■表紙画像コレクション——源氏物語 諸言語の翻訳版
Cover photo collection: Translations into several languages
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■訳題・訳者・出版社・出版年・言語
Language, Title in translation, Translator, Publisher, Year of publication
[ru] Повесть о Гэндзи tr. Татьяна Соколова-Делюсина (2010) ロシア語
[hu] Gendzsi szerelmei tr. Martti Turunen (2009) ハンガリー語
[hu] Příběh prince Gendžiho 1 tr. Karel Fiala. Paseka (2002) チェコ語
[fi] Kirjaesittely: Genjin tarina. 1. osa tr. Martti Turunen (1980) フィンランド語
[sv] Die Geschichte vom Prinzen Genji tr. Kristina Hasselgren. Natur och Kultur (1986) スウェーデン語
[de] Die Geschichte vom Prinzen Genji tr. Herbert E. Herlitschka. Insel Verlag (1995) ドイツ語
[de] Die Geschichte vom Prinzen Genji tr. Oskar Benl. Manesse Verlag (1966) ドイツ語
[it] Storia di Genji tr. Adriana Motti. Einaudi (2006) イタリア語
[pt] O Romance do Genji I tr. Carlos Correia Monteiro de Oliveira. Relógio d'Água (2008) ポルトガル語
[es] La novela de Genji tr. Xavier Roca-Ferrer. Destino (2007) スペイン語
[es] Genji Monogatari: Romance de Genji tr. Fernando Gutierrez. Jose J. de Olaneta (2005) スペイン語
[fr] Le Dit du Genji, tr. Rene Sieffert. Publications orientalistes de France (2001) フランス語
[zh] 源氏物语(上) 郑民钦译 北京燕山出版社 (2006) 中国語(簡体字)
[zh] 源氏物語(上) 豐子愷譯 木馬文化出版 (2003) 中國語(繁體字)
[zh] 源氏物語1 林文月譯 洪範書局有限公司 (2000) 中國語(繁體字)
[ko] 겐지 이야기 1 전용신 (田溶新) 訳 나남출 (1999) 韓国語
[ja] 新訳 源氏物語1 尾崎左永子訳 小学館 (1997) 現代日本語
■英訳 Translations into English
(E1) Tyler, 2001, 2002, etc.
"I have never done anything like this," he said. "It is nerve-racking, isn't it?
Once upon a time could it be that others, too, lost their way like this?
I myself have never known such strange wanderings at dawn.
Have you ever done this before?
She answered shyly,
"The wayfaring moon uncertain what to expect from the mountains' rim,
may easily fade away and disappear in mid-sky.
I am afraid."
The Twilight Beauty (Yugao)
The Tale of Genji
Translated by Royall Tyler
* Penguin Classics; Reprint edition, 2006/02
* Penguin Classics USA [Rough Cut Version], 2002/11
* Preview at Amazon.co.jp
(E2) McCullough, 1994
"I've never done anything like this before," he said. "I didn't expect to feel so nervous." [He recited:]
inishie mo Even in the past,
kaku ya wa hito no was ever heart as perplexed
madoiken as is mine today,
wa ga mada shiranu following at dawn a path
shinonome no michi I have never known before?
Her answering poem was shy:
yama no ha no Its bright rays, I fear,
kokoro mo shirade may vanish in mid-heaven —
yuku tsuki wa the moon journeying on,
uwa no sora nite powerless to probe the heart
kage ya taenan of the rim of the hills.
"I feel so uneasy."
Genji & Heike: Selections from the Tale of Genji and
the Tale of the Heike
by Helen Craig McCullough
* Hardcover: Stanford Univ Press, 1994/06
* Paperback: Stanford Univ Press, 1994/04
(E3) Seidensticker, 1975, 1976, etc.
"This is a novel adventure, and I must say that it seems like a lot of trouble.
"And did it confuse them too, the men of old,
This road through the dawn, for me so new and strange?
"How does it seem to you?"
She turned shyly away.
"And is the moon, unsure of the hills it approaches,
Foredoomed to lose its way in the empty skies?
"I am afraid."
Chapter 4: Evening Faces
The Tale of Genji by Murasaki Shikibu
Translated with an Introduction by
Edward G. Seidensticker
* The Tale of Genji, Volume 1
Tuttle Publishing, 2007/06
* Everyman's Library, 1992/12
E-text of the 1976 edition at Globusz Publishing
(E4) Waley, 1925-33, etc.
"Never yet has such an adventure as this befallen me," said Genji; "so I am, as you may imagine, rather excited," and he made a poem in which he said that though love's folly had existed since the beginning of the world, never could man have set out more rashly at the break of day into a land unknown. "But to you this is no great novelty?" She blushed and in her turn made a poem: "I am as the moon that walks the sky not knowing what menace the cruel hills may hold in store; high though she sweeps, her light may suddenly be blotted out."
Chapter 4: Yugao
The Tale of Genji: A Novel in Six Parts, by Lady Murasaki,
Translated by Arthur Waley; Modern Library, 1960.
E-text at questia.com
Reprinted in the Anthology of Japanese Literature
from the Earliest Era to the Mid-nineteenth Century,
Compiled and edited by Donald Keene
* Dover Thrift Edition, 2000/07
(E5) Suematsu, 1882, 2000, etc.
"I have never experienced this sort of trouble before," said Genji; "how painful are the sufferings of love."
"Oh! were the ancients, tell me pray,
Thus led away, by love's keen smart,
I ne'er such morning's misty ray
Have felt before with beating heart.
Have you ever?"
The lady shyly averted her face and answered:
"I, like the wandering moon, may roam,
Who knows not if her mountain love
Be true or false, without a home,
The mist below, the clouds above."
Chapter 4: Evening Glory
* The Tale of Genji, by Lady Murasaki Shikibu
Translated by Kencho Suematsu
Tuttle Publishing, 2006/11
* The Tale of Genji, by Murasaki Shikibu
Translated by Kencho Suematsu
Tuttle Publishing, 2000
* Genji Monogatari, the most celebrated of
the Classical Japanese Remances.
Translated by Suyematz Kenchio.
Trubner & Co.: London, 1882
E-text at Project Gutenberg
■中国語訳(簡体字)Translation into simplified Chinese
源氏公子对夕颜说道:“从未经历此种景象,真寒人心肺哩!正是:
披星戴月事,而今初相问。古来游冶客,能解此情无?你见过此景么?”夕颜羞答
答地吟道:
“此山隐落月,山名未可知。碧落当已尽,顿然芳姿隐。我害怕呢。”
紫式部 《源氏物语》 第四章 夕颜
E-text at 酷网 (kuwang.com)
■中國語譯(繁體字)Translation into traditional Chinese
源氏公子對夕顏說:“我從未有過此種經驗,這景象真教人寒心啊!正是:
“戴月披星事,我今閱歷初。
古來游冶客,亦解此情無?
你可曾有過此種經驗?”夕顏羞答答地吟道:
“落月隨山隱,山名不可知。
會當窮碧落,驀地隱芳姿。
《源氏物語》 豐子愷中譯本 四、夕顏
E-text at 古雅臺語人
■現代日本語訳/翻案
Adaptations and translations in contemporary Japanese
(J1) 林 2010
「こんな時間に、こんな人と、こんなところへ来るなどということは、いまだしたこともないのだけれど、なんともはや、気苦労なことなのだね。
いにしへもかくやは人のまどひけむ
わがまだ知らぬしののめの道
物語などに出て来るいにしえ人たちも、こんなふうに濡れ惑うたのであろうか。
私はいまだ経験したことのない、明け方の道行きだな
あなたは、こんなご経験がおありか」
そう源氏が訊ねかけると、女は、恥ずかしそうに、
「山の端(は)の心も知らでゆく月は
うはの空にて影や絶(た)えなむ
どの山の端に沈むのかも知らず、彷徨っている月は、
きっとそのまま空の上で光が消えてしまうかもしれません。私も、
どこへ行くかのかも、
またどんな山の端なのかも知らずにあなたさまについてきて
しまったのですから、
もしやこのままぼんやりと上の空のまま、どこかへ消えて
しまうかもしれません。
たいそう心細いことでございます」
紫式部=著 林望(はやし・のぞむ)=訳
『謹訳 源氏物語1』(全10巻刊行予定) 祥伝社 2010/03/25
傍点を下線で置き換えました。
(J2) 大塚 2008
「まだこんな経験は初めてだったけど、恋は心がすり減ることだったんだね。
いにしへもかくやは人のまどひけん わがまだ知らぬしののめの道
昔もこんなふうに人は迷ったのか、私のまだ知らない夜明けの恋の道に
あなたは知ってた?」と言います。〝女〟は恥じらって、
「山の端の心も知らでゆく月は 上(うは)の空にて影や絶えなむ
山の端の気持ちも知らずゆく月は、上空で姿を消してしまうのかしら。
あなたの心も分からないまま、私はどうかなってしまうのでは
心細くて」と言って(……)
紫式部=著 大塚ひかり=訳
『源氏物語1 桐壺〜賢木』 (全6巻) ちくま文庫 2008/11
(J3) 上野 2008
源氏 「私は女を連れ出すようなことは経験した事がなかったが、さて経験して
みると、なかなか気苦労の多いものですなあ。
いにしへもかくやは人の惑(まど)ひけんわがまだ知らぬしののめの道
(昔も、私のように人は恋の道に迷って歩いたのであろうか。私はこんな
辛い道は初めて経験する夜明けのほの暗い道である。本当に恋路は辛い)
あなたの方は慣れているの。こんなことを」
とおっしゃる。女は恥じらって、
女 「山の端(は)の心も知らで行く月はうはの空にてかげや絶えなん
心細くて」
(山の端〈源氏〉の本心も知らないで誘われるままについて行く月(私)は、
途中の大空で消えてしまうのではないでしょうか)
心細くて仕方ございません」
と言って(……)
上野榮子=訳
『源氏物語1』 日本経済新聞出版社 2008/10
(J4) 佐復 2008——ウェイリーによる英訳 (上掲E4) の日本語への重訳
「これまでまだこんな珍しい経験がこの身にふりかかったことはない。だから、君にも想像できるとおり、私はかなり興奮しているんだよ」と源氏は言い、そして歌を作って、そのなかで、恋の愚行というのはこの世のはじまりから存在してきたが、夜明けに見知らぬ土地にこんなに無分別にも急いで乗り出した者はいたはずがない、と語った。「だが君にとっては、これはそんなに目新しいことでもなんでもないのだろう?」女は顔を赤らめて、歌を作った。「私は残酷な山がどんな危険を隠しているかも知らず空を歩む月のよう、高く空を渡っていてもその光は突然かき消されてしまうかもしれない」。
紫式部 アーサー・ウェイリー=英語訳
佐復秀樹(さまた・ひでき)=日本語訳
『ウェイリー版 源氏物語1』(全4巻) 平凡社ライブラリー 2008/09/10
(J5) 西沢 2005
〈源〉「私はいまだにこのような経験をしたことがなかったが、本当にあれこれと気苦労も多いことだなあ。
(歌)昔の人もこんなふうにして恋の道をさまよい歩いたのかなあ。
女のひとと夜明けの道を歩くなんて、私は初めての経験なのだよ。
あなたはこんな経験をしたことがあるのかい」
とおっしゃった。夕顔は、ひどく恥ずかしそうにしながら、
〈夕〉「(歌)山の端(は)(源)がどういう気持ちでいるかも知らないのに、
つき従って行く月(私)は、山の端についてゆけないで、空の
途中で姿を隠してしまうかもしれませんよ
何だかとても心細く思われて」
と言って(……)
西沢正史(にしざわ・まさし)=訳 「現代語で読む《夕顔》」
西沢正史=企画・監修 上原作和(うえはら・さくかず)=編集
『人物で読む源氏物語8 夕顔』
勉誠出版 2005/06 所収
(J6) 渋谷 2003
「まだこのようなことを経験しなかったが、いろいろと気をもむことであるなあ。
昔の人もこのように恋の道に迷ったのだろうか
わたしには経験したことのない明け方の道だ
ご経験なさいましたか」
とおっしゃる。女は、恥ずかしがって、
「山の端をどこと知らないで随って行く月は
途中で光が消えてしまうのではないでしょうか
心細くて」
と言って(……)
第四章 夕顔の物語 (2) 仲秋の物語
[第三段 なにがしの院に移る]
渋谷栄一=訳 Ver.1-3-1
Last updated 6/25/2003
(J7) 週刊光源氏 1998, 1999
源氏の君の新しいお相手は、なんと五条の住宅街に住む庶民の娘!? 謎の素性を持つ美女・夕顔の登場に、すっかりノックアウトの源氏の君。だが、その恋は大きな悲劇を生むことになった。今回は、夕顔さんの女房右近(うこん)さん(22)と源氏の君の腹心、惟光(これみつ)さんに一部始終を語っていただくことにしよう。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
源氏、一夜の廃屋愛!
事態が急展開したのは、ちょうど中秋の名月の晩。
「気楽なところでゆっくり話がしたいね」
という源氏の君に、夕顔の返事。
「でも、あなたがどなたか存知あげないのは、何だか恐ろしいような気がします」
「まあ、だまされたと思って」
というので、夕顔はすっかりその気。こういうところは不思議なほど素直で、人を信じやすいという。
[この本はご覧のとおり完訳版ではなく、さわり部分を女性週刊誌の誌面のごとく、ことさら下世話/通俗的/扇情的に再構成したダイジェスト版です。上下に引用した他のタイトルの引用箇所に対応する部分は割愛されているので、その近くの箇所を引用しました - tomoki y.]
紫式部=原作 週刊光源氏編集部=編
7a. 『週刊光源氏総集編—源氏物語を女性週刊誌風に読む』 新装版
なあぷる 1999/09
7b. 『週刊光源氏総集編—源氏物語を女性週刊誌風に読む』
なあぷる 1998/11
(J8) 尾崎 1997
光源氏はゆっくり話し合うために、渋る夕顔をせき立てて、このむさくるしい家を出て、近くの河原院(かわらのいん)に連れて行こうとなさいました。女君はためらいながらも、源氏に説得されて、女房の右近(うこん)をお供に源氏の車に乗り、やがて河原院に到着しました。
[この本は抄訳版です。上下に引用した他のタイトルの引用箇所に対応する部分は割愛されているので、その近くの箇所を引用しました - tomoki y.]
紫式部=著 尾崎左永子=訳
『新訳 源氏物語1』 全4巻 小学館 1997/10
(J9) 瀬戸内 1996, 2001
「まだこんなことわたしにははじめての経験だが、なかなか気苦労なものだね。
いにしへもかくやは人のまどひけむ
我がまだ知らぬしののめの道
昔の人も恋の闇路に迷い
こんな暗い夜明けの道を
さ迷い歩いたのだろうか
私にははじめてのこんな
恋の道行きだけれど
「あなたはこんな経験がありますか」
とお訊きになります。夕顔の女は恥ずかしそうに、
山の端(は)の心も知らで行く月は
うはの空にて影や絶えなむ
これから沈んでいこうとする
山の端の本心の心も知らないで
そこへ近づいていく月は
空の途中でもしかしたら
消えはててしまうのかもしれません
「心細うございます」
とつぶやいて(……)
紫式部=著 瀬戸内寂聴=訳
9a. 『源氏物語 巻1』 新装版(全10巻)講談社 2001/09
9b. 『源氏物語 巻1』 (全10巻)講談社 1996/12
引用は 9b. によりました。
(J10) 阿部+秋山+今井+鈴木 1994
君は、「まだこのようなことははじめてなのだけれど、いろいろと気のもめるものですね。
いにしへも……(昔の人もこのようにしてさ迷い歩いたものだろうか、
わたしの今まで知らなかった夜明けの恋の道行きに)
あなたは経験がおありですか」とおっしゃる。女は恥ずかしそうにして、
「山の端の……(山の端がどういう気持でいるのかも知らずに、
そこを目ざして渡ってゆく月は、もしかしたら空の途中で姿が
消えてしまうのかもしれません)
心細くて」と言って(……)
阿部秋生(あべ・あきお)+秋山虔(あきやま・けん)
+今井源衛(いまい・げんえ)+鈴木日出男=校注・訳「夕顔」
『新編日本古典文学全集20 源氏物語1(全6冊)』
第1期48巻 小学館 1994/03
(J11) 橋本 1992, 1995
「まだこんなことをしたことがなかったので知らなかったけれど、結構大変なんだなァ」と辺りを見回して、夜明けの逢瀬行(おうせこう)の気苦労を思う。
往古(いにしえ)もかくして人の迷いてん
我まだ知らぬ東雲(しののめ)の道
あなたはこんな経験がある?」
そう訊くと、女はどこか放心状態のようになって空を見上げ、妙にポツンとこう言った。
「山の端に心も知らず行く月の
上の空なる影や絶えけん
橋本治=著「夕顔」
11a. 『窯変 源氏物語1』(全14巻)中公文庫 1995/11
11b. 『窯変 源氏物語1』(全14巻)中央公論社 1991/05
引用は 11b. に拠りました。
(J12) 中井 1991, 2005
「まだ、こないなことを経験したこともおへなんだのに、気のもめることやなあ。
いにしへもかくやは人の惑ひけむわがまだ知らぬしののめの道
知っといやすやろうか」
と仰せやす。女は、はにかんで、
「山の端の心も知らで行く月はうはの空にてかげやたえなむ
心細うござります」というて(……)
紫式部=著 中井和子(なかい・かずこ)=訳「夕顔」
12a. 『現代京ことば訳 源氏物語1 桐壺-明石』 新装版(全5巻)
大修館書店 2005/06
12b. 『現代京ことば訳 源氏物語1 桐壷-乙女』(全3巻)
大修館書店 1991/06
引用は 12b. に拠りました。
(J13) 今泉 1978, 2000
源氏「わたしはまだこんな経験をしたことは一度もなかったのだが、気骨(きぼね)の折れるものだねえ。
古(いにし)へもかくやは人の惑(まど)ひけむ
我(わ)がまだ知らぬしののめの道
〔昔の人もこんな風にまごついたものなのだろうか。
わたしは、このほのぼの明けの恋路(こいじ)の苦労など
まだ経験したこともないんだけど〕
お前様は経験がおありかね」
とおっしゃる。
女は頬(ほお)を染めながら、
夕顔「山の端(は)の心(こころ)も知らで行く月は
うはの空にて影(かげ)や絶(た)えなむ
〔山の端(あなたさま)がどういうお気持で迎えて下さるのが
知らずに、誘(さそ)われて行く月(わたくし)は、
不安さに中途で影が消えてしまうかも知れません〕
何だか心細くって」
と答えて(……)
紫式部=著 今泉忠義(いまいずみ・ただよし)=訳
13a. 『新装版 源氏物語1 全現代語訳』(全7巻)
講談社学術文庫 2000/11
13b. 『源氏物語2 現代語訳—夕顔・若紫』(全20巻)
講談社学術文庫 1978/02
引用は 13b. に拠りました。
(J14) 円地 1972, 1980, etc.
「まだこんなことは経験したことがなかったが、なかなか苦労の多いものですね。
いにしへもかくやは人の惑ひけむ
わがまだ知らぬしののめの道
あなたは御存じですか」
とおっしゃる。女は恥じらって、
「山の端(は)の心も知らで行く月は
うはの空にて影や絶えなむ
心細くて」
とばかり言って(……)
紫式部=著 円地文子(えんち・ふみこ)=訳「夕顔」
14a. 『源氏物語 巻1』(全5巻)新潮文庫 1980/02
14b. 『源氏物語 巻1』(全10巻)新潮社 1972/09
引用は 14b. に拠りました。
(J15) 谷崎(新々訳)1973, 1987, etc.
「まだこのようなことをした覚えはありませんが、なかなか気が揉めるものですね。
古(いにしへ)もかくやは人のまどひけん
我がまだ知らぬしののめの道
あなたは馴れていらっしゃいますか」と仰せられます。女は恥かしがって、
「山の端(は)の心も知らでゆく月は
上の空にてかげや絶えなん
心細うございます」と言って(……)
紫式部=著 谷崎潤一郎=訳「夕顔」
15a. 『源氏物語』 中央公論社(普及版)1992/11
15b. 『潤一郎訳 源氏物語 巻1』(全5巻)中公文庫(改版)1991/07
15c. 『谷崎潤一郎訳 源氏物語 全』 中央公論社 1987/01
15d. 『潤一郎訳 源氏物語 巻1』(全5巻)中公文庫 1973/06
引用は 15d. に拠りました。
(J16) 窪田 1947, 1967
君は、「まだこうしたことはしなかったのに、苦労なことをしたものですよ。
古もかくやは人の惑ひけむ我がまだ知らぬしののめの道
昔もこのように恋の道に人が惑ったことであろうか、
私はまだ知らないしののめの道であることだ。
あなたはご存じですか」とおっしゃる。女は恥じらって、
山の端の心も知らで行く月は上(うは)の空にて影や絶えなむ
山の端がどういう心でいるかも知らずに、そこに
入ろうとしてさして行く月は、中途で光が絶えることででも
ございましょう。
心細くて」と言って(……)
窪田空穂(くぼた・うつぼ)=著
16a. 『窪田空穂全集27 現代語譯源氏物語1』 角川書店 1967/10
16b. 『現代語譯源氏物語1』 改造社 1947/05
引用は 16a. に拠りました。
(J17) 与謝野 1913, 1965, etc.
「私にははじめての経験だが妙に不安なものだ、
いにしへもかくやは人の惑ひけん
わがまだしらぬしののめの道
前にこんなことがありましたか」
と聞かれて女ははずかしそうだった。
「山の端(は)の心も知らず行く月は
上(うは)の空にて影や消えなん
心細うございます、私は」
紫式部=著 与謝野晶子=訳「夕顔」
17a. 青空文庫
入力:上田英代 校正:小林繁雄、鈴木厚司 2003/04/20 作成
17b. 古典総合研究所 by 上田英代
17c. 『全訳 源氏物語 上巻』 角川文庫 1971/08
17d. 『日本文学全集1 源氏物語(上)』 河出書房 1965/06
17e. 『新訳源氏物語(上)』 全4冊
金尾文淵堂(かなおぶんえんどう)1912/02(明治45)
17a. の底本は 17c.。17b. の底本も 17c.。引用は 17d. に拠りました。
■日本語(古語)原文 The original text in 11th-century Japanese
「まだかやうなることを慣らはざりつるを、心尽くしなることにもありけるかな。
いにしへもかくやは人の惑ひけむ
我がまだ知らぬしののめの道
慣らひたまへりや」
とのたまふ。女、恥ぢらひて、
「山の端の心も知らで行く月は
うはの空にて影や絶えなむ
心細く」
渋谷栄一=校訂 (c)『源氏物語』(大島本)ver.1-3-1, 2006/06/25
第四章 夕顔の物語(2) 仲秋の物語
■源氏物語|派生作品リスト
上に引用したものも含め、源氏物語を現代日本語に翻訳もしくは意訳した作品のうち、おもなものを挙げておきます。
-
現代語訳(新→旧の順)
- 『新訳 源氏物語』(1997-98、全4巻、尾崎左永子)
-
『源氏物語』(1996-98、全10巻、瀬戸内寂聴)
-
『現代京ことば訳 源氏物語』(1991、全3巻、中井和子)
- 『源氏物語』(1972-73、全10巻、円地文子)
-
『潤一郎新々訳 源氏物語』(1964-65、全11巻、谷崎潤一郎)
-
『潤一郎新訳 源氏物語』(1951-53、全12巻、谷崎潤一郎)
-
『潤一郎訳 源氏物語』(1939-41、全26巻、谷崎潤一郎)
-
『全訳 源氏物語』(1926、全1巻、鈴木正彦)
-
『新訳 源氏物語』(1912-13、全4巻、与謝野晶子)
参考:源氏物語|現代語訳 - Wikipedia
-
意訳小説(新→旧の順)
- 『窯変 源氏物語』(1991-93、全14巻、橋本治)-光源氏、薫の視点から
- 『女人源氏物語』(1988-89、全5巻、瀬戸内寂聴)-光源氏の女君たちの視点から
- 『私本・源氏物語』(1980、全1巻、田辺聖子)-光源氏の従者・惟光の視点から
- 『新源氏物語』(1978-79、全5巻、田辺聖子)
参考:源氏物語|意訳小説 - Wikipedia
■外部リンク External links
■更新履歴 Change log
-
2012/01/16 郑民钦による新しい中国語訳(簡体字)、ポーランド語訳、スウェーデン語訳、ポルトガル語訳、および韓国語訳の表紙画像および書誌情報を追加しました。また、Xavier Roca-Ferrer によるスペイン語訳の表紙画像および書誌情報を追加しました。
- 2012/01/15 佐復秀樹=日本語重訳 2008/09/10 を追加しました。また、豐子愷による繁體字中國語譯、フィンランド語訳、ならびに Oskar Benl によるドイツ語訳の表紙画像および書誌情報を追加しました。
- 2011/07/17 Royall Tyler による英訳と Helen Craig McCullough による英訳の訳文を挿入しました。
- 2010/08/27 林望=訳 2010/03/25 を追加しました。また、豐子愷による中國語譯の訳文を修正し、リンクを張り直しました。
- 2009/05/01 上野榮子=訳 2008/10 を追加しました。
- 2009/02/07 大塚ひかり=訳 2008/11 を追加しました。
- 2008/11/27 尾崎左永子=訳 1997/10 を追加しました。
- 2008/01/12 窪田空穂=著 1967/10 を追加しました。
- 2007/09/28 瀬戸内寂聴=訳 1996/12 を追加しました。
- 2007/09/24 西沢正史=訳 2005/06 を追加しました。
- 2007/09/23 今泉忠義=訳 1978/02 を追加しました。
- 2007/09/20 週刊光源氏編集部=編 1999/09, 1998/11、阿部秋生+秋山虔+今井源衛+鈴木日出男=訳 1994/03、中井和子=訳 1991/06、および円地文子=訳 1972/09 を追加しました。
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