の世界、蕩蕩たる乾坤、那裏に人肉的饅頭、狗肉的滋味有らん、我家の饅頭は積祖より黄牛的なり。
(……)
 我見る這の饅頭の餡の内に幾根の毛有り、一に人の小便の處的の毛に像て一般なり、此を以て疑忌す。
(……)
 這等肥胖せるは、好し黄牛肉と做して賣るに、那の兩箇の痩蠻山子は只好し水牛肉と做して賣るに、扛進し去りて先づ這厮を開剥せん。
(#〓〓は〔口に喜〕を2字重ねる)

[原文は次のとおり総ルビ]
(……)一連(れん)に四五巡(じゆん)の酒(さけ)を篩(つ)ぎ、竈上(さうじやう)去(よ)り一籠(ろう)の饅頭(まんぢう)を取(と)り來(きた)り、卓子上(たくしじやう)に放在(はうざい)す。兩箇(りやうこ)の公人(こうじん)拏起(だき)し來(きた)りて便(すなは)ち喫(きつ)す。武松(ぶしよう)一箇(こ)を取(と)りて拍開(はくかい)し看了(かんれう)す。叫(よ)び道(い)ふ、酒家(しゆか)、這(こ)の饅頭(まんぢう)は是(これ)人肉的(じんにくてき)か是(これ)狗肉的(くにくてき)か?。那(か)の婦人(ふじん)〓〓笑(わら)ひ道(い)ふ、客官(かくくわん)、笑(わらひ)を取(と)るを要(えう)するを休(や)めよ、清平(せいへい)の世界(せかい)、蕩蕩(たうたう)たる乾坤(けんこん)、那裏(いづく)に人肉的(じんにくてき)饅頭(まんぢう)、狗肉的(くにくてき)滋味(じみ)有(あ)らん、我家(わがいへ)の饅頭(まんぢう)は積祖(せきそ)より黄牛的(くわうぎうてき)なり。
(……)
 我(われ)見(み)る這(こ)の饅頭(まんぢう)の餡(あん)の内(うち)に幾根(いくこん)の毛(け)有(あ)り、一に人(ひと)の小便(せうべん)の處的(ところてき)の毛(け)に像(に)て一般(ぱん)なり、此(ここ)を以(もつ)て疑忌(ぎき)す。
(……)
 這等(かく)肥胖(ひはん)せるは、好(よ)し黄牛肉(くわうぎうにく)と做(な)して賣(う)るに、那(か)の兩箇(りやうこ)の痩蠻山子(さうばんさんし)は只(ただ)好(よ)し水牛肉(すゐぎうにく)と做(な)して賣(う)るに、扛進(かうしん)し去(さ)りて先(ま)づ這厮(こやつ)を開剥(かいはく)せん。
(#〓〓は〔口に喜〕を2字重ねる)

   第二十七回 母夜叉孟州道に人肉を賣り、武都頭十字坡に張青に遇ふ
   幸田露伴=譯註 「國譯水滸傳」(國譯忠義水滸全書 上卷)
   8a.国訳漢文大成 第7巻 文学部第二集(上)
      日本図書センター 2000/09
   8b.國譯漢文大成 第四卷 文學部第二輯
      國民文庫刊行會 1940/02(昭和15)
   8a.8b. の複製。引用は 8b. に拠りました。
 
 
(J9) 岡島 1907
五七碗(わん)篩(つぎ)ければ。又肉包(にくはう)を持(もつ)て座(ざ)上に出ける處に。武松先これを執(とつ)て。二(ふた)つに開(わり)。乃ち其内を看(み)て云けるは。此肉包(にくはう/ニクマンヂウ)は人肉(にく)を用ひぬるや。彼女打咲(わらつ)て曰。客官戲(たわむれ)を云玉ふことなかれ。今の世(よ)に何ぞ人肉の肉包(にくはう/ニクマンヂウ)あらんや。我が家の肉包(にくはう/ニクマンヂウ)は先祖(せんぞ)より牛肉(ぎうにく)を用ひ候ふなり。(……)武松が曰。我此肉包(にくはう/ニクマンヂウ)の内の肉(にく)を見るに。人の頭髪(かみのけ)あり。是に因(よつ)て我これを疑(うたが)ふ。(……)

   第五十四囘 武都頭十字坡遇張青
   〔羅貫中=著〕 岡島冠山=譯編
   『忠義水滸傳(前編)』(前後二冊) 共同出版株式會社 1907(明治40)
 
 
■中国語原文(簡体字)The original text in simplified Chinese

一连筛了四五巡酒,去灶上取一笼馒头来放在桌子上。两个公人拿起来便吃。武松取一个拍开看了,叫道:“酒家,这馒头是人肉的,是狗肉的?”那妇人嘻嘻笑道:“客官,休要取笑。清平世界,荡荡乾坤,那里有人肉的馒头,狗肉的滋味。我家馒头积祖是黄牛的。”
[略]
武松道:“我见这馒头馅内有几根毛——一像人小便处的毛一般,以此疑忌。”
[略]
“这等肥胖,好做黄牛肉卖。那两个瘦蛮子只好做水牛肉卖。扛进去先开剥这厮用!”

   施耐庵 《水浒传》
   第二十六回  母夜叉孟州道卖人肉 武都头十字坡遇张青
   E-text at 百万书库 (millionbook.com)


■中國語原文(繁體字)The original text in traditional Chinese

一連篩了四五巡酒,去 上取一籠饅頭來放在桌子上。兩個公人拿起來便喫。武松取一個拍開看了,叫道:『酒家,這饅頭是人肉的,是狗肉的?』那婦人嘻嘻笑道:『客官,休要取笑。清平世界,蕩蕩軟乾坤;那裏有人肉的饅頭,狗肉的滋味。我家饅頭積祖是黃牛的。』
[略]
武松道:『我見這饅頭餡有幾根毛--一像人小便處的毛一般,以此疑忌。』
[略]
『這等肥胖,好做黃牛肉賣。那兩個瘦蠻子只好做水牛肉賣。扛進去先開剝這廝用!』

   施耐庵 《水滸傳》
   第二十六回 母夜叉孟州道賣人肉 武都頭十字坡遇張青
   E-text at 熾天使書城 (angelibrary.com)


■日本語訳と中国語原書の章立て
 Variation of chapter numbers in the Japanese translation and
 the Chinese original

上の引用の出典表示が、それぞれ「第二十六回」であったり「第二十七回」であったり、その他であったり、バラバラなのには理由があります。

水滸伝は、その成立当初から今日にいたるまでのあいだに、「回」の追加、削除、回数の振り直しなどの変遷があります。

中国では、今日いわゆる「七十回本」または「七十一回本」が一般的であるのに対して、日本ではふつう「百二十回本」や「百回本」が読まれ、七十回本はあまり紹介されていません。そのため、原書と訳本の各版のあいだで回数の付け方に、ずれが生じることがあるのです。

   参考:水滸伝の原本 - Wikipedia
 
 
■吉川英治『新・水滸伝』の場合 Shin Suikoden by Eiji Yoshikawa

『三国志』とならんで永年多くの読者に愛されている吉川英治氏の『新・水滸伝』は、いうまでもなく、たいへんすぐれた娯楽作品です。けれども、上に引用したような日本語訳とは、同列にあつかえません。やはり翻訳ではなく、一種の再話と呼ぶべきでしょうか。

   十字坡(じは)の毒苺(どくいちご)は、蛇も食わないよ
   苺酒(いちござけ)は人間の血
   肉饅頭を割ると、亡霊の声がするよ

土地の童(わっぱ)が謡うという、無気味な唄を挿入して、雰囲気を出しているところは、さすがに味があります。しかし、武松と孫二娘(=おかみ)とのあいだの、ある種とぼけたユーモアのただよう会話部分は、はしょってあります。完訳版とくらべると、こういった細部のちがいは、気になってしまいます。でも、そもそも吉川英治作品を、そんなふうに重箱の隅を楊子でほじくるような読み方をすること自体が、そもそもまちがっているのでしょう。

  唄の出典は、
   * 吉川英治 『新・水滸伝(二)』 吉川英治文庫121 講談社 1975/03
  ほかに、
   * 吉川英治 『新・水滸伝(二)』 六興出版 1991/11
   * 吉川英治 『新・水滸伝(二)』 吉川英治歴史時代文庫72 講談社 1989/06
  などもあります。
 
 
■参考 For your information

水滸伝と「人食い」の関係については、たとえば下の本に読みやすい考察があります。

   高島俊男=著 『水滸伝の世界』 八 人を食った話
   単行本:大修館書店 1987/10 文庫:筑摩書房 2001/12
 
 
■英訳、映画、テレビ、マンガなど Translations and adaptations

英訳版、および映画、テレビ、マンガなどの翻案については、下の Wikipedia 各項をご参照ください。

   * Water Margin | Translations - Wikipedia
   * Water Margin | Modern transformations - Wikipedia
 
 
■更新履歴 Change log

2007/12/02 幸田露伴=譯 2000/09, 1940/02 を追加しました。
2007/05/12 杉本達夫+中村愿=訳 1977/06 を追加しました。
2006/12/11 参考の項を新設しました。
2006/12/08 (1) 嵐山光三郎=文(再話)1998/08 を追加しました。
         (2) 吉川英治『新・水滸伝』の場合の項を新設しました。
         (3) 英訳、映画、テレビ、マンガなどの項を新設しました。
2006/11/30 松枝茂夫=編訳 2001/06 および佐藤一郎=訳 1975/03 を
         追加しました。
2006/11/29 佐藤春夫=譯 1952/11 を追加しました。
2006/11/28 吉川幸次郎+清水茂=訳 1998/12、および岡島冠山=譯編
         1907 を追加しました。


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Monday, 20 November 2006

A Modest Proposal by Jonathan Swift スウィフト 「慎ましき提案」「ささやかな提案」「つつましい提案」「ある控え目な提案」

        目次 Table of Contents

■はじめに Introduction
  Video   A Modest Proposal by $trick9 and the Truth
【警告! Warning! 】
■日本語訳 Translations into Japanese
  (J1) 原田 2015
  (J2) 柴田 2011
  (J3) SOGO 2001
  (J4) 田中 1986
  (J5) 平井 1968, 2007
  (J6) 山本 1968
  (J7) 深町 1950, 1988
  (J8) 夏目 1909, 1995
 The Book 
■ロシア語訳 Translation into Russian
■イタリア語訳 Translation into Italian
■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese
■スペイン語訳 Translation into Spanish
■フランス語訳 Translation into French
 Audio 1  英語原文の朗読: Mr. Frerking Audiobook read by Mr. Frerking
 Audio 2  英語原文の朗読: クリス・シュルツ Audiobook read by Chris Schultz
 Audio 3  英語原文の朗読: ジョン・ゴンザレス Audiobook read by John Gonzales
■英語原文 The original text in English
■邦題の異同 Variations of the title translated into Japanese
■外部リンク External links
■更新履歴 Change log


■はじめに Introduction

『ガリヴァー旅行記』の作者が、祖国アイルランドの貧困について書いた、痛烈でグロテスクな皮肉。


  Video  
A Modest Proposal by $trick9 and the Truth

スウィフトの痛烈な皮肉を現代に置き換えたヒップホップ版「つつましい提案」。アルバム 『Mother Earth』 に収録。iTunes からダウンロード購入可能。 Uploaded by yostrick9 on Mar 25, 2006. A Modest Proposal, in the album Mother Earth by $trick9 and the Truth, is available from iTunes.


【警告! Warning! 】
以下の引用は、あなたに不快感を催させるかもしれません。
とくにお食事前の方は、読むのを控えたほうがよいかもしれません。


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 原田 2015
ロンドンにいる私の知己で、いろいろなことをとてもよく知っているアメリカ人がいる。この人物によれば、大事に育てられた一歳になる健康な幼児は、たいへんおいしく、滋養にも優れ、実に結構な健康食品であり、シチューにしても炙っても焼いても煮てもよいそうである。フリカッセもしくはラグー〔いずれもシチューのような煮込み料理〕に相当すると言ってもよかろう。

それゆえ私がここで控えめながらも広くお考えいただきたいと思っていることは、次の通りである。すなわち、先に計算した一二万人の子供たちのうち、二万人は子孫のために残す。(略) そして残る一◯万人については、一歳になったならば、王国を通じて、身分も財産もある人々に売られていくということにする。母親たちには、特に最後のひと月はたっぷりと乳を飲ませ、丸々と太らせて食卓に提供できるよう常に留意させる。友人をもてなす場合、幼児一人で料理は二つできる。家族だけで食べようとする場合、まずは両手両足だけで十分であろう。残りは胡椒ないしは塩をちょっとふって味付けをし、四日目に煮て食べるのがよいだろう。特に冬場は最高だ。

  • ジョナサン・スウィフト=著 原田範行(はらだ・のりゆき)=訳 「慎ましき提案 アイルランドにおける貧民の子供たちが親や国の重荷とならぬようにするために、彼らが公益に資するようにするために。一七二九年執筆」 原田範行=編訳 『召使心得 他四篇 スウィフト諷刺論集』 平凡社ライブラリー 2015-01-10

(J2) 柴田 2011
小生の知人で、ロンドンに住む非常な物知りのアメリカ人が請けあったところによると、健康な子供は、十分乳を与えられていれば、一歳時にはこの上なく美味で、栄養も豊富、体によい食材であって、煮る、焙(あぶ)る、焼く、茹でる等いかようにも料理できるといい、小生個人としては蒸焼(フリカッセ)、煮込(ラグー)も等しく有望と信じる。

そこで、ここにおいて提示申し上げる案を、読者諸兄にご検討いただければと思う。まず、すでに計算した十二万の子供のなかで、二万は繁殖に供すべく残す。(略) 残った十万人を、一歳になった時点で、国中の、地位も資産もある方々に向けて売りに出すのである。その際、母親にはつねに、最後の一か月は、たっぷり乳を与え、よき食事となるべくぽっちゃり太らせておくよう促す。子供一体あれば、知人を招いての会食なら料理が二品出来る。家族のみの食事であれば、頭や尻の四分の一でまっとうな一品となろうし、若干の塩か胡椒で味付けて茹でれば(特に冬は)四日目でも十分美味であろう。


(J3) SOGO 2001
私はかつて、ロンドンで知り合った非常に物知りなアメリカ人から話を聞いたことがある。彼曰く、よく世話された健康な赤ん坊は、丸一歳を迎えると、とてもおいしく、滋養のある食物になるそうだ。シチューにしても、焼いてもあぶっても茹でてもいいとのことだった。たぶんフリカシーやラグー[#注二]にしてもいけるだろうと思う。

それゆえ、私は諸君に以下のことを考えていただこうと思っている。すでに計算した子供十二万人のうち、二万人を繁殖用に残しておく。(略) 残りの十万人は、満一歳になったら、国中の貴族や富豪に売りつける。母親に言い含めて、最後の一月にはたっぷりお乳を吸わせ、まるまると太らせて、どんな立派な献立にも出せるようにしておくことが肝要である。友人へのもてなしには子供一人で二皿分作ることができる。もし家族だけで食べるなら、四分の一もあればリーズナブルな料理となろう。塩か胡椒で少し味付けして、殺してから四日目に茹でればいい料理になるだろう。冬には特に十分煮込む必要がある。

   [#注二]ともに料理の名前。肉を細切りにし、フライやシチューにして、
   ソースをかけたもの。フリカシーの方は鶏、小鳥、兎などの肉を主として
   用いる。

  • スウィフト ジョナサン=作 SOGO=訳(責任編集) 「アイルランドにおける貧民の子女が、その両親ならびに国家にとっての重荷となることを防止し、かつ社会に対して有用ならしめんとする方法についての私案」 Copyright (C) 2001 by SOGO_e-text_library
  • E-text at 青空文庫 プロジェクト杉田玄白正式参加テキスト

(J4) 田中 1986
これは、ロンドンに住む私の知り合いで、物知りのアメリカ人からしかと聞いたことであるが、発育の良い、幼くて健康な子供は、一歳になると、非常にうまい、栄養たっぷりの、健全な食べ物になるのだそうである。シチューにしても、油で焼いても、あぶっても、煮てもいいのだという。そして疑いなく、フリカッセやラグーにしても十分用を足すに違いなかろう。

そこで、ここに謹んで皆さんにご考慮ねがいたいことがある。すでに算出した十二万人の子供のうち、二万人は種族保存のために取っておく方がよかろう。(略) 残りの十万人を、一歳で国中の貴人や金持ちの方々に売り込むのである。そうして母親たちには、最後の一か月の間はたっぷり乳を呑ませるように始終説き聞かせる。彼らを丸々と太らせてから食用に供するためである。子供一人で、友人の歓待用の二皿ぐらいにはなるだろう。それに家族だけで食事する時には、前後の四半分もあればけっこうましな料理になるし、こしょうや塩で少々味つけし、殺してから四日ぐらい経って茹(ゆ)でれば非常に美味になる。特に冬がいいということである。

  • スウィフト=著 田中光夫(たなか・みつお)=訳 「ある控え目な提案」 『スウィフト小品集』 山口書店 1986/11/25

(J5) 平井 1968, 2007
わたしの知人のあるアメリカの青年は、とても物知りの男だが、ロンドンでわたしに保証した。十分健康で、栄養のよくとれた幼児は、一歳の時には、煮ても焼いても、蒸煮にしても、天火にかけても、美味で、とても栄養があり、とても健康によい食物だと。そしてわたしは同じように、フリカセ・シチューにも、あるいはラグー・シチュー[訳注]にも使いうることを疑わない。

そこでわたしはつつましやかに計画を述べて、公衆の考察にまかせたい。以上算出された十二万の子供のうち、二万は種の繁殖のためにのこしておいてよい。(略) 残る十万の子供は、一歳のときに、王国全体の上流の人々や財産家たちに売り立てられることができる。ただいつでも、母親に、知らせておくのだ。最後の月には、どっさりとかれらに乳をやっておき、子供たちをまるまると肥えふとらせて、よい食物となるようにしておくようにと。一人の子供は、友人を招いての食事の席で、二人前の料理となるだろう。家族だけで食事する時には、身体の前半分、あるいは後半分は、すこし胡椒と塩をふりかければ、恰好の、なかなか乙な料理となり、四日目に、冬などは特に、ゆで肉にすれば、たいへん結構な味わいとなろう。

   [訳注]フリカセは細切り肉のシチュー料理。ラグーは胡椒を多く加え、
   野菜を煮込んだシチュー料理。

  • ジョナサン・スウィフト=著 平井照敏(ひらい・てるとし)=訳 「アイルランドの貪民の子供たちが その両親あるいは郷国に負担とならず、公衆にたいして有益なものとなるためのつつましい提案」 アンドレ・ブルトン=編著 山中散生+窪田般弥+小海永二(ほか)=訳
  • a. は b. を底本として、新たに編集を加えたもの。引用は a. 河出文庫版に拠りました。

(J6) 山本 1968
私がロンドンで知りあいになった大層物知りのアメリカ人がはっきり言ったことだが、ちゃんと育てられた健康な子供は、一歳の時が、極めて美味で滋養にとみ、健康によい食物で、シチューによく、焙ってよく、焼いてよく、煮てよいそうである。さらにまた、フリカッセにしてもラグーにしてもいいだろうと私は確信する。

そこでどうか次の提案を御考察いただきたい。上に算出せる十二万のうち二万を繁殖用に残す。(略) 残った分は一歳になった時に、全国の貴族や富豪に売りつけることができよう。母親には忠告して、最後の一月にはたっぷり乳を飲ませて、子供が立派な献立にむくように丸々肥らせる。友人の歓待には、子供一人で二品できる。家族だけの食事であれば、頭や尻の四分の一だけでかなりの料理になる。少量の胡椒か塩で味つけし、四日目に茹でるとおおいによろしい。冬は殊更である。

  • ジョナサン・スウィフト=著 山本和平(やまもと・わへい)=訳 「アイルランドの貪民の子供たちが両親及び国の負担となることを防ぎ、国家社会の有益なる存在たらしめるための穏健なる提案」 『書物合戦・ドレイピア書簡 ほか3編』 古典文庫 現代思潮社 1968/06

(J7) 深町 1950, 1988
ロンドンで知合になった大變物識のアメリカ人の話によると、よく育った健康な赤ん坊は丸一歳になると、大變美味(うま)い滋養のある食物になる。スチューにしても焼いても炙(あぶ)っても茹(ゆ)でてもいいそうだが、フリカシーやラグーにしてもやはり結構だろうと思う。

それ故、以下私見を述べて大方の御考慮を煩わす次第である。先に計算した十二萬の子供の中二萬は子孫繁殖用に保留しておく(略) 殘った十萬を丸一歳になったら國中の貴族、富豪に賣りつける。母親に忠告して、最後の一月(ひとつき)はたっぷり乳を飲ませ、どんな立派なお獻立にも出せるように丸々と肥らしておくことが肝要である。友人を招待するなら赤ん坊一人で二品の料理が出來る。家族だけなら、頭の方でも脚の方でも四半分で相當の料理が出來る。少量の胡椒、鹽で味をつけ、殺してから四日目に茹(ゆ)でると丁度よい、特に冬分はそうである。

  • スウィフト=作 深町弘三(ふかまち・こうぞう)=訳 「貧家の子女がその兩親並びに祖國にとっての重荷となることを防止し、且社會に對して有用ならしめんとする方法についての私案」
  • a. は b. を底本にして、旧字を新字に改めたもの。引用は b. 岩波文庫版に拠りました。

(J8) 夏目 1909, 1995
余は嘗(かつ)て倫敦(ロンドン)で懇意に成つた物識りの亜米利加(アメリカ)人から、当才位の赤ん坊は健全でよく育つてさへ居れば、スチユーにしても、焼いても、炙(あぶ)つても茹(ゆで)ても実に美味(うま)いもので、滋養分に富んで居るといふことを聞いたことがあるが、フリカシーやラグーにしてもかなり喰へるだらうと思ふ。

そこで余は謹んで世人の一顧を煩はしたい。外でもないが、今計算致した児童十二万の中で、二万人だけは子孫繁殖の為に残して置いても宜(よろ)しいとする。(略) 偖(さ)て自余の十万人をば、一歳位生長したところで、国中の貴族又は富豪へ売附ける。それには母親に忠告して、その一箇月位前から乳を沢山に呑ませて、立派な献立てにも出せるやうに肥(ふと)らせて置く必要がある。もし友人を招待するなら小児一人で二皿位は出来る。家族だけなら胴の方でも足の方でも構はない、四半分で沢山である。それから胡椒と塩で味を附けて殺してから四日目位に茹(ゆで)ると丁度好い、冬は尚更(なおさら)然(そ)うである。

  • スウィフト=作 夏目漱石=訳 「愛蘭土(アイルランド)に於ける貧家の児女の両親及び国家に負担と成ることを除き、彼等をして社会に有用の材たらしめんとする卑見」
    • 夏目金之助=著 『漱石全集15 文学評論』(全28巻・別巻1) 岩波書店 1995/06 第四編 スヰフトと厭世文学 『ガリヷー旅行記』
    • 夏目金之助=著 『文学評論』 春陽堂 1909/03(明治42)
  • a. の底本は b.。b. は漱石が東京帝国大学文科大学で行なった「講義」を「訂正」「書き直し」て出版したもの。引用は a. 漱石全集版に拠りました。

 The Book 

A_modest_proposal
A Modest Proposal and Other Prose (Library of Essential Reading Series)
by Jonathan Swift, Lewis C. Daly (Introduction)
Image source: Barnes & Noble.com


■ロシア語訳 Translation into Russian

Один очень образованный американец, с которым я познакомился в Лондоне, уверял меня, что маленький здоровый годовалый младенец, за которым был надлежащий уход, представляет собою в высшей степени восхитительное, питательное и полезное для здоровья кушанье, независимо от того, приготовлено оно в тушеном, жареном, печеном или вареном виде. Я не сомневаюсь, что он так же превосходно подойдет и для фрикассе или рагу.

Я беру на себя смелость просить всех обратить внимание и на то обстоятельство, что из учтенных нами ста двадцати тысяч детей двадцать тысяч можно сохранить для дальнейшего воспроизведения потомства, [Omission] Остальные же сто тысяч, достигнув одного года, могут продаваться знатным и богатым лицам по всей стране. Следует только рекомендовать матерям обильно кормить их грудью в течение последнего месяца, с тем чтобы младенцы сделались упитанными и жирными и хорошо годились бы в кушанье для изысканного стола. Из одного ребенка можно приготовить два блюда на обед, если приглашены гости; если же семья обедает одна, то передняя или задняя часть младенца будет вполне приемлемым блюдом, а если еще приправить его немного перцем или солью, то можно с успехом употреблять его в пищу даже на четвертый день, особенно зимою.

  • Джонатан Свифт. Скромное предложение, имеющее целью не допустить, чтобы дети бедняков в Ирландии были в тягость своим родителям или своей родине, и, напротив, сделать ихzполезными для общества 
  • E-text at Инвалиды ума или Снимая маски (на минуту)

■イタリア語訳 Translation into Italian

Un Americano, mia conoscenza di Londra, uomo molto istruito, mi ha assicurato che un infante sano e ben allattato all’età di un anno è il cibo piú delizioso, sano e nutriente che si possa trovare, sia in umido, sia arrosto, al forno, o lessato; ed io non dubito che possa fare lo stesso ottimo servizio in fricassea o al ragú.

Espongo allora alla considerazione del pubblico che, dei centoventimila bambini già calcolati, ventimila possono essere riservati alla riproduzione della specie, [Omission] I rimanenti centomila, all’età di un anno potranno essere messi in vendita a persone di qualità e di censo in tutto il Regno, avendo cura di avvertire la madre di farli poppare abbondantemente l’ultimo mese, in modo da renderli rotondetti e paffutelli, pronti per una buona tavola. Un bambino renderà due piatti per un ricevimento di amici; quando la famiglia pranzerà da sola, il quarto anteriore o posteriore sarà un piatto di ragionevoli dimensioni e, stagionato, con un po’ di pepe e sale, sarà ottimo bollito al quarto giorno, specialmente d’inverno.


■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese

Eu tenho sido assegurada por um americano muito saber do meu conhecimento, em Londres, que uma criança saudável e bem nutrido é menos um ano de idade um alimento mais delicioso, nutritivo e saudável, seja cozido, assado, cozido ou cozido; e eu faço nenhuma dúvida de que ele vai igualmente servir em um fricassé ou um ragu.

Faço, portanto, humildemente ofereço a consideração pública do que cento e vinte mil crianças já computados, 20.000 podem ser reservados para a raça, [Omission] Que os restantes cem mil pode, em um ano de idade, ser oferecidos na venda para as pessoas de qualidade e fortuna através do reino, sempre aconselhando a mãe a deixá-los sugar abundantemente no último mês, de modo a torná-los gordo e gordura para uma boa mesa. A criança vai fazer dois pratos em um entretenimento para os amigos, e quando a família janta sozinha, a frente ou de traseira trimestre vai fazer um prato razoável, e temperado com um pouco de pimenta ou sal será muito bom fervido no quarto dia, especialmente em inverno.

  • Uma proposta modesta: Para impedir que os filhos das pessoas pobres da Irlanda sejam um fardo para os seus progenitores ou para o país, e para torná-los proveitosos ao interesse público by Jonathan Swift
  • E-text at Maneco Retalhando

■スペイン語訳 Translation into Spanish

Me ha asegurado un americano muy entendido que conozco en Londres, que un tierno niño sano y bien criado constituye al año de edad el alimento más delicioso, nutritivo y saludable, ya sea estofado, asado, al horno o hervido; y no dudo que servirá igualmente en un fricasé o un ragout.

Ofrezco por lo tanto humildemente a la consideración del público que de los ciento veinte mil niños ya calculados, veinte mil se reserven para la reproducción, [Omission]  De manera que los cien mil restantes pueden, al año de edad, ser ofrecidos en venta a las personas de calidad y fortuna del reino; aconsejando siempre a las madres que los amamanten copiosamente durante el último mes, a fin de ponerlos regordetes y mantecosos para una buena mesa. Un niño llenará dos fuentes en una comida para los amigos; y cuando la familia cene sola, el cuarto delantero o trasero constituirá un plato razonable, y sazonado con un poco de pimienta o de sal después de hervirlo resultará muy bueno hasta el cuarto día, especialmente en invierno.

  • Una modesta proposición para prevenir que los niños de los pobres de Irlanda sean una carga para sus padres o el país, y para hacerlos útiles al público by Jonathan Swift
  • E-text at Valdeperrillos.com

■フランス語訳 Translation into French

«J'ai été assuré par un Américain de ma connaissance à Londres, homme très capable, qu'un jeune enfant bien portant, bien nourri, est, à l'âge d'un an, une nourriture tout à fait délicieuse, substantielle et saine, rôti ou bouilli, à l'étuvée ou au four; et je ne doute pas qu'il ne puisse servir également en fricassée ou en ragoût.

«Je prie donc humblement le public de considérer que des cent vingt mille enfants, on en pourrait réserver vingt mille pour la reproduction de l'espèce, [Omission] et que les cent mille autres pourraient, à l'âge d'un an, être offerts en vente aux personnes de qualité et de fortune dans tout le royaume, la mère étant toujours avertie de les faire téter abondamment le dernier mois, de façon à les rendre charnus et gras pour les bonnes tables. Un enfant ferait deux plats dans un repas d'amis; quand la famille dîne seule, le train de devant ou de derrière ferait un plat très raisonnable; assaisonné avec un peu de poivre et de sel, il serait très bon, bouilli, le quatrième jour, particulièrement en hiver.


 Audio 1 
英語原文のオーディオブック—— Mr. Frerking による朗読
Audiobook in original English read by Mr. Frerking

下に引用する箇所の朗読は 5:06 から。 Uploaded to YouTube by FULL audio books for everyone on 4 Nov 2012. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 5:06.


 Audio 2 
英語原文のオーディオブック——クリス・シュルツによる朗読
Audiobook in original English read by Chris Schultz

下に引用する箇所の朗読は 4:25 から。 Uploaded to YouTube by XanthusKidd on 11 Apr 2012. Reading of the excerpt below starts at 4:25.


 Audio 3 
英語原文のオーディオブック——ジョン・ゴンザレスによる朗読
Audiobook in original English read by John Gonzales

下に引用する箇所の朗読は 6:39 から。 Uploaded to YouTube by audiobooksfree on 30 Sep 2011. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 6:39.


■英語原文 The original text in English

I have been assured by a very knowing American of my acquaintance in London, that a young healthy child well nursed, is, at a year old, a most delicious nourishing and wholesome food, whether stewed, roasted, baked, or boiled; and I make no doubt that it will equally serve in a fricasie, or a ragoust.

I do therefore humbly offer it to publick consideration, that of the hundred and twenty thousand children, already computed, twenty thousand may be reserved for breed [Omission]  That the remaining hundred thousand may, at a year old, be offered in sale to the persons of quality and fortune, through the kingdom, always advising the mother to let them suck plentifully in the last month, so as to render them plump, and fat for a good table. A child will make two dishes at an entertainment for friends, and when the family dines alone, the fore or hind quarter will make a reasonable dish, and seasoned with a little pepper or salt, will be very good boiled on the fourth day, especially in winter.


■邦題の異同 Variations of the title translated into Japanese

  • 「アイルランドにおける貧民の子女が、その両親ならびに国家にとっての重荷となることを防止し、かつ社会に対して有用ならしめんとする方法についての私案」
                                   SOGO, 2001
  • 「アイルランドの貧しい人びとの子供を、その両親と国家の負担となることより防ぎ、かえって彼らをして社会に有益なものたらしめるためになされた、ある控え目な提案」
                                   田中 1986
  • 「アイルランドの貪民の子供たちが その両親あるいは郷国に負担とならず、公衆にたいして有益なものとなるためのつつましい提案」
                                   平井 1968, 2007
  • 「アイルランドの貪民の子供たちが両親及び国の負担となることを防ぎ、国家社会の有益なる存在たらしめるための穏健なる提案」
                                   山本 1968
  • 「愛蘭土(アイルランド)に於ける貧家の児女の両親及び国家に負担と成ることを除き、彼等をして社会に有用の材たらしめんとする卑見」
                                   夏目 1909, 1995
  • 「貧家の子女がその兩親並びに祖國にとっての重荷となることを防止し、且社會に對して有用ならしめんとする方法についての私案」
                                   深町 1950, 1988
  • 「貧民の子が両親や国の重荷となるを防ぎ公共の益となるためのささやかな提案」
                                   柴田 2011
  • 「慎ましき提案
    アイルランドにおける貧民の子供たちが親や国の重荷とならぬようにするために、彼らが公益に資するようにするために」
                                   原田 2015

■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2016/03/06 原田範行=訳 2015-01-10 を追加しました。
  • 2013/07/31 目次を新設しました。
  • 2013/03/27 エミリー・フォーゲルによる朗読の YouTube 画面を追加しました。
  • 2012/10/08 2種類の英語版オーディオブックの YouTube 画面を追加しました。
  • 2012/07/16 ロシア語訳とポルトガル語訳を追加しました。
  • 2011/07/03 柴田元幸=訳 2011-04-20 の訳文を挿入しました。また、イタリア語訳を追加しました。
  • 2011/06/29 「はじめに」の項を新設しました。また、柴田元幸=訳 2011-04-20 の書誌情報を追加しました。訳文は追って挿入するつもりです。さらに、ブログ記事のタイトルに邦題「ささやかな提案」を追加しました。
  • 2011/05/23 スペイン語訳を追加しました。
  • 2011/04/04 田中光夫=訳 1986/11/25 を追加しました。また、「邦題の異同」の項を新設しました。さらに、ブログ記事のタイトルに邦題「ある控え目な提案」を追加しました。
  • 2011/02/02 フランス語訳を追加しました。
  • 2010/06/20 $trick9 and the Truth によるヒップホップ版 A Modest Proposal の YouTube 動画を追加しました。
  • 2006/02/10 平井照敏=訳 2007/08 を追加しました。
  • 2006/11/28 山本和平=訳 1968/06 を追加しました。

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Wednesday, 15 November 2006

人肉を食う - 陶宗儀《輟耕録》

 Image 1 
ブラジルのカニバリズム Cannibalism, Brazil

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Cannibals23232_2
Cannibalism in Brazil in 1557 as alleged by Hans Staden. Image source: Wikipedia


■日本語訳 Translation into Japanese

天下をあげて戦乱のルツボと化した今日、淮右(わいゆう)(淮水の上流地方、淮西ともいう)の兵士は好んで人肉を食っている。小児の肉を上とし、婦人の肉これに次ぎ、男子のそれは下等とする。これを二つの甕(かめ)の間に坐らせておいて、外から火で焼くか、或いは鉄架の上で生きながら炙(あぶ)るか、或いはその手足を縛り、まず沸騰した湯をかけてから、竹箒(ほうき)で苦い皮を刷きとるか、或いは袋の中に入れ、大鍋(なべ)で生きたまま煮るか、或いは切りさいて刺身に作って淹(ひた)すか、或いは男子だとその両足だけを切り取り、女だと特にその両乳をえぐり取るかする。そのさまざまの残虐さは一々口にいえないくらいである。これらをひっくるめた名称を「想肉(シアンロー)」というのは、これを食って人をしてこれを想わしめるという意味である。

  • 陶宗儀=著 松枝茂夫=訳 「人肉を食う」 (輟耕録より)
  • a. は b. 所収の訳文を再録したもの。引用は a. 河出文庫版 1992 に拠りました。

 Image 2 
輟畊録 第六卷 想肉

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Photo
タイトル: 輟畊録30卷. [3] 著者: 元陶宗儀撰 出版者: 毛氏汲古閣刊 出版年月日: 崇禎 Image source: 国立国会図書館デジタルコレクション


■中国語原文(簡体字) The original text in simplified Chinese

天下兵甲方殷,而淮右之军嗜食人,以小儿为上,妇女次之,男子又次之。或使坐两缸间,外逼以火,或於铁架上生炙。或其手足,先用沸汤浇泼,却以竹帚刷去苦皮。或乘夹袋中,入巨锅活煮。或刲作事件而淹之。或男子则止断其双腿,妇女则特剜其两乳,酷毒万状,不可具言。总名曰“想肉”,以为食之而使人想之也。



■中國語原文(繁體字) The original text in traditional Chinese

天下兵甲方殷,而淮右之軍嗜食人,以小兒為上,婦女次之,男子又次之。或使坐兩缸間,外逼以火。或于鐵架上生炙。或縛其手足,先用沸湯澆潑,卻以竹帚刷去苦皮。或盛夾袋中,入巨鍋活煮。或作事件以淹之。或男子止斷其雙腿,婦女特剜其兩乳,酷毒萬狀,不可具言。總名曰“想肉”,以為食之而使人想之也。


■著者について About the author

  • 陶宗儀(とう・そうぎ Tao Zongyi)は、元末明初の文学者、著述家。主著は上に引用した『輟耕録(てつこうろく)』など。

■関連文献 Related documents

  • ブログ 宣和堂遺事 | 中国史
  • 桑原隲藏「支那人の食人肉風習」
       電子テキスト at 青空文庫
       底本:『桑原隲藏全集 第一卷 東洋史説苑』岩波書店 1968/02/13
       底本の親本:『東洋史説苑』1927/05/10
       入力:はまなかひとし 校正:菅野朋子
       2002/02/26 公開 2004/02/20 修正
  • 岡本綺堂『中国怪奇小説集』輟耕録
       電子テキスト at 青空文庫
       ただし、この本には、上記「想肉」の稿は収載されていません。
       底本:『中国怪奇小説集』光文社 1994/04/20
       校正には、1999/11/05 第3刷を使用。
       入力:tatsuki 校正:小林繁雄 2003/07/31 作成

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  • 2014/06/26 中国語原文のページ画像を追加しました。

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