Hardy, Thomas

Wednesday, 22 May 2013

To Life (from Poems of the Past and the Present) by Thomas Hardy トマス・ハーディ 「人生に」「人生に與ふ」「人生へ」(『過去と現在の詩』より)

           目次 Table of Contents

   ■はじめに Introduction
   ■日本語訳の抜粋 Excerpts from translations into Japanese
     (J1) 森松 1995
     (J2) 山宮 1956
     (J3) 日高 1946
     (J4) 吉原 1930
   ■英語原詩の全文 The complete original poem in English
    Video  トマス・ハーディのウェセックス Thomas Hardy's Wessex
   ■外部リンク External links
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■はじめに Introduction

ダーバヴィル家のテス』などの作品で知られるトマス・ハーディ。後半生は小説を捨てて、詩作に専念した。下に引用する詩は、1901年に発表された詩集『過去と現在の詩』に収録されている一編。


■日本語訳の抜粋 Excerpts from translations into Japanese

(J1) 森松 1995
   ああ,悲しくしなびた顔をした〈人生〉よ、
     お前の姿、お前の引きずられ汚れた外套、
お前のたどたどしい足取り、そしてお前のあまりにも
     無理に装う楽しげなさまを もう私は見あきてしまった!

[略]

   だがお前はすばらしい変装に
     身を飾って、狂おしい一日(ひとひ)だけ
〈大地〉が〈楽園〉であるということを
     真理であるかのように装うことはできないのか?

   そうすれば私はその気分にあわせて調べを歌い
     夕方までお前と共に無言劇を演じよう
すると私も 間狂言(インタールード)として私が一時的に装うことを
     たぶん真理として受け入れてしまうだろう!


(J2) 山宮 1956
物悲しい萎びた顏の人生よ
  私はお前を見るのが厭になった
それからお前の曵きずって汚(よご)した外套と、お前のとぼとぼあるきと、
  お前の實に不自然なつけ元氣を見るのが。

[略]

併しお前は無類の立派な假装をして、
  調子の狂った一日の間、
此世は天國だと云ふことを
  眞實(ほんとう)と思はせることは出來ないか。

私はその日の氣分にそりを合せて
  晩までお前と黙劇(だんまりきょうげん)を演じよう、
さうして恐らく幕合狂言にするお芝居を
  私は眞實と思ふやうになるだらう。

  • 「人生に與ふ」
    トマス・ハーディ=著 山宮允(さんぐう・まこと)=著 『英詩詳釋(学生版)』 吾妻書房 1956/10/31

(J3) 日高 1946
おお人生よ。悲しい佛顏をして
俺はお前を見るのが厭だ。
着物を曵きずり、びつこを引いて、
無理にも嬉しさうな顏をして——

[略]

でも、お前は出來ないのか、
珍奇な衣服に姿を包み
まことしやかに一日中
この世は極樂と見せるんだ。

俺も調子を合はせよう、お前と一緒に晩まで踊らう、
何でもかでも合ひ間狂言に
俺が必ず仕立ててやるぞ!

  • 人生へ
    ハーデイ(表紙の表記)/ ハーディ(扉・本文・奥付の表記)=著 日高只一(ひだか・ただいち)=編 『人生の書』 南北書園 定價(税込)拾六圓五拾錢 1946/08/25(昭和21)
  • 包の旧字は新字で置き換えました。

(J4) 吉原 1930
 哀れつぽい空(うつ)け面(づら)の人生よ、
  俺はお前をみるのは倦々だ。
だらしないその気附け、足曵りや
  つくり笑ひと來た日には!

[略]

 派手な衣裳に身を包み、
  まことしやかに一日(いちん)中(ち)、
此世をば天國にする藝當は、
  お前に出來ない相談か?

 すれば俺も調子を合せよう。
  日暮方までお前と踊らう。
合ひ狂言は何でも御座れだ。
  俺の分にはぬかりはせぬ!

  • 「人生に」
    ハァディ(表紙・扉の表記)/ ハーデイ(奥付の表記)=著 (序文にはハーデーの表記も見受けられる) 吉原重雄(よしはら・しげお)=譯 野口米次郎=序 日高只一(日高未徹)=序 『ハァディ詩集』(奥付の表記は『トマス・ハーデイ詩集』) 素人社書屋 普及版 金一圓二十錢 1930/05/20(昭和5)

■英語原詩の全文 The complete original poem in English

 O life with the sad seared face,
  I weary of seeing thee,
And thy draggled cloak, and thy hobbling pace,
  And thy too-forced pleasantry!

 I know what thou would'st tell
  Of Death, Time, Destiny -
I have known it long, and know, too, well
  What it all means for me.

 But canst thou not array
  Thyself in rare disguise,
And feign like truth, for one mad day,
  That Earth is Paradise?

 I'll tune me to the mood,
  And mumm with thee till eve;
And maybe what as interlude
  I feign, I shall believe!


 Video 
トマス・ハーディのウェセックス(予告編) Thomas Hardy's Wessex (trailer)
Uploaded to YouTube by wynterseaproductions on 1 May 2011. A Wyntersea Production.


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Saturday, 15 March 2008

Tess of the d'Urbervilles by Thomas Hardy ハーディ 『テス』『ダーバビル家のテス』『ダーバヴィル家のテス』『ダーバァヴィル家のテス』

        目次 Table of Contents

■はじめに Introduction
 Video 1  映画 トリシュナ (2011) 予告編 Film Trishna (2011) Trailer
 Video 2  テレビ テス (2008) TV Tess of the d'Urbervilles (2008)
 Video 3  テレビ テス (1998) TV Tess of the d'Urbervilles (1998)
 Video 4  映画 テス (1979) 予告編・CM Film Tess (1979) Trailer & CM
■中国語訳(簡体字) Translation into simplified Chinese
■中國語譯(繁體字) Translations into traditional Chinese
  (Zh1)
  (Zh2) 李曉君 2009
■日本語訳 Translations into Japanese
  (J1) 柴田 2013
  (J2) 高桑 2011
  (J3) 田中 2005
  (J4) 小林 1989
  (J5) 井出 1980, 1990, etc.
  (J6) 阿部 1969
  (J7) 中村 1969, 1971
  (J8) 大沢 1961, 1969, etc.
  (J9) 井上+石田 1960
  (J10) 山内 1957
  (J11) 石川 1955, 1961, etc.
  (J12) 竹内 1951, 1962
  (J13) 長澤 1933
  (J14) 広津 1930, 1939
  (J15) 宮島 1929, 1933
  (J16) 平田 1925, 1926
  (J17) 山田 1912
 Image gallery  DVDのジャケットと本の表紙 DVD and book covers
■トルコ語訳 Translation into Turkish
■ハンガリー語訳 Translation into Hungarian
■ロシア語訳 Translation into Russian
■ブルガリア語訳 Translation into Bulgarian
■ポーランド語訳 Translation into Polish
■ドイツ語訳 Translation into German
■イタリア語訳 Translation into Italian
■スペイン語訳 Translation into Spanish
■フランス語訳 Translation into French
 Videobook  英語原文の朗読 Tess of the d'Urbervilles - Audiobook
■英語原文 The original text in English
■邦題の異同 Variation of the title in Japanese
■外部リンク External links
■更新履歴 Change log


■はじめに Introduction

トマス・ハーディの小説『ダーバヴィル家のテス』。下に引用するのは、その第一章冒頭の一文。さまざまな言語への翻訳の例と、英語の原文を掲載します。また、映画化・テレビ化作品の映像やオーディオブック(朗読)なども添えます。


 Video 1 
トリシュナ』 (2011) 映画予告編
Trishna (2011) Movie trailer

『ダーバヴィル家のテス』の舞台を現代のインド・ラジャスタンに移し替えて映画化した作品。日本未公開。マイケル・ウィンターボトム(監督), フリーダ・ピント(トリシュナ) Michael Winterbottom (director), Freida Pinto (Trishna)


 Video 2 
テス』 (2008) TVミニシリーズ 第1話 Part 1
Tess of the d'Urbervilles (2008) a TV mini-series. Episode 1 Part 1

デヴィッド・ブレア(監督), ジェマ・アータートン(テス)
David Blair (director), Gemma Arterton (Tess)


 Video 3 
テス』 (1998) テレビ Part 1
Tess of the d'Urbervilles (1998) TV Part 1

イアン・シャープ(監督), ジャスティン・ワデル(テス)
Ian Sharp (director), Justine Waddell (Tess)


 Video 4 
テス』 (1979) 映画予告編・テレビCM
Tess (1979) Movie trailer & TV commercial

ロマン・ポランスキー(監督), ナスターシャ・キンスキー(テス)
Roman Polanski (director), Nastassja Kinski (Tess)


■中国語訳(簡体字) Translation into simplified Chinese

五月下旬的一个傍晚,一个中年男子正从沙斯顿向靠近布莱克莫尔谷(也叫黑荒原谷)的马洛特村里的家中走去。

   《德伯家的苔丝》 托马斯·哈代
   E-text at WowStory.com(窝说)


■中國語譯(繁體字) Translations into traditional Chinese

(Zh1)
五月下旬的一個傍晚,一個中年男子正從沙斯頓向靠近布萊克莫爾穀(也叫黑荒原穀)的馬洛特村裡的家中走去。

   《德伯家的苔絲》 作者:(英)托馬斯·哈代
   E-text at 書海.org (Shuhai.org)


(Zh2) 李曉君 2009
五月下旬的一個傍晚,一個中年男子正步行從沙斯頓往家中走去,他家在一個叫馬洛特的村子裡。

   《二十一世紀少年文學必讀經典 苔絲
   作者:(英)哈代(Hardy,T) 原;李曉君譯
   21世紀出版社 2009-05-01
   Excerpt at Findbook


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 柴田 2013
五月後半の或る晩、中年の男が一人、シャストンからマーロットの村へ帰宅せんと、近隣のブレイクモアもしくはブラックムアの谷あいを歩いていた。

   トマス・ハーディ=著 柴田元幸(しばた・もとゆき)=部分訳
   「ダーバーヴィル家のテス——汚(けが)れなき女」
   柴田元幸=編・訳 『書き出し「世界文学全集」』 河出書房新社 2013/08/30


(J2) 高桑 2011
五月も半ばを過ぎたある夕方、一人の中年男がシャストンからその隣のブレイクモアあるいはブラックムアの谷にあるマーロット村へと家路をたどっていた。

   トマス・ハーディ=著 高桑美子(たかくわ・よしこ)=訳
   『トマス・ハーディ全集 12 ダーバヴィル家のテス
   大阪教育図書 2011/05 Preview at Google Books


(J3) 田中 2005
五月の後半のある夕方のこと、一人の中年男が、シャストンからすぐ隣に続くブレイクモア、すなわちブラックムアの谷間にあるマーロットの村へと、家路(いえじ)をたどっていた。

   トマス・ハーディ=作 田中晏男(たなか・やすお)=訳 『テス(上)
   京都修学社=発行 宮帯出版社=発売 2005/02


(J4) 小林 1989
五月も末のある夕方、中年の男がシャストンから隣接するブレィクモア、別名ブラックモア盆地にあるマーロットの村へと歩いて帰っていた。

   トマス・ハーディ=著 小林清一(こばやし・せいいち)=訳
   4a. ダーバビル家のテス』 グーテンベルク21 電子テキスト
   4b. ダーバビル家のテス』 千城(せんじょう) 1989/12


(J5) 井出 1980, 1990, etc.
五月も末のある夕方のこと、一人の中年男が、シャストンから、隣りあうブレイクモア——別名ブラックムーア——の谷あいの、マーロット村をさして、家路をたどっていた。

   ハーディ=作 井出弘之(いで・ひろゆき)=訳
   5a. テス(上)』(全2冊) ちくま文庫 2004/06
   5b. 「ダーバヴィル家のテス」
      『集英社ギャラリー[世界の文学]3 イギリス2
      集英社=発行 1990/06 所収
   5c. 「ダーバヴィル家のテス—清純な女」
      『世界文学全集56 ハーディ』 綜合社=編集 集英社=発行 1980/12
   引用は 5a. に拠りました。


(J6) 阿部 1969
五月なかば過ぎのある午後、初老に近い男がひとり、シャストンから、そのはずれにつづくブレイクモア、またの名ブラックムーアの谷あいにある、マーロット村のわが家へ向けて歩いていた。

   ハーディ=著 阿部知二=訳 『新集 世界の文学21 ハーディ テス
   中央公論社 1969/05/10 所収


(J7) 中村 1969, 1971
五月の末のある夕方、一人の中年男がシャストンの町のほうから、それにつづくブレイクモア、またはブラックムアと呼ぶ谷間のマアロット村へと、家路をたどっていた。

   ハァディ=著 中村佐喜子=訳
   7a. テス(上)』 特製版 旺文社文庫 1971/06
   7b.テス(上)』 旺文社文庫 1969/05
   引用は 7a. に拠りました。


(J8) 大沢 1961, 1969, etc.
五月も末のある夕方のこと、一人の中年男が、シャストンから、隣りあうブレイクモア——別名ブラックムーア——の谷あいの、マーロット村をさして、家路をたどっていた。

   ハーディ=著 大沢衛(おおさわ・まもる)=訳
   8a. テス』 Chikuma classics 筑摩書房 1978/03
   8b. 「ダーバァヴィル家のテス」
      『筑摩世界文学大系66 ハーディ/モーム』 筑摩書房 1973/06 所収
   8c.デュエット版 世界文学全集38 ダーバァヴィル家のテス』(全66巻)
      綜合社=編集 集英社=発行 1969/08 所収 
   8d. 「テス」『世界名作全集21』 筑摩書房 1961/08 所収
   8e. 「ダーバァヴイル家のテス」
      『世界文学大系40 サッカレー・ハーディ』 筑摩書房 1961 所収
   引用は 8c. に拠りました。


(J9) 井上+石田 1960
五月も末のある夕方、一人の中年の男が、シャストンから、隣接するブレイクモア、一名ブラックムア盆地にあるマーロットの村へと、家路をたどっていた。

   ハーディ=作 井上宗次(いのうえ・そうじ)+石田英二=訳
   『テス(上)』(全2冊) 岩波文庫 1960/10 所収


(J10) 山内 1957
五月も下旬のある黄昏(たそがれ)どき、一人の中年の男がシャストンからブレイクモア、またはブラックムアともいうすぐ隣りあわせの谷間にあるマアロット村へと家路をたどっていた。

   トマス・ハアディ=作 山内義雄(やまうち・よしお)=訳
   『テス(上)』(全3冊) 角川文庫 1957/03 所収


(J11) 石川 1955, 1961, etc.
五月下旬のある夕方、中年配の男がシャストンから、隣りあったブレイクモア——ブラックムーアとも呼ばれる——の谷にあるマーロット村へと、家路をたどっていた。

   ハーディ=作 石川欣一=訳 「テス」
   11a. 阿部知二〔ほか〕=編 『河出世界文学大系52 ハーディ
       河出書房新社 1980/11 所収
   11b. 世界文学全集27 ハーディ』(全48巻、別巻7巻)
       河出書房新社 1962/01 所収
   11c. 特製豪華版 世界文学全集41 ハーディ』 河出書房新社 1961 所収
   11d. 『テス(上)』 河出文庫 1955
   引用は 11b. に拠りました。


(J12) 竹内 1951, 1962
五月も末のある夕がた、ひとりの中年の男が、シャストンから隣の盆地(ぼんち)のブレークモア、一名ブラックムアにあるマーロット村へと、家路をたどっていた。

   ハーディ=著 竹内道之助=訳
   12a. 世界名作全集58 テス—純潔な女性』 平凡社 1962 所収
   12b.テス—純潔な女性(上)』 三笠書房 1951
   引用は 12a. に拠りました。


(J13) 長澤 1933
今日は五月の花祭りといふので、マーロットの村の女達は、娘も女房も、皆一樣に白い上衣を着け、右手には皮を剥いだ柳の枝を、左手には一束の白い花を持ちながら、黄銅〓の音につれて村中を練り歩いてゐる。
[完訳ではなく再話です。参考のため、冒頭の一パラグラフを引用しました。〓はバチ。金へんに跋のつくり - tomoki y.]

   トマス・ハアディ=原作 長澤才助=著
   『テス物語』 外語研究社 1933/10(昭和8)


(J14) 広津 1930, 1939
五月末の或る夕方、シャストンから、ブレエクモオアともブラックムウアとも呼ばれる盆地續きのマアロット村を指して、家路を辿る一人の中年男があつた。

[原文はつぎのとおり総ルビ - tomoki y.]
五月末(ぐわつすゑ)の或(あ)る夕方(ゆふがた)、シャストンから、ブレエクモオアともブラックムウアとも呼(よ)ばれる盆地(ぼんち)續(つゞ)きのマアロット村(むら)を指(さ)して、家路(いへぢ)を辿(たど)る一人(ひとり)の中年男(ちうねんをとこ)があつた。

   14a. ハーデイ=作 広津和郎(ひろつ・かずお)=譯
      『世界大衆文學名作選集12 テス』 改造社 豫約定價八十錢
      1939/07(昭和14) この選集の詳細については ここ
   14b. ハーデー=著 広津和郎=譯 「テス」
      『世界大衆文學全集41』 改造社 1930(昭和5)所収
   引用は国立国会図書館所蔵の 14a. マイクロフィッシュに拠りました。


(J15) 宮島 1929, 1933
五月も末の或る夕、一人の中年男が、シャストンからブレークモオアともブラックムーアともいふ盆地續きにあるマアロットの村へ、家路(いへぢ)を辿(たど)つてゐた。

   トマス・ハーデイ=作 宮島新三郎=譯
   15a.テス(上)』 新潮文庫 第49編 1933(昭和8)
   15b. 「ダアバァヴィル家のテス」
      『世界文學全集29 テス, 青春, 其他』(全11冊)
      新潮社 非賣品 1929/02(昭和4)所収
   引用は 15b. に拠りました。


(J16) 平田 1925, 1926
五月下旬の或る夕、一人の中年の男がシヤストンから家路をさして、ブレエクモアア、一にブラックムアアなる隣接の盆地の、マァロットの村へと歩いてゐた。(……)

[原文はつぎのとおり総ルビ - tomoki y.]

五月(ぐわつ)下旬(げじゆん)の或(あ)る夕(ゆふべ)、一人(ひとり)の中年(ちうねん)の男(をとこ)がシヤストンから家路(いへぢ)をさして、ブレエクモアア、一にブラックムアアなる隣接(となり)の盆地(ぼんち)の、マァロットの村(むら)へと歩(ある)いてゐた。(……)

   16a. トマス・ハアーディイ=著 平田禿木(ひらた・とくぼく)=譯
      『テス(上)』2版 國民文庫刊行會 非賣品 1926/07(大正15)
      英文併記
   16b. ハアーデイ=著 平田禿木=譯
      『テス(上)』 世界名作大觀 英國篇 第10卷
      國民文庫刊行會 2版 1925/10(大正14)
   引用は 16a. に拠りました。かなり傷んだ本を、寛大にも貸し出して
   くださった、K県立図書館、ならびに、いつもながら取り寄せの労を
   とってくださった府立図書館の皆さま、ありがとうございました。


(J17) 山田 1912
五月も末の或る夕暮、シャスタン町を後ろに、地續きのブラックムーアの谷(やつ)をさしてマロット村へと歸る四十恰好(がつかう)の男がある(……)

   トマス・ハーデ=作 山田行潦(やまだ・こうろう)=譯
   『テス—運命小説 前編』 文盛堂 1912/06(明治45)
   国立国会図書館 近代デジタルライブラリー スキャン画像


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a. Trishna_2011_dvd_b00bwiiyys b. Tess_wadell
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■トルコ語訳 Translation into Turkish

Mayıs ayının ikinci yarısında bir akşam üstü, orta yaşlı bir adam Shaston'dan Blakemore yahut Blackmoor ovasının eteğinde bulunan Marlott köyündeki evine doğru gidiyordu.

   Tess by Thomas Hardy
   Translated by Özay Süsoy
   Altın Kitaplar, 1982
   Excerpt at Simurg


■ハンガリー語訳 Translation into Hungarian

Május vége táján, estefelé, egy középkorú férfi igyekezett hazaShastonból Marlott faluba, a szomszédos Blakemore- vagy Blackmoor-völgybe.

   Egy tiszta nő by Thomas Hardy
   Translated by Szabó Lőrinc
   Ulpius-Ház Könyvkiadó KFT, 2007
   E-text at Scribd


■ロシア語訳 Translation into Russian

Однажды вечером во второй половине мая человек средних лет шел домой из Шестона в деревню Марлот, находившуюся неподалеку, в долине  Блекмор,  или Блекмур.

   Томас Гарди. Тэсс из рода д'Эрбервиллей
   E-text at Lib.Ru


■ブルガリア語訳 Translation into Bulgarian

Една вечер през втората половина на май един човек на средна възраст се прибираше от Шестън в село Марлот в близката долина Блейкмор или Блекмур.

   Томас Харди. Тес от рода Д’Ърбървил
   Translated by Веселин Измирлиев, Л. Велинов, 1980
   E-text at Моята библиотека


■ポーランド語訳 Translation into Polish

Pod koniec maja wieczorem pewien człowiek w średnim wieku wracał piechotą z Shaston do domu, do wsi Marlott położonej w sąsiedniej dolinie zwanej Blakemore lub Blackmoor.

   Tessa d'Urberville by Thomas Hardy
   Translated by Róża Czekańska-Heymanowa
   E-text at:


■ドイツ語訳 Translation into German

Eines Abends in den letzten Tagen des Mai wanderte ein Mann mittleren Alters heimwärts von Shaston nach dem Dörfchen Marlott im benachbarten Tale von Blakemore oder Blackmoor.

   Tess von d'Urbervilles by Thomas Hardy
   Translated by Paul Baudisch
   München : Piper, 2011
   Excerpt at Piper Verlag GmbH


■イタリア語訳 Translation into Italian

Una sera di fine maggio un uomo di mezza età stava ritornando da Shaston al villaggio di Marlott, nella vicina Valle di Blackemore o Blackmoor.

   Tess dei d'Urberville by Thomas Hardy
   Translated by Giuliana Aldi Pompili. Rizzoli-BUR, 1980/2001
   Excerpt at Wikiquote


■スペイン語訳 Translation into Spanish

Cierto anochecer de fines de mayo, un hombre de edad mediana que venía de Shaston caminaba con rumbo a su casa situada en el pueblo de Marlott, en el vecino valle de Blakcmore o Blackmoor.

   Tess de D´Urberville by Thomas Hardy
   E-text at:


■フランス語訳 Translation into French

Un soir de la fin de mai, un homme d'un certain âge s'en retournait à pied, de Shaston au village de Marlott, dans le val voisin de Blackmoor.

   Tess d'Urberville by Thomas Hardy
   Excerpt at Pipl Directory


 Videobook 
英語原文の朗読 Tess of the d'Urbervilles, Phase 1, The Maiden: Chapter 1.

Classic Literature VideoBook with synchronized text, interactive transcript, and closed captions in multiple languages. Audio courtesy of LibriVox. Read by Adrian Praetzellis.


■英語原文 The original text in English

On an evening in the latter part of May a middle-aged man was walking homeward from Shaston to the village of Marlott, in the adjoining Vale of Blakemore, or Blackmoor.

   Tess of the d'Urbervilles (1891) by Thmas Hardy
   E-text at:


■邦題の異同 Variation of the title in Japanese

  『ダーバーヴィル家のテス——汚れなき女』……柴田 2013
  『ダーバァヴイル家のテス』………………………大沢 1961, 1969, 1973
  『ダーバビル家のテス』……………………………小林 1989
  『ダーバヴィル家のテス—清純な女』……………井出 1980
  『ダーバヴィル家のテス』…………………………高桑 2011 井出 1990
  『ダアバァヴィル家のテス』………………………宮島 1929
  『テス—運命小説』…………………………………山田 1912
  『テス—純潔な女性』………………………………竹内 1951, 1962
  『テス』………………………………………………田中 2005 井出 2004
        中村 1969, 1971 阿部 1969 大沢 1961, 1978
        井上+石田 1960 山内 1957 石川 1955, 1961, etc.
        宮島 1933 広津 1930, 1939 平田 1925, 1926
  『テス物語』…………………………………………長澤 1933


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2013/10/20 柴田元幸(しばた・もとゆき)=部分訳 2013/08/30 を追加しました。
  • 2013/04/23 映画 『トリシュナ』 (2011) 予告篇の YouTube 動画と高桑美子=訳 2011/05 を追加しました。また、「目次」、「はじめに」、「邦題の異同」の各項を新設しました。
  • 2013/01/31 トルコ語訳、ハンガリー語訳、ロシア語訳、ブルガリア語訳、ポーランド語訳、ドイツ語訳、スペイン語訳、およびフランス語訳を追加しました。
  • 2011/11/26 LibriVox による朗読の YouTube 画面を CCProse によるビデオブックの動画に置き換えました。音源は、これまでのものとおなじですが、音声に同期したテキストが加わりました。
  • 2011/02/02 2種類の中國語譯(繁體字)とイタリア語訳を追加しました。
  • 2010/11/26 TVミニシリーズ『テス』 (2008) の動画が著作権侵害のため YouTube から削除されているのに気づきましたので、他の動画に差し替えました。また、LibriVox による朗読の YouTube 画面を追加しました。
  • 2010/05/20 つぎの3本の YouTube 動画を追加しました。
    1. TVミニシリーズ『テス』 (2008)
    2. TV『テス』 (1998)
    3. 映画『テス』 (1979) 予告篇
    また、中国語訳(簡体字)の電子テキストへのリンクがリンク切れになっていたので、ほかのサイトへリンクを張り直しました。
  • 2008/06/24 広津和郎=譯 1939/07 を追加しました。
  • 2008/05/27 竹内道之助=訳 1962 を追加しました。
  • 2008/05/19 平田禿木=譯 1926/07 を追加しました。
  • 2008/04/18 小林清一=訳 1989/12 を追加しました。
  • 2008/04/13 中村佐喜子=訳 1971/06 を追加しました。
  • 2008/04/11 阿部知二=訳 1969/05 を追加しました。
  • 2008/04/03 田中晏男=訳 2005/02 を追加しました。
  • 2008/03/16 山内義雄=訳 1957/03、長澤才助=著 1933/10、および宮島新三郎=譯 1929/02 を追加しました。

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Sunday, 24 June 2007

To Please His Wife by Thomas Hardy トマス・ハーディ 「妻ゆえに」「妻ゆゑに」「妻のために」「帰らぬひと」「帰らぬ船」

        目次 Table of Contents

 Images  表紙画像と肖像写真 Cover photos and a portrait
■中国語訳 Translation into Chinese
■日本語訳 Translations into Japanese
  (1) 平戸 2003
  (2) 渡 2002
  (3) 井出 2000
  (4) 藤井 1991
  (5) 小林 1984, 1986, etc.
  (6) 秋山 1976
  (7) 下嶋 1973, 1987
  (8) 河野 1957, 1967, etc.
  (9) 田代 1950, 1951, etc.
  (10) 森村 1932
  (11) 宮嶋 1932
  (12) 平田 1915, 1925
■スペイン語訳 Translation into Spanish
■英語原文 The original text in English
■邦題の異同 Variations of the title translated into Japanese
■更新履歴 Change log


 Images 
表紙画像と肖像写真 Cover photos and a portrait

↓ クリックして拡大 Click to enlarge ↓

a. Hardy b. 1853261785_1 c. Thomashardy


■中国語訳 Translation into Chinese

下のとおり、虚白という訳者による To Please His Wife の中国語訳が、「取媚他的妻子」というタイトルで収録されている翻訳書が、戦前に出ていたようです。この旨の記述をネット上で見かけました。ただし、わたしは現物を見て確認しておりません。

   《人生小讽刺》 [英]哈代著,仲彝、虚白译。上海真美善书店 1928年9月初版
   目次に「取媚他的妻子 虚白译」という記載あり。

   以上の情報が、中国现代文学总书目 贾植芳 福建教育出版社, 1993
   という本に載っています。 Preview at Google Books.


■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 平戸 2003
「[略]ねぇ、エミリー、長い航海のあと帰ってきた男というのは、蝙蝠みたいに盲も同然で、女の人たちの違いなんて分からないんだよ。みんな同じに美人に見えてね。そこで真先に気安く近づける人に手を出すんだよ。その人が自分を愛しているのか、すぐに自分がその人より他の女(ひと)を好きになったりしやしないかなど考えずにね。はじめから俺の気持ちは君に向かっていた。だが君はひどく逃げ腰で、恥ずかしがってたから、てっきり俺が構ったりしては迷惑だと思って、ジョアンナにしたんだ」
 
   トマス・ハーディ=著 平戸喜文(ひらど・よしふみ)=訳 「妻ゆえに」
   『イギリス名作短編集』 近代文芸社 2003/02 所収


(2) 渡 2002
 「[略]ねえ、エミリ、男というものは長い航海から戻ってきたときには、こうもりのように盲目になって、女はだれがだれだか、わからなくなるのだ。みんな同じように、きれいな人に見えてしまうのだ。そこで簡単に親しくなれた最初の人を、選んでしまう。その人が自分を愛しているかとか、時間を重ねたらもっとべつに愛せる人が現れるかもしれないとかは、考えもしない。初めからおれは、きみに一番惹かれていたのだ。だけどきみは尻込みしたり、恥ずかしがったりするので、きみを困らせているのだと思い、ジョアナのほうへいってしまったのだ」

   トマス・ハーディ=著 渡千鶴子=訳 「妻への想い」
   『トマス・ハーディ短編全集3』 大阪教育図書 2002/03 所収


(3) 井出 2000
 「[略]男ってやつは、エミリー、長い航海を了(お)えて海から帰ってくると、盲も同然——女のことになると見境いがつかなくなる。どいつもこいつも似たり寄ったりの別嬪(べっぴん)さんだ。すぐに手の届く女に手をつけて、相手がこっちを愛してるか、こっちもじきに別の女に目移りするかもしれん、なんてことは頭にありゃしない。最初っからいいなといちばん感じてたのは、きみだった。でも、きみはひどく内気ではにかみ屋さんだもの、てっきりおれにつきまとわれたくはないんだと思っちまってね。それでジョアンナの方へ走ったってわけ」
 
   トマス・ハーディ=著 井出弘之(いで・ひろゆき)=訳 「帰らぬひと」
   『ハーディ短篇集』 岩波文庫 2000/02 所収


(4) 藤井 1991
 「[略]なあ、エミリ、長い航海から帰って来ると、男というのは、盲目同然になってしまう—女性についてだれかれの区別もなくなってしまう。皆同じくきれいに見えてしまう。そして、女性がその男性のことを愛しているのか、男性のほうは、すぐまた別に、もっといい人ができるのではないか、などとも考えず、たやすく手に入る最初の女性を取ってしまうんだ。初めっから、ぼくはきみに一番気があったんだけど、きみは余りにも内気で、後ずさりしてるので、ぼくなんかにかかわっていたくないんだろうと思って、それでジョアナのほうへ行ってしまったんだ」

   トマス・ハーディ=著 藤井繁(ふじい・しげし)=訳 「妻ゆえに」
   『人生の皮肉』 千城 1991/12 所収


(5) 小林 1984, 1986, etc.
「[略]ねえ、エミリさん。長い航海を終って海から帰ってくると、男ってものはまるでコウモリみたいに目が見えないもので——女を見るとまるで区別がつかないんだよ。女はみんな同じに見えるんだ、みんな美人に見えてね。それで相手が自分を愛してくれているかとか、やがて自分がもっとよい女にほれ込むことになるかもしれぬなどということは考えもしないんで、たやすく手に入る手近なのに飛びついてしまうんだよ。僕ははじめっから君に一番惹かれていたんだが、君はあんまり内気で尻込みしてるもんだから、僕につきまとわれるのは嫌なのだと思ってね、それでジョアナのほうに行ったんだよ」

   ハーディ=著 小林清一(こばやし・せいいち)=訳 「帰らぬ船」
   5a.ハーディ傑作短編集』 千城 1991/04 所収
   5b.人生の小さな皮肉—ハーディ短篇集』 創元社 1986/05 所収
   5c. ハーディ傑作短篇集』 創元社 1984/03 所収
   上の引用は、5c. に依拠しました。各版の訳文の異同は未確認。


(6) 秋山 1976
「[略]ねえ、エミリ、長い航海のあとで海から帰ってくると、男ってものはこうもりみたいに目が見えなくてね——どの女を見たって、見分けがつかないんだ。みんな美人に見えてね、手近なのからまっ先にとびついてしまって、相手に好かれているかとか、いずれもっと良い女に惚れられるようなことがあるかもしれん、などとは考えもしないんだ。おれは最初からお前に一番惹かれてたんだけど、お前はあんまり内気で、尻込みしてるもんだから、かまわれるのはいやなのかと思ってね、それでジョアンナの方に行ったんだよ」

   トマス・ハーディ=著 秋山徹夫(あきやま・てつお)=訳
   「妻を喜ばせたく」
   『アリシアの日記・他五篇』 八潮版・イギリスの文学15
   八潮出版社 1976/06 所収


(7) 下嶋 1973, 1987
「[略]な、エミリ、男って、長い航海から帰って来ると、蝙蝠同然まるで眼が利かねえんだ——誰が誰だか、女の見分けがつかなくなるんだ。みんな同じように美人に見えるんだ。そして、手に入り易い最初の女をつかまえるってわけだ——相手がこちらを好いてるのかどうかも考えず、こっちもまた、もっと好きなのが出るかも知れんのに、そんなことも考えないでさ、最初からおれはあんたが一番好きだったんだけど、あんたがあんまり内気で、しりごみばかりしてるもんだから、うるさく言っちゃ迷惑なのかな、と考えて、それでジョアナの方へ行っちまったんだ」
 
   7a.T・ハーデー=著 下嶋統一=訳注 『妻ゆえに
     英文世界名作シリーズC-9 評論社 1987/08
   7b.T・ハーディ=著 下嶋統一=訳注 『妻ゆえに』
     評論社 1973/11
   7a. は高校上級以上向けの副読本。原文と全訳を収録。
   7b. は未見。おそらく 7a.7b. を復刊したものか(未確認)。


(8) 河野 1957, 1967, etc.
「[略]なあエミリー、長い航海をおえて海から帰ってくると、男ってものは蝙蝠(こうもり)みたいに目が見えねえもんなんだ——女を見るとまるで見さかいがつかなくなるんだな。どの女もみなおんなじに見えるんだ、どいつもこいつもうっとりするような奴にさ、そんで相手が自分を愛してくれるかどうかとか、もっといい女にほれこむかもしれんてなことは考えもしないで、たやすく手にはいる手近な奴に飛びついちまうんだ。はじめっからおれはおまえが好きだったんだ。だけどおまえがあんまり内気で尻ごみばかりしてるんで、おれにつきまとわれるのがいやなんだろうと思って、そんでジョアンナのほうへいっちまったんだ」
 
   ハーディ=著 河野一郎(こうの・いちろう)=訳 「妻ゆえに」
   8a. 文藝春秋=編 『愛の迷宮』 アンソロジー人間の情景3
      文春文庫 1992/11 所収
   8b.世界文学全集 第2集 第14巻 ハーディ』 河出書房 1968 所収
   8c.世界文学全集 カラー版 第23巻 ハーディ
      テス アリシアの日記 他 河出書房 1967/04 所収
   8d. ハーディ短編集』 新潮文庫 1957/09 所収


(9) 田代 1950, 1951, etc.
 「[略]ねえ、エミリー。男ちゅうものは、ながい航海をして海から帰ってくると、まるで蝙蝠(こうもり)みたいに眼が見えねえんだよ。——誰が誰だか、女の見分けがつかねえんだ。みんなおなじように、美人に見えるんだ。それで、先方が自分に惚れてるかどうかも考えず、こっちにも直ぐまた別に好いのができるかどうかも考えずに、たやすくやってくる最初の女を手に入れるんだ。おれは、初めっからお前にいちばん気があったんだが、お前があんまり内気で、尻ごみばかりするもんで、とてもおれなんかに構いつけてもらいたくねえんだろうと思って、それでジョアナのほうへ行っちまったような次第さ」
 
   ハーディ=著 田代三千稔(たしろ・みちとし)=訳 「妻ゆえに」
   9a.世界文学全集30 ハーディ』 筑摩書房 1967 所収
   9b.アリシアの日記 他三篇』 角川文庫 1959 所収
   9c.ハーディ傑作選1』 英宝社 1951 所収
   
   Thomas Hardy 著 田代三千稔=訳 「妻のために」
   9d. 妻のために』 英宝社 定價貮百圓 1950/07
   上の引用は、9d. に依拠しました。各版の訳文の異同は未確認。


(10) 森村 1932
 「[略]エミリィさん、男といふものはね、永の航海をして歸つてくると、蝙蝠同樣、からつきし目がきかないんですよ——女にかけちや、誰が誰やら、見境がつかず、みんな同じやうに、別嬪に見えるんですよ。だから、ちよつくらと、眞先にやつてくる女(ひと)を、おいそれと、自分のものにしてしまつて、向うがこつちを好きかどうか、また、こつちでも、やがて、もつといいのができやしないか、どうかつてなことは、いつかう考へないんですよ。儂は、初めつから、あんたにいちばん氣があつたんだが、あんたがあまりひつこみ思案で、内氣なもんだから、儂なんぞに構つて貰ひたくないのだらうと思つて、それで、ジョアナさんの方へ行つちまつた、やうなわけなんですよ」
 
   ハーディ=著 森村豊=訳 「妻ゆゑに」
   『ハーディ短篇集 幻想を追ふ女 他五篇
   岩波文庫 1932/09(昭和7)所収


(11) 宮嶋 1932
 「[略]ねえ、エミリー、あんたも知つとるだらうが、長い航海をして海から上陸(あが)つてくると、男は蝙蝠のやうに目が見えないんだ——誰が誰だか女の見分けがつかないんだよ。誰も彼もみんな同じに、綺麗な女に見えるんだ。それで先方が自分に惚れてるかどうかも考へず、此方(こつち)にも直(ぢ)きまた別に好いのが出來るかどうかも考へず、たやすく手に入る最初の女(やつ)を取つちまふものさ。はじめつから俺は一番お前に氣があつたんだが、お前はあんまり内氣ではにかんでゐるもんで、煩(うるさ)くされたくないのだと思ひ込んで、それでジョアンナの方へ行つたわけさ。」
 
   Thomas Hardy 著 宮嶋新三郎=譯註
   『妻ゆゑに其他』 英米近代文學叢書 第1輯第5巻
   春陽堂(非賣品)1932/04(昭和7)
   書名は奥付に拠ります。表紙などの書名は:
   To Please His Wife and Other Stories
   Modern English and American Literature Series


(12) 平田 1915, 1925
 『[略]ね、エミリ、長い航海(かうかい)をして海から上陸(あが)つて來ると、蝙蝠(かうもり)のやうに盲目(めくら)になつちまうもんでな——誰が誰か女(をんな)の見分けはつかないんだ。誰も彼も皆(みんな)同じに、綺麗なものに見えちまうんだ、で、先方(さき)が自分に惚れてるか何(ど)うかも考へず、此方(こつち)にも直きまた別に好(い)いのが出來るか何うかも考へず、先づ差當り、何でも無暗(むやみ)と樂に手に入(はひ)る奴を取つちまうものさ。實は最初(はじめ)つからお前には氣があつたんだが、でも、餘(あんま)りお前が内氣で、引つ込んでゐるもんで、つい煩(うるさ)く思つてるとばかり呑込(のみこ)んで、それで實は、ジヨアンナの方へ行つて仕舞つたやうな次第さ。』 
[原文は総ルビ。ここでは、その一部を省略しました - tomoki y.]

   トマス・ハアデイ=著 平田禿木(ひらた・とくぼく)=譯
   「妻ゆゑに」
   12a.英國近代傑作集
       國民文庫刊行會(非賣品)1925/11(大正14)所収
   12b.英國近代傑作集(下)』(全2巻)泰西名著文庫
       國民文庫刊行會(非賣品)1915/10(大正4)所収


■スペイン語訳 Translation into Spanish

Sabes una cosa, Emily? Cuando un hombre vuelve a tierra tras un largo viaje por mar está completamente ciego: es incapaz de aber qué mujer le interesa. Todas le parecen iguales, hermosas criaturas, y acepta con facilidad a la primera que se presenta, sin pensar si ella lo ama o si él puede amar más a otra al poco tiempo. Desde el principio me sentí más inclinado por ti, pero eras tan tímida y retraída que imaginé que no querías que te molestara, así que me decanté por Joanna.

   Para contentar a su mujer
   in Cuentos completos by Thomas Hardy
   Translated by Catalina Martínez Muñoz
   Alba Editorial, 2013/03
   Preview at Google Books


■英語原文 The original text in English

'[Omission] You know, Emily, when a man comes home from sea after a long voyage he's as blind as a bat—he can't see who's who in women. They are all alike to him, beautiful creatures, and he takes the first that comes easy, without thinking if she loves him, or if he might not soon love another better than her. From the first I inclined to you most, but you were so backward and shy that I thought you didn't want me to bother 'ee, and so I went to Joanna.'

   To Please His Wife
   from Life's Little Ironies (1894) by Thomas Hardy
   E-text at:


■邦題の異同 Variations of the title translated into Japanese

  「帰らぬひと」…………井出 2000
  「帰らぬ船」……………小林 1984, 1986, etc.
  「妻への想い」…………渡 2002
  「妻ゆえに」……………下嶋 1973, 1987
  「妻ゆえに」……………河野 1957, 1967, etc.
  「妻ゆえに」……………田代 1950, 1951, etc.
  「妻ゆえに」……………藤井 1991
  「妻ゆえに」……………平戸 2003
  「妻ゆゑに」……………宮嶋 1932
  「妻ゆゑに」……………森村 1932
  「妻ゆゑに」……………平田 1915, 1925
  「妻を喜ばせたく」……秋山 1976


■更新履歴 Change log

  • 2013/07/30 目次を新設しました。また、中国語訳に関する書誌情報を追加しました。
  • 2013/07/25 スペイン語訳を追加しました。
  • 2009/07/06 邦題の異同の項を新設しました。また、ブログ記事の題に日本語の異題を追加して、つぎのとおり変更しました。

    旧タイトル: To Please His Wife by Thomas Hardy
            トマス・ハーディ 「妻ゆえに」「帰らぬひと」「帰らぬ船」
    新タイトル: To Please His Wife by Thomas Hardy
            トマス・ハーディ 「妻ゆえに」「妻ゆゑに」「妻のために」
            「帰らぬひと」「帰らぬ船」
  • 2007/08/16 宮嶋新三郎=譯註 1932/04 を追加しました。
  • 2007/07/11 下嶋統一= 1987/08 を追加しました。
  • 2007/07/07 藤井繁=訳 1991/12 を追加しました。
  • 2007/06/25 渡千鶴子=訳 2002/03 と小林清一=訳 1984/03 を追加しました。

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