Okamoto Kido 岡本綺堂

Monday, 12 November 2007

А. С. Пушкин. Пиковая дама (3) The Queen of Spades by Alexander Pushkin (3) プーシキン 「スペードのクイーン」「スペードの女王」 (3)

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■中国語訳(簡体字)Translation into simplified Chinese

  “(……)向我公开您的秘密吧!您要它有什么用?……也许,它跟滔天大罪与生俱来,也许,它跟永恒的福祉不共戴天,也许,它跟魔鬼结下了不解之缘……请想想,您老了,能活几天?——我要把您一生的罪孽通通抓将过来压在自己的灵魂上!向我公开您那个秘密吧!请想想,我这个人一生的幸福全操在您的掌心;非但我本人,还连同我的孩子、孙子、曾孙,都将对您感恩戴德,对您顶礼膜拜,把您当成人间的圣贤……”
  老太婆没有回答一个字。
  格尔曼站起来。
  “老妖婆!”他说,咬牙切齿,“看来我得强迫你说……”

   普希金 《黑桃皇后》
   E-text at 新时代书城 (mypcera.com)


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 渡辺 1986
「わたしはなんなりと、あなたの心のままにつかえましょう。どうか教えてください。もしも恐ろしい誓いをたてていていえないのでしたら、その罰をわたしの魂がひきうけましょう。それに、あなたはもうご老体です。なにがおしいのでしょうか? 教えてくだされば、わたしは子、孫の代までも、あなたのために祈りをあげて……。」
 老女はひとことも口をきかなかった。ゲルマンはくやしさに血がのぼったのか、ポケットから銃をとりだした。
「おいぼれめ! いやならこっちにもかんがえがあるぞ! さあ、いうんだ!」
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

   プーシキン=作 渡辺節子=文(抄訳/再話)「スペードの女王」
   プーシキン〔ほか〕=作『悪魔のトランプ占い
   怪奇・推理シリーズ ポプラ社文庫 1986/07 所収


(J2) 木村 1980
「あなたの秘伝をこの私にお明かしください! もう今のあなたには無用のものではございませんか? ひょっとすると、あなたはそのためにおそろしい罪をきせられて、永遠の至福を失い、悪魔と取引きすることになるかもしれません。でも、考えてごらんなさい。あなたはご老体です。このさきもう長いことはないでしょう。私はあなたの罪をよろこんで自分の魂におひきうけいたしましょう。ただその秘伝だけをこの私に明かしてください。ひとりの人間の幸福があなたの手に握られていることを、どうか考えてみてください。いいえ、私だけではありません。私の子供、孫、曾孫(ひまご)たちまでが、あなたの思い出をどんなに尊び、あなたを聖体のように崇(あが)めたてまつることでしょう……」
 老女はひと言も答えなかった。
 ゲルマンは身を起こした。
「この鬼婆(おにばば)め!」彼は歯ぎしりしながら叫んだ。「それなら、いやでも返事をさせてやるぞ……」

   プーシキン=作 木村浩=訳「スペードの女王」
   『世界文学全集23 プーシキン/レールモントフ
   綜合社=編集 集英社=発行 1980/12 所収


(J3) 高橋 1978
「秘密を教えてください。それがあなたになんでしょう。それは仮に、おそるべき罪と、永遠の幸福の破滅と、悪魔との契約とをともなっていようとですよ、考えてもみてください、あなたはご老体で、あなたのお命はもう長くはないのです。あなたの罪ならば、この私の魂がお引き受けいたします。どうかあの秘密を教えてください。考えてみてください。ひとりの男の幸せがあなたの手中にあるのですよ。そして、それは私だけではない、私の子ども、孫、ひ孫までもが、あなたの思い出に感謝し、聖体のようにあがめるでしょう……」
 老婦人はひとことも答えなかった。
 ゲルマンは不意にたちあがった。
「老いぼれ鬼婆め」と彼は歯ぎしりして言った。「それならいやでも言わせてやる」

   プーシキン=作 高橋包子=訳「スペードの女王」
   五木寛之〔ほか〕=編
   『世界文学全集36 プーシキン/レールモントフ/ツルゲーネフ』(全50巻)
   学習研究社 1978/02 所収


(J4) 小沼 1969
 「(……)あなたの秘伝をお明かしください、あなたにはもう用のないものじゃありませんか?……。ひょっとすると、それは恐ろしい罪、永遠の幸福の喪失、悪魔との取り引きを伴っているものかも知れません……。しかし考えてもごらんなさい、あなたはもうご老体です。もうあまり長くは生きられない身じゃありませんか——あなたの罪障はこの私が喜んで自分の魂にお引き受けいたします。ですからどうぞ秘伝だけはお明かしください。まあよくお考えになってください、一人の人間の幸福が、あなたの手中に握られているのです。いいえ、私ばかりではない、私の子供、孫、曽孫までが、あなたの記憶を尊び、聖体のようにそれをうやまいあがめるのですよ……」
 老婦人は一言も答えなかった。
 ゲルマンはすっくと立ち上がった。
 「老いぼれた鬼婆(ばば)め!」と彼は歯ぎしりをして叫んだ。「それなら、いやでも返事をさせて見せるぞ……」
 
   プーシキン=著 小沼文彦(こぬま・ふみひこ)=訳
   『スペードの女王 他二編』旺文社文庫 1969/05


(J5) 藤井 1967, 1970
 ——(……)どうか秘密を明かしてください!——その秘密があなたにどれほど大事でしょう?……ことによるとその秘密にはおそろしい罪業が、永遠の至福の喪失が、悪魔との約束がついてまわってるのかもしれませんよ……考えてもみてください、あなたはもうお年です、もう老いさき長くはないんです。あなたの罪業はわたしがおひきうけします。どうか秘密を明かしてください。いいですか、ひとりの人間のしあわせがあなたの手ににぎられているんです、このわたしだけでなく、わたしの子供や孫や曽孫まであなたの思い出をたたえ、聖物のようにあがめます……
 老婆はひとことも答えようとしなかった。
 ゲルマンは立ちあがった。
 ——老いぼれの鬼ばばあめ!——彼はそう言って歯ぎしりした——それなら、力ずくで言わせてやる……
 
   プーシキン=著 藤井一行(ふじい・かずゆき)=訳「スペードの女王」
   『世界文学全集20 プーシキン/ツルゲーネフ集
   筑摩書房 1967/09, 1970/11 所収


(J6) 山本+山本=訳・文 1965
「(……)どうぞ、わたしのこの命がけの願いをお聞きとどけください。
 三枚のふだの秘密をお教えくださって、あなたに、どうということもないではありませんか。もし万一、そのために恐ろしい罰をお受けになるとしても、これからさき、もう、長くはお生きになりますまい。あなたの罰は、わたしがお引き受けいたしましょう。ですから、秘密をおあかしください。あなたは、わたしがしあわせになれるかどうかのかぎを、にぎっていらっしゃる。お願いですよ。伯爵婦人。」
 こう、長ながと頼んでも、夫人は、やっぱり黙りつづけています。ゲルマンは、すっくと立ちあがりました。
「このおいぼれの、鬼ばばあめ。」
 怒りにもえて、ゲルマンは叫びました。
「これだけ真心こめて頼んでも、教えないのだな。それなら、いやでも教えさせてやる。」
[原文は総ルビですが、ここでは省略しました - tomoki y.]

   プーシキン=原作 山本さやか=訳 山本和夫=文「スペードの女王」
   川端康成〔ほか〕=監修
   『少年少女世界の名作文学33 ソビエト編1』全50巻
   小学館 1965/05 所収


(J7) 西本 1963
「(……)あなたの秘密をぼくに教えてください! あなたにとっては、その秘密がどうだというのでしょう…… それに、もしかしたらその秘密は、恐ろしい罪業と結びついているのかもわかりませんよ。悪魔と取りひきして、永遠の幸福とひきかえに、悪魔からもらった秘密なのかもわかりませんよ……。考えてもごらんなさい。あなたはもうご老人です。そうながく生きてはおれないでしょう。あなたの罪は、ぼくがかわっておひき受けしてもよいのです。ですからその秘密を教えてください。考えてもごらんなさい、ひとりの人間の幸福が、あなた次第できまるのです。ぼくばかりでなく、ぼくの子も、孫も、ひい孫も、あなたのためにお祈りをささげ、あなたを聖者のようにあがめたてまつることでしょう……」
 老婆はひとことも答えなかった。
 ゲルマンは立ちあがった。
「鬼ばばぁめ!」彼は、歯ぎしりして言った。「どうしても言わせてやるぞ……」

   プーシキン=作 西本昭治(にしもと・しょうじ)=訳「スペードの女王」
   『スペードの女王・大尉の娘』現代教養文庫
   社会思想社 1963/01 所収
   (扉・目次・奥付などでは、タイトルの「女王」に「クイーン」とルビが
   振ってあります)


(J8) 丹辺 1961
 「(……)あなたの秘密をうちあけてください!——この秘密があなたにとって何になるというのです?……きっとその秘密には、おそろしい罪や、永遠の幸わせの破滅や、悪魔の取りきめがつきまとっているのでしょう…… 考えてもごらんなさい、あなたは、お年寄りなのです。もう老い先長い身ではありません——私はあなたの罪をよろこんでわが身にひきうけるつもりです。どうか、私に秘密をうちあけてください。一人の人間の幸わせがあなたの胸三寸にあるということをおかんがえになってください。私ばかりでなく、私の子供も、孫も、ひこ孫もあなたの思い出に感謝し、宝物のようにうやまうことでしょう…」
 老婆はひとこともこたえなかった。
 ゲルマンは立ちあがった。
 「この鬼婆め!」と彼は、歯ぎしりをして言った。「それならおまえにこたえさせてやるぞ!…」

   プーシキン=著 丹辺文彦(にべ・ふみひこ)=訳
   金子幸彦(かねこ・ゆきひこ)=編
   『ロシア短篇名作集』学生社 1961/07 所収


(J9) 中村 1950, 1953, etc.
「(……)あなたの秘伝をお明し下さい! 今さらあなたにそれがなんの役に立ちましょう?……わるくするとそれは、恐ろしい罪、永遠の幸福の破滅、悪魔との取引を伴っているかもしれません……まあ、考えてもごらんなさい——あなたはご老体です。もうそう長くはお生きになりますまい——わたくしは、あなたの罪を自分の魂にお引受けいたします。ですから、どうか秘伝をお授け下さい。まあ考えてもみて下さい、一人の人間の幸福があなたのお手に握られているのですよ。いや、わたくしばかりでなく、わたくしの子供や孫、曾孫までが、あなたの記憶を尊び敬い、聖物のように崇め奉ります……」
 老婆は一言も答えなかった。
 ゲルマンは立ちあがった。
「老いぼれ鬼婆め!」と彼は歯がみをして叫んだ。「それなら無理にも返事をさせるぞ……」
 
   プーシキン=著 中村白葉=訳「スペードの女王」
   『決定版ロシア文学全集2 プーシキン 大尉の娘 ほか
   日本ブック・クラブ 1969/08 所収


(J10) 神西 1933, 1948, etc.
 「秘伝を明かして下さい。それが貴女にとって何でしょう。……たといその為(ため)、怖ろしい罪咎(つみとが)をお着になろうと、永遠の至福とお別れになろうと、悪魔とどんな取引をなさろうと、まあ考えても御覧なさい——貴女はもう御老体です、この先の命もお長くはありますまい。貴女の罪咎は私の魂にお引き受けします。ですから秘伝をお明かし下さい。男一匹のどんな大きな幸運が、貴女のお手に握られているか、考えて見ても下さい。いやこの私だけではなく、子々孫々までも貴女の記念をどんなに敬い尊び、聖体のように崇(あが)めるか……」
 老媼(おうな)は一言も答えなかった。
 ゲルマンはすっくと起(た)った。——
 「老いぼれの鬼婆め」と彼は歯切りして叫んだ、「それなら厭(いや)でも吐かせてやる……」

   プーシキン=作 神西清(じんざい・きよし)=訳「スペードの女王」
   『スペードの女王・ベールキン物語』岩波文庫 改版 2005/04


(J11) 中山 1936, 1937, etc.
 「秘傅をお授け下さい。あなたにとつては、何でもないことではございませんか?……事によると、秘傅をもつてゐるために、怖ろしい罪になるか、永遠の幸福を失ふことになるか、或ひは惡魔との約束を果すことになるか、知れたものではないのですよ……よく考えてごらんなさい。あなたは老年の身で、もうこれからさき永くは生きて居られないのですよ——私はあなたの罪を私の魂にお引きうけしても宜しい。ですから、ただ秘傅だけは授けて下さい。男一匹の幸福があなたの手の中にあつて、私ばかりではなく、子どもや孫、そのまた子どもまでも、あなたが憶へてゐて下すつたことを有難がつて、あなたを聖母のやうに敬まふことになるのを考へてもみて下さい……」
 老媼は一言(こと)も返事をしなかつた。
 ゲルマンは立ちあがつた。
 「老いぼれの鬼婆め!」と彼は齒切りをして言つた、「そんなら否應なしに返事をさして見せる……」

   プウシキン=著 中山省三郎=譯「スペェドの女王」
   『プウシキン全集3』改造社 1936/11(昭和11)所収


(J12) 岡本 1929, 1987, etc.
「どうぞ貴女(あなた)の秘密をわたくしにお洩(も)らし下さい。あなたにはもう何のお入用(いりよう)もないではありませんか。たとひどんな恐ろしい罪を受けやうとも、永遠の神の救ひを失はうとも、惡魔とどんな取引をしようとも、わたくしは決して厭(いと)ひません。……考へて下さい。——あなたはお年を召してをられます。そんなに長くはこの世にはおいでになられないお體(からだ)です——わたくしはあなたの罪を自分の魂に引受ける覺悟でをります。どうぞあなたの秘密をわたくしにお傅(つた)へ下さい。一人の男の幸福が、あなたのお手に握られてゐると言ふことを思ひ出して下さい。いゝえ、わたくし一人ではありません。わたくしの子孫までが貴女を祝福し、あなたを聖者として尊敬するでせう……。」
 夫人は一言(ごん)も答へなかつた。ヘルマンは立上つた。
「老耄(おいぼ)れの鬼婆(おにばヽ)め。」と彼は齒ぎしりしながら叫んだ。「よし。嫌應(いやおう)なしに返事をさせてやらう。」

   プーシキン=著 岡本綺堂=訳「スペードの女王」
   『世界大衆文學全集35 世界怪談名作集
   改造社 1929/08(昭和4)所収


(J13) 山村 1921
「(……)貴女の秘訣を私に打明けて下さい。何でもないぢやありませんか。……そりや、何か恐ろしい罪が伴ひませう、永久のお惠みも消えませう、惡魔と何か契約もしてあるでせう。……だが、まあ、考へてもみて下さい——貴女はお年齡を召していらつしやる。生きておいでになるのも長いことぢやございません——貴女の罪は私の魂が引受ける覺悟をしてゐます。只々私に貴女の秘訣を打明けて下さい。人間ひとりの幸福は貴女の掌中にある事を思つてみて下さい。いゝえ、私一人ぢやあません[ママ]、私の子も孫も貴女の遺徳を賛美して、聖徒のやうに貴女を尊敬するでありませう……」
 伯爵夫人は一言も返事をしなかつた。
 ヘルマンは立ちあがつた。
「この老鬼婆(おにばゝ)め!」と彼は齒ぎしりしながら叫んだ。「ぢや、かうして言はせてやるぞ!」

   プーシュキン=著 山村魏(やまむら・たかし)訳「スペードの女王」
   『プーシュキン小説集』叢文閣 定價金貳圓 1921/04(大正10)所収


(J14) 小宮 1906, 1999
『(……)私に教へて下さいませんか。今あなたが一人知つてらつしやつたとて、何になります。そりや或は恐ろしい罪かも知れません。後の世で、極樂行が出來んかも知れません——言つて見りや魔物(まぶつ)の仲間入りをするやうなもんですからね。ようく考へて御覧ぢませ、あなたはもういくつだと思召す。私があなたの罪を一身に引きうけやう、甘んじて罰を代つて受けやうと云ふんぢやありませんか、どうぞ云つて聞かせて下さいまし。あなたのお蔭で、人間一匹どうともなるんです、私計りぢやないんです、私の忰も、私の孫も、その子も、その孫もみなあなたのお庇を蒙むります。……』
夫人はひと言も云はぬ。
へルマンは立ち上がつた。
『この業突張(ごふつくばり)奴(め)!』齒噛(はがみ)する勢凄じく『云はなきやあ云はして見せる迄のことよ。』

   プーシキン=著 小宮破霄=訳「三枚札」
   14a. 川戸道昭+榊原貴教=編 ナダ出版センター=制作
    『明治翻訳文学全集《新聞雑誌編》36 プーシキン/レールモントフ集
    (全50巻・別巻2)大空社 1999/12 所収
   14b.『明星』1906/11(明治39)収載

   初出誌は 14b.14a.14b. を複製したもの。
   引用は 14a. に拠りました。


■英訳 Translations into English

(E1) Twitchell
  "You could make my fortune without its costing you anything," pleaded the young man; "only tell me the three cards which are sure to win, and --"
  Herman paused as the old woman opened her lips as if about to speak.
(....)
  "Will you tell me the names of the magic cards, or not?" asked Herman after a pause.
  There was no reply.
  The young man then drew a pistol from his pocket, exclaiming: "You old witch, I'll force you to tell me!"

   The Queen of Spades
   by Aleksandr Sergeevich Pushkin
   Translated by H. Twitchell
   E-text at Project Gutenberg


(E2) Duddington
  '(....) tell me your secret -- what does it matter to you? Perhaps the price of it was some terrible sin, the loss of eternal bliss, a compact with the devil.... Just think: you are old; you haven't long to live -- and I am ready to take your sin upon my soul. Only tell me your secret. Think, a man's happiness is in your hands; not only I, but my children, grandchildren, and great-grandchildren will bless your memory and hold it sacred.' ...
  The old woman did not answer a word.
  Hermann got up.
  'Old witch!' he said, clenching his teeth; 'I 'll make you speak,then....'

   The Queen of Spades
   by Alexander Sergeyevich Pushkin
   Translalated by Natalie Duddington
   Progress Publishers
   E-text at Russica Miscellanea - A Little Page of Russia


(E3) FullBooks.com, etc.
  "(....) Reveal to me your secret. Of what use is it to you? May be it is connected with some terrible sin, with the loss of eternal salvation, with some bargain with the devil. Reflect, you are old, you have not long to live -- I am ready to take your sins upon my soul. Only reveal to me your secret. Remember that the happiness of a man is in your hands, that not only I, but my children and my grandchildren, will bless your memory and reverence you as a saint."
  The old Countess answered not a word.
  Hermann rose to his feet.
  "You old hag!" he exclaimed, grinding his teeth, "then I will make you answer!"

   The Queen of Spades
   by Alexander Sergeievitch Pushkin
   E-text at:
   * FullBooks.com
   * web-books.com
   * words.com.pl
   * Schulers Books
   * FeedBooks.com (PDF)


■ロシア語原文 The original text in Russian

  — откройте мне вашу тайну! — что вам в ней?.. Может быть, она сопряжена с ужасным грехом, с пагубою вечного блаженства, с дьявольским договором... Подумайте: вы стары; жить вам уж недолго, — я готов взять грех ваш на свою душу. Откройте мне только вашу тайну. Подумайте, что счастие человека находится в ваших руках; что не только я, но дети мои, внуки и правнуки благословят вашу память и будут ее чтить, как святыню...
  Старуха не отвечала ни слова.
  Германн встал.
  — Старая ведьма! — сказал он, стиснув зубы, — так я ж заставлю тебя отвечать...

   А.С. Пушкин - Пиковая дама
   E-text at Russian Virtual Library


■ほぼ網羅的な邦訳リスト
 A more or less complete list of translations into Japanese
 
プーシキン「スペードの女王」(1) をご参照ください。
See The Queen of Spades by Alexander Pushkin (1)


■外部リンク External links

   * Alexander Pushkin - Wikipedia
   * The Queen of Spades (story) - Wikipedia
   * アレクサンドル・プーシキン - Wikipedia
   * スペードの女王 - Wikipedia


■更新履歴 Change log

2007/12/01 藤井一行=訳 1967/09, 1970/11 を追加しました。
2007/11/22 山村魏=訳 1921/04 を追加しました。
2007/11/18 西本昭治=訳 1963/01 を追加しました。
2007/11/14 小宮破霄=訳 1999/12、1906/11 を追加しました。


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(1) Queen of Spades

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(1) スペードの女王

(2) プーシキン

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Sunday, 11 November 2007

А. С. Пушкин. Пиковая дама (2) The Queen of Spades by Alexander Pushkin (2) プーシキン 「スペードのクイーン」「スペードの女王」 (2)

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Left Pikovaya dama (1960)  Image source: The Queen of Spades (1960 film) - Wikipedia
Centreスペードの女王・ベールキン物語』 岩波文庫 改版 (2005)
Right アンリ・トロワイヤ 『プーシキン伝』 水声社 (2002)


■中国語訳(簡体字) Translation into simplified Chinese

  但格尔曼并未善罢甘休。丽莎维塔·伊凡诺夫娜每天收到他的信,传递信件有时采用这种方式,有时又改换另外的法门。这些信已经不是从德国言情小说里翻译照抄的了。格尔曼热情奔放地写,行文用的是他自己独特的语言风格。信中表达了他百折不回的意志,天马行空式的狂乱的幻想。丽莎维塔已经不再把它们退回去了。她沉醉于其中,动手回信——而她的信一封封越来越长,越来越动情了。终于,她从窗口扔下去一封信,其内容如下:

   普希金 《黑桃皇后》
   E-text at 新时代书城 (mypcera.com)


■日本語訳 Translations into Japanese
 
(J1) 渡辺 1986
 しかし士官はあきらめなかった。毎日のように、菓子店やぼうしの店の使いが手紙をとどけてきた。その内容も、最初の礼儀正しくやさしいものから、熱くほとばしるように情熱的になっていった。もうおさえきれない、という心のみだれが文字からも伝わってくる。
 しだいにリーザも手紙によわされて、おくりかえすどころか、やがてへんじをかくようになった。そのへんじも、日ごとにやさしく長くなっていき、そしてついに彼の「ほんのつかのまでもかまいません、ことばをかわしてほしい」というねがいにこたえたのだった。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

   プーシキン=作 渡辺節子=文(抄訳/再話) 「スペードの女王」
   プーシキン〔ほか〕=作 『悪魔のトランプ占い
   怪奇・推理シリーズ ポプラ社文庫 1986/07 所収


(J2) 木村 1980
 だが、ゲルマンは少しもひるまなかった。リザヴェータ・イワノーヴナは毎日のように彼から手紙を受けとった。それは手をかえ品をかえて届けられた。それはもはやドイツの小説からの翻訳ではなかった。ゲルマンは燃ゆる思いにかられてそれを書き、その言葉も彼自身のものになっていた。その文面には彼の心の乱れと抑えがたい欲求とがうかがわれた。リザヴェータ・イワノーヴナも、もはやそれを送り返そうとは考えなかった。いや、今ではその手紙に酔わされていた。ついには返事を書くまでになり、この手紙もしだいに長い情のこもったものになっていった。で、ある日、とうとう彼女はつぎのような手紙を窓から投げた。

   プーシキン=作 木村浩=訳 「スペードの女王」
   『世界文学全集23 プーシキン/レールモントフ
   綜合社=編集 集英社=発行 1980/12 所収


(J3) 高橋 1978
 しかし、ゲルマンはあきらめなかった。毎日毎日手をかえ品をかえ、リザヴェータ・イヴァーノヴナに手紙を届けた。それはもうドイツ小説のまる写しではなかった。ゲルマンは情熱のとりことなって、心からあふれる思いを言葉にしてつづった。そこにはおそれを知らぬ彼の願いと、奔放(ほんぽう)な空想の混乱が現われていた。リザヴェータ・イヴァーノヴナは、もうそれを送り返そうとは思わなくなった。彼女はその手紙に酔いしれていた。そして、やがて返事を出すようになった。——返事は回を重ねるごとに長くなってゆき、情のこもったものとなっていった。ついに、彼女はつぎのようにしたためた手紙を、小窓から彼になげ与えた。

   プーシキン=作 高橋包子=訳 「スペードの女王」
   五木寛之〔ほか〕=編
   『世界文学全集36 プーシキン/レールモントフ/ツルゲーネフ』(全50巻)
   学習研究社 1978/02 所収


(J4) 小沼 1969
 しかしゲルマンはすこしもひるまなかった。リザヴィェータ・イワノーヴナはあの手この手で届けられる手紙を毎日のように受け取るのだった。だがそれはもはやドイツ小説からの翻訳ではなかった。ゲルマンは情熱のほとばしるままにそれを書き、ことばも彼自身のものになっていた。そこには、彼の欲求の不屈さと、押えがたい心の乱れが現われていた。リザヴィェータ・イワノーヴナはもはやそれを送り返そうなどとは考えなかった。彼女はそれに酔わされていた。やがて返事を書くようになりその返事も時とともに長い、やさしさにみちたものになっていった。で、結局ある日のこと、彼女は次のような手紙を窓から投げることになった。
 
   プーシキン=著 小沼文彦(こぬま・ふみひこ)=訳
   『スペードの女王 他二編』 旺文社文庫 1969/05


(J5) 藤井 1967, 1970
 それでもゲルマンはあきらめなかった。彼は連日リーザのもとへあの手この手で手紙をとどけた。手紙はもはやドイツ語からの翻訳ではなかった。ゲルマンは情熱に霊感を得て書き、自分自身のことばで語っていた。そこには強引な願望と、とりとめのない気ままな空想とがあらわれていた。リーザはもはや手紙を送りかえそうとは思うわなかった。彼女は手紙に酔っていった。やがて彼女は返事を書きはじめた。それはしだいに優しい心をこめた長い手紙になっていった。ついに彼女は窓からつぎのような手紙を彼に投げた。

   プーシキン=著 藤井一行(ふじい・かずゆき)=訳 「スペードの女王」
   『世界文学全集20 プーシキン/ツルゲーネフ集
   筑摩書房 1967/09, 1970/11 所収


(J6) 山本+山本=訳・文 1965
 しかし、ゲルマンは、あきらめませんでした。毎日、手紙を書きました。
 そのうちに、リーザの心は、だんだんとけてきました。
『こんなに愛してくださっているのだもの。これ以上、冷たくしたら、あのかたに悪いわ。』
 とうとう、リーザは、ペンを持ちました。二度と書くまいと思っていた返事を、リーザは書いてしまったのです。
[原文は総ルビですが、ここでは省略しました - tomoki y.]

   プーシキン=原作 山本さやか=訳 山本和夫=文 「スペードの女王」
   川端康成〔ほか〕=監修
   『少年少女世界の名作文学33 ソビエト編1』 全50巻
   小学館 1965/05 所収


(J7) 西本 1963
 しかしゲルマンはあきらめなかった。彼は毎日リザヴェータ・イワーノヴナに、いろんな手をつかって手紙をとどけた。その文面ももう、ドイツの小説の文句をまる写ししたものではなかった。ゲルマンは情熱のほとばしりをそのまま文字にし、彼自身のことばで語りかけた。その手紙には、彼の揺るぎない欲求とまとまりのない奔放な夢想が、あふれていた。リザヴェータ・イワーノヴナも、もらった手紙をもう返そうとは思わなかった。彼女は手紙にすっかり酔ってしまった。そして返事を書きはじめた。その文面も次第にながくなっていった。とうとう彼女は、つぎのような手紙を小窓から彼に投げた。

   プーシキン=作 西本昭治(にしもと・しょうじ)=訳 「スペードの女王」
   『スペードの女王・大尉の娘』 現代教養文庫
   社会思想社 1963/01 所収
   (扉・目次・奥付などでは、タイトルの「女王」に「クイーン」とルビが
   振ってあります)


(J8) 丹辺 1961
 しかしゲルマンは引きさがらなかった。リザヴェータ・イワーノヴナは、さまざまなやり方で毎日彼から手紙を受けとった。その手紙はもうドイツ語から翻訳したものではなかった。ゲルマンは激情につかれて、それらを書き、彼独特のことばで語った。手紙には、彼の希望の執拗さと、混乱した、ほしいままな想像があらわされていた。リザヴェータ・イワーノヴナは、今では、返送しようという気持はなくなっていた。それらの手紙に有頂天になって、返事を書くようになった——そのうえそのその手紙は、回をかさねるごとに、ますます長文の、やさしいものになっていった。とうとう彼女は、つぎのような手紙を彼にあてて、窓からなげた——

   プーシキン=著 丹辺文彦(にべ・ふみひこ)=訳
   金子幸彦(かねこ・ゆきひこ)=編
   『ロシア短篇名作集』 学生社 1961/07 所収


(J9) 中村 1950, 1953, etc.
 しかしゲルマンは引きさがらなかった。リザヴェータ・イヴァーノヴナは、あの手この手で届けられる手紙を、毎日のように受け取った。それはもはや、ドイツ小説の抜書ではなかった。ゲルマンは情熱に動かされるままにそれを書いたので、言葉も彼自身のものであった。そこには、彼の情熱の不撓(とう)さと、気ままな想像の混乱とが言い現わされていた。リザヴェータ・イヴァーノヴナは、もはやそれを送り返そうとは考えなかった——彼女はそれに酔わされて、返事を書くようになり、その返事も次第に長く優しいものになって行った。遂に、彼女は彼に、窓から次のような手紙を窓から投げた——
 
   プーシキン=著 中村白葉=訳 「スペードの女王」
   『決定版ロシア文学全集2 プーシキン 大尉の娘 ほか
   日本ブック・クラブ 1969/08 所収


(J10) 神西 1933, 1948, etc.
 しかしゲルマンは思い止(とど)まらなかった。一日も欠かさぬ手紙が、手を変え品を変えてリザヴェータに届けられた。それはもうドイツ小説の引き写しではなかった。ゲルマンは激しい情に浮かされて、迸(ほとばし)る思いをそのまま筆にした。文面には、抑えがたい心の乱れと撓(たゆ)まぬ欲望とが跡をとどめた。リザヴェータの方でも、送り返そうと考えるどころか次第に酔わされて、やがては返事を出しはじめた。その返事も時とともに、長く優しくなりまさった。で、或る日、彼女は次のような手紙を窓から投げた。

   プーシキン=作 神西清(じんざい・きよし)=訳 「スペードの女王」
   『スペードの女王・ベールキン物語』 岩波文庫 改版 2005/04


(J11) 中山 1936, 1937, etc.
 しかし、ゲルマンはこれ式のことで止めはなしかつた[ママ]。リザヹータは、手を變へ品を變へてよこす手紙を毎日のやうに受け取つた。それは最早、獨逸の小説の飜譯ではなくなつてゐた。ゲルマンは、やむにやまれぬ愛慾に動かされて書いたのであつて、その言葉も自分自身のものであつた。そこには、抑へ切れない慾望と、氣ままな取りとめもない想像が述べられてゐた。リザヹータも今はそれを送りかへさうなどとは思はなかつた。いつの間にか有頂天になつて返事を書くやうになり、その手紙も時と共に長くなり、やさしい愛情がこもるやうになつた。つひに彼女は次のやうな手紙を窓から投げた。

   プウシキン=著 中山省三郎=譯 「スペェドの女王」
   『プウシキン全集3』 改造社 1936/11(昭和11)所収


(J12) 岡本 1929, 1987, etc.
 併(しか)しヘルマンはそんなことで斷念(だんねん)するやうな男ではなかつた。毎日彼は手を替へ品を替へて、種々(いろ/\)の手紙をリザヴェッタに送つた。それからの手紙はもう獨逸語(ドイツご)の飜譯(ほんやく)ではなかつた。ヘルマンは感情の湧(わ)くがまゝに手紙を書き、彼自身の言葉で話しかけた。そこには彼の剛直な慾望(よくばう)を制(おさ)へがたき空想の亂(みだ)れとが溢(あふ)れてゐた。リザヴェッタはもうそれらの手紙を彼にかへさうとは思はなくなつたばかりか、だん/\にその手紙の文句に醉(よ)はされて、たうとう返事を書きはじめた。さうして、彼女の返事は少しづつ長く且(か)つ愛情が籠(こも)つて行つて、遂には窓から次のやうな手紙を彼になげ與(あた)へるやうにもなつた。
[原文は総ルビ。ここではその一部を省略しました - tomoki y.]

   プーシキン=著 岡本綺堂=訳 「スペードの女王」
   『世界大衆文學全集35 世界怪談名作集
   改造社 1929/08(昭和4)所収


(J13) 山村 1921
 しかしヘルマンはこれ位の事で止めるやうな男ではなかつた。彼女は毎日毎日手を變へ品を變へて届く彼からの手紙を受取つた。それらの手紙はもう獨逸語から譯したのではなかつた。ヘルマンは感情の迸るがまゝに綴り、心からの言葉で話し掛けて、希望の不變である事だの、抑へきれぬ想像の取亂れた状態だのが紙上にありあり表はされてあつた。リザヴェタはもはや手紙を彼に送り返さうとは思はなかつた。彼女は有頂天になつて、返事を書きだした。そして少しづゝその返事も長くなり、情感がこもるやうになつた。到頭彼女は次のやうな手紙を窓から彼に投げた。

   プーシュキン=著 山村魏(やまむら・たかし)訳 「スペードの女王」
   『プーシュキン小説集』 叢文閣 定價金貳圓 1921/04(大正10)所収


(J14) 小宮 1906, 1999
 ヘルマンは猶止(や)めなかつた。日毎日毎女の許に手を換へ品換へて手紙が來る。もうへルマンは夢中になつて、獨逸語で書いてある。本國の言葉を使つて居る。これや正しく棄て難き思ひと、止め難き空想とが亂れ/\て、辨(わか)ち難きしるしである。リザウエタは今となつては返さうとは思はぬ、その言に聞き、その語に答ふるに到たつた。手紙は日に増し長くやさしくなつて行く。
 果てはこんな手紙を提げ下ろすやうになつた。

   プーシキン=著 小宮破霄=訳 「三枚札」
   14a. 川戸道昭+榊原貴教=編 ナダ出版センター=制作
       『明治翻訳文学全集《新聞雑誌編》36 プーシキン/レールモントフ集
       (全50巻・別巻2)大空社 1999/12 所収
   14b. 『明星』 1906/11(明治39)収載

   初出誌は 14b.14a.14b. を複製したもの。
   引用は 14a. に拠りました。


■英訳 Translations into English

(E1) Twitchell
In no wise daunted by this rebuff, he found the opportunity to send her another note in a few days. He received no reply, but, evidently understanding the female heart, he presevered, begging for an interview. He was rewarded at last by the following:

   The Queen of Spades
   by Aleksandr Sergeevich Pushkin
   Translated by H. Twitchell
   E-text at Project Gutenberg


(E2) Duddington
But Hermann would not give in. Every day Lizaveta Ivanovna received a letter from him by one means or another. They were no longer translated from the German. Hermann wrote them inspired by passion, and in the style natural to him: they reflected the intensity of his desires and the disorder of an unbridled imagination. Lizaveta Ivanovna never thought of returning them now: she drank them in eagerly, and took to answering them -- and her letters grew longer and more tender every hour. At last she threw out of the window the following note to him:

   The Queen of Spades
   by Alexander Sergeyevich Pushkin
   Translalated by Natalie Duddington
   Progress Publishers
   E-text at Russica Miscellanea - A Little Page of Russia


(E3) FullBooks.com, etc.
But Hermann was not the man to be thus put off. Every day Lizaveta received from him a letter, sent now in this way, now in that. They were no longer translated from the German. Hermann wrote them under the inspiration of passion, and spoke in his own language, and they bore full testimony to the inflexibility of his desire, and the disordered condition of his uncontrollable imagination. Lizaveta no longer thought of sending them back to him; she became intoxicated with them, and began to reply to them, and little by little her answers became longer and more affectionate. At last she threw out of the window to him the following letter:

   The Queen of Spades
   by Alexander Sergeievitch Pushkin
   E-text at:
   * FeedBooks.com (PDF)
   * web-books.com
   * Schulers Books
   * FullBooks.com
   * words.com.pl


■ロシア語原文 The original text in Russian

Но Германн не унялся. Лизавета Ивановна каждый день получала от него письма, то тем, то другим образом. Они уже не были переведены с немецкого. Германн их писал, вдохновенный страстию, и говорил языком, ему свойственным: в них выражались и непреклонность его желаний, и беспорядок необузданного воображения. Лизавета Ивановна уже не думала их отсылать: она упивалась ими; стала на них отвечать, — и ее записки час от часу становились длиннее и нежнее. Наконец она бросила ему в окошко следующее письмо:

   А.С. Пушкин - Пиковая дама
   E-text at Russian Virtual Library


■娘の名前の日本語表記
 Variations of the girl's name translated into Japanese

リーザ………………………………渡辺 1986 山本+山本 1965 
               藤井 1967, 1970
リザアヴエタ・イワノーヴナ
(山村 1921)
リザウエタ、イワノウナ
……小宮 1906, 1999
リザヴィェータ・イワノーヴナ
小沼 1969         
リザヴェータ・イワーノヴナ
丹辺 1961 西本 1963
リザヴェータ・イワノーヴナ
木村 1980
リザヴェータ・イヴァーノヴナ
高橋 1978 藤井 1967, 1970
               中村 1950, 1953, etc. 
               神西 1933, 1948, etc.
リザヴェタ・イワノーヴナ
……山村 1921
リザヴェッタ
………………岡本 1929
リザヴエタ・イワノーヴナ
……(山村 1921)
リザヴエタ・イヴノーヴナ
……(山村 1921)
リザヹータ・イワーノヴナ
……中山 1936, 1937, etc.

山村氏 (1921) は、表記を統一しようという意識を、ほとんど、もしくはまったく、お持ちでなかったようです。おかげで、おなじ見開きに3つの異なる表記を見かけることさえあります。


■ほぼ網羅的な邦訳リスト
 A more or less complete list of translations into Japanese
 
プーシキン「スペードの女王」(1) をご参照ください。
See The Queen of Spades by Alexander Pushkin (1)


■映画/テレビ化作品 Filmography

『スペードの女王』は、これまでに少なくとも10回以上——映画の発明以来、ほぼ10年に1本の割合で——映画化もしくはテレビ化されています。ただし、小説から直に映像化したのではなくて、チャイコフスキーによるオペラ版を映像化したものも多く含まれます。そのうちの1本が、冒頭に写真を掲げた1960年のソ連映画。

原作が短篇であるせいか、映像作品には大作と呼べるものは少なく、近年はテレビ化のほうが多いようです。詳しくは The Internet Movie Database (IMDb) の Alexander Pushkin のページ をご覧ください。

According to The Internet Movie Database (IMDb), The Queen of Spades has been made into a film or television drama on at least ten occasions, roughly one in each decade since the invention of the motion picture medium:

 7. The Queen of Spades (1999) (TV) (short story "Pikovaya dama")
14. Pique Dame (1992) (TV) (short story "Pikovaya dama")
 ... aka The Queen of Spades
24. Pikovaya dama (1982) (TV) (short story "Pikovaya dama")
 ... aka Пиковая дама (Soviet Union: Russian title)
 ... aka Queen of Spades
42. Dame de pique, La (1965) (short story "Pikovaya dama")
 ... aka The Queen of Spades (International: English title)
47. Pikovaya dama (1960) (short story "Pikovaya dama")
 ... aka Пиковая дама (Soviet Union: Russian title)
 ... aka Queen of Spades
58. "The Chevrolet Tele-Theatre" (1 episode, 1950)
 ... aka Chevrolet Television Theatre (USA)
 ... aka The Broadway Playhouse
 - Queen of Spades (1950) TV Episode (short story "Pikovaya dama")
59. The Queen of Spades (1949) (short story "Pikovaya dama")
67. Dame de pique, La (1937) (short story "Pikovaya dama")
 ... aka Pique Dame
 ... aka Queen of Spades
77. Pikovaya dama (1916) (short story "Pikovaya dama")
 ... aka The Queen of Spades (International: English title)
83. Pikovaya dama (1910) (short story "Pikovaya dama")
 ... aka Queen of Spades (International: English title: literal title)

   The number at the top of each title denotes what is
   shown on: Alexander Pushkin - IMDb.


■外部リンク External links

   * Alexander Pushkin - Wikipedia
   * The Queen of Spades (story) - Wikipedia
   * アレクサンドル・プーシキン - Wikipedia
   * スペードの女王 - Wikipedia


■更新履歴 Change log

2007/12/01 藤井一行=訳 1967/09, 1970/11 を追加しました。
2007/11/22 山村魏=訳 1921/04 を追加しました。
2007/11/18 西本昭治=訳 1963/01 を追加しました。
2007/11/14 小宮破霄=訳 1999/12、1906/11 を追加しました。


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■洋書 Books in non-Japanese languages
(1) Queen of Spades

(2) Pushkin

■和書 Books in Japanese
(1) スペードの女王

(2) プーシキン

■DVD

  

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Saturday, 03 November 2007

А. С. Пушкин. Пиковая дама (1) The Queen of Spades by Alexander Pushkin (1) プーシキン 「スペードのクイーン」「スペードの女王」 (1)

 Images 
表紙画像と肖像画 Book covers and a portrait

↓ クリックして拡大 Click to enlarge ↓
a. 41mhs8ys9zl b. Queen_of_spades c. 487pxaleksander_puszkin

■中国語訳(簡体字) Translation into simplified Chinese

从此没有间断过一天,到了一定的时刻,那个年轻军官便准时来到窗下。他和她之间似乎达成了一种无形的默契。她坐在自己位子上做女红,感到他要来了,抬起头便看到了他。看他的时候一天天越来越长。年轻人对她这一点似乎很感激。每一回当他们的目光相遇,她青春锐利的眼睛一瞥就看出他那苍白的面颊一下子羞得通红。过了一个礼拜,她向他微微一笑……


 Audio 
日本語版ラジオドラマ Radio drama in Japanese

Uploaded to YouTube by きくドラ on 22 Aug 2014


■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 望月 2015
 このとき以来一日も欠かさず、同じ青年が決まった時間に彼女たちが住む家の窓の下に姿を現すようになった。言わず語らずのうちに、二人の間にはある種の関係ができあがっていた。自分の場所に座って仕事をしているうちに、彼の接近を感じ取って面(おもて)を上げた彼女の、相手を見つめる時間が日増しに長くなっていく。青年もどうやら彼女のそうした振る舞いをうれしく思っているらしく、二人のまなざしが出合うたびに青年の青ざめた頬 にさっと赤味が射すのを、彼女は若い娘らしい目ざとさで見て取っていた。一週間後、彼女は彼にほほえみかけた……。


(J2) 渡辺 1986
 その日からというもの、若い士官のすがたはきまった時間にかならずあらわれた。リーザはうつむいていても、彼の近づいてくるのが気配でわかるようになった。
 士官がいつもの場所にたつと、リーザは顔をあげて彼をみる。二人がみつめあう時間は一日ごとに長くなっていき、彼女のひとみが彼にむけられるたびに、士官の青白い顔がぱっと赤らむのをリーザははっきりとみた。そして七日め、リーザはついに彼にほほえみかけた……。

  • プーシキン=作 渡辺節子=文(抄訳/再話) 「スペードの女王」 プーシキン〔ほか〕=作 『悪魔のトランプ占い』 怪奇・推理シリーズ ポプラ社文庫 1986/07
  • 原文にあるルビは省略しました。

(J3) 木村 1980
 その日から、この青年の姿が決まった時刻に、屋敷の窓の下にあらわれぬ日は一日もなかった。ふたりのあいだには暗黙のうちにひとつの関係が成立した。彼女はいつもの場所で仕事をしながらも、彼の近づいてくる気配をひとりでに悟って——ふと顔をあげて、彼のほうを眺めるのだったが、その眺める時間も日ましに長くなっていった。青年のほうもそうした態度にたいして彼女に感謝しているように思われた。ふたりの視線が合わさるたびに、青年の蒼白(あおじろ)い頬がさっと赤らむのを、彼女は若い女性特有の敏感さで見てとった。一週間後には、彼女も彼に微笑を返した……


(J4) 高橋 1978
 その日から、若い将校がきまった時刻にこの窓の下に現われぬ日はなくなった。彼と彼女のあいだには無言の関係ができあがった。彼女はいつもの場所で刺繍をしながら、彼が近づいてくるのが、勘でわかるようになった。そして、顔をあげて彼を見つめ、面映(おもはゆ)く彼にまなざしをなげかける時間も日ましに長くなった。青年はこのことを感謝しているふうに見えた。ふたりのまなざしが合うたびに、きまって彼の青白い頬(ほお)にさっと赤みのさすのを、若い女の敏感な瞳は見のがさなかった。一週間目には、彼女は彼にほほえみかけた……。


(J5) 小沼 1969
 そのとき以来、その青年の姿が、きまった時刻に、この家の窓の下に現われない日は一日もなかった。彼と彼女とのあいだにあからさまには約束されたことのない交渉が成立した。いつもの場所にすわって仕事をしながらも、彼女は彼の近づいて来る気配を感じ——そっと顔を上げて、彼のほうを眺めるのだが、その眺める時間も日ごとに長くなって行くばかりだった。青年もそれに対して彼女に感謝しているように思われた。二人の視線が合わさるたびに、彼の青白い頬(ほほ)がさっと紅(くれない)におおわれるのを、若い女性の目ざとさで彼女はちゃんと見てとったのである。一週間後には、彼女は彼にほほえみかけるようになった……。


(J6) 藤井 1967, 1970
 それ以来、その若者がきまった時間に屋敷の窓の下にあらわれない日は一日もなかった。若者と彼女とのあいだに暗黙の関係が成立した。いつもの場所で仕事をしていると彼女は若者が近づいてくるのを感じて顔をあげ、相手を見つめた。相手を見つめる時間は日ましに長くなっていった。若者はそのことを彼女に感謝しているように見えた。というのは、ふたりの視線があうたびに相手のあおざめた頬があかくなるのを彼女はおとめの目ざとさで見てとったからだ。一週間後、彼女は若者に向かってほほえみかけた……


(J7) 山本+山本=訳・文 1965
 その日からあと、士官の現われない日はありませんでした。
 リーザは、ししゅうをしていても、あの士官がこちらへ近づいてくるけはいを、しぜんとさとれるようになりました。
『もういらっしゃるじぶんだわ』
 ふと、窓の外へ目をやります。そこには、きっと、士官の姿がありました。
 目と目が合っても、リーザは、はじめのころのように、すぐはずさなくなりました。 見つめ合っている時間が、だんだん長くなりました。気のせいか、目が合ったとき、士官のあおじろい顔に、さっと赤みがさすようでした。
 一週間たちました。
 リーザは、士官に向かって、ほほえみかけるようになっていました。

  • プーシキン=原作 山本さやか=訳 山本和夫=文「スペードの女王」 川端康成〔ほか〕=監修 『少年少女世界の名作文学33 ソビエト編1』全50巻 小学館 1965/05
  • 原文は総ルビですが、ここでは省略しました。

(J8) 西本 1963
 それからというもの、若い士官は毎日一定の時刻に、その家の窓の下にあらわれるようになった。士官とリザヴェータのあいだには、暗黙の間柄が成立した。リザヴェータはいつものところにすわって仕事をしながら、ふと、彼の近づいてくるのを感じる。彼女は顔をあげて、彼を見る。その、彼を見る時間が、日ごとにながくなっていった。青年の方も、彼女がそのように見てくれるのを、感謝しているようだった。視線があうと、青年のあおじろいほほがぱっとあからむのを、彼女は若い娘のめざとさで見てとった。一週間目には、彼女はにこっと彼に笑いかけた……。

  • プーシキン=作 西本昭治(にしもと・しょうじ)=訳 「スペードの女王」 『スペードの女王・大尉の娘』 現代教養文庫 社会思想社 1963/01
  • 扉・目次・奥付などでは、タイトルの「女王」に「クイーン」とルビが振ってあります。

(J9) 丹辺 1961
 その時以来、この若い士官が、きまった時刻に、その家の窓の下にあらわれない日は一日もなかった。彼と彼女のあいだには暗黙の関係ができあがった。いつもの位置で仕事をしていると、彼女は例の男が近づいてくるのを感じた——顔をあげては、一日一日ますます長い時間をかけて彼を見つめるようになった。青年はこのことで彼女に感謝しているようにみえた。というのは、お互いの視線がぶっつかったときにはいつでも、彼の青白いほおにパッと赤味がさす様子を、娘の敏感な眼でとらえたからである。一週間たつと彼にむかってほほえみかけた。

  • プーシキン=著 丹辺文彦(にべ・ふみひこ)=訳 金子幸彦(かねこ・ゆきひこ)=編 『ロシア短篇名作集』 学生社 1961/07

(J10) 中村 1950, 1953, etc.
 その時以来、この青年の姿がきまった時刻にこの家の窓下へ現われぬ日はなかった。彼と彼女との間には、それとは言わぬ交渉が成り立った。いつもの場所に坐って仕事をしながら、彼女は彼の接近を感じ——面を上げては彼の方を見るのだったが、その時間が日ましに長くなるのだった。青年はそれに対して、彼女に感謝の心を抱くかに思われた——彼女は、若い女の眼敏さで、二人の瞳が会うたびに、蒼白い彼の頬にさっと紅(くれな)いのさすのを見逃さなかった。一週間後には、彼女は彼に微笑みかけるようにさえなった……


(J11) 神西 1933, 1948, etc.
 その日からこの方、若い士官の姿が定まった時刻に、窓の下にあらわれぬ日は無かった。二人の間には、言わず語らずの間柄が成り立った。彼女は何時(いつ)もの場所に針仕事をしながら、彼の近づいて来る気配をおのずから悟るようになった。すると彼女は面をあげて、じっと彼を見つめる。見つめる時間も、日ましに長くなりまさった。青年はこの無邪気なもてなしに感謝の心を抱くかに見えた。二人の眸(ひとみ)が合わさるごとに、男の蒼白(あおじろ)い頬をさっと紅の射(さ)すのを、彼女は若い女に特有の眼ざとさで見て取った。七日を経て、彼女は彼に微笑(ほほえ)みかけた。


(J12) 中山 1936, 1937, etc.
 この時からといふもの、青年の姿が、この家の窓下に、いつも一定の時刻にあらはれぬ日とてはなかつた。二人の間には、そこはかとない交渉が出來て來た。いつもの所で仕事をしてゐても、近づいて來る氣配が感ぜられて、頭をあげて、日ましに一そうよく、しみじみと男を見つめるやうになつた。どうやら青年の方では、見られることを有難がつてゐるらしかつた。二人の眸が遭ふ度ごとに、男の青白い頬がさつと赧らむのを、彼女は若い者につきものの鋭い眼ざしをもつて見てとつた。一週間ほどすると、彼女は男に微笑みかけるやうになつた。

  • プウシキン=著 中山省三郎=譯 「スペェドの女王」 『プウシキン全集3』 改造社 1936/11(昭和11)

(J13) 岡本 1929, 1948, etc.
 この時以來、彼の青年士官が一定の時間に、窓の下にあらはれないと言ふ日は一日もなかつた。彼と彼女のあひだには無言のうちに或る親(したし)みを感じて來た。いつもの場所で刺繍(ししう)をしながら、彼女は彼の近づいて來るのをおのづからに感じるやうになつた。さうして顏(かほ)を上げながら、彼女は一日ごとに彼を長く見つめるやうになつた。青年士官は彼女に歡迎(くわんげい)されるやうになつたのである。彼女は青春の鋭い眼で、自分達の眼と眼が合ふ度に、男の青白い頬が俄(にはか)に紅(あか)らむのを見て取つた。それから一週間目ぐらゐになると、彼女は男に微笑(びせう)を送るやうにもなつた。


(J14) 梅田 1925
 その時以來、その若い男がいつもの時刻に彼女等の家の窓下に姿を現はさないで過ぎる日はなかつた。彼と彼女との間にはそれと云はず語らずの相識(ちかづき)が成り立つた。彼女は自分の仕事の場所に腰かけてゐて、彼がやつて來るのを感じた——そしては頭をあげて、一日ましに長く/\彼を眺めた。その若い男は、そのために彼女に對して感謝してゐるかのやうであつた、といふのは、彼女は靑春のい眼で、二人の視線がかちあふその度にいつも彼の蒼白い頬が、忽ちサツと紅を帶びるのを見たからである。一週間ののちには、彼女は彼に頬笑みかけた……

  • プーシュキン=作 梅田寛(うめだ・かん)=譯「スペードの女王」 『世界短篇小大系 露西亞篇(上)』 非賣品 近代社 1925/12/20(大正14)
  • 目次の表記は「スペイドの女王」。章扉と本文の表記は「スペードの女王」。過・視・週・梅の旧字は新字で置き換えました。原文は総ルビですが、ここではその一部を省略しました。

(J15) 山村 1921
 この時以來その若い士官がいつもの時刻に彼女の窓下に現はれない日とては一日もなく、二人の間には一種の無言の馴染が成り立つた。仕事をしてゐながら彼女は、若い士官の近附いて來るのが解るのが常であつた。で彼女は頭を上げて毎日々々長い長い間士官を眺めるのであつた。若い男はそれを非常に感謝してゐるやうに見えた。彼女は若い者の鋭い眼で、二人の視線が出會ふ度毎に男の蒼白い頬がどのやうにすぐ眞赤に染まるかを見て取つた。一週間ばかり經つてから彼女は男に微笑んでみせるやうになつた……。

  • プーシュキン=著 山村魏(やまむら・たかし)訳 「スペードの女王」 『プーシュキン小説集』 叢文閣 定價金貳圓 1921/04(大正10)

(J16) 小宮 1906, 1999
 その後は同じ刻限と覺ぼしき頃、窓の下に、この男の來ぬ日はない。言葉こそ交(かは)さね、二人の關係は日に増し近くなつて來る。例の處に坐つて仕事をして居ると、男の來るのが自然と知れる。——頭を揚げて日毎日毎に見おろす。男の鋭い眼を見おろす。眼と眼とが相合ふとき、男の蒼白い頬にむら/\と湧く濃き紅(くれなゐ)を見おろす。一週過ぎて、二人は相見て互に微笑むやうになつた。


■スペイン語訳 Translation into Spanish

Desde entonces no había día en que el joven, a la misma hora, no apareciera bajo las ventanas de la casa. Entre ambos se estableció una relación inadvertida. Sentada junto a su labor, ella notaba su llegada, levantaba la cabeza y lo miraba cada vez más largo rato. El joven parecía estarle agradecido por ello: la muchacha, con la aguda mirada de la juventud, veía cómo un repentino rubor cubría las pálidas mejillas del oficial cada vez que sus miradas se encontraban. Al cabo de una semana ella le sonrió...

  • La Dama de Espadas by Alexandr Puchkin
  • E-text at Ciudad Seva

■フランス語訳 Translation into French

Depuis lors, il ne se passa pas de jour que le jeune ingénieur ne vînt rôder sous sa fenêtre. Bientôt, entre elle et lui s’établit une connaissance muette. Assise à son métier, elle avait le sentiment de sa présence ; elle relevait la tête, et chaque jour le regardait plus longtemps. Le jeune homme semblait plein de reconnaissance pour cette innocente faveur : elle voyait avec ce regard profond et rapide de la jeunesse qu’une vive rougeur couvrait les joues pâles de l’officier, chaque fois que leurs yeux se rencontraient. Au bout d’une semaine, elle se prit à lui sourire.

  • La Dame de pique by Alexandre Pouchkine. Translated by Prosper Mérimée
  • E-text at Wikisource

■英訳 Translations into English

(E1) Twitchell
This appearance of the officer had become a daily occurrence. The man was totally unknown to her, and as she was not accustomed to coquetting with the soldiers she saw on the street, she hardly knew how to explain his presence. His persistence finally roused an interest entirely strange to her. One day, she even ventured to smile upon her admirer, for such he seemed to be.

  • The Queen of Spades by Aleksandr Sergeevich Pushkin. Translated by H. Twitchell
  • E-text at Project Gutenberg

(E2) Duddington
Since then not a day had passed without the young man appearing at a certain hour before the windows of their house. A contact had arisen between them of itself, as it were. Sitting in her usual place at work she felt his approach --and, lifting her head, looked at him longer and longer every day. The young man seemed to be grateful to her for it: with the keen eyes of youth she saw a flush overspread his pale cheeks every time their eyes met. Before the end of the week she had smiled at him.


(E3) FullBooks.com, etc.
From that time forward not a day passed without the young officer making his appearance under the window at the customary hour, and between him and her there was established a sort of mute acquaintance. Sitting in her place at work, she used to feel his approach, and raising her head, she would look at him longer and longer each day. The young man seemed to be very grateful to her; she saw with the sharp eye of youth, how a sudden flush covered his pale cheeks each time that their glances met. After about a week she commenced to smile at him...


■ドイツ語訳 Translations into German

Von nun an erschien der junge Mann jeden Tag zur gleichen Stunde vor ihrem Fenster. Zwischen ihm und ihr entwickelte sich ein stummes Verhältnis. Wenn sie an ihrer Arbeit saß und sein Nahen fühlte, hob sie den Kopf und blickte ihn an; von Tag zu Tag wurde dieser Blick länger. Der junge Mann war ihr dafür, wie es schien, sehr dankbar: sie sah mit dem scharfen Blick der Jugend, wie seine blassen Wangen jedesmal rot wurden, wenn sich ihre Blicke trafen. Nach weiteren acht Tagen lächelte sie ihm bereits zu...


 Video 
Pikovaya dama (1982) a TV adaptation directed by Igor Maslennikov
И́горь Фёдорович Ма́сленников - Пиковая Дама (1982)


■ロシア語原文 The original text in Russian

С того времени не проходило дня, чтоб молодой человек, в известный час, не являлся под окнами их дома. Между им и ею учредились неусловленные сношения. Сидя на своем месте за работой, она чувствовала его приближение, — подымала голову, смотрела на него с каждым днем долее и долее. Молодой человек, казалось, был за то ей благодарен: она видела острым взором молодости, как быстрый румянец покрывал его бледные щеки всякий раз, когда взоры их встречались. Через неделю она ему улыбнулась...


■Spelling variations of the author's name in European languages

A. S. Puschkin,
Aleksander S. Pushkin,
Aleksandr Pushkin,
Aleksandr Sergeevich Pushkin,
Aleksandr Sergeyevich Pushkin,
Aleksandr Sergeyevich,
Alexander Puschkin,
Alexander Pushkin,
Alexander Puszkin,
Alexander S. Pushkin,
Alexander Sergeievitch Poushkin,
Alexander Sergeyevich Pushkin,
Alexandr Pushkin,
Alexandr Sergeievitch Pushkin,
Alexandr Sergeyevitch Pushkin,
Alexandre Pushkin,
Pouchekine,
Pouchequine,
Pouchkine,
Puschkin,
Pushkin,
Puszkin.

   Cf. Biography Research Guide


■著者名の日本語表記いろいろ

A・C・プーシキン
A・S・プーシキン
A・プーシキン
アレクサンダー・プーシキン
アレクサンドル・セルゲービッチ・プーシキン
アレクサンドル・セルゲーヴィチ・プーシキン
アレクサンドル・セルゲーヴイチ・プーシキン
アレクサンドル・セルゲェヴィチ・プーシキン
アレクサンドル・セルゲエヴイチ・プーシキン
アレクサンドル・プーシキン
プーシキン
プーシュキン
プゥシキン
プウシキン
プシキン
 
   参考:東京都立図書館 www OPAC 典拠詳細表示


■ほぼ網羅的な邦訳リスト
 A more or less complete list of translations into Japanese

下のリストは、国立国会図書館 NDL-OPAC でタイトル「スペード」、著者・編者「プーシキン」を入力して得られた検索結果に、漏れのあった数タイトルを気がついた範囲で補足したもの。配列は、訳者ごとにまとめて、初版刊行年の新→旧の順。多くのタイトルの前についている数字は、検索結果をコピー&ペーストしたために生じたもので、数字が大きいほど古いことになります。★のついたタイトルは、上にその訳文の抜粋を掲載したものです。

渡辺節子=文(抄訳/再話)
★--.     悪魔のトランプ占い. -- ポプラ社, 1986.07. -- (ポプラ社文庫)

木村浩訳
★ 7.     世界文学全集. 23. -- 集英社, 1980.12

河野多恵子(神西清訳に拠る抄訳)
  3.     世界幻想名作集 / 渋沢竜彦. -- 河出書房新社, 1996.11. -- (河出文庫)
 --.     世界幻想名作集 グラフィック版 世界の文学 別巻1 / 渋沢竜彦. -- 世界文化社, 1979

高橋包子訳
  --.     スペードの女王・大尉の娘. -- グーテンベルク21 (電子ブック)
★--.     世界文学全集. 36 / 五木寛之. -- 学習研究社, 1978.2

小沼文彦訳
★12.     スペードの女王 / プーシキン[他]. -- 旺文社, 1969. -- (旺文社文庫)

藤井一行訳
★15.     世界文学全集. 第20. -- 筑摩書房, 1967

山本さやか訳 山本和夫文
★17.     少年少女世界の名作文学. 33(ソビエト編 1) / 川端康成. -- 小学館, 1965

草鹿外吉(くさか・そときち)訳
  16.     世界青春文学名作選. 第17 / 学習研究社書籍編集部. -- 学習研究社, 1964. -- (ガッケン・ブックス)

西本昭治訳
★19.     スペードの女王・大尉の娘 / プーシキン[他]. -- 社会思想社, 1963. -- (現代教養文庫)

大庭さち子訳
  21.     大尉の娘・スペードの女王 / プーシキン[他]. -- 偕成社, 1962. -- (少女世界文学全集 ; 20)

丹辺文彦訳
★24.     ロシア短篇名作集 / 金子幸彦. -- 学生社, 1961

抄訳/解説書? 著訳者未確認
  30.     スペードの女王 / ダイジェスト・シリーズ刊行会. -- ジープ社, 1950. -- (ダイジェスト・シリーズ ; 第14)

中村白葉訳
   4.     魔術師物語. -- 北宋社, 1989.9
   8.     世界文学全集. 36 / 五木寛之. -- 学習研究社, 1978.2
★--.     ロシア文学全集 決定版. 2. -- 日本ブック・クラブ 1969
  18.     ロシア・ソビエト文学全集. 第2. -- 平凡社, 1964
  20.     世界文学全集. 第49. -- 新潮社, 1963
  26.     ロシア文学全集. 第1巻. -- 修道社, 1957
  27.     プーシキン小説全集. 第2 / 中村白葉. -- 新潮社, 1954. -- (新潮文庫)
  28.     スペードの女王 / プーシキン[他]. -- 角川書店, 1953. -- (角川文庫 ; 第376)
  31.     スペードの女王 / プーシキン[他]. -- 思索社, 1950. -- (思索選書 ; 第156)

中山省三郎訳
  29.     スペードの女王・青銅の騎士 / プーシキン[他]. -- 創元社, 1953. -- (創元文庫 ; B 第79)
  --.     世界文学全集. 〔第1期〕 第22 / 河出書房. -- 河出書房, 1950
  --.     スペヱドの女王 / プゥシキン[他]. -- 春陽堂, 1949. -- (春陽堂文庫 ; 第1014)
  --.     スペエドの女王 / プウシキン[他]. -- 柏書店, 1946
  --.     スペェドの女王 / プゥシキン[他]. -- 書物展望社, 1937
★--.     プウシキン全集. 第3巻. -- 改造社, 1936

神西清訳
★ 1.     スペードの女王 / プーシキン[他]. -- 改版. -- 岩波書店, 2005.4. -- (岩波文庫)
   5.     ちくま文学の森. 10 賭けと人生 / 安野光雅. -- 筑摩書房, 1988.7
   9.     プーシキン全集. 4. -- 河出書房新社, 1972
  10.     筑摩世界文学大系. 30. -- 筑摩書房, 1972
  13.     世界文学全集. 第2集 第8巻. -- 河出書房, 1968
  14.     スペードの女王・ベールキン物語 / プーシキン[他]. -- 岩波書店, 1967. -- (岩波文庫)
  22.     世界文学大系. 第26. -- 筑摩書房, 1962
  23.     世界文学全集. 第9 / 阿部知二. -- 河出書房新社, 1962
  25.     世界文学全集. 第3期 第5. -- 河出書房新社, 1958
  32.     スペードの女王 / プーシキン[他]. -- 12版. -- 岩波書店, 1950. -- (岩波文庫)
  33.     スペードの女王 / プーシキン[他]. -- 角川書店, 1949. -- (角川文庫 ; 第12)
  35.     プーシキン短篇集 / 神西清. -- 角川書店, 1948. -- (飛鳥新書)
  36.     スペードの女王 / プーシキン[他]. -- 岩波書店, 1947. -- (岩波文庫 ; 925)
  37.     スペードの女王 / プーシキン[他]. -- 岩波書店, 1933. -- (岩波文庫 ; 925)

岡本綺堂訳
   2.     世界怪談名作集. 上 / 岡本綺堂. -- 新装版. -- 河出書房新社, 2002.6. -- (河出文庫)
   6.     世界怪談名作集. 上 / 岡本綺堂. -- 河出書房新社, 1987.8. -- (河出文庫)
  11.     岡本綺堂読物選集. 第8. -- 青蛙房, 1970
  34.     世界怪談名作集 / 岡本綺堂. -- 新星工房, 1948
★--.     世界大衆文学全集. 第35巻. -- 岡本綺堂. -- 改造社, 1929

梅田寛訳
★38.     世界短篇小説大系. 露西亜篇 上 / 近代社. -- 近代社, 1925

山村魏(やまむら・たかし)訳
★39.     プーシュキン小説集 / 山村魏. -- 叢文閣, 1921

小宮破霄訳
★40.     明治翻訳文学全集《新聞雑誌編》. 36 / 川戸道昭, 榊原貴教. -- 大空社, 1999
  41.     『明星』1906/11(明治39)収載


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2015/03/02 日本語版ラジオドラマの YouTube 画面と望月哲男=訳 2015/02/20 を追加しました。
  • 2011/01/05 梅田寛=譯 1925/12/20、スペイン語訳、フランス語訳、およびドイツ語訳を追加しました。
  • 2010/04/12 Igor Maslennikov 監督によるテレビ化作品の YouTube 動画を追加しました。
  • 2007/12/01 藤井一行=訳 1967/09, 1970/11 を追加しました。
  • 2007/11/22 山村魏=訳 1921/04 を追加しました。
  • 2007/11/18 西本昭治=訳 1963/01 を追加しました。
  • 2007/11/14 小宮破霄=訳 1999/12、1906/11 を追加しました。
  • 2007/11/08 高橋包子=訳 1978/02 を追加しました。
  • 2007/11/04 セクションの配列と見出しを一部修正しました。

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■洋書 Books in non-Japanese languages
(1) Queen of Spades

(2) Pushkin

■和書 Books in Japanese
(1) スペードの女王

(2) プーシキン

■DVD

  

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Sunday, 12 August 2007

浅井了意 「牡丹の灯籠」「牡丹灯籠」(『伽婢子(おとぎぼうこ)』より) The Peony Lantern (from Hand Puppets) by Asai Ryōi

■表紙画像ギャラリー Cover photo gallery

↓ クリックして拡大 Click to enlarge ↓

a. Early_modern_japanese_literature b. Fuji_masaharu c. Toudou_otogibouko

d. Sunaga_kaidan e. Ja_edo_kaidanshu_chu f. Otogibouko_toyobunko


■物語成立の経緯

作品の成立の順番からいうと、

   中国明代:瞿佑「牡丹燈記」(『剪燈新話』
       ↓
   江戸時代:浅井了意「牡丹燈籠」(『伽婢子』)
       ↓
   幕末・明治:三遊亭圓朝『怪談牡丹燈籠』 

と、なります。瞿佑の種本は、あっけないほど短く、浅井了意と圓朝とが、それぞれ大変にすぐれたアレンジメントをくわえることによって、「牡丹燈籠」を不朽の名作に仕立て上げたことがわかります。


■英訳 Translation into English

After that, the woman came to Ogihara at dusk and departed at dawn; every night she kept her vow to visit. Ogihara's heart was in turmoil, his reason had flown. He was thrilled that the woman cared for him so deeply and never failed to come. He lost interest in seeing anyone else, even during the day. For more than twenty days he remained in this state.

Next door to Ogihara lived a wise old man. He thought it strange that lately, night after night, he could hear the voice of a young woman, laughing and singing, coming from Ogihara's house. He became so suspicious that finally he went and peeked through a crack in his fence. Lo and behold, there in the lamplight sat Ogihara, face to face with a skeleton! When Ogihara spoke, the skeleton would move its arms and legs, nod its skull, and reply in a voice that seemed to come from its mouth. The old man was aghast. As soon as it was daybreak he sent for Ogihara.

   Asai Ryōi. "The Peony Lantern."
   Translated by Maryellen Toman Mori.
   Hand Puppets (Otogi bōko)
   Early Modern Japanese Literature: An Anthology, 1600-1900.
   Edited by Haruo Shirane.
   New York: Columbia University Press, 2002.

   名前の表記 Ogihara は原文のまま。


■現代日本語訳 Translations into contemporary Japanese

(1) 藤堂 2001, 2006
 それから毎日、女は日暮れにきては明け方に帰るようになった。夜毎(よごと)に通ってくると約束し、それを一度も違(たが)えなかった。荻原(おぎわら)は心乱れて分別をなくした。一心同体で相思相愛となったこの女が、「二人の絆(きずな)は千世(ちよ)も変わりません」と言って通ってくることがうれしくてたまらず、昼も他人に会うことをやめた。そのような日々が、二十日余りつづいた。
 ところで、隣の家には、世故(せこ)に長(た)けた老人が住んでいた。
 〈荻原の家では、ずいぶん若い女の声がする。夜毎、歌い、笑い、遊んでいるのは尋常ではない〉
 こう思った老人は、壁の隙間から覗(のぞ)き見た。すると灯火の下には、一体の白骨と荻原とが差し向かいになって座っていた。荻原が何か言うと、その白骨の手足が動き、髑髏(されこうべ)が頷(うなず)き、口と思われるところから声が響き出てしゃべっていた。老人はたいそう驚き、夜が明けるのも待ちかねて荻原を呼び寄せた。(……)

   1a. 浅井了意(あさい・りょうい)=作
     藤堂憶斗(とうどう・おくと)=訳 「牡丹の灯籠」
     さねとうあきら、岡本綺堂〔ほか〕=著 赤木かん子=編
     『牡丹灯籠』 ホラーセレクション1(全10巻)
     ポプラ社 2006/03 所収         
   1b. 浅井了意=作 藤堂憶斗=訳 「牡丹の灯籠」
     『伽婢子・狗張子 江戸怪談集
     鈴木出版 2001/07 所収       

   1a. の底本は 1b.。引用は 1a. に拠りました。ルビを一部省略しました。


(2) 須永 1996
 それより毎日、女は、暮れれば訪れ、明ければ帰り、約束を違(たが)える事はなかった。荻原(おぎわら)は、女との逢瀬に溺れ、昼と雖(いえど)も家に引き籠り、人に会う事も止め、かくして廿日(はつか)あまりに及んだ。さて、隣家には世故(せこ)に長(た)けた翁(おきな)が住んでいたが、荻原の家より夜毎に聞き馴れぬ若い女の声がして歌い遊び笑いささめく様子ゆえ、これを怪しみ、壁の隙間より覗き見れば、燈火の下に新之丞が一体の白骨と差し向いに坐しているではないか。荻原がものを言えば、白骨の手足が動き、髑髏(しゃれこうべ)が頷き、口と覚しき所より声を発して答える体(てい)である。驚いた翁は、夜が明けるのを待ちかねて、荻原を呼び寄せ(……)

   瓢水子松雲(浅井了意) 『伽婢子(おとぎぼうこ)』 「牡丹灯籠」
   須永朝彦(すなが・あさひこ)=編訳
   『日本古典文学幻想コレクション3 怪談
   国書刊行会 1996/04/25 所収


(3) 江本 1980
 その後女は、日が暮れると訪れ、夜が明けると帰り、毎夜、通ってくるに約束を違(たが)えなかった。荻原のほうも、もう心は乱れて分別も付かず、ただこの女が自分に深く想いをかけて、契りは千代も変わらじと通ってくるのが嬉しく、昼でも他の者には会おうとしない。そして、二十日余りが過ぎた。
 荻原の家の隣に、物の道理をよくわきまえた老人が住んでいたのであるが、その老人がある日、変なことに気付いた。ひとり暮らす荻原の家から夜ごとに若い女の声が聞こえ、歌ったり笑ったりするのである。怪しく思って壁の隙間(すきま)から覗(のぞ)いてみると、荻原が一体の骸骨と向かいあっていた。荻原がものを言うと、白骨が手足を動かし、髑髏(しゃれこうべ)がうなずき、その口元あたりから声が響き出ている。老人はびっくりして、夜が明けるのを待ちかねて荻原を呼び寄せ(……)

   浅井了意=著 江本裕(えもと・ひろし)=訳 「牡丹の灯籠」
   『伽婢子—近世怪異小説の傑作』 教育社新書 原本現代訳 59
   教育社 1980/09/20


(4) 富士 1974, 1977, etc.
それからは日が暮れれば来、明け方には帰り、夜毎に通い来ること、全然約束を違(たが)えない。荻原(おぎわら)は心がわくわくして何彼(なにかれ)の事も考えられず、唯この女が睦まじく思い交(か)わして、契りに千世も変らじと通い来る嬉しさに、昼といえども又、他の人に逢う事もない。こうして二十日余りに及んだ。
 隣の家によく物を心得た翁が住んでいたが、荻原の家に不思議なことに若い女の声がして、夜毎に歌をうたい笑い遊ぶことの怪しさよと思い、壁の隙間から覗いて見ると、一揃いの白骨と荻原と燈火のもとに差向いで坐っていた。荻原が物をいうと、かの白骨の手あしが動いて、しゃれこうべがうなずき、口と思われる所より、声が響いて物語りをしている。翁は大いに驚いて、夜の明けるのを待ち兼ね荻原を呼びよせ(……)

   浅井了意(あさい・りょうい)=著 富士正晴(ふじ・まさはる)=訳
   『伽婢子(おとぎぼうこ)』「牡丹灯籠(ぼたんどうろう)」
   4a.現代語訳 江戸怪異草子(えどかいいぞうし)』 河出文庫 2008/08/20 所収
   4b.伽婢子・狗張子—怪談』 河出書房新社 1977/09 所収
   4c.日本の古典24 江戸小説集1』 河出書房新社 1974 所収

   4a.4b. を改題の上、文庫化したもの。引用は 4a. に拠りました。


■日本語原文 The original text in 17th-century Japanese

 (……)それよりして、日暮(くる)れば来り、明がたにはかへり、夜ごとにかよひ来(く)る事、更にその約束をたがへず。荻原(おぎはら)は心まどひてなにはの事も思ひわけず、たゞ此女のわりなく思ひかはして、契りは千世(ちよ)もかはらじと通ひ来るうれしさに、昼(ひる)といへども又こと人に逢(あふ)ことなし。かくて廿日あまりにをよびたり。
 隣(となり)の家によく物に心得たる翁(おきな)のすみたるが、荻原が家にけしからずわかき女のこゑして、夜ごとに哥うたひわらひあそぶ事のあやしさよと思ひ、壁(かべ)のすき間(ま)よりのぞきてみれば、一具(ぐ)の白骨(はつこつ)と荻原と、灯(ともしび)のもとにさしむかひて座したり。荻原ものいへば、かの白骨手あしうごき、髑髏(しやれかうべ)うなづきて、口とおぼしき所より声ひゞき出て物がたりす。翁大(おほい)におどろきて、夜のあくるを待かねて荻原をよびよせ(……)

   浅井了意=作 江本裕(えもと・ひろし)=校訂
   「巻の三 3. 牡丹灯籠(ぼたんのとうろう)」
   『伽婢子1』 (全2巻)東洋文庫475
   平凡社 1987/09 所収

   この東洋文庫の底本は、
   国立国会図書館所蔵の1666/03(寛文6)西沢太兵衛版、『御伽婢子』。


■『伽婢子』翻刻本の書誌情報
 Bibliography on books incorporating the republished text of Otogi Bouko

『伽婢子』を翻刻した本は、上に引用した東洋文庫版 (1987) のほかに次のものがある。d.g. を復刻したものである。

   a.新日本古典文学大系75 伽婢子
     佐竹昭広〔ほか〕=編 岩波書店 2001/09/20
   b.江戸怪談集(中)』 (全3冊) 「伽婢子」
     高田衛(たかだ・まもる)=編・校注 岩波文庫 1989/04/17
   c.假名草子集成7』 「おとぎばうこ」
     朝倉治彦(あさくら・はるひこ)=編 東京堂出版 1986/09/15
   d.近世文芸叢書3 復刻 小説』 国書刊行会=編輯 第一書房 1976
   e.近代日本文學大系13 怪異小説集』 瓢水子松雲=作「伽婢子」
     國民圖書株式會社=編輯 國民圖書 1927/05(昭和2)
   f.日本名著全集 江戸文芸之部 第10巻 怪談名作集
     日本名著全集刊行会=編輯 日本名著全集刊行会 1927(昭和2)
   g.近世文藝叢書第三 小説(上)』 (饗庭篁村による緒言つき)
     國書刊行會 非賣品 1910/09/30(明治43)


■更新履歴 Change log

2010/07/23 表紙画像を追加し、書誌情報を補足しました。
2010/06/15 江本裕=訳 1980/09/20 の訳文を挿入しました。また、
         「『伽婢子』翻刻本の書誌情報」の項を新設しました。
2010/06/01 須永朝彦=編訳 1996/04/25 と富士正晴=訳 2008/08/20
         の訳文を挿入しました。また、表紙画像と、江本裕=訳
         1980/09/20 の書誌情報を追加しました。
2010/05/29 Maryellen Toman Mori による英訳 2002 を追加しました。


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Friday, 10 August 2007

瞿佑(く・ゆう)瞿宗吉(く・そうきつ) 「牡丹燈記」「牡丹灯記」(『剪燈新話(せんとうしんわ)』より)

           目次 Table of Contents

   ■表紙画像 Cover photos
   ■現代日本語訳 Translations into contemporary Japanese
     (J1) 竹田+小塚+仙石 2008
     (J2) 竹田 1990
     (J3) 金 1989
     (J4) 鈴木 1972, 2006
     (J5) 飯塚 1958, 1965
     (J6) 村上 1954, 1959
     (J7) 岡本 1929, 1935, etc.
     (J8) 田中 1926, 1934, etc.
     (J9) 鈴木 1926
     (J10) 鹽谷(塩谷) 1921
   ■中国語原文(簡体字)The original text in simplified Chinese
   ■中國語原文(繁體字)The original text in traditional Chinese
   ■英題の異同 Variations of the title in English
   ■外部リンク External links
   ■更新履歴 Change log


■表紙画像 Cover photos

a. 4309462235 b. 012080050000 c. 80_048
↑ クリックして拡大 Click to enlarge ↑

■現代日本語訳 Translations into contemporary Japanese

(J1) 竹田+小塚+仙石 2008
 (……)喬(きょう)が女を引き留めたので、その晩は喬の家に泊まることとなった。女の物腰はとても妖艶で、言葉遣いもなまめかしく、寝台の帷を下ろして枕を近づけると、二人は欲情を燃やしきるまで愛し合ったのであった。
 朝になると、女は別れを告げて帰って行った。そして、日が暮れるとまたやってくる。このようにして半月が経とうとした頃、喬の様子を怪しんだ隣の家の老人が、壁に穴を開けて喬の家の中の様子を覗いてみると、化粧をした髑髏が喬と並んで灯りのもとに座っているではないか。腰を抜かさんばかりに驚いた老人が、翌朝になって喬を問いつめた。(……)

   瞿佑(く・ゆう) 「牡丹灯籠(牡丹灯記)」
   竹田晃+黒田真美子=編 竹田晃+小塚由博+仙石知子=著
   『剪灯新話 明代 中国古典小説選 8』 明治書院 2008/04/10


(J2) 竹田 1990
 (……)喬(きょう)は女を引きとめて泊まらせた。えにいわれぬなまめかしいものごし、言葉づかいも色っぽく、ベッドのとばりをおろし、枕を近づけて、また愛欲の火を燃やしつくした。夜が明けると別れを告げて帰って行ったが、日が暮れるとまたやって来る。
 このような状態が続いて半月になろうとするころ、隣家の老人がどうも様子がおかしいと怪しみ、壁に穴をあけてのぞいて見た。すると、なんと、化粧をほどこした一つの髑髏(どくろ)が灯火(ともしび)の下で喬と並んで座っているではないか。腰をぬかすほど驚いた老人は、翌朝喬を問いつめた。(……)

   瞿佑(く・ゆう)=著 竹田晃(たけだ・あきら)=訳・解説 「牡丹灯籠」
   竹田晃=編 『中国幻想小説傑作集
   白水Uブックス91 白水社 1990/12


(J3) 金 1989
 (……)男は女を引きとめて泊めたが、身のこなしあでやかに、言葉つきもなまめいて、寝台のとばりを低くたれ、枕を引きよせて歓楽をつくした。夜が明けると女は別れをつげて帰ったが、暮れどきになるとまた訪れる。
 こうしてかれこれ半月になろうとする頃、隣の老人が不審に思い、壁に穴をあけてのぞいてみると、なんと白粉(おしろい)をつけたされこうべが灯の下で男と並んですわっているではないか。老人は大いにおどろき、翌朝男を問いつめたが(……)

   瞿佑=作 金文京(きん・ぶんきょう)=著(現代語訳)
   「剪灯新話(せんとうしんわ) 牡丹灯記」
   『鑑賞 中国の古典23 中国小説選』 角川書店 1989/11


(J4) 鈴木 1972, 2006
 (……)共に語らい、共に打ち興じ、その後、床を同じくし、歓楽を尽くして帰っていった。
 それからは毎夜、同じ時刻に訪れては明け方帰る。それが半月近くも続いた。

 喬生(きょうせい)の隣に、やはり一人暮らしの老人が住んでいた。
 年のせいか、近頃寝つきが悪かった。(……)眠られぬまま、床の中であれこれ考えていると、隣の家から女の話し声が聞えてくる。
 珍しいことがあるものだ。こんな夜ふけに、喬生の家に女の客があるなんて……。
 (……)よし、どんな相手か、そっと拝見して、明日にでも冷やかしてやるか……。
 この老人、年がいもなくのこのこはい出し、壁に穴をあけてそっと隣の様子をうかがってみた。
 うす暗い燈火のもとに、喬生がぽつねんと椅子にかけている。向かいあっているのは一体のどくろ。ぽっかり開いた眼窩(がんか)を喬生に向け、下顎(したあご)の骨をがくがく動かしながら盛んに話しかけている。(……)
 腰をぬかさんばかりに仰天したじいさん、はうようにして床にもぐり込むと、頭から蒲団をかぶり、震え声で神仏を念じ出した。
 翌日、起きっぱなに隣家を訪れたじいさん、睡眠不足でぼんやりしている喬生を寝台から引っぱりおろして、昨夜見たことを話して聞かせた。ところが(……)

   a. 中国の伝承話 鈴木了三(すずき・さとみ)=訳 「怪談 牡丹燈記」
     さねとうあきら、岡本綺堂〔ほか〕=著 赤木かん子=編
     『牡丹灯籠』 ホラーセレクション 1 (全10巻)
     ポプラ社 2006/03
   b. 鈴木了三=編訳 『中国奇談集』 現代教養文庫 社会思想社 1972

   a. の底本は b.。引用は a. に拠りました。ルビを一部省略しました。


(J5) 飯塚 1958, 1965
 (……)喬(きょう)は女をひきとめて泊めると、なんともいえぬ妖艶な身のこなし、いう言葉もなまめいて、寝台のとばりをおろし、枕を近づければ、愛欲のかぎりをつくすのだった。夜が明けると別れをつげて帰っていったが、夜はまた訪れてくる。
こうして半月になろうとするころ、隣家の老人がこれをあやしみ、壁に穴をあけてのぞいてみると、一つの髑髏(どくろ)が燈の下で喬とならんで座っているので、びっくり仰天した。翌朝になって老人がこれを詰問すると(……)

   瞿佑=作 飯塚朗(いいづか・あきら)=訳 「巻の二 牡丹燈籠(牡丹燈記)」
   a.剪燈新話』 東洋文庫 48 平凡社 1965/08
   b.中国古典文学全集 20 剪灯新話・閲微草堂筆記 他』 全33巻
     平凡社 1958/04

   引用は a. に拠りました。


(J6) 村上 1954, 1959
 生はひき留めて泊めることにしたのだったが、すると美人のその身のこなしは妖艶(ようえん)だし、そのことばつきが甘ったれていて、やがていよいよ幃(とばり)をたれ、枕についてみたときには、およそ情けのかぎりを尽くし、夜が明けるといったん辞して立ち去りながら、暮れには又もやたずねてくるというありさま。しかもそうすることが半月もつづいたものである。となりの翁(おきな)が、どうもおかしいと嗅(か)ぎつけて、あいだの壁に穴をあけ、そっとのぞいてみれば、ひとりの美しいされこうべが、あかりの下で、生とならんで坐っているのが見えたので、翁はあっとばかり、おおいに駭(おどろ)き、そのあくる朝、生にむかって質(ただ)してみれば(……)

   瞿佑=作 村上知行(むらかみ・ともゆき)=訳
   a.世界文学全集 第3期 別巻2』 河出書房 1959
   b.全訳剪燈新話』 中央公論社 1954/10
   引用は b. に拠りました。


(J7) 岡本 1929, 1935, etc.
 今夜は泊まってゆけと勧めると、女はそれをも拒まないで、ついにその一夜を喬生の家(うち)に明かすことになった。それらのことはくわしく言うまでもない、「はなはだ歓愛を極む」と書いてある。夜のあけるころ、女はいったん別れて立ち去ったが、日が暮れると再び来た。金蓮という小女がいつも牡丹燈をかかげて案内して来るのであった。
 こういうことが半月ほども続くうちに、喬生のとなりに住む老翁(ろうおう)が少しく疑いを起こして、壁に小さい穴をあけてそっと覗いていると、紅(べに)や白粉(おしろい)を塗った一つの骸骨が喬生と並んで、ともしびの下に睦(むつ)まじそうにささやいていた。それを見て大いに驚いて、老翁は翌朝すぐに喬生を詮議すると(……)

   瞿佑(く・ゆう) / 瞿宗吉(く・そうきつ)=作 岡本綺堂(おかもと・きどう)=訳
   『剪燈新話』 「牡丹燈記 / 牡丹灯記」
   a. 中国怪奇小説集 新装版』 光文社文庫 2006/08/20
   b.世界怪談名作集 18 牡丹燈記」 青空文庫(電子テキスト) 2003/09
   c.世界怪談名作集(下)』 河出文庫 2002/06
   d.新・ちくま文学の森2 奇想天外』 筑摩書房 1994/10
   e. 世界怪談名作集(下)』 河出文庫 1987/09
   f. 中国怪奇小説集』 旺文社文庫 1978/04
   g.岡本綺堂読物選集7 飜訳編(上)』 青蛙房 1970
   h. 支那怪奇小説集』 サイレン社 定價貳圓 1935/11/20(昭和10)
     国立国会図書館デジタル化資料
   i.世界大衆文學全集35 世界怪談名作集』 改造社 1929/08(昭和4)

   a.f. を再刊したもの。f.h. のタイトルの「支那」を「中国」に
   改めて再刊したもの。b. の底本は c.c.e. の新装版。
   d.
の底本は g.。引用は b. に拠りました。


(J8) 田中 1926, 1934, etc.
 女はとうとう一泊して黎明(よあけ)になって帰って往った。喬生(きょうせい)はもう亡くなった女房のことは忘れてしまって夜の来るのを待っていた。夜になると女は少女を伴(つ)れてやって来た。軽い小刻(こきざみ)な韈(くつ)の音がすると、喬生は急いで起って往って扉(と)を開けた。少女の持った真紅の鮮やかな牡丹燈が先ず眼に注(つ)いた。
 女は毎晩のように喬生の許へ来て黎明(よあけ)になって帰って往った。喬生の家と壁一つを境にして老人が住んでいた。老人は、鰥暮(やもめぐら)しの喬生が夜になると何人(だれ)かと話しでもしているような声がするので不審した。
「あいつ寝言を云ってるな」
 しかし、その声は一晩でなしに二晩三晩と続いた。
「寝言にしちゃおかしいぞ、人も来るようにないが、それとも何人(だれ)かが泊りにでも来るだろうか」
 老人はこんなことを云いながらやっとこさと腰をあげ、すこし頽(くず)れて時おり隣の燈(ひ)の漏れて来る壁の破れの見える処へ往って顔をぴったりつけて物好(ものずき)に覗いて見た。喬生が人間の骸骨と抱き合って榻(ねだい)に腰をかけていたが、そのとき嬉しそうな声で何か云った。老人は怖れて眼前(めさき)が暗むような気がした。彼は壁を離れるなり寝床の中へ潜りこんだ。(……)

   田中貢太郎(たなか・こうたろう)=著/述 「牡丹燈籠 牡丹燈記」
   a.牡丹燈記」 青空文庫(電子テキスト) 2003/09
   b.日本怪談大全2 幽霊の館』 国書刊行会 1995/08
   c.中国の怪談1』 河出文庫 1987/05
   d.支那怪談全集』 桃源社 1970/11
   e.剪燈新話』 新潮文庫 1939/08/16(昭和14)
     国立国会図書館デジタル化資料
   f.日本怪談全集 3』 改造社 1934(昭和9)
   g.剪燈新話』 新潮社 1926/08/16(大正15)
      国立国会図書館デジタル化資料

   b. 国書刊行会版は f. 改造社版を再編集したもの。引用は b.
   国書刊行会版に拠りました。ルビを一部省略しました。


(J9) 鈴木 1926
 (……)その夜彼女を引きとめて家に泊らせた。彼は女の態度の美しさ、言葉のなめ[ママ]かしさに、幾度か胸をとどろかせたが、遂に其夜樂しい語らひを結んだのである。
 夜明になつて、女は別れを告げて立去つた。然し夕方になると、彼女はまた彼を訪れ、その後、半月餘りも、毎晩時を違へずやつて來た。
 ところが、隣家の老人が、一人住ひの喬生の家に、毎晩人聲がするのを不審に思つて、或夜壁の空間から、こつそり家の樣子を覗いてみた。
 見ると、喬生は美しく着飾つた一の髑髏と燈下に對座してゐたので、老人はすつかり驚いてしまつた。そして翌朝喬生をつかまへて詰問したが(……)

   瞿佑=撰 鈴木彦次郎(すずき・ひこじろう)=譯 「牡丹燈の記」
   『支那文學大觀10』 「剪燈新話」
   支那文學大觀刊行會 非賣品 1926/06(大正15)


(J10) 鹽谷(塩谷) 1921
[ルビを省いたテキスト]
 (……)生之を留めて宿せしむ。態度妖妍、詞氣婉媚、幃を低れ枕を昵づけ、甚だ歡愛を極む。天明け辭し別れて去る。暮に及び則ち又至る。是の如くすること將に半月ならんとす。隣翁焉を疑ひ壁に穴して之を窺へば、則ち一粉粧髑髏の生と燈下に竝び坐するを見、大に駭き、明旦之を詰る。(……)

[原文——総ルビ]
 (……)生(せい)之(これ)を留(とど)めて宿(しゆく)せしむ。態度(たいど)妖妍(えうけん)、詞氣(しき)婉媚(ゑんび)、幃(とばり)を低(た)れ枕(まくら)を昵(ちか)づけ、甚(はなは)だ歡愛(くわんあい)を極(きは)む。天(てん)明(あ)け辭(じ)し別(わか)れて去(さ)る。暮(くれ)に及(およ)び則(すなは)ち又(また)至(いた)る。是(かく)の如(ごと)くすること將(まさ)に半月(はんげつ)ならんとす。隣翁(りんをう)焉(これ)を疑(うたが)ひ壁(かべ)に穴(あな)して之(これ)を窺(うかが)へば、則(すなは)ち一粉粧(ふんしやう)髑髏(どくろ)の生(せい)と燈下(とうか)に竝(なら)び坐(ざ)するを見(み)、大(おほい)に駭(おどろ)き、明旦(みやうたん)之(これ)を詰(なじ)る。(……)

   瞿佑=撰 鹽谷温(しおのや・おん)=譯註 「牡丹燈の記」
   『國譯漢文大成 文學部 第13卷』 剪燈新話・餘話・宣和遺事
   國民文庫刊行會 非賣品 1921/12/15(大正10)
   国立国会図書館デジタル化資料


■中国語原文(簡体字)The original text in simplified Chinese

生留之宿,态度妖妍,词气婉媚,低帏昵枕,甚极欢爱。天明,辞别而去,暮则又至。如是者将半月,邻翁疑焉,穴壁窥之,则见一粉骷髏与生并坐于灯下,大骇。


■中國語原文(繁體字)The original text in traditional Chinese

生留之宿。態度精妍,詞氣婉媚,低篩昵枕,甚相歡愛。天明辭別而去,及暮則又至,如是者將半月。鄰翁疑焉,穴壁窺之,則見一粉妝髑髏,與生並坐於燈下,大駭。

  • 瞿佑 《剪燈新話》 牡丹燈記
  • E-text at 開放文學 (open-lit.com)

■英題の異同 Variations of the title in English

以下のとおり、「剪燈新話」の英語の題にはバラツキがあります。

  • New Lamp-Wick Trimming Stories
  • New Stories After Putting out the Lamp
  • New Tales After Trimming the Lamp
  • New Tales Told by Lamplight
  • New Tales Under the Lamplight
  • New Tales for Trimming the Lamp
  • New Tales of the Trimmed Lamp

■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2016/04/08 竹田晃+小塚由博+仙石知子=著 2008/04/10 を追加しました。
  • 2013/11/15 岡本綺堂=訳の書誌情報をさらに修正・補足しました。
  • 2013/11/12 村上知行=訳、岡本綺堂=訳、鹽谷温=譯註 1921/12/15 などの書誌情報を修正・補足しました。また、目次、外部リンクの項、および英題の異同の項を新設しました。
  • 2013/11/10 飯塚朗=訳の書誌情報を補足しました。
  • 2010/01/29 中国語原文(簡体字)の電子テキストが一部リンク切れになっていたのを修正しました。
  • 2007/11/08 岡本綺堂=訳の書誌情報を補足し、訳文の配列を修正しました。
  • 2007/08/16 村上知行=訳 1954/10、鈴木彦次郎=譯 1926/06、および鹽谷温=譯 1922/01 を追加しました。

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■洋書 Books in non-Japanese languages

■和書 Books in Japanese
(1)「剪灯新話」

(2)「牡丹燈記」

  

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Sunday, 05 August 2007

三遊亭円朝〔ほか〕 『怪談牡丹燈籠』『牡丹灯籠』 Botan Doro / The Peony Lantern

 Video 1 
シネマ歌舞伎 『怪談 牡丹燈籠』 (2009)
Shinema kabuki kaidan: Botan doro (2009)

2009年夏、東京・東劇、大阪・なんばパークスシネマほかで公演。演出:戌井市郎 出演: 片岡仁左衛門(伴蔵)、坂東玉三郎(お峰)、片岡愛之助(萩原新三郎)、中村七之助(お露)ほか。詳細は松竹公式サイト。 Uploaded to YouTube by SHOCHIKUch on 17 Dec 2009. Directed by Ichiro Inui.


 Video 2 
怪談・牡丹燈籠 もっともっと、愛されたかった。(2007) 予告篇
Kaidan botan dourou: Motto motto aisaretakatta (2007) Trailer

監督: 吉田剛也 総括プロデューサー: 大沢樹生 出演: 大沢樹生(新三郎)、高木りな(お露)、坂口良子(お米)ほか DVDはAmazon.co.jpで Directed by Takeya Yoshida. Starring Mikio Ohsawa, Rina Takagi, and Ryoko Sakaguchi. Uploaded to YouTube by mameta2007 on 2 Aug 2007.


 Video 3 
稲川淳二のショートホラーシネマ 伝説のホラー (2003) から 「牡丹燈籠」 英語字幕
Peony Lamp from Inagawa Junji no densetsu no horror (Video 2003)

監督: 矢田清巳 ホスト: 稲川淳二 出演: 青井敏之(新三郎)、大河内奈々子(お露)ほか このシリーズの詳細はロンリーBIGI。DVDはAmazon.co.jpで。字幕: 英語 Director: Kiyomi Yada. Storyteller: Junji Inagawa. Starring Toshiyuki Aoi (Shinzaburo) and Nanako Okochi (Otsuyu). More info on this series at SaruDama. Uploaded to YouTube by KuljeetChauhan on 26 Jun 2010. Subtitles in English.


 Video 4 
稲川淳二のショートホラーシネマ 伝説のホラー (2003) から 「牡丹燈籠」 スペイン語
La lámpara de peonia from Inagawa Junji no densetsu no horror (Video 2003)

ビデオ3とおなじ映像。字幕: スペイン語 Uploaded to YouTube by Zhirokun on 7 Feb 2012. The same video as Video 3. Subtitles in Spanish.


■現代日本語の落語 Rakugo adaptations in contemporary Japanese

(1) 五代目志ん生 1995, 2006
「大変だ先生っ」
「どうした」
「どうしたってねえ、ええっ、あっしは驚いた、今夜ねえ、わきで一杯飲んで遅くなち[ママ]ゃって家へ帰(け)えろうと思ったら、萩原(はぎわら)の旦那の所で女の声がすんだい……、ええっそれからあっしはずっと覗(のぞ)いて見たんでい」
「そんなことするんじゃない。おおきなお世話だ。ええっ、萩原さんは金が有るし、男はいいし、女の来るくらい当たり前だ」
「いや、当たり前だけどもさあ、ええ、気になるからこっちは覗いて見たら、そりゃあいい女なんですから、ええ、それでもって、あの何だ萩原様に
『あなたはあたしの夫でございます……』
 なんてこと言ってやがんだよ。俺はもう癪(しゃく)にさわっちゃって、勝手にしやがれほんとうにもう……、いくらいい女だってどろぼうめ……と思って見ると、その女はね腰から下が全然無(ね)え。あっ、と思ってわきを見るとわきで蚊を追ってる女中というのがやっぱり腰から下が無えから、〈こりゃっ〉っと思ったらもう口がきけなくなっちゃった……。先生……、あっ、あれは何でしょうねっ、ありゃあ……」
「うーん、そりゃあほんとうか……」
[ルビを一部省略しました - tomoki y.]

   1a. 五代目・古今亭志ん生 小島貞二=監修 「牡丹灯籠〜お札はがし〜」
      さねとうあきら、岡本綺堂〔ほか〕=著 赤木かん子=編
      『牡丹灯籠』 ホラーセレクション1(全10巻)
      ポプラ社 2006/03 所収
   1b. 五代目・古今亭志ん生=述 小島貞二=聞き手・監修
      岡本和明=企画・構成
      『これが志ん生だ! 別巻1』 江島屋騒動・牡丹灯籠 お札はがし
      三一書房 1995/07 所収
   1a.1b. を再録したもの。引用は 1a. に拠りました。
   五代目志ん生の演じた「牡丹灯籠」の録音を収めたCDには、たとえば、
   『五代目古今亭志ん生名演大全集10』 ポニーキャニオン
   (規格番号:PCCG-702) 2005/10 があります。
   「牡丹燈籠—お露新三郎」「牡丹燈籠—お札はがし」「小噺」を収録。


(2) 円朝 1982
伴蔵 先生萩原さまは大変ですよ。
勇斎 どうかしたか。
伴蔵 どうかしたの何のという騒ぎじゃございやせん、毎晩女が泊りに来ます。
 ところがねえ、その女が唯の女じゃアないのだ。幽霊と一緒に寝れば萩原様は
 死にましょう。
勇斎 それは必ず死ぬ(……)

   三遊亭円朝=作 「怪談牡丹燈籠」
   井上ひさし=編 『怪談牡丹燈籠・天衣紛上野初花
   カラーグラフィック 学研版 明治の古典1(全10巻)
   学研(学習研究社)1982/09 所収
   この学研版は、下の筑摩書房版を参考にしています。
   興津要=編 『明治文学全集10 三遊亭円朝集』 筑摩書房 1965/06


  Audio  
古今亭志ん生・怪談牡丹灯籠

下に引用する箇所は 12:59 から始まります。 Uploaded to YouTube by apr2edw924 on 24 Jun 2013. The excerpt below starts at 12:59.


(3) 五代目志ん生 1977, 2002
「(声を張って)先生ィ、先生ェ(と戸を三回叩いて)……先生ィ」
「はいはいはい、どうしたんだ?」
「え? 昨夜(ゆうべ)あっしァ遅くなって家(うち)ィ帰(けえ)ろうと思ったらねェ、萩原さまのとこで女の、声がするんです」
「ふーん、それがなにがたいへんだ? え? 萩原氏(はぎわらうじ)は、まだ独身者(しとりもん)だ。あのように男はいいし、え? 財産はあるし、女ぐらい訪ねてくんのァ当たり前(まい)だ……」
「そら当たり前(まい)ですけどもさァ、え? それがたいへんなんですよ、ええ。あたしゃァ中ァひょいッと生け垣ン処(と)ッから覗いて見たらねェ、蚊帳ン中ィ入ってんのァねェ、萩原の旦那さァ、ね? そこィ十(じゅう)七か八だねェ文金の高島田を結(い)って、振り袖を着て(力を入れ)いいィー女ッたらねえんだ、うん。そいからあたしゃァねェ、こう見ていくとね、腰から下がねえんだよォそれがァ……へえ。『おやァ?!』ッと思って脇を見るとね、その、婆(ば)ァやァがねェ縁側ンとこィ立って、庭のほうを見てえるン。その婆(ば)ァやァもねェ、腰から下がねえんだよ、へえ。ありゃァ……あれァ(幽霊の手つきをして)れきですよありゃァ……へえ。あァりゃ幽霊ですよォ、まるっきり骨と皮ンなっちゃってんですからねェ。いい女だけどもあっしゃァねェ、ぞおォッとしちゃったァ」
「そら本当(ほんと)かァ?」

   3a. 古今亭志ん生=口演 川戸貞吉=速記解説 「牡丹燈籠(下)」
      『志ん生古典落語6 牡丹燈籠』 弘文出版 2002/06
   3b. 古今亭志ん生=談 『五代目古今亭志ん生全集4』 弘文出版 1977
   3a.3b. を再録して、一部表記を改めたもの。初出は 3b.
   引用は 3a. に拠りました。原文の傍点を下線で、小さい「ン」を大きい「ン」で、
   それぞれ置き換えました。


(4) 円朝 1955, 2002
 伴「先生萩原さまは大変ですよ。」
 勇「どうかしたか。」
 伴「どうかしたの何のという騒ぎじゃございやせん(……)その大切な萩原様が大変な訳だ、毎晩女が泊りに来ます。」
 勇「若くって独身者(ひとりもの)でいるから、随分女も泊りに来るだろう、しかしその女は人の悪いようなものではないか。」
 伴「なに、そんな訳ではありません、私(わつち)が今日用があって他へ行って、夜中に帰ってくると、萩原様の家(うち)で女の声がするからちょっと覗きました。」
 勇「わるい事をするな。」
 伴「するとね、蚊帳(かや)がこう吊ってあって、その中に萩原様と綺麗な女がいて、その女が見捨ててくださるなというと、生涯見捨てはしない、たとえ親に勘当されても引取って女房にするから決して心配するなと萩原様がいうと、女が私は親に殺されてもお前さんの側(そば)は放れませんと、互いに話をしていると。」
 勇「いつまでもそんなところを見ているなよ。」
 伴「ところがねえ、その女がただの女じゃアないのだ。」
 勇「悪党か。」
 伴「なに、そんな訳じゃアない、骨と皮ばかりの痩(や)せた女で、髪は島田に結って鬢(びん)の毛が顔に下り、真青な顔で、裾(すそ)がなくって腰から上ばかりで骨と皮ばかりの手で萩原様の首ったまへかじりつくと、萩原様は嬉しそうな顔をしているとその側に丸髷(まるまげ)の女がいて、こいつも痩て骨と皮ばかりで、ズッと立上ってこちらへくると、やっぱり裾が見えないで、腰から上ばかり、まるで絵に描いた幽霊の通り、それを私(わつち)が見たから怖くて歯の根も合わず、家(うち)へ逃げ帰って今まで黙っていたが、どういう訳で萩原様があんな幽霊に見込まれたんだか、さっぱり訳が分りやせん。」
 勇「伴蔵本当か。」

   4a. 三遊亭円朝=作 『怪談牡丹燈籠』 岩波文庫 改版 2002/05
   4b. 三遊亭円朝=作 『牡丹燈籠—怪談』 岩波文庫 1955/06
   引用は 4a. に拠りました。
   これらの岩波文庫版が、何を底本にしたかは存じません。
   参考:富田倫生 「『圓朝全集』は誰のものか
   1999/06/30 作成 2005/10/16 修正


(5) 圓朝 1927, 1963, etc.
伴「先生萩原さまは大変ですよ」
勇「何(ど)うかしたか」
伴「何うかしたかの何(なん)のという騒ぎじゃございやせん、私(わっち)も先生も斯(こ)うやって萩原様の地面内(うち)に孫店(まごだな)を借りて、お互いに住(すま)っており、其の内でも私は尚(な)お萩原様の家来同様に畑をうなったり庭を掃いたり、使い早間(はやま)もして、嚊(かゝあ)は洒(すゝ)ぎ洗濯をしておるから、店賃(たなちん)もとらずに偶(たま)には小遣(こづかい)を貰ったり、衣物(きもの)の古いのを貰ったりする恩のある其の大切な萩原様が大変な訳だ、毎晩女が泊りに来ます」
勇「若くって独身者(ひとりもの)でいるから、随分女も泊りに来るだろう、併(しか)し其の女は人の悪いようなものではないか」
伴「なに、そんな訳ではありません、私(わっち)が今日用が有って他(ほか)へ行って、夜中(やちゅう)に帰(けえ)ってくると、萩原様の家(うち)で女の声がするから一寸(ちょっと)覗(のぞ)きました」
勇「わるい事をするな」
伴「するとね、蚊帳(かや)がこう吊(つ)ってあって、其の中に萩原様と綺麗な女がいて、其の女が見捨てゝくださるなというと、生涯見捨てはしない、仮令(たとい)親に勘当されても引取(ひきと)って女房にするから決して心配するなと萩原様がいうと、女が私(わたくし)は親に殺されてもお前(まえ)さんの側は放れませんと、互いに話しをしていると」
勇「いつまでもそんな所を見ているなよ」
伴「ところがねえ、其の女が唯(たゞ)の女じゃアないのだ」
勇「悪党か」
伴「なに、そんな訳じゃアない、骨と皮ばかりの痩(や)せた女で、髪は島田に結って鬢(びん)の毛が顔に下(さが)り、真青(まっさお)な顔で、裾(すそ)がなくって腰から上ばかりで、骨と皮ばかりの手で萩原様の首ったまへかじりつくと、萩原様は嬉しそうな顔をしていると其の側に丸髷(まるまげ)の女がいて、此奴(こいつ)も痩(やせ)て骨と皮ばかりで、ズッと立上(たちあが)って此方(こちら)へくると、矢張(やっぱり)裾が見えないで、腰から上ばかり、恰(まる)で絵に描(か)いた幽霊の通り、それを私(わっち)が見たから怖くて歯の根も合わず、家(うち)へ逃げ帰(けえ)って今まで黙っていたんだが、何(ど)ういう訳で萩原様があんな幽霊に見込まれたんだか、さっぱり訳が分りやせん」
勇「伴藏本当か」

   5a. 三遊亭円朝=作 鈴木行三(すずき・こうぞう)=校訂編纂
      「怪談牡丹灯籠」 青空文庫 アップロード 2010-02-08
   5b. 三遊亭圓朝=著 鈴木行三=校訂編纂 『圓朝全集 巻の2
      近代文芸資料複刻叢書 世界文庫 1963 所収     
   5c. 三遊亭圓朝=著 鈴木行三=校訂編纂 『圓朝全集 巻の2』 全10冊
      春陽堂 1927(昭和2)
   5a. の底本は 5b.5b. は、5c. の複刻・限定版。


 Video 4 
桂歌丸 『牡丹燈籠~栗橋宿』 1/4

Uploaded to YouTube by stones1009 on 22 Oct 2010


■本と映画 Books and a cinema

a. 51z0fh39gyl_ss500_ b. 50600143900971 c. Shinsho_botan_doro

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■外部リンク External links

  • 圓朝・圓生 百年
    西暦2000年の三遊亭圓朝没後100年、三遊亭圓生生誕100年を記念して設けられたサイト。年譜、演目、書籍一覧、CDリスト、画像など満載。助六、甘金、CAB の三氏が運営。

■落語以外のバージョン
 On the original story in Chinese and miscellaneous adaptations

  • 映画/歌舞伎版作品、
  • ラフカディオ・ハーン(=小泉八雲)による再話、
  • 浅井了意による“仮名草子”版『伽婢子(おとぎぼうこ)』、

  そして、元をたどれば、これらすべての種本となったとされる、

  • 中国明代の瞿佑(くゆう)=作の伝奇小説集『剪燈新話(せんとうしんわ)』に収められた「牡丹燈記(ぼたんとうき)」

  などについては、別の機会にとりあげるつもりです。


■更新履歴 Change log

  • 2013-11-10 古今亭志ん生の録音の YouTube 画面を追加しました。
  • 2012-10-05 つぎの3本の YouTube 動画を追加しました。
    1. 怪談・牡丹燈籠 もっともっと、愛されたかった。(2007)
    2. 稲川淳二のショートホラーシネマ 伝説のホラー (2003) 英語字幕つき
    3. 稲川淳二のショートホラーシネマ 伝説のホラー (2003) スペイン語字幕つき
  • 2012-08-25 三遊亭円朝=作のテキストを挿入しました。また、つぎの YouTube 動画を追加しました。
    1. 歌丸 『牡丹燈籠~栗橋宿』

↓ 以下の本・CD・DVDのタイトルはブラウザの画面を更新すると入れ替ります。 
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■和書 Books in Japanese
(1)『牡丹灯籠』

(2)『牡丹燈籠』

■CD
(1) 牡丹燈籠/牡丹灯籠

(2) 志ん生+牡丹灯籠

■DVD

■洋書 Books in non-Japanese languages

  

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Wednesday, 20 June 2007

La morte amoureuse by Théophile Gautier ゴーチェ / ゴーチエ / ゴーティエ 「死霊の恋」「死女の恋」「クラリモンド」

 Images 

a. 31331178 b. Liv20001 c. 482pxthc3a9ophil_gautier
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■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 千葉 1996
「ロミュアールさま、わたしは、あなたにお目にかかるまえから、あなたを愛していたのです。ですから、わたし、あなたをいっしょうけんめいさがしました。あなたは、わたしの夢だったのです。ようやく見つけたときが、あの運命のときでした。あなたが一生を神にささげる儀式のとき。わたしはあなたを見て、すぐにこの人だ、とわかりました。そこでわたし、いままでもっていたすべての愛と、あなたのためにもつ未来の愛をこめて、あなたを見つめたのです。わたしのその目で見られたら、どんなえらいお坊さんでも、ころりとまいってしまいます。王さまでも高貴な貴族でも、わたしの足もとにひざまづくのです。
 それなのに、あなたはへいきでした。わたしではなく、神さまを選んでしまったのですもの。(……)」
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

  • ゴーチェ=作 千葉幹夫=文 「吸血鬼の恋人」 ディケンズ〔ほか〕=作 『魔のトンネル』 青い鳥文庫Kシリーズ 講談社 1996/09

(J2) 小柳 1992, 2004
 「お会いするずっと前から私はあなたを愛していたのよ、いとしいロムアルド。それで、くまなくあなたを探し廻っていたの。あなたは私の夢だった。そしてギリギリのときになって教会であなたを見かけたのよ。私はすぐに《あの人だ!》って言ったわ。私はそれまで抱いてきた、そのときも抱いていた、その後も抱き続けるはずのあなたへの愛を一つに集めたまなざしをジッとあなたに注いだのよ。枢機卿(すうきけい)をも地獄に突き落とし、廷臣全員の前で国王をも私の足下にひざまずかせるほどのまなざしだったわ。なのに、あなたはビクともせずに私より神さまにほうを選んだのよ。(……)」


(J3) 高野 1989
「ねえ、ロミュアール。わたし、あなたに会うずっとまえから、あなたのことを愛していたのよ。あなたはわたしの理想の人だったの。どこかにあなたみたいな人がいるにちがいない、そう思って、わたし、ずいぶんいろいろなところをさがしたわ。そして、とうとうあの教会であなたを見つけたの。
 はじめてあなたを見たとき、わたしは、この人だ、この人こそわたしがさがし求めていた人なんだって思った。だから、ありったけの思いをこめて、あなたを見つめたの。ごぞんじかしら、ほんの少し見つめただけで、わたしは、どんなにりっぱな司教さまでも誘惑(ゆうわく)できるし、どんなにえらい王さまでも足もとにひざまずかせることができるのよ。それなのに、あなたは平気な顔をしていた。そして、わたしより、神さまのほうを選んでしまった……。(……)」

  • ゴーチエ=著 高野優(たかの・ゆう)=訳 「死女の恋」 江河徹(えがわ・とおる)=編 『ファンタスティックな恋の話』 幻想文学館5 くもん出版 1989/08

(J4) 野内 1986
「あたしはあなたにお目にかかるずっと前から、あなたをお慕いしてましたのよ、ロミュアルド。それは方々お捜ししましたわ。あなたはあたしの夢だったのです。そしてあの運命の瞬間に、教会でお姿を目にしたのです。あたし、とっさに『あの方だわ!』と声に出してしまいました。あたしはあなたに視線を投げかけました。今まで抱きつづけ、そして今もこれからも抱きつづける想いのたけを込めて。枢機卿さまだって地獄に突き落し、並居る廷臣の前で王様だってあたしの足もとにひざまずかせる眼差よ。なのに、あなたったら知らんぷり。あたしより神さまをお選びになったのね。(……)」


(J5) 店村+小柳 1977
[訳文は追って挿入するつもりです - tomoki y.]

  • ゴーチェ=著 店村新次(たなむら・しんじ)+小柳保義=訳 「死女の恋」 『ゴーチェ幻想作品集』 ブックスメタモルファス 創土社 1977/03

(J6) 田辺 1951, 1963, etc.
「あたしあなたにお目にかかるずっと前から、あなたをお愛ししていましたのよ、恋しいロミュオーさま。そして、ほうぼうお捜ししていましたの。あなたはあたしの夢だったのです。教会でせっぱつまった瀬戸ぎわにお見かけしたとき、あたし〝あの方だ!〟と、すぐに言いましたの。そして、あなたに対して、それまで持っていたし、今も持っているし、将来も持つにちがいない、すべての愛をこめた眼ざしを送ったのです。僧正さまさえ地獄におとし、王さまでも宮廷にいならぶ人々の前で足もとにひざまずかせる眼ざしでしたわ。それなのに、あなたは知らん顔して、あたしよりも神さまをおえらびになったのね。(……)」


(J7) 青柳 1948, 1959, etc.
「ねえ、ロミュアール、あたし、あなたにお目にかかる前からあなたを愛していましたのよ。だから、あたし、ほうぼう捜しまわりましたわ。あなたはあたしの夢でしたん。そして、とうとう、せっぱつまった瀬戸ぎわに、教会でお目にかかったのよ。あたしすぐ、『これがあのかただ!』っていったの。そこであたし、いままでにもっていた愛、あのときもっていた愛、今後もつであろう愛、それらの愛のことごとくをこめた眼差しで見あげたの。その目で見られれば、どんな大僧正でも誘惑されるし、どんな王様だって、宮臣の眼前でわたしの足下にひざまずいてしまうのよ。それだのに、あなたは平気でいたわね。そして、あたしよりも神様のほうを選んじゃったのね。(……)」

  • ゴーティエ / ゴーチェ=著 青柳瑞穂=訳 「死女の恋」「魔女の恋」
  • 引用は b. 創元推理文庫版に依拠しました。

(J8) 岡本 1929, 1970, etc.
「ロミュオーさま。わたしはあなたをお見かけ申した前から愛していました。そうして、あなたを捜していたのです。あなたは私の夢にえがいていたかたです。教会のなかで、しかもあの運命的な瀬戸ぎわにあなたを初めてお見かけ申したのです。わたしはその時すぐに〈あの方だ〉と自分に言いました。わたしは今までに持っていたすべての愛、あなたのために持つ未来のすべての愛、それは司教の運命も変え、帝王もわたしの足もとにひざまずかせるほどの愛をこめてあなたを見つめたのです。それをあなたは、わたしには来て下さらないで、神様をお選びになったのです……。(……)」


(J9) 佐々木 1926
『私はあなたにお會ひするずつと以前から、あなたをお慕ひ申してゐたのです、私のいとしいロミュアルド樣、そして私は、諸所方々あなたのお姿をさがしてゐたのでございます。あなたは、私の夢でございました。そして私は、あの、もう取りかへしのつかない悲しい時機になつて、あなたを教會の中でお見掛けしたのです。私はすぐに申しました。《あの方だ》と。私は、私が持つてゐただけの……あなたに對して持つてゐた、いや持たねばならなかつただけの、ありつたけの愛をこめたまなざしを、あなたに投げたのでした。それは樞機官をも盲目にし、王者をもその廷臣達の面前で、私の足許へひざまづかせることの出來るまなざしでございます。だのに、あなたは平氣でいらつしやいました。さうして私よりも神樣の方をお選びなさいました。(……)』

  • テオフィル・ゴオチェ=作 佐々木孝丸=譯 「死戀」 『佛蘭西歴代名作集』 世界短篇小説大系9 佛蘭西篇(上) 近代社 非賣品 1926/07(大正15)

(J10) 芥川 1914, 1921, etc.
「貴方に会はないずつと前から私は貴方を愛してゐてよ。可愛いゝロミュアル、さうして方々探してあるいてゐたのだわ。貴方は私の愛だつたのよ。あの時あの教会で始めてお目にかゝつたでせう。私、直に『之があの人だ』つて云つたわ、それから、私の持つてゐた愛、私の今持つてゐる、私の是から先きに持つと思ふ、すべての愛を籠めた眸(め)で見て上げたの——其眼(め)で見ればどんな大僧正でも王様でも家来たちが皆見てゐる前で、私の足下に跪いてしまふのよ。けれど貴方は平気でいらしつたわね、私より神様の方がいゝつて。(……)」

  • ゴーティエ / ゴーチエ=著 芥川龍之介=訳 「クラリモンド」
  • 初出は 1914/10(大正3)の h.。
  • 引用は b. に依拠しました。この b. は、g. を底本とし、h.と照合してあります。
  • g. と h. の訳は、久米正雄名義になっており、目次、中扉、奥付のどこにも、芥川の名前は記載されていません。しかし、これら2つの訳は、じつは「全部芥川氏によつて訳されたものである」と、f. の月報第8号 (1929/02) の「編輯者のノオト」にあります。
  • h. の久米正雄による「序」に、こうあります。「友人、山宮允、柳川隆之介、成瀬正一 三君の大なる助力なくば、今日の小成をすらなす事ができなかつたのだ」。柳川隆之介は芥川の号の1つです。
  • おなじく h. の久米正雄「序」に、こうあります。「原語の読めぬ私はやむなくラフカヂオ・ヘルンの英訳を用ゐた」。つまり、上の芥川訳はすべて、ゴーチェによるフランス語原典からの直訳ではなく、ラフカディオ・ハーン(=小泉八雲)による英訳からの重訳なのです。

(J11) 久米 1914, 1921
「貴方に會はないずつと前から私は貴方を愛してゐてよ。可愛いゝロミュアル、さうして方々探してあるいてゐたのだわ。貴方は私の愛だつたのよ。あの時あの教會で始めてお目にかゝつたでせう。私、直に『之があの人だ』つて云つたわ、それから、私の持つてゐた愛、私の今持つてゐる、私の是から先きに持つと思ふ、すべての愛を籠めた眸(め)で見て上げたの——其眼(め)で見ればどんな大僧正でも王樣でも家來たちが皆見てゐる前で、私の足下に跪いてしまふのよ。けれど貴方は平氣でいらしつたわね、私より神樣の方がいゝつて。(……)」

  • ゴーティエ / ゴーチエ=作 久米正雄=譯 「クラリモンド」
    • 〔ゴーティエ=原著〕 久米正雄=譯 『クレオパトラの一夜』 新潮社 定價金九拾五錢 1921/04(大正10)
    • ゴーチエ=作 久米正雄=譯 『クレオパトラの一夜』 新潮文庫 第1期第10編 定價貮拾五錢 1914/10(大正3)
  • a. 新潮社版 1921 は、上掲芥川訳の g. とおなじ。b. 新潮文庫版 1914 は芥川訳 h. とおなじ。(J10) 芥川の項に述べたとおり、これら2つの訳は、どちらもじつは芥川龍之介によるものです。
  • 引用は a. 新潮社版 1921 に依拠しました。(J10) 芥川訳と同文ですが、旧字である点が異なります。

■邦題の異同 Variations of the title in Japanese

  「死霊の恋」……………………田辺 1963, 1975, 1982, 1988
  「死女の恋」……………………高野 1989 店村+小柳 1977
                青柳 1959, 1969, 2006
  「死戀」…………………………佐々木 1926
  「魔女の恋」……………………青柳 1948
  「吸血鬼の恋人」………………千葉 1996
  「吸血女の恋」…………………小柳 2004
  「クラリモンド」………………芥川 1914, 1921, 1929, 1955, etc. 
                岡本 1929, 1987 久米 1914, 1921
  「遊女クラリモンドの恋」……野内 1986


■著者名の日本語表記の異同
 Transliteration variations of the author's name in Japanese

  ゴーチェ………千葉 1996 
  ゴーチェ………芥川 1995
  ゴーチェ………店村+小柳 1977
  ゴーチェ………岡本 1987
  ゴーチェ……… 〃 1970
  ゴーチェ………田辺 1975
  ゴーチェ……… 〃 1963
  ゴーチェ………青柳 1948
  ゴーチエ………小柳 2004
  ゴーチエ……… 〃 1992
  ゴーチエ………高野 1989
  ゴーチエ………野内 1986
  ゴーチエ………田辺 1988
  ゴーチエ………
 〃 1982
  ゴーチエ………
 〃 1975
  ゴーチエ………芥川 1914(大正3)
  ゴーチエ………久米 1914( 〃  )
  ゴーティエ……芥川 1998
  ゴーティエ……田辺 1951
  ゴーティエ……芥川 1921(大正10)
  ゴーティエ……久米 1921( 〃  )
  ゴーチヱ………岡本 1929(昭和4)
  ゴオチェ………佐々木 1926(昭和1)
  (未確認)………芥川 1977
  (未確認)……… 〃 1967
  (未確認)……… 〃 1955


 Video 1 
Romuald/Clarimonde - Hellfire

Uploaded by CrimsonRoseOfDanube on 13 Jan 2012. From the TV series The Hunger: Season 1, Episode 21. Clarimonde (Original broadcast: 20 Mar. 1998), based on the story by Théophile Gautier.


 Audio 1 
 Audio 1 
英語版オーディオブック 朗読: ジョイ・チャン Audiobook in English read by Joy Chan

下の引用箇所の朗読は 57:12 から始まります。 Uploaded to YouTube by Audiobooks on YouTube on 26 Dec 2014. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 57:12.


■英訳 Translation into English

"I loved thee long ere I saw thee, dear Romuald, and sought thee everywhere. Thou wast my dream, and I first saw thee in the church at the fatal moment. I said at once, 'It is he!' I gave thee a look into which I threw all the love I ever had, all the love I now have, all the love I shall ever have for thee—a look that would have damned a cardinal or brought a king to his knees at my feet in view of all his court. Thou remainedst unmoved, preferring thy God to me! (....)"

  • La Morte Amoureuse by Théophile Gautier. Translated by Lafcadio Hearn. テオフィル・ゴーティエ=原作 ラフカディオ・ハーン=英訳 佐竹竜照(さたけ・りゅうしょう)+内田英一(うちだ・えいいち)=訳注 『クラリモンド』 大学書林 1997/01
  • E-text at:

 Video 2 
フランス語原文のビデオブック La morte amoureuse: Videobook

朗読は小説冒頭部分から。 Uploaded by Editionseponymes on Dec 14, 2009. The recording starts at the beginning of the story.


 Audio 2 
フランス語原文のオーディオブック La morte amoureuse: Audiobook

下に引用した箇所は 0:53:43 あたりから始まります。 Published on 5 Nov 2012 by Audiolude. The excerpt below starts around 0:53:43


■フランス語原文 The original text in French

« Je t'aimais bien longtemps avant de t'avoir vu, mon cher Romuald, et je te cherchais partout. Tu étais mon rêve, et je t'ai aperçu dans l'église au fatal moment ; j'ai dit tout de suite « C'est lui! » Je te jetai un regard où je mis tout l'amour que j'avais eu, que j'avais et que je devais avoir pour toi ; un regard à damner un cardinal, à faire agenouiller un roi à mes pieds devant toute sa cour. Tu restas impassible et tu me préféras ton Dieu. (...) »

  • La morte amoureuse by Théophile Gautier
  • E-text at munseys.com

■更新履歴 Change log

  • 2014/01/27 リンク先の英語版オーディオブックが削除されていたので、代わりに別の録音を掲載しました。
  • 2014/01/26 テレビ Clarimonde の YouTube 動画を追加しました。
  • 2013/03/02 英訳版のオーディオブックとフランス語原文のオーディオブックの YouTube 動画を追加しました。
  • 2011/11/27 フランス語原文のビデオブックの YouTube 動画を追加しました。
  • 2011/07/01 英訳の書誌情報を修正しました。
  • 2007/06/30 佐々木孝丸=譯 1926/07 を追加しました。
  • 2007/06/30 野内良三=訳 1986/05 を追加しました。
  • 2007/06/24 小柳保義=訳 1992/05 を追加しました。

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■洋書 Books in non-Japanese languages
(1) La morte amoureuse

(2) Theophile Gautier

■和書 Books in Japanese

  

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Thursday, 19 April 2007

The Ghost of a Hand by J. Sheridan Le Fanu レ・ファニュ 「手の幽霊」「手の幽霊の話」「白い手の怪」「白い手の幽霊」

 Image gallery 
表紙画像と肖像写真 Book covers and a portrait

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a. Ja_bochi_ni_tatsu_yakata_430920340x b. Ja_kyuuketsuki_01980620 c. En_the_house_by_the_churchyard_1598

d. En_classic_victorian_edwardian_7268 e. En_fantastic_worlds f. Portrait_200pxlefanu


■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 榊 2000
(……)しかし九月十三日の夜、ジェーン・イースターブルックというイギリス人のメイドが、ミセス・プロッサー愛飲のミルク酒を入れる小さな銀の器を取りに食器室に入ったときのこと、ガラスが四枚だけ嵌(はま)った小さな窓をふと見上げた。すると鎧戸(よろいど)の閂(かんぬき)を掛けるためにドリルで窓枠にあけられている穴を通して、ぽっちゃりとした白い手が目に映った。最初見えたのは一本の指の先端だけで、やがて二本の指の第一関節が現れたかと思うと、指先を内側に曲げてあちこち撫で回した。片側に押して窓を開ける仕組みの留め金を探しているかのような気配だった。台所に戻って来たメイドはそのまま気を失って、翌日も一日じゅう何も手につかずに、ぼんやりしていたという。

   シェリダン・レ・ファニュ=著 榊優子(さかき・ゆうこ)=訳
   「12 瓦屋根の館にまつわる奇怪な事実——片手となって現れる幽霊
   についての信憑性のある話」
   『墓地に建つ館』 河出書房新社 2000/08 所収

   「訳者あとがき」によると、訳出にあたっては、Alan Sutton Publishing
   Ltd. の版をベースに、Appletree Press Ltd. の版を参考になさった由。


(2) 吉川 1989
 ところが九月十三日の夜、またまた事件がおこった。
 小間使いのジェーン・イースターブルックが、夫人にさしあげるミルク酒用の小さな銀のコップをとりに、食器部屋にはいっていったときのこと。食器部屋には四枚ガラスの小さな窓がある。窓わくにはシャッターをとりつける小さな穴がついていたが、なにげなくそこに目をやると、その穴からぷっくりとした白い指が一本さしいれられているではないか!
 さいしょは指先だけ、それから第二関節まではいってきた。その指は、先をまげて穴のまわりをさぐりはじめた。窓のとめ金をさがしあて、どうにかはずそうとしているらしい。びっくりぎょうてんしたジェーンは、台所にかけこむなり気絶してしまったそうだ。そして、翌日になってもまだふらふらしていたという。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.

   ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ=著
   吉川正子(よしかわ・まさこ)=訳 「白い手の幽霊」
   江河徹(えがわ・とおる)=編 『恐ろしい幽霊の話』 幻想文学館1
   くもん出版 1989/08 所収
   「白い手の幽霊」は、長編小説『墓畔の家』の第十二章を独立させたもの。


(3) 乾 1988, 2006
 だが九月十三日の夜、イギリス人メイドのジェーン・エスタブルックというのが、奥さんのミルク酒(しゅ)用の小さい銀製ボールを取りに食器室へはいって行って、ふと四枚ガラスだけの小窓を見上げたのだが、その窓枠にあけられた、閉め金具シャッターのボルト穴から白い肥えた指が見えた……初めは指先だけ、それから二本の指の第一関節が現れ、内側に曲げられたその指が、手の持主が留め金をはずそうと企(たくら)んでいるようなふうに、あちらこちらへと動きまわっているのだ。台所へ戻ったメイドは〝気を失って倒れ〟次の一日中もひどく気がぬけたようになっていたという。
[原文にあるルビを一部省略しました - tomoki y.

   J・シェリダン・レ・ファニュ=著 乾信一郎=訳 「手の幽霊」
   a. 赤木かん子=編 岡本綺堂, 半藤一利〔ほか〕=著
     『語られると怖い話』 ホラーセレクション2 ポプラ社 2006/03 所収
   b. ロアルド・ダール=編 『ロアルド・ダールの幽霊物語
     ハヤカワ・ミステリ文庫 1988/12
   a. の底本は b.b. の原書はつぎのタイトル:
   * Roald Dahl's Book of Ghost Stories
    Paperback: Farrar Straus & Giroux (1985/01)


(4) 小菅 1971
(……)が、九月十三日の夜、女主人のミルク酒を入れるための小さな銀の鉢をとりに食器室に入っていった英国生まれの女中のジェーン・イースターブルックは、偶然四枚ガラスの小窓を見あげ、その窓枠の鎧戸(よろいど)をとめるための穴から、白いぷくぷくした指先がのぞいているのを発見した。初めは指先が、つづいて第一関接と第二関接が見え、幸いにして反対側に倒すように設計された掛金を捜すかのように、前後左右にうごめいた。女中は台所へもどると同時に失神し、あくる日一日「朦朧」としていた。

   J・シェリダン・レ・ファニュ=作
   小菅正夫(こすげ・まさお)=訳 「手の幽霊の話」
   矢野浩三郎(やの・こうざぶろう)=監修 日本ユニエージェンシー=編
   『アンソロジー・恐怖と幻想2』 月刊ペン社 1971/03 所収


(5) 平井 1970
(……)越えて九月の十三日の晩、イギリス人の奥女中で、ジェイン・イースタブルックという召使が、奥様にさしあげるミルク酒を入れる小さな銀の器をとりに、食器部屋へはいっていった時、なんの気なしに窓ののぞき穴——食器部屋には、四枚ガラスの小さな窓があって、そこの窓枠(わく)に、窓に閂(かんぬき)が下りているかどうかを見る、のぞき穴があいています。そののぞき穴から、ジェインがなんの気なしにのぞいてみたら、白いブヨブヨした指が見えたのです。——まず一本の指の先が、それから二本の指が第一関節のところまで見えました。白い指の先は、二本とも先を内側に曲げて、しきりとそこらをなでまわしています。押すとカタリとはずれるサル(#「サル」に傍点)がそこについている、そのサル(#「サル」に傍点)を捜しているようなけはいでした。ジェインはキャッといって、台所へ駆けこむなり気絶をして、翌日もいちにちフラフラしていたということです。

   ジョゼフ・シェリダン・レ・ファニュ=著
   平井呈一(ひらい・ていいち)=訳 「白い手の怪」
   『吸血鬼カーミラ』 創元推理文庫 1970/04 所収


 Audio 
「手の幽霊」 オーディオブック The Ghost of a Hand - Audiobook

下に引用する箇所の朗読は 5:24 あたりから始まります。 Uploaded to YouTube by David Longhorn on 15 Nov 2012. Reading of the excerpt below starts around 5:24.


■英語原文 The original text in English

But on the night of the 13th September, Jane Easterbrook, an English maid,
having gone into the pantry for the small silver bowl in which her
mistress's posset was served, happening to look up at the little window of only four panes, observed through an auger-hole which was drilled through the window frame, for the admission of a bolt to secure the shutter, a white pudgy finger--first the tip, and then the two first joints introduced, and turned about this way and that, crooked against the inside, as if in search of a fastening which its owner designed to push aside. When the maid got back into the kitchen we are told 'she fell into "a swounde," and was all the next day very weak.

   The Ghost of a Hand
   from The House by the Church-Yard (1904)
   by Joseph Sheridan Le Fanu

   E-text at:


■邦題の異同 Variations of the title translated into Japanese

  「手の幽霊」………………………………………………………乾 1988, 2006
  「手の幽霊の話」…………………………………………………小菅 1971
  「白い手の怪」……………………………………………………平井 1970
  「白い手の幽霊」…………………………………………………吉川 1989
  「片手となって現れる幽霊についての信憑性のある話」……榊 2000


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2013/06/10 英語原文オーディオブックの YouTube 画面を追加しました。
  • 2009/07/25 「邦題の異同」の項を新設しました。また、ブログ記事のタイトルをつぎのとおり変更しました。
    • 旧題: The Ghost of a Hand by J. Sheridan Le Fanu レ・ファニュ「白い手の幽霊」
    • 新題: The Ghost of a Hand by J. Sheridan Le Fanu レ・ファニュ「手の幽霊」「手の幽霊の話」「白い手の怪」「白い手の幽霊」
  • 2007/04/20 榊優子=訳 2000/08 の原典に関する書誌情報を加えました。

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■洋書 Books in non-Japanese languages

■和書 Books in Japanese

  

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Saturday, 07 April 2007

上田秋成 「浅茅が宿」(『雨月物語』より) The House Amid the Thickets (from the Tales of Moonlight and Rain) by Ueda Akinari

        目次 Table of Contents

 Video 1  宝塚公演「浅茅が宿」 Asajigayado, a Takarazuka production
 Images   表紙画像コレクション Cover photo collection
■フランス語訳 Translation into French
■英訳 Translations into English
  (E1) Chambers, 2006
  (E2) Zolbrod, 1974, 1988
  (E3) Sasaki, 1981
  (E4) Hamada, 1972
■簡体字中国語訳 Translations into simplified Chinese
  (Zh1) 訳者未確認
  (Zh2) 申非 1996
  (Zh3) 阎小妹 1990
 Video 2  映画 『雨月物語』 (1953) Ugetsu monogatari (1953) a.k.a. Ugetsu
 Video 3  映画 『雨月物語』 (1953) 関係者インタビュー Ugetsu interviews
■現代日本語への翻訳・再話 Translations and retellings in contemporary Japanese
  (J1) 円城 2015
  (J2) 岩井 2009
  (J3) 菅家 2008
  (J4) 中村(晃) 2005
  (J5) 雨月妖魅堂 2004
  (J6) 立原 2002
  (J7) 高田+稲田 1997
  (J8) 葉山 1996
  (J9) 高田 1995
  (J10) 石川 1991, 2006
  (J11) 平山 1989
  (J12) 大庭 1987, 1996
  (J13) 森 1986
  (J14) 青木 1981
  (J15) 神保 1980, 2004
  (J16) 後藤 1980, 2002
  (J17) 中村(幸) 1977
  (J18) 円地 1976, 1988, etc.
  (J19) 藤本 1975
  (J20) 松崎 1966
  (J21) 大輪 1960, 1988
  (J22) 鵜月 1959, 1970, etc.
  (J23) 重友 1953
■日本語原文 The original text in 18th century Japanese
■外部リンク External links
■更新履歴 Change log


 Video 1 
宝塚公演「浅茅が宿」 Asajigayado, a Takarazuka production

1998年 宝塚大劇場公演 出演: 轟悠  月影瞳  香寿たつき ほか


 Images 
表紙画像 Cover photos

pt Pt_00000030974 es Es_ueda_akinari_ugetsu_monogatari it 9788831751094g_1

fr Fr_contes_de_pluie_et_de_lune fr Post_1 en 0231139128_2_1

zh Zh_ugetsu_monogatari ja 448008377401_1 ja Img911_1

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■フランス語訳 Translation into French


■英訳 Translations into English

(E1) Chambers, 2006
(…) and the villagers abandoned their houses and set out to sea or hid in the mountains. Most of the few who remained had hearts of tigers or wolves and sought, I suppose, to take advantage of me now that I was alone. They tempted me with clever words, but even if I had been crushed like a piece of jade, I would not imitate the perfection of the tile, and so I endured many bitter experiences.


(E2) Zolbrod, 1974, 1988
   Ugetsu Monogatari: Tales of Moonlight and Rain
   by Akinari Ueda   
   Translated by Leon M. Zolbrod
   * Hardcover: University of British Columbia Press (1974)
   * Hardcover: Allen & Unwin (1975/01)
   * Paperback: Tuttle Pub (1988/06)
 
(E3) Sasaki, 1981
   Ueda Akinari's Tales of a Rain'd Moon
   by Ueda Akinari
   Translated by Sasaki Takamasa
   Hokuseido Press (1981)
   上田秋成=著 佐々木高政=訳 『雨月物語
   北星堂書店 1981/03
 
(E4) Hamada, 1972
   Tales of Moonlight and Rain: Japanese Gothic Tales
   by Akinari Ueda
   Translated by Kengi Hamada (Kenji Hamada)
   Hardcover: Columbia University Press (1972/06)


■簡体字中国語訳 Translations into simplified Chinese

(Zh1) 訳者未確認

那时天下大乱,村中人弃家逃避,或漂流在海上,或躲进深山。留在村里的,多为怀有虎狼之心的邪恶歹徒,见我是一个孤身女人,常以花言巧语诱惑挑逗。我宁可玉碎,不愿瓦全,坚守贞操,不知忍受了多少艰难辛酸。


(Zh2) 申非 1996
乡人皆弃家出走,或避乱海上,或遁入深山。偶有留居村内者,多是险恶歹徒,虎狼为心;看我一人独处,视为有机可乘,时而巧言诱惑,欲加狎侮。我宁为玉碎,不为瓦全,几次遇险,艰忍自持, 辛未遭难。

  • 雨月奇谈 荒宅 作者: 上田秋成 译者: 申非 农村读物出版社 1996

(Zh3) 阎小妹 1990

  • 雨月物语 日本文学丛书 作者: 上田秋成 译者: 阎小妹 人民文学出版社 1990

 Video 2 
映画 『雨月物語』 (1953) 予告編
Ugetsu monogatari (1953) a.k.a. Ugetsu trailer

監督:溝口健二 出演:京マチ子、森雅之 ほか
Directed by Kenji Mizoguchi, Starring Machiko Kyo, Masayuki Mori


 Video 3 
映画 『雨月物語』 (1953) 関係者インタビュー Ugetsu interviews

依田義賢、京マチ子、田中絹代らへのインタビュー。新藤兼人監督のドキュメンタリー映画 『ある映画監督の生涯 溝口健二の記録 (1975)』 の一部。
Interviews with Yoshikata Yoda, Machiko Kyo, Kinuyo Tanaka. Excerpts from the documentary film Kenji Mizoguchi: The Life of a Film Director (1975) directed by Kaneto Shindo.


■現代日本語への翻訳・再話
 Translations and retellings in contemporary Japanese

(J1) 円城 2015

(……)里の者はみな家を捨てて海を渡り、山に隠れて、里にわずかに残ったのは、乱暴者やひとくせある者ばかり。わたしがひとりでいるのを幸いと言葉巧みに言い寄ってきた者もいましたが、操を貫き、砕けることがあったとしても、見苦しい姿を晒(さら)すことはすまいとなんとかつらい日々を切り抜けました。


(J2) 岩井 2009
(……)村人は家を捨てて逃げていき、海へ山へと彷徨いました。残っていたのは、虎や狼のように獰猛(どうもう)な野蛮な人ばかり。
 独り身になったのを狙われ、幾たびもいっそ死にたい思いを味わわされました。それでも操を貫いて、玉として砕けるつもりでした。屋根の瓦のように、肌を汚して生き永らえるよりは遙かにいいと。

   岩井志麻子=著 「浅茅が宿」
   a.雨月物語』 光文社 2009/10/25
   b.小説宝石』 2008年7月号 光文社 収載
   現代語訳というよりも、翻案もしくは再話と呼ぶべき作品。初出は b.
   引用は a. に拠りました。


(J3) 菅家 2008
近所の人はみな逃(に)げて、残っているのは獣(けもの)のような男たちばかりでした。わたくしが一人でいるのをいいことに、言い寄ってきましたが、わたくしはあなただけの妻、死んでもほかの男になどなびくものですかと、つらい思いにも耐(た)えてきました。


(J4) 中村(晃) 2005
村人たちはみな家を捨て、海に漂(ただよ)い、山に隠れ、わずかに村に残った人たちの多くは心変りして虎狼の気持ちとなり、女のひとり住居をよいことにして、甘言をもってわたしに言いよって来ました。しかしわたしは貞操を守って玉と砕け散ろうとも、肌身を汚されてまで、瓦(かわら)のように醜(みにく)く生き長らえることはすまいと覚悟して、いく度となく辛(つら)い思いを耐え忍んで来ました。


(J5) 雨月妖魅堂 2004
里の者は皆家を捨てて海に漂流し、または山へと逃げ隠れました。偶々残った人々も、その殆どが残忍な虎狼の心を持っており、私に夫がいないのをいいことに言葉巧みに誘って来ましたが、玉と砕けて貞操を守り抜いても瓦のように身を汚して生きることはすまいと心に決め、幾度も辛いのを我慢しました。


(J6) 立原 2002
(……)戦(たたか)いに追われた人びとは、家をすてて海や山ににげたのです。のこったのは、虎(とら)や狼(おおかみ)のようなおそろしい心の人でした。女がひとりでいることにつけこんで、男たちがいいよってきます。わたしはいのちをすてても、あなたへの操(みさお)はまもりとおすつもりでしたし、そのとおりにいたしました。つらさにもさびしさにも耐(た)えて(……)

  • 立原えりか(たちはら・えりか)=著 『雨月物語』 浅茅が宿 21世紀によむ日本の古典17(全20巻) ポプラ社 2002/04

(J7) 高田+稲田 1997
(……)村人はみな家を捨てて海上に逃げ、山に逃げ隠れました。まれに残った人はたいてい虎や狼(おおかみ)のような恐ろしい心を持った人で、このようにひとり身になったのを好都合に思って、言葉たくみに誘惑するのですが、操(みさお)をつらぬき通して玉と砕けても、不義をして瓦のように醜く生きながらえることだけはすまいと、何度かつらい目をがまんしてきました。

  • 上田秋成=著 高田衛(たかだ・まもる)+稲田篤信(いなだ・あつのぶ)=校注 『雨月物語』 ちくま学芸文庫 1997/10

(J8) 葉山 1996
(……)苦しくて、辛(つら)いのは、あなたさまのことを考える夜昼でしたが…だって、あなたさまのこと以外に何一つ私にはなかったのですもの…それはいつかきっと会えると我慢(がまん)もできましたが、女ひとりだとわかると、いろいろ親切なことをいってくださる言葉のしたに、いやらしい、獣(けもの)の欲望(よくぼう)が隠(かく)されていて、いつも牙(きば)をむいて私に襲(おそ)いかかろうとしていたことです。私は、もしもあなたさま以外の男にこの肌(はだ)を汚(けが)されれば、その場で舌をかみきって死のうと覚悟(かくご)していました。そして、あるときなどは……」

  • 葉山修平(はやま・しゅうへい)=著 「浅茅が宿」 『亡霊』 親子で楽しむ歴史と古典11 勉誠社 1996/05 所収

(J9) 高田 1995
(……)村の人々は皆逃げ散り、家を捨てて海に漂い山に隠れして、稀々(まれまれ)に残ったのは、たいてい虎狼(ころう)の心を持った人、女の独居(ひとりずまい)を好都合(いいさいわい)とばかり、巧みな弁舌(くちさき)で言い寄るのです。たとえ玉と砕け散っても、不義をして瓦(かわら)のように醜く生命(いのち)永らえることだけはすまいと、幾度つらい目を耐え忍んだことか。


(J10) 石川 1991, 2006
(……)土地のひとびとはみな家を捨(す)てて海にうかみ山にかくれれば、たまたま残ったものとても、そのこころ根は虎(とら)おおかみ、女ひとりとつけこんで、ことばたくみに、いやらしいことばっかり、玉とくだけても瓦(かわら)の身にはなるまいものをと、いくたびかつらい目をしのびました。

   上田秋成=著 石川淳=訳 「浅茅が宿」
   a. 赤木かん子=編 岡本綺堂, 半藤一利〔ほか〕=著
     『語られると怖い話』 ホラーセレクション2
     ポプラ社 2006/03 所収
   b. 上田秋成=著 石川淳=訳
     『新釈雨月物語 新釈春雨物語』 ちくま文庫 1991/06
   a. の底本は b.


(J11) 平山 1989
村人たちはみな家をすててさまよい、山にかくれたりしてしまったのです。たまたま村に残った人は、たいていけだもののような心の持ち主で、わたしのようにひとりぐらしとなった女をつごうのよいことに思ってか、調子のよいことを言って誘惑(ゆうわく)しました。けれども、たとえこのまま死んでしまっても、よその男に乱暴(らんぼう)されて、価値(かち)のない瓦(かわら)のような体で生きのびることだけはしたくないと思って、何度も苦しい立場をたえしのびました。

  • 上田秋成=著 平山城児=訳 「浅茅が宿」 江河徹=編 『恐ろしい幽霊の話』 幻想文学館1 くもん出版 1989/08 所収

(J12) 大庭 1987, 1996
(……)村人たちはみな家を捨て、海路を逃れたり、山にかくれたりしました。たまに居残っている人たちは、飢えた虎(とら)か狼(おおかみ)と違うところもないような下心で、やもめ暮らしの私に言葉巧みに誘いをかけてきました。でも玉と砕けても、瓦(かわら)となってまで長らえたくはないものと、何度も危い目を忍びました。

   大庭みな子=著
   a.大庭みな子の雨月物語』 わたしの古典 集英社文庫 1996/08
   b.大庭みな子の雨月物語』 わたしの古典19 集英社 1987/06


(J13) 森 1986
(……)村のひとたちは、みんな、家をすてて、舟で他国へ逃げたり、山奥にはいったりしました。あとに残ったのは、騒動をいいことにして悪いことをしようという、おそろしい心のひとたちばかりです。ですから、わたくし、こわくって、こわくって、一日も安心した日がおくれませんでした。


(J14) 青木 1981
(……)里の人はみな家を捨てて、海に漂(ただよ)い出たり山に隠れ住んだりしたので、稀(まれ)に残った人はたいてい飢えた虎狼(とらおおかみ)のような恐ろしい心を隠し持っていて、こんな独(ひと)り身(み)になったのを幸(さいわ)いとばかりに、言葉を飾(かざ)って誘惑するけれど、玉(たま)として砕け散っても瓦(かわら)になって長らえたりはしたくないのだと、何度かつらい目をたえてもきました。

  • 上田秋成=著 青木正次(あおき・まさじ)=訳 『雨月物語(上)』 (全2巻)講談社学術文庫 1981/06

(J15) 神保 1980, 2004
(……)村人は皆家を捨て、海に漂(ただよ)い、山に隠れ、稀々(まれまれ)に村に残った人は、多くは虎狼(ころう)の心を持っていて、私のひとり住居(ずまい)を好都合と思ってか、甘言を弄して言い寄りましたが、貞操を守って、玉と砕け散ろうとも、肌身を汚(けが)して瓦(かわら)のように醜く生きながらえることはすまいと、いくたびか辛(つら)い思いを耐え忍びました。

   上田秋成=著 神保五彌(じんぼう・かずや)=訳 「雨月物語」
   a.雨月物語・春雨物語—若い人への古典案内
     教養ワイドコレクション〈クラシックへの遊学〉 文元社 2004/02
   b.雨月物語・春雨物語—若い人への古典案内
     現代教養文庫 社会思想社 1980/10/30
   a.b. の2001年刊31刷を原本としたオンデマンド版。
   引用は b. に拠りました。


(J16) 後藤 1980, 2002
(……)里の人々はみんな家を捨てて海や山に逃げ隠れてしまいました。たまたま残っている人といえば、これはほとんどが虎(とら)か狼(おおかみ)のように何かを狙っている人で、わたしがこうして一人暮しをしているのを、これ幸いと思うのでしょう。手を変え品を変えして誘惑して来ましたけれども、たとえ玉と砕けようとも、不義の生き恥だけはさらすまいと、幾度も辛くて危険な目を耐え忍び、逃れて参ったのです。

   後藤明生(ごとう・めいせい)=訳 「雨月物語」
   a. 後藤明生=著 『雨月物語
     学研M文庫 学習研究社 2002/07 所収
   b.現代語訳・日本の古典19 雨月物語・春雨物語』(全21巻)
     学習研究社 1980/04 所収
   引用は a. に拠りました。


(J17) 中村(幸) 1977
(……)村人はみな住家を捨てて、海よりにげ、山にこもりましたので、わずかに残った人はといえば、だいたい悪い野心をいだく連中で、このように一人身になりましたのを、よい都合に思いましてか、好言をもって誘惑しますけれど、操を立て通してたて生命はなくなりますとも、生きて不義の汚名を取りますまいと、覚悟して、何度も何度もつらい目をたえ忍びました。


(J18) 円地 1976, 1988, etc.
(……)里の人たちはみな家を捨てて船路に逃げのびたり、山にこもったりしました。たまたま居残っている人たちは、まるで虎(とら)や狼(おおかみ)のような恐ろしい心にかわって、私が寡(やもめ)でひとり暮らしているのをよい幸いと思うのか、ことばを巧みに誘って来ましたけれども、玉のままでいさぎよく砕けちっても、瓦となって長生きしたくはないと思いさだめて、いくたびとなく、それはそれはつらい目を忍びました。

   上田秋成=作 円地文子=訳 「雨月物語」
   a.現代語訳 雨月物語・春雨物語
     河出文庫 河出書房新社 2008/07/04 所収
   b.雨月物語・浮世床・春雨物語・春色梅暦
     作者:上田秋成、式亭三馬、為永春水
     訳者:円地文子、久保田万太郎、舟橋聖一
     日本古典文庫20 河出書房新社 新装版 1988/04 所収
   c.雨月物語・浮世床・春雨物語・春色梅暦
     日本古典文庫20 河出書房新社 1976/10 所収


(J19) 藤本 1975
(……)村の人は山の方へ、海の方へと避難しました。村に残った人は、みんな貪欲(どんよく)な人ばかりで、戦いでひと儲(もう)けしてやろうという人もあれば、人間のみにくい欲望の谷を満そうと思う人ばかりで、一人住いのあたしを狙(ねろ)うて、言葉巧みに誘おうとしたのです。あたしは、操(みさお)を守って死ぬのは、不義を犯して生きながらえるよりも尊いと、その一心で生きてまいりました。


(J20) 松崎 1966
(……)ここの人たちはみな家をすてて逃げ、わずかに残った人はといえば、たいてい残忍な心の持ち主でした。私がひとり暮らしになったのを好都合とばかりに、うまいことをいって誘惑するのです。でも私は、命をすてても操を守ろうと決心して、なんどつらいめに会っても、いっしょうけんめい、たえしのんできました。

  • 上田秋成=原作 松崎仁(まつざき・ひとし)=編著 『雨月・春雨物語』 古典文学全集20 ポプラ社 1966/04/10 所収 [原文にあるルビは省略しました - tomoki y.]

(J21) 大輪 1960, 1988
[訳文は追って挿入するつもりです - tomoki y.]

   上田秋成=著 大輪靖宏(おおわ・やすひろ)=訳注
   a.雨月物語 (対訳古典シリーズ)』 旺文社文庫 1988/04
   b.雨月物語—現代語訳対照』 旺文社文庫 1960/01


(J22) 鵜月 1959, 1970, etc.
村人はみんな家を捨てては海や山に逃げかくれてしまいましたので、まれに残っている人といえば、たいてい虎か狼のようにおそろしい貪婪(どんらん)な心を持った人で、私がこうして一人暮らしをしているのをいいさいわいと思うのでしょうか、言葉たくみに誘惑するのですが、玉砕瓦全(ぎょくさいがぜん)の言葉のように、たとえ操を守って死すとも、不義をして命ながらえる道は踏むまいと決意して、そのために幾度もつらいめをたえしのんできたのです。

   上田秋成=著 鵜月洋(うづき・ひろし)=訳注
   a.改訂版 雨月物語—現代語訳付き』 角川ソフィア文庫 2006/07
   b.雨月物語—付現代語訳』 角川文庫 1970
   c.雨月物語—附現代語譯』 角川文庫 1959/11/30
   引用は a. に拠りました。


(J23) 重友 1953
(……)この里の人たちも、みんなそれぞれの家を捨て、舟に乘って遠くへゆくか、山奥へかくれるかして、あとにのこる人といえば、たいていは恐ろしい人ばかりで、このわたくしが一人でいるのをよいことに、口を巧みにいい寄りなどしましたが、どんなことがあろうとも、操は守り通そうと、どんなに苦勞したことか知れません。


■日本語原文 The original text in 18th century Japanese

(……)里人は皆家を捨てて海に漂(ただよ)ひ山に隠(こも)れば、適(たまたま)に残りたる人は、多く虎狼(こらう)の心ありて、かく寡(やもめ)となりしを便(たよ)りよしとや、言(ことば)を巧(たく)みていざなへども玉と砕(くだけ)ても瓦(かはら)の全(また)きにはならはじものをと、幾たびか辛苦(からきめ)を忍(しの)びぬる。


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2018/02/01 訳者未確認の簡体字中国語訳を追加し、申非による簡体字中国語訳と Chambers による英訳の訳文を挿入しました。
  • 2018/01/31 インタビューのビデオを英語字幕版のものと差し替えました。
  • 2016/11/06 円城塔=訳 2015/11/30 を追加しました。
  • 2010/12/08 神保五彌=訳 1980/10/30 と重友毅=譯 1953/12/20 の訳文を挿入しました。
  • 2010/12/07 森三千代=著 1986/03/20 を追加しました。また、重友毅=訳 1953 の書誌情報を追加しました。訳文は追って挿入するつもりです。さらに、円地文子=訳の書誌情報を補足しました。
  • 2010/12/01 菅家祐=文 2008/02/17 を追加しました。また、鵜月洋=訳注の書誌情報を修正し、神保五彌=訳と大輪靖宏=訳注の書誌情報を追加しました。さらに、外部リンクの項を新設しました。
  • 2010/11/29 中村晃=著 2005/11/01 を追加しました。
  • 2010/09/28 フランス語訳と簡体字中国語訳の書誌情報を追加しました。また、表紙画像を追加しました。
  • 2010/08/01 岩井志麻子=著 2009/10/25 を追加しました。
  • 2010/06/10 つぎの3本の YouTube 動画を追加しました。
      1) 宝塚歌劇 『浅茅が宿』 (1)
      2) 映画 『雨月物語』 (1953)
      3) 『雨月物語』 (1953) 関係者インタビュー
  • 2008/02/13 藤本義一=訳 1975 を追加しました。
  • 2007/07/21 中村幸彦=訳 1977/02 を追加しました。
  • 2007/06/19 立原えりか=著 2002/04、高田衛+稲田篤信=訳 1997/10、および葉山修平=著 1996/05 を追加しました。
  • 2007/05/15 松崎仁=訳 1966/04 を追加しました。
  • 2007/04/16 日本語原文の仮名遣いの誤りを訂正し、その書誌情報を補足しました。
  • 2007/04/14 鵜月洋=訳 2006/07、後藤明生=訳 2002/07、および円地文子=訳 1976/10 を追加しました。
  • 2007/04/11 青木正次=訳 1981/06 を追加しました。

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Monday, 05 March 2007

The Upper Berth by F. Marion Crawford F・マリオン・クロフォード 「上段寝台」「上床」

        目次 Table of Contents

■はじめに Introduction
 Video 1  パペット・ショー The Upper Berth (2011) presented by Mucky Puppets
 Video 2  舞台公演予告編 Dark Soundings - Stage performance trailer
 Video 3  スライド・ショー The Upper Berth - Slide show presented by skibbman
■日本語訳 Translations into Japanese
  (1) 佐藤 1996
  (2) 渡辺 1990
  (3) 乾 1988
  (4) 山主 1986
  (5) 白木 1970, 1973, etc.
  (6) 村崎 1956
  (7) 岡本 1929, 1970, etc.
  (8) 木村 1926
  (9) 和気 1922
■ロシア語訳 Translation into Russian
■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese
■スペイン語訳 Translation into Spanish
 Images   本と著者 The book and the author
 Audio 1  英語朗読: ミッシェル・シュヴァリエ Audiobook read by Michelle Chevallier
 Audio 2  英語朗読: ロッド・メーリング Audiobook read by Rod Mehling
■英語原文 The original text in English
■著者名の日本語表記の異同 Transliteration variations of "Crawford" in Japanese
■邦題の異同 Variations of the title in Japanese
■外部リンク External links
■更新履歴 Change log


■はじめに Introduction

船を舞台にしたホラーストーリーの古典的作品。


 Video 1 
パペット・ショー
The Upper Berth (2011) presented by Mucky Puppets

Uploaded to YouTube by bonbichie on 10 May 2011. Starring Darren Munn as Brisbane the Narrator. Featuring Daniel Marlowe as the Captain. Puppets, sets and music by Richard Mansfield. Original story by F. Marion Crawford and adapted by Richard Mansfield. (c) Richard Mansfield 2011


 Video 2 
舞台公演の予告編
Dark Soundings: Two ghostly tales of ship & shore. (NSTG Promo Trailer)

Uploaded to YouTube by gobnyc on 17 Jan 2009. North Shore Theatre Group (NSTG)


 Video 3 
スライド・ショー
The Upper Berth - Slide show with narration, presented by skibbman

Uploaded to YouTube by skibbman on 21 Jul 2010


■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 佐藤 1996
「職業柄迷信深いほうじゃないのですがね」船医はそう答えたな。「海に出るとそうなるものなんです。偏見を植えつけるつもりも脅すつもりもないんですがね、ぼくの言葉に従って船室を替えたほうがいいですよ。まだあなたが船から落ちるところを目撃するほうがましです」船医は真剣な口調でこんなことを言い足すじゃないか。「あなたであろうとなかろうと、一◯五号室の船客になったことを聞くくらいならね」
「おやおや、どうしてですか」おれはそう尋ねたね。
「これまで三度、あの船室のお客さまが実際に船から落ちたからですよ」そう答えた船医の口調には、ただならぬ響きがあったな。

   F・マリオン・クローフォード=著
   佐藤嗣二(さとう・つぐじ)=訳 「上段ベッドの船客」
   『英米ゴーストストーリー傑作選』 新風書房 1996/12 所収


(2) 渡辺 1990
「私達医者は、職業柄迷信は信じていませんよ、もちろん」と、船医は答えた。「ですが、海は人を迷信家にします。私はあなたに偏見を植えつけたり、脅かしたりする気はありませんが、もし私の忠告を受け入れて頂けるならば、こちらにお移りなさい。私としては、あなたでも他の誰でも一◯五号室で眠らなければならない人がいると知って、放っておくぐらいなら、いっそ」と、彼は大真面目で付け加えた。「あなたが海に落ちるのを見たほうがましですよ」
「おやおや、それはいったいなぜです?」と、私は聞いた。
「つい最近の三度の旅行で、その部屋で眠った人は皆、実は、海に落ちてしまったのですよ」と、彼は重々しい口調で答えた。

   F・M・クローフォード著 渡辺喜之(わたなべ・よしゆき)=訳
   「上段寝台」
   由良君美(ゆら・きみよし)=編 『イギリス怪談集
   河出文庫 1990/03所収


(3) 乾 1988
「われわれは職業上迷信家になるわけにいきませんからね」船医が答えました、「しかし、海は人を迷信家にしますよ。ぼくはあなたに先入観を持たせる気もないし、脅すつもりもありませんよ、しかしぼくの忠告を受け入れる気があったら、ぼくのところに引越しておいでなさい。ぼくはあなたが間もなく船外へとび出すのを見ることになるからですよ」と彼は熱をこめてつけくわえました、「というのは、あなただろうと誰だろうと一◯五号室で寝た人はそうなることになってるんですから」
「え、なんですって! どうしてです?」わたしが聞きました。
「わけは簡単です、最近三回の航海で、あの船室で寝た人たちは、事実、みんな海中へとびこんでいるからです」と船医が厳しい調子で答えました。

   F・マリオン・クロフォード=著 乾信一郎=訳 「上段寝台」
   ロアルド・ダール=編 乾信一郎[ほか]=訳
   ロアルド・ダール〔ほか〕=著 『ロアルド・ダールの幽霊物語
   ハヤカワ・ミステリ文庫 1988/12 所収
   原典:
   Roald Dahl's Book of Ghost Stories
   Paperback: Farrar Straus & Giroux (1985/01)


(4) 山主 1986
「どうも、海というものは、人間を迷信深くしますね。あなたをおどかしたくはありませんが、ぼくの忠告をいれてくださるなら、ここへうつっておいでなさい。あなたでも、ほかの人でも、一◯五号で寝たら、すぐ海へとびこむことになりますよ。」
「ほうー、なぜですか?」
「最近の三度の航海で、あそこで寝た人がみんな海へとびこんだからです。」
 船医は、おもおもしくいった。
[原文にあるルビは省略しました]

   クロフォ−ド=作 山主敏子=訳・文 「上段ベッドの怪」
   ホーソン〔ほか〕=原作 『毒草の少女
   世界こわい話ふしぎな話傑作集15 アメリカ編 金の星社 1986/12 所収


(5) 白木 1970, 1973, etc.
 すると、船医はきゅうにあらたまった口調で、
「わたしは、あなたにおすすめしたいことがあるんですが……どうです、一〇五号室から、わたしのへやにひっこしてきませんか。わたしのへやはかなり広いし、それに……。」
「それに……」
「じつは、あの一〇五号室にとまった船客が、最近の航海中に三人も投身自殺をしているんです。あのへやは、とても不吉なへやなんですよ。」
と、船医は暗い顔をしていいました。
[原文にあるルビは省略しました - tomoki y.

   5a. クロフォード=作 白木茂=訳 「一〇五号船室の怪」
     ストックトン〔ほか〕=作 千葉幹夫〔ほか〕=訳
     『幽霊のひっこし
     講談社 青い鳥文庫Kシリーズ 1996/07 所収
   5b. クロフォード=作 白木茂=訳 「百五号船室の怪」
     『世界の怪談2 英米編2 怪奇! 105号室
     講談社 1973/11 所収
   5c. クロフォード=作 白木茂=訳 「百五号船室の怪」
     ポー〔ほか〕=著 『影を殺した男
     世界の名作怪奇館 講談社 1970/07 所収 この本の内容詳細は ここ
   引用は 5a. に拠りました。


(6) 村崎 1956
「われわれのような職業の者は迷信家にはなりませんよ、お客さん」と医者は答えた。
「だが海上生活をしていると迷信深くなりますね。ぼくはあなたに先入観を持たせたくないし、おどかしたくもありませんが、ぼくの忠告を聞いてくださる気があれば、ここへ引越していらつしやい。誰であろうと一◯五号で寝たら最後、すぐに海の中へ飛びこむようなことになりますよ」と彼は熱心につけくわえました。
「オヤ! なぜですか?」とわたしはききました。
「現に、ちようど最近三度の航海に三度とも、あすこで寝た人が海の中へ飛びこんだからです」と彼は厳粛に答えました。

   F・マリオン・クローフオード=著
   村崎敏郎(むらさき・としお)=訳 「上段寝台」
   早川書房編集部=編 『幻想と怪奇 英米怪談集1
   世界探偵小説全集 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1956/08 所収


(7) 岡本 1929, 1970, etc.
「むろん、私たちは医者という職業の上からいっても、迷信家でないことは、あなたもご承知くださるでしょう。が、海というものは人間を迷信家にしてしまうものです。私はあなたにまで迷信をいだかせたくはありませんし、また恐怖心を起こさせたくもありませんが、もしもあなたが私の忠告をおいれくださるなら、とにかく私の部屋へおいでなさい」
 船医はまた次のように言葉をつけ加えた。
「あなたが、あの百五号船室でお寝(やす)みになっているということを聞いた以上、やがてあなたが海へ落ち込むのを見なければならないでしょうから……。もっとも、これはあなたばかりではありません」
「それはどうも……。いったいどうしたわけですか」
 僕は訊き返すと、船医は沈みがちに答えた。
「最近、三航海のあいだに、あの船室で寝た人たちはみんな海のなかへ落ち込んでしまったという事実があるのです」

   クラウフォード=著 岡本綺堂=訳 「上床(アッパーバース)」
   7a. 世界怪談名作集 13 上床 青空文庫 電子テキスト
   7b. 岡本綺堂=編訳 『世界怪談名作集〔下〕
     河出文庫 新装版 2002/06 所収
   7c. 岡本綺堂=編訳 『世界怪談名作集〔下〕
     河出文庫 初版 1987/09 所収
   7d.岡本綺堂読物選集8 飜訳編(下)』 青蛙房 1970 所収
   7e.世界大衆文學全集35 世界怪談名作集』 改造社 1929/08 所収
   7a. の底本は 7b.。引用は 7c. に拠りました。


(8) 木村 1926
 「わたし達は職業柄迷信といふやうなものは尠しも持ちませんよ、」と、船醫が申しました。「然しですな、海洋といふやつは人間を迷信家にしたがるものでしてね。わたしは、貴方に偏見を抱かせ度くありませんし、怖がらせたくもありません、が、わたしの忠告をお容れになるんでしたら、わたしの私室へお移りになつたがよいですな。間もなく貴方は投身なさるでせうから、」船醫は附け加へました、「あの、百五號の船室でお眠みになつたら最後ですよ。」
 「何んですつて! それは又、何うしたことですか?」と、僕が訊ねました。
 「と、言ひますのは、最近三航海中に、あの船室で寢た船客が實際投身してゐるからのことです。」と、船醫は暗い調子で答へました。

   エフ・マリオン・クラッフォード=作 木村信兒=譯 「上の寢臺」
   8a. 国立国会図書館マイクロフィッシュ YD5-H-520-45
   8b. 世界短篇小説大系 亞米利加篇
     近代社(非賣品)1926/05(大正15)所収 この本の内容詳細は ここ
   引用は 8b. に拠りました。かなり傷んだ状態であるにもかかわらず、
   寛大にも、この本を貸し出してくださった、K県立図書館の皆さん、ならびに、
   いつもながら、取り寄せの労をとってくださった府立図書館の皆さんに
   お礼申し上げます。


(9) 和気 1922
【ルビを省いたテキスト】
『一體吾々の職業のものは迷信的ではないのですが、』船醫は答へた。『海といふ奴は人間をさうならせるのです。僕は貴君に成心を抱かせたくはない、貴君を怖がらせたくもない。が、成るべくならば僕の忠告を入れて、此處へ引越された方が宜しいですよ。で、ないと今に貴君は投身するに違ひないのです、』彼は眞面目に云ひ足した、『貴君でも他の者でも、百五號に寢るものは皆投身してしまふのです。』
『や!何故です?』僕は訊いた。
『最近の三航海で、あの室に寢た人達は皆投身してしまつたからです、』彼は嚴肅に答へた。

【原文—総ルビ】

『一體(たい)吾々(われ/\)の職業(しよくげう)のものは迷信的(めいしんてき)ではないのですが、』船醫(せんい)は答(こた)へた。『海(うみ)といふ奴(やつ)は人間(にんげん)をさうならせるのです。僕(ぼく)は貴君(あなた)に成心(せいしん)を抱(いだ)かせたくはない、貴君(あなた)を怖(こは)がらせたくもない。が、成(な)るべくならば僕(ぼく)の忠告(ちうこく)を入(い)れて、此處(ここ)へ引越(ひきこ)された方(ほう)が宜(よろ)しいですよ。で、ないと今(いま)に貴君(あなた)は投身(みなげ)するに違(ちが)ひないのです、』彼(かれ)は眞面目(まじめ)に云(い)ひ足(た)した、『貴君(あなた)でも他(ほか)の者(もの)でも、百五號(ごう)に寢(ね)るものは皆(みな)投身(みなげ)してしまふのです。』
『や!何故(なぜ)です?』僕(ぼく)は訊(き)いた。
『最近(さいきん)の三航海(こうかい)で、あの室(しつ)に寢(ね)た人達(ひとたち)は皆(みな)投身(みなげ)してしまつたからです、』彼(かれ)は嚴肅(げんしゆく)に答(こた)へた。

   マリオン・クロウフオオド=著 和気律次郎(わけ・りつじろう)=譯 「上の寢床」
   和気律次郎=譯 『英米七人集 : 清新小説
   大阪毎日新聞社 1922/09/10(大正11)所収
   国立国会図書館デジタル化資料
   迷・抱・告・違・達の旧字はそれぞれ新字で置き換えました。


■ロシア語訳 Translation into Russian

— Люди нашей профессии редко бывают суеверными, сэр, — ответил он, — но море меняет взгляды. Я не хочу создавать у вас предвзятое мнение и не хочу пугать, но вам лучше послушаться моего совета и переселиться ко мне. Вы или кто-либо другой быстро окажетесь за бортом, если останетесь в сто пятой каюте, — откровенно добавил он.

— Боже правый! Почему? — воскликнул я.

— Потому что в последние три рейса все, кто там спал, в буквальном смысле оказывались за бортом, — мрачно пояснил он.

  • Ф. Мэрион Кроуфорд. Верхняя Койка
  • E-text at LibreBook.ru

■ポルトガル語訳 Translation into Portuguese

– Nós, os médicos, não costumamos ser supersticiosos, mas o mar nos faz assim. Não o quero assustar nem sobressaltar, mas, se quiser seguir o meu conselho, mude-se para o meu camarote. Antes queria vê-lo pela borda afora do que saber que o senhor ou outro qualquer iam dormir no 105.

– Deus do céu! Por quê?

– Porque, nas três últimas viagens, as pessoas que lá dormiram foram pela borda fora – respondeu ele, com modo grave.


■スペイン語訳 Translation into Spanish

— Nuestra profesión no nos permite ser supersticiosos ; contestóme, pero el mar hace que lo seamos. No pretendo predisponer á Vd., ni mucho menos asustarle ; sin embargo tome mi consejo, y véngase á mi cámara. ¡ Seguro estoy de que tanto Vd. como otro cualquiera que duerma en el camarote No. 105 es sin remedio, hombre perdido, hombre al agua ! exclamó con marcada ansiedad.

— ¡ Cáspita ! y ¿ por qué ?

— ¿ Por qué ? Porque en los tres últimos viajes todas las personas que han dormido en ese camarote se han arrojado en el mar, me contestó gravemente.


 Images  
本と著者 The book and the author

a. Crawford4 b. Fmarioncrawford1sized_1
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 Audio 1 
英語原文朗読: ミッシェル・シュヴァリエ
The Upper Berth - Audiobook read by Michelle Chevallier (a.k.a. beaglemixtape)

下に引用する箇所の朗読は 17:52 から。 Uploaded to YouTube by freeaudiobooks84 on 15 Jul 2013. Audio courtesy of LibriVox. Reading of the excerpt below starts at 17:52.


 Audio 2 
英語原文朗読: ロッド・メーリング
The Upper Berth - Audiobook read by Rod Mehling
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録音を聞くには  ここをクリック  してください(開くまで時間がかかるかもしれません)。 To listen to the recording  CLICK HERE  (it may take a while to start). The Upper Berth. Released 2006-10-31. Volunteer Performance by Rod Mehling. Audio courtesy of verkaro.org. License = Creative Commons Attribution/Non-Commercial/No Derivative


■英語原文 The original text in English

"We are not superstitious in our profession, sir," replied the doctor, "but the sea makes people so. I don't want to prejudice you, and I don't want to frighten you, but if you will take my advice you will move in here. I would as soon see you overboard," he added earnestly, "as know that you or any other man was to sleep in 105."

"Good gracious! Why?" I asked.

"Just because on the last three trips the people who have slept there actually have gone overboard," he answered gravely.


■Crawford の日本語表記の異同
 Transliteration variations of "Crawford" in Japanese

  クラウフォード…………岡本 1929, 1970, 1987, 2002
  クラッフォード…………木村 1926
  クローフォード…………佐藤 1996
  クローフォード…………渡辺 1990
  クローフォード…………村崎 1956

  
クロウフオオド…………和気 1922
  クロフォード……………乾  1988
  クロフォード……………山主 1986
  クロフォード……………白木 1970, 1996


■邦題の異同 Variations of the title in Japanese

 「一〇五号船室の怪」……白木 1996
 「上の寢床」………………和気 1922

 「上の寢臺」………………木村 1926
 「上床」……………………岡本 1929, 1970, 1987, 2002
 「上段ベッドの怪」………山主 1986
 「上段ベッドの船客」……佐藤 1996
 「上段寝台」………………乾  1988
 「上段寝台」………………村崎 1956
 「上段寝台」………………渡辺 1990
 「百五号船室の怪」………白木 1970


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2014/11/05 ロシア語訳とポルトガル語訳を追加しました。
  • 2013/09/22 目次を新設し、リブリヴォックスによるオーディオブックの YouTube 画面を追加しました。
  • 2013/05/30 和気律次郎=譯 1922/09/10 を追加しました。
  • 2011/11/27 Mucky Puppets による映画の YouTube 動画と  verkaro.org によるオーディオブックへのリンクを追加しました。
  • 2010/09/08 外部リンクの項を新設しました。また、つぎの2本の YouTube 動画を追加しました。
    1. North Shore Theatre Group による Dark Sounding の予告編
    2. skibbman による The Upper Berth のスライドショー
  • 2008/07/29 木村信兒=譯 1926/05 を追加しました。
  • 2007/11/06 白木茂=訳および岡本綺堂=訳に関する書誌情報を修正補足しました。
  • 2007/04/02 村崎敏郎=訳 1956/08 を追加しました。
  • 2007/03/15 白木茂=訳 1996/07 を追加しました。

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