Supervielle, Jules

Friday, 18 May 2007

L'enfant de la haute mer / A Child of the High Seas by Jules Supervielle シュペルヴィエル 「海に住む少女」

 Video 1 
En mai, fais ce qu'il te plaît (2002)

A short animated film directed by Laetitia Gabrielli, Pierre Marteel, Mathieu Renoux and Max Tourret. Music by René Aubry. More details at Internet Archive


 Video 2 
L'enfant de la haute mer (1985)

Uploaded to YouTube by aaaproductionParis on 2 Apr 2013


 Images 
表紙画像ほか Cover photos, etc.

a. 33475111 b. Supervielle_2 c. 045

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■日本語訳 Translations into Japanese

(J1) 永田 2006
 少女はこの世に、自分以外にも女の子がいるなんて知りませんでした。いえ、そもそも自分が少女であることすら、知っていたのでしょうか。
 とんでもない美少女、というわけではありませんでした。前歯にちょっと隙間がありましたし、鼻もちょっと上向きでしたから。でも、肌は真っ白で、そのうえに少しだけ、てんてんがありました。まあ、そばかすといってもいいでしょう。ぱっちりというわけではありませんが、輝く灰色の瞳が印象的なこの少女、灰色の瞳に動かされているようなこの少女の存在に気づいたとき、あなたは時間の底から大きな驚きが湧き上がり、身体をつらぬき、魂にまで届くのを感じることでしょう。

   ジュール・シュペルヴィエル=作 永田千奈(ながた・ちな)=訳
   『海に住む少女』 光文社古典新訳文庫 2006/10


(J2) 綱島 2004
 少女は自分が世界じゅうでただ一人の少女だと思っていた。しかし、はたして自分が少女だということからして、本当にわかっていたかどうか……
 歯並びにいくぶん隙間があり、鼻が少し上を向きすぎていて、美少女とは言いがたかったが、肌は白く透きとおり、そこには穏やかさのしみ、というか、そばかすがかすかに散っていた。そして、控えめだがよく輝く灰色の瞳の指図で動く、彼女の小さな姿を見ていると、時の深みから大きな驚きが湧き起こり、体をつらぬいて魂にまでも届くのだった。

   ジュール・シュペルヴィエル=作
   綱島寿秀(つなしま・としひで)=訳
   『海の上の少女—シュペルヴィエル短篇選
   大人の本棚 みすず書房 2004/05 所収


(J3) 三野 1990
 この子は、世界じゅうで女の子は自分ひとりだけだと思っていた。でもいったい、自分が女の子だということを知っていたのだろうか?
 少女はそんなにかわいくはなかった。歯並びがすこし悪かったし、鼻は少々そりかえっていた。だけど、肌はとても白かった、いくつかやわらかい染みが、つまりその、そばかすがあったけれども。そして、灰色の、つつましいけれどとても明るく光る目が印象的なこの少女は、時間の奥底からやってくる大きな驚きで、見る者の体を、魂までつらぬくのだった。
 
   J・シュペルヴィエル=著 三野博司=訳
   『沖の少女—シュペルヴィエル幻想短編集
   現代教養文庫 社会思想社 1990/05


(J4) 石川 1989
 娘(むすめ)は、自分がこの世でたったひとりの女の子だと思っていた。いや、自分が女の子だということをいったい知っていたのだろうか?
 歯ならびが悪く、鼻もちょっと上を向いていたので、娘(むすめ)はとびきり美しかったわけではないが、肌(はだ)はまっ白で、かわいらしいそばかすがぽつぽつとついていた。それに、その小さなすがたを見た者は、ひかえめだがきらきらかがやく灰色(はいいろ)のひとみにひきつけられ、大きなおどろきが時間のおく深いところからわきでて、心の底にまでしみわたってくるのを感じるだろう。

   シュペルヴィエル=作 石川清子=訳 「沖の娘」
   『なぞめいた不思議な話』 幻想文学館2 くもん出版 1989/08 所収


(J5) 堀口 1977, 1989, etc.
 小娘は自分を、世界じゅうでたった一人の女の子だと信じていた。いやそれどころか、彼女が自分を女だと知っていたかさえ疑わしい。
 歯の間に隙間があるのと、鼻が少々上向きすぎるので、彼女はそうたいして美しいというほどではなかったが、ただ肌は真白で、その上それを可愛らしいものに見せる雀斑(そばかす)までがあった。おとなしやかな、ぱっちりした灰色の眼が司っている彼女の小さな姿を見ると、人は、魂の奥まで滲み透る大きな驚き、時劫の底から来るような、大きな驚きを感じるのであった。

   ジュール・シュペルヴィエル=作 堀口大學=訳 「沖の小娘」
   a.シュペルヴィエル抄』 小沢書店 1992/03 所収
   b.幼童殺戮 堀口大學訳短篇物語1』 書肆山田 1989/03 所収
   c.沖の小娘』 青銅社 1977/12 所収


(J6) 窪田 1970, 1985
 娘は、自分は世界でただ一人の女の子だと思いこんでいた。いや、自分が娘なことを果たして知っていただろうか?
 歯の間には少々隙間があったし、鼻もやや天井を向きすぎていたので、彼女は非常な美人ではなかった。しかし、肌はじつに白く、そこには愛らしい二、三の斑点(しみ)、つまり雀斑(そばかす)がついていた。慎(つつ)ましやかだが、きらきらと光り輝く灰色の眼に支配された彼女の小さな身体(からだ)は、見る者の肉体の奥深く、魂に達する大きな驚きを——この驚きは時間の底から生まれてくるものだ——感じさせた。

   ジュール・シュペルヴィエル=作 窪田般彌=訳「沖の娘」
   a. 窪田般彌=編 『フランス幻想小説傑作集』 白水Uブックス
     白水社 1985/09 所収
   b. マルセル・シュネデール=編 『現代フランス幻想小説
     白水社 1970/09 所収


(J7) 安藤 1966
 娘は自分がこの世界にたった一人の少女だと思っていた。それでも、自分が少女だということだけはわかっていたのだろうか?
 それほど美しい娘だとはいえなかった。歯並びにはいくらか隙間(すきま)があいていたし、鼻も少しばかり上を向きすぎていたからだ。しかしその肌は実に白くて、そこへ点点とかわいいしみが、いや、つまりそばかすが(#「そばかす」に傍点)ついていた。小さな体つきのなかで、おとなしそうな、だがきらきら光る灰色の目がひときわ目立つその姿は、見る人の体から魂までを、時の流れの奥底からくる大きな驚きでゆさぶるほどのものがあった。

   シュペルヴィエル=作 安藤元雄=訳 「海原の娘」
   『世界の文学52 フランス名作集』 中央公論社 1966/08 所収


■邦題の異同 Variations of the title in Japanese

   「沖の小娘」…………堀口大學=訳 1980, 1989, 1992
   「沖の少女」…………三野博司=訳 1990
   「沖の娘」……………石川清子=訳 1989
   「沖の娘」……………窪田般彌=訳 1970, 1985
   「海に住む少女」……永田千奈=訳 2006
   「海の上の少女」……綱島寿秀=訳 2004
   「海原の娘」…………安藤元雄=訳 1966


■英訳 Translation into Englsh

The child thought she was the only little girl in the world. But did she really know that she was a little girl?

She wasn't a very pretty child, because of her teeth that were rather uneven and her nose a little too turned-up, but she had a very white skin with a few gentle freckles on it. And her small person, dominated by two grey eyes, rather shy but extremely luminous, sent through you, from your body right to your soul, a sense of great wonderment, a wonderment old and deep as time itself.

   A Child of the High Seas by Jules Supervielle
   Translated from the French by Dorothy Baker
   The Penguin New writing, Issue 37 by John Lehmann
   Penguin Books, 1949
   Preview at Google Books


■フランス語原文 The original text in French

L'enfant se croyait la seule petite fille au monde. Savait-elle seulement qu'elle était une petite fille ?

Elle n'était pas très jolie à cause de ses dents un peu écartées, de son nez un peu trop retroussé, mais elle avait la peau très blanche avec quelques taches de douceur, je veux dire de rousseur. Et sa petite personne commandée par des yeux gris, modestes mais très lumineux, vous faisait passer dans le corps, jusqu'à l'âme, une grande surprise qui arrivait du fond des temps.

   L'enfant de la haute mer (1930)
   by Jules Supervielle
   E-text at Le plaisir de lire


■外部リンク External links


■更新履歴 Change log

  • 2016/06/05 もう1本の短篇アニメ (1985年) を追加しました。
  • 2010/12/08 短篇アニメ L'enfant de la haute mer の動画と Dorothy Baker による英訳を追加し、「外部リンク」の項を新設しました。
  • 2007/06/04 三野博司=訳 1990/05 を追加しました。
  • 2007/05/20 安藤元雄=訳 1966/08 を追加しました。
  • 2007/05/19 石川清子=訳 1989/08 を追加しました。


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Tuesday, 15 May 2007

L'oiseau du tour du monde by Jules Supervielle シュペルヴィエル 「牛小屋に寝ていた……」

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a. シュペルヴィエル 『海に住む少女』 光文社古典新訳文庫 (2006)
b. Un boeuf de Chine by Jules Supervielle, Illustration by Marc Daniau (2002)
c. Jules Supervielle (1884-1960) Image source: Meridiano Zero and Academie de Versailles


■日本語訳 Translations into Japanese

(1) 小海 1996
牛小屋に寝ていた
中国の灰色の牛が、
のびをする。
するとそれと同じ瞬間に、
ウルグアイの牡牛が
誰か動いたかしらんと
見ようとして寝返りをうつ。
その両方の牡牛の上を
昼と夜とを横切って
一羽の鳥が飛び、音もなく
この地球を一回りする、
決して地球にさわらずに
決して途中で休まずに。

   ジュール・シュペルヴィエル=作 小海永二(こかい・えいじ)=訳
   「牛小屋に寝ていた……」
   * 小海永二=編 篠崎三朗(しのざき・みつお)=画
    『ふしぎのうた』 みんなで読む詩・ひとりで読む詩4
    ポプラ社 1996/04 所収
   * 『現代フランス詩集』 世界現代詩文庫6 土曜美術社 1989/01 所収


(2) 三野 1990
中国の灰色の牛が、
自分の家畜小屋で横になり、
背を長々とのばす、
すると同じ瞬間に
ウルグアイの牛が
だれかが動いたかと
ふりかえって見る。
音もたてずに
昼と夜とを横切って
地球の周りをまわり
けっして地球にふれず
けっしてとどまることもない小鳥が
昼と夜をつらぬいて
二頭の牛の上を飛んでいる。

   ジュール・シュペルヴィエル=著 三野博司(みの・ひろし)=訳
   「中国の灰色の牛が……」(『無実の囚人』)
   『沖の少女—シュペルヴィエル幻想短編集
   現代教養文庫 社会思想社 1990/05 所収


(3) 堀口 1972
灰色の支那の牛が
家畜小屋に寝ころんで
背のびをする
するとこの同じ瞬間に
ウルグヮイの牛が
誰か動いたかと思って
ふりかえって後(うしろ)を見る。
この双方の牛の上を
昼となく夜となく
翔(と)びつづけ
音も立てずに
地球のまわりを廻り
しかもいつになっても
とどまりもしなければ
とまりもしない鳥が飛ぶ。

   ジュール・シュペルヴィエル=作 堀口大學=訳 「灰色の支那の牛が……」
   詩集『無実の囚人』(Le Forca innocent, 1930) より
   * 『シュペルヴィエル抄』 小沢書店 1992/03 所収
   * 『堀口大學全集3』 小澤書店 1982/04 所収
   * 『堀口大學訳詩集』 思潮社 1980/09 所収
   * 『シュペルヴィエル詩集』 世界の詩61 彌生書房 1972/08 所収


(4) 飯島 1968
家畜小屋に横たわっていた
灰色のシナの牛が
背伸びをする
と おなじ瞬間に
ウルグワイの牛が
誰かが動いたのかと
うしろをふりかえって見る。
この両方の牛の上を
昼も夜もとおして飛び
音も立てずに
地球のまわりをまわる鳥がいる
いつになっても下りて来ず
いつになっても止まりもしない。

   シュペルヴィエル=作 飯島耕一=訳 「灰色のシナの牛が……」
   『世界詩人全集17』 アポリネール詩集・コクトー詩集・シュペルヴィエル詩集
   新潮社 1968/07 所収


■英訳 Translation into English

A grey Chinese ox,
Lying in its shed,
Stretches its back
And at the same moment
An ox in Uruguay
Turns round to see
If someone has moved.
Flying above them both,
Bridging night and day,
The bird who silently
Flies around the planet,
Yet never touches it,
And never stops to rest.

   Jules Supervielle
   Quoted in Dai Wangshu: The Life and Poetry of a Chinese Modernist
   by Gregory Lee. Chinese University Press, 1989.
   Preview at Google Books


 Video 
L'oiseau du tour du monde

Uploaded by misterdivideo on Jan 25, 2010. Poésie de Jules Supervielle, récité en classe de CE2 à fort-Mardyck, en janvier 2010 par Maxence B, élève de la classe de Mister Di.


■フランス語原文 The original text in French

Un bœuf gris de la Chine
Couché dans son étable
Allonge son échine
Et dans le même instant
Un bœuf de l'Uruguay
Se retourne pour voir
Si quelqu'un a bougé.
Vole sur l'un et l'autre
A travers jour et nuit
L'oiseau qui fait sans bruit
Le tour de la planète
Et jamais ne la touche
Et jamais ne s'arrête.

   L'oiseau du tour du monde
   by Jules Supervielle
   E-text at Le Fuilet - Ecole Primaire Publique


■更新履歴 Change log

2013/03/10 英訳を追加しました。
2012/10/03 フランス語原詩を朗読する子供の YouTube 動画を追加しました。
2007/06/18 飯島耕一=訳 1968/07 を追加しました。
2007/06/04 三野博司=訳 1990/05 を追加しました。
2007/05/16 小海永二=訳と堀口大學=訳の書誌情報を補足しました。


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